2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第184話 生き証人の恐ろしさ

 

 空を駆ける。

 空気を蹴り、風をまとい、不慣れな移動手段でさえもなるべく速く兵士の元へ。

 

 縄で捕まっている連合軍と、動揺と落胆でそれどころじゃない役人と海兵が見えた。

 

「……! 女狐大将!」

 

 地面に降り立つと将校マントをなびかせて敬礼をした海兵。あーごめん、名前全く知らない。

 けど現場での最高将校はキミかな。

 

「侵入者は」

「そちらに全てまとめてあります」

「各員配置体制」

「……怪我人以外立場は離れていません」

 

 滞りなく現状把握をする。

 混乱しても務めを果たそうとする海軍教育具合は政府の比じゃないね!(海軍贔屓)

 

「スパンダム長官に代わり総員に司令を下す」

「ま、待ってください!我々政府の者はスパンダム長官の命令にのみ従えと……」

「命令権を放棄してもなお?」

 

 押し黙った役人を無視して風を操る。怪我してない私が風を使う事に下手打つと思うなよ。

 

──バラッ…

 

 風が切り裂いたのは捕縛された連合軍の縄。

 これに関しては流石に海兵もギョッとした。

 

「麦わらの一味に脅された()()()を連れ島から脱出せよ」

「え……、あの、女狐大将、それって……」

 

 罪を全て『麦わらの一味』に押し付け連合軍を解放する。

 

 全てを破壊するバスターコールから逃げるには足が必要。だからこそ役人を使い逃がす。

 それとCP9とスパンダムに対する武器になってもらいます。

 

 こいつらはスパンダム、この場の最高司令官が捨てた存在。もちろんCP9も含めて。

 その証拠は捨てられる本人。

 

 ニコ・ロビンの言質取り放送のお陰でスパンダムが役目を放棄した以上、この場の最高決定権は私に移された。スパンダムの方が上というのは海軍側(女狐)が任務に無理矢理入り込んでいる存在でしかならないからだ。

 過去の話になってしまったけど。

 

 

「被害者、お前達も指示に従いウォーターセブンへ戻れ」

「だ、だが!」

「私はここに残る。キミ、任せた」

「そんな、危険です! 我々も共に……!」

 

 続けようとしていた言葉を止める様にする。

 『今』、『この場の人間』が『死ぬ』事が私にとって都合の悪い事態なんだよ!頼むから従って逃げてくれ!

 

 

 ……バスターコールはある意味口封じだ。

 スパンダムの失言に本人が気付いて居なくともいつかは知らされる事。

 その失態を知っているのは『バスターコールが起こる島に居る兵士』と『犯罪者』と『脅されていた一般人』だけなんだ。

 

 島全体を包囲される事を含めて視野に入れると包囲網を突破する為には連合軍が乗ってきた海列車じゃ力不足。政府の名前が付いている海列車や船が丁度良い。

 

 口封じ?死人に口なし?

 それの対抗策で1番怖いのは生き証人でしょ?

 

 この場の人間は誰一人として死なせないよ。

 政府に一撃加えたいんだよ、物理的じゃなくてもいいから。

 

 むしろ私はそっちの方が得意だし。

 それに一目見た時から気になっている人間が政府の内部に居るという事も重要。

 

 

 スパンダムが部下を捨てたという証拠が欲しいんだよ、どうしても。

 その人を引き抜く為に。

 

「海軍本部へ向かえば直接仏……元帥へ報告。個人的な見解を述べず事実だけを伝えよ」

「わかりました……!ご武運を!」

 

 将校は敬礼をすると指示を出す為周りに話しながら駆けて行った。現場で指揮する人間ホント尊敬するわ。私には無理。

 

 

 とにかく、塔の内部で起こったことは私がするとして、なるべく早めに正式な報告をセンゴクさんに伝える人間が必要となる。

 センゴクさんやおつるさんは賢いから多分何が起こったのかあらましは把握して、一手を作ってくれるはず。

 

 も〜〜……前代未聞過ぎるでしょ……。

 バスターコールの出動要請がミスであり、なおかつ海賊の口車に乗せられ兵士を切り捨てる事を堂々と放送って。

 

「おい姉ちゃん。いいのか俺たちを解放して」

「……さっさと、去れ」

 

 この場に居るのが『人と関わりたくない女狐』じゃなかったなら連合軍が納得出来るように説明出来たのかもしれない。

 

 女狐はそんなことをしない。

 関わらない、馴れ合わない、優しくない、の3点揃いだ。

 

「……恩に着る。アニキ、っ、フランキーのアニキとせめてウォーターセブンのパウリーは頼む」

「チッ」

 

 連合軍(ひがいしゃ)を逃がすということは、司法の塔に居る海賊では無い賞金稼ぎ(フランキーさん)政府造船職員(パウリーさん)も同じ事。

 女狐の頭の良さの線引きは曖昧だけど一応大将だから理解出来てもいいか。

 

 

 

 もう下の現場に用は無い。

 死なれては困るけれど、どうしても生かさないといけない!という理由じゃないからこの程度の手助けでいいだろう。

 

 現在の最高司令官(責任者じゃない)としての基礎的な事をやってたらセンゴクさんには怒られないだろう。多分。

 

「………はァ」

 

 ところで、私の所属している情報屋青い鳥(ブルーバード)

 そのメンバーはかなりの少数精鋭だ。万年手が足りない。

 

 人手の補い方は殆どスカウト。情報屋幹部を探して出して希望する人間なんて早々いない。

 やる気があれば1年間どこかしらの組織で新人研修をさせられる。きちんと情報を渡せ、それに合格すれば正式なメンバーだ。

 

 このシステムの1番の問題点。

 アイツらが私に何も言わないという点。

 

「そこの役人!」

「は、はい。どうしましたか?」

「近くに」

 

 周りの指示を聞きながらメモを取っていた黒いスーツの人間を傍に寄せる。

 

「……私を探っても無駄だ」

「は…!?」

 

 ニンマリとその相手にだけ見える挑発的な笑みを浮かべて言う。

 

「おたくのトップ達は『女狐』の情報掴んでるので、二度手間だよ。1年研修中の新人」

 

 役人は驚いた顔をしていたが、次第に何となくでも状況を掴めたのか笑みを返した。

 

「女狐さん、ナミ達頼んだよ」

「断る。なんでそっち?普通おたく達の仮面男の方だろう?」

「先輩の力を馬鹿にしない立派な後輩ですので」

 

 歯を見せて笑いながら政府の役人のフリをした青い鳥(ブルーバード)の新人は背を見せ去って行った。

 

 

 テゾーロ、シーナ。現時点キミ達に経営を任せてると言えど私を試す様な真似をしないでくれるかな。あの新人が青い羽根ペンを使ってなかったら気付かないから。

 

 

 女狐=リィン=情報屋ボスという方程式はテゾーロとシーナと、そして情報管理上タナカさんしか知らない。それは徹底させている。

 

 だからあの新人は驚いただろう。

 『情報屋の餌(めぎつね)』が青い鳥(ブルーバード)の存在に気付いた事に、『青い鳥(ブルーバード)』が女狐の詳細を掴んでいる事に。

 

 

 身のこなしも気配の消し方もそれなりに出来てるから元々何かしらしていたのかもしれない。

 悔しい程に人選が良いんだよな、テゾーロ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「おかえり」

 

 司法の塔へ戻り、先程まで居た部屋に行くと中にはCP9の2人はもちろんだがシーナとサンジ様も残っていた。

 

 いや、なんで!?

 

「女狐、こいつら早めに追い出してくれ……カクが……」

 

 察した。

 要するに苛立ちが限界越えそうなんだな?

 

「おい女狐!」

 

 サンジ様の呼びかけに顔をむける。彼は真剣な顔をしていた。

 

「知ってるかもしれないが他の仲間はロビンちゃんを追いかけた。ここには、こいつら除いて俺だけだ」

 

 いいえ知りません。

 状況知りたいけど、ここでシーナに視線を向けたら絶対バレる。かと言って少しも向けないのは不自然。口を挟んだら向けることにしよう。

 

「あの鍵は本当にロビンちゃんの鍵か?」

「さァ」

「答えろ」

 

「……。」

 

 無言は肯定。

 記憶を読める設定の女狐さん、キミたちの認識は知ってるよ。

 

「外に出ろ」

 

 CP9から『何かある』という風に疑われてしまうだろうけど、それが最善策だと……。

 

「──断る!」

 

 サンジ様は仮面越しの私と目を合わせる。もちろん相手には見えない瞳、だけど確実に視線を捉えている。

 

「CP9に疑惑の目を向けられ女狐の信用を失う事と、『俺』に逆らう事、一体どちらが拙い事だと思う……?」

 

 ……考え方が究極過ぎる。どうしよう教養のある人間めちゃくちゃ怖い。

 

「そしてもう一つ、俺に手を貸せ」

「……ッ」

「CP9の目の前で『海賊に協力しろ』なんて大将にとっちゃ不味い事だろうな。だがキミ…──あんたは、それよりも不味い事を知ってる」

 

 わざわざCP9の前で言う理由。

 これから権力をわずかでも削られる事が確定しているCP9ならば、構わないと。

 

 

 そして『2択しかない選択肢』の場合、嫌な方はどうしても避けなければならない。

 情報屋と政府の人間、その前で言う事で自分の出生──『王族だという事』と共に選択肢を提示するからこそ、サンジ様のお願いは最大威力を発揮する。

 

 なぜなら、『調べれば分かること』だから。

 

 ・サンジ様のお願い(めいれい)に従う

 →政府から海賊との癒着疑惑が上がる

 ・知らぬ存ぜぬを突き通す

 →特に何も無い

 

 だけど、それは2人だった場合だ。

 調べれば分かる『ヴィンスモーク・サンジ』の存在は、CP9と情報屋なら簡単に掴める。

 

 名前も姿も変えてない人間は、生まれた事すら無かった事にはされてない。

 ジェルマ王国の歴史には名前が残っている。

 

 

 後者の選択を実行した場合。

 女狐の弱点を掴みたい政府に、後々「なんでジェルマの王族の命令を聞かなかったんだ!」と責められる。

 

「くっっっっそが!」

 

 大将が国の戦力に怯えるなど本当なら有り得ない事。だけどサンジ様は女狐の『王族を守れ』という発言を聞いている!

 言葉の裏に含まれた、『亡命していたとしてもジェルマの王族は下手に殺せない』という真意に気付く。

 

 あァ、クソ。

 あの場で変な発言をするんじゃなかった。

 

 ハッキリ言って不要な台詞!調子乗ってた!

 

「いってェ!なんで俺だよ!」

「八つ当たりだ!」

 

 女狐に、前者しか選択肢は残されていない。

 

 シーナを蹴り上げて苛立ちを発散させた。

 

 

 CP9の2人も馬鹿では無いので、嫌々だとしても『海賊』に従ったとは思ってないのだろう。口を出してこない。

 

「とりあえずロビンちゃんの所へ追いかける。頼んだぞ」

「クソ……!」

 

 ばっ、と飛び出たサンジ様とシーナに続く。

 

「精々背中に気を付けェよ」

 

 純粋な心配じゃない、遠回しな宣戦布告を耳にしながらその場を後にした。

 

「……クソが」

「あー、女狐、この状況にした俺が言うのもなんだけど、レディがクソって言うのは……」

 

 チラリと横を見る。利用した罪悪感もあるのか苦笑いを浮かべているサンジ様に意地返しをする為に口を開いた。

 

「……──女狐(わたし)がいつ女だと言った?」

 

 2つの絶叫が響いた。

 

 

 

 ビビ様、貴女の妄想利用します。

 




青い鳥(ブルーバード)相手に調子乗ってたら足元を糞塗れにされた女狐(※女とは言ってない)の話。

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