2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第217話 麦わらの一味の〝旅行〟先

 麦わらの一味の剣士は慎重な男だ。その鳴りを潜めつつあるが船長も仲間も熱くなるとデメリットをガン無視して突っ走る。それを止めるのがこの男の役目だった。

 

 情に厚く感情的になりやすい麦わらの一味の中で、静観し、そして締め役となる。

 

 それが顕著な証となって現れるのは対リィンの接し方だ。

 良くも悪くも、リィンに執着が無いのだ。

 

「いっ……たくねェ」

 

 肉球型にえぐれた地面の上でゾロは起き上がった。

 霧がかってる視界の悪いその場所は心までじめじめしそうな陰湿な島だった。

 

「なんで生きてるんだか」

 

 応戦しつつ聞いた会話では海底に飛ばすだか何だか言っていたような。そう記憶を掘り出し、掘り出し。

 掘り出しすぎた時、自分が生きている事の謎に答えが出た。

 

「アレ、七武海だったな」

 

 絶望しか目に映ってなかったが自分をここに飛ばした男は王下七武海の1人だった。結構リィンがフレンドリーなタイプの。

 うん、と納得してゾロは状況整理のため島を歩き始めた。対価として己が方向音痴だという事を忘れて。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の航海士はそりゃあもう残念なお人だった。リィンを愛しリィンを愛でる。愛に生きる残念筆頭。

 とは言えど彼女の優先順位は自分>リィン≧お金>(越えられない壁)>その他なので時としてリィンを利用するのだが。

 

「ここは、空島?」

 

 気圧の変化を感じ取ったナミは島を歩きながら周囲を観察した。シャボンの仕組みはよくわかっていないが、シャボンディ諸島と似たような気候なのは確かだ。

 

「参ったわ……リィンが絶対迎えに来れない場所よここ」

 

 リィンは喜んで辞退するだろう。それ以前に迎えに来れる場所だったとしても謹んで御遠慮させていただく人物だ。

 つまりナミのすることは決まった。自力でシャボンディ諸島に戻る事だ。どうやら風任せに動いている島、という訳ではなさそう。媚びだ。媚びを売るのだ。愛想を振りまくのだ。

 

「焦ると何も出来なくなる。こういう時程落ち着くのよ私!」

 

 ナミはリィンを愛している。育ての親に裏切られ、傷付いた彼女を癒してあげなければというありがた迷惑を考えていた。そう、とりあえず愛していた。

 

「……。」

 

 例え嘘だらけの笑顔だったとしても。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の狙撃手は勇敢な男だ。どんな相手だろうと牙をむく。まぁ、ツッコミという概念の中での話だが。根本にある度胸といった意味ではルフィに次ぐだろう。

 

 男は鍛えられていた。肉体的な意味ではなく、包丁を持てば今の人類には克服出来ない前衛的な創作物を作り出し、箒を持てば空を飛ぶというハチャメチャな奴の得意分野的な意味で。

 

「…………。」

 

 七武海と対峙して死ななかったのはまだ問題としていい。だって七武海だそこは仕方ない。七武海問題は大体アラバスタで悩み終わったので問題ない。それよりも問題なのは辿り着いたこの美味しそうな食べ物が実る豊かな島だ。

 鍛えられた勘が何かを訴える。あァ、わかってるぜ俺の超直感。自分を疑わずこいつを疑え。

 

「希望とはすなわちろくでもない絶望!優しい餌などあってたまるか!こんちくしょう!」

 

 鍛えられた男。ウソップ。

 目の前の恵みは普通に罠としか思えず1口たりとも口にしてたまるかと心に決め、敵(島)情視察と相成った。疑心暗鬼が最近のデフォである。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の料理人は情に厚い男である。敵だろうと味方だろうと見捨てるという行為が全くできない甘い男だ。

 それは美であり愚である。

 

 そして男サンジ。彼はとある海兵に似てきていた。

 

「オカマ、ばっかりかよ」

 

 周囲を見回せど気持ち悪い容姿ばかりだ。

 そんな空間でサンジは何故か心境的に落ち着いていた。

 

「………やべぇ、これはやべぇぞ俺」

 

 その落ち着き自体に焦燥感を抱く。心境的に矛盾してるだろうがそれどころじゃない。

 

 どっちつかずの立場。敵も味方も関係ない男はあの海兵に似てきていたのだった。

 

「(まさか……! レディ恐怖症……!?)」

 

 麦わらの一味のレディは見た目が素晴らしいし癒されるし美しい物は愛でていたい。が、ぶっちゃけ積極的に関わりたいとも思わない。そう、観賞用だ観賞用。残忍、残念、残酷、残虐。アレ、おかしい、目からオールブルーが家出してくる。

 

 オカマという未知の存在に囲まれたサンジは己のアイデンティティを失う事実に気付いてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の医者は人間初心者だ。人間の生き方、感覚、分かりはするが理解は出来ない。ただそういうものだと純粋に覚えるだけだ。

 元が違うのだ、仕方ない。

 

 チョッパーは種族的にかなり中途半端な存在だ。

 

 トナカイとしての生き方も分からず、人間としての生き方も分からない。本能は分かる。ただ人族に限りなく近いミンク族とはルーツが違っている。ただこの世に1匹だけの化け物だ。

 

「……この島、俺が思ってるより文明が栄えてるんだな」

 

 それでも彼は理解を止めようとしない。

 1匹だけの化け物は『チョッパー()いい』と認めてくれた仲間達がいるからだ。

 

 人間にならなくてもいい、という意思はチョッパーにとって飛躍的な進化を及ぼす。

 

「皆、大丈夫かな」

 

 チョッパーにとって種族などもうどうでもいいのだ。

 嬉しい時に笑い、悲しい時に泣く。ただそれが同じであるのだから、それでいい。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の考古学者は孤独だった。恨みはあった。世界を、そして仇である青雉を憎んだ。

 

「……寒い」

 

 1人で明かす夜は寒かった。こうして飛ばされた今、それを思い出した。麦わらの一味で過ごした日々はなんて暖かかったのだろうか。

 自分が弱くなっていると思った。弱音なんて自分にはもう無いものだと思っていた。

 

 膝を抱えて冷気に体を震わせる。

 

 恨んでいた。

 リィンに会って、アラバスタで歴史を見失って、青雉と対面して、もうよく分からなくなっていたのだ。サウロが生きている、何故だろうか、それは青雉の仕業だったのだろうか。

 

 突然目的地を見失った気分に陥る。

 

 生きる意味が見いだせなかった。上手く、息が出来なかった。

 

「……寒いわ」

 

 でも、もう救われたから。

 生きる意味はあの船に全てある。

 

 ロビンは頬にこびり付いた一筋の氷を割ると前を向く。

 

「七武海ってホントろくなの居ないわね。リィンは許さない」

 

 とんだとばっちりに涙目でピーピー喚く小娘を想像するだけで少し体温が上がった。今生きる上での目的地はリィンをギャン泣きさせることだ。黙祷。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の船大工は少年のままだ。全然成長してないと言うより、昔から自分をどこか別の存在だと思っていた。早熟と言えばそれまでだが、そうというには判断力が鈍く、気に入らないものはとことん気に入らず、腐れ縁の相手と喧嘩ばかりしていた。

 

 現実感喪失。

 否、病ではない。

 

「なんだァ、ここは」

 

 フランキーはサイボーグだ。己の肉体ですら創作物の括りに入っている。現実味のない肉体改造が命を繋ぎ止めた事に違いは無い。

 

「……にしても、見事にバラバラになったな、全員」

 

 頭を掻きながら漠然とした不安が現実のものとなったことに薄ら寒い奇妙な感覚を抱く。

 

 言うなら将棋やチェスといったボードゲームだ。

 嫌なところ、嫌なところに駒を置かれ、気付けば動ける場所が少なくなっている様な。

 

 リィンに依存する麦わらの一味にとって悪手なのは確かだ。

 

「とりあえずコーラ探すか」

 

 情報収集も兼ねてこの雪山を攻略しなければならない。まず自分のいる場所がどこなのか。そこからだ。

 

 果てしなく絶望的な状況だが生きているだけ儲けもの。フランキーは意気込むが、外気の寒さに限界を感じ駆け足で適当な仮拠点を探し始めた。

 

 

 

 

 

 麦わらの一味の音楽家は掴みどころの無い骨だ。ヨホヨホと染み付いた唄の笑い声を上げながら曲を奏でる。

 その真意は表情筋がない事も相まって読めない。

 

 1度死を経験した者は強い。

 これはリィンに無い2度目の人生と言った所だ。なぜなら彼女は前世を覚えていないから。対してブルックはルンバー海賊団という前世を覚えているから。

 

「捕まりましたね」

 

 なんやかんや宗教的なあれに呼び出されなんやかんやで手長族に捕獲されたブルックは檻の中で体育座りをしていた。もういっそ骨を全てバラバラにして檻から抜け出そうかなどとホラー映画も真っ青の所業に踏み出そうと思ったが己の本職を思い返す。そうだ音楽家だ、ホラー映画じゃない。

 

 自分は薄汚い人間の欲望で見世物にされている。そんなことに気付かないフリをしてブルックは笑った。

 

「さぁ唄いましょう!ヨホホホ!」

 

 己が笑わずして、誰が観客を喜ばせようか。

 ブルックは音楽家だ。

 

 例え心に不安が渦巻いていようと、(テャマスィー)がある限り、誰より世界を楽しみ笑うだろう。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ネフェルタリ・ビビは麦わらの一味である。役職はまだ無い。

 と言うより、彼女は仲間より自分が優れている点というのを探し続けていた。その長所こそが、力になれるのだと知っているから。

 

 見つからないから焦っている。──ということは微塵たりともなく。楽園(パラダイス)腐活動(しゅみ)押し付け(かたりあい)海賊生活を楽しんでいた。

 

 その矢先一味完全崩壊。

 

 ビビは軽く絶望を抱きながら飛ばされた先で生き延びようと知恵を凝らしていた。

 

「うーーん……。どうしましょう。こんなの経験ないわ」

 

 悩むのも当たり前だ。

 

 ビビが飛ばされた先では島の大きさは裕福な一般家庭の敷地程度。島というより小島だ。そして1度海に出ると上陸不可能なのが考えなくても分かる程ネズミ返しになった地形。食料を海から取る事も、小舟を浮かべても戻ることが出来ない。

 更に絶望的な事に、この島には草木が微塵たりともなかった。どこか故郷(アラバスタ)に似た気候に懐かしさと、そして雨が降らないだろうという予感に自然と冷や汗が垂れる。

 

 地面は岩。食料の宛もなく、綺麗なまでに地平線。

 

 唯一の希望と言えば、その島には大分立派な建物があったことくらいだ。ただし、何年も住んでいないのか所々風化していたし、食料などは期待出来ないだろう。

 

「火を起こせることさえ出来たらSOSを発信出来るかしら。うーん、他人の助けを待つくらいしか出来ない気がしてきた……」

 

 ここから先の動き方というのが未知の領域過ぎてビビは困っていた。

 それもそうだ。本来なら彼女は王家の娘として教育を受け、国のために生きるのだから。

 

「ひとまず、うん、水よね」

 

 ただ、アラバスタに似ていると言うならその気候の恐ろしさや対処法などは分かっている。ビビを延命させる知恵は、微かに存在した。

 

 ビビは古ぼけた家を見た後、意気込んで探索を始めた。

 

 

 

「……謎しかなかったわ」

 

 探索が終わったビビは机にぐったりともたれかかった。気持ち的に布団などに寝転がりたいのだがどうしようも無い程ボロになっていたのだ。

 

「この家の持ち主、大分金銭面に余裕があってカッコつけなのね」

 

 小屋の1階はキッチンなどの水回りや、書庫、そして長机に何脚もの椅子。キッチンは念を入れて探索したが瓶詰めのジャムが生き残っているだけで、ほかは全くダメであった。捨てることなく一応残しておく。

 ギシギシと音を鳴らしながら恐る恐る登った2階は部屋が3つほど並んでおり、吹き抜けになった下のフロアが見下ろせた。中はベッドや机、つまり客室の様な場所。奥にある1番大きな部屋は他に比べて装飾品などが立派だった為小屋の主が使っていた部屋だろう。

 

 

 全てにおいて、風化していた。恐らく何も使えないだろう。

 

 

 無駄に凝った装飾に客室。拠点というより別荘と言った方が似合うが、全くバカンスにもなんにも適さない島だ。意図がわからない。

 

「何より!バカなのかしら!木造建築がこの気候に合うわけないじゃない!」

 

 風化速度が早いと思った。

 風も強く吹き荒れるステップ気候に見合う建築じゃない。アラバスタを見習えとばかりに憤慨する。自然の恐ろしさを舐めてるとしか思えない。せめて石で造れと訴えたい。

 

「もう…──うわぁ!?」

 

──バキ、バキッ!

 

 長机が予想外の脆さだった。ビビの重さですら耐えられず落ち、机の下にあった床にぶつかる。……と思いきや、またも何かが割れる音がした。ゴツン、とビビは地面に頭をぶつける。

 

「いったァ……。床が割れた、のに。とても硬い」

 

 机の残骸の真ん中にて予想外の痛さに額を押さえ涙目で蹲る。床に片手を着いた時、敷かれたカーペットの質感に「ん?」と首を傾げた。

 

「カーペットが、丈夫過ぎる」

 

 触らなければ恐らく分からなかった。粗悪な触り心地だが、英才教育を受けたビビにとって物の質や価値を判別することは簡単な事だ。

 

 ビビは起き上がりカーペットを引きずって端に置く。カーペットの上にあった机ごとズルズルと。

 

 するとカーペットの下からは先程の衝撃で割れた床と、島の地面が見えていた。普通であればあまりにも低すぎる床だと思っただろう。

 そこに隠し扉さえなければ。

 

 流石に怪しさ満点の様子にビビはひくりと顔を引き攣らせた。

 これ間違いなく上の小屋自体が飾りだ、と。ここから下がこの小屋の持ち主の本拠点なのだと。

 

「ん、んんーっ!」

 

 かなり重たい扉を一生懸命上げようと数分格闘する。何とか開けきれた時、ビビの手は赤くなっていた。

 

「よし、行きましょう」

 

 

 

 真っ暗な地下に踏み込んで見た物。

 

 そこは島の岩がただくり抜かれた空間だった。四方の壁側には棚のように岩が削られており、その中には缶詰めや保存食、そして金銀財宝が鎮座していた。

 

 備蓄。何かあった時の資金源。

 

 そんな言葉が頭の中をグルグルと回る。

 

「……あ!」

 

 石の部屋の中心にはガラス張りの半球ドームが、これまた岩の机の上に置いてあった。そのガラスの中は見覚えのある白い紙。

 ビビはポケットから肌身離さないでいたレイリーのビブルカードを取り出した。

 

「やっぱり、ビブルカードだ。この小屋の持ち主はまだ生きてるのね」

 

 このビブルカードを元に誰かが辿り着いてくれないか、そんな期待を抱いている。だからこそ誰かが来るまで生き残らなければならないのだ。ここの備蓄は最悪1ヶ月持ってくれるだろう。

 

「……このビブルカードには、何も情報が書いてないわね」

 

 千切れた先、又はこのビブルカードの持ち主がビブルカードの進む先にある。得られた情報はそれだけだ。

 だが、完全に忘れ去られている島というわけでもなさそうだ。

 

「生き残るわ、絶対に」

 

 まずは水を作らなければ。金銀財宝も今はただの道具。ビビは今ある物を覚えながら頭をフル回転させ始めた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 カルーは麦わらの一味最速の足を持つ生物だ。ビビ1人乗せたとしても速度は全く変わらないためアラバスタでは生まれた時からビビの護衛として育てられてきた。

 

 BWという危険な組織に潜入した時も、カルーはついて行った。どちらかと言うとその時期からのコンビだ。

 

「クエーーーッ!」

 

 カルーは足が速い。ただし、ビリーの様に空を飛べる訳では無いし、水の中を泳げる訳では無い。

 シャボンディ諸島から別の島に飛ばされた今、最も船に戻れる可能性の低い生物だ。

 

 ドボン。

 

 飛ぼうと努力していたカルーが大きな音を立てて海に落ちた。

 

「………クエ、クエェ」

 

 カルーの計画として、途方もないが進化だ。

 この島なら大きな波もなく、溺れる心配もそうない。海に向かってひたすらに飛び続けた。

 飛距離が伸びると言うより跳躍力が育つと言う方が正しい表現だろうが。

 

 カルーはブルブル身体を震わせると羽に着いた海水を落とした。

 

「キャー!鳥さんが水浴びしてる!」

「離れるザマスっ!どんな病原体を持ってるかわからないのよ!」

「あの子が好きそうだよ、ねぇ連れて帰ろう!」

 

 思わず首を傾げる。

 人間2人が自分の事で話し合っているのは分かった。

 

 1匹では埒が明かない事もあり、2人について行くことに決めたのだった。

 

 

「んねー、んねー。この鳥、麦わらの一味の鳥じゃないか?」

 

 鼻水を垂らしながら大男がカルーに顔を近付けた。

 グエ、と苦手意識からか1歩下がり、エンガチョー!と言いたげに翼を自分の前でクロスを作る。

 

「麦わらの一味って言えばリィンでしょ。玩具にでもしとく?」

「へぇ、麦わらの一味だったんだ。ペットかな」

 

 最初に出会った少年がカルーを突く。ボフッと羽毛に指が埋もれた感覚が面白かったのか何度も何度も。

 

「ま、殺されたらあたしの布団にしてあげるねー!」

 

 カルーはその言葉に飛び去って距離を離した。

 その生物の反応に、話し合いをしていた4人が目を見開く。

 

「人間の言葉、伝わるんだ」

 

 少年の言葉にカルーは全力で頷いた。それはもう全力で。

 いくつか言葉が伝わるか、人間の文化を知っているか、それの確認のため、イエスノーで答えられるような他愛ない質問をいくつか繰り返す。

 

 少年は見るからに目をキラキラ輝かせカルーに抱きついた。

 

「キャー!あたしこれすっごく欲しいわぁ!」

「グエエエ!」

「ダメ。若様に指示もらわなきゃ。今ならまだ出発してないでしょ?」

 

 コンコンと扉をノックする音が少女の部屋に響いた。名前を呼び、入るよー。と言う軽い挨拶。

 若い2人は面倒臭いのが来た、と言いたげな表情になった。

 

 入ってきたのはメイド服を着た女だ。片手に書類を携えている。

 

「ようやく居たァ。私この前の仕事失敗してるから、この案件は引き継ぎ」

「やだあんた、失敗したのぉ?あんなに順調だったじゃない!」

「仕方ないでしょッ!若様も納得してくれたんだから!」

 

 少年が目的だったようだ。女はプンプンと頬を膨らませながら書類を引き継いだ。

 

「そういえば若様どこにいるか知らない?」

「え?若様ならもう出発したけど?」

 

 その回答に予想していたのか4人はため息を吐いた。

 

「若様ってホント……」

「なになに?若様に急用があったの?」

 

 キョトンとした表情の女に全員がカルーを指さした。女は目を見開くと思わず口を開く。

 

「カルガモ戦士!……は!そういえば新聞で麦わらの一味が完全崩壊したとかって言ってたわ!若様、すっごく微妙な顔して信じてなかったみたいだけど」

「じゃあじゃあ、このカルガモあたしが貰ってもいいかなぁ?」

「だーーーめ!少なくとも私の親友の仲間なんだから!」

 

「……クエッ」

 

 そこはかとなく嫌な予感がしたカルーは窓の外を見た。

 

 わぁ、いい景色だなぁ。

 

 王宮から見下ろした景色は向日葵が太陽を求めて空を向いていた。この場がどこなのか分からないが、単純で純粋な迷いの無い現実逃避だ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ゴーイング・メリー号は麦わらの一味の船であった。過去形だ。

 本人も覚えてないがちょっと色々あって人間の形を保っている。

 

「ヘェ、じゃあここ海賊がいっぱいいるんだね」

 

 メリー号は誰かの船にもたれ掛かりお話をしていた。

 ニッコニコと笑顔で。

 

「んー、僕シャボンディ諸島まで帰らなきゃいけないんだけど。1人じゃ船に乗れないんだよねェ。どうしたらいいと思う?」

「……。」

「あ、大丈夫だよ!僕船だったから操作自体は自分の事のように分かるんだ!」

 

 船と。話をしていた。

 

 周囲の人間に聞けば良いというのに船の感覚が抜けないのかメリー号は船と話をする。周囲はぶっちゃけドン引きだ。積極的に無機物に話しかける少年など見た目が良くても関わりたくない。故に人攫いなども発生してないのだが。

 

「あ、でもサラさんとかの動かし方は分からないや。……うん?船尾中央舵方式のキャラヴェル船だよ。うん、結構前の技術みたい」

「……。」

「えっと、妹はアダムのスループ船。凄いんだよ、もう可愛くってさぁ!それに空だって飛ぶんだ!まぁ、僕も飛んだけどね!」

「……。」

「えへへ、ありがとう。ホワホワするね」

 

 純粋に怖い。

 喜怒哀楽が成り立ってる分余計に怖い。

 

「……ガキ、俺の船に何の用だ」

 

 耐えきれなかったのか船の船長らしき男が声をかけた。メリー号は巨漢の男を見上げる。

 

「キミが、この船の船長さん」

「ん?テメェ、見覚えがあるな」

「ねーえー、キミがガスパーデ?」

「……気のせいか」

 

 ガスパーデはなにかに喉の奥に小骨が引っかかった感じになるがまぁいいかと首を振った。

 

「で、ガキ。何の用だ」

「ただお話してただけだよ。ねー、サラさん!」

「……?サラさん?」

「この船の事だよ、サラマンダー号のサラさんっ。あ、そうそう、ガスパーデはもしかして元海兵さんなの?」

「……なんでそう思った?」

 

 船の名を知られていることに嫌な予感がするがガスパーデは一見無害な子供の顔を見た。目を合わせた。

 

「んーっと、クザンとかとそっくりの服着てるから」

 

 ガアァンッ!

 

 ガスパーデはその名を聞いた瞬間メリー号の首を掴んで叩き潰す。その衝撃で船には穴が開いてしまったが、気にもとめない。

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

「ガキ、海軍関係者が」

 

 首が絞まり、内側が異常を知らせたのか咳が込み上げてきた。壊れてないだろうか、この身体はまだよく分からない。

 メリー号は宙ぶらりんのままガスパーデの瞳を覗き込んだ。

 

「その手、離してよ。人間」

 

 瞳の中に映る無機物的な何か。

 ぞわりとガスパーデの背筋が凍った。

 

「僕、クザンとか女狐とか、あとガープだったかな。その人間とは話した事あるけど。えーっと、胃痛親子の名前は……そうだセンゴクサン!センゴク。話してないけど会ったことある!──海軍はそれくらいしか関わりないよ?」

 

 いやピンポイントでそこかよ!というツッコミが周囲から入った。

 

 価値観というものが根本的に違うので何がおかしいのか分からずメリー号は首を傾げる。更に自分が殺されそうな事、など全く理解してないようだった。

 

「あーあ、サラさんに怪我させちゃった。早く修理してあげてね」

「ナニモンだ、テメェ」

「えへーっ、人間なんだァ!」

 

 いやそれくらい分かるわ!というツッコミが周囲から入った。

 

 とても嬉しそうに言うので倫理観とかなんかこう人間にあるべきものが欠けてる気がする。気のせいじゃないと思う。ガスパーデは怪訝な顔をした。

 

「そうだガスパーデ、僕シャボンディ諸島まで帰らなきゃいけないんだけど、サラさんで連れていってくれないかな?」

 

 いやそこで頼むんかい!というツッコミが周囲から入った。

 

 呑気だ。なお、体勢は先程と変わりなくガスパーデの腕はメリー号の首であり、地面に足はつかず、呼吸器官が圧迫されている状況だ。

 

「船で雑用でもしてくれるんなら、連れてってやるぜ」

「ホント!自信ないけど任せて!手始めに誰を貶めればいいのかな?やっぱり常識的に考えて七武海?」

 

 いやなんでだよ!

 周囲のツッコミは虚しく響いたが残念ながら浮かれぽんちと化したメリー号の耳には届かなかった。

 

 『いつ』とは言われてないことに気付くだろうか。

 下手をすれば一生雑用(概念)だ。人間初心者のメリー号に、サラマンダー号は不安げな声を上げた。声などないが。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ビリーは麦わらの一味で1番の新参者だ。そして恐らく1番若い。

 人間の言葉は多少分かるがちょっと賢い家育ちの犬程度の知能を持っている。不安だ。

 

 そんなビリーが辿り着いた場所は雷鳴轟く島だった。

 

 雷体質のビリーは雷にあたろうとダメージを受けない。なんなら心地良さまで覚える。

 

 

 ビリーは空を飛べるし海も泳げる。ただし浮遊島から出たばかりのビリーは世間知らずであり、どの方向に進めばいいのか分からない。

 そう、ビブルカードを持っていたとしても。それ自体の説明がされてないのだった。

 

 

 実はリィンは人攫いに捕まりに行く前気付いて居た。そこから怒涛の展開になって一味がバラバラになることも簡単にわかる。首謀者だからこそ。

 まぁ別に人間じゃないしそのまま野生に帰ってもいいかな、なんて事を考えていたので気付かないフリをしていたのだったが。

 

「………………鳥?」

 

 雷鳴に紛れる小さな声がビリーの耳に届く。クオ、と返事をしながら振り返れば人間がいた。

 ルフィも雷の中生きているので人間の中にはそういう種族もあるのだろうと勝手に想像する。

 

「驚いたぞ鳥。貴様雷では出来てないな」

「クオ、クオー!」

「ヤハハハ、じゃれるな」

 

 ビリーはその人間の周囲をグルグル回りながら触ったり興味津々といった様子で交流し始めた。男は不快に思わなかったのか愉快そうにビリーに体を預けた。

 

「貴様はこの環境で育った鳥か」

 

 その問いには首を振った。

 ビリーは男を背に乗せると有無を言わさず空を飛んだ。

 

「ヤハハハ!これはいい!青い海が一望出来る!」

 

 男は高笑いした。

 意味は分からずとも喜ばれていることには違いない。ビリーは上機嫌になって雷の降る島を飛び立った。

 

「赦そう鳥。我を背に乗せ青海を渡ることを」

 

 地形を全く知らない1人と1匹の、それこそ4つの海とかそういう常識的なことが欠如した2人組の長い旅が始まった。

 




ビビは無人島ですが他の人外3匹はお分かりになりましたね。
くっそ悩みました。

私は多分メリー号に夢を見すぎているんだと思う。好き。ゾロと並んで霊圧消えるけど。
幕間はこれにて終了。次回からインペルダウン編突入します。
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