2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第203話 デュフフって笑えよ黒ひげ

 

 潜入と言っても時間は少なく、事前情報が少ない。

 だから興味を持たれる様な話題をして釣りをしようかと思ったが、まずシキが酒場に現れない。

 

「無駄に黒ひげ海賊団と交流するだけで終わるしている気がする」

「……あれだけカッコつけたのにな」

 

 布団の上で項垂れる私を微妙な表情で慰めるのは黒ひげ、ティーチさんだ。

 

「はぁーー、詰んだ」

「こればっかりはどうしようも無いからな」

 

 布団を抱きながらゴロゴロ転がって唸っていたが、ピタリと止まって椅子に座るティーチさんを見上げた。よく敵船で寛げる余裕があるな、と苦言を呈している。

 

 この船には現在私とティーチさんしかいない。

 一応長であるティーチさんと、どうやっても敵意を持っている麦わらの一味の私は下手に動くわけにはいかないのだ。

 

 ラフィットさんは本拠地を物理的に潜入して調査中。そして他の3人は酒場にて情報収集だ。

 

「ティーチさん達はさァ」

「ん?」

「なんで七武海になりたかったの?」

 

 視線が交差する。

 企みながら企みを探す油断のできない心理戦が常に起こる。

 

 私は黒ひげ海賊団にいる間、肉体的にリラックス出来たとしても精神的に全く気を抜けない。

 

 ……まぁ、こっちの方が楽なんだけど。

 

 サバイバルよりはずっとマシな状況だと考えてしまう事に我ながら麻痺してるな、と思う。

 

「貴方の狙いは何?」

「…………。随分、ハッキリ聞くんだな?それを聞く目的は?」

 

 盛大な煽り顔でティーチさんは私を見下ろす。

 私は目を閉じて息を吐いた。

 

「私は元々七武海のお茶汲み係で少なからず交流があった。彼らのことを好意的に思うしているから、危害が加えられぬか少し心配ぞ。七武海になる理由が『七武海の権力』か『七武海の人』のどちらかだと……。………。」

 

 私は思わず布団に丸まった。

 

「内密に頼むぞ」

「ぜハハハッ!随分惚れ込んでいるようだな!」

「……もーーーっ!」

 

 布団からガバッと起き上がって私は怒りを顕にした。

 

「海賊になって偉大なる航路(グランドライン)突入後、すぐに七武海戦があったのですよ!?仲間に『七武海の事すきだよ』って言えますか普通!?しかも!仲間の1人は七武海の被害者!仲間は擁護!無理でしょう!?」

 

 ボブボブとクッションを殴りながら顔に熱が集まるのを実感する。ティーチさんは笑いながら机を叩く。

 

「馬鹿野郎〜〜〜っ!」

 

 限界だぁ、ともう一度布団に倒れ伏す。

 麦わらの一味への文句はブツブツと永遠に零せる気がする。

 

「……それで、なんで七武海になろうと?」

 

 チラリと視線を向けると大笑いしていたティーチさんは私にグイッと顔を近付けた。

 

「七武海はただの手段だ」

「答えになってない」

「ゼハハハハッ!」

 

 ティーチさんは再び大笑いしながら外へと向かった。多分仲間と合流するんだろう、ここは私に関わる余地は無いから逆鱗に触れない為にも布団の中に戻っていく。日付けが変わる前には眠りたいからね。

 

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

 布団の中に丸まって小さく舌打ちをする。中々ボロを出さないな。馬鹿を演じている天才、って感じがする。相手にするのがとても嫌だ。

 

 もちろん、私は七武海の事が大っ嫌いだし、ティーチさんに向けて言った言葉は全くの嘘だ。そして、ティーチさんは私が嘘をついたことに()()()()()()

 当然気付かせる様な、拙い演技をしたのだからその疑惑には辿り着くだろう。

 

 彼は思う筈だ。

 まだまだ未熟だ、と。自分の事を知りたがっているのは敵情視察か、と。

 

 敵情視察っちゃあ敵情視察だけど、私は『海賊の立場』から敵情視察したいんじゃなくて『海兵の立場』から敵情視察がしたいのだ。

 同業者に向けて隠した、としても。敵対者に向けて隠したわけじゃない。

 

「手強いなぁ……」

 

 私が嘘をついたからこそ、ティーチさんは海賊(わたし)の目的に気付いた筈。海賊(わたし)が知りたいのは、七武海の安否じゃなく、七武海が壊れるかどうか。

 だって私の目には酷い憎悪が映り込んでいた筈だから。

 

 ルフィを海賊王にしたい海賊(わたし)は、強大な敵(しちぶかい)の数が増えるか減るかが重要。ティーチさんが七武海になって、七武海と潰しあってくれるなら万々歳。

 

 黒ひげ海賊団の戦力が合計どの程度か。七武海をどれくらい潰せるのか。七武海を基準にして黒ひげ海賊団の戦力を確認する。

 七武海をよく知っている私なら観察できる。

 

 ルフィの敵は、早めに潰す。

 強大な敵は七武海以上のティーチさんなのかもしれ無いから。

 

 だから、実力を隠しておきたい、強さを隠しておきたいティーチさんはそれを隠した。

 七武海を手段だと言って。

 

 『遠回しな戦力確認』を上手に避けてみせたのだ。

 

 会話として表現するならこうだろう。

 

 『七武海好きー(嫌い)。大丈夫?七武海倒さない(倒せる程の実力持ってる)?』

 『七武海は手段として使いたいから知らなーい』

 

 うん、言い得て妙だな。

 

「……。」

 

 ただ、海兵(わたし)が知りたいのはその『手段』の方だ。

 

 七武海になってしようとした目的は、『七武海』にならなくても出来るのかどうかの確認。

 七武海になる事で起こす事柄(海軍にとって忌避すべき事)は、七武海になってない今でも出来るのかという。

 

 ──『七武海は()()()()()()

 

 他にも、手はあるという事ね。

 

 

 化かし合いでは私の方が少し上手だった様だ。

 これがおつるさんだったら海賊、海兵どちらの私の疑問を答えさせる事が出来たんだろうな。

 

 うん、まだまだ甘いという事。

 

 まぁ海兵(わたし)の知りたいことを探れただけ良い方か。二兎追うものは石ころ程度しか手に出来ないから。

 

 

「おやすみぃ」

 

 お次は『目的』を探ってみますか。直接的過ぎて探れるか分からないけど。

 いや、それよりシキに本腰入れた方がいいな。

 

 

 ちなみに独り言も聞かれている事前提だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ビビは遭難して約1週間、カルーとメリー号と共にあちこちを駆け回っていた。

 

「ッ、メリー君お願い!」

「了解だよ!」

 

 カルーに跨ったビビが縄を持ってメリー号を呼ぶ。そのメリー号は、ビビのもつ縄を腰に着けた状態で自分の体以上の木槌を軽々振り回して怪物の脳天を思いっきり潰した。

 

「よいっしょ!」

 

 しゅるりと木槌の大きさが小さくなる。それを確認したビビは縄を引っ張った。

 

「この作業、だいぶ慣れてきたね」

「メリー君がいて本当に良かったわ」

 

 カルーの背に戻ってきたメリー号がビビと笑い合う。

 

 メリー号は槌限定で大きさを変えることが出来る様なのだ、しかも本人に重さは関係ない。

 恐らくメリー号の元であるクラバウターマンが木槌を持っているからだろう。

 

 大きさを変化させるのは体力を使う上にほんの数秒。それでも1週間、このでこぼこトリオが生き延びたのはメリー号特有の能力に気付いたからだった。

 

 

「メリー君!あれ、町じゃないかしら!」

「うんっ、多分そうだよ!」

 

 不思議な形をした木に囲まれた集落を発見し、笑顔を見せるビビとメリー号。しかしカルーは嫌そうに顔を歪める。

 

「ぐえぇっ」

 

 チョッパー程ではないにしろ、カルーは人間より嗅覚は優れている。

 苦しそうに唸り声を上げるも覚悟を決めて飛び込んだ。

 

 生物にとって有害な成分を放つ木の元へ。

 

 

 

「ビビ、でっかい電伝虫がいるよ。多分見つかるのダメだと思う」

「そうね……。隠れながら、どこか休める場所を探しましょう。皆も見つけないといけないし」

 

 貧しい村の様だった。

 ビビは奥歯をギリリと噛み締める。

 

 王女として、人の上に立つ者として、少し観察しただけでもこの村の生活水準が低いことが分かる。それは文明や文化ではなく、人為的に。若い人手が無いことから虐げられた村なのだとハッキリ分かる。

 

「(人の命は……道具では無いのに…!)」

 

 悔しいと今嘆いても何も変わらない。

 そのために自分は考える頭があり、動ける足があり、話せる口があるのだ。海に出て、強くなると決めた。

 

 こんな、無茶苦茶なおままごとで悲しむ人々が少しでも減るように。海賊である以前にビビは王女なのだから。

 

 

 物陰に隠れて電伝虫をやり過ごした2人と1匹はふぅと無意識の内に緊張で止まっていた息を吐く。

 

「最近流行りの下剋上がこんなにも大変だなんて思わなかったよ」

「さいきんはやり」

「僕人間には疎いけど、すっとこどっこい七武海とか奇天烈政府が僕らより上だったのは分かるよ?」

「ふ、普通に七武海と政府じゃダメなのかしら。その語彙はどこから手に入れたの?」

「リィン!」

「……ちょっとそんな気はしてたわ」

 

 リアル災厄は居なくても影響を与えるのである。幼馴染はため息の代わりに苦笑いを零した。おまいう案件(ブーメラン)に気付かぬまま。

 

「あれ?ビビ?」

 

 聞きなれた声が突然耳に入り、それぞれが顔を上げた。逆光に思わず目を細めたが、その声に、顔に、ビビは『彼が居れば絶対大丈夫』だと確信した。

 

「いやー、良かった!3人とも無事だったんだな!」

「ちょっとルフィ、早く中に入……ってビビ!良かった、カルーとメリーも一緒なのね」

 

 そして彼に続き顔を見せたのは攫われていたはずのナミだった。

 

「ルフィさん!それにナミさんも!」

「話は後よ、とりあえず建物の中に入りましょう」

 

 仲間と合流出来た彼女達は安堵の息を吐いて、ルフィに続き民家に入っていく。その姿をこっそり電伝虫は捉えていた。

 

 

「ビビちゃん!無事だっだねぇ!」

 

 シャオという名前の少女を助けたゾロとチョッパーが転がり込んだ家で一味の半数以上が集う。それもそうだろう、この村は唯一の村だ。

 

「居ないのは……あっ、どうしよう安心してる」

 

 ウソップの言葉に全員はこの場に居ない面子の顔を思い浮かべる。

 

 ロビン、フランキー、ブルックという良識と知恵を持つアダルトリオ。そして単独行動が得意なリィンだ。1人にさせてはならない面子はこの場に揃っている。

 この4人であれば、それぞれがバラけていても、誰かと組み合わされても問題はあるまい。

 

「……ひとまず何も知らないビビ達のためにも情報整理をするわ」

 

 ナミの一声で視線は全て集まる。

 1週間サバイバルしかしてこなかったビビにとってはありがたい話だ。

 

「ここは空飛ぶ群集島メルヴィユ、それとダフトグリーンって言う不思議な木に守られたこの村は唯一の村」

「じゃあ先にダフトグリーンだけど、この樹木は毒だ。もちろん人間にも毒なんだけど、カルーとビリーは特に気を付けてくれ」

 

 クエッ、というカルーの鳴き声に続き、聞きなれない鳴き声が続いた。カルーと同じくらいのサイズで、カモとクジャクの特徴を持った黄色い鳥だ。一体この生物は何者なのだろうか。

 ビビが首を傾げているのに気づいたナミは苦笑いで説明を加えた。

 

「ビリーはシキの所で生み出されたクリーチャーよ。脱出する時に助けてくれたの」

「そうなのね、ビリーさんありがとう」

「クォ〜〜〜!」

 

 誇らしげに鳴くビリーにカルーが先輩風を吹かせてクエクエと会話をしている。頷き返すビリーもビリー、人間じみている。

 

「このダフトグリーンによってかかる病がダフト。毒だからな」

「トニー君、それは治せないのかしら」

「一応治せるさ。I.Qって言う花が特効薬の原料らしい。でも、それは」

「……もしかして、シキが独占している?」

 

 ビビの指摘にナミは首を横に振った。

 

「それだけならいいんだけど、あんた達外にいる怪物……クリーチャーに遭ったでしょう?」

「えぇ、デタラメな強さを持った生物達ね。メリー君が居なければタダじゃ済まなかったわ」

「I.QはS.I.Qという、生物を凶暴化させる薬品に使われているの。つまり外にいるクリーチャーはシキの手によって生み出された化け物なのよ」

 

 シキはこんな怪物を生み出して何を目的としているのだろうか。これはナミにも分からない事だった。

 

「ルフィ、どうする」

 

 沈黙を保っていたゾロが船長に意見を仰いだ。

 

 腕を組んでルフィは少し考える。

 

「シャオはゾロ達を助けてくれた恩人だ。困ってるなら助けてやりたい。でも、相手は海賊王のライバルだった奴、なんだよな?」

「まァ、結局どうであろうと強い。それは違いない」

 

 ルフィは正直な気持ちを吐き出した。

 

「俺じゃ、まず勝てない」

 

 ビビはその言葉に思わず息を飲んだ。しかしどうだろう、ゾロもナミも、ウソップもサンジも、その顔に不安の色は無かった。

 

「俺たちは負け越しだ。負けて、負けて、負けて。それでもまだ誰一人欠けることなく生きてる」

 

 ルフィはちらりとメリー号に視線を寄せて二カリと笑った。欠けてない、1人として。

 

「でも、俺たちなら、勝てる」

 

 その目には絶対的な自信があった。

 

「まぁ俺考えるの苦手だから諦めない事しか出来ないんだけどな!」

 

 あっけらかんと笑い出したルフィにナミはゴツンと頭を叩いた。仕方ないとばかりに苦笑いを浮かべている。

 

「あんたの出来ないことは私達が補うんでしょ、船長」

「そうだぜ船長。いつだったかお前言ってただろ、俺に出来ることは敵をぶん殴ることだって」

 

 ウソップがからかうようにルフィと肩を組む。ビビにとっては知らない話だ。

 

「そもそも、ルフィは勝てるはずない敵に勝ってきた。弱気になるなよ、船長。あんたには強い仲間が着いてんだからよ」

「別に弱気になってねーよー!」

「どーだか」

「ま、どうでもいいな。ルフィならやれるだろ」

 

「(やっぱり、凄いなぁ)」

 

 ビビもこの一味に入って長いが、やはりこの5人には特別な絆で結ばているような気がする。これが、麦わらの一味。

 東の海からやってきた未来の海賊王の一味。

 

 

「(これが、私の仲間)」

 

 左手をぎゅっと包み込む。

 見えないバツ印が勇気の源だ。

 

「勝とうね、ビビ」

「うん、ありがとうメリー君」

 

「ロビンかリィンが居れば違った作戦思い付くんだろうけど、私、提案があるの。──もう1回シキの所に戻ろうかなって」

 

 ナミの言葉を聞いて、あまりにも危険な作戦に一味は難色を示した。

 

 しかしルフィの分かったという一言に、ナミは笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

「……女狐が出てくるかもなァ」

 

 ルフィのちょっとした予想に、小さな狐はクシャミをしたという。

 




ぶっちゃけリィンと黒ひげの心理戦超楽しい。
シリアスになりきれてない感あるけどシリアス続くと発作が出るのでギャグという清涼剤を所々投入していきますぞ。

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