受け止めるのだ、頑張ってこの真実を。
第209話 ぼやけた輪郭
海軍大将赤犬には誰にも言えない秘密があった。
とある人物に救われた事、だ。
いや別に救われた事自体については誰に言っても構わないだろう、相手が海賊だったという事を除き。
その秘密は海兵にとって拙い。
その秘密は赤犬にとって拙い。
リィンが女狐と別の存在として居る様に。
サカズキもまた、赤犬とは別の存在としていた。
その秘密とは……──。
「わぁ!おじちゃんありがとう!」
「お菓子?お菓子?」
「えへへっ、私おじちゃん好きーっ!」
サカズキは群がる小さな子供たちを抱き上げて言う。
「──おじちゃんも皆が好きだぞ〜〜!」
秘密とは、彼が大の子供好きであるという事だ……!
シャボンディ諸島は60〜69番
海軍駐屯ということは1番治安のいい、政府の出入口。世界貴族なども多い。
それ故に無法地帯に住まなければならない子供たち。
サカズキの数少ない趣味は子供たちをシャボンディ諸島で愛でることであったのだ。
「おじちゃんよく来てくれてるけどお仕事は〜?」
「皆を守ることじゃよ〜」
「おじちゃんおじちゃん!抱っこして!」
「もちろんだとも!」
デレデレと子供たちを撫でながら相手をする男。この男がサカズキの素であり秘密だ。
「おじちゃん今日は元気無いねー?」
「ん?そうか、のぉ……。よぉし高い高いをしてやろう!」
「ヤダー!」
「おじちゃん凄く投げるもんっ!やだよぉ!」
拒否されてショックを受けている背に子供たちが飛びつく。
もう一度言うがこのショックを受けている男がサカズキであり秘密だ。
「おうまさーん!」
「ヒヒーン、そりゃ、進むぞ!」
3人ほど子供を乗せお馬さんごっこをする男。くどいほど言いたいがこの男がサカズキであり秘密だ。
「なに、してる?」
「ん?お嬢さんも混ざ………る……か」
気力で最後まで言い切った。
おじちゃん何してるのー?とくっついていた子供から声が掛けられるが、それよりもサカズキは声をかけた少女の姿に思考が停止してしまっていた。
黒いマントに黄色い髪に青いリボン。
我らがリィンだ。
「(……まずい、こんな姿を見られたとありゃ死ぬしかない。潔く今すぐ海に飛び込み……。いや、子供たちの前でそんなことは。待て、確かリィンは人の顔を判別するのが苦手じゃった筈。子供好きのわしと赤犬が同じとは思うまい。むしろ堂々とリィンと遊べば別人と思うんじゃなかろうか……)」(この間0.1秒)
「お嬢さん見ん顔じゃなー。どうだどうだ、おじちゃん達と遊ぶか?」
完璧だろう。ニコニコ笑みの気のいいおじさんがまさか海軍で悪即斬と言わんばかりに仏頂面の物騒なおっさんだとは思わない。
サカズキは笑みを浮かべておいでおいでと手招きをした。
リィンはきょとりとした表情で口を開く。
「えっと、おじちゃん?リーも混ざっていいー?」
完璧であった。
サカズキは内心ガッツポーズを決めて誤魔化し切れたことを称えた。
いや、まぁ、海軍大将赤犬と子供好きのおじちゃんが一緒だと思う方が難しいだろう。
それにリィンとサカズキは付き合いこそ長いが関わりは浅い。そう思っている。
「よーし、鬼ごっこじゃあ!」
「わーっ!」
「きゃーっ!」
日が暮れかける僅かな時間だが、サカズキは確かに子供たちという存在で日々の疲れを癒していった。
さようならと寝床へと向かう子供達を見送り、さてリィンをどう返すかと悩んだ頃。
リィンは口を開いた。
「──それで、何をしてるですか、
サカズキは膝から崩れ落ちて泣いた。
==========
はい、こちらリィン。
えっと、ただいまグズグズ泣いてるサカズキさんを慰めてます。
なんでこうなったんだろう。
見てはいけない素顔を見てしまったから本当に申し訳ないんだけど擬態というかあまりにも別人すぎてなんかの任務中かと思ってしまったから内心大真面目に乗ってしまったんだけど。うん間違いなく乗ったのが悪かったな。素直にツッコミ入れれば傷付くことも無かっただろう。
すごく、いたたまれない。
「い、いやー、でもでも、サカズキさんこのようなる趣味ぞ存在したですね!おど、驚きますた!」
あ、自分の演技が完全に棒になってる。棒読み選手権があればぶっちぎりで優勝出来そう。
……よく分かった。
私 も 動 揺 し て る。
私の下手くそな慰めにサカズキさんはついに顔を覆ってしまった。
「わしはなぁ、わしは、何十年も隠し通して来たんじゃ」
「……………でしょうね」
思わず死んだ目で同意した。
誰もこんな素は想像してないって。多分センゴクさんですら気付いてないよ。
「血も涙もない『赤犬』を演じ続けて来たんじゃ……!」
「……別人に成りすますスキルは純粋に凄いと思いますた。でもごめんなさい今凄くギャップが、ギャップが」
スン、と最早本音で語る。
今、演技は出来ない。微塵も。
「ジョナサン以外にはバレた事は無かったんじゃ……ッ!」
「ジョナサン……。あァナバロンに居たサカズキさんの子飼い」
「……お前さんそれ直接本人に言うと無礼じゃぞ」
「……やった後です」
事後ですごめんなさい。
サカズキさんははぁーと項垂れてボソボソ言葉を続け出す。
「大体のぉ、海軍、海軍に入るためにこの性格を作ったんじゃァ、最近は、最近の若者は子供の内から海賊になんぞなりおって!殺しにくいったらありゃせんわ!」
「子供、殺したく無いのですね」
「当たり前じゃ世界の宝じゃぞ!」
「サカズキさん……ちなみに私がセーフならばどこまでセーフです?」
「10代はどう考えても子供じゃろう!このっ、麦わらの一味の阿呆が!」
私は天を仰いだ。
「20越してもまだまだ子供じゃと言うのに……!」
サカズキさんの『子供』の範囲が想像以上に広かった。うん、そりゃ最近の海賊が子供だらけだと思いますわな。
「……まァ、私は内緒ぞするですよ」
「本性バレしちょるのに今まで通りに演技ができるか!いたたまれんわ!」
「デスヨネー……」
超わかる。
サカズキさん。方向は違うけど私と似てるんだな。
つまり今の私の反応や気持ちは私の周囲と似てるんだな。もっと周りの胃に優しくしよう。
いや、私(の胃)に関係ないなら別に周囲(の胃)にダメージ与えようと別にいいか。
「要は、サカズキさんって素は甘い上に殺生嫌いな子供好きのおじちゃんって事ですよね」
「ぐぅ……」
「事実突きつけたのみでそんなにダメージ受けるしないでください」
サカズキさんは子供じゃなかったとしても極力殺しはしたくないそうだ。なら私と似てるじゃないだろうか。
「サカズキさん、貴方本人の殺しの仕事ウチに回すしてくれませぬ?」
「……お前さんに殺しなんぞさせられるか」
「そのセリフ10年前に聞きたかったです」
主に七武海討伐バージョングラッジの時ね。
「そうではなく、私、この前『殺し専用の武器』ぞ手に入れたのです。それを使わねば不満が出てきそうで」
「殺しの……。物騒じゃな。つまりは血の気が多い連中ということじゃろう。リィン、なんでもかんでも抱え込みすぎじゃ──」
サカズキさんは海軍大将の顔になった。
「CP9です。引き込みますた」
「よぉし分かった譲ろうドンドン譲ろう」
交渉成立である。
殺しの正当化を求めるCP9を抱えるがために『殺さないといけない女狐』と『殺したくない赤犬』の間で協定だ。
「殺しを譲る分そっちの書類を抱え込もう。お前さんの子供達がひーこら言いよるぞ」
「……アレ、子供です?」
「十分子供と言ってもいいじゃろう」
「その割りには私『親』なのですね」
私の子供ってことは私が親って事とイコールじゃん。
嫌だよこの年で親とか。
ジェルマを子供じゃなくて生徒にした過去の私と抵抗力は未だに残ってるぞう。
意気込もうとするとサカズキさんは不思議そうな顔をして私を見ていた。
「サカズキさん?」
「お前は確かに見た目が子供じゃが。わしとしては同じ1人前の大人と思っちょったんじゃが」
「…………。」
今度は私が頭を抱えた。
「おいリィン?大丈夫か?」
「……いや、大丈夫です、うん」
そっかー。私、ちゃんと対等なんだ。
お飾り大将だけど、子供の範囲が広いサカズキさんには大人だって思われてるのかー。
昔は危険から遠ざけていたような気がしなくもないけど。主に毒殺とかそういうので。対毒実験系に1番最後まで反対してたのはサカズキさんだったし。
でも最近そんなの無いと。5年くらい前から、そう思ってた。
子供であることのメリットと子供であることのデメリット。
デメリットは大人と同じ対応をしてくれないから、まともな意見が通りにくかったり評価されにくかったり様々。
うん、助かりますけど。
……なんだこれめちゃくちゃ嬉しいぞ。ついでに言うと恥ずかしいぞ。
「サカズキさん」
「なんだ?」
「『女狐』のキャラは『赤犬』リスペクトなのですよ。私が知ってる中で1番かっこいい海兵モデルです」
「…………。」
サカズキさんが頭を抱えた。
Win、リィン。……なんちゃって。
「あ、あー。そういえば、私は赤犬というモデルがいたから女狐が出来ますたけど。サカズキさんはゼロから赤犬を作り出したのですか?」
「あー、いや。…………そうじゃな、お前も関係者じゃから話す方がいいか」
「関係者?」
通り名が納得出来るほど顔を真っ赤にしたサカズキさんがパタパタと手で仰ぎ熱を逃がしながら話をしようとしてくる。
私は優しいので突っ込まない。話を続けて。
「海兵になりたいのに戦うのが怖くて嫌じゃと嘆いていた子供の頃、わしにアドバイスをくれたのは〝戦神〟シラヌイ・カナエじゃ」
予想外の人物の名前に私は驚きと共に声を出した。
「カナエさんはサカズキさんより年上……?」
「あの年齢詐欺師怖いじゃろ。お前の血筋じゃ」
「やめるしてサカズキさん怖い」
写真では歳取った感じしないと思っていたし悪魔の実の影響か何かなんだろうなとは思っていたけど。
あの人実年齢何歳なんだろう。
私は普通に歳を取りたい。グラマス美人になりたい。
「『怖いなら仮面を被ればいいんだよ』だとさ。当時名も知られてない状態で初めて会うた。その時じゃ、わしが彼女に返しきれないほどの恩を受けたのは」
その言葉私にも共感出来るところがあるから辛い。仮面、被ってます。結構物理的に。
「私もね、私もですよ。そりゃいくつか恩はあるですけど。海賊が多い!素直に恩ぞ返す不可能!」
「分かる」
二人同時にため息を吐いた。
この世はクソです。
「つまりわしはカナエさんの恩をお前に返すつもりでおるんじゃ」
「どうつまり!?そこは別では無いですか!?」
「仕方ないじゃろ海兵としては海賊に恩など返せん!」
「分かるけどォ!」
それは私が受け取るだけで得ではあるけどいたたまれないぞ!私がアドバイスしたならともかく!
「カナエさんが海賊だと知った時どれほど絶望したもんか。わしのルーツじゃぞ」
飲まないとやっていけない!と言いたげにサカズキさんは地面を叩く。ごめんねお酒持ってなくて。
センゴクさん助けて、サカズキさん壊してしまった。
サカズキさんの手に着いてしまったシャボンを不思議色を用いて水で洗い流す。風以外も使えるとバレてるから風の能力者だと偽らなくて大丈夫。
顔持ちすぎて、人脈広すぎて、誰に何を言ってもいいのかどんなキャラと定めてるのか分からなくなりそう。
「殺しとか戦いとか、嫌いなら何故海兵になろうと思ったのです?」
純粋に疑問を持ったので聞いてみた。サカズキさんにもう畏怖とかそういう感情は無い。微塵も。
「海賊が、嫌いじゃから。それ以外に無いな」
「そっかー」
……前言撤回。サカズキさんは普通に海賊嫌いの赤犬だった。
いくらなんでも完全に別人を演じるなんて無理な話だよな、知ってた。
「とりあえずサカズキさんは本部に戻るしてください。作戦に『赤犬』がいるのは余計なのです」
「何を企んどるんじゃ」
「今回の作戦が成功したら教えるでーす」
絶対やらかすという負の信頼が成り立っているらしい、サカズキさんは険しい目で私を見ていた。
麦わらの一味を
私は立ち上がって頭の中で作戦を整理し直す。
最高の結果を求めるために、全て最良の過程を得なければならない。いかに麦わらの一味を動かせるかが重要になってくる。
「リィン、今この諸島にいる大型
「……?いいえ、先程上陸したばかり故に」
「億越えは9人居る。麦わらの一味を含めたら…──」
「14人、ですか」
その言葉にサカズキさんは首を傾げた。
「麦わら、海賊狩り、黒足、砂姫ときて……数が合わんじゃろ」
「つい先程シキを討伐した故に一味全員賞金ぞ上がります。麦わらの一味本陣がこの諸島に上陸する頃には億越えは悪魔の子も追加です」
「どこを目指しちょる麦わらの一味」
「海賊王ですね」
約半数とまではいかないが3分の1を占めてるのが麦わらの一味って。まぁ予想より少ないというか、億超えが予想より多かったというか。
億超えが14人も一度に集うタイミングってそうそうないと思うんだけど。しかも前半の海で。
そりゃ、大物海賊とか四皇辺りが前半の海で全面戦争なんて起こせば話どころか次元まで別だけどさ。ルーキーなんてワンコも同然。世界は広いねェ。
「本当にリィンは何を企んどるのやら」
呆れた様子のサカズキさんは肩を竦めて目を伏せる。その様子を見て、私は腕を組んで考えた。
細かい作戦は言えない。その先にある狙いはセンゴクさんと私だけの共有部分だから。
……この言葉が丁度いい。
未だに座っているサカズキさんに向かって私は口を開いた。
「〝麦わらの一味完全崩壊〟って、感じで」
か弱い海賊の種を、世界が育てる為に。
はいというわけで赤犬サカズキさんのキャラ設定大暴露でした。「カナエさん」の影響で性格偽ってる。
今のリィンは『女狐→リィン』を知った人達と同じ様な反応、因果応報、まあそれはさておき。
ちょっとここでフラグ建設というか回収というかご都合主義発動というか説明させて欲しい。
元々「カナエ」という人物はリィンの生まれてない時代のメタ的にどうしても変えたいだとか未来への影響的に変えたいだとかそういう点の改変用に作られた、作者的な意味でチートなキャラなんですよ。
今回の件、ロシナンテの件、鬼徹の件、その他もろもろ。細かく触れる話は作る(というか作らなければならない、話的に)のでお待ちください。
あと前話で言い忘れてましたあけましておめでとう。