2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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ストロングワールド編
第201話 歴史を知らぬ者


 

 それはあまりにも冒涜的な出来事であった。

 その出来事を本部の天守から見下ろしていた海軍元帥は小さな声で「いかれとる」と文句をこぼした。

 

 

 

 史上ただ1人、偉大なる航路(グランドライン)を制覇し海賊王となった男、ゴール・D・ロジャー。

 

 今から25年前、彼らは一船で海賊艦隊と戦った。結果は悪天候と舵輪が敵の頭に刺さり抜けなくなるという不慮の事故の為、痛み分けとなり戦いは集結した。

 

 その敵こそ〝金獅子〟と呼ばれる者。

 海賊艦隊提督とも呼ばれ、海賊王並びに白ひげやビックマムと覇権争いをし、当時の四皇とも言える立場に君臨していた男。

 

 名を、シキ。

 

 フワフワの実の浮遊人間だ。

 

 ロジャーが海軍に捕まったということを聞いたシキは彼を殺すべく、激情のままに単身海軍本部に乗り込んだ。その際シキを止めようとするセンゴクとガープと戦闘となり、マリンフォードを半壊させるほどの激闘の末に敗北。

 

 インペルダウンに投獄されていた。20年前までは。

 

 そう、彼はインペルダウンから脱獄したのだ。史上初の脱獄犯。

 彼はずっと身を潜め、伝説としてその名を残していた。

 

 残しているだけでよかったというのに。

 

 

『──流石にエッド・ウォー海戦は歴史として知るしてますが!』

 

 電伝虫の先でさもイライラしてますと言いたげな荒れた声が発せられる。しかしセンゴクはよく分かっていた、これはストレスによる胃痛を察知した時の声だと言う事を。

 知将、海軍元帥〝仏のセンゴク〟はニヤリと笑う。

 

「喜べ、早速麦わらの一味を利用する機会が出来た」

 

 電伝虫が表情を変えた。

 形容するならこうだろう、なんてことを言い出してくれてるんだこんちくしょう泣きそう胃が痛い聞きたくない。

 

「シキは巨大な岩、おそらく島を移動手段として使っている。能力は非常に厄介で現在海軍本部も強大な打撃を受けて──」

『センゴクさんセンゴクさん』

 

 泣きそうな顔をした電伝虫が己の名を堂々と呼ぶ姿に思わず首を傾げる。

 

『現在麦わらの一味、その島の群集にてバラバラです』

「お前の災厄が私にとって都合良すぎて拍手を送りたい」

『航海士連れ去るんじゃねーよ舵輪野郎ッ!』

 

 バキバキと木を破壊される音と泣き叫ぶ部下の声をトンチキな姿をした電伝虫から聞いて、センゴクは想像以上の愉快さに声を出して笑っていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「美味しく、なきですーーーーッ!」

 

 起伏の激しい空飛ぶ島々の一つ、私は1人孤独に猛獣から逃げ惑っていた。鰐は、鰐だけは来るな!

 

『ハッハッハッハ!』

 

 寂しさと同時に緊張感をも四散させるセンゴクさんの笑い声を聞きイラッとする。他人事だと思って笑い事にしやがっ…──ひぃい! ちょっと待って見つかった!

 

『空を飛ぶのは得意技だろう!』

「箒!破壊中!CP9の1人が壊すしますた!」

『アッハッハッハッハッ!』

 

 何が面白いのかずっと笑っている。

 ちくしょう! 余裕綽々で見学に回りやがって!

 

 木の幹に隠れても壊される。撒いたと思えば別のところから別の怪物がやってくる。

 無限ループって……怖くね?

 

「うあああっ!」

 

 飛べない逃げれない。HAHAHA、この島から脱出不可能ってわけですか。とんだツンデレだな、ツンデレ。詰んだ出れない。そして笑いながら報告をしてくるセンゴクさんの話も聞かなければならないという。

 

『──以上が海軍本部での被害状況だ』

「隠し切れない笑いが殺意を誘う」

『その殺意は全力で金獅子に向けておけ』

「現時点の麦わらの一味ではレベルが高過ぎるのですよ! せめてもっと修行期間などを設けるしてからにすて!」

 

 電伝虫の先でセンゴクさんがハッとした表情に変わる。

 

『その件で何かいい案が思い付いたか?』

 

 題して麦わらの一味強化作戦。

 センゴクさんと私で計画中なのだが、2代目海賊王を操り人形にして正義で解決出来ないことを物理的に解決してもらおうという長期作戦の1部だ。

 

 麦わらの一味は潜在能力や才能はピカイチ、しかし今の麦わらの一味では新世界を渡ることは不可能。だからこその強化作戦。

 

「ちょっと面倒臭いですけど浮かぶましたよ」

 

 やってきた虎を不思議色で吹き飛ばす。ミズミズの能力の再現だ。

 ……やっぱり技名考えた方がいいのかな。〝再現ミズミズ!〟とか。

 

 いや、うん、恥ずかしい上に手がモロバレだ。

 

『一味はバラバラに強化した方が依存度も低くていいぞ』

「都合いい方がいるでしたよッ」

 

 バトルロイヤルな島で1週間、私は獣の気配が無いであろう木々の間に入り込む。サバイバルは得意じゃないので休憩しつつじゃないと辛い。

 

「はーー……」

 

 大きく息を吐いて呼吸を整える。作戦の説明ついでに状況整理もしておこう私の為に。

 

 私達が居るのは空の島。と言っても空島というわけじゃなく、シキの能力で浮かぶ気候も大きさも全てバラバラな無数の島々が雲の高さで浮遊している奇っ怪な場所だ。

 

 

  時を遡る事、3日。

 東の海(イーストブルー)で街が次々壊滅してしまうという新聞を見ていた頃だった。浮かぶ島が通りかかった。

 

 その時ナミさんがサイクロンが来ると天候を予見した。親切心をルフィが出さなければ、きっと何事もなく過ごすことが出来ただろう。

 

 サイクロンから避ける事が出来ても厄介事から避ける事は出来ない様で、ナミさんが攫われてしまったのだ。

 咄嗟のことで、飛行も出来ない私に船を浮かばせる『イメージと集中力』は無かった為、メルヴィユと呼ばれた空中群島にバラバラの状態で墜落したのだ。

 

「四六時中集中しっぱなしでしんどいです」

『なるほどな、その状態なら電伝虫も難しかっただろう』

「1人ゆえに堂々とこうして作戦を話すしたりするが可能なのは助かるですけどォ……。ハー、これからシキ討伐、ですか」

『地上からの援軍は流石に無理だぞ』

「それなのですよねぇ」

 

 この群島に居る人物で倒さなければならない。

 ということは最早麦わらの一味の力だけで、ということだ。

 

「フー、合流が先ですかね」

『いや、麦わらの一味の生命力は優れているのだろう?』

 

 確かに優れている、と考えながら返事をした。

 

 質問の意図を考えてみる。

 嫌な、予感がした。

 

「──ま、まさか。単独潜入……」

『海賊王関連の話題は食いつくぞ』

「……はい」

 

 ここまで来ると抵抗する方が疲れるだろう。感情を表に出さないが、センゴクさんは海軍本部の襲撃……いや、通り魔に大分腹が立っている様子だ。前時代の遺物を大海賊時代でのさぼらせる事はまずしたくないだろう私だってそうだもん伝説相手にするとか。

 なんの為に表舞台に出てきたのか分からないが、何か企んでいる事は確かだ。

 

「シキ、ね。何か攻略法とか無いのですか?」

『当時どうやってシキを確保したと思っている。敵陣に考え無しで突っ込んできたのを私とガープで叩いたんだ。あるわけがなかろう』

「えぇ!? じゃあ動揺を誘うとかその様な」

『あー……? ロジャー以外浮かばんな……。なんせやつは支配、ロジャーは自由と全く海賊としての方向性が違っていたからな。エッド・ウォー海戦とて、原因は方向性の違いによる衝突だ』

「そんな駆け出し中のバンドマンの様な言い方をせずとも」

 

 ガキ扱いに思わず肩の力が抜けた。

 センゴクさんってホント海賊に関してある意味辛辣な物言いをするよね。センゴクさんが気に入る海賊とか居たら見てみたい。

 

「センゴクさん好きな海賊とかおらぬのです?」

『いるわけが無いだろう。サカズキと違ってお前の親であるカナエにも…──』

「聞き捨てならない言葉が聞こえた様な気がするのですけどサカズキさんがカナエさんに対してどういうことです!?」

『──居たな、ロジャー以外に興味を示した物が』

「セーンゴークさーーんっ!」

 

 マイペース元帥。ちょっと歴史を知らない若者に分かりやすい説明はしてくれないのだろうか。

 私海軍に来てまだ10年しか経ってないんだ。早熟(転生)童顔(役作り)なせいで見た目と年齢と精神で段階的に差があるけど時間的な概念では若輩者なんだよ。気付いてこの気持ち。

 

 私、大海賊時代生まれ。それ以前(ロックスせだい)とか全然わかんない。

 

『カナエで思い出した。〝幻〟を随分気にしてたな』

「……頭は」

『無事だ、どいつもこいつもな。──幻というのは私も1度しか会ったことが無いがロジャー海賊団の1人、だと思う』

「……思う」

『推定だ推定。その男を気にしてたな。具体的に言うと会ってみたいのになんで会えないんだ、という……』

「子供」

『子供だな』

 

 結局使えた話題じゃない。一応青い鳥(ブルーバード)にも聞いてみるけど幻と呼ばれるくらいなら望みは薄いだろうなぁ。

 ほんとにあの世代どうなってんだろう。

 

 私達も後の世代で『どうなってんだよあの世代』とか言われるのかな、言われるな。どうなってんだよ私達の世代。新聞で1面飾る系の事件は全てルフィの同期だぞ。

 

 年齢はまぁルフィが圧倒的に若いけど。

 

「そういえば何も考えず日の出方面に向かうしますたけど獣の気配がしませぬね」

『獣避けでもあるのか? 落ち着くまでガヤガヤとしていただろう』

 

 ふと周囲を索敵してみる。

 周りの木々は奇妙な形をしていた。樹高は数メートルしかないのに幹がとても太く、先細りになった先端に茂る申し訳適度の葉。

 

 臭いがややキツい。薬品の様な臭いだ。

 

「……この樹、多分毒ですね」

『人間にも、か?』

「多分、推測の範囲ですけど。私にとって安全地帯ですねェ」

 

 電伝虫の先でセンゴクさんは微妙な表情をした。

 

「もしかして、っと」

 

 規則的に並べられた樹林帯を抜けると、予想していた通りの物が見えてやや嫌な気分になる。

 

「センゴクさん見つけますた。シキの、本拠地です。海賊船がそこらにあるので、恐らく……」

『あァ。十中八九、復讐に乗り出したのだろう。止めてくれ』

 

 シキの執着する物がロジャー海賊団の、海賊王の存在ならば。彼の生まれ故郷である東の海(イーストブルー)は、つい最近『村の壊滅』で新聞を彩っている。

 

 ここに関連性を見いだせない事はまず有り得ないだろう。もちろん前提として海賊王への執着を知らなければ無理だけど。

 

「虎視眈々とシキの命を狙ってる同士、居ないですかね」

『希望的観測はオススメしないぞ』

「ですよねぇ」

 

 酒場らしき所を出入りする海賊らしき人達は皆黒服でドレスコードがあるらしい。らしい、らしい、と推測ばかりで確証を持てないのが悔やまれる所だが、乗り込むしか敵内部の情報を集める方法は無いだろう。

 この過酷な環境に村といった外部的存在で情報が手に入るがのか分からない。

 

「冒険せねば宝は手に入らぬ。昔の偉い人も言うしてますたし、非常に残念ながら潜入は得意というね、悲しき」

 

 危ない海は渡れ。

 観測して渡る時間が無い私には雨風凌ぐ場所も欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ゼハハハハ、俺ァ随分運がいい様だ」

 




スタンピードは映画公開初日から行けて、さらにユニバのプレショにも行けて、と大興奮の状態なのですけど携帯無くしてます。自業自得すぎて悲しみ。

さぁさぁ、ストロングワールド編入りました!
構成を考えてみて、なんて面白味が無い改変にもならない章なのだろうとすごくガッカリしてたのでね、私ちょっとTNT埋め込んでみました。

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