私の電伝虫に一通の連絡が入った。
『あーあー、こちら狙撃手。合言葉を言え』
「合言葉」
『よし──いやなんだよそれ──なんか適当に言っときゃ反応で雑用だって分かるだろ──こっちにはナミ以外全員居るぞーリー!──あっ、バカ、折角名前言わない様にしてたのにコイツ!』
電伝虫の先はいつもの様子の一味。ナミさんが居ない事で焦っているという事は無かった。
理由は簡単、ナミさんが1度抜け出して合流した後シキの元に戻ったから、だろう。
『時間がないからさっさと伝えるぞ。お前はナミとなんとか合流してくれ、出来るか?』
「えぇ、もちろん」
『ひぇ……流石だな……自信たっぷりかよぉ』
「こちら現地で協力者を得るしてるです、まあ後で兄に売るんですけど。目的は一緒だと思うしてください。ロビンさん達から聞いていますよね」
『ナミ以外はな。そっちに協力者が居るって尚更安心した。俺たちは準備整えて乗り込む。異論は?』
「ありませんです。雑魚潰しは必要ですか?」
『どうするルフィ。やって貰っとくか?──んん、リーはナミの傍に居ることだけ考えてくれ』
余計な作戦を挟む必要の無い判断。シンプルでわかりやすいし、シキ側もシンプル過ぎて対策も取りにくい。相手は歴戦、しかも船長と来れば頭は働く。逆に罠に掛けられる可能性がある。今欲しいのは少しの可能性じゃなくて確実性。保険は一応あるけれど、失敗は出来ないのだから。
私は黒ひげ海賊団の動かし方を指示して早速乗り込む事にした。先陣だ。
シキの酒場。奥に向かう扉に進もうとすると係らしき人に止められた。私はそこら辺の海賊に顔を見られないようマントを着てフードを深く被っている為、中身はバレてない。注目を集める為に態としている節があるので一石二鳥だ。
「困ります、ここから先は」
私は不思議色の覇気で扉を開いた。
「金獅子のシキにお目通り願うッ!私はロジャー海賊団の関係者!話ぞしたい!」
届くように大きな声で。シキに届かなくったっていい、幹部の、それこそ古参連中に届けば、声が届けば。
必ずシキの元まで行けるキーワードがある。
──ジャキッ
子供の、しかも女の声だと分かっていながら周囲は銃を突き付ける。正直めちゃくちゃ怖い。だけど私は動じてませんアピールとしてその場で正座をした。
バタバタと慌ただしくなる。
私はただ待った。
「ピーロピロピロピロ!」
おかしな笑い声と、シーナが履いていた靴で歩いた様に間抜けな足音が響く。
ピエロの様な顔にマフラー、そして白衣。
くそう、そこはかとなく
「俺はDr.インディゴ、お前だな、堂々とやってきた侵入者は」
グッ、と息を飲む。やばい、この人陽気なキャラに見えるけど結構強いかも……。
それと声でイラッッッッとする。私に毒薬実験諸々をしていた主治医のマッドサイエンティストの声に似てる。すっごい腹が立つ。キャラ被り厳禁だぞミックス男め…!
おっけー、落ち着こう。落ち着こう。多分年代的にこの人の方が先に産まれた。私の知ってる人達の方が後。
それに私はキャラ被りなんてしない。そういうキャラを潜入時作っているから大丈夫。私はきっと大丈夫。
ふぅーー。
私はため息を吐いて心を沈める(自分の感情排除的な意味で)と、もう一度口を開いた。
「貴方は、古い時代の海賊ですか?」
「それはどういう事かな?」
「……ロックスの時代、とかの」
「…………それより少し後だな。それでそれを聞いてどうなる」
私はカラリと笑ってフードの下からインディゴを見た。顔がわかる様に。
このインディゴに麦わらの一味だとバレるのは致し方あるまい。ほかはやめておきたいけど。
「いやァ、自分の知識ぞ通じるか確認ぞしたかったのみです!では……──パーレイを宣言します」
インディゴは表情を変えた。
古い時代の言葉だからなんで私が知っているのか、といった意味だろう。
「もう一度言うです。……ロジャー海賊団の関係者です、パーレイの権利を主張するです」
震えているのがバレないように、自信満々で笑ってみせた。
そして私は、危害を加えられること無く金獅子のシキの元へと
「ジィハハハッ! 麦わらの一味の小娘が! まさかパーレイの権利を知ってるだなんてよォ! 俺ァ懐かしくて懐かしくて! さてはお前……エースか!」
「なわけあるか!」
ジハハジハハと大爆笑するシキに思わずツッコミを入れてしまう。シキのそばに居たのかナミさんがドレスを着て控えている。ナミさんはギョッとした目で私を見た後、シキに問いかけた。
「あの、パーレイって。リィンに危害は加えない、もの、です、よね?」
「交渉次第だな」
「パーレイというのは昔の海賊の用語で、宣言すると交渉ぞ終わるまで危害は加えられませぬ」
シキは私の無礼や説明なんて気にも止めないで話の続きを促した。
「私が求めるものは、親の情報。貴方に与えるは私の能力。天候に左右されやすきフワフワの実なれば、ナミさんのバックアップが可能性です。天候を読む事は出来ませぬが、避けられぬ天候は私が払うます。故に、私をここに置くしてください」
「お前の意見はどうだ、ベイビーちゃん」
シキは自分の意見を発する前にナミさんに問いかける。私をよく知らない自分の判断より、よく知っているナミさんの意見も経由した方が確実な情報を手に入れられると思ったんだろう。
ありゃあ、この人海軍に特攻仕掛けた癖に頭が回る上、用意周到。って感じの性格持ってるね。
面倒臭いったらありゃしない人種だ。
センゴクさんが弱点だとか攻略法を思い浮かばないって言った意味がここに来て分かった。
……下手したら攻撃ローテーションの持久戦になるぞコレ。
「リィンは、私が倒れて読めなかったとき、航海士の代わりをしてくれていた、と聞いています。役職欠けの時も彼女が基本代理を。……彼女が居なかったら私たちはボロボロだったから、間違いなく有用性は高いです。でも、戦うとなると……」
「無理ですね!そういう訓練は受けてませぬ」
「あっ、あと海を操れるわ。その、船は浮いているから問題ないかもしれないけど……」
ナミさんは私が飛ぶことは言わなかった。
箒が壊れた今、その判断は正しいだろうけど、こう考えるとシキと私の能力って……。
「似てる、かも」
「……私も思ったわ。リィンの能力」
「私の能力の名前は、フワフワの実関連なのかも、知れませんね」
「ほう……?」
どういうことだと目で訴えて来るので、私の能力の設定に付いて説明し始めた。
「悪魔の実の名前を知らずに能力者に。秀でた1点はありまぬが、オールマイティな能力だと思うです。物を浮かす、為に風ぞ操る。風の摩擦で火を起こす。全部イメージが強ければ強いほど力になるかと」
「なんでもできるのか」
「可能な範囲ならばなんでも。打ち合えば火力不足で押し負けますが、恐らくシキさんの技はトレース出来るものかと」
シキはニヤリと笑った。
「良さそうだ。利点がある」
ホッと一息を吐きたいのを我慢して笑い返す。ナミさんは可愛い可愛い言わないでお願い、今は交渉の時間なの。
「さて、親の情報だったか。親の名を聞こうか」
「はい。ただし、ナミさんは退出を」
「えっ!?」
驚いた顔をしたナミさんが私を見た。
えっ、むしろ聞けると思ったの?今の間に準備やらなにやら出来るよね?一応侵入者である私がいるんだから。
「ベイビーちゃん、温室に戻ってな」
「……はい。リィン、後で来てね。お願いよ、私貴女が居ないと」
「だから私がここに来たんじゃないですか。姉代わりを見捨てられないから全てを裏切るして、全部を捨てて!私の事好きですか!」
「愛してるわ!」
「ならさっさと去る!駆け足!」
元気よく返事をして明るい表情をしたナミさんが駆けて行った。
ナミさん、私が大好きだからなぁ。きっとシキはこのやり取りで『相思相愛のお互いがお互いの人質になれる』と確信したはず。私がデレを作ったからいつもよりテンションの高いナミさんは、私がここにいる限り裏切らないだろうと。
心の中で鼻で笑う。
ナミさんの1番も、私の1番も、互いじゃないし。私ならナミさんを切り捨てられる。己の命の方が重い。
「美しき姉妹愛、泣かせるじゃねぇか」
「実は今回の件が起こらなければ盃を交わそうかと」
「おーおー、そりゃ邪魔しちまったなぁ。つまり俺と親子盃を交わせば自然と姉妹になるってわけか」
「はい!実は私に利点しか無いです。ただナミさんの所に居たい、と。私の望みはそれだけ」
私は口だけで笑う。
「その為なら私はシキさんに忠誠を誓うです。親子としても、手駒としても」
「お前……望みはそれだけじゃ無いな?」
明らかに作った笑みを浮かべていたのでシキは指摘を入れた。そうでしょう、演技下手でしょう?『私』って。だからこれから言うことが本音なのですよ。『私』の。
「バレ、ますたか。えぇ、正直望みはもう1つ存在するです。
「やめて欲しい、と?」
私は目を細めて狂った様な表情を作り笑った。
「いいえェ、その逆です」
シキは目を見開く。私は気にせず追い討ちを掛けるよう言葉を続けた。
「ルフィは最弱の海を守ろうとしていましたが、私は東が憎い。ナミさんの姉が憎い。憎くて、憎くて、憎くて、憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて!──だから壊れてしまえば私にしか依存しなくなりますよね」
私は体を抱き締めて震えを押さえる。
「嗚呼……楽しみ過ぎてどうにかなりそう……!私だけの家族、ナミさんが、姉代わりが姉になって、私だけがナミさんの姉妹になれる!ずっと!ずっと!」
私が口角を緩めて叫ぶとシキはそれに負けないくらい笑い始めた。
「ベイビーちゃんに言えないわけだ」
「実の親に、興味はあります。知りたい。でも家族の絆を大事にするナミさんに家族想いのフリをしておかなければ。居ない親を探すのはもう充分、だって、シキさんがパパになってくれるんでしょう?子は親に従う物です、でも、私を愛してくれるですか?私は家族が欲しくて、欲しくて、欲しくて……ずっと欲しくて……!」
「ジハハハ!良いだろうその狂い具合い気に入った!今夜盃を交わす、お前も来なァ、クレイジーちゃん」
周囲にはドン引きされているというのに、シキは大分心が広い。
……まぁどちらかと言うとシキの世代が濃すぎるんだと思う。私多分まだ薄い部類だと思うよ。レイさんとフェヒ爺見てたら分かるもん。
「あ、でも実の親に関しては興味あるのでお願いするです」
「……クレイジーちゃんは親の名を分かっているのか?」
「はい。
「ほう。
「あのヤローには迷惑ぞぶち掛けられますたが同じ穴のムジナ故に」
「黒髪の野郎だったな、確か。へぇ、話にゃ聞いていたがまさか会ってるとはな」
「馬鹿ですよ馬鹿。驚きですた」
「ジハハハ!そりゃ仕方ねェ、なんせあのクソッタレ海賊団の、だ!イカれた野郎じゃなきゃ血筋も何もかも納得出来ねェ!」
「それ私にも突き刺さるですねぇ!?」
私が必要最低限の情報を全てだというような表情で告げれば、「親を当てる」と言って考え始めたシキ。
話を聞いた上で、私の顔を見たので確信したのかシキはニヤリと笑ってきちんと当ててきた。
「レイリーとカナエか」
「お見事!冥王と戦神ですね」
「ジハハハ!レイリーの野郎の成分が髪色にしか現れてねェじゃねェか!それに…………随分と反応が淡白だなぁクレイジーちゃん」
「私ぞ捨てインテルダウンに入るした母親と今まで全くと言うしていいほど関わりぞない父親。親だと自覚ぞする方が難しいぞ、です」
時々眉をひそめていた私の口調。捨てた、という単語で目を見開いた後納得した表情に変わった。上手でしょう、説明もせずに状況を判断させてしまう話し方。言わずとも察してくれてありがたい、私の目的はナミさんということになっているから。淡白で行くぞう!
ナミさんが大好きって設定は笑いを堪えすぎて全身が複雑骨折起こしそうだけども。
「レイリーはなぁ、ドSだな」
「どえす」
「あと嫉妬深い。カナエに関しては特に。クレイジーちゃん他人をいたぶって遊ぶの好きかい?」
「希望から絶望に変えるのなれば好きです」
「性格は間違いなくレイリー似だ!」
何が面白いんだろうかずっと笑っている。あとごめんそこら辺は知ってる。レイさんはここ2年間時々ゴミ掃除任務ついでに海賊のレベル調査で行ってるから会話はしてる。ギリギリ。
正直、向こうもいきなり大きな娘が出来ました、って言われても困惑物だっただろうし。私も父親の存在知ってても会ったのは大分経ってからだったから。
親子って言われてもなァ……。
月組の方がまだ親って感じする。理解が凄い。
「父親はシキさんがいるのでもう用済みですね。生みの親は、戦神は?」
椅子に座ったシキがポンポンと膝を叩いた。あー、これ知ってる。七武海がよくやるやつ。
癒し系リィンちゃん入りまーす!
いそいそと膝の上に行って小動物の様に膝を揃えてちょこんと座った。体格差もあって体勢が不安定にはならない。
「カナエはなァ、おかしな奴だった。センゴクの野郎……海軍の元帥に友達になってとせがむ様な変人だ」
「うっわ……」
「ジハハハ!娘がドン引くな!」
そりゃセンゴクさんも話したがらないわけだ。
周囲は馴れ馴れしい私の態度に不快感を覚え……る訳もなく。可愛い私はシキの傍に居ることもあって大丈夫だろうと確信したのかそれぞれが作業へと戻った。親子盃の準備とかだろう。
それでも何か言いたげにパントマイムしているインディゴと、私をじっと見るスカーレットと言うゴリラ。ニッコリ笑ったら動きが止まってコソコソし始めた。おい失礼だな。
「他には?」
「あー、予知だな。予言する。俺とロジャーの衝突も予言していた。アレが予言を外す姿は見た事ねェ」
「ふぅん。じゃあ私が1人森を彷徨う事も予知ぞしてたのですかね」
「どーだかなぁ」
頭をワシワシ撫でる手に擦り寄る。楽しいと言わんばかりに目を細めれば完璧懐いている姿だ。
今の私は愛情に飢えています。はい。
「クレイジーちゃんは母親に興味があるみてぇだな」
「はいです。なんというか……すごく、異物臭がする?不思議?違和感?ううーん」
「言わんとしていることは分かる。似合わなすぎて俺だって嫌悪を抱いていた」
「話を聞くのみですがチグハグです」
いやほんと何者なんだあの人。興味が無くてあんまり調べなかったから人物像がハッキリしない。
するとチラチラと窓の外に雪が降り始めた。先程まで曇っていたのに。
「雪が珍しいか」
「冬島には、1度だけ行くますた。でも、寒くて」
「ジハハハ!だろうな!」
「シキさんはぬくぬくです。多分ナミさんの方がぬくぬくと予想……予知するですけど」
「そうか、予知するか」
「そうぞ、予知するです」
私は子供。私のことをろくに知っている奴はここに居ない。
なら、全力で懐きやすい無知な子供を装えば、
潜入で1番油断されやすいのは女子供。
私歴が無い輩に御せるほど私は甘くない。
子供が全員純粋無垢だと思うなよ、こちとら堕天使産の海軍育ち、挙句七武海の担当だ。
「ナミさんの所、行くしてもいいです?」
「いいぜ、インディゴ案内」
ピエロ・インディゴはパントマイムで伝えようとするが何も伝わらず全員が首を傾げる。
「あ?」
「分かりました」
「いや喋るのかよ!」
キャラブレッブレな所も名無しのピエロ・シーナと似ててムカつきます。
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「正面から麦わらの一味、裏から黒ひげ海賊団、内側に堕天使。ゼハハハハ!今この浮遊島で考えうる最強で最凶の布陣じゃねェか!」
黒ひげ、マーシャル・D・ティーチは笑っていた。吹雪の中仲間を引き連れ。彼は笑っていた。この歴史を動かす様な出来事に参加出来る喜びに。そして愉悦感に。
「楽しそうじゃねェか船長」
ジーザス・バージェスは独立後1番の上機嫌さに釣られて嬉しくなったのか口元には笑みが浮かんでいた。
「あぁ、楽しいさ!特に麦わらの一味!あいつらホント面白ェ!白ひげの所でも、ジャヤでも、交流という交流はなかった!時に俺ァ随分前から妹の方には目を付けてたんだぜ!?えぇ!?」
「妹の方の首じゃ弱いと言っていたのは誰だったか……」
「俺だな!」
狙撃手のヴァン・オーガーの指摘に、過剰申告をあっさり認めた黒ひげは更に笑った。捩れるほど、体を曲げて笑った。
無邪気な子供とも思えるオーバーな笑い方。前に捩り、背を反り、苦しいと全身で表現しながら笑い続ける。
壊れた笑いは段々小さくなっていき、落ち着きを取り戻していった。
絶え絶えになった息を整えて、ティーチは純粋無垢な瞳でリィンがいるであろう方向を見る。そしてなんの感情も込めずに欲望だけを口にした。
「欲しいなァ」
ぞわりと仲間ですら寒気を覚える程の殺気……いや、怪しげな雰囲気だ。殺意なんて微塵もない。だが、ただの欲望に、危機感を抱く。
たかが欲望に、だ。
逃げ出したい気持ちに駆られる。
「だがなァ、アレはダメだ」
「どういうことだ……?」
「アレはこれから育つだろうなァ。観察してるのは楽しいだろうなァ、傍に置いたら便利だろうなァ」
ティーチは横目で目標物の方角を眺めながら顔だけを仲間に向けた。
「──堕天使リィンは
「「「……!」」」
「一体、どこの。やはり海軍ですかね」
「……その線は薄いだろうな。結局新聞などでエースの事は知らされる。麦わらなら間違いなく向かうだろう。──それを回避する為にスパイがさりげなく情報の入手を遅らせる必要がある。手遅れな時間ほどにな。発言力のある堕天使なら進路選択も可能だろう」
ティーチは考える。
「知らないんだよ、堕天使は。エースの現状を。知らないフリをしている演技、じゃねェな。海軍が現状を知らせない意図が分からない」
裏に誰かが操って堕天使が麦わらを動かしているのはわかる。だが、その裏が分からない。
海軍内だとすれば恐らくセンゴクだろう。
ラフィットは唯一センゴクと面識のある男。恨み言をブツブツ呟いていたセンゴクに限って、それは無いだろうと可能性を高める。
「次点で七武海。……クロコダイルはまず無い。ラフィット、可能性は」
「えぇ有りません。1番可能性が高いのはドフラミンゴ氏でしょう。彼はクロコダイル氏をリィン氏が陥れたと嬉しそうに語っていましたから」
「……お前七武海の結束高いって言ってなかったか?」
「おや船長、あくまでも彼らは海賊ですよ」
有り得るな、とティーチは頷いた。七武海にはなれなかったものの、ラフィットが聖地に侵入出来たのは利点だ。少しであろうと七武海と面識を持てたのは今後役に立つ。
「その次、謎の組織。恐らく情報屋。その下っ端という可能性だ。マルコが言ってただろう?『俺たちをリークした者がいる』ってよ。まさか俺が勝つとは思ってもみなかっただろうが、
ティーチは馬鹿のフリをした天才だ。頭の回転も素晴らしい。
少ない情報で現状を理解するのが得意な。普段は考えずに馬鹿やらかす事が多いが、リィンとの探り合いに触発されて、リィン相手に本気で頭を使ってやろう、と。
ただ、ただ純粋に頭が良かった。
例えば『麦わらの一味強化作戦を企んでいるから知らせる必要性が無い』という元帥に有るまじき考え。
例えば『ただ苦しむだけの王にならなくて嬉しい』という海賊に有るまじき考え。
例えば『トップの兄を排除しようと黒ひげを利用した』という部下に有るまじき考え。
その意味のわからない常識外れの考えは流石に予想出来なかっただけだ。むしろ出来たらそれはもう天才ではなく神の領域だが。
惜しいぞマーシャル・D・ティーチ!リィンのとんでも影響力を理解出来たらその領域に突っ込めるかもしれない!
……まぁリィンがティーチに対し、『取り込む』ではなく『完全敵対』として警戒心を顕にしている今、絆スキルに気付かないだろうが。
「それにしてもクロコダイル。ラフィットの話じゃ色々悲惨な現状にされてたな」
「ウィッハハ!あれにゃ大爆笑したぜ!」
「私は胃が痛いです。なぜあんな非人道的で残虐な始末の付け方が出来るのでしょう。彼女元々海軍雑用ですよね?メンタリティが人間じゃないと思います」
「……ちょっとわかる」
少なくとも戦力の乏しい今、あの毒牙に噛み付かれるのは避けたい。名誉的に。
そう心に秘めた海賊であった。
モデル、清姫