2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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インペルダウン編
第218話 人の顔面を掴むのに遠慮が無い世界


 

 level6無限地獄。

 そこに投獄される者は起こした事件が残虐の度を超えた者、政府に不都合な事件を起こした事により政府から存在をもみ消された終身囚・死刑囚が幽閉されるフロアだ。

 

 インペルダウンに放り込まれて腹時計的に1週間。

 流石大監獄。この周辺の海域になのか。それとも海底だからなのか。少なくともlevel6にいる限り電伝虫が通じない。

 

 海軍本部にも、センゴクさんにも、テゾーロにも、月組にも。全てが連絡を取らないようにしている、って可能性もあるので一応念の為フェヒ爺や無関係の人にも掛けてみた。繋がらなかった。

 

 そんな情報を得ることが出来ない状況で私、リィンは。

 

「ハー、監獄って素晴らしい」

 

 文字通りの『休暇』を楽しんでいた。

 流石に監視の電伝虫はあるだろうから手枷足枷を外すことは出来ないので硬いベッドで休んでいるだけだ。

 

 それでも、それでも。

 

 暇なのって素晴らしい!

 暇だ暇だと言える時間がこんなにも幸せだとは!

 

 level6は拷問があるわけでも無いしただの退屈だから外敵が来る恐怖もなくて万々歳!

 

 周囲の牢獄と切り離されているのか、会話することもできない。けど、けど!それでいいんだ!会話してその相手のやばさに胃を痛めなくていいから!このフロアでの交流はもれなく私が死ぬ!

 

 想像以上の快適さに私は自堕落を思い出してぐでんぐでんと暇を満喫している。

 

 そりゃ粗末なご飯だし1日1食だけどないって訳でもないし、私自身が大食らいって訳でもないし、寒くないし暑くないし毒盛られてないし。

 は……!私監獄暮らしがしたい……!

 

 ご飯配達してくれる看守を抱き込めば暇潰しとして話とか内職とか出来る気がするし!飽きたら抜け出して適当なフロアの囚人と喋ればいいし!なんだよパラダイスかよここ!

 

 休暇万歳!大監獄万歳!

 私の最終防衛ライン監獄!決定ねコレ!処刑とかってなったら全力で逃げるけど!無限の暇って最高!

 

 青い鳥(ブルーバード)のお仕事?いやぁもう仕方ないね、この状況なんだから。仕方ない仕方ない。電伝虫頑張ったけど頑張った上で無理だったんだから仕方ないね!(とびっきりの笑顔)

 

「あ、いた!」

 

 何故か聞き覚えのある声がして牢獄の外を見てみるとルフィが居た。

 なんだルフィか……。

 

「いや、ルフィ!?」

「ルフィ君、仲間はいたか?」

「おう、見つけた!」

「ならいい。早く脱出しよう」

「わかった!」

 

 全力でクエスチョンなんだけど誰これなにこれ。見覚えあるぞ。誰だこれ。

 オレンジと白のツートンカラーの人は手をハサミに変化させると私の牢獄の扉と手枷足枷を切り落とした。

 

 呆然とする私の腕をルフィが引っ張る。

 

 私は足をもつれさせながら走ると事情を聞くために口を開いた。

 

「ルフィどういう事ぞこれ!」

「助けに来た! 助けてくれ!」

「どういう事なの!?」

 

 もう謎しか無い。

 

「イワちゃん!リー連れてきた!」

「早かったわね麦わらボーイ、level5.5までとにかく登って脱出準備を……何故居るのゴア王国ガール!?」

「は!?革命軍のイワンコフさん!?」

 

 その場にはゴア王国で1度だけ会った今世紀最大に気になる顔の大きい男か女かちょっとよく分からないドラゴンさんの部下であるイワンコフさん(名前は又聞き)と。

 

「リィンお前さん、怪我はしとらんか!?」

「は……?なんで、リィンがここに居るんだよい?」

 

 ボロボロの姿の七武海であるジンさん。

 そしてエースと一緒にいるはずのマルコさんが待機していた。

 

 私の素晴らしき頭脳は発揮する。

 ツートンカラーの見覚えがある人、イワンコフさん、麦わらの一味でルフィだけ。それにマルコさんとジンさん。

 

 ジンさんは私が監獄にいる事を疑問に思ってないから情報を得た状態でこの場にいて、マルコさんは居ることに驚いているから情報を得てなくて。それに囚人であって、そしてエースの姿はここに無くて。

 

 それは私の記憶と似ていて。

 

「……エースが、処刑される……?」

「流石だよい。昔言ってた予知夢の話とほぼ同じだ」

 

 恐れていた予知夢が現実に起こってしまった。マルコさんの同意で状況は悲しくも当たっていたし、予知夢の事は白ひげさんとマルコさんにしか共有してないから残念なことに現実だ。

 

「──おい」

 

 ……。

 

 そしてセンゴクさんが私をインペルダウンに投げ込んだ理由が分かった。あの人、私を戦場から遠ざけたかったんだ。余計な真似をしないように、エースの妹である私を。

 情報規制も私対策。くっそ、出遅れた。完全に出遅れた。

 

「それでマルコさん、出入口は?」

「…………リフトは閉じて階段からは睡眠ガスだ。天井をぶち抜くしか方法は無い」

 

「おいコラリィン!聞こえてんなら反応を示せ!!」

 

 ガン、と牢獄の中から海楼石を壁にぶつける音がした。

 わざわざ背を向けていたのに名指しできやがった。

 

「戦力いるのわかってるけど、俺、ぜっっったいあいつ出すの嫌だ」

「麦わらボーイが完全拒否してね。ヴァターシが弱味を握っていると言っても拒否してるのよ」

「あ、俺も無理。というか白ひげ海賊団は基本アレは拒否すると思う。アイツの口説き文句なんだと思う?『白ひげの首に用がある』だよい?無理無理」

「わ、わしは別にいいと思うんじゃがなー……」

 

 ルフィ、イワンコフさん、マルコさん、ジンさんの順で私に伝えてきた。

 ポケポケとした表情でジンさんは言っているが振り向きたくない。

 

 声かけられる度に冷や汗がドバッと出てくる。

 

「……これから脱出するのに有効な能力ではあります」

「でも!」

「好きにさせるしなければ、いいですよね?」

 

 気心知れてるというか使いやすい存在というか、便利だし有効だし未知で無知で未開の地よりは……。よし。

 覚悟を決めて回れ右をした。

 

 牢獄の中に居るのは囚人服を着て手枷を付けたクロコダイル。背後に何人か囚人がいるが格が違うというか。なんというか。

 

 緊張感で手が震えるのを自覚する。それをぎゅっと握りしめて名前を呼んだ。

 

「……クロさん」

 

 胸が早鐘を打つ。

 握りしめた手にじわりと汗が滲んだ。

 

「ヴァナータ、クロコボーイと知り合い?」

「どう……しよう……っ」

 

 思わず口元を手で隠して高鳴る胸を必死に押さえ込もうとする。耳のすぐ側で心臓が動いているみたいに、音が近くで聴こえる。

 

 震える唇で私は素直な気持ちを口に出した。

 

 

 

「──この状況面白すぎて高笑いしたい」

「「「「なんでだよ!」」」」

 

 多方面からツッコミが入った。

 

「いや、だって牢獄の外にいる面子はほぼ全て反対派で唯一縋れるのが私で、()()()()という立場にいるのですよこの人!私が圧倒的に上、コイツ下!最っ高に快感じゃ無いですか!?」

 

 思わずマルコさんに訴えるとマルコさんはクロさんに哀れみの視線を送り、私を見て、何かを確認する様に頷けば──天を仰いだ。

 

「これが、血筋、か……」

「ハーッハッハッハ!クロさん今どんな気持ち?ねぇねぇどんな気持ち?私に見下されてる現状どんな気持ち?教えてよどんな気持ち?ねぇねぇ?」

「最低だコイツ……」

 

 マルコさんのドン引き声が耳に入るが私は絶賛大爆笑中。七武海様が牢の中に入った状態で私に出してくれとプライドもへったくれもない頼み事をする羽目になるって最高にプライドへし折れるし侮辱もいいとこだし私逆の立場になりたくないわー!下に見てたやつに見下されるとか屈辱でしかならないし!私には到底出来ないね!流石七武海様!

 

 涙が出るほど笑えばクロさん器用に檻から鉤爪を出して私を引き寄せた。

 わぁ、よく海楼石に触らずに手を伸ばせるな。

 

 ……すごく既視感ある。

 

 檻越しでよく会いますね!

 

「ぶち殺すぞテメェ……!」

「ところでクロさん、私とある少女の腕の中ですやすや眠る少年の写真所持すてるのですけどぉ。──ど〜うしましょ〜?」

 

 どうする?欲しい?と写真を手に持って盛大な煽り顔をするとクロさんは心を読まなくても分かるくらい屈辱に身をふるわせた。

 

「なんか分かんないけどクロコボーイ可哀想ッチャブル……」

「クロさんの弱味を握る貴方に言うされたくは無いと思うです」

 

「リィン……お前なァ……」

「あ、やだ私ったらてへっ。……メイドさんの写真も出てくるしちゃった落としちゃう〜」

「ジ ン ベ エ !」

「リィン、クロコダイルを虐めるのもそれくらいにしとくんじゃ。後が怖いぞ」

 

 クロさんはジンさんに救援を求めた。心得たとばかりにジンさんが私の脇に手を入れ抱き上げる。

 別名捕獲。余計なことしないようにですね分かります。

 

 クロさんは怒りに身を任せ海楼石の錠でガンガンガンガンと行き場のない怒りを壁にぶつけていた。なるほど、煽りまくったらクロさんはあぁなるのか。他の七武海の反応も是非見てみたい。

 

「……こいつロリショタコンか」

 

 ボソッとマルコさんが狙った通りの勘違いを起こしたのが今日のハイライト。

 あ、ロリショタコンで思い出した。

 

「じゃがクロコダイル、ホントに出たいのか?」

「そうですよ。出たいです?別にそこにいるしても問題ないですけど」

 

 私の気持ちの大前提だが、私はクロさんを出してもいいと思っているし、むしろクロさんをアラバスタで潰す前から釈放賛成派だった。私のインペルダウン行きが想定外だ。

 ジンさんと私の言葉にクロさんは首を傾げる。

 

「ここは退屈だ、出たいに決まってるだろ?」

「ほんとに?ホントに出たい?本当です?」

「なんでンな念を押すんだよテメェはよォ」

 

 だってクロコダイルロリコン説は絵本の力も借りて今や世界中に広がって……。

 

 

 

 

「………………えっ。まさかご存知ない?」

「いや、まさか、リィン、アレの事じゃろう?」

「多分以心伝心可能であると思うですが、()()です」

「その、放送の……」

「ソレです」

 

 だって放送があった時期はまだギリギリクロさんはスモさんの船に乗った状態でアラバスタに居たはずだか……ら……。

 

 

「何の話してんだお前ら。俺が入ってからシャバでなんかあったのか?」

 

 

 純粋無垢な子供のような顔で首を傾げられた。

 

 

 ……。

 …………。

 

 

 うん。

 

 私は真顔でスっ、と針金を取り出すと牢獄の鍵、そして海楼石の錠をピッキング(のフリ)で外す。

 

 自然と頬が緩み始める。

 私は砂漠を蜂蜜色に染め上げる輝かしい朝日のような笑顔でクロさんを見上げた。

 

「ようこそシャバへ!」

「その不気味な笑みはやめろ……──こんなに可愛い笑顔なのにみてぇな感じで心底仰天する顔もやめろ」

 

 こんなに可愛い笑顔なのにッ!!!??

 

 同意を得るため他の囚人に視線を向けると無理無理と言った様子で首を全力で横に振っていた。不服でござる。

 あとクロさんが『可愛い笑顔』って単語を口に出すの面白すぎて録音してドフィさんと笑いたい。

 

「えー、リー、俺すっげーいや……」

「にいに……ダメ?」

「ダメじゃない」

 

 にっこにっこ笑顔でルフィが手のひらを返した。

 

「あのガール、ひょっとして世界最強……?」

「分かる」

 

 マルコさんが全肯定botになる前にさっさとlevel6から脱出しないとねー!

 

 イナズマさん(名前は聞いた)とクロさんが協力して出口を作り始めた。麦わらの一味に関わると無駄に時間が削れると分かってるクロさん発端だと思う。

 天然産魚人族のジンさんは頑張れ頑張れと2人を応援していた。おかしいな、旗を振る幻覚が見える。

 

 つまり出口作ってる最中、私とルフィとマルコさんとイワンコフさんは暇というわけだ。

 マルコさんの囚人服を写真に収めて白ひげ海賊団四番隊隊長のサッチさんに売りたい。多分大爆笑してくれるはず。私がクロさんの囚人服に笑えるんだ、きっと同じ。

 それを餌にお菓子作ってくれないかなー、って思ってたり。

 

「…………。」

「うるさいねい」

「否定はしないです」

 

 ところでさっきっから気になっている周囲の囚人の出せ出せコール。

 level6の囚人は基本億超えしか居ない。精鋭は監獄脱出にも戦争割り込みにも使えるけど、世から消されたこのlevelは制御という点から絶対に無理。もうそろそろ煩わしいな。

 

 

 私は大声でlevel6に告げた。

 

「──その牢獄の中でデスマッチぞしてください!その牢で1番強い者ぞ連れて行くです!」

 

「…………げ、外道だよい!?」

 

 おおおおお!と(たけ)りたち、牢獄の中で殺し合いが始まった。殴る蹴るの暴行が、見るに堪えない人間の醜さが露見する。

 出すわけないでしょ馬鹿。

 

「バギーさーん、出ておいでー」

 

 私はそんな中踵を返し、1つの牢の隅で気配を消そうと頑張ってる青髪赤鼻ピエロにジェスチャーした。

 その男は私を救世主でも見るような目で見て……。

 

「副船長のガキッッッッッ!」

 

 しまった、更に怯えた。

 

「うわぁぁぁああぁどっちに転んでも地獄じゃねーかコレ!前門のドS外道!後門の鬼!出たいけど出たくねぇええ!」

 

 バギーは屍の広がる牢獄で唯一の生存者だったらしい。私の方に近寄るけど一定の距離以上は近寄り難いみたいだ。

 

 いや、唯一じゃないな。

 奥にこの惨状を作り出した男がいるのか。

 

「おい、青い方、今なんつった」

「前言撤回!今すぐ出してくれ!ほら!早く!」

「わ、わかるますたよぉ」

 

 奥の男が口を開けばバギーは耐えきれないとばかりに私に縋った。腕の海楼石をグイグイ檻越しに押し付けようとしてくる。落ち着け。

 

 ガチャン、と檻の鍵を開ける。ひとまず怖がっている様子のバギーを牢屋の中から引っ張り出し、腕の海楼石の鍵を外そうとした。

 

「おい」

 

 奥に座っていた男が声をかける。

 うわ……意味がわからないくらい強い……。

 

 鍛え抜かれた肉体は牢獄生活でもきっと衰えもしなかったんだろう。無駄な筋肉がなく締まっている。人を倒し、殺すための肉体兵器。

 ちぎれ耳に、肩から胸に大きな火傷の跡がある男だ。

 

 こんなに強い人見たら忘れないと思う。だから海兵では無いけども、肉付きからしてこの人は。

 

「軍人っぽい……?」

「えっ、と、お前名前はアティウスでもなくてベリアルでもなくて、キティでもなくて…──そうだリィンか!」

「その間違われ方初めてなのですけど」

「リィン!リィンここから早く去ろう!今すぐ!早く!興味を持つな!」

 

 この大男は見上げても目が合わないかもな。

 そう思っていたら相手は膝をついて目線を下にしてくれた。視線が混じり合う。

 

 バギーは私の背に隠れて私を盾にした。おいこらてめぇ。

 

「……。お前が、アレの名付……」

「──こいつはダメだ」

 

 私の視界は真っ黒になった。右手で視界を覆われてしまい、会話を中断せざるを得ない。

 

「行くぞ。その赤っ鼻も連れてくつもりだろ、テメェも来い」

「げぇ!!??し、七武海ッ!?」

 

 目隠しされたまま引っ張られ覚束無いながら歩かされる。何、何!?え、声からとバギーの反応からしてこの手クロさんだよね?

 驚きながらもギャーギャー文句を言いながら私にへばりつくバギーの存在は確認出来てる。

 あの化け物と一体どういうご関係……?

 

「……チッ、生きてやがったか、胸糞悪い」

 

 だからどういうご関係?

 クロさんは忌々しげに舌打ちをすると独り言としか思えない音量で恨み言を呟いた。絶対に見せたりなんかさせないぞ★という力強い(物理)意志を感じる。

 

 私の下にフックがあるから、多分現状は左脇に詰められて、空いた右手で視界を隠されているというか顔面を掴まれている。ってことだね。私このままの状態で能力発動されたら確実に死ぬな。

 

 

「……ナニアソンデンダヨイ」

「弾丸が生きてた、互いが興味持たない内に回収した。以上」

「ナイスだクロコダイル」

 

 ドシャリと私にへばりついていたバギーさんが地面に落とされる音。

 視界が開くとマルコさんの嫌そうな顔が目に入った。

 

「脱出口は?」

「出来てるよい」

 

 天井に目を向けると螺旋状に切り取られた地面が穴に続いている。風化したような穴はクロさんで、螺旋状の地面がイナズマさんの能力だろう。

 

「ところでクロさん私いつ開放される?」

「さぁな」

「あー!砂ワニ!こんにゃろ!リー返せ!」

「別にテメェのモンでもねェだろ麦わら」

「いいや俺のだね!俺の仲間で俺の妹で俺のライバル!」

「分かったからさっさと指輪返せ」

「お前から渡した癖に……!」

「仕方ねェだろ、それ付けてたら能力使えねェんだからよ」

 

 脱出口の近くでクロさんとルフィが喧嘩し始めた。ハー、男ってなんだかなぁ。

 呆れ果てたので現実逃避で視線を逸らすとデスマッチを早速終えたであろう牢獄を見てしまった。と言うより、中にいた囚人と目が合ってしまった。

 

「……う、わぁ」

 

 出したくない。

 すごく出したくない。無視したい。

 

 けど、絶対便利。

 あの男さえ入れば船を奪わなくても足が作れる。

 

「……うーん」

 

 悩みどころではある。ただアイツの目的次第って所かな。

 

「あ、コラ逃げんな」

 

 ぴょんとクロさんの拘束から脱出すれば例の牢獄に向かい駆け足で近寄った。脱出するメンツはなんだなんだと私に視線を寄せる。

 

「あ!お前!」

「パーレイと行こうぜ、クレイジーちゃん」

 

 ルフィの驚きの声。

 その牢獄に居たのは首に海楼石を繋いだ金獅子のシキだった。

 

 舵輪を付けたその格好はやはり目立つ。否応がなしに覚えてしまうよね、このフォルムというか格好というか。

 

「リィンお前さん、どんな伝手をしとるんじゃ」

 

 ジンさんが呆れたとばかりにため息を吐いた。

 その伝手の中に自分も入っていることを忘れてるな、魚人族。私が聞きたいわそんなモン。

 

「俺が望むのは脱出手段だ。クレイジーちゃんの腕での鍵開けを頼みたい」

「それで?それによって私が得る利益は?」

「脱出の力になれる、あとはそうさな、麦わらの一味を殺さない」

「そんなものは大前提ですよ。仲間内で殺し合いぞされては足を引っ張るのみです。足でまとい」

 

 私は腕を組みシキを見下ろした。

 ドスンと背中から何かがぶつかる。正体はバギーだった。

 

「おぉぉぉぉお前ほんとやめろください!喧嘩!売るな!」

「でも私に交渉仕掛けたはあちらですよ?」

「相手は俺達が敵うような人物じゃねーーーーーーの!」

 

 ガクガクと肩を揺さぶりながら涙目でバギーが訴える。

 

「ねェ、私に与える物は何?」

「ジィハハハ……。そっちが素か、イカれてやがるなクレイジーちゃん」

「あと私ナミさんそこまで好き無いです」

 

 手のひらを見せてとりあえずそれだけは訴える。

 シキは爆笑し始めた。

 

──ガチャン

 

「貴方が入れば時間ぞ稼ぐ可能。確実性も増加。それなりに性格ぞ把握、知識まっさらなlevel6囚人より確実に利点はある。…──ただ、私の望みを聞くのであれば」

「いいぜ、聞いてやるよ」

 

 牢の中に入り込んだ私に向かってシキは王の様に宣った。

 

()()()、誰1人として」

 

 シキは酷くガッカリした様な表情を見せた。例えるなら期待外れ、そんなとこだろう。

 

「……甘いなクレイジーちゃん。いいか、俺はここの脱出経験者だ。経験してるからこそ言える。インペルダウンは甘くねェ、戦争ってのは…──」

「貴方程の海賊が、それを言う?」

 

 私は見下すように鼻で笑った。

 

「これから先。一生殺すな。誰1人。敵も味方も殺さずねじ伏せろ、圧倒的な強者で存在しろ。殺さなければならぬ程度の実力しか無いのなら、私は要らない」

「う、裏切り者ーーーッ!」

 

 ごめんバギー今シリアスしてるつもりだから黙って。

 大丈夫私たちは仲間。肩書きを恐れ肩書きを利用しつつ世界から逃げまくる仲間。

 

 ウィーアーナカマ。

 

 だから距離を取るのをやめて、地味に傷付くから。その手に着けた海楼石の錠外してやんねーぞ。

 

「お前の度胸にドン引きするッッッ!」

「私を育てた環境に文句言って」

 

 度胸だけはあるんです。ガクブル震えそうなの我慢してドヤ顔で話出来るくらいには度胸を作らざるを得なかったんです。

 

「ほー、あァそうか、親がアレだもんな。覇王色の素質くらい持ってっか」

 

 シキは何故か納得した様子でこのとんでも条件を呑んだ。真意が分からないけどシキによる死人が出ないだけいいか。裏切るだろうけど。

 

 絶対出さないと思ってたけど、海軍全体(潜入や元雑用だと知らない方々含め)の注目を私に集める位なら、誰もが目を引く存在を目くらましに投入しますわ。

 予知夢ではなんか世界に放送されてたみたいだし。

 

 彼を知り己を知れば百戦危うからずとも言うし、私はシキの戦闘スタイルもある程度の理想や価値観を知っている。そこらでタラタラと戦闘を続けてるどんぐり共よりは余っ程使いやすいかもしれない。

 

「シキ……」

「麦わら、テメェも物好きだな。わざわざ忍び込む……いや、入り込むなんてよ」

 

 シキはルフィの帽子を掴んで手に取ると、麦わらを観察し、素直に頭に戻した。

 

「シキ」

 

 ルフィは麦わら帽子の下で真剣な顔をする。そして見上げてシキに対し忠告をした。

 

 

「──リーに嫌なことされたら俺に言うんだぞ」

 

 

「リーちゃん腹が立つのでお先に失礼しまーーす!マルコさん運んで!」

「自分で飛べよい!」

「無理です!」

 

 デスマッチしてる囚人は普通に見捨ててこのエリアから脱出した。

 




やっと始まったぜ、〝この時〟がよぉ!!
はい、インペルダウンに入ってめちゃくちゃテンション上がってます。久しぶりロリコダイル!期待してるよ!

ところでリィン。そんなに監獄生活が気に入ったかい?よかろう、お前来世は監獄生活決定ね!

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