「やっほー、ノーランさん!」
シャボンディ諸島69番
「リィンちゃん今日も可憐だね」
「当然ですね」
互いにいつもながらの返事を挨拶代わりにする。
私が可憐で可愛いのは知ってる。ただ私が可憐なのは少女特有のブランドなのか、贔屓目なのか。月組は間違いなくどんなに歳取ろうと可愛いと言う気がするのでジャッジには向かない。
子供のうちは天才で大人になると凡人。という様に成長すればパッとしない、なんてことも有り得る。顔の判別が苦手な私には外見を客観視出来ないというのが大変に困る。
ま、世の中美だの可愛いだの探求は止まらないしなんなら外見だけで決まるわけないし仕草とか必要だし…………って考えてたら深淵覗く羽目になるからこれ以上余計な事考えるのはやめよう。うん。
「奥へどうぞリィンちゃん」
毒の花のトップ、編集長であるノーランさんが出迎え、私はそのエスコートに従い奥の部屋へと向かう。
『あの子は誰だ』『見た事あるぞ』『海賊じゃなかったか?』なんてザワつく声をBGMに私とノーランさんは笑いあった。
「慣れですよね」
「慣れだね」
子供の雑用なんて今では勝手知ったるなんとやら的な人も多くなったが入隊当時すごくざわつかれた経験がある。子供どころか赤ん坊だよ4歳って。頭おかしい。結局は注目を集めることに関して慣れてしまったのだ。
ファンクラブとか。特に。
「そう言えば……『同じ島にいるんだから世界規模で見れば実質同棲してる』とか言ってる他の雑用部屋あったな」
「その考え方は嫌いじゃないです」
「ま、僕は海軍離れて長いから今どうなってるか分からないけど。時々同期が遊びに来るくらいで」
「安定した仲ですよねー」
「ねェ」
ケラケラと笑い部屋に入る。
上座に私、下座にノーランさんという少し……いや常識的に考えるとかなりおかしい位置に座る。
「さて、絵本などの売り上げについてなんだけど」
「どうなりますた?」
「特に絵本は大ヒット!アラバスタの速達便から出版社にファンレターが届くくらいだよ。『真実を知れてよかったわ!』って」
ノーランさんは手放しで喜ぶ。
アラバスタで起こった国盗りの争い。その事後報告という形でアラバスタ全土に向けて『作家』がインタビューを元に説明をした。
嘘はついてないが真実は言ってない。
放送を聞いた者、もしくは内乱に詳しい他国の者、など、まァ色々な立場があるだろうが少しでも関わりがあった者はその既視感に気付くだろう。
『放送を担当した自称作家』と『作家アメ』が同一人物である可能性に。そして絵本の内容が実際の出来事をモチーフとしている事に。
「『ワニの王様と人間の王女様』、民衆には数少ない娯楽本として。貴族やその他有力者は情報収集として。いやァ、こんなにひとつの本がありとあらゆる世代に広がるとはね」
えぇ、自信作ですとも。
全方面に対して完璧な嫌がらせ、もとい策。
死体蹴り?オーバーキル?ハッ、知らんな。
これこそが私の最高の結果だ。
まァあとはアフターエピソードとしてクロさんへの影響とかそういうのがあるけど。
「BL作品はどうなりますた?最近出したばかりですよね?」
私は問題の品について話題に出した。
ビビ様の書いたBL小説。ジャンルはドフラミンゴ×クロコダイルってことで……うん、ドフ鰐でいいだろう。
1枚目にはちゃんと注意喚起として『この作品はフィクションです。実際の人物や出来事とは一切関係ありません』って書いてあるから。
作者として一切関係したくないだけで嘘とも真実だとも言わないんだけなんだけどもね。フィクションだよフィクション。ただし島の名前とかそういうその他に修飾する言葉だけど。
「固定ファンがつきました」
「ですよねー!」
予想してた成果に頷いた。
ノーランさんは確か……と、過去を思い返しながら口を開く。
「薔薇を主食にする方々も海軍にいたからね。僕も想像してたから」
「薔薇は全然咲かないのにね」
「ホントそれ。むさ苦しいだけ。夢も希望も色気もない。あるのは天使ただ一つの癒し……」
「はいはい」
キラキラと目を輝かせながら崇めようとするノーランさんの顔面を掴んでまともに戻す。
腰を浮かせかけてたから無理やり座らせるのだ。それだけでまともに戻れるんだからナミさんはノーランさんを見習って欲しいよね。
「それにしてもリィンちゃん海賊になったからもうここには来れないかと思っていたけど、普通に来たね」
「ここは海軍駐屯の
「へぇ、そうなんだ」
「あと私ポニーテールも似合うでしょう?」
「出来れば写真撮りたい」
「月組限定ならどうぞォ」
「やった!」
ここまで来るのに耳丈辺りのポニーテールにしてやって来た。服は黒じゃなく茶色。
印象操作は完璧なんでね。青いリボンも黒いマントも目立たないようで逆に特徴的だからこそ、ずっとその格好をしているからこそ。だよ。それにリィンという私を知ってる人なら口調とかもね。
毎晩カラスの集団に混ざり羽ばたく真っ白なカモメがいたら目に止まるけど、そのカモメが予告もなく真っ黒に染ったら気付かないもの。
ピースしながら写真にうつればノーランさんは数枚で終わらせた。多分これから1枚に絞るんだろう。……数が少ないのは本人曰くプレミアム感と、そもそもの数が多いから、だそうだ。
まあ10年共にいるから母数は多いだろうね。
「まァリィンちゃん
「あと私が未だに海兵だから安心してですぞ」
足を組み机に置かれた紅茶を飲む。
へぇ、いい茶葉使ってる。これどこのだろう。
「あ、気に入った?その紅茶
現実逃避入ったかと思うけど単純に発言内容を脳内が拒否しただけか。意味を呑み込めた様で何より。
私はイタズラが成功した子供のように口角を上げた。
「私、海軍大将やってるの」
ノーランさんは目を見開いたがすぐに持ち直して言葉を紡ぐ。
「リィンちゃんの能力や才能を考えれば当然だね!」
「やっぱりノーランさん月組で2番目に狂うしてるぞね」
「ありがとう。リックより狂ってないとは思ってたんだ。おそろいだね」
やっぱり狂ってるわ。
会話が通じない狂化的人物ってメンタルもだけど色々強い。
「リィンちゃんが海軍を離れた僕にそんな重要な事を言うってことは、月組は皆知ってるし必要になる何かがあるんだね?」
「その通り」
私がここに来たのは本の発売の件だけじゃない。毒の花は新聞も出版している。
私がここを利用するのは情報操作という意図があり、理解者月組のノーランさんはその意図を納得してくれる。その後の影響やどういった操作なのか、内容を理解出来なくとも『わかった』と納得してくれる。1からツテを作らないでいい分有難いことだよ。余計な詮索もしないし。
「女狐としても、リィンとしても。これから起こることの後押しとして世界中に広げて欲しい事柄ぞある」
「分かったよ」
内容すら聞いてないのに、ノーランさんは当然と言いたげな態度で即答した。
さて、根回しは十分。
麦わらの一味が到着するまでシャボンディ諸島をフラフラしよう。
==========
さっきまで居た69番
……飛べないって不便だな。足だと時間がかかる。
一味到着どころか
センゴクさんもこの潜入が休暇とは言うまい。ちゃんと有給貰うんだ。
とりあえずいつ麦わらの一味から行き方についての質問として電伝虫が掛かってくるか分からないから電伝虫だけは常備しといてっ、と。流石に電伝虫をかける脳はあるよね?
「あーーーーーーッ!!??」
突然ピンクの髪の女の人が私を指さして驚きの声を上げた。
「なんで、なんであんたみたいなヤツがここに!?」
「え、知り合い?」
「いやなんで本人が謎がってんだよ」
私の疑問が思わず口に出た時、偶然その場に居合わせた手長族がツッコミを入れた。
「あ、いや、知らねェ!お前なんか知らねェ」
「既視感ある……。多分どこかで会う、した?」
「知らねェって!」
女の人は頑なに拒否をする。じゃあこの既視感の正体は何?私の勘は会ったことあるって言ってる。
「手長族のお兄さんはどう思う?」
「オラッチに聞くのかよ!ぜってー会ったことあると思うぜ!」
「だよねー!」
「でもお前が覚えてないのは逆におかしい」
「……ダヨネー」
ジロジロと手長族が見てくる。
「ヘイそこのカワイコチャーン、今1人?」
「1人ですぞ〜!」
「良かったらオラッチと話でもしねぇ?例えば、海賊の話とか。麦わらの一味のこと教えて欲しいなァ!」
私、チョロそうだと思われてる?
狙い通りですいいよいいよ!カモンだよ!よきにはからえだよ!逆に情報漏らさせてやるから!
「やめときなよ〝海鳴り〟」
女の人が手長族の肩を掴んで引いた。
まるで私を警戒する、みたいに。
「──甘くないぞ、こいつは」
その言葉に私は目を細めた。
張り詰めた空気が私たちの間に駆け抜ける。手長族はその不穏な空気に気付いていながら面白げに観察していた。
「いやァオラッチひょっとしてモテ期来たコレ?」
「「寝て言え」」
私が胴体を、女が顔面を同時に殴った。愉快な音が聞こえた気がしたけど気のせいだ。
「精々、私が気付かないままでいることを祈るんですね」
「……チッ。行くぞおめぇら!」
女の人は舌打ちをして仲間を引連れて場を去っていった。船長、と呼びながら仲間は女の人を追いかけていく。
「女ってコエー」
「うるせーです」
「また会おうぜ〝堕天使〟」
アッパラパーな音楽家はそう言い残して建物の上へと飛び跳ね姿を消した。
9人中2人。
ボニー海賊団船長〝大喰らい〟ジュエリー・ボニー 懸賞金1億4000万ベリー
オンエア海賊団船長〝海鳴り〟スクラッチメン・アプー 懸賞金1億9800万ベリー
早々同期の人物特定が出来るとは。
新聞を見る限りそこまで目を付ける様な事をしてなかったから気にしてなかったけど、特にジュエリー・ボニーの方は気にしておかないと。
──…ぐう
「お腹すいたな」
シャッキーさんのご飯はこれから食べれるのでどこか美味しいレストランでも開拓しに行ってみようか。
12番
「麦わらの一味のガキか。ガキが一丁前にレストランに来るんじゃねェよ、家に帰ってママの手料理でも食って寝てな」
海軍将校みたいに護衛のポーズを崩さない部下を大勢引き連れ、その男はレストランにて私にそう声を掛けた。
「そう言いなさんなギャングの人よ。堕ちた天使、リィンか……。こちらで食事を共にしてみないかね」
その言葉に同じレストランで腰を落ちつけていた男が私を手招きした。
か、からまれた!
残り7人中の2人に!
なんだね災厄君。お前また私を殺しにかかってるな????
ファイアタンク海賊団船長カポネ・〝ギャング〟ベッジ 懸賞金1億3800万ベリー
破戒僧海賊団船長〝怪僧〟ウルージ 懸賞金1億800万ベリー
「すみません店員さん、この巨体も私のちまいのも座るが可能な3人用の円卓1つ」
「は?」
「ん?」
「え、あ、はい、かしこまり、ました……?」
私今ならなんでも出来る気がするんです。
このレストランは無法地帯にあるというのに質がいいのか、1分と待たず高さのある円卓と足の長い椅子が2つ用意された。
「どうぞおすわりになるして? 一緒にお食事でもいかがです? ……あァご安心を、この場の食事代は
一足先に席につき、私は頬をついてニコリと笑って席を勧めた。
強調して伝えた食事代こちら持ち。
特にギャングは『ガキ』に奢られるという行為は侮辱以外何ものでもないだろう。下と見た人物に、『3人程度の食事代を心配する男』だとバカにされた気持ちはどう?
海賊ふたりはどう考えても大人。大人が子供に『海賊は危ないから平和に暮らしてろ』とか『おじさんがご飯を奢ってあげよう』とか上から目線で行っていたけど、この一瞬の言葉で逆転した。
別に子供扱いが嫌いな訳じゃないけど。まァこんなのお遊びの内、だよね。
ここでキレたら『子供』だよ。という気持ちを込めて更にニッコリ。穏便に行こうね〜!
その心の声が聞こえたのかギャングは私に銃を突き付けた。
「お嬢さん、お前が相手してるのは海賊だが?喧嘩売っときながら穏便に済ませよう、なんて真似が通用すると思うなよ」
そうですね、海賊って馬鹿の塊でした。
「おじさん、貴方が相手してるはガキではなくて海賊ですが?脅して終わらせよう、なんて真似ぞ通用すると思うなぞ」
そっくりそのまま返した。
正直銃を突き付けられて怖くないわけないし今すぐ逃げ出したいけど生憎と『脅しに動揺しない余裕綽々な態度』の演技は慣れてんだよ。大将舐めるなよ、常に余裕じゃないといけないんだぞ。最高戦力だぞ。ハッタリって大事!
「あとなぁ!ママはいねーーーーんだよ!」
ドン!と机を叩き喚いた。
空気を変えるために空間を私ムーブに持っていこうと思って。場の支配者は私。麦わらの一味見てて思ったけど場を支配するにはツッコミに回らずボケに回ると支配出来る。
「マジで何ぞあの人!?謎が謎を呼ぶ!もっと単純ダメですか!?」
というのは建前でマジで本音ぶつけてます。
ガンガンガンガン!と机を叩いて喚き続ける。
赤犬サカズキさんの1件で私には分からなくなった。どこでどんな影響与えてるのかさっぱりだ!でも仮面を被る云々はとても納得しか出来なかったので積極的に仮面被っていこうと思いました!
「お、おう……」
「……壊れましたな」
「ママもパパもわからん!意味わからん!うっ、あの人たちのせいで私の人生めっっっちゃくちゃぞお!多分影響なくてもめちゃくちゃのような気ぞするですけどぞろんぴー!」
「言語めちゃくちゃだなオイ」
「叩けば直るか……?」
「──正直人型取るのやめて欲しい」
ぴぇん、と泣き喚いたら机に顔を伏せる。
頬をくっつけて脱力。銃口から体は動かされた。
「待って!空島の人!さっき私の事なんと言いますた!?」
ふと気になり顔をがばりと上げるとドン引きした様子のギャングとマイペースにメニューを見ていた。
「堕ちた天使、と言いましたな」
「それですよそれ!なにゆえ私そんな意味の分からない呼び名が伝来されるですか!私この世で1番堕天使嫌い!設定が私に優しく無きィ!」
海軍で天使だのなんだのと言われていたからだろうけど!あえてそこ取る必要性あった!?
もっと他にもあるじゃん!シャンクスさんみたいに赤髪とか、エースみたいに技名とか!いや私技名持ってないけど!
「堕ちた海軍将校ドレークとお揃いなのが嫌かね?」
「あ、ドレークさんの弱点卵と女なので良かったらバンバン使うしてネ」
「なんでそんなこと知ってんだよ」
「元海軍雑用で〜す!──あ、私ホイップマシマシフルーツたっぷりパンケーキで」
心底要らない情報がボロボロ出てくる。とギャングは文句を言った。さっさと座れ。私に愚痴らせろ。
「だいたい、この世界クソだと思いませぬ?思うですよね。あと技の名前を叫ぶ文化。あれ恥ずかしいと思うの私だけですか?」
「「…………。」」
「名前で技の概要分かるですし。不発確率も高くなるのに。心底不明」
「まァ、確かに」
「そう言われれば」
不可避系ならまだいい。そういう刷り込みをあえてした状態で、技名と違う技を使うとかなら大賛成。
世界、ちょっと素直すぎない?
全然素直じゃない場面もあるけど。
「じゃあ乾杯」
「「どんな音頭だ!」」
乾杯したの私だけだったしお冷だった。
大型ルーキーの残り5人中、1人はドレークさんだということが分かった。正直グランテゾーロで会った時からタイミングは一緒になるだろうと思っていたからバジル・ホーキンスも居るな。
ドレーク海賊団船長〝赤旗〟
ホーキンス海賊団船長〝魔術師〟のバジル・ホーキンス 懸賞金2億4900万ベリー
残りの3人。一体、誰だろうか。
甘ったるいパンケーキで糖分を補充しながら同期の能力をニッコリ笑顔で観察した。
「あ」
「あ?」
13番
私は残りの3人の内、2人が誰なのか悟った。
「〝堕天使〟……?」
「〝殺戮武人〟さん」
キッド海賊団戦闘員〝殺戮武人〟キラー 懸賞金1億6200万ベリー
つまりこの人の船長であるキッドさんも同期。
そして唯一不明瞭である1人も勘で大体察した。信用してるよ、私の災厄吸収能力。偶然嫌な方向に進むって意味では全幅の信用と信頼を寄せている。
勘とは、瞬間的に行われる経験に基づいた判断である。
「──同窓会かよ!」
まさか初日数時間で全員との縁を築き上げるとは思ってもみませんでした。もちろん、悪縁ですが。
ママとパパって言い方可愛いよね。演技だけど。
まだ最悪の世代とか名称は無い。私は悲しい。なぜ一人称視点で作品を書き始めてしまったのか。ポロロン。