2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第182話 越えるべき敵

 

 司法の塔内部、ダイナミックに突入した麦わらの一味+αは3班に別れて行動していた。

 というのも、どこかの船長が1人で突っ走ったが故の惨状である。

 

 『1対2以下になるな』

 

「……ルフィには何か秘策があるみたいだ」

 

 リィンの言葉など聞いてないように走り出したルフィを見てサンジが呟く。

 

「ひょっとしたらリィンから指示が出てたり?」

「そうだといいがな……」

 

 虱潰しにロビンの鍵を探す為に走り回る。そして1つの部屋に入ったのはサンジとナミとウソップの3人だった。

 この部屋にいる、そう確信を持ってサンジが扉を開けた。

 

「あら、当たり」

 

 途端、女性の声が彼らの耳に入る。

 部屋の内装はバスルームであり、床には泡が所々残ってある。しかし声の主はバスルームとは不釣り合いだが、随分露出の激しいスーツを着こなしていた。

 

「アイスバーグさんの秘書……!」

 

 サンジ達は最少人数の3人での戦闘のため、見聞色の覇気を使いなるべく弱いCP9を狙った。

 そしてそこにいたのはカリファ。辛うじて3人と面識のある人物だった。

 

 カリファは『獲物』が自分の元へ来たことに喜びを感じる。曲がりなりにも自分はCP9なのだと実感しながら。

 

「悪いけど、今リィンが居ないから鍵が必要なの。渡してもらうわ」

 

 やる気満々のナミが棍棒を構える。正確に言うと、ウソップが空島で手に入れた(ダイヤル)を使って改造した天候棒(クリマタクト)だ。

 

「1つ残念なお知らせをしてあげる」

 

 負けることを想定していないのか余裕たっぷりの表情でカリファは腕を組んだ。

 

「私達、今回の任務に本気を出してるの」

「あぐ…ッ!」

 

 パッ、と姿が消えたと思った瞬間。剃で移動したカリファがナミを蹴り飛ばした。

 する素振りを見せない状態からの六式に、脳の反応速度は追い付かず呆気に取られた。

 

「ナミさん大丈夫か!?」

「お、おいおいマジかよ……」

 

 地面の泡にぶつかりながら転がったせいでベトベトのナミは痛みに呻く。慌ててサンジが駆け寄り、ウソップは圧倒的な戦力差に苦い顔をした。

 

「覇気すら習得してない下級海賊が、私達に逆らうなんて身の程知らずだわ」

 

 たった一蹴りで戦線が崩される。

 プレッシャーも力も何もかも、自分達より確実に上。

 

 足掻くだけ無駄な戦力差だ。

 CP9の中で1番弱いであろう女相手でも、だ。

 

「(それでも足掻いてここまで来たんだ…ッ!)」

 

 女狐、青雉、テゾーロ。

 ここに来るまでに敵わない敵との遭遇が続いていた。運も味方して、なんとか乗り越えて来た。

 壁は越えること無く避けてきたが、目の前に立ちはだかる壁の大きさを知らない訳では無い。

 

 越えるべき時はやってきた。

 

 きっと今がそれだ。

 

「サンジ君、あのスピード追いつける……?」

「かろう、じて」

 

 見聞色と武装色の覇気が厄介なだけあって、速度はサンジと同等。少なくとも見聞色の覇気を本当に齧っただけのサンジでは太刀打ち出来ないだろう。もし覇気というアドバンテージが無ければなんとかなったかもしれない。

 結局、今更その話をしても無駄である。

 

「〝剃〟」

 

 サンジとナミに、カリファが迫る。訓練された脚力はまるで斬撃。

 サンジはナミを抱えてウソップに向かって投げた。手荒だが足でまといになりかねない状態でナミがサンジの邪魔をする訳にはいかない。

 

「くっ……!」

「なかなか速いわね。でも見聞色をまともに使えないようでは──」

 

──バキッ

 

「無意味よ」

 

 肋骨に勢い良く入った蹴りはサンジを踞らせるのに充分だった。

 

「洗ってあげましょう」

 

 カリファは唐突に腕を変化させる。それはキメ細やかな泡だった。

 事前の情報収集では悪魔の実の能力者ではなかったはずだが、いつの間に能力者になったのか。

 

「ウソップ」

「あァ」

 

 決定的な弱点がある能力者。

 ウソップは玉を準備し、ナミは天候棒(クリマタクト)を握りしめる。その様子に気付いたカリファは油断すること無く睨み付けた。

 余裕などありはしない。ただ確実に麦わらの一味を滅する事を目標として、戦う。

 

「ナミ、お前スモーカーやれ」

「じゃあウソップはアラバスタ出航の黒檻隊ね」

「やるしかねぇか」

 

 カリファが訝しげに眉を顰めると、ウソップはパチンコを構えた。

 

 ここに来る前知った。

 『海水や海楼石こそ最強の手段だ』と。

 

「〝海水星〟!」

 

 海楼石は加工が難しい。しかし海水ならば加工が出来る。ゼラチンで表面を固めた海水の弾。

 それなりの衝撃を与えればプチッと潰れる。

 

「ッ!」

 

 蹲っていたサンジがカリファの足を止めるべく手を伸ばすが、避けられる。その時カリファは手の泡をサンジの口に押し込んだ。1番厄介な人間を優先して潰す事にした様だ。

 当然泡を口に含んだサンジは顔を青くして吐き出す。容赦もなく本気だ。

 

 見聞色の覇気というのは厄介な物で動きを読んでしまう。

 

 ウソップの弾も当然ながら見切られた。

 

「はぁっ!」

 

 しかしウソップの弾は正確だ。見事にカリファの避ける方向を誘導してみせた。アラバスタで黒檻隊相手に戦っていた際、嫌だと思った相手側の作戦だ。

 

 その隙に蜃気楼を生み出して姿を消したナミが棍棒をカリファの頭に向かって振り下ろした。

 

 ガンッ、と鈍い音がしてカリファの足元がふらつく。

 

 ナミは攻撃の手を休めることなく執拗に棍棒を振り回した。型など無いがその動きはリィンに似ている。流石変態さんである、脅威の観察力でトレースしてしまっていた。

 

「……ッ!」

 

 ナミにぶつかっても構わない弾は遠慮なく2人に降り注ぐ。

 カリファは頭から流れる血を拭えず片目が塞がる。見聞色の覇気使いにとっては些細な事だが。

 

「(く……!海水で上手く……能力が……!)」

 

 しかし所詮はナミの体力。

 息もつかせない攻撃は1分と持たず途切れる。しかしその頃には復活したサンジの足技が猛威を奮っていた。

 海水星の在庫は少ない。リィンをもっとこき使っておくべきだったと後悔したが、海水に濡れたカリファの動きは確実に遅くなっている。

 

「ナミさんッ!」

 

 サンジは足を器用に使い攻撃をいなすと腕を使ってカリファの動きを止めた。

 

 当然呼ばれたナミは天候棒(クリマタクト)を構え喉に向けて突いた。遠慮などしていたら負けである。

 

「ッ、ぐ……! なに、こ、れ……力、が」

 

 地面に押し付けてナミがマウントを取る。

 サンジとウソップは深く息を吐いた。

 

「海楼石の、加工って、難しいらしい、わね」

 

 体力が少ないナミは肩で息をする。しかしその顔には笑みが浮かんでいた。

 

「でも、──出来ないわけじゃ、無い」

 

 無機物であれば操れるチートな外道が親友を真似て改造した天候棒(クリマタクト)。先端には海楼石が埋め込まれていた。

 

「俺はキミを蹴りたくない。鍵を出してくれ」

 

 サンジはゲホッと咳き込みながら見下ろす。

 どうやら肋骨は折れているようだ。たった一撃でそこまでの衝撃、正直恐ろしい。今回は作戦勝ちだったようだ。

 

「……私の鍵は、ハズレよ」

 

 ポケットから取り出した鍵は素直にナミの手に渡った。苦悶の表情を浮かべてカリファは聞く。

 

「何故、厄介な仲間を、抱えてられるの」

「ロビンは敵だったけど、それでも心を通わせたわ。『何故』とか、そんな理論的な事じゃなくて感情論なの。厄介な仲間がロビンなんじゃなくて、たまたまロビンが厄介な仲間ってだけよ」

「違う」

 

 喉を押さえつけられ酷く苦しそうにカリファは訂正の言葉を紡ぐ。

 

「〝堕天使〟よ」

 

 麦わらの一味に堕天使が居たからCP9は本気を出している。

 

「何も、知らないのに、哀れね。その子が、アイスバーグさんの部屋で、なんて言ったと思うの」

「リィンの隠し事なんて今更よ」

「それに説明しきれないややこしい事とか多いしな……テゾーロとか」

 

「ふふっ、きっと、噛まれるわ、あの子。ウチの獣2匹に……」

 

 カリファは女狐がリィンだということを知らない。しかしルッチが、カクが、任務で失敗した原因だと言うことは知っている。それぞれ執着と殺意の感情を抱いている事も。

 

「ウソップ、眠らせれるか」

「おう」

 

 ウソップはチョッパーから受け取っていた『初期メンバー沈静化用麻酔薬』を使いカリファを無理矢理眠らせた。恐らく数時間は起きない筈だ。

 

「その瓶何よ」

「おめェまでの暴走癖持ち古参を沈めるための道具だよ」

 

 訝しげに見ていたナミはウソップの返事を聞いて膨れっ面になる。

 

「どうした、サンジ」

 

 黙ったまま手を見つめているサンジにウソップが声をかけた。

 サンジはその姿のまま口を開く。

 

「気配を消せたら、いやいっそ姿を消せたら見聞色の覇気使い相手には絶対有利だろうな」

「まぁな。ナミの姿が一旦消えただけで有利に動けたし」

「スケスケの実食いてーーー……透明人間になりたい……」

「お前の欲望にぴったりだな」

 

 軽口を叩きながら、次の鍵を手に入れるべく仲間と合流出来する事にした。

 CP9は想像以上に強い。時間がかかるのが惜しいが別れない方が得策かもしれない。

 

 

「……確か、あの絵本って」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「カティ・フラム。お前、さっさと口を割らんと一生口を効けなくなるぞ?」

「がっ! げほ、ゲホッ!」

 

 カクの蹴りがフランキーの体に何度も何度も入る。鎖に繋がれたフランキーはろくな抵抗も出来ず無駄に血を流していた。

 

「チッ」

 

 情報を聞き出すための拷問では無く苛立ちを発散させる為の行動にしか見えない。同じ空間にいるジャブラと女狐は互いに顔を見合わせた。

 視線から『お前のせいだぞ女狐』といった訴えが伝わってくる。それに対して女狐は知らぬ顔を貫いた。

 

 フランキーの口や額からは血が出て、正面の改造された肉体でもボロボロの状態だ。

 

「あー、カク。流石に喋れないだろうからしばらくやめとけ」

「……分かったわい。ジャブラ、準備運動をしたいんじゃが相手してくれるか?」

「まぁそれくらいなら」

 

 準備運動と称しているが、フラストレーションを解消する為に体を動かしていたいのだ。2人が体を動かす中、女狐はフランキーに近付く。

 

「ゲホッ、ゲホッ」

「(喉が潰れてるな……。流石に罪悪感が……)」

 

 女狐に向くはずだったが、そこに的となる人間が居てしまった暴力。女狐は申し訳ないと思いながらも何もしない。

 何も出来ることが無いのだ。

 

──ガチャ…

 

 せめて、と思い鎖を外す。フランキーは満足に立ち上がる事も出来ないようだが自身の体から1束紙の塊を取り出した。

 

「ッ、ゲホッ」

 

 何かを言いたいようだが紙束をCP9にバレないように押し付けて居ることは確かだ。

 

「(アイテムボックス入れておくか。喉が回復した時間を狙って女狐として聞くことにしよう)」

 

 紙束に対して全力で現実逃避をしていた。

 この状況で察せない程鈍感じゃない。

 

「探したぞCP9……!」

 

 怪しげな紙束を受け取り終わったタイミングで部屋に入り込んできたのはゾロ、ビビ、カルー、チョッパーの麦わらの一味とパウリーの5に……3……5人だ。

 

「フランキーさん……ッ!」

 

 ビビは知った顔の姿に悲鳴に近い声を上げる。

 それと対照的にパウリーは旧知の仲である人物を見て顔を輝かせた。

 

「カク!お前も来てたのか!」

「パウリー…」

 

 ──彼らは、カクがCP9だと言うことを知らない。

 

「無事みたいだな、よかった。っ、と、そこにいるのがCP9か……」

「パウリー! 気をつけい、こいつとんでもなく強いぞ……!」

 

 カクがジャブラを警戒して後ろに下がる。パウリーに目配せをしながら敵対の意志を見せた。

 ジャブラはカクの企みに気付く。

 

「パウリー、少し頼みがあるんじゃが」

「なんだ?」

「ハッ、ガレーラカンパニーの社員は腰抜けだな!」

 

 ジャブラの煽りにグッと堪えながらカクはパウリーの傍による。

 カクは手を伸ばしかけたその時、地面から突き抜ける様な衝撃に体勢を崩し、ダンッという地面を踏む音と体を揺さぶられる感覚をその身に感じると勢い良く空中へと投げ出された。

 

「ッ、カク!」

 

 先程カクが立っていた場所には白い存在。女狐が立っていた。

 当然パウリーは警戒を強める。

 

「……………今、何をしようとした。カク」

 

 地を這う低い怒りの声。

 空中で体勢を立て直しながらカクは女狐を睨んだ。

 

「邪魔すなや」

 

 パウリーでさえ聞いたことの無いカクの怒った声に、女狐は表情を変えることなくパウリーを1番傍に居たビビへと押し付けた。

 

「……………巫山戯るな」

「巫山戯てなど居らん。わしはただ最善を尽くしただけじゃ」

「……………はァ?」

 

 2人の険悪なやり取りにジャブラは深くため息を吐く。煽られても大人しくしていた女狐に我慢の限界が来たのか、収拾つかないハメになる。

 

「その最善が、王族と市民を殺す事か?」

「この場におる時点で仕舞いじゃ」

 

 ここに来て連合軍は違和感を覚える。

 

「わしらが相手する。お前は下がれ、女狐」

「巫山戯るなCP9。此度の作戦は海軍と政府の合同作戦だ」

 

 まるでカクがCP9のような…──。

 

「この作戦ではのぉ?」

「…………。」

 

 カクの隠した言葉に女狐は黙った。

 仮面の下で苦虫を噛み潰したような表情をするが幸いな事に連合軍には見えない。

 

「ここで口を開いてもいいんか?」

 

 『女狐=リィンだとバラす』といった脅し。残念ながら1番効く。女狐は小さく舌打ちをしてフランキーの傍に向かった。

 

 満足気にカクは笑みを浮かべる。

 カクはこの秘密を現時点で言うつもりは無かった。少なくとも女狐にはサンジとウソップを逃がしたという()()を持ち合わせている。リィンだと言うことがバレた場合、1番高い可能性は麦わらの一味と力を合わせる事だ。

 

 それは頂けない。

 リィンが傷つかない。

 

「すまんなぁパウリー。わしは昔っから、こっち側じゃ」

 

 もう理解してしまった。

 パウリーはショックよりも先に怒りに目の前が真っ赤になる。

 

「カク、お前もクビだ……ッ!」

 

 何年同じ釜の飯を食おうと、アイスバーグさんを襲った敵を、許せるわけがなかった。

 

 

 

「たかが5年。お前ら、本当に馬鹿じゃのォ」

 

 握りしめた拳が悔しさで震えた。




お久しぶりです!な!
ハッハッハ、大変な事になっている(確信)

ちょっと思いついたネタとか入れ込んでいた伏線とか若干忘れて無いか心配しているのでもう『ここおかしくね?』みたいなのあったら気軽に教えて欲しいですな。


戦闘描写はほんとに滅べ。

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