2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第199話 手加減は海軍に置いてきた

 

 影を手に入れた。

 呼び寄せ、尾行させ、驚かし、追い詰め、影を奪った。

 

 偶然の産物では無く狙った事だが、こうも思い通りに行くとは、話が違うでは無いか。

 

 

 モリアは1人、部屋の中で堪え切れない笑みを零した。

 

 

 自分以外の七武海が話していたのを聞いていた。マリージョアには行かなかったが、警告と牽制も兼ねて、縄張り増減連絡の際に言われたのだ。

 

『手を出すなとは言わねェけどよ。あんまり舐めない方がいいと思うがな』『そうそう、あの甘噛みは毒付きだな』『肉体労働より頭脳労働だ、あれは。興味が無いならそれでいいが面倒くさくなるから仲間に入れたいとか言い出すなよ』『何戦目だったか?』『知らねぇ、どうせ暇潰しの賭け事だし』『お主ら……』

 

 呆れた魚人の声で毎回切られた様な気がする。1年に1回あるかないかの連絡では、年々勢い良く増してくる疎外感のせいで他の七武海と交流を図ることも人となりを知る事も出来ないが、毎回と言っていいほど出てくる名前は雑用の少女の名前だ。

 今回こうして影を奪った。

 

 現状が知られた所で他の七武海が報復に来ることはまず無いだろう。なぜなら彼らは海賊だ。利益が無いと動かない。

 

 

「影を使うには、本体は生かしておかなきゃな」

 

 

 噂の『リィン』とやらは子供だった。

 くれぐれも堕天使の扱いには気をつけろ、とは言っておいたが無事闇の中をさ迷うことになっただろうか。他の七武海と争いを避ける為にも情報管理だけはしっかりしておかなければならない。

 

 

 まぁ、この程度。しかも先に手を出したのはあちらの方だ。

 例え七武海全体がリィンという少女に傾倒していようが、所詮は七武海も海賊。自業自得の結末に文句は言わないだろう。

 

 

 

 

 

 モリアの予想は正しかった。

 彼以外の七武海は「先に手を出しておきながらその程度でやられるなら自分達の目が劣っていただけ」だと言っただろう。

 

 

 

「ねェ」

 

 不意に少女の声が聞こえた。聞き覚えのない声に、麦わらの一味かと思うが誰も居ない。

 

「誰だ」

 

 モリアは警戒して声をかけるがその声に答えてくれる気配は無かった。

 

「どうして?」

「なんでなの?」

「おかしいなぁ」

「あなたは1人?」

 

 クスクス笑う声が、言葉が。同じ声が別の場所から聞こえて来る。

 

 ……何故同じ声が?

 

 そう思ったのも束の間、目の前にぼんやりと金髪の少女が現れた。

 どういうカラクリか知らないが【リィン】に間違いない。何かの悪魔の実の能力者で、この状態を作り出しているのだろう。

 

 足元に影が無いので本人と見える。

 

「どうして?」

「ちっ、ゾンビ共!」

 

「ねぇ、どうして?」

 

 モリアはゾンビ兵を呼んだが、誰も来ない不気味さに思わずリィンを見た。

 

 

 『──あんまり舐めない方がいいと思うがな』

 

 脳裏に、言葉が浮かぶ。

 

「どうしてゾンビ達を使役してるの?」

 

 独り言を呟くように紡がれた疑問。立ち止まった少女はだらりと力を抜いてボソボソと同じ質問を繰り返す。答えあぐねいているとピタリと言葉が止んだ。

 

 無言が続く。

 無言が。

 

「どうして……」

 

 ぼそ、と催促するような言葉にモリアは反射的に叫んだ。

 

「ッ、仲間なんざ生きてるから失うんだ!ゾンビなら代えのきく無限の兵士だ!だから、だから俺は!」

「どうして……?」

 

 繰り返される何故という言葉。

 今度はその方向からではなく、再び複数の場所から問いかけられた。

 

 何故?答えたのに繰り返されるその問い。

 

 心の中を読まれているようでゾッとした。

 

「俺は、俺は……」

 

 1歩下がったモリアに少女は音もなく近付く。足すら動かしてない無音の移動にモリアは精神の脆い部分が削れる音を聞いた。

 

「私ね、私ね」

 

 しばらくしてだろう。少女は再び口を開いた。

 

「七武海が大嫌いなの」

 

──ドシュ…

 

「……???」

 

 何が起こったのか、脳が理解を拒んだ。

 少女の体を突き抜けて、緑と金のスラッシャーが己の体にくい込んでいた。

 

「…〜〜ッ!?」

 

 自然系(ロギア)だと瞬時に判明した。覇気を使えない自分では相性が悪過ぎる!

 

「は、仲間がいるのか」

「私あなたの事知ってるよ、話してたもん。話してたよ、みーんな」

「話して、た?」

 

 幸い傷は浅い。

 敵意として反対したが、殺意には程遠い攻撃だ。

 

「知ってるよ、話してたよ、あなたのこと」

 

 また機械のように繰り返される。

 ばっ、と勢い良く上がった顔についてある双眼と目があった。口元は怪しげに歪んでいる。

 

「アハハハハハハ!」

 

 笑っているはずなのに、声は後ろから聞こえた。

 何故だ、どうなっている。

 

 思わず後ろを振り返るが、コロリと転がってきた物に目を奪われた。

 

 ──────目玉だ。

 

「ッ、!」

 

 それを認識した瞬間大量の目玉が上から降り注ぐ。

 ボタボタと体に降り注ぐ目玉の感触はまるでゼリーの様で、不気味さが増す。ふわりふわりと脳が浮かんでいく奇妙な感覚。

 

 敵の攻撃だと判断したモリアは目玉の雨が終わった瞬間少女の姿を目に捉えたが、彼女はニヤニヤと笑うだけで何も言わない。

 

 

 ひんやりと足先から冷たくなる。

 

 

 ……怖い。

 

 いつぶりだろうか、こんなにも恐怖を身近に感じたのは。

 ガリガリと精神の削れる音。

 

 話してる、話してる。

 【リィン】が言った『皆』とは、恐らく。同じ立場である海賊達。

 

 多少であろうと繋がりのある海賊。

 

「なっ、んだ」

 

 突然霧が発生した。

 その色は、何故だろうか。赤い。

 

「──ッ!」

 

 目が痛い、喉が痛い。鼻の奥に、皮膚に、ヒリヒリと焼けるような感覚がモリアに襲いかかった。今まで感じた事のない痛みと、それを上回る不気味さ。

 反射的に少女を切り裂こうとした。

 

 他の七武海との争い?扱いには気をつけろ?そんなことどうだっていい!

 

 

 しかし爪に何かを切り裂いた感覚はなかった。小さい子供1人、力に物言わせ捻り潰す事は簡単なはずなのに。

 まるで最初からそこにいなかったように。

 

「アブサロム!ホグバック!……ッ、ゲホッ、ペローナァ!」

 

 息を吸い込む度に焼け付く喉。

 毒だろう、あまり吸い込まない方がいい。

 

 しかし毒ということは敵も手出し出来ない諸刃の剣だ。

 

 仲間の名を呼ぶも、誰も現れない。

 痛みによる生理的な涙が止まらない。誰も現れない。誰も来ない。声に答えない。涙が止まらない。

 

 

「誰も来ないよ」

 

 心を読まれた様に己の不安を断言する少女の声。

 

「だって」

 

 またしても声が聞こえた。

 

 やめろ、言うな。

 やめてくれ。

 

 その時、背後から初めて気配がした。耳元で呟かれた言葉は、モリアの最も嫌う、最も恐れる単語だった。

 

 

「──────ぼっち(ひとり)なんだから」

 

 振り返ったその先に、リィンが居た。

 その顔はまるでモリア君が余ったからそこのグループ入れてあげなさいと先生に言われた時の嫌そうな姿とそっくりだった。

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙(汚い高音)」

 

 

 

 彼以外の七武海は「先に手を出しておきながらその程度でやられるなら自分達の目が劣っていただけ」だと言っただろう。

 

 ただし「自分達の目は決して劣ってない」と自信満々で続けるが。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「えっぐい」

「エグイな」

「お前マジかよ」

 

 海水、または塩によるゾンビ兵の数を減らしてくれていた方々が船に戻った瞬間、見るに堪えない格好で海楼石付きの縄に亀甲縛りにされたモリアを見て呟いた。

 

「流石の巨体、不慣れ、私苦労しますた」

「その縛り方に慣れてる所にツッコミ入れた方がいいか?」

 

 彼はその大きさ故に船には乗せられないので適当に広い場所で放置している。

 一仕事終えたので私は満足だ。

 

 

「一瞬にしてゾンビ達の動きが止まったからモリアが死んだかと思ったんだけど……」

 

 ゾンビ討伐参加のサンジ様がモリアを見てポツリと呟く。

 

「殺してやった方がいいんじゃ」

「私への評価が酷い」

 

 生かしておいた方が精神的に追尾攻撃出来るから生かしてください。

 あ、当然写真は撮ってる。ウソップさんにドン引きされたけど。

 

「ゾンビ討伐の方はどうでしたか?」

「リィンの睨み通り、能力で出来たゾンビだったから塩で撃退出来たわ。明確な弱点が分かっている分生身を相手にするより楽だったわね」

「ヨホホホ!私も無事影を取り返しましたし良かったですよ!」

「俺たち3人の方は特に強敵無し、強いて言うならビビりの影がちょこまかと走り回って時間食ったくらいだな」

 

 ニコ・ロビン、ブルックさん、フランキーさんが順々に感想を述べてくれる。そうか、ゾンビは影の性格に影響を受けたりするのか。

 

「こっちは求婚された」

「はい?」

「あと途中でスケスケの実の能力者が出てきて、コックがブチ切れて蹴り飛ばした」

 

 ゾロさんの報告に思わず聞き返す。しかし彼は答えるのではなく言葉を続ける選択をした。

 

「秋水っていう刀をゲットした」

「あァ、えっと、確か誰かに壊されるしたんですっけ?」

 

 苦々しい顔でゾロさんは肯定する。エニエスロビーでカクに蹴られた時パキンっと壊れたんだったか。

 

「あの野郎ッ、スケスケの実……!俺が、食いたかったのに……!」

 

 因縁を思い出すのかサンジ様が悔し涙を流しながら燃え上がるという器用な事をしていた。

 ……ジェルマ国第3王子は死んだ、いいね。文句は言わせない。

 

「なぁなぁ、これどうなるんだ?」

 

 ルフィがそう聞いてきた。

 そうだね、公になるとモリアは問答無用で七武海の称号剥奪だろうけど。

 

 うん?

 

「ルフィが、その後を、考えるしてる!?」

「「「はぁぁあぁあ!?」」」

 

 驚きの声が重なった。

 特に東の海(イーストブルー)からの付き合いである4人は驚きまくっていた。

 

「ね、熱は?」

「無い!」

「怪我は?」

「してない!」

「精神攻撃……」

「しょーきだぞ!」

「拾い食いか?」

「それはしたけど」

 

 したんかい。そうツッコミそうになるのを押さえ込んだ。

 

「俺、リーの思い通りになるの嫌だから」

「んー?」

「おー?」

 

 私とウソップさんが唸った。意味を上手く理解出来ない。他も首を傾げている。

 

「それはつまりなんだ、ルフィ。リィンが敵にするみたいに、誰かに思い通りに操作されたくないって事か?」

「そうなのか?」

「結局バカなのかー」

 

 言葉を省き過ぎではないのかルフィ。

 それは『私の思い通りになる敵』みたいになりたく無いって事だよね。『私=他人』って事の様だし。

 

「敵に思い通りに動かされたくないから考えようと頑張っている。なお敵はリィンのように性格が悪い事を想定しての発言である。──てことだな」

「おぉ」

 

 わかりやすい。と周囲からウソップさんへの賞賛が飛ぶ。1部は拍手をしているようだ。

 まぁウソップさんは初対面で私の不思議語を一拍置いてだろうと理解出来た読解力の高い人だから。

 

 ルフィはまだよく分かってないのか頭を捻っている。

 

「まぁ、そんな感じなのか?」

 

 あ、これダメですね。ルフィはルフィだ。

 

「とりあえずどうもしないだろ。俺達が何も言いふらさなけりゃ、だけど」

 

 フランキーさんはそう推定していた。チラリと合ってるかどうかの視線が寄せられたので少し考えてみて、私は素直にその言葉に頷いた。

 

 どうもしない、と言うよりどうすることも出来ない、だけど。

 

「う、うぅ……ぅ」

「起きたな」

「起きたみたいだな」

「おーい、大丈夫かー?」

「皆さん私の被害者に対する扱いが優しい過ぎませぬ?」

 

 なんだろう、この、一味に生まれている共通認識。

 

「おはようモリアさん!調子はいかが?」

 

 パチリと目が合ったので笑顔で話しかけた。悲鳴を上げられた。解せぬ。

 

「リィン、これ以上モリアをいじめてやるな!」

「む、麦わら……!」

「何かがおかしい気がするです。絶対おかしい!」

 

 モリアを庇うように立つルフィの姿と、それを擁護するような一味の姿。モリア本人も私の船長を助けてくれたメシア風の視線で見ている。

 そいつが今回の小悪の根源なんですけど、と言っても無駄な気がしてきた。

 

「待ってこの格好すごく力入りづらい何これ怖い」

「海楼石付きです諦めるして」

「怖い!!!」

 

 ある程度落ち着くのを待ってみる。

 夜明けまでまだ時間があるみたいだし、海軍として七武海の称号剥奪は望まない事だろうから話でもするか。

 

「おま、お前ロギアか!」

「いや、違うです。間違いなく超人系(パラミシア)ですよ」

「じゃあなんで武器が突き抜けた!?」

 

 【私の体】を貫いたビビ様の攻撃。アラバスタで私が喰らった攻撃を参考にさせてもらったから、かなりびっくりしたと思う。アレの答えはとっても簡単。

 

「映像です」

「……映像?待て、俺は確かにアレと会話してたぞ!?」

「それ、本当に会話ですか?一方的に語りかけ、何度も繰り返し、不自然に時間が開きませぬでした?」

「…………確かに」

 

 ウソップさんに持たせた映像貝(ピクチャーダイアル)に元々演技をした私の姿を投影させていた。普通に透けてしまうけど、スリラーバークの薄暗く視界の悪い場所なら誤魔化しようが聞くと思ったからだ。あと透けてると気付いても絶対怖い。

 

「じゃあ複数の場所から声がしたのも」

「私の声を録音した物を仲間に持たせるして物陰に」

 

 非戦闘員であるビビ様やナミさん、それとチョッパー君とメリー号に複数の声を担当してもらった。音貝(トーンダイアル)とっても助かりました。ホント、使い方次第であのくぐもった音とか雰囲気出せるね。

 私がやられる立場だと一瞬にして気絶するクオリティ。

 お化け屋敷はお化けになるからこそ面白い。

 

「は、そうだ!あの赤黒い霧は」

「毒じゃないですのでご安心を。ただの香辛料の霧です。トウガラカラシってやつの」

「あの目玉は、一体どこから手に……」

「我が一味のコック作、食べれるゼラチン目玉です。ハロウィンの際出ますた!美味しかったです」

 

 そこまで笑顔で答え続けるとモリアは見るからに脱力した。

 

「なんで俺はそんな……子供騙しに……」

「それも仕方ないと思いますよ?あのスラッシャーにはメスカルサボテンという幻覚作用ぞある植物を塗りますた故に。まぁ、少ししか所持すてないので思考能力低下程しかありませんですたが」

 

 最早何も言わなくなってしまった。

 

 

「……お前、やっぱり最低だわ」

 

 ゾンビ討伐に参加していた方々を代表してゾロさんがしみじみと発言する。

 

 モリアさん、悪人が相手にするのは善人とは限らないんだよ。

 




エニエスロビーのシリアス続きの反動がドンドンやってくる。モリアをこんな、我ながら酷い倒し方した人っているのだろうか。
無傷の勝利。本気出したリィンは苦手分野をも活用する。

陰キャモリア君。引きこもりというか、仲良すぎる七武海の輪に入れなくて元々SAN値ガリガリ削れてたんですよ。アーメン。

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