〝殺戮武人〟に出会ってしまった超絶不運で、それだけで9人全員察するという超絶賢い私ことモンキー・D・リィン。(※ただし住民登録表の上での家名なのでほとんど使わないフルネーム)
そんな私は彼に出会った瞬間ダッシュでシャッキーさんの店に入り込んだ。
それ以上追いかけてこなかったので良しとしよう。記憶に残ったであろうことは確かなので完璧だとは言えなかったけど。
だって顔知ってるキッドさんとローさんには会いたくねェもん。覚えてなければ嬉しいしその可能性も高いけど、私の災厄吸収能力を前提に考えると覚えてるし出会うし絡まれる可能性が高すぎる。
なんでこんな意味の分からない能力があるんだか。変人ホイホイか私は。
とにかく、無事シャッキーさんのぼったくりBARに逃げ込めた私は敵情視察とかそういうミッションをシャッキーさんに聞くことなくオールクリアしたので引きこもっていた。
ちなみにその間居候しているはずの海賊王クルーズは帰ってこなかった。
「全然帰ってこない」
「……フェヒ君辺りはリィンちゃんに気付いて帰ってこないとか有り得そうじゃない?」
「それはとても分かる。あの人野生の勘がルフィ並だから……」
私がフェヒ爺を殴ろうと思っていることがバレているのか全然帰ってこない。
ルフィが居たら来ると思ってるんだけど。
「レイさんが放浪癖所持してるは普段通りなので特に言わないですが、プー太郎フェヒ爺がここ3日現れぬは確実におかしい」
2年間私は潜入捜査資格を得るため、センゴクさんから課せられたゴミ掃除をシャボンディ諸島でしていた。
他の任務もあるので1週間から半月に1回か2回。うん、結構まばらだったけどゴミ掃除でコツコツ業績(捕縛数)と実力貯めた。
その間の拠点というか食事処というか。それに利用していたのがシャッキー’s ぼったくりBAR。
ほぼ毎回フェヒ爺は居た。戦い方のコツとか教えてもらってたりした。対してレイさんはお酒大好きマンなので飲み歩きやら酒代稼ぎやらで放浪してたけど。ギャンブル好きらしいし……ってこう見ると碌でもない……?
つまりこの3日、フェヒ爺が現れない事が異常なのだ。ちなみに泊まらせて貰っているのでフェヒ爺の寝床使ってる。
帰ってきたら分かる様に扉全てに髪の毛挟んだり罠仕掛けてたりしたんだけどそれすら動いてなかった。
あ、ちなみに死んだとかは思ってない。微塵も。なにかに巻き込まれたとも思ってない。欠片も。
「でもリィンちゃんがここに来てくれたおかげで大型ルーキーが14人になると情報掴めてよかったわ」
「…………ウチ、ヤバいですね」
2日前の事だ、早々に更新され再配布された麦わらの一味の懸賞金。客観的に判断している、という状況だから正しく値段が釣り上げられたとも言えないが妥当とも言える懸賞金になった。
〝麦わら〟モンキー・D・ルフィ 懸賞金3億5000万ベリー
〝海賊狩り〟ロロノア・ゾロ 懸賞金1億2000万ベリー
〝狙撃王〟ウソップ 懸賞金8000万ベリー
〝泥棒猫〟ナミ 懸賞金4500万ベリー
〝七変化〟チョッパー 懸賞金4000万ベリー
〝悪魔の子〟ニコ・ロビン 懸賞金1億ベリー
〝船の精霊〟ゴーイング・メリー 懸賞金4600万ベリー
〝
〝鼻唄〟ブルック 懸賞金5300万ベリー
〝堕天使〟リィン 懸賞金900万ベリー
〝黒足〟サンジ 懸賞金2億5000万ベリー
〝砂姫〟ビビ 懸賞金2億3000万ベリー
〝カルガモ戦士〟カルー 懸賞金2500万ベリー
「ちょっと、いやかなり合計金額数えるの怖いです」
「私が代わりに数えて上げようか?」
「無理です私の脳みそ優秀故に勝手に暗算し終わりますた」
141200。
つまり、
いっその事計算間違いであればいいのに。
本当に同期に比べて桁が違う。
そりゃ、元々更新される前の合計が約10億だったんだから他の大型ルーキーも下っ端の私見ただけで着目するよね。
絡まれやすいというか最早絡まれざるを得ない。
もうここから出たくない。引きこもる。
「船長と新規配布のメリー号を除き全員が2000万ベリーの上乗せ。その法則から行くと100万しか上がらぬ私がめちゃくちゃ不自然ぞ」
「……海軍は何を考えてるの?リーちゃんって確か潜入だったわよね?」
「あー、これ海軍のせいじゃないです。間違いなく政府です」
原因に心当たりがあり過ぎる。
政府の更に上の上、天竜人だけどね。
っは!やっぱり血筋ってクソだと思うね!(憤怒)
潜入だと疑われる様な
「はー、賞金稼ぎに狙うされるは忌避したいです……」
「気を付けてねリーちゃん。最近金獅子の再来とかって言われる賞金稼ぎが頭角を現したから」
「金獅子……」
うげ、と思わず嫌な顔をする。
シキは能力的にも性格的にもあまり対峙したくないタイプ。まだフェヒ爺の方が遥かに楽。
そんなシキの再来とか胃が悲痛な叫びを上げそうな案件過ぎる。
私賞金稼ぎはノータッチだから全然知らないんだよな、情勢とか情報とか。
賞金稼ぎは自分の采配でレベルにあった金稼ぎをするってタイプだから海兵ほど目立たないし海賊みたいに問題になることも無い。
「1年ほど前からかしら。もしかしたらリーちゃんも会ってたりするかも。──金の髪に、緑の、要は周囲のグローブに溶け込める色の服を着た女の子だって聞いたわ」
シャッキーさんの情報は確実なものが多い。
……私のシャボンディ諸島での活動時期と被っている事に首を傾げた。
「それにシキの再来と呼ばれる由縁は空を浮くから、なの」
空中に滞空できる、能力?
「それ私じゃないです?」
シャッキーさんは静かに首を横に振った。
「私もそう思って細かく調べてみたの。リーちゃんの事じゃなかったわ。額に十字傷があって、何より──標準語を話してたみたいだから」
「……そうでしたか。じゃあ違うですね」
私はそう納得して頷いた。
……。
…………。
いや、私じゃないかそれ。
シャッキーさんの手前誤魔化したけど、多分それ私。
ゴミ掃除の時期は化粧なんてしてなかったから、普段化粧で隠してる傷跡が荒ぶる度に見えていただろう。それと標準語はもう身に付けている。一応この不思議語、キャラ付けだからね。『リィン』と『それ以外』の顔を使い分けるための。
「ちなみに名前とか知るしてます?」
「〝金豹〟よ」
金豹ね。覚えた。
絶対後で調べ直してやる。
そして本名という意味での名前が出てこなかった事に私疑惑が高まった。
「レイリー、シャッキー、いるかー?」
カランカランとベルのなる音に私とシャッキーさんは扉に目を向けた。
「いらっしゃい、悪いけど今この子の貸し切りで……って、はっちゃん〜〜〜!?」
「ニュ〜〜〜、ご無沙汰してんな〜シャッキー!」
「そうよもう10年ぶりくらい!?」
入ってきた魚人にシャッキーさんが驚きの声を上げる。
だが私はその後ろに続いた人影に驚きを隠せなかった。
「ルフィ!?」
「リー!」
「「なんでここに!?」」
まさか連絡も一切せずに合流するとは思ってもみなかった、麦わらの一味オールスターズだった。
==========
「……なるほど」
私は彼らの話を聞いて麦わらの一味の行動を把握した。
たまたま人魚のケイミーさんとヒトデのパッパグさんと出会って、魚人のはっちゃんを助け出し、トビウオライダーズという人攫いチームを傘下に入れた、と。
「入れてない入れてない」
「あ、そうですか」
ウソップさんの訂正を受け入れる。
するとルフィは首を傾げながら私に疑問を投げかけた。
「リーはなんでここに?はっちゃんの友達と知り合いか?」
「うーん。まァ知り合いっちゃあ知り合いぞ。元々シャボンのコーティングをここの、レイさんって人に任せようと思っていた故に」
「あー、じゃあ俺たちの目的地は最終的にここだったわけか」
「偶然にも」
私が意図した航路と、ルフィが偶然選んだ航路が一致した。頼もうと思ったコーティング職人まで一致。そしてまさか海の上で誰かに行き方を聞くとは。
てっきり電伝虫で連絡があるとばかり。
私からかけなかったってのはあると思うけど。『作戦』の準備の為の日付伸ばしたかったから。念の為。
「じゃあ紹介を。彼女はシャッキーさん。私たち麦わらの一味の同業者で先輩の、元海賊」
「ええ!?そうなのか!オバハンも海賊だったのかー!」
「そうよ。あ、そうだリーちゃん。この子達に飲み物出してあげて。貴女なら彼らの好み分かるでしょ?」
「せっこい情報の集め方するですよねシャッキーさんって……」
あえて私に情報出させる辺り小狡いというか。
私はカウンターの中に入って冷蔵庫から人数分の冷えたお茶を注いだ。そう簡単に情報渡すか。いや、好みの飲み物程度の情報だけどもさ。
「とにかく、シャボンをコーティングしたいなら職人自体を探してね」
「待ってたら帰ってくるだろ」
「そうね、いつかは。でも彼、半年ほど帰ってきてないから。賭博場か酒場かには居るんじゃないかしら」
「ええーーー!?」
お茶を配っているとルフィの不服そうな声が耳に入ってくる。
私は苦笑いをしながら自分の実の父親についての特徴を口に出した。
「まァレイさんも海賊ですからね。性ですよ性」
「リーちゃんにだけは言われたくないと思うわ」
それ、同じ放浪癖持ちって事?
私自分から放浪しに行った事なんて人生で5度あるかないか程度なんだけど。しかも数日間だけ。
「はは、こりゃ探しに出るしかねェな、」
迷子癖のゾロさんが誰よりも早く腰を浮かせるがサンジ様に服を引っ張られ再びソファに座る形になった。そしてウソップさんがとどめとばかりにゾロさんの膝の上にメリー号を乗せる。
人為的な重り……。
「レイさんを探しに行くのはいいけど気を付けて。この諸島にはモンキーちゃん達を含めて14人、億超えがいるの。……まァ麦わらの一味が最多の5人なんだけど」
「ああー。来る途中新聞で見たよ。ロビンも億超えになった」
「ウチにはリィンが居てくれるからライバルの観察は完璧よ!それでリィン、誰がヤバいやつだった!?」
「全員」
「そっか〜全員か〜」
ナミさんは静かに涙を流し始めた。
全員ヤバいです。
大丈夫、全員把握した。把握したからこそ知りたくない現実を知れた。全員ヤバいです(3回目)。
「でも大丈夫。キミたちが探しに出なくても、彼らの方からきっとここに来るから」
「あの爺は確実に来る故に、レイさん探しは頼むという手もありですからねェ」
私がそういった瞬間、カラン!と大きな音を立てて扉が開かれた。
見聞色の覇気使いの2人が反応出来ないほど、やはりあの人は強い。
「え、うそ、まってくれ、なんで」
ルフィが目を見開いて口をパクパクと動かす。
一味がそんな船長の様子を見て警戒心を高めていった。
栗色の髪はボサボサとしており、適当に後ろで結ばれている。長めの前髪から覗く紺碧の瞳は細められ、口角はニヤリと上がった。
「──元気そうに暴れてんじゃねェか、小僧」
「フェヒ爺〜ッ!!??」
パッと顔を綻ばせ、ルフィは飛び付きにかかる。それをフェヒ爺は余裕で躱し地面へ叩きつけた。
私の柔術はあそこから来てるんだよなぁ。見事に、鮮やかで、力も最小限。
「やっほーフェヒ爺。何故逃げた?」
「いや、お前、そりゃさぁ」
「まァそれは不問にする故に1発殴らせろ」
「断るに決まってんだろ小娘!」
フェヒ爺フェヒ爺と喜ぶルフィを片手間にいなしつつフェヒ爺は私に対してバツの悪そうな顔をした。
コルボ山兄妹の共通の知り合いとテンションについていけない一味。そんな中最初に声をかけたのはナミさん。
「で、リィンとルフィ。その人誰?」
「私の師匠……?仮の?」
「友達!昔っからの!」
「お前ら下2人って死ぬほど失礼だよな俺に対して」
いや礼節を保つほど威厳も何もないと思うから。ルフィは素だけど。
「フェヒ爺、レイさんの行方知らぬ?」
「あァ、あの腹黒ならもうすぐ帰ってくるんじゃねェか?覇気で分かるだろ。あと小娘、誰か知らねェが監視されてるぞ」
「どうしよう最後の爆弾に全ての意識ぞ誘拐された。心当たり多すぎる故に残念無念、逆に心当たり無き」
そしてやっぱり私を避けていた事がこれで判明した。今この場には麦わらの一味がいるんだから私が1人だったBARの周辺、を数日知らなきゃ判別出来ないよね。
というか監視ってなんだ?人さらい?賞金稼ぎ?ルーキー?海軍?うーん、全て有り得そうで困る。
ガコンと下駄を鳴らしながらだらけた格好でフェヒ爺は麦わらの一味を観察した。見られた一味はその無意識の威圧というか、威厳。その格の差を感じ取れた。
実力も何も無い子供なら全く気付かないだろうこの気配には。それこそ、幼少期の私達兄妹の様に。
「麦わらの一味、か。小僧と小娘が世話になってるな。俺ァこいつらが幼少期の時世話してた」
悪戯好きのジジイは爆弾をフルスイングで投げ入れた。
「ロジャー海賊団戦闘員〝剣帝〟カトラス・フェヒターだ」
「同じくロジャー海賊団副船長〝冥王〟シルバーズ・レイリーだ、よろしく頼むよ」
ついでにとばかりにひょっこり顔を出したレイさんが自己紹介をした。残念ドヤ顔でキメたフェヒ爺とても痛々しい。すんなりごくごく普通に(内容除く)挨拶をしたレイさんと対比をするととても残念な感じになってる!
私はカウンターの端に座っていたウソップさんの隣に座りお茶をカウンターに置くと、そのまま自然な流れで耳を塞いだ。
「「「「海賊王のクルー!!!???」」」」
その全力のリアクション、耳を塞いでなかったら多分キーンってしてたね。
「あらレイさんおかえり。帰ってたのね」
「嬉しそうに帰る盲目野郎の音が聞こえたんでね、さてはと思って帰ってきた訳だが」
シャッキーさんに歩み寄るレイさんと目が合う。私が見上げているとその頭をそっと撫でられた。
「よく来たねリィン」
「こんにちはレイさん。お邪魔してます」
「今回はコーティングの依頼、みたいだね。ゆっくりしていきなさい」
そうしてレイさんは壁に背を預け、もたれかかった。フェヒ爺は見せ場を取られたことにブスくれてたが私の隣まで来ると腰を下ろす。
驚きから解放された一味は私に詰めよってきた。
まずは隣にいたウソップさんがカウンターに手を置いて私を指さす。気持ちは分からなくもないし同じような反応をした記憶もあるので私は寛大な心で許そう。
「お前なんっっっちゅう伝手得とんじゃい!」
「フェヒ爺はルフィとも伝手が」
「副船長はないじゃろがい!」
「流石ウソップさん今日もツッコミぞキレッキレの切れ味抜群ですね!」
「ありがとさん、こんなに嬉しくない褒め言葉初めてだ!」
長い鼻がくっつきそうなほど詰め寄られ、彼はシャウトした。良かったね、隣接する建物が無くて。
下手したら近所迷惑だぞっ。
「私でもその名前知ってるわ……」
「色んな本に載ってるわ、まさか冥王と剣帝にこうして会えるだなんて……」
「流石私のリィンよね」
「流石ナミさんだわ。全くブレない」
「少しもブレてないわね」
『性別:ストレス』の3人組がソファで仲良く語り合う。
ゾロさんやサンジ様、フランキーさんは大声こそ上げないものも目をこれでもかと言うほど見開いていた。
人間初心者(人外)組も空気を読んで驚いているが、新しく入った鳥の……名前はビリーだったかな。そのビリーはカルーの真似をしているだけの様に見える。
ちびちびお茶を飲んでいたブルックさんは世界情勢に鈍いこともあり、そこまで驚きなどは無いようだ。
「海賊王、ゴールド・ロジャー、でしたか?昔そんなルーキーがいたようないなかったような……」
一味で1番大物なのって海賊王をルーキー扱い出来るブルックさんのような気がしてきた。流石最年長。
ロジャーより上の世代って事はブルックさんってもしかしてロックスの時代の事を知っているんだろうか。
「なんでそんな大物とリィンが知り合いなんだ?」
「私それよりはっちゃんって魚人がレイさんと知り合いなのにびっくりなんですよね」
「ハチは20年ほど前に海で遭難していた私を助けてくれた命の恩人だったんだよ。以来、ハチがタイヨウの海賊団に入るまで仲良くしていた」
あァ、はっちゃんはタイヨウの海賊団だったのか。
「じゃあアーロンと同じ海賊団だったのですね」
「……ニュ〜。ロロノア、お前の想像通りだったな。この子全然覚えてない」
あれ、知り合いだったっけ?魚人の知り合いなんて少ないと思ったんだけど。
はっちゃんは不服そうに鳴きながらゾロさんに文句を垂らす。ほらなという感じで鼻で笑うゾロさんがいつもながら腹が立つ。
「それでリィンとは、そうだな。2年前にたまたま人間オークションで出会って、そこからだね」
「まてまてまてまて。まずツッコミを入れさせてくれ。人間オークションってなんでそんな所に居たんだよ」
「酒代稼ぎで」
「私普通に売られるしますたよ?」
サンジ様の言葉に答えを返すと頭抱え始めた。よくあることよくあること。
私はトントンと机を指で叩いてリズムを取った。
「まぁ海賊王の一味という存在が意味不明の塊なので麦わらの一味もトントンですよね!」
「ちょっと分かる言い方やめてくんないかなリィンくぅん!」
ウソップさんにビシリとツッコミを入れられた。
「ねーねー、海賊王って海軍に捕まって処刑されたんでしょ?僕だったら船長の代わりになっても逃がそうと思うけど、どうして2人は生きてるの?」
ある意味喧嘩を売ってると思われてもおかしくない言い方。子供ゆえに無邪気な表情なのが幸いして、空気はそのままだった。
メリー号、あんた人間初心者だから恐れもなくなんでも口にするよね。正直見てる方がハラハラするタイプだわ。
「そもそも、ロジャーは捕まったのでは無く、自首をしたんだよ」
レイさんはキュポンとウイスキーのコルクを外すとストレートで直接飲み喉を潤した。
「政府としては力の誇示のため捕らえたかの様に公表したかもしれんがな……」
「あの、なんで海賊王は自首なんて真似を……?」
「そりゃアイツ、不治の病にかかってたからな」
フェヒ爺がなんでもない顔で話すと私も含めて驚きしか出てこなかった。
「君たちは双子岬のクロッカスという男を知っているかな?あの男が3年間、ロジャーの病の苦しみを和らげながら船に乗ってくれたんだ。そしてロジャーは不治の病に蝕まれながらも、
驚きすぎて声も出ない。
最強と思われる海賊王ロジャーは病という存在には勝てなかった。
それでも、そんな中制覇を成し遂げた。
……いや、純粋に頭おかしい。なんというか、強さというか威厳というか。伝説って凄い。
「その後船長命令で海賊団は解散。そして皆の知る公開処刑へと成ったのだ……。──私は行かなかったよ、あいつの言った最後の言葉はこうだ」
レイさんは懐かしげに目を細めて口調を真似た。
『俺は
その言葉が耳に入り込んできた途端ぞくりと背筋に寒気が走った。なんだろう、この感情は。感動でもない、危機感でもない。
迫る壁の大きさ?その怪物がいないことへの安堵?
違う、懐かしさ。
「………死なないって、アイツも言ったんだ」
ボソリと呟いたルフィの言葉に私も既視感の正体に気付いた。
そしてフラッシュバックする。
エースが死んでしまう夢を。
「……リー?」
「大丈夫」
なんでこんなタイミングで思い出すんだか。
そんな情報、
「政府も海軍も驚いたはずだ。見せしめが式典へ。命の灯火はこの大海賊時代の幕開けとなる業火を生んだ」
レイさんは目に涙を溜めて語る。
「あの日ほど笑った夜はない、あの日ほど泣いた夜はない。酒を飲んだ夜はない……!我が船長ながら、見事な人生だった……!」
バーには時間の空間の様なぽっかりと出来た空白が流れる。圧倒されて誰も口を開けないで居たが、ナミさんのはァというため息でようやく呼吸が出来た。
「なんか、凄い話を聞いちゃったみたい……」
「当事者から聞くと凄いな……」
心臓がバクバクする。
これが、本物の海賊。
「……剣帝」
ゾロさんがフェヒ爺に話しかけた。
「この刀は、あんたの物だと聞いた」
「鬼徹……。小娘ェ……テメェこの剣士に刀押し付けたな?」
「バレた?」
「可愛こぶってんじゃねーぞ小娘!」
グリグリと頭を締め付けられる。いたたたた、待ってフェヒ爺頭潰れる。腕力と骨の耐久性が釣り合い取れてない痛い!
「俺はあんたに稽古を付けてもらいたい」
「断るよ」
フェヒ爺は即答した。
「……私が嫌だと言うしても稽古付けようとしてきたのに」
「そりゃ小娘、てめぇと剣士は役割が違うだろ」
フェヒ爺は椅子に座ったままくるりとゾロさんに向き直った。
「それはテメェが持ってな。使ってくれねェ俺や小娘よりちゃんと使ってくれるお前を気に入る筈だ」
「〝剣帝〟とも言われるあんたが、使ってやらねぇ……?」
ゾロさんの疑問。彼は鬼徹を握る手を強めた。
「俺は純粋な剣術だとそう強くない。剣帝って名は剣の帝王とかそういう意味じゃねェんだ。刀剣を刀剣と使わない。そんな男だ」
私の頭をガシガシと掴んで雑な撫で方をしながらフェヒ爺はきちんとゾロさんに言った。
「じゃあなんで妖刀なんてモンあんたが持ってたんだ?」
「あー……。いや、わすれた」
絶対覚えてるな。私知ってる、五老星の1人から奪ったんだって。
「小娘の伝手だ。稽古をつけろと言われたら付けてやるよ。ただ、剣士としての稽古を望むんならお門違いって訳だ。それこそ大剣豪と呼ばれる男に頼むんだな」
「あの男はなぁ」
「アイツはなぁ……」
「アレは七武海だからなぁ……」
初期5人組の男3人がミホさんの存在を思い出して苦い顔をした。初対面で毒爆弾放り投げ過ぎたよね、絶対あの人。
「私剣士としての稽古もそれ以外の稽古も望んで無きですが……!」
そして顔を覆って絶望する私。
出来ればハニートラップとかその部類の稽古なら有難かった……!それより軍師的な稽古の方がもっともっと有難いけど……!実践ならそう血の気の多い系じゃなければどんなに幸せだったか……!
「はー、誰かこの剣帝とか言われる悪魔殺してくれぬかなァ……」
「おおお、おまっ、海賊王のクルーだぞ!?そんな度胸よくあるな!?」
「悪魔って。テメェなんて口聞きやがるクソガキ」
ウソップさんが背後からガクガクと肩を揺さぶり、フェヒ爺が叱るように私のほっぺたを引っ張る。
私の頬はゴムじゃないので伸びませーん!
あ、そうか。
「ごめんごめんフェヒ爺」
「分かりゃいいんだよ」
「──悪魔じゃなくてその眷属ですたネ!」
とってもいい笑顔でそう告げた。
「…………あ?」
「ふはっ、なんだフェヒター。バレてるじゃないか」
レイさんが壁際で楽しそうに笑う。
引き攣った顔のフェヒ爺は私を見た。
「ねェ、栗色4兄妹」
〝剣帝〟カトラス・フェヒター。本名、ディグティター・グラッタ。グラッタの通り名は〝悪魔の眷属〟。
元王下七武海〝悪魔の片腕〟グラッジの双子の兄。
その上弟と妹もいるって、コルボ山4兄妹と同じ構成でエースと同じポジションなんだね。
「そう言えば、レイさん、貴方の世代だと思うんですけどグラッタって王族知ってます……?」
「ふふっ、よく知ってるよ。あの国は我々海賊団が滅ぼした国だ。そこの第一王位継承者だろう?」
「そう、私その方がまだ王族であることは驚きますたけど、私あの方ぶん殴りたいのですよね。でもどこで会えるかもわからぬのでレイさん代わりに殴ってくれませぬ?」
「いいだろう承った」
「良くねェだろ!!!!おいテメェ腹黒!」
「そうかフェヒター。まだその言い方を改めないのか。仕方ない、調きょ……躾をしなければ」
「今悲しい単語が聞こえた気がするんですけどリィンさん」
「世の中には知らぬ方がいい事もあるんですよウソップさん」
ボキボキボギャンッと背筋からやばい音を立てながらフェヒ爺が悶えていた。
「あの人、王族なのね……」
「あービビちゃん、それ以上はブーメランになるから口に出さない方がいいぜ」
「わかってるけど」
ビビ様は楽しそう(レイさん限定)な2人を見て微笑みを浮かべた。
「私、海賊に進む道を選択して良かったのかもしれないわ。彼みたいに、彼らみたいに幸せそうな姿を見てそう思うの」
サンジ様に向かって。
ニコニコと笑うビビ様に毒気というか色々な感情が削ぎ落とされたのかサンジ様もへにゃりと笑って同感と呟いた。
うん、サンジ様が王族だってことビビ様には気付かれてる、よね。
それでもサンジ様の精神安静上王族同士の仲間意識は素晴らしい効力を発揮するので有難いという感情はある。
「でもアレだな、海賊王の一味ってエキセントリックな海賊団だな」
「言いたいことは分かるですけど」
ウソップさんの的を射たような的を射てないような表現に苦笑いしか出来ない。
「エキセントリックな海賊団に子孫が居たらさぞかしエキセントリックな人物なんだろうなァ。リィンなんか知ってるか?」
冗談なんだろう。肩を組みながら私に笑いかけるウソップさん。
なんかなんかと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。
そして『仲間』への思いやりだろう。
私はウソップさんの座っていた椅子を引っ張ってバランスを崩す様にすると、ウソップさんは背中から床へと転がり落ちた。
講義の声をあげようとするがそれよりも速い私のナイフ。
袖に隠し持っている小さいナイフだが頸動脈を掻き切る程度は出来る暗器を、ウソップさんの首筋に狙いを付けて床に突き刺した。
「どうも、エキセントリックな海賊団のエキセントリックな子孫」
にこりと笑いかけて自己紹介をした。
絶望しかない親の元に生まれる超絶不運で、それでも今まで生き延びてる超絶賢い私。
「モンキー・D・リィン。改め、シルバーズ・リィンです。改めてよろしく」
エキセントリックな苗字を告げると、一味は漏れなく全員が声を上げた。
……耳、塞ぐの忘れてた。
18日に更新すると誓ったので早速更新させてもらった。
伏線を回収したような、伏線を入れ込んだような。
とりあえず『金豹』がどんな存在なのか触りだけでも入れれたのでセーフ(実は予定してたのに忘れかけてた)
レイリーしゃん、原作の麦わらの一味にはあまり興味を抱いてなかったが現在リィンが居る海賊ということで注目してるから初っ端からご登場。そしてようやくエキセントリックな海賊の実の娘だと情報共有しました。ドS親子、ここにあり。
デジタル大辞泉の解説
エキセントリック(eccentric)[形動]性格などが風変わりなさま。奇矯(ききょう)なさま。「エキセントリックな行動」