「おはようリィン」
「おはようですロビンさん、体調は?」
「倒れそう」
「ッ!? チョ、チョッパー君ロビンさんが大変ぞりー!」
「ふふ、冗談。大丈夫よ」
優しく微笑んだ貴女が、あんな業を背負っているなんて気付きもしなかった。
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宿屋『憩い』には麦わらの一味と、そして船大工の数名が居た。
「船を、造らせてくれェ?」
ウソップさんの言葉はつい数秒前フランキーさんが言った言葉だった。
「お前達、船が必要だろ?」
アイスバーグさんのプレゼンテーションは続く。多分こちらがうんと言うまで続くのだろう。
「俺達は世界屈指の船大工だ。そこにいるゴーイングメリー号の出来た航海が出来る様な船をお前達に造って贈りたい」
「俺はなんと言ってもウォーターセブンの市長として腕がある。これに加え是非にと声を上げているコイツら、パウリーとフランキーだって腕は自信を持って勧められる」
「元はと言えば今回の件、俺達の巻き添えの様なものだ。迷惑かけたからな、恩を返させてくれ」
意気揚々とメリットややる意味などを伝えてくる。その話の内容に悪い点は『しばらく島に拘束される』以外見つからないだろう。
中古や量産品ではなくオーダーメイド、有り余る程のメリットだろう。
私は船長代理として彼らを見据え、静かに口を開いた。
「──で、本音は?」
「「「クラバウターマンが生まれる程の奴らの乗る船を造りたい!」」」
船大工って船馬鹿なのかな。
後、少なからず本音を隠して耳障りのいい言葉を並べるルッチの性質は間違いなくウォーターセブンで育ったということが分かった。
「メリー号亡き後」
「僕まだ生きてるよ?」
「ややこしくなる故黙るして」
ナミさんの膝の上に嬉しそうに乗っているメリー号が口を挟んだので言葉を制する。
「……船が壊れるした今、その提案は大変有難い話です。利害が一致すた事は確かでしょう」
「本当か!」
「ですが、我々は海賊です。そしてルフィは海賊王になる男」
恨み廃りを無くすためにハッキリさせて置かなければならない事がある。
「過去、海賊王の船を造った船大工がどんな結末を辿るしたか知らぬのですか?」
海賊王に関わった者は全て処刑。
それは初代海賊王の周囲に起こった全てで、前例がある状況。センゴクさんがルフィを悪として利用する場合、海賊王になる事も視野に入れているだろう。
電伝虫で『力を付けさせる』と発言した以上死なせることは無い。
2代目海賊王の周囲にだって起こる未来だ。
「なれる、なれない。そう言うしたのでは無き」
ルフィは私が、海軍が、世界が。
「海賊王に
当初この船に乗った目的はルフィを目立たせずに生き延びさせる事だったが、私にも譲れない物が出来た。
「麦わらの一味の為に、命をかける覚悟があるのですか?」
言葉を区切れば、ルフィ以外の麦わらの一味全員が気を引き締める。
船員の意思は皆同じと言うこと。
「造った船に…──」
緊張感が宿のホールを支配する中、フランキーさんが言葉を発した。
目は真っ直ぐ私たちを見ている。
「男はドンと胸を張れ!」
その言葉の真意が伝わっているのかアイスバーグさんは笑みを浮かべた。
「俺達の師の教えだ。海賊王の船を造ったと胸を張った男のな」
私はその言葉で肩の力を抜いた。
「出過ぎた真似ですたね、謝罪します。どうやら甘く見るしていたのは私です」
純粋に頭を下げた。
……うちの保護者達が大変ご迷惑をお掛けしました、という意味を込めて。
いや、ほんとごめん。私達の父親と武術の師匠が迷惑をお掛けして。
「いや、構わな…──何故苦虫を噛み潰したような顔をしている」
「何事もございませんぞ」
気にしないでください。
「それでえっと、貴方がフランキーさん、ですね?なんというか、奇抜なファッションぞ」
「初対面一発目にそれは酷いんじゃないか?」
「初対面でその格好はやばきでは?」
「お互い様か」
私の酷さは
リィンとフランキーさんは初対面なので当たり障りの無い会話をする。それをしないとおかしいからな。
するとフランキーさんはふと顔を上げてアイスバーグさんを見た。
「アイスバーグ、おめーよ、2億くらい持ってねぇか?」
「……唐突だな。金は貸さないぞ」
「目をつけてた希少木材が市にあって、船用に買いに行きたいんだが」
アイスバーグさんの目が輝いた。
パウリーさんもまさかと言った表情だ。
「宝樹アダム」
「あ、それリィンちゃんが持ってますよ」
ビビ様が手を上げてニッコリ伝えた。よく覚えてるな。
「…………えっ、造れる分?」
「結構あったよね、リィンちゃん」
「全部ぶんどるしてきますた故、キャラヴェル2隻は固いかと」
「裏のルート売り出される……レアなヤツ?」
「2億くらいするとは言うしてますたね」
「……そのルートって、カジノ?」
「グラン・テゾーロ」
あ、崩れ落ちた。
「ルフィ、目覚めないな」
「医者として俺は、普通死んでもおかしくないと思っているぞ。ビビから貰ったけど血液も不足してたし疲労が半端じゃない。それでも生きているのは生命力の高さだろうな」
項垂れるフランキーさんを視界に入れずスルースキルのレベルが着々と上がっているウソップさんが呟く。するとチョッパー君は医者としての見解を述べた。正直分からんでもない。
「リィンも大変だっただろうけどよォ、CP9相手ってのも苦労したぜ」
「の、様ですね。私も大概ボロボロと思うですたが引けを取りませぬ」
「……そういや、リィンがウォーターセブンに残った理由ってその怪我に関係するのか?」
その問いに苦笑いを返す。
詳細を話したらボロが出る。グリッジを倒したのは私じゃなくて女狐で、彼の娘が恨みを抱いていたのは女狐である私。
そこには決定的な違いがあった。
「まぁ、そう、です。……ごめんですぞ、言うと絶対止めるされると思うして」
「ルフィは間違いなく止めるだろうな」
「この戦いには、私がちゃんと決着を付けるしたかった」
話したくないけど話す、という曖昧な表現を使って誤魔化しながら渋々口を開いた。
「なにより、巻き込むは嫌」
「馬鹿かオメーは!」
私の言葉に強く反発したのは会話の相手であるウソップさん。突然の罵倒に私は目を白黒させた。
「ビビは国と七武海のゴタゴタ、ロビンは世界に喧嘩売るっつー巨大な問題に俺達を巻き込んでくれた!新入り達が俺達を巻き込む勇気を持ってんのになんで2番目のお前が尻込みしてんだ!」
海賊は実力主義、序列は絶対。
いくら仲が良くても『順番』というのにこだわりがある。
私は様々な面での実力があり、海賊になったのはルフィに続き僅差で2番目だ。
船員の私に対する認識は副船長に準じる地位。
ルフィと私に地位差はあるけど、私とゾロさんにもそれなりの差がある。
「ウソップさん、変わりますたね」
「……女狐に言われたんだ。俺は勇敢な男で、あの化け物達に敵わなくても役目がある」
小さく呟いてウソップさんは晴れやかな笑顔を見せた。
「俺は狙撃手、援護が花道! 仲間の進む道を援護するのがこの船での役目だ!」
「……ッウソップさん、本当に頼って宜しきですか?」
「当然だ!」
『私』の言葉でそこまで変わってくれたのかと嬉しく思い…──袖から貝を取り出した。
「……へ?」
──カチッ
『俺は狙撃手、援護が花道! 仲間の進む道を援護するのがこの船での役目だ! ──……ッウソップさん、本当に頼って宜しきですか? ──当然だ!』
ぱちくりと目を開いて口を閉ざしたウソップさんの顔には汗が流れていた。他の面子はこれから起こる事を予期したのか苦笑いを浮かべざるを得ない様子。
「言質ぞ、ウソップさん♡」
「──撤回を!発言の撤回を所望する!」
「狙撃手のウソップさん援護よろしくお願いするですよっ」
まぁ絶対巻き込めないんだけど、私の為に。
とってご覧なさいと体の小ささを活かしてウソップさんの
そんなじゃれ合いの最中、サンジ様がビシッと手を上げた。
「女狐の話題が出た所で俺とっても言いたいことがあります!」
必死だな。
「──女狐、本人曰く男です!」
一瞬の静寂の後、最初に口を開いたのは男の娘説を提唱していたビビ様だった。
「これは勝ったわ!」
何に勝ったというんだ。
「あーーー……だからか」
次に口を開いたのはフランキーさん。
ニコ・ロビンに視線を向けながら納得した様な声を出した。
「俺、アイツのこと嬢ちゃんって呼んだら変な反応をしてなァ……」
「俺もレディって呼んじまったぜ……」
両方共予想外過ぎて驚いただけです。
まぁ女だとは言ってないけど男だとも言ってないから精々
動揺が走り、各々が女狐に関して考えている微妙な空気をいい意味で破壊したのは1人の男の目覚めだった。
「ッ、リー!」
ドタバタと上から駆け下りて来たのは昏睡状態だったルフィ。
「──生きてるか!?」
「死んでたらそれで問題だと思うぞ」
この短時間で自主的に起きてくるとは思ってなかったので、正直驚いている。
「ルフィおはよう」
お呼ばれした様子なので声を掛けると、ルフィは私を視界に入れた途端駆けつけ、肩を力強くがしりと掴んだ。
「大丈夫か!?」
「いだだだだだだ! ルフィ! 痛い! 死ぬ!」
「よし、生きてるな!」
「ルフィに殺すされるかと思考したぞり!?」
痛みに疼く肩を擦りながら涙目で睨みつける。
無事を確認する為に地味に痛い方法を選択する辺りルフィだなって思うよ。
「ルフィ、もう平気なのか?」
「んー、筋肉痛? ちょっといてぇ」
「ルフィはリィンに比べて肉体損傷より肉体疲労の方の色が強かったからな」
チョッパー君が納得した声を出す。
ルフィは周りをキョロキョロ見渡してニコ・ロビンに声をかけた。
「ロビン、頑張ったな」
「そうね。ようやく羽を休めることが出来るわ」
「ししし!」
ルフィが起きるだけで空気が一気に変わった。
麦わらのルフィは色んな人の光で皆それに縋るんだろうか。例え海賊でも。
まぁ、『兄のルフィ』は私だけの特権だけど。
「ルフィ、ルフィ」
ナミさんが膝にメリー号を乗せたまま声をかけた。ニッコリ笑顔で上機嫌だ。
ルフィはメリー号の姿を見て一瞬固まる。
私と似てるから、か?
「なんか、リーと似てるな!メリー!」
近付いてフードを脱がすと白銀の髪をわしゃわしゃと撫で始めた。
「わっ、わぁっ!」
「そっか、この角? お嬢様の所の羊にも着いてたな、親にも似たのか!」
「執事な、執事…──っていやいやまてぇい!」
ウソップさんがツッコミにツッコミを重ねるという離れ業をやってみせるとルフィは小首を傾げウソップを見上げた。
「なんだ?」
「お前ッ、なんでメリーがメリーだって分かったんだ!?」
「んー……なんとなく?」
訳がわからないといった様子でウソップさんは額を押さえた。
ごめん私はメリー号だと分かった。ただし事前知識があったからだ。
「俺達の中に居て、違和感つーのが無かったんだよ。だからもう1人の仲間、メリーかなって」
「だからって言ってもよォ、今のメリーは船じゃなくて人間だぜ? 普通分かるかよ」
「でもよぉ」
ルフィは考えながら言葉を紡いだ。
「どんな姿だろうと仲間は仲間だから」
どこか悟ったような、それでいて冷静なルフィの言葉はズキリと私の胸を抉った。
それが、敵でも?私が女狐の姿だろうと仲間って言ってくれるの?
ルフィの性格なら私を妹と言う。
だけど、仲間と言える?
どうしようもない不安感や空虚感に襲われる。
その瞬間、見聞色の覇気を使えるゾロさんとサンジ様が立ち上がり扉を睨み付けた。
──ゴンゴンゴンッ!
貸し切りのはずの宿の扉から重たいノックの音が聞こえた。
扉は返事を待たずに開かれる。
「ぶわっはっはっは! やらかしたなぁ、麦わらの一味!」
逆光で見えづらくてもその豪快な笑い方で誰なのか分かる。
「元気か、孫共!」
「じいちゃん!?」
「じじ!?」
ニンマリ笑う義祖父の姿に私はひとつの真実に辿り着いた。
他人の不幸は蜜の味。
センゴクさんの機嫌が良かったのは私の苦労が確定された未来を知っていたからなのか、と。
──私、一体貴方に何をしましたか?
正直心当たりしか無いのでこの質問は心の中に留めておきます。
令和最初の投稿! 短期間投稿すぎて私の睡眠時間は削れないんだけど!
\削れないのかよ!/
\一本取られたよ!/
まぁ今回細かい解説は無いので無視します。
とりあえず冒頭の不穏な表現について一言。
『あんな業』は例え逆立ちして世界1周してもギャグです。