シキの膝元にある酒場で黒ひげティーチさんとつるんでいると声をかけたれた。
「あら、リィン?」
どう考えてもシキと敵対している麦わらの一味の私とティーチさんが一緒にいるのはいかにも敵対しますよと言っている様なものだが、まずは興味を持たれることだと疑惑の可能性を切り捨てた。
曰く、私が麦わらの一味に潜入している黒ひげの一味にすればいい。
まぁそれは指摘されればの場合だけども。古馴染みという点ではあながち間違いでは無い(白ひげ海賊団関連)ので表に出だした。
「……えっと」
私を呼び止める声のする方向に視界を向けると黒い艶髪をポニーテールにした女性がいた。ドレスコードを守っているわけではなく、ラフな服装の様だ。
彼女の連れに目を向ける。ガタイのいい水色の髪の男と骸骨……。
「あ、ロビンさんか」
「ちょっと待って、今私だって分かるのに時間かかったわね?」
ニコ・ロビンはナミさんと違ってありがちな特徴しかないもん。目鼻立ちの彫りが深いって言われてるの聞いた事あるけどそんな細かい違いが分かるわけない。
「仲間か」
「ここまで来ると私が迷子ですね」
ティーチさんの声掛けに返事をするとニコ・ロビンは腕を組んで値踏みするように私達を眺めた。
「……古参さん。まさかとは思うけど、1度とはいえど船長の首を狙った海賊に乗り換えたの……?」
ニッコリ笑顔で宣った。
隣にいたティーチさんの笑みが引き攣っている。
「あらあら新入りさん達御機嫌よう。ご存知無いかと思うですが私と船長は兄妹ですのでご安心を。それよりロビンさんの方が不安ですが。ねェ、悪魔の子」
「ふふっ、ご高説を賜り恐悦至極ね」
ニッコリ笑顔で言い返した。
隣にいたティーチさんの顔がすっごい引き攣っている。
「……お前らルフィが居ないと仲悪いのか」
「敵でしたからね」
「今でも敵だけどね」
物騒な言葉にフランキーさんがぎょっとする。ブルックさんもなんか反応してるけど私はそっちを見たくない。
「絶対こしあんの方が美味しいのに」
「つぶあんの食感の良さが分からないだなんて可哀想だわ」
敵対理由としての言い訳にフランキーさんがずっこけた。
「お前らホントは仲良いだろ」
呆れながらの指摘に私はニコ・ロビンを見る。つぶあんこしあんはブラフだ。
だからこそ嫌悪を顔に出した。
「……ちょっとむりですね」
「好み云々を除いて、私は彼女を麦わらの一味の異物としか見れないの」
「古参に向かって異物呼ばわり。はー、大体敵大将から乗り換えた女がもう一度乗り換えない保証が無いのでね。信頼どころか信用も出来ませんよ心では」
「裏で動く事が多くて信頼出来ないのよね。どこか一線引いて観察してるみたいで少し気味が悪いわ。命の危機に瀕するとすぐに仲間を売るタイプよ彼女は」
「自己紹介ですか?」
「生意気ね、堕天使ちゃん」
ニッコリ笑顔で遠慮なく言い合う。ニコ・ロビンこういった面で私の本質捉えて来るから嫌い。
嫌いだけどストレス発散にはなるんだよな。私は普段雑魚辺りの海賊のストレスを溜めさせてキレたところを盛大に落とし穴に嵌める方法しかストレスの発散法がなかったからなぁ。雑用時代から。もう周りにストレスの発生源しかなかったし。
そう考えると海賊万歳だね。ストレスも少なくてニコ・ロビン相手に発散出来て。
……転職しようかな。
ニコ・ロビンもストレス元だけど様々な業界のストレスと比べれば楽だと思うんだ私。逃亡生活できる位の伝手は作ったしなんなら手配書は脅す。
「ティーチさん別行動可?」
「かまやしねェが、一応戻って来いよ。去るにしても何にしても」
「はーい」
「……ラフィット、付いてろ」
信用ならねぇ。そんな心の声が聞こえた気がした。
はい、ぶっちゃけシキ討伐の共闘同盟組んでるけど気を配る必要性を一切感じないので何か決定しても何も言わないつもりでした。面倒臭い。
漁夫の利、って知ってるかい。
知ってんだろうなぁ、馬鹿になった天才だから。
「それで御三方、ルフィ達と会いますた?」
「いや、俺たちはバラけてからずっと一緒に居るが他のメンツとは会ってないな」
「海に落ちてないといいのだけど」
「物騒な事言うなよ」
ふーん。なるほどね。
まずは一味の合流が先、かと思っていたけどナミさん救出が先になりそう。
ちなみに人質に取られた場合全力で見捨てるつもりだから支障は無い。
「ここに唯一村がある様なので集まるにしてもこちらかあちらか、になるとは」
「ヨホホホ、それはそうですね。リィンさんはこちらにいらっしゃるつもりで?」
「空を飛べぬのが残念ですがここ以外に建物らしき物は無きよですぞ。まぁつまり、最終到達地点がここだと思うので行き違い防止で離れるつもりはありませんです」
「じゃあ俺達が動く方がいいな」
「ええ、そうして頂くしますと有難いです」
言い方が悪いのは分かってるけどお子さん達が居ないと話が楽。実用的で現実的。
「少なくとも現在サニー号には居ないという事が分かっているのでそれは共有を」
「あー、えっとリィンは個人で電伝虫持ってんだったか。高いのによく個人、しかもでかい奴手に入れたよな」
「雑用時代連絡手段が無いのは不便ですた故に」
「なるほどそれで。サニー号には電伝虫常備してありますもんね」
1日3回くらい念の為掛けてるけど重なった事がないので多分サニー号を拠点には置いてない。
これからどうしようかなー……。センゴクさんに聞いても弱点とか攻略法が無かったんだもん。海楼石とか海水を上手く使うしか出来ないか。一応もう一度聞いてみるかな、調べてくれてるだろうし。
「多分その村より黒ひげティーチさんの船の方が近いのでいざとなればそこを拠点に」
「待ってくださいウチはホイホイと敵を招くほど貞操観念緩くないんですけど」
「そんな処女みたいな事ぞ言うされても。ほら、協力。人間でしょ?」
「圧倒的な理不尽に既視感を覚える」
ラフィットさんそれ多分七武海。
まぁ言わずに黙っておこう。私にとっても地雷だ。
「んで、そいつらとはどんな関係だ? 少なくとも俺とブルックは初見……だよな?」
「へ?あ、はい、恐らく。有り得ませんし……」
何かを考えていたんだろう、フランキーさんの言葉にハッとしたブルックさんが肯定の意を示すが、ボソリと意味深な事を呟いた。けれど、彷徨っていた時間を含め会ったことは無いだろう。
「んー。方向性の一致ですかね」
「駆け出しのバンドマンみたいなこと言われてもよく分からないわ」
私は顎に手を当ててこれからのことを考える。
なんと説明したらいいか。
「古馴染み……?いやでも会ったことは無いですし……。とりあえず保護してもらった、が正解ですかね。目的はシキの親分に取り入るって意味で」
周囲に耳があるので言葉は取り繕う。寝首かこうとしている事は伝わるだろうし、この人達なら。
「そう。まぁルフィとシキの親分の力は雲泥の差だもの、ごく普通の判断よね」
「ええ。という事なので合流したらよろしくお願いしますです」
「仕方ないわね、分かったわ」
脳内変換の意味合いと速度が似ているニコ・ロビンとは言葉を取り繕ってもサクサクやり取りが進む。いやー、嫌いだわー。その分私が取り繕った他の事もほぼリアルタイムで理解出来てしまうんだから!
ニコ・ロビンは立ち上がって出口へと向かう。フランキーさんとブルックさんもそれに続こうとした。
「あ、そうだフランキーさん。これコーラ」
「……? なんで持ってんだ? しかもこれ炭酸抜けてねぇし」
フランキーさん加入からアイテムボックスにコーラは樽で常備している。なんでフランキーさんやサニー号の燃料はコーラなのか眠れないほど悩んだけど、ともかくコーラは流石に1週間近く経てば樽なので炭酸が抜けてしまう。
しかし私が取り出したのは瓶入りの炭酸が抜けてないコーラ。
「私実はナミさんの分野も得意なのです。身体ぞ勝手に動くと言うか」
「ナミ?」
「あぁ、そういうこと」
ニコ・ロビンは分かったみたいだが、ナミさんの本職は航海士だけど泥棒だという事は超新入りのフランキーさんとブルックさんには分かるまい。
私はドヤ顔で告げた。
「真っ当な犯罪行為で手に入れるした故に気にしないでください」
本日何度目かの引き攣った笑みを見た気がする。
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3人が去った後、ラフィットさんが潜入調査(物理)に戻った。私は黒ひげ海賊団に戻る間の空いた僅かな時間でセンゴクさんに連絡を入れた。
『おかき』
「あられ」
『状況はどうだ。デモンストレーションまで時間が無いと踏んだが』
「麦わらの一味の戦力は怪物を何とか無傷で倒せる様です。ニコ・ロビン達は生き延びていたので、恐らく全員。──それでその唯一の村に向かうして貰うしたです」
『馬鹿正直に頼んだのか?』
「いえ、ルフィ達がそこに居ると踏んだので合流という名目で。ぶっちゃけ村を見捨てても私としては無問題なのでそこからシキ本拠点に来てもらうか……。まあ麦わらの一味次第ですね、村の事は」
唯一の村、という場所がどんな所か分からない。でもそこに麦わらの一味が1部だろうと居るのは確かだ。
若い働き手がシキの酒場に居ることは確定。そして肘辺りに羽根のような何かが付いている。
学者あたりは生物的な観点で保護を求めるかもしれないし、罪の無い一般市民を助けたいのは本音。でも、シキを潰す前に余計な体力削って欲しくない事も本音。
全がこれから向かわれる
『合理的だな。反対は無い』
「それは良かったです」
『それで肝心のシキに関して作戦の目処は立っているか?』
「いやぁ、それが全く。戦力が足りぬすぎて」
『……ほう?私はブランク有りのシキなら麦わらの一味だけで完遂出来ると踏んでいるんだがな』
いや無理だって。だって四皇レベルだよ?全盛期センゴクさんとジジが我武者羅無計画シキをなんとか捕縛出来たんだよ?無理だって。ホント。
「ボケますた?」
『いい度胸だ。まとめて覚悟しろ』
「申し訳ありませんです」
つい本音が出た。ドスの効いた声に思わず姿勢を正す。
「あー。私現地で一海賊団協力を得ますて」
『……むしろなんで得られるんだ?』
「それが黒ひげ海賊団なのですよ」
名を言うとセンゴクさんは押し黙った。電伝虫がセンゴクさんを真似て深いため息を吐くと、再び口を開いた。
『…………私はお前のそういう所に関しては全く微塵たりとも敵わないと思っている』
「褒められるしてます?」
『微妙に褒めているが大半は呆れだな』
色んな人間味方に付けるルフィには敵わないので私は下位互換だと思います。どうせ協力者止まりが殆どだし。
……まっ、私が信頼も信用も置かないからなんだけど。
「今回連絡入れたのはその報告もですが更に情報が欲しいからなのです」
『情報?』
「シキの揺さぶりです。精神的に攻撃を入れて肉体にも影響を出したい」
『脅しネタ、……いや動揺を誘うネタか』
「戦略的癖は期待して無いですので」
思い返しているのか電伝虫越しに悩む姿が簡単に想像出来る。電伝虫はセンゴクさんの動きをトレースして首を横に振った。
新たな情報は無いらしい。
「ちくしょう!なら海賊王の一味と例の〝幻〟ってクルーについて!」
『濃すぎて説明出来るわけなかろう』
「あ゛ーーー……ッ、ちょっと分かる」
レイさんとフェヒ爺だけでもあんなに濃いのにその船長が濃くないわけない。
「……エースネタで釣ろうかな」
『止めておけ』
「ですよねー。ハー、面倒臭い」
『……まぁ【エース】というのは確かに言い得ているが。はァ、なんとなく辞めておいた方がいいか』
小さな声でブツブツと情報整理しているのか頭を悩ませている。うーん。海賊王一味が取っ掛りやすいと思ったんだけど。
「幻ってシキと会った事無いんですよね。じゃあ誰かに幻のフリ……、私が幻のフリぞするは可能ですかね」
『色々手を加えたら出来ないことは無いと思うが、ロジャーがどんなフィルターを通してシキに話してるか分からん。それにお前は微塵もロジャーを知らんだろう』
「……逃げるのが嫌いなのかなー、程度ですね。戦闘スタイルすら知りませんし、ぶっちゃけ死んだ人間に興味は沸かぬのでレイさんにも聞いた事ありませんです」
傍迷惑な存在だと言うことは知っている。
私は頭をガシガシかいて電伝虫を見た。
『お前目が据わってるぞ』
「自覚はしてるです」
『それにな、幻は恐らく男だ。黒髪の女顔だったがソレに化けるよりは…──待て、お前自分を忘れてないか?』
「忘れてませぬよ?」
『違う、お前個人の価値だ』
「伝手の多さ?」
首を傾げるとセンゴクさんはもう一度ため息を吐く。失礼な。
『お前の親は』
「センゴクさんじゃ……。あっ!」
『はーーー、このバカ娘が』
私の親は海賊王一味。私自身がカードになることをど忘れしていた。
レイリーの事を『お父さん』などと呼ばずに『レイさん』と言っているのは無意識に他人のジャンルに入れてるからですね。
次回からようやく物語が進展します。理由は構成が浮かんだからです。長らくおまたせしました。……いやほんと、この章は改変が浮かばなくて浮かばなくて、トレースだけは嫌なので。何度目かの言い訳になると思いますが。
ところで今年が終わるとか信じられる?今年全然更新出来てないよ?そして秋はどこにあった????