最悪だ。
気分は最悪最低。
「リィン、大丈夫?」
「はいです。ちょっと化粧ぞ直す故に戻るして」
私はとことん嫌いな人物に勝ちを譲ってしまうらしい。というか、苦手が動揺に繋がって頭が止まってしまう。悪癖だな。
化粧直しという名目を使い、少しトイレに引きこもってテンションというかモチベーションを戻そう。
よし、カクはとりあえず置いておこう。
正式に部下に加える時は忠犬(猫)ルッチ公に殺してもらうか事故死してもらおう。もしくは海難事故リターンズ。
海へ飛び込むタイプの心中なら付き合ってやる。能力者なんだから絶対沈める。
「……さて、と。気分入れ替えるぞっ」
先程カクに出会うというイレギュラーな出来事があってしまったが、私はそれすら味方に付けてしまおうと思っているわけだ。
私は今懐かしい友人にあってテンションと警戒心がぶっ壊れ真っ最中。そんな中、普段の私なら対処出来る出来事も浮かれぽんちの私なら対処出来ない。……有り得るよね、絶対。
ここからは運任せと行き当たりばったりの作戦になってしまうが、麦わらの一味の行動パターンと私の災厄運任せなら多分想像通りに行くはず。
運任せ、最高に運のない私が賭けるのは悪運の方。
──ガチャリ
「もしもしおかきさん……?」
ボソリ、と声を出して私は伝えた。
「作戦変更、鉢合わせからオークション、第4プランに移行。これより作戦、開始です」
それだけ伝えると私は電伝虫を切った。
電伝虫の有り難い所は相手の表情を電伝虫が真似してくれる点だろう。電伝虫はセンゴクさんの真似をして頷いていた。
私は気配を消し、公共トイレの窓をあげるとそのまま裏に向かってトイレから脱走した。表にはナミさんが私を待っている。だから彼女達に気付かれない様に出るなら小柄さを生かして窓から。
そして青いリボンを片方、地面に置いおくのも忘れない。
香水をバリンと割って地面に落とすとその液体を少々掬って手首に擦り付ける。
「んむっ」
建物の隙間を縫う様に暗がりに走り込むと、私は乱れた呼吸を整えさせた。
肩で息をする。
そうしていると流石私の災厄というかなんというか。
目的の人物が現れた。
「撃たれたくなけりゃ大人しくしてな、お嬢さん。いや、海賊」
「どうもこんにちは、人攫いでーす!寄生海賊なら容易いなァ!」
「叫ぶなよ、叫んだら殺すからな。少女ってのは死体でも売れるもんだ」
私は後ろを振り返ってその輩たち相手に涙を溜めた。
どうもこんにちは、寄生で懸賞金上げていると見られている自覚のある実力系ハッタリ派潜入捜査海兵でーす!
「ころ、殺さないで。お願いです、い、いの、いのちだけは……!仲間も呼ばないです、だから、ッ」
シャボンディパークの人攫いの縄張り、私が知らないと思うなよ。
待ってました、人生2度目の人攫い体験!
運がいいね!
……悪運が。
有難いけど、個人的には外れて欲しかった運頼みだった。現場からは以上です。
==========
最初に異変に気付いたのはルフィだった。
「ナミ、ビビ、ロビン」
「どうしたのルフィ」
「リーが居ねェ」
ルフィの指摘に3人は顔を見合わせて化粧直しの時間について説こうかと思っていた。
しかしそんな中、変態的なセンサーを搭載した変態さん。ナミがルフィと同じく「リィンが居ない」と口を開いた。
「……リィンが悲しむ気配を察知したわ」
「ナミさんってリィンちゃんに盗聴電伝虫でも付けてるのかしら……」
「やめなさい、何も付いてなかったらどうするの」
恐ろしいとばかりにロビンがビビの思考を止める。ナミは化粧直しをしていたはずのトイレに駆け込むと、地面に落ちていた青いリボンを1つ拾う。
「……ルフィ、やっぱりいないわ!それにコレ、リィンのよね」
ルフィはリィンが大事に付けていたリボンをナミから受け取ると(ナミは未練がましそうにリボンを見てた)、そのリボンを無くさないように腕に巻き付ける。
なんだなんだと視界のうちに居た一味が集まってくる。ロビンが現状を説明してみれば、一味より比較的シャボンディ諸島に詳しい魚人族の2人が顔を見合わせ、もしかしたら、と呟いた。
「人攫い、かも」
一味はリィンがレイリーと人間オークションで出会ったという話を脳裏に思い返していた。
『私普通に売られるしますたよ?』
余裕な表情だった。
……。
「仲間の一大事だってのにちょっと安心しちゃった俺を誰か殴ってくれ!」
「俺が殴ってやるから同じ罪状で俺を殴ってくれ」
がしりとウソップとサンジが結束を固めた。なお二人同時に殴りあったが当たり前のようにウソップが吹き飛ばされた。
「リィンちゃんなら1人で脱出出来るかもしれないな」
リィンの狙いは麦わらの一味を人間オークションに誘導することだった。人を売買する胸くその悪い施設に進んでいくとも思えなかったのでこうして誘導することに決めたわけだが。
ある意味信頼の高いリィンはそこまで心配されてない様だ。
「チョッパー君?どうしたの?」
「鼻が曲がりそうだ、この匂い多分アラバスタの香水……!」
「クエーー!クエックエッ、クエッ」
「えっと、カルーがトイレの裏から香水の匂いがするって。多分リィンのだと思う」
「あら、彼女、明確に助けを求めてるわね。多分自分じゃどうにもならない状況なのかも。海楼石着けられて、手足を封じられて、それなら彼女も脱出出来ないでしょうね」
「サラリと怖いこと言うなよオメー」
ニコ・ロビンがそのメッセージ性に気付く。
「スンッ、匂い、多分辿れるぞ、俺っ」
リィンが態々香水を割って体にも同じ香りを纏った理由。
助けて、追いかけてきて、というメッセージを伝えるという建前上の、目印なのだ。
「どうするルフィ」
「もちろん助けに行く!」
これがリィンではなくケイミーやナミなどであれば、仲間もどうするかなんて聞かず満場一致で助けに行っただろう。
日頃の行いだ。悔い改める事は一生ないだろうが己の犯した数々の所業を思い返す良い機会になればいいな(願望)。
「仲間なのよ!売り物じゃないの!」
ナミは1番
「そうは言われても商品は既に運び込まれているんですよ。バイヤーと金額のやり取りも既に終わらせましたからねェ」
その前ならお話は別ですが、ニコニコとピエロの様な格好をした男がそう答える。冷静さを欠いたナミは怒髪天を衝くがそれを制してロビンが口を開いた。
「人の売り買いなんて世界中で
「人聞きの悪いことを。──しかし、そうですね。政府や軍の関係者は我々と話をしても人身売買という言葉が
「なっ、最低!正義を背負う者が人身売買を容認するだなんて……っ!」
「………、そんな予感はしていたわ」
反吐が出る事柄にビビが軽蔑する。これまで世界の闇を見てきたロビンはそんな純粋な仲間の姿を見てやはりとため息を吐いた。
ふつふつと怒りを沸かせるナミがボソリと呟く。
「いいわ、皆行きましょう……」
「でもナミさん!」
「…………手が出せないなら、ここのルールで私のリィンを取り戻せばいいのよ。活動資金のある海賊の物欲、舐めないでよね」
麦わらの一味の貯蓄は30億に届くか届かないかという、リィンのぼったくり(物理)によって潤っていた。
ちなみに麦わらの一味にリィンが買われた場合ナミが所有者となることは皆考えなくても分かる事だろう。一応対抗馬としてルフィが居るが、どっちみちリィンにとって素直に喜べないだろう。ウソップは静かに目を閉じて合掌をした。ラーメン。
==========
「なんかすごいウソップさんに馬鹿にされてる気がする……!」
カチャカチャと海楼石の錠を手首に着けられながら首に爆弾を装着した私は何かを察した。
超余裕です。
やっぱり海水や海楼石こそ最強の手段だ。
私は海楼石に封じられて何も出来ない姿なので周囲に警戒されていない。能力者に海楼石、これ、世界の安心ポイント。
つまり警戒されてないということは油断や隙が生まれる。海楼石付きの私は世間的に見ると圧倒的に弱者である。
だから海楼石効かない私ってすごくチートだよね。そもそも能力者じゃないんだから。
「……二度と脱出はさせないからな」
「流石に海楼石付けられて能力で逃げようなんて真似は出来ませぬぅ」
どうやら私が1度来たことがある人間オークションに売られた模様。
顔知ってたみたい。やっほー2年ぶり!
バチりとウインクしてアピールすると職員が嫌そうな顔をして木箱に腰掛けた。あ、監視ですね分かります。
脱走した前科ありますもんね。
「職員さん私ってスタートいくらから?」
「懸賞金」
「900万か……。でも人間の相場金額って50万からですよね?約20倍もちゃんと売れるですか?」
これは純粋に相場との差がどれくらいあっても売れるのか知りたい。いざとなったら私はナミさんをここにぶち込む。ナミさんだって賞金首、しかも若くて才能溢れる航海士だから絶対売れる。
「それは最低金額。むしろなんで知ってんだ」
「他が70万から、巨人族と人魚族が8桁……。あ、能力者って時価ですたね。だからか」
「いや、賞金首は名の通り首に金がかかってるからそれが最低金額だ」
「初耳」
オークション形式なら仲介代を取られるとはいえ、懸賞金より金額が高くなるのなら賞金稼ぎより人攫いの方が増える。
ドフィさんも上手い商売思い付くよな。資金の余ってる貴族や天竜人から金をオークション形式で奪い取る。
そもそもオークションってお金を用いたゲームだ。特定の誰かより高い金額出して購入するという楽しみ。
ちまちま小競り合いをしてる行為自体が楽しいものだ。
ドフィさんも昔はだえだえ言ってたんだろうか。見てみたい気持ちはめちゃくちゃある。
「天竜人がいるから余計な真似はするなよ」
「もちろん」
それを知っているからこの日を作戦決行日に選んだんですから。
心の中でほくそ笑みながら適当な段差に腰掛け足を組む。
視界の端で髪を結ぶゴム隠しに使っている青いリボンが揺れた。
1つは目印として置いてきたからもう1つはバランス悪いし外しておくか。アイテムボックスにこっそりしまっておこう。
「天竜人、ねェ……」
私は自分の番号と同じ数字の書かれた木箱にドカりと座ると足を組んだ。
……やっぱり謎だよな。天竜人自体が。天竜人は800年前世界政府を作り上げた20人の王族の子孫。世界貴族の別称だ。
そう、王族の血筋なのに世界
王の座をわざと空けているのか、ただ馬鹿であるのか。少なくとも世界政府を作った王達は賢王と呼ばれる部類の者だろう。
私の身近な天竜人と言えばドンキホーテだ。関わりのある、要は好意的って意味で。
ドフィさんは色々知ってるっぽいけど天竜人や政府と敵対中。シーナは幼かった事もあり天竜人というシステムをよく知らないらしい。
後は護衛任務で知っている天竜人……。そこら辺はあまり関わり合いたくない。気に入られたが最後だと思ってるから。
私の2つの顔。『リィン』と『女狐』は、捨ててもいい顔を『リィン』に選んだ。だから最悪リィンは死んでいい。気に入られても怖がられても嫌われても、捨てれる顔。優先度は低い。
だけど女狐は今の私の最後の砦。
女狐を消すことは難しい。
2つとも命が危うい立場だから他の顔を作らないと……。
「……あれ?」
天竜人って、政府って、空白の歴史って、古代兵器って、一体なんだか。
海賊王の一味、つまりレイさんやフェヒ爺は知っているんだよね。
じゃあ見習いの2人は?
シャンクスさんとバギー。あの2人も謎が多すぎる。そもそも見習いと言ってもラフテルまで辿り着いたのか、歴史を知っているのか、そこが分からない。
覇王色持ちの四皇シャンクスさんに肩書きだけがすごいバギー。あの2人確か兄弟分だったな。
肩書き、か。
……ちょっとセンゴクさんに打診してみるか。バギーは私と同じ部類のような気がしてきた。利用出来る。
それとバギーにビビり倒してた海賊なりたての私は黒歴史だから穴に掘って埋めたい。
「あとは」
やっぱり問題は私が無知なこと、だよなぁ。海軍、強いては政府の中枢に腰を据えているというのに。世界が隠したい事も真実も情報操作も何も分かってない。
ただ知ったかぶって怪しげな雰囲気作ってるだけだ。『女狐』を容易に消せない人物に仕立てあげなければ。そのために、ボロを出さないように。
「……ぎ、次!」
「うはい!?」
「……次だ、売り物」
「あ、私か。気付かなかった」
オークションの出番が来た。不安そうな顔をした職員が私の手に繋がれた海楼石の錠。鎖を手に持つと引っ張る。
てこてこと余裕な顔でついて行く私。
そんなに不安そうな顔をするなって!
バチコン、とウインクしたら更に不安そうな顔をした。
非常に愉快。
「……今度奴隷買ってみるかな」
「お前が奴隷だ!」
海賊を売って、その資金で身寄りの無さそうな人間を買う。ありだな。好待遇にすれば、私無しじゃ生きられない様にすれば裏切る事も無さそう。
あと純粋に気になる。
ま、ここは多分潰れるだろうけど。
ごめんねドフィさん、ここたしかドフィさんの直接的な店だったよね!ドフィさん自体は誰かに責任押し付けるだろうけど心の中で謝っておく!
「おい誰か暴れる16番に鎮静剤打っとけ」
「もう煩わしいから物理的に鎮静させるすればどうです?」
「「「お前は商品!」」」
はい、17番リィン大人しくします。
『エントリーNO.17、続きましても買いの商品。美少女の奴隷!話題の一味、懸賞金900万の〝堕天使〟リィン!育ち盛りの14歳!』
ステージを照らす光が眩しい。
司会者がサングラスをしているのはこの光の中競りの司会をする為に付けているのか。
『包丁を持たせれば料理を!箒を持たせれば掃除を!雑用なんてお手の物!ご覧下さいこの愛くるしさ!メイドにするも良し、海軍に渡すも良し、鬱憤晴らしも良しですが有効的に扱う方が良いでしょう!』
……。私はこの紹介について何も言わない。
『スタートは900万ベリーから!それではプラカードを……おっと1800万!これは早くも2倍!』
「1億ッ!」
『何ィ!?え、こんな小娘に1億とか正きぃった!』
ナミさんの声がして驚くも隣の失礼な司会を蹴りつけた。
ノー、文句は、言わない。お前一応商売人だろうが。自分に有利な売買に文句は言っちゃダメ。
「──5億」
最前席からの声に、場はシンとなる。
「5億で買う」
最前席はVIP席。そういうのは決まっている。
シャボンに包まれたフォルムは誰がどう見ても天竜人だった。
『え、えー。5億で決まりでしょうか。これは対抗がいなければこちらで決定と…──』
「なんの!10億よ!」
『はぁあぁぁああ!?正気か!?』
ごめんそれは止めない。数ヶ月前の私もきっと同じ感想を抱くだろうから。
「……ウチのクルーがゴメンね」
「ほんとだよもう胃が痛い」
マイクを遠くに置いた司会者の悲痛な声が耳に届いた。私は天を仰いだ。天竜人相手に余裕で競り出来るのか。そこまで度胸あるのかナミさん。
「23番グローブの薬をオススメしておくぞ。──ゴメンね、開き直って」
私が死んだ目で告げると最前席からの声が響いた。
「15億」
「……うっっそだろコレ別に目玉商品じゃないんだけど」
「18億!」
『ちくしょうやってやらァ!18億出ました!桁間違えてないよな!?』
「20億」
『ここで20億!最早史上最高値を超えています!人魚姉妹以来でしょうか!』
「……なあお前自分の価値上げれるか?他人に比べて何が出来る?」
「…………それ、言わなくても理解される事ですけど」
お金を惜しむ程度の価値じゃない。改めて言わなくても分かっている。ナミさんも……──ロズワード聖も。
「強いて言うなら可憐さ?」
『24億でました!ロズワード聖のこれでラストでしょうか』
「聞けよ」
「30億よ」
ナミさんのプラカードが上がる。
これが麦わらの一味の限度額だろう。
私はこっそり目を閉じた。
あぁ、資金からして絶対ダメだよなぁ。ダメだもんなぁ。私は知ってる。……だからこそ人さらいに攫われるのをこの日に選んだんだから。
「──35億」
静まり返る会場。そんな中私は口を開いた。
「40億」
「……はい?」
「だから、買うです。私を。40億で」
ぽかんとした顔をした司会者。ただしマイクは離れた場所にあるのでそこにプロ根性を感じる。
「……いっそ価格を釣り上げて伝説になるしかないかな、と。そちらの方が嬉しいですよね?」
「……そりゃそうだけどデタラメの資金を競りに出すなよ」
「……大丈夫です。資金があるので」
海に出て10年溜め込んできた貯蓄。
『リィン』の切り札はこれだ。
「ギャンブルでちょっと」
『まさかの商品からの価格提示!どうやらギャンブルが得意な様子です!どうですかロズワード聖、切り上げますか?』
「45億」
「50で」
『ま、まだまだ釣り上がる価格……いやマジで桁間違えて無いですよね?』
「彼は出しますよ。本物ですから」
「……──え、ロズワード聖とお知り合い……?」
「彼は本物なのです、本物の……」
資金のある麦わらの一味と競り勝負をしてくれるだろうと期待した本物の。
「──ロリコン」
『ロリワー…間違えた、ロズワード聖70億!国家予算とか超越しているぞこれ!』
「他の貴族から借りるんでしょうかね……それとも私の年単位の貯蓄を軽々上回る金額は月収程度なんでしょうか……。泣いてないです、別に泣いてないです。悔しくないです。ぐすん」
『ロズワード聖70億で決まりました!あ、ありがとうございます!』
なんかすごく悲しくなって顔を覆った。
コレクションは海賊の船長なんじゃないんですかロズワード聖。
でも、ほんと、海軍雑用として聖地に赴いた時。ロズワード聖に目をつけられた。女狐には興味ないらしいが雑用リィンには大変ご興味を持ったらしい。
世界会議の王族はリィン=女狐だと知っているが、世界貴族はリィン=女狐だと知らない。全員の共通認識というか、憎き敵だろうと世界貴族に余計な情報を落とさないのが世界会議の常識だ。
1部例外はいるんですけどねー。
ちなみにロズワード聖、私の手配書に圧力掛けてる超本人だろうからな。ONLYALIVEと聞いて絶対ロリコンロズワード聖だと思った。
ロズワード聖、YESロリYESタッチの人だから。当時は睡眠薬こっそり気体化させて昏倒させたけど。
「お父様……」
「リィンだえ!ようやく手に入れたえ!」
前代未聞の金額での取り引きだ。現金支払いなんて物はないんだろう。懐には一般人からしたら結構な額を入れているんだろうけど。
「ご主人様と呼ぶんだえ」
わざわざ迎えに来たロズワード聖に膝をついた。ロリが好き、を称してロリコンと言うんだ、多少の不敬を少女は許される。媚び売るのもいいけど、私の本番はここからだ。
麦わらの一味と天竜人を衝突させる。
天竜人という大義名分があれば海軍の戦力を合法的に送り込めるとはセンゴクさんの談。ただ、『大型ルーキーがいるって名目があるんだから別にいいんじゃないか』とは指摘したんだけど『政府ではなく海軍内部で問題がある』と言われた。
「ご、ご主人さ」
ギリ、と手に力を込めて悔しそうにそう呟く。
ここら辺でルフィに視線を送り助けを求めればきっとルフィやナミさんなら天竜人の意志に反してでも助けて──。
「──ぅえ」
首輪が急に動かされ首が締まる。首輪がなにかに引き寄せられている様に、私はロズワード聖の元から離れ客席に向かって飛んでいった。
首が、首がしまる!
どさりと肉厚な壁に背中からぶつかり息を詰まらせる。首輪は海楼石製じゃないので金属なのだが、固定された様に動かせない。
「え、え、何、誰、天竜人は」
天竜人の場所を見るとステージから遠く離れた、とにかく出入口側へと飛ばされた?引き寄せられた?様だった。
私は上を見上げる。
「面白れェことになってんじゃねェか、お前」
そこにいた輩は赤い髪。
「あ!」
「──
口を開こうとした瞬間一気に視界が変わった。目の前には呆然としたキッドさんと、私が居たであろう場所には白いつなぎの愉快な帽子を被った男。
するりと肩に体重がかけられる。
「妹の方、まさかお前が海賊になるとはな。見た時驚いたぞ」
「ちょっとキャプテェン!?俺をシャンブルズしないで欲しぐえ!!」
「邪魔だ」
肩に乗っかった顔は不健康な隈があり、もふもふのキャスケットを被っていた。
「うげッ」
名を口にしようとした、その時。グインと伸びてきた腕が私の肩を掴んで引き寄せた。
「お前らうちのリーに何してんだ!」
鼻腔をくすぐる海の匂いに安心感を抱く。
「ルフィッ」
名前を呼んだがルフィは海賊2人を睨み、口を開いて。
……ちょっとまって、こいつらの組み合わせはまずくないか。
「リーに手ぇ出すな!リーは…──」
「へぇ、テメェが麦わらの一味。騙されてんじゃねェか?」
「どんなあほ面かと思えば、なァ」
あかん。
「俺の妹だぞ!」
「大佐の娘っ子に」
「革命屋の妹のほ……」
「「「──は?」」」
3人の船長は首を傾げた。
大型ルーキー最後の2人。
キッド海賊団船長ユースタス・〝キャプテン〟キッド 懸賞金3億1500万ベリー
ハートの海賊団船長〝死の外科医〟トラファルガー・ロー 懸賞金2億ベリー
狂気の沙汰ほど面白い。
私に演技を教えてくれた人はそう言った。もちろん他にも教えてくれた人はいるけど、長期ではなく短期間で演技をする時はとにかく目立つ様に濃く、と。
不信感があってもいい。
とにかく目的に合ったキャラ作りを。
濃いキャラは濃すぎる周囲を参考にしたり、物語を参考にしたり、様々だ。
例えば、誰かと数分だけ会話して情報を引き出す時は『無邪気で無知な知りたがりの少女』を演じた。引き出す内容は道を聞いたりだとか些細なことも多かったけど。実年齢より幼く、笑顔で、光しか知らない、恐れなど知らない、そんな子を…………。
……。
あ、はい、現実逃避です。
「どういう事だ?リーは俺の妹でリーの父ちゃんは海賊だぞ!」
「お前こそどういうつもりだ。コイツは
「いやどうせ親は革命軍だろ?革命軍の兄と中身そっくりだったじゃねェか」
「はァ?あの大佐そんなに歳食って無かったが」
「何言ってんだお前ら。リーの兄は俺とエースで、リーの父ちゃんさっき会ったばっかりだ!」
「……はい?」
「は?」
「んん?」
短期で演じたキャラの矛盾点がここまでタイミングバッチリに被るってこと、あるんですね。不信感があっても目的に合った設定。
「私の奴隷を返すえ!海賊!」
とりあえず天竜人ぶっ飛ばしてもらう、ってことはしてくれないんですか。
「今すぐ覇王色が目覚めるしてこの場の全員気絶してくぬかなぁ」
淡い希望発絶望行き海列車、出発しまーす。
この3船長の出会いを書きたいが為に、北海組が出ても私はグランテゾーロにローを投入しなかった。