2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第186話 大っ嫌いも好きの1種

 

 はい、こちらためらいの橋へ向かう唯一の道である地下通路が海水で使えない女狐です。

 正直めちゃくちゃ困った事になりました。

 

「どうすんだこれ……」

 

 地下通路が使えない事に寸分の違いは無いので正義の門が思いっきり見える外に出ました。

 目の前の海面は渦巻いていて、正直魚人や人魚じゃなければ泳ぐ事は出来ないだろう。

 

 そして何より絶望的な状況。

 正義の門が、開いてる。

 

 ……バスターコールが来たんだ。

 

「女狐」

 

 私を呼ぶシーナの視線は海。

 長年の付き合いで、なんとなーく言いたい事は分かってくる。

 

「俺は表立てないからピンチになった時助けてやるよ」

 

 ダウト。

 とんずらするつもりだな。麦わらの一味は信じてしまったらしいけど。

 

 そして視線に込められた願い。

 

 行けってか、やれってか。

 道を、作れと言いたいのかな?

 

「麦わらの一味!」

「「「!?」」」

 

 ためらいの橋の構造はパウリーさんが分かっている、三角海流はシーナが知ってる。女狐(わたし)がやれる事なんて微々たる物だ。

 

 本当はやりたくないし堂々と手助けしたくないしここで政府に全ての罪を押し付けた状況で死んでくれても構わない気がする。

 

「……………仲間を連れ、船を奪い、消えろ」

 

 絆されるな、って、何度も誓ったのに。

 

「馬鹿な海賊共」

 

 靴の裏を浮かせ、月歩をイメージした空中歩行でためらいの橋に向かう。

 私の通った痕跡は海が凍った氷の道。

 

 クザンさんが海水を凍らせる様に私だってやってみせた。

 

 ピキリピキリと凍る音と冷気が下から感じられる。なるべく目立たせたくないから幅は取らないように、でも彼らが足を強く踏み締めても割れない様に深く。

 

 

 

「スパンダム長官」

「は?」

 

 ためらいの橋に辿り着くとスパンダムが1部分だけ凍った海を見ない様にしながら声を掛けた。

 ジャラジャラと鎖を持ちスパンダムはへらりと笑っていた。

 

「おお、女狐殿、丁度良かった。ニコ・ロビンが強情でなかなか進まなかったのだよ。手伝って貰ってもいいか?」

 

 驚きと悔しさが混じったニコ・ロビンは引き摺られたのか擦り傷がいくつも付いている。

 強く唇を噛んだ傷跡も、殴られた青アザも、涙の跡も。

 

「女狐……ッ」

 

 ここまで時間を稼ごうと何度も抵抗した。それが何より助けに来てくれる仲間の為になり自分の命の灯火が潰える事が助けに来てくれた仲間への侮辱だから、だろう。

 縋る様な、それでいて警戒する様な複雑な表情を浮かべたニコ・ロビン。

 

「この状況はどういう事だ?」

「青雉大将よりバスターコールの権限を預かっていて招集をかけた。何か不満でも?」

 

 聞き捨てならない事が聞こえたがおつるさんの策だと思う。私が理解できないというのはそういう事だ。

 

「女狐!彼らは、私の仲間は無事!?」

「うるせぇぞニコ・ロビン! たかが海賊がCP9に敵う訳ねェだろ!死んでるさ!」

「今は不確定な情報は要らな……ッ!」

「うるせぇつってんだろ…!このっ!穢れた!罪人が!」

 

 私は麦わらの一味が嫌いだ。

 海賊と言う人種が大嫌いだ。

 

 特に何かされたとか因縁があるわけじゃない。

 

 でも、嫌いなんだ。

 

「……。」

 

 私にバスターコールを止める力は無い。ここからは麦わらの一味と『私が守らなきゃならない人間』の動かし方で展開が違ってくる。

 仮面の下でそっと目を閉じた。

 

「スパンダム」

「はい?」

 

 麦わらの一味は大馬鹿者だらけだ。

 血だらけになりながらも自分より仲間を守ろうと踏ん張って。誰かの為に動く、なんて私に出来ない事を当たり前の様にしてくる。

 

 自分の命をどれだけ軽々しく扱うんだよ。捨ておけばいい仲間なんて気にしなければいいのにどんな敵でも絶対に諦めたりしない。

 

 海賊の癖に、犯罪者の癖に、キラキラと子供みたいな夢を語って。

 明る過ぎて苦しい位に真っ直ぐな光みたい。

 

 馬鹿だ。馬鹿。

 

 自分本位で生きれば辛くないのに、痛くないのに。馬鹿みたいに真っ直ぐで、絶対に疑わない。

 

 いつもの自分なんて殴り捨てて、泥臭く醜く足掻きながら生きて。

 

 私と正反対。

 秘密ばっかり持ってる私を馬鹿みたいに信じて頼ってくれる。普通の海賊なら疑う所だよ。

 

「私が担当する海賊は舐めない方がいい」

 

 なんの為に『大将』が担当してると思っているんだ、と遠回しに警告する。

 すると私の背後から眩い光がためらいの橋全体を包み込んだ。

 

「うわぁ!」

「ッ!?」

 

 閃光玉が目を眩ませる。スパンダムの驚いた声と恐らく尻もちを着いた音が耳に入り、ガチャンと──鍵の開く音。

 

 辺りから光が消えた時、ルフィ以外の麦わらの一味とフランキーさんとパウリーさんがニコ・ロビンを無事奪還出来ていた。

 

「動かないで!」

 

 ビビ様がナミさんにナイフを突きつけられている。ONLYALIVE(いけどりのみ)を人質に取られた。

 

「動いたら、この子の喉元掻っ切るわ」

「こいつやると言ったらやる女だぜ」

「おおおおおうそうだ、よした方がいい!」

 

 スパンダムと私に挟まれた状態の海賊達。円形になって警戒している。

 私が反対側に居ると言う余裕からかスパンダムは笑い出した。

 

「それがァ?」

 

 どうやらスパンダムはこの状況を()()()()()らしい。

 政府の中にある必要悪のテーマ、というか掲げている言葉は『死人に口なし』だ。

 

 ビビ様が海賊の手によって殺される事に、世界政府は痛手を負わない。

 なぜなら『青雉の司令名代の起こしたバスターコール』で海賊諸共消し飛ぶから。

 

 名代という事は代わり、つまり責任は青雉であるクザンさんの物だ。あくまで発動者はスパンダムだからこそ彼は『バスターコールで海軍の不始末を尻拭いした』という結果になる。

 

 だって、死ねば残るのは『死』のみ。王族か海賊、どちらが先に死んだとか関係無い。

 

 バスターコールでためらいの橋で起こった惨劇の生き証人を消せば、『青雉の責任放棄でスパンダムが義理を立てるため、殺された王女の仇という名目でバスターコールを使った』事になるのだから。

 

 生け捕りのみなんて生死問わずより危険性が高い。その後の政治的利用価値としての意味で。

 

 

 もちろん、あのムカつく馬鹿達はそんな事を絶対しないしさせない。命を懸けて仲間を守るだろう。だからこそこの場に立っている。

 たとえためらいの橋が軍艦で取り囲まれていたとしても諦める事なく。ルフィを待っている。

 

「──うらあああああッ!」

 

 丁度その時タイミング良く橋が隆起し破壊された。そこから出てきたのは血をダラダラと流したルフィだった。

 誰よりも満身創痍で1番大切な『ロブ・ルッチへの妨害』をやってのけてくれた。

 

 ニコ・ロビンを奪還する事が何よりも大切と思われがちだが、そこに至るまでの強敵は間違いなくロブ・ルッチ。

 

 勝てなくてもいい、ただ負けなければ、時間を稼げたら。

 今はそれだけで充分すぎる。

 

「ルフィ!」

 

 海賊の喜ぶ声が高らかに上がる。

 ルフィはゼーゼーと荒い息を吐きながらフラつくが、護送船の方向からやってきた海兵を睨む。

 

「居る、って、分かった…ッ。お前達が居るって、みんな居るって、分かった……!」

「ルフィ……」

 

 ためらいの塔からもうひとつの破壊音。

 ルッチは倒された訳では無いので動ける余裕があるだろう。

 

「みんな、居る! ちゃんといる! リーも!」

 

 ピクリと肩が揺れる。

 下から出てきたルッチが血を拭いながら私の隣にやって来た。

 

「……堕天使、が?」

 

 呆然とした様子だ。微かに聞こえた声に思わず眉をひそめた。

 

「女狐!ありがとな!こいつら守ってくれて!」

「は?」

 

 私も政府も仲間でさえも分からないルフィのチグハグな言葉。いや、私は仮定が立てられる。

 

 

「にっしっし、逃げるぞお前ら!」

「女狐! こいつらを殺せ!」

 

 スパンダムから司令が飛ぶ。

 彼自身が最高司令官の責任を放棄したあの放送を知らないんだろう。

 

「リィン、橋を破壊して、皆を海へ落として」

 

 背後から脳に直接響く様な高い声が聞こえた。

 

「………」

「あ、気絶しないでね?」

「………………何故」

「大丈夫、キミの代わりに僕が仲間を守る」

 

 内蔵を震えさせる大砲の音に紛れて、爆風に紛れて、私の背には優しくて暖かい声と風がある。

 周りには聞こえてない、私にしか聞こえない優しい声。

 

「僕を、仲間の可能性を、信じて」

 

 私はメリー号の繋いでいた縄を切った。それはつまりメリー号の破壊。

 アクアラグナで流されたはずのメリー号は今ここで私に話しかけている。

 

 幻とか、妄想じゃない?

 

 なんでいるとか、これからの事とか、もうどうでもいいや。

 

「──ッ落ちろ!」

 

 風の巨大な塊は上から下へとぶつかる。重圧に耐えきれ無かった橋の1部は崩れ、麦わらの一味とフランキーさんとパウリーさんは海へと投げ出された。

 

「あとは門を閉じるだけ。僕は難しい事なんて分からないけどこれだけは言える」

「ッ」

 

『────迎えに来たよ!』

 

 ここからじゃ支柱近くの海は角度的に見れないから、私はメリー号の言葉を信じてためらいの橋第三支柱の開閉レバーへ向かわないといけない。

 

 信じて。

 

 足が震える。

 彼らは本当に船に乗り込んだ?誰か取り残されたとかは?本当にこの数の軍艦を切り抜けれる?

 

 私無しで、彼らの力を信じて。

 

「……ッ!」

 

 踵を返した。ルッチが様子に気付いて声をかけたが無視をする。

 

「守ったと聞いたが、どういう事だ?」

「さぁな」

 

 そこだけはなんとか弁明をしておかなければならない。

 

「──麦わらは英雄ガープの孫だ」

 

 ためらいの橋に居た海兵はそれだけで納得してくれた。モンキー一家って良く分からないよね。

 

 ジジ、海軍で暴走する貴方にここまで感謝した日はありません。

 自重しやがれあの野郎!

 

 

 ==========

 

 

 放送で避難していたのか上に出て戦闘に混ざっていたのか知らないが第三支柱の正義の門操作室には人っ子一人居なかった。

 ルフィが『リーが居た』発言をしたお陰で勝手に門を閉じたのは海賊という手が使える。開閉レバーで門を閉じる。

 

 閉じる事によって生じる渦はナミさんがなんとかしてくれると思う。

 大丈夫、彼女ならやってくれる。

 

 私が安心して船に乗れてるのは彼女のお陰なんだから、きっと無事。

 

 ムカつく程馬鹿で大嫌いだけど……死なせたくないんだよなぁ、これがまた。

 大嫌いだけど、大好きなんだよなぁ。

 

 こんな隠し事ばっかりの私を馬鹿みたいに信じてくれて、全部私の自業自得なのに助けてくれてさ、迷惑かけたのに、逃げたのに。

 私の事仲間って呼んでくれるんだよ?

 

 絆されない訳ないじゃん。

 

「あーあ……」

 

 センゴクさんは『麦わらの一味を悪役に仕立てあげろ』って言ってたからバスターコールは『存在しなかった(=ルフィが破壊した)事』になるけど、他の将校は違う。麦わらの一味に潜入している大将、リィンが『政府と敵対する今回の件』で海賊の手助けしたら裏切りじゃないか。

 

 女狐に徹してこっそり手助けしたのなら問題無いけど、最初は居なかった堕天使が()()()()()()()、のなら『女狐』を知ってる者からすれば、確実に裏切り。

 

 だって、もう少しで海賊を殺せた。

 そのタイミングでスパイが助けたら駄目だ。

 

「はぁ」

 

 まぁ1部だけしか知らないので大多数は『堕天使リィンは敵』という認識。

 女狐の服装から堕天使に変わる為に服をマントを脱ぐ。

 

 扉に鍵を閉めた為人は入ってこないだろう。

 

 もっと上手く運べなかったのかと後悔して。

 

 

 油断していた。

 

 

「は……?」

「うわ……」

 

 扉じゃなくて壁からブルーノの能力でやって来たルッチに仮面を外している最中を見られた。

 

 あ、逃げ場ないわ、コレ。

 

 この状況から相手が考えられる推測。

 『女狐が堕天使だった』という真実と『堕天使が女狐に化けた』という最悪な状況。

 

「……居た」

「居たな」

 

 ルッチの呆然とした声にため息を吐きながらブルーノが呟いた。

 

「どこに居るんだと思いながら探してたけどそっちか……」

 

 完全に予想外だった模様。

 推測は前者を取ってくれた様だ。

 

「あー……女狐、いや、堕天使?」

「一応女狐でお願いするです」

 

 堕天使という名前は嫌いなので他人から呼ばれると寒気がする。

 ブルーノが周りを見渡して聞く。

 

「麦わらの一味を逃がしたのか」

「そうですけど?」

「海軍を裏切ったのか」

「違うですけど?」

 

 何を言ってるんだと不思議そうな顔をする。そんな私の様子に2人は訝しげに顔を歪めた。

 

 フッフッフッ、馬鹿だなCP9。理解出来ないのか?……まぁ私も理解出来ないのだけど。

 思いっきりハッタリです。

 

 せめて表情だけは余裕ぶっこいてないと裏切り者としてノータイムで殺されそうなので必死だ。

 

「麦わらの一味を殺す事、さて」

 

 クスクスと馬鹿にするような笑みを浮かべて私は必死に考える。

 

 正直利点と言えば『王族の命』と『ニコ・ロビンの知識』だ。それ以外に生かす意味は無い。

 

「まだ早い、今はまだ早いのですよ」

「今は早い……?なぜだ、我々の力ならばあの程度の海賊など狙って殺せるだろう」

 

 知ってます。

 だから必死に全員生かすことによるメリットを考えているんです。

 

「殺して、どうなる?」

 

 2人はハッとした表情に変わった。

 どうやら自力で隠された真実に気付いた様で何よりです。……私は知らないけど。

 

「何か巨大な力が動くのか…ッ!?」

 

 革命軍や海賊は多分使えない。王族も所詮狙い撃ち出来る命。

 

「……古代兵器」

 

 ブルーノが息を飲んだ。呟いたルッチは真っ直ぐにこちらを見据えていた。

 

 私は笑みを深めるだけ。

 

「政府が狙うからこそ殺せないニコ・ロビンと同じ存在。しかし周りを殺せばどんな状況下で発動するか分からないから危険。そう取れば自然と答えは見えてくる」

「つまり……麦わらの一味には!」

 

 プルトンはフランキーさんの設計図から造られる戦艦。

 

 残りはポセイドンのウラヌス。どんな兵器なのかも分からない未知の存在。

 2分の1ならあってもいいと思う!うん!丁度いい設定が出来たね!

 

「これはまだ潜入中の私と直属の上司しか知りません。何せ赤封筒案件。早々簡単に発表不可」

 

 確信が持てないから、と言えば黙っていても問題はないし欺こうとしたとも言われない。

 なんて素敵な案なんでしょう!

 

「分かった……流石に荷が重い事だな……それで逃がしたのか」

「えぇ、その情報は麦わらの一味に居るなれば判明する可能性もある故に」

「その古代兵器の情報は海軍で独占する、と言いたいのですか?」

 

 嫌味にも似たルッチの言葉にピシッと空気が固まる。古代兵器解読、ニコ・ロビンの力を、真実を知れるのは潜入している私のみ。

 

「私の価値ですから、命を懸けた交渉ですね」

 

 私の生存確率が上がる。

 

 敵対する気は毛ほども無いけど命の危険をおかしてまで手に入れた情報、そう易々とくれてやる訳にはいかない。

 

 そう言外に伝えれば納得した様子だった。

 

「では私はこれにて戻ります。リィンは『政府に怯えウォーターセブンに待機中』ですので」

「まってくれ!」

 

 逃げようと思って箒を取り出そうと思えばその手を咄嗟に捕獲された。

 

「部下にして欲しい」

「えっ、普通に嫌です」

 

 これ以上爆弾を抱える気は無いので嫌です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 一足どころじゃない程早くウォーターセブンに到着した。ルッチとブルーノには口封じを『政府に捨てられた場合海軍が2人を拾う』というどちらにも有利な交換条件の元お願いした。

 殺しの正当化を求められるのは大きな正義の元でしか無い。それに海軍に置いておけば口封じは確実だったりする。

 

 誰の部下、とは言ってないから私に被害が被ることなど無いだろう。

 

 後は、麦わらの一味達を待つだけ。

 

────ドシュッ

 

「え……」

 

 硝煙の臭いはしない、発砲音も無い。

 それでも私のふくらはぎから血が流れていた。




エニエス・ロビー編、終了。
そして不穏な終わり方です。

次章というか間に挟む数話は予想外の展開が連続します!(※シリアスのリバウンドでは無い)

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