2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第185話 勝てないけれど負けない

 司法の塔内部、ニコ・ロビンを追うために残された血の跡を辿り恐らくルフィがぶち壊したであろう扉をくぐり抜ける。

 正義の門へと向かう道はセンゴクさんと放送曰く地下なのでそこに行くための部屋に入った。

 

「サンジ君!シーナ!……って女狐も!?」

 

 ナミさんが2人の後ろを走る私の姿を見て驚きの声を上げる。

 それに対する返事はもちろん舌打ちだ。

 

「ぉぉおお、おいサンジ、お前まさか……」

「おう、有言実行してみた」

「マジかよ……」

 

 サンジ様の言っている意味が良く分からないが女狐を利用する事に違いは無いだろう。

 晴れやかな笑顔でピースをする王族をここまで殴りたいと思った事は無い。

 

「なァ、これ俺行く必要ある……? 麦わらの一味には関係ないし、正直海軍苦手なんだよ」

 

 シーナは頭をかきながら呟く。

 バレたら困るもんね、ドンキホーテ・ロシナンテだと。

 

「頼むよシーナァ、CP9相手じゃ心許無いんだ」

 

 ウソップさんの必死の懇願だったが、シーナは決して首を縦に振らない。

 

「女狐が居るだろ」

「寝首を搔かれねぇか心配だから無理です」

「俺だって寝首掻くぞ?」

「またまたぁ」

 

 ……甘いなぁ。

 

 感想が同じだったのかシーナは一瞬言葉を途切れさせた。そして彼はため息と共に「分かったよ」と小さく呟く。

 

 海軍の前で能力は使わないでくれると助かる。

 

「そう言えばフランキーさん。貴方、古代兵器の設計書、って言うのはどうなったの?」

「あ゛ー、燃や゛した」

「まだ無理に喋るなよ、というか絶対安静だ!喋らないでくれ!」

 

 先程よりハッキリと喋る事が出来るフランキーさんをチョッパー君が止める。連合軍は満身創痍で正直ルフィを含めたとしてもルッチと戦えるとは思えない。

 今はただニコ・ロビンを奪還して船を奪取し逃げる事に集中したい。

 

 いや、させたい、の方か。私は堕天使じゃなくて女狐の方だから視点を連合軍と同一視させたらいつかボロが出るな。気を付けよう。

 

 

「……………燃やした?」

 

 ん?あれ?

 まって、フランキーさんなんて言った?

 

 燃やした?

 

 非常に言いたくないし認めたくないけど、渡したじゃなくて?

 女狐は古代兵器に興味無いというのは認識しているから言ってもいいのにわざわざ燃やしたと言ったの?

 

「……何か不都合でもあるの?」

 

 不服そうにナミさんがこちらを見る。

 

「……………どうしてくれるお前」

 

 私の『責任を女狐に押し付けてくれやがってどうすんだテメェ』という言葉にフランキーさんはニヤリと笑い返すだけだ。

 医者の言い付け守って素晴らしい限りです!

 

 

 

 これ、センゴクさんになんて言えばいいの…?

 

 

 

「あの、女狐……さん。私、貴女に聞きたい事があるの」

 

 ビビ様が遠慮気味に視線を向ける。

 

「──性別を聞きたくて!」

「こっちを見るな女狐」

「お願いしますこっちを見ないでください」

 

 1秒も経たずにサンジ様とシーナにヘルプコールを即拒否された。辛い。

 

「砂姫」

「はい?」

「CP9は仲良い。幼い頃から共に修行をし、潜入任務まで共にこなした。そう言えばこの場には潜入先の造船会社の職員が居たな」

「……──なかなかやるわね」

「まて、それは俺か!?」

 

 ビビ様の真剣な顔とパウリーさんの驚きの声を無視する。

 

「女狐があんなに喋った姿見たの初めてだ」

「我が身可愛さに売ったな」

「いいんじゃねェか?所であの姫さんは何に興奮してるんだ?」

「「情報屋もまだまだだな」」

「聞き捨てならねぇ言葉なんだが?」

 

 人間初心者が仲良いのかー!って言ってる内にそこの男共は何を話してるんだか。

 

「ニコ・ロビン」

 

 その言葉で現実に引き戻すとナミさんが口を開く。

 

「あの橋に行く為の地下通路……水没したわ」

 

 なんやて?????

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ガツンッと金属同士がぶつかり合う音にそれが破壊される音。それらが幾度となく続き場はもはや政府機関の建物の1部とは思えないほどボロボロであった。

 

 ためらいの橋へと続く地下通路。

 そこは戦いの余波により壁が破壊され海水で満たされている。

 

 ためらいの塔の支柱階段にはルフィとルッチが死闘を繰り広げていた。

 

 通路が使えない現状で、ためらいの橋へと引き摺られたロビンを救える者はルフィただ1人。

 

「ゲホッ、ぜー……ぜー……」

 

 しかしルフィは荒く息を吐きながら必死にルッチの攻撃を避けている。

 避ける、だけだ。削れる体力と、攻撃の通らなさ、それに加え自分は血も流している。

 

 勝てない。

 

 武装色の覇気で守られた体は辛うじて打撲痕があるがほとんど効いておらず、見聞色の覇気で行動を読まれた先には強烈な『指』がある。

 

 勝てない。

 

「もういい加減諦めたらどうだ、麦わら」

 

 息一つ上がっていないルッチは倒れまいと踏ん張るルフィを見下す。勝ち目のない勝負に命を掛ける活力の根源を見るように。

 

「俺は自分が死ぬまで、絶対に諦めない」

 

 立つのがやっとの重傷、拳1つ振る事すらままならない体力。

 しかしその目に宿すのは覚悟だった。

 

「何故そこまで命を懸けられるんだ」

 

 純粋な疑問にルフィはニッ、と笑った。

 

「他人にしか命は懸けれないだろ、俺はその他人が──仲間だっただけだッ」

 

 ズキリと痛む穴の空いた左肩。

 

 このままだと自分は殺されロビンは敵の手に渡る。他の仲間も、ここまで来る為に助けてくれた連合軍も、……確実に死ぬ。

 

「黙れ……!」

 

 ルフィの鳩尾にルッチは手加減を知らない強烈な蹴りを放った。避ける間もなくルフィは吹き飛ばされる。

 その蹴りによって足にまとわりついた風がルフィの肌にいくつもの赤い線を生んだ。

 

「なら何故ッ!命を懸けるこの状況に、命を懸けられる事に!何故そうも不満なんだ!」

 

 怒号がルフィの身に降り注ぐ。たった一撃だがルフィにとってはたまったもんじゃ無い。

 ゲボ、と血を吐くと負けじと叫んだ。

 

 不満を。

 

「俺は弱い。俺は仲間が居ないとなんにも出来ねぇ!だから俺に出来るのは、敵を倒す事だ!」

 

 握り締めた拳から蒸気が発生する。急激な血液の循環に体温が勢いよく高まる。

 

──ドッ!

 

 繰り出された鋭い一撃。

 

「だけど」

 

 しかし武装色の覇気で守られているルッチは傷一つ所か、1歩たりとも動かない。

 

「ハキもまったく出来なくて、3人に先を越されて、リーの立てた作戦はゾロとサンジが大事な所で……」

 

 生まれるのは、劣等感と焦燥感。

 

「『役立たず』って言われてねぇけど、俺は船長として力不足だ」

 

 守る筈の立場の人間が、無力さを嘆く。

 

 仲間はどんどん先を行くのに、立ちはだかる敵は幾度となく高い壁を作り未来を見えなくする。

 仲間の姿を覆い隠す。

 

「多分お前にも勝てない」

 

 潔い敗北宣言。

 

 ルッチは酷く冷めた表情でルフィを見据え、口を開いた。

 

「貴様はその程度の人間か」

 

 1度の攻撃で体力が底をついたらしく、ヘロヘロの状態のルフィに失望した。

 

「……悔しくて悔しくて、たまらない。皆がすっげー羨ましい」

 

 どう足掻いても勝てない相手に、己の弱さを知った。船長として慕ってくれる仲間には決して漏らせない本音を、今はただこの空間に唯一存在する敵に漏らした。

 

「守られてばっかりなんだ、昔から。妹に」

 

 自分は兄だ、船長だ。

 守るべき人間だ。

 

 しかしリィンはルフィより様々な点で力をつけた。器用貧乏な才能を限界まで高めていた。

 悪魔の実の能力者として同じスタートで、進む道の途中経過は同じ海賊。

 

 どこで差が生まれたのか。

 それは離れていた10年で分かっていた。

 

「……それで、俺に勝てないお前はどうする」

 

 ルッチの問いに対する答え、それはたった1粒の飴玉だった。

 ルフィは懐から取り出した飴を口に放り込む。

 

──ガリッ

 

 噛み砕かれた飴は舌から喉へ、体全体に行き渡る。力が、湧いてくる。

 

「お前に、負けない事だ!」

「忘れたか麦わらのルフィ!お前は船の上で…」

 

 ルフィが消えた。

 いや、高速で足を動かしルッチの背後に回ったのだ。

 

 六式の〝剃〟だ。生まれ持つ天賦の才は滞りなく発揮され本番で成功してみせた。

 

 背を見せてしまったルッチは迫り来る足を硬化した腕で食い止め──。

 

「うぉおおおッ!」

「くッ!?」

 

 ガチン、と金属がぶつかるような音と共にルッチが吹き飛ばされた。

 木箱にぶつかりクッションとなった様だ。

 

「……」

 

 ルッチはなんの不自由も無く起き上がった。

 受け止めた腕に生まれたヒリリとする痛みを無視して。

 

「一体、何をした」

 

 先程の飴だ。

 それを食べた瞬間動きが変わった。

 

 底をついた体力では足ひとつ動かすのもやっとだろうに、ルフィは難なく立ち上がった。

 

 『ルフィ、もしも、どうしてもピンチの時はこの飴を食べるして。副作用は存在するが、絶対に体力を半分は回復させるし、力が湧き上がるぞ』

 

 心配そうな、それでいて必死そうな家族の顔を思い浮かべる。

 

 絶対に助けになる。

 その言葉を疑う事は無かった。

 

 実際ルフィはその足に再び力を取り戻した。

 

「妹から貰ったんだ、オ…なんちゃらンって名前の飴。俺を一時的に強くしてくれる飴だ」

 

 ルッチは思わず目を見開く。

 

「まさか……オカイン…!?」

「おー、そんな感じだった気がする…ッ!」

 

 オカの葉が元のオカイン。

 禁断症状は化け物が見える幻覚。

 

 得られる力は、幸福感と。

 

「う、りゃあァッ!」

 

 激しい高揚感が加わったドーピング。

 

 ブチブチと筋肉の筋が切れる感覚に気付かない振りをしてルフィは幾度となく拳をぶつけた。

 

「く、そ……!薬物か……!」

 

 ルッチはルフィ相手に能力を使った。

 黄色と黒の模様が肌に浮び上がる。

 

 邪魔になった上着は脱ぎ捨てた。

 

「この背を見せるのは随分久しぶりだ。なァ、麦わらのルフィ。──()()()()()()

 

 ギョッと目を丸くしたルフィは迫る指に身を屈めた。

 股下を転がり背に回る。

 

 上着を脱いだルッチの背がルフィの目に入る。

 

 そこには、5つの砲弾の跡がくっきりと刻まれて居た。

 

 

 

 見覚えがある。

 

 

「なんで……その傷……」

「ゴア王国に天竜人を迎える際はCP(サイファーポール)が護衛の一端を握る。もちろんそれより前から国に在中し『ゴミを焼却する手助け』も、な」

 

 

 ヒヤリと空気が冷えた。

 

 

「10年前、視察としてゴア王国に先行した時は『ゴミ』の様子を観察し効率よく『焼却』出来る方法を国王や貴族に提案したものだ」

 

 そう言えば、とルッチの口が歪む。

 

「〝リーちゃん〟は今回も熱を出して寝込んでるのか?」

 

 ビリビリと肌が引き攣るような殺気がルッチにまとわりつく。

 知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。

 

 ──やはり、スイッチはソレか!

 

 ルフィの覇気は、覇王色だ。

 

「お前が!……お前がゴミ山を、サボをッ、リーを……!」

「ッ、あの計画は、全て俺の案だ。豹になって駒を探していたら、おあつらえ向きにお前達4人が居た」

 

 威圧を増した覇気──と言うより闘志か。

 ルッチは『妹』によって様変わりしたルフィの空気に喜んだ。

 

 待ちわびていた殺し合いが始まる、と。

 

 ただの戦いには興味が無い。求めるのは血で血を洗う醜い獣の様な闘いだ。

 

「ポルシェーミが偉大なる航路(グランドライン)に居たのもお前の仕業かッ!」

「ポルシェーミ?」

 

 ルッチは高まる戦いへの期待と渇望を堪えながら記憶を遡る。

 

「そう言えば国から出る時連れて行けとうるさかった紫の奴が居たな……──まぁいい。もう関係無い話だろ」

 

 するとルッチは再び姿を変える。

 ネコネコの実モデル(レオパルド)、その名の通り豹へと、豹変した。

 

 極めてベースの生物に近い獣型だ。

 

 そもそも動物(ゾオン)系は実を食べただけで人間の身体能力が上がる。理性を持った獣は、それだけで厄介なのだ。

 

「その、姿、何度も見た……。俺を咬んだ!コルボ山で見たッ! お前が、お前が!サボを殺したのかァッ!?」

 

 ルフィの記憶にある獣より一回り大きいサイズだが、背にある傷は全く同じだ。

 

 地面を蹴る。

 頭に血が上り切ったルフィは冷静さを失っている様子だった。ただ無防備に、咬んでくださいと言わんばかりの突撃に。

 

 ルッチは隙を突きその首筋に噛み付く。

 

 この程度か、と。

 

「う、ぉおおおお!」

「ッ!?」

 

 瞬間、ルフィが動いた。

 驚いた事にルフィは肩口を差し出したのだ。

 

 その上、咬み付いた獣の牙を引くこと無く、押し込んだ。筋肉が力んでおり牙はそう簡単には抜けない。

 引けばルフィの肉は削げていただろう。

 

 そしてルフィはハッと何かを思い付いた。

 

「うりゃあァッ!」

 

 巨体の獣が肩を咬んでいる、しかし自身の片手は未だ自由だ。

 ルフィは拳を握り締め、牙の隙間を縫って口内、その無防備な喉目掛け大きく殴りかかった。

 

「っ、の!」

 

 そう簡単にやられる訳にはいかない。

 ルッチは肩口から牙を抜き咄嗟に距離を取るとルフィを睨みつけた。

 

 姿はまたも変わり人獣型だ。

 

「えぐい事を考える」

「忘れたのか……、だって俺、1回お前に咬まれた事あるって言っただ、ろ……」

 

 ボタボタと傷口から血液がとめどなく流れる。

 左肩を押さえ引き攣り笑いを浮かべながら、血色の悪い顔でルフィが呟く。

 

「忘れたのか、麦わらのルフィ。お前はあの姿の俺に敗北した事を!」

 

 ルッチは酷く愉しそうに笑う。

 

 猫だと思っていた小さな存在は、実は子ライオンだった!まだまだこれから楽しませてくれる!

 

「ふぅーー……」

 

 ルフィは懐から何かを取り出した。ルッチは先程と重なる光景に、咄嗟に剃を使う。

 

 神聖とまでは言わないが無粋な物に勝負を邪魔されていい気分はしない。

 

「2、個目ェ…──」

「させるかッ!」

 

 斬撃の足技がルフィの右手を傷付ける。鮮血が飴玉と共に飛ぶ。

 これで両腕が使えなくなった。

 

 ──それでもまだ負けていない!

 

「〝ゴムゴムのォ、ッろくろ首〟!」

 

 

 ガリッ!

 

 

 噛み砕く飴の音、そして数秒の無音が続く。

 先に口を開いたのはルッチだった。

 

 

「俺はお前が羨ましいな、背中を合わせ『守られる幸福』を知っているお前が」

「奇遇だな、俺もお前が羨ましいと思ってたところだ。『守れる強さ』を持ったお前が」

 

 ルフィはルッチを睨みルッチはルフィを睨む。

 

 お互い羨ましい所があり、お互い無いものを強請っている。

 

 

 その姿はリィンとカクに酷似している。

 しかし彼らは羨ましいと思いながらも、己の持つ『誇』を決して譲らない。

 

 なんでお前なんだ、とは思っていなかった。

 

 

「薬を使い誤魔化していても限界は来る。お前は結局地に伏せる事になるぞ」

「残念ながらめちゃくちゃ弱い俺は死なない理由があるんだよ……」

「ほう?」

 

 ボッという空気が爆発する音と床や壁が破壊される、たかが1本の指の威力。

 落ちれば海。その狭いためらいの塔の通路を上下最大限に使い、『死なない理由』を確かめる為に何度も連続で指銃を使い続けるルッチ。

 

 

 

 見聞色の覇気で分かっていたが、煙の中から現れたのは血を流しながらも笑うルフィだった。

 

 

 

 ルッチの連撃を避け切ったルフィは言った。

 

「──だって俺は、兄ちゃんだから」

 





【挿絵表示】

今日は2度目の日です。誰がなんと言おうと私の作品が主役の日です。サボの誕生日でもあるけど、もう2度と来ない、2度目の日です。

とまぁ何かするわけでもないんですけど。

前半は麦わらの一味に振り回される女狐
後半は麦わらの一味に劣等感を抱く船長

ルッチが10年前に行った事。
1.ゴア王国のゴミを効率良く消す為に数日潜伏
2.コルボ山4兄妹を観察し獣の姿で敵対(ルフィを咬む)
3.ブルージャム海賊団に『ゴミ山燃やしたら貴族にさせてやる』と言って火薬を渡す。貴族と結託し4兄妹を使う方法も授ける。(→ドーン島編後半)
4.天竜人を出迎える
5.ゴア王国を去る
6.ポルシェーミをヴェズネ王国で捨てる

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