2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第200話 人を呪えば落とし穴

 

「モリアぶっ飛ばしてはないけど、影取り返したし、これでブルックは俺達の仲間だな!」

「あれ!? そんな約束ですたっけ!?」

 

 モリアにやり返すことばかり考えていて勝利後の話をド忘れしていた。あかんこれ死ぬ。

 

「嫌です無理ですぅ!」

「……リィンさん、嫌がりますねー。私自身は嫌われてない様ですけどこの見た目が圧倒的にダメですねー」

「そうですよ!? 当たり前では無きです!? ずっとおじいちゃん辺りぞ思うしたら、まさかの骸骨!」

 

 折角影を取り戻したのにホラーがこれからついて回るとか考えるだけでゴリゴリ精神がやられる。

 

「諦めろ、リー!」

 

 嬉しそうにルフィが私の肩を叩く。辛い。

 約束は約束、口約束程度じゃなくて海賊旗を掛けた約束だ。

 

 思わず頭抱えた。

 

「……ブルックさん」

「なんでしょうか」

「……私、失礼な反応ばかりだと思うです」

「そうでしょうね、しかしながら当然の反応だと思いますよ?ヨホッ」

 

 ブラックさんは私の失礼な態度や反応すら大人の余裕で流してくれる。すっごく良い人だって分かってる。

 

「頑張るです」

「これからよろしくお願いしますね、リィンさん」

 

 私が大人にならざるを得ない。努力はしよう、努力は。

 

 この島で少しだけ時間を取って休息をするべきだな、ゾンビは居ないけど死体はあるので場所にだけ気を付けて。

 もう少しで夜が明けそうだからめちゃくちゃ眠たいんだけど。

 

 

 

 

『──なるほどな、悪い予感が的中したというわけか』

 

 

 突如聞こえた電伝虫を通した老人の声。

 何も気配が無かったのに現れた何者かを皆が視界に入れた。

 

 

「え……」

 

 

「その様で」

『まだクロコダイルの後任が決まらんと言うのに、また一つ七武海に穴を空けるのはマズい』

 

 モリアと変わらない程の巨体。上半身の大きな体には独特の模様が描かれていて、手にはその能力の不用意な発動を阻止する為の茶色い革手袋。聖書を片手に〝暴君〟と呼ばれている男はこちらを一瞥した。

 

『そう次々と落ちてもらっては七武海の名が威厳を失う』

 

 ……ごめんなさい。海軍内で威厳は無に等しい事が知られてるんですけどね。

 

「バーソロミュー・くま!」

 

 モリアが思わずと言った様子で声を荒らげる。それに気付いた電伝虫の人物はくまさんに質問をした。

 

『まだ息はある様だな』

「えぇ、息は。傷も無い。ただ──」

 

 

 

「亀甲縛りで体に落書きされた姿を無事と言っていいのかは微妙ですが」

「いっそ殺せ!」

 

 同僚に見られたという羞恥心からモリアが泣き出した。

 

『……これはモリアの敗北ととって良いのか?』

「完全敗北ではある」

「何しに来たんだよテメェは! トドメか! トドメを刺しに来たのか! なら早いとこ殺してくれ!」

 

 泣き喚くモリアは完全にスルーされている。

 どうする、こんなにも早く政府へと情報が伝わるとは思わなかった。とんずらする時間くらいはあるもんだと。

 

 くまさんは微妙に話が通じない所がある。それは頭の出来とかじゃなくて、根本的に私と捉え方が違うからだ。

 

 

 だってあの人、ズレてんだもん!

 

『そうか、なら私の言いたいことは分かるな』

「あァ」

 

 まずいまずい、まずい!

 ここでモリアが敗北したと取られると残る道は抹殺一択。だって七武海の評価を落とすわけにはいかないんだから!

 

『世界政府より特命を下す……! モリアの敗北を知る麦わらの一味を抹さ──』

「ちょっと待ったァァァァ!」

 

 大声を出して電伝虫の言葉を遮る。下されない内に訂正させてもらおうじゃないか!

 

 狙い通り、言葉は止まった。

 ルフィ達を殺される訳にはいかない。個人的にも、組織的にも!

 

『……くま』

「あァ」

 

 なんの音もなく、くまさんが目の前に移動して来た。弾くことによる高速移動。

 ……何年も見てきたら大体慣れてくる。

 

『麦わらの一味の、堕天使だな』

 

 会話する気はあるってことか。

 多分これ世界政府じゃなくて更に上の五老星なのでは?

 

「……リィン」

 

 くまさんが私の名を呼び、電伝虫の乗った手を伸ばしてきた。その事に後ろはざわついた。

 でも若干想像してたんじゃないでしょうか。

 

 だって七武海だよ?

 

 私は差し出された手の上に乗ると、その上にある電伝虫に語りかけた。

 

 ……くまさんとは体格差の言葉で終わらせてはいけないほどの差があるので会話する時は手のひらの上が定位置なのだ。ことある事に小さい小さい連呼されるけど。

 

 

 

「忙しき身にお時間を取らせるのもどうかと思うですので、単刀直入に言うさせて頂きます」

 

 海賊の私が言うということは皮肉にしかならないだろう。無駄に喧嘩売ってる様にしか思えない。ただ、海軍大将としてはマジで時間取らせてる事になるから言う。

 

 両視点で見て大丈夫そうなら私は自分の胃の安全を優先するよ。

 

「私達を殺すだけの口封じは全く無意味です」

『なんだと……!?』

 

 電伝虫の先で驚く声がする。

 

「細かくお話しましょうか?」

『……海賊の言うことは信用ならない。お前の思う事全て話せ』

 

 真剣な表情のまま手だけで麦わらの一味にサムズアップする。どうやら上手く流れに乗せれた様だ、というアピールで。

 多分相手は潜入中の大将という肩書きから頷いてくれるはず。

 

「まず、モリアの能力ですが。影を操るというもの。そしてその影の持ち主は、太陽の光を浴びるが不可能。そして私達も同じ目に遭い、気絶と同時に奪い返すしました」

『……なるほどな』

「はい。つまりモリアの敗北を知るのは私達だけではなく、全世界中。海兵も役人も大勢いるでしょう。その影が戻ったことで『モリアが倒された』と──」

 

 私はニヤリと笑う。視界の端で一味が身を寄せ合う姿を捕捉した。

 

「──()()()する人がいる筈です」

 

 『影が戻る』=『モリアが意識を失う』という方程式がそこら中で起こっている。

 

 実際はモリアが気絶した時に影が戻ってくることは無かったし、ゾンビ討伐組の人達が頑張って塩撒いてくれたし、私もモリアが気絶してる最中に海水の雨を全力で降らせた。

 その意味を伝えない事は私の責任にして欲しくないからでもあるんだけど。

 

 だって私達が影を戻さなければモリアの敗北は世に知られなかった事になるし? 秘密裏に排除する事が楽になるじゃん? 黙っている方がいいよね! 都合のいい設定にモリアの能力を塗り替えればいいじゃない!

 

 

 政府にはお悔やみ申し上げる(皮肉)が。気絶による能力解除、という弱点を持っている能力者は結構な数だ。

 

 

『ほう?』

 

 電伝虫の先で感心した様な呟きがあった。

 

 そして倒される事が七武海の面子を保つのに不要ならば。

 別の理由にすり替えてしまえば良い。

 

 

 真実を知るのは麦わらの一味だけだ。

 

『そう勘違いする者がいるのは、また随分と厄介だな』

「でしょうともでしょうとも」

 

 ニッコリ笑顔で肯定する。

 気付いてもらえて嬉しい限りでございます。

 

 モリアの能力解除は気絶だ、という認識だけでは終わらせない。後始末で大事なのは何故気絶したのか、だ。

 

「モリアは『海難事故』だと思われるしていた海賊と戦うしたのでしょうね。水面下で影を集めて」

 

 七武海を気絶させた相手が麦わらの一味という馬の骨であれば面子が保てないだろう。

 

「東出身の超新星(ルーキー)に? まさかまさか!」

『そうでないと辻褄が合わないなァ? 七武海の選定基準をクリアした者同士ならともかく』

 

 この会話で作られたシナリオはこうだ。

 海難事故で亡くなった筈のグラッジが実は生きていて、それを倒す為になりふり構ってられなかったモリアは多少の犠牲と共に兵を集めて対立した、と。しかも犠牲と言えど命は決して奪ってない。

 

 あァ、新たなヒーローの誕生だ。

 

「うふふ、ふふふ……!」

『はっ、ははは! アーッハッハッハ!』

 

 深夜テンションの私は電伝虫を挟んで相手と笑い合う。たったそれだけなのに私の仲間達は引いた表情で私を見つめてきた。おいモリア、お前もか。

 

「やっぱりお前は汚いな」

 

 くまさん、それ褒めてないから。

 

『…………それで、そう操作して貴様になんのメリットがある。政府に恩でも売るつもりか?』

「恩とは、売るものではありませぬ。いつ間にか買わされるものです」

 

 もう既に恩を買ってるんだよ、政府さん。

 

 朝日が昇って来て空が白けだした。霧が晴れている。スリラーバークに久しぶりに光が差し込んだのだろう。

 影もあるので消えることは無い。

 

 

「ねェ、その恩。ここで返すのもありでは?」

 

 つまりその案と身の安全を交換だ。もう既に貴方は私の話を聞いている、買っているんだからクーリングオフは出来ないぞ。

 

 この話に『海軍大将』のメリットは微塵も無い。だって海賊は逃がすより殺す方がいいじゃないか。政府から見るとそう思う。

 

『……何を企んでいる』

 

 当然怪しまれた。

 海賊を逃がそうとする行為は『海軍大将』にとって不利益。

 

「古代兵器」

『……くま、手を引け』

 

 CP9でも使えたこのマル秘テクニック。もしかしたら元CP9がチラリとでも報告している可能性がある。どんだけ古代兵器に飢えてるんだ世界政府。古代兵器復活阻止とか言っておきながら、古代兵器を誰にも渡さない様にしている。

 

 何も話すことが無いのか、話すのがマズいと感じたのか、真実は分からないがぶつりと音を立てて電伝虫が切られた。

 

 

「はぁぁぁあぁあぁ……」

 

 張り詰めていた緊張の糸が切れて脱力する。

 くまさんの手のひらの上だったが思わず横になった。

 

「ごめんですロビンさん、貴女の読解力を言い訳に使うしますた」

「いえ、別にいいのだけれど。あの石を読み解けるの私だけだし必然よね」

「……ロビンさん、私にアレの読み方教えてくれませぬ?」

「……かなり難しいけど大丈夫?」

「多分」

 

 私は生存確率上げるために頑張る。

 

「教えてあげるけど、あの文字の使い方は気を付けて。貴女だから教えるのよ」

「はいッ」

 

 歴史を知れば、確実に武器になる。知りすぎれば口封じとして消されるかもしれない。

 でも予感でしかないけど、絶対鍵になる。それこそルフィを海賊王にする為の。

 

 後情報屋としても役に立つ。

 

「リィン」

「なんですかーくまさんー」

「ピンクの髪の女を『旅行』させたんだが、お前の仲間では……」

「あ、大丈夫。麦わらの一味じゃないですね」

 

 私はくまさんの旅行を経験した事無いけどドフィさん曰く「空飛べるから面白味が無い」だった。絶対旅行しない。

 

「あっ」

 

 問答無用で旅行させられたドフィさんで思い出した。くまさんの能力は狙った所に飛ばせる能力だと言うことに。

 

「ッ!」

 

 浮かんだ案が私に都合よすぎて叫びそうになったが慌てて口を噤む。ここで派手な動きを見せたらバレてしまいそうだ。

 後ほどセンゴクさんに相談しよう。

 

「僕さ、もうリィンが怖いよ。何より誰よりリィンが怖い」

「おでも、おでもリィンがいちばん怖い! 何話してるのか俺には難しかったけど! 怖いのは分かった!」

 

 チョッパー君に抱きつかれたメリー号が海の様な冷ややかな目で私を見ていた。

 ニコ・ロビンが怪しげに笑ってるからチョッパー君はどうぞ虐められてください。

 

「人がこの場全員の生存に向けるして頑張ったというのに。解せぬぞ」

 

 くまさんの手のひらの上で腕を組み怒りの様子を見せると狙い通りウソップさんが竦み上がった。モリアの後ろに逃げる様に隠れた。

 

「……リィン、箒はどうした?」

「あー、実は壊れるして。気に入るしてたのですけどね」

 

 高さがあるので普段は箒で降りるのだが、それが無いのでくまさんが疑問を持った。

 

「ほう」

「……なんですか」

「いや、あの箒が壊れたかと思ってな」

 

 そう言えば強度的に高性能だった。

 何度か見たこともあるだろうし材木とか加工法を知ってたのかも。

 

 だってフェヒ爺と交換した時に入手した一本目は災害に巻き込まれた時に折れた。

 それからずっと二本目を愛用してたもんな。

 

「……遂に壊れたか。砲弾でもくらったか」

「さァ、気絶中に壊れるしてますた故に」

「…………それは、首の締め跡と関係が?」

「でしょうね」

 

 船酔いで吐く時に邪魔だから包帯は外していたけど、気絶中に負った一時声が出ない程締められた喉の怪我は誰か予想ついていたから。

 多分箒もそいつだ。裏切り者だ。カクだ。

 

 これで冤罪だったら逆恨みでしかないけど今更罪が1つ2つ増えた所でへこたれる様な男じゃないだろう。

 

「さぁてモリアさん。貴方はたった今命を救うされ名誉ある功績を手にしますた」

「鬼!」

「鬼畜!」

「堕天使!」

「人でなし!」

「ちょっと麦わらの一味黙るして」

 

 これから要求する事に大して察したウソップさんがブーイングを始めた。ギロりと睨むとまたモリアの後ろに戻った。弱い。

 

「財産、欲しいなっ」

 

 語尾にハートが付きそうな程甘ったるい声で溜め込んでるであろう宝を要求する。

 モリアは雨の代わりにトマトが振って地面から無数のゾンビが沸いてきた様な顔をした。

 

 トマト顔のまま停止しているので私は表情のベクトルを変え、呆れた表情で肩を竦めた。

 

「誠意を見せるしろ、誠意」

「誠意=物品!? なんだこの汚れた子供!」

「はー、これだからぼっちなのですよ」

「外道! 人の最大のトラウマを気軽にほじくり返す辺り間違いなく外道だ!」

 

 泣き叫ぶモリアの影からウソップさんがソロリと顔を出して疑問をぶつけてきた。

 

「とりあえず七武海の事は置いておいて。わざわざ海水降らせて多分全部の影を取り戻したのになんで言わなかったんだ?」

「逆恨み防止ですよ。世間に知るされると不味い事をわざわざ助長させるした私達の行為を、普通許しますか? おのれ余計な真似を……! ってなりませぬ?」

「あー、確かに」

「……これが狙撃王か」

 

 左様ですよー。と思いながら私は解説を続ける。

 

「私達が生き延びる為には、くまさんに命令させぬ様にする他無い。だから政府の後始末の方法を助言すたのです。殺せぬ理由というのを作り出すしたうえで」

 

 古代兵器という理由さえあればどうにかなる。だから、世間に知られた事を『仕方ない事だ』という感情で終わらせた。たった十人程度の海賊を潰しただけで事態が収束するならそれでも良いが、仕方なく、世間に知れ渡ってしまっている。

 

「その事に気付くした以上、私に恩が出来ますたからねェ。この場では生かす方が得だと思うしたのでしょう」

「うっわ、お前ホント考える事が悪役」

「海賊が悪役で何が悪きぞ!」

 

 フハハハハ! と高笑いをする。私は悪役だよ、とっても性格の悪い悪『役』だ。演技はこれでも得意な方でして。

 

「じゃあ俺も聞いていい? そいつとの関係は?」

 

 サンジ様がくまさんを指差した。私達はお互い顔を見合わせて、形容し難い関係なのだと初めて気付く。青い鳥(ブルーバード)としてなら取引相手なのだが、七武海と雑用としてならほぼ関係が無い。

 

「茶飲み仲間?」

「そうか?」

「飲みませぬね、特に。出席率も下の方だから普通ですたし」

「……的を射ている」

 

 首を傾げまくった。

 

「あいつが例の黒足か」

「あァ、やはりその色は嫌がらせですたか」

「さァ、だが」

 

 くまさんはサンジ様を見て、さらに視線をビビ様に移す。なんですかその胃を痛める為にある様な視線は。

 

「そいつらの父親はやはり子供に甘い。遺伝だな」

 

 楽しそうに笑っていた。

 

「ちょ、ちょちょちょちょ、まつして、今聞く耳排除勧告ぞ不可な事が耳に侵入を許すしたぞ!?」

「もうそろそろ告げるタイミングが無くなりそうだから言うが」

「何トイレ直行ぞ程度の覚悟っぽく推定の重大発表するつもりです!?」

 

「──ソルベ王国の元国王だ」

 

 パキリ、と体が固まった音がした。

 

 なんで? 私が王族苦手だってわかってるよね?

 ドフィさんでギリギリ許容範囲内って所だったんだよ?

 

 なんで追い討ち仕掛けるように告げた? なんでわざわざサンジ様の正体がバレそうな発言をかました? 衝撃の展開過ぎて皆気づいて無いみたいだけどさぁ?

 

 くまさんが?

 国王? 元であろうと? 国王? 王子とか王女とかそういうレベルじゃなくて退位した国王? 国の1番上?

 

 私が乗っている手の持ち主が?

 

 

「モッ」

「も?」

 

「モンキー・D・ドラゴンの馬鹿野郎ッ!」

 

 よくわかんないけど大変だな、と笑うモンキー家の慰めを受けて、この世の悪は間違いなくモンキー家だと確信した瞬間だった。

 ここまで来れば流石に貴族までとは言わない、せめて王族だけはやめてくれ。

 




モリアの影は不思議色の覇気で元通りになりました。
海難事故は世の中に溢れているのです、失われた命を有効活用しない手は無いでしょう。和睦です。和睦をするのです。それが世界を守る1歩です。助け合うのです。

はい、つーことでここでスリラーバーク編終わります。驚きの短さ。
どうせ皆さんもうそろそろあの人に会いたいんじゃない? クハクハ笑う例のあの人。

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