2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第202話 黒と黒の睨み合い

 

 酒場の中は随分と活気に溢れかえっていた。

 

東の海(イーストブルー)の壊滅、世界転覆。4日後にデモンストレーションとして島唯一の村に怪物を送り込む。その後に復讐決行ってことかぁ」

 

 手に入れた情報をポツリと呟く。酒場の一角で人目を避けるように電伝虫を取り出してそれだけセンゴクさんに伝えると証拠隠滅として電伝虫をアイテムボックスにしまう。

 柱の影になっていて手元だけは誰からも見えない筈だ。

 

 

 麦わらの一味の雑用として先にここに着いたのだろうと予想している海賊達は、私に対して特に警戒する事も無くシキの計画を簡単に話してくれた。

 この島の怪物は確かに危険だ。東の海(イーストブルー)に放たれたら、きっと死者の数は跳ね上がる。

 

 

 もしも麦わらの一味を使えなかった時はこの情報をいち早く手に入れることが出来たセンゴクさんが4日の間で東の海(イーストブルー)に対策を設けることが出来るだろう。

 ……多分。

 

 そもそも情報を手に入れるだけならこうして簡単に出来たんだ。その上で未熟な麦わらの一味を戦力として伝説にぶつけるわけが分からない。

 

 海軍はシキの後処理で手が回ってないのか?

 それとも、何かにかかりっきりで割ける戦力が無い、とか?

 

 ……どっち道、センゴクさんが海兵を使えない理由があるのなら、潜入中の私に言いたくない事なのだろう。情報共有されてないということはそういう事だ。

 

 まァ何か考えがあっての事だろうから心配はしてない。

 どんな方向に転んでも平和の象徴である最弱の海、東の海(イーストブルー)を捨てる事だけはしないから。

 

 やっぱり潜入しだしてから海軍の情報を第一に集められなくなったから困るよ。その分海賊の一味に居るととんでもない情報が生み出されていくけど。

 はぁ〜〜〜〜〜! 嫌だなぁ〜〜〜〜! ここから動きたくないな〜〜〜!

 

「おい」

 

 顔色を変えずに嘆きながらジュースを飲んでいると声をかけられた。はいはいまた絡まれるのね。私が美少女でチョロそうだからってカモにはならないよ。なんせ転生してるから早熟してんだよ。

 振り返ると髭を生やしてみるからに下品そうなでっぷりとした体型の男がいた。

 

「久しぶりだなァ、ジャヤ以来か。船長はどうしたァ」

「……」

「……?」

「……」

「……お、おい?」

 

「……えっと、どちら様?」

 

 首を傾げたら男の後ろにいた仲間が大爆笑し始めた。

 

 ごめんなさい私の顔認識は壊れてるんだ。声すら覚えてないということは多分そこまで交流が無い人だと思うんだけど。

 それにジャヤって海賊のリゾート地じゃないですか。覚えてられるか。

 

「船長忘れられてんじゃねぇか」

「ゼハハハハ! まぁいい! 麦わらはどうした」

 

 私の船長が『麦わら』だと知っているって事か。なら麦わらの一味として会ったな。ジャヤに唯一行ったのは海賊の私だからそこまで迷う必要も無いし、下手に他の顔を見せるのは愚策か。

 

「迷子中です。あー、えっと、おたくは」

「おや?あなたもしかして『リィン』ですか?」

「え、はい、そう、ですけど」

 

 仲間の1人である細い男がシルクハットを上げながら聞いてきた。

 私も顔出しの賞金首、エニエス・ロビーの1件を麦わらの一味による暴動だとされて注目度が上がっている中だ。たとえ少ない額でも目はつけられる。

 

 覚悟してた事だけど知らない人に知られてる恐怖感凄い。

 

「──やはり!貴女がクロコダイル氏を貶めたという!」

「「まてまてまてまて」」

 

 船長さんと私の声が被った。

 

「ラフィットお前それどういう事だ? クロコダイルが倒れたのは懸賞金の上がり具合から麦わらだと思ってたんだが」

「それも正しいですよ船長。しかし私はドフラミンゴ氏の話した内容があまりにも悲惨過ぎて……」

 

 クロさんのロリコダイル放送の真実を知っている?

 それにドフィさんと繋がり、は無さそうだけど本人から聞く機会があったということ?

 

 頭混乱してきた。

 

 それにラフィットって名前をどっかで聞いた事あるような……。

 

「……ッ!く、ろひげ!?」

 

 椅子から瞬時に立ち去り距離を取って警戒する。

 髭面の船長さんは私の反応を見てニヤリと顔を歪めた。

 

「無名の筈の、俺を知っているのか……?」

 

 ラフィットは聖地マリージョアに侵入して新七武海に黒ひげを推した人物の名前。ということは彼が船長と崇めるこの男。

 

 元白ひげ海賊団の『ティーチ』だ。

 カナエさんが予知で警戒を促したティーチで、私が予知夢で警戒をしている黒ひげ。

 

「これは少し、話を聞かないとなァ?」

 

 ジリジリと迫りよる腕は闇を纏っていた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「…──それが何故こうなるのですかねぇ」

 

 予想外の展開に私は机に肘をついてため息を吐いていた。

 

 場所は黒ひげ海賊団の船である丸太の中、私が腰掛けた椅子の前に陣取る机には山盛りになったお菓子。

 

「丁重な扱い」

「ウィーッハッハッハ!この食いもんは船長のお気に入りだ!」

「じゃあ遠慮なく」

 

 くれると言う様子なので遠慮なくお菓子を摘む。毒を仕込まれたとしてもある程度なら余裕だろう。

 むしろ私に効く毒があるなら教えて欲しいです。インペルダウンのマゼラン署長かな……。今度頼んでみよう。

 

「さて、堕天使」

 

 ゼハゼハ笑いながら黒ひげは私の正面に座った。

 

「話と行こうか」

「その前に堕天使という名前は結構嫌い故に別で呼んでもらうしてもいいですか?」

 

 私の顔の区別として呼ばれるならまだしも、呼び名として呼ばれるのは心底腹が立つ。

 

「悪かったなァ、じゃあリィンと呼ばせてもらおう。俺もティーチでいい」

「ティーチ、さん」

「ゼハハハハ!」

 

 呼び捨てにするほど『仲良く』も無いし『敵対している』わけでも無い。まぁ、私は『黒ひげティーチ』を警戒していたし、私怨はあるね。

 要するに初めましてなのだ。事前情報最悪な。

 

「初めましてティーチさん。麦わらの一味雑用のリィンと言います」

「初めまして、俺はマーシャル・D・ティーチだ」

「どうやらお互い、己の想像以上に互いを知っている模様ですね」

 

 もぐもぐとお菓子を食べながらティーチさんを見る。

 彼は私と同じように甘い物を口にしながら私を見た。

 

「ティーチさんは、私の何を知っている? アラバスタの1件、そして800万程度の私に目をつけた」

 

 懸賞金は低いのに私を覚えていた。

 もしかして、この男が黒ひげなのだから、白ひげ海賊団でエースと兄妹だということを知っていたのかもしれない。

 

「まぁ待て、質問はこちらが先だ」

 

 ムッ、と出鼻をくじかれたことに顔を歪ませる。

 机のお菓子をひょいと口に入れた。

 

「リィンは海賊の事をなんだと思う?」

「海賊、を?」

「ゼェハハハハ! そうさ海賊だ! 海賊には色んなやつがいる!」

 

 海賊のあるべき姿。

 シキは支配、海賊王は自由。

 

 海賊がそうあるべきだとした信念の事を言っているのだろうか。

 

「私は……」

 

 正式に言うと海賊では無い。

 でも私は思い描く海賊の姿がある。海賊と言えば…──。

 

「クソ野郎、ですね」

「ほう?」

「裏切り、利用し、下品で、下劣。そして──馬鹿」

 

 私はもうひとつお菓子を食べてティーチさんの目を見た。

 

「馬鹿であることこそが、海賊。支配?自由?そうじゃない、馬鹿です」

 

 まともな判断をしているのなら犯罪者になんてならない。理性を蒸発させた末に、そうなった。

 

「冒険することも夢を追うことも、全て馬鹿だからできる。損得勘定とか全てひっくり返して馬鹿になるからこそ、海賊であると」

 

 ──私はそう思う。

 

 そう伝えるとティーチさんは嬉しそうに笑い出した。

 

「お前、俺の仲間になれ。お前の信念は俺の信念とよく似ている!共に世界をぶっ壊して馬鹿になろうぜ!」

「お断りします」

 

 私は笑う。

 

「ルフィを海賊王にすると決めたので」

 

 いい断り文句だと思う。海賊らしい理由なんじゃないだろうか。

 

「妬けるじゃねェか、そんなに兄がいいか、堕天使」

「言い方に気をつけぬと私の必殺技情報操作でお前をロリコンホモにするぞ」

 

 瞳孔を開いて見続けるとティーチさんではなくラフィットさんの方が頭を抱えた。それだけはやめてくださいと小さくブツブツと繰り返している。あの人に何があったんだろう。

 

「……待つして」

「ん?」

「ルフィとは血が繋がるしてない。見た目も似てない。なのに何故、兄妹だと分かるした……?」

 

 ティーチさんは数秒のタイムラグがあったが「エース隊長に聞いた事がある」と答えた。嘘は、多分ついてない。

 嘘はついてないけど真実を1部隠していると言ったところか。

 

「リィンお前、『馬鹿』じゃねェな?」

「十分馬鹿だと思うですけどね」

 

 遠回しな海賊じゃないだろうという指摘。

 ヒヤリとしたが私は表面上の返事しかしなかった。このままでは肯定してるも同然なので少し言葉を足す。

 

「…──血の掟を破るほどの馬鹿ではありませぬが」

 

 私は間違いなく、この場の誰一人にだって勝てやしない。

 ティーチさんは『七武海になる』という事を達成出来てない。

 

 何か目的があるはずだ。

 そう確信できる理由だって存在してる。

 

 

「あなた方、よく甘い物をそんなに取れますね」

 

 ラフィットさんが空気を変える様に机の上を見て呟いた。山盛りになっていたお菓子は私とティーチさんの手によって3分の2は無くなっていた。

 

「甘い物は正義では?」

「甘い物は別腹だろ」

 

 七武海の鷹の目、コミュ障ミホさんと同じような事を言うティーチさん。それはちょっと分かるけど、ここで出てくるお菓子めっちゃ美味しいんだから手が止まらない。

 

北の海(ノースブルー)の焼き菓子はやはり味が濃いですね」

「だろう、そこの美味いんだ」

「そういえばジャヤで食べたパイ美味しかったです。食べますた?」

「おいお前絶対俺の事覚えてねェだろ、目の前で麦わらに喧嘩売りながら50個持ち帰ったわ」

「……覚えてないですね」

「まぁいい、東の海(イースト)ではバラティエつー飯屋が美味かった」

「ハッハッハ! その店の副料理長が我が一味のコックですぞ!」

「なん、だと……!?」

 

 世界各地の美味しい所を語り合う。

 ここまで食の好みが合っている人物に会ったことが無い。

 

 ティーチさんが美味しいと言った所は間違いなく私の好みなので行ったこと無い所をメモしておこう。

 

「でもまぁアレだな、1番うまかったのはオヤジの所で食べた飯だったからなァ……」

「あァ……分かるます。サッチさんのご飯って美味しいですよねぇ」

「甘い物もとことんまで舌に合う」

「当時海兵だった私もこのまま海賊になろうか揺らぎますたもん」

「そういえばリィン、お前2回目に船に来た時女狐って名乗らなかったか?」

「えっ……。まさか信じているのです?」

 

 信じられない、と冷ややかな目で見るとティーチさんは鼻で笑った。流石に無い、と。

 あーーっぶねぇ。良かった良かった。信じられないよな、普通は。

 

「そのサッチさんを殺そうとしたティーチさんは馬鹿ですけど馬鹿じゃないですね」

「仕方ねぇ、この能力が欲しかったんだから」

 

 嫌味を混ぜて言ったのに全く気にしてないティーチさんは腕に闇を纏った。なんというか、惹き付けられる闇だ。

 

「それ、触れた時なんかゾワゾワしたのですけど」

「能力者の実体を引力で掴んだからな」

「……なるほど、能力無効化」

 

 1時間前の自分の判断に拍手を送りたい。

 あの手に掴まれた状態で『魔法』を使っていたらそれが能力じゃなくて覇気の1種だとバレてしまう所だった。

 

「それは確かに、欲しますね」

「トリッキーな能力ではあるから使いこなしにくいけどな。どうだ、これを聞いても仲間になる気は」

「無いですウザイ。そもそも私貴方嫌いですから」

「サッチ隊長を殺そうとしたから、か?」

 

 分かりきったことを聞いてくる。

 その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「まさか」

 

 私はティーチさんの予想通りに返事をした。

 

「裏切りは海賊の常套手段ですよね」

 

 彼が白ひげ海賊団に不義理を働こうと私は知ったこっちゃない。それ前提として程よい協力関係を築きあげれば御の字。

 いや、協力関係じゃない。互いが互いを利用し合う都合のいい共犯者だ。

 

 私は立ち上がってティーチさんの傍に行くと、その手を差し出した。

 

「私は東出身です。シキの野望は個人的に阻止したい。でも、麦わらの一味だけは力不足です」

「それで、俺達に協力を頼もうと……?」

「はい」

「俺は力を手に入れたいから()()()()()の傘下に加わろうとしているのに?」

 

 目的の為に人を殺そうとした事。欲しい物を手にする為にはルールすら破る点。都合のいい人間を贔屓して、都合のいい人間を利用する点。

 ティーチさんは私とそっくりだ。

 馬鹿になりきれないのに、根本的に馬鹿な所。裏切りや脅しですら正しい行為だと、己を正当化できる所。

 

「ハッ、()()()()()()を狙うお前が誰かの傘下に入るなんて、片腹痛いわ」

 

 ティーチさんは私が出会った中で1番海賊らしい海賊だ。

 

「……ゼハハハハハ!」

 

 

 

 個人、組織が同じ目的の為に手を組むことを同盟という。

 




何も話が進んでないのにこの話で決まったことはリィンと黒ひげ海賊団のいつ裏切られるか分からない信用すら出来ない同盟が結ばれたということだ!

リィンはエースが護送されたことを知らないしこれから戦争が起こることも知らない。それを黒ひげも分かっているから言わないでいる。

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