2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第220話 通常攻撃が全体攻撃で異常攻撃の海賊はきらいです

 

 インペルダウンlevel4。

 その灼熱の空間を私はマルコさんの背に乗って運ばれながらダラダラ流れる汗に負けないよう経口補水液をぐびりと飲み干す。

 

 焦熱地獄。

 毒が気化するこの空間は多分マゼラン署長の独壇場になるだろう。看守がガスマスクをしているのがいい証拠だ。

 

 マフラー代わりに使っていた緑のスカーフネクタイを腰巻きにする。ズボン、実は緩いんだよ。多分私がこの中で1番体格が小さいからだろうけど、貰い物の服じゃサイズちょっと大きかった。

 

 

「リィン、敵さんが来るよい」

「作戦通りお願いするです。…──いま!砲撃ッ!」

 

 

 私の合図に私を乗せたマルコさんと、恩人さんを乗せたシキがふわりと浮かび上がり、向かいくる敵に攻撃を加えることなく無視をして砲弾のようにすっ飛んだ。

 隊列を組むインペルダウンの看守達。その背後に、空中組4人が回り込んだ事になった。

 

「連携重視、決して殺さぬ様、総攻撃!」

 

 インペルダウンの看守は一気に形勢が不利になったことを悟っただろう。前門に億超えルーキーと七武海、後門に私たち。

 進むも地獄退くも地獄。大丈夫、死にはしない。

 

「〝ゴムゴムの…──銃乱打(ガトリング)〟!」

「〝三日月形砂丘(バルハン)〟ッ!」

「……魚人空手……〝唐草瓦正拳〟ッ」

 

「〝蒼炎の追撃〟」

「〝斬波〟」

「〝嵐脚・旋風〟!」

「よっこいッ、………はい?」

 

 

 ドガァン!という大きな音を響かせながらそれぞれが大技を放った。

 こちら側はシキと恩人さんが足技の斬撃。あちら側はルフィとジンさんが拳での打撃。マルコさんは不死鳥、クロさんは自然系という特質を活かしての特攻。

 

 

 私は繰り出そうとした技を思わず引っ込めた。

 

 

「連携と言うより単独技の全体攻撃……」

 

 覇気無しでこの威力とか正気?

 大丈夫?死んでない?

 看守の命があること前提でこのエリア抜けようと思ってるんだけど。

 

 まぁいいか。死んでても死を悟らせなければ良い。

 

「……………じゃあガスマスク外しまーす」

 

 砕け散った石橋の破片をふわふわと浮かせ、狙いを定めたあと銃で狙いを定めるみたいにマスクの金具を破壊していった。

 

「どうしたリー。お前今日絶好調だな」

「残念ながら躊躇う理由が見当たらぬのです……所属経験も無きですし……生きるか死ぬか、監獄生活は流石に無理ですし。正直拷問も死ぬほど嫌」

 

 ゾーン状態に入り込んでいるというか、休息を1週間取っていたお陰か。不思議色をバンバン使える。イメージしやすい。

 

 あとインペルダウンと政府相手なら基本躊躇わない、というか……ねぇ……。政府は秩序維持トライアングル(政府・海軍・監獄)の中でヒエラルキートップに位置してるから立場は若干気にするけど。監獄はなぁ。

 

 ガツガツと倒れ伏す看守に石を飛ばしていると恩人さんが首を傾げた。

 

「なんでマスク外してるの?」

「あー。ここの署長が毒の能力者なのはご存知ですよね。この熱だと毒が気化しそうで。部下が毒を吸える状態にあると知れば無差別的な毒攻撃は防げると思考しますた」

 

「思いつくけど実行しようってとこが凄いとこだよねい」

「流石イカれたクレイジーちゃんだ」

 

 うるせぇイカレサイコパス海賊。お前にだけは言われたくないわ義足片手野郎。

 貴方達2人は比較的脳みそこっち寄りなのは知ってるからな! 特にマルコさん! 白ひげさんの手を煩わせないように予め黒いことで手を汚してる件、私結構知ってるから! 情報屋舐めんな!

 

「しょちょーって、毒使うやつ?」

「そうですぞ」

「アレ駄目だ。仲間ごと毒使うんだ。あんまり意味ないと思う」

 

 ルフィの観察力に一瞬目を見開くが熱気で痛かった。

 

「少人数と大人数じゃ違うと思うのでお試しぞお試し」

 

 使えればいいや、って感じだから。

 私は無駄に被害を拡大させるため生贄を増やしていく。ひゃっほー! 毒祭りだー!

 

 

 

「……似てるようで、似てないような」

 

 ボソリと恩人さんが私を見下ろしながら呟いた。

 

「どうしますた?」

「んー。いいや、エースに任せて良かったかもなぁって」

「エースに?」

 

 恩人さんは私の頭をぐしゃぐしゃとかき回し始めた。うわわわわ、髪がぐちゃぐちゃになる。

 

「折角セットしたのに!」

「ただ結んでるだけじゃんか」

「それでもですッ! アホ毛閉じ込めるにどれほど苦労ぞしたか…──」

 

 ぴょんぴょん跳ねる1部の髪の毛が私の悩みなのに! この人は毎度毎度髪の毛爆発させてさ! 自分がサラツヤだって事自慢したいのかコノ……。

 

「ん?」

「あれ?」

 

 私と恩人さんが同時に声を上げた。

 

「す、凄い既視感が」

「あれ、なんだ今の感覚」

 

 恩人さんと互いに顔を見て首を傾げあう。

 どういうことださっきの感覚。何か、何かを忘れているような……?この人に関して何かを……?

 でも私こんな男の人知らない。記憶にないや。

 

「行くぞリィン、まだ敵はいる」

「え、あっ、待つして引っ張るはこけッ、こけこけこけッ」

「ニワトリかお前さんは」

 

 ちょおおうあ! 転ぶぅぅぅぅうッ! 危ないって!

 クロさんに腕を引っ張られ無理矢理足を動かす。ジンさんが並行してツッコミを入れた。違うそこじゃない。

 

「ぎゃう!」

 

 足をもつれさせていたので思いっきりコケるかと思ったが腕を引っ張られ転ぶ前に引き上げられた。

 

「あァ、悪ィ。股下の格差社会を頭からすっ飛ばしてたわ」

「ごめんですんだら海兵要らねェんだよ脚長お化け。大丈夫? 医者紹介する?」

「足が長くてすまねぇな、チビ」

 

 クロさんの1歩の為に私が歩数をどれだけ重ねてると思ってんだ。この世界平均が高すぎて意味がわからない。

 いやマジで医者紹介するよ? 手始めにローさんとかどう? ついでに物理的に身長縮めて来てよ。

 

「そこ、天下のプライドノックアップストリーム志向共。喧嘩してねェでさっさと進むよい。あーあ、麦わらはこんなに素直なのになぁ」

「「どこが?」」

「こーゆー時だけ声を揃えんな! 失敬だぞお前ら!」

 

 素直というか愚直で面倒臭いよ、ウチの船長兼兄貴は。

 冒険があればパン食い競走のように食いつくんだよ、馬鹿は風邪ひかないという迷信が確信に変化しそうな程の馬鹿だよソレ。

 

「ルフィって悩みぞなさそうで良いなぁ」

「俺だって悩み結構あるからな!」

「例えば?」

「性格悪いやつが賢いとか最悪だなーって」

 

 誰のことを言ってんだいルフィ君。

 あとそれは悩みじゃなくて考え事って言うんだよ。

 

「馬鹿だな」

「馬鹿だよい」

「う、うむ……否定はできんの」

 

 だよね。

 

「若いモンって頭イカれてるよな」

「それは若いモンに限らないんじゃん、シキ。あんたのその手どうしたの?」

「クレイジーちゃんにくれてやった」

 

 ……貰ってないから。

 あと恩人さんはシキと同年代だということが会話で把握した。

 

「シキさん、level3への階段どこ?」

「左だな」

 

 看守第2波が現れた。

 ギロリと全員の目が細まる。

 

 ……これ、私がいる意味よね。

 

 脱獄解放組が後ろから追いかけてくるけど前方組と若干距離取ってるのが過剰戦力度を見せつけてくるよねー。

 

 やっぱり1人でも脱獄出来たというシキがいるのがデカい。それと軽い調子でシキに乗ってる恩人さんもヤバい。身体能力さほど高くないのに柔の技がやばい。結構簡単に人が吹き飛ぶ。

 ……あの動き、似てるんだよな。私に柔術っぽいあれやこれを教えてくれたフェヒ爺に。

 

「来たか、厄介なのが」

 

 現れたのはブルゴリ部隊とそれを笛で操るサルデス牢番長。遠くからドスンドスンと大型の怪獣か何かが向かってくる足音もする。

 

 そして姿を現した怪物は獄卒獣だった。紫色のシマウマに黄色のコアラに青色のサイ……。色々物騒な武器持ってるみたいだけど。厄介だ、覚醒の能力者。という事はサディ獄卒長もいるって事ね。

 

 役職持ちが来たということは一気に片をつける気でもある。ってことは…──。

 

「マゼラン監獄署長がもう少しで来ます!」

「ならさっさと片付けるか」

 

 間違いなく来る。それまでにlevel4は抜け出したい。

 くーー! 能力者便利だなー! 覇気使いだと厄介だけどそれ生身だろうと変わらないし大多数の攻撃無効できる自然系(ロギア)! 不死鳥はありゃロギアだよ。卑怯。

 

吸収(アブソリュート)(ライト)

 

 男の人がコアラの獄卒獣に触れて何かを奪い取る。あの人も能力者ですよね普通に! ……ん? アブソリュート?

 

「リィン、やれる?」

「問題なく!」

 

 そのコアラがフラフラと目を覆いながらも問題なく私に向かってくる。ほかはブルゴリや獄卒獣や階級持ち職員相手をしてるので私が相手せざるを得ないか。

 ただの獣なら一気にNOと拒否するけど能力者なら別物。獣とは違って海楼石が使えるからね。

 

「よッ、うわぁ!?」

 

 ナックルダスターを付けた拳は無事に避けたが、予想以上の風圧で体重の軽い私は結構簡単に吹き飛んだ。バランスを崩した体勢で迫ってくるもう片方の拳。

 

「ッ!」

「く、らうか!」

 

 風は私の得意技だ!

 空気抵抗の為にバサバサと翻るマントに風を集めた。ぶわりと風を吹かせ、私は拳を避けきる。

 

 いつもなら箒で避けるんだけどそれが無い今は『空を飛ぶ』とか『空中移動』とかを別のイメージでやりきらないと詰む。上下左右自由に動けるのが私の利点で他の生物より優位に立てる力。それを利用しないでどうする。

 

「興奮の鞭〝赤魔鞭(アカマムチ)〟」

 

 風を纏い、避けて避けてを繰り返していると鞭が高速で飛んできた。

 

「──危ないなぁ、サディちゃん。ちょっとさァ、人様の戦いに割り込むのはルール違反じゃないの?」

 

 ただし恩人さんが素手で掴みきったが。なんだ、見た目普通だけど常識的に考えて普通に人間辞めてたか。そうだよな。

 サディ獄卒長と恩人さんが鞭に力を込めあって睨み合う。

 

悲鳴(スクリーム)が足りなくて欲求不満なの、お兄さんでいいから、私に悲鳴(スクリーム)を頂戴……!」

 

 ペロリと舌を出すサディ獄卒長は色気満々だったが、恩人さんは眉をひそめず鞭を引っ張ったまま。

 

「〝水かけ遊び〟」

「〝発泡雛菊斬(スパークリングデイジー)〟!」

 

 どこかから声が聞こえ、コアラの獄卒獣が倒れ伏した。横目で確認する。……よし、獄卒獣は放っておこう! アレより先にサディ獄卒長だな!

 私は恩人さんの肩に飛び乗って跳躍するとサディ獄卒長の頭目掛けて蹴りつけた。

 

「きゃあ!?」

 

 子供の蹴りなんてそんな威力ないだろうけど、風を纏っていたから威力は大きく見える。サディ獄卒長は天然パーマの掛かった頭をこれでもかと動かして避けた。

 

 ただ、避けた先にいるのは一瞬で移動した恩人さん。

 

 彼はサディ獄卒長の腕を掴むとそのまま投げ技に移行した。

 あの体勢では投げることは容易だろうなぁ。

 

「あ、やば」

 

 ただし恩人さんがバランスを崩さなければ。

 恩人さんは足をもつれさせて顔から地面へダイナミックキッスに移行した。

 

「……何、やってるですか!」

 

 あそこまで綺麗に技決めといてなんで自分が思いっきりバランス崩してコケるかな! 普通!

 私はサディ獄卒長が体勢を立て直す前に爪先を踏み抜きみぞおちに掌底を喰らわせ、腕を掴んで体を支える土台にするとそのまま両足を首に絡めた。

 

 喰らえ肉体的にまだ差が少ない人用の絞め技。

 

 全力で力を入れても首の骨は折れないだろうけど、勢いの方を重視。絡めた頭が前方に引っ張られ重心が頭に移動した時、私は逆さにぶら下がったままもう一度鳩尾辺りを強打した。

 

「……おお、綺麗に決まった」

 

 我ながらちょっとびっくりする。素人ではこうはいかないし、強者相手でもこうはならない。そこそこ実力があって受け身を自然と取ろうとして体格差も少なくて私と筋力やら色々な差が少ないからこそ地面に叩きつけられた。

 

 三角絞めで意識を落としていく。

 落としてる最中に恩人さんが近寄って来た。

 

「リィンやるねぇ。いやぁごめんごめん、今の体格考えてなかった」

「この野郎馬鹿野郎! 下手に任せれぬことぞしないで!? 初歩とか初心者とかそういうレベルのミスじゃ無きですけどあれ! なんです、二足歩行はじめるして2日目ですか!?」

「うげ、ヒッドイ言われよう」

 

 この人いや!

 もう余計な手出しせずにシキのところでぶら下がってて欲しい!

 

「リィン」

 

 私は首根っこ掴まれてぶら下がった。ごめん私じゃない。

 

「麦わらのところにすっこんでろ」

 

 クロさんに投げ飛ばされてルフィに受け止められる。

 一瞬息が詰まったがソフトに投げられた方なんだろう。

 

「リー? 大丈夫か?」

「ルフィ……」

 

 なぁ世界。

 お前らルフィをクッションに考えてないか?なんか、私が投げ飛ばされる先って決まってルフィなんだけど。ゴムだからか? 人の兄をなんだと思ってるんだ? ちなみに悪に仕立てあげてる事に関しては触れないで欲しい。ブーメランとか知らない。

 

「やー。でもびっくりしたな、アーロンがいるなんてさ」

 

 ルフィの言葉に同意する。

 私が獄卒獣の相手からサディ獄卒長の相手にすぐさま変えられたのはコアラが2人の手によって昏倒したからだ。

 

「早う立て2人とも。早めにここをぬけるぞ。陸上戦で魚人は役に立たん」

 

 ジンさんの言葉に頷いて階段へと急ぐ。後半は認められないけどな。陸上戦でもめちゃくちゃ強いじゃないか七武海。

 

「シャーッハッハッハ! ジンのアニキ! 出してくれてありがとな!」

「やかましい。わしは(イースト)で起こったこと許しちゃおらんからな、アーロン」

「麦わら、ボスは一体どうしたんだ」

「分かんねぇし知りたくもねぇや。で、お前は誰だ?」

「──バロックワークスのコードネームMr.1だ」

 

 魚人海賊団アーロン、そして壱と堂々と書かれた男がコアラを倒していたんだった。

 懸賞金からlevel4にいてもおかしくはないだろう。私はため息を吐いてジンさんを見た。

 

「出したのは素っ頓狂七武海共ですか」

「戦力になるとは思ったからの」

「まぁそうでしょうね」

 

 Mr.1も間違いなくクロさんが出しただろう。でなきゃ前方組に組み込まれない。

 

 そのクロさんはと言うと恩人さんと睨み合っていた。戦場を引っ掻き回すなだとか断片的に聞こえる叱咤の声。

 

 私は前方をみた。

 自然とシキと目が合う。

 

「すごく嫌な予感ぞするんですけど当てていいですか」

「……今だけは現実逃避しててもいいぜクレイジーちゃん」

「イワンコフさんの能力って確か」

「……それ以上は考えるな」

 

 OK! インペルダウン切り抜けるまでちょっと思考からポイするね! 戦場を引っ掻き回す何かとかどっかで聞いた事のあるフレーズだけど! 今は! 触れないで! 蹴り捨てますね!

 

 信じない、私は信じない。自己暗示ならとっても得意。

 

「まがおこわっ」

 

 マルコさんがとてつもなく失礼な言葉を投げ捨てたような気がした。

 

 ちなみに言うとシキもlevel4で自分の部下を脱獄させている模様。ここには居ないから解放組だと思うけど、パントマイムキャラ被り野郎とMr.ゴリラの2人組ね。

 これまでの私の捕縛履歴が無に帰す……。いや、無になるどころかマイナス一直線だ。泣いた。

 

「──ここが地獄の大砦!」

 

 大きな声が聞こえて来て、閉まっていた扉が堂々と開く。そこに立ち塞がるのはでっぷりとした腹で般若の面を被った様な顔立ち。手に薙刀を持ちブンブン振り回している。腰にある服にはインペルダウンの頭文字を組み合わせ切り取ったデザイン、つまりインペルダウンのマーク。

 

「何人たりとも! 通さんぞ!」

 

 ハンニャバル副署長だった。

 看守は薙刀〝血吸(けっすい)〟を持っていることに大興奮して喜びの歓声を上げている。

 

 シキ、マルコさん、ジンさん、ルフィ。そして新たに前方組に加わったアーロンとMr.1という厄介者相手に全く引かず勇んでいる。

 

 諦めない者はめちゃくちゃ面倒臭い。

 これは肉体的に骨を折るより心を折る方がしんどい人種だ絶対。

 

 

「か弱い庶民の明るい未来を守るため! 前代未聞の海賊〝麦わら〟! 署長に代わって極刑を言い渡す!」

「そこどけ!」

「やだねーーーーーッ!」

 

 ハンニャバル副署長の後ろに続くのはバズーカ隊。中の弾は恐らく能力者捕縛用の監獄弾。

 

 あれ、便利なんだよなぁ。私は海楼石の石を縄に結びつける位しか出来ないし。

 

 幸いな事に、バズーカ隊はマスクをしていない。

 月組から貰ったブレスレットを取り出して石をどれにするか選んだ。

 

 ……いや、私の運は頼れないな。

 

「ルフィこの中から好きなの選んで」

「んーーー。じゃあこれ!」

 

 選んだのは中でも一番濃い石。

 おおう、これなんの毒だろう。私じゃ絶対選ばない色だわ。

 

「リー、これ何するんだ?」

「投げる」

 

 グッ、と少し溜めてルフィの選んだ石を投げた。もちろん完全な生身じゃなくて不思議色を使って。

 箒や銃弾の速度になって石は階段の壁に当たった。

 

──ぼふんっ

 

「たーまやー」

 

 前に浮遊島で確認した通り石は強い衝撃で煙に変化した。

 毒々しい色の煙は見るからに吸い込んではならないものだ。結構早めに空気に溶けて消えていくだろうからさっさと吸って欲しいところだけど。

 

「何したクレイジーちゃん」

「元同期からの連名プレゼント……と聞きますたがこれがまた凄い加工の毒なのですよねー」

「一体どこのどいつだその同期、クレイジーちゃん殺すつもりで渡したんじゃねェか?」

「海軍本部元雑用現一等兵。残念無念、私に毒ぞ効かぬことをご存知の人たちなのですよね!」

 

 だからここぞとばかりに使っています。

 

「クレイジーちゃん毒物効かねぇのか」

「あ、はい。恐らく。流石に服毒したこと無い毒物なんて沢山あるですけど薬物科学者が私を毒殺出来ないと匙を投げる程度には耐性あるですよ」

「ダフトグリーンはどうだった?」

「周りのクリーチャーぞいなければ毒だと気付きませんでした」

「……まじでコイツ作戦クラッシャーだなオイ。最初に手足切り刻んで行動不能にさせとくべきだった」

「怖いことぞ言わないで!?」

 

 逞しい想像力が働いてしまって、バタバタと人が倒れていく音を聞きながらゾッとした。

 あ、なんかうめき声がいくつか聞こえる。ざっと1000人はいるだろうから下敷きになった人はたまったもんじゃないだろうけど。

 

「ううん」

 

 煙に近付き吸い込んでみる。

 喉の奥がピリピリと痺れる、生姜みたいな味。

 

「ルフィナイスチョイス! これ麻痺毒!」

 

 月組からプレゼントされたブレスレットの毒の効果がランダムなのが痛い。何故ランダムにした。効果は教えて欲しかった。

 

「リー避けろ!」

 

 煙の中から刃がブンと大振りに振り回された。

 

──ガィインッ

 

 咄嗟に暗器のナイフで受け止める、がもちろん小さなナイフだったのでナイフは割れるし勢いを殺し切れずに吹き飛ばされる。

 

「よ……っと」

 

 ルフィが私をつかんで引き寄せ、無事に終わった。

 うーん100点。

 こういう時カバー出来る実力のある系統がゴロッゴロいると安心するよね。インペルダウン脱獄できるかなとか不安に思っていたのは私です。お巡りさん、前方組の戦力がやばいです。

 

「……この毒で動けるか、副署長」

「か弱き人々にご安心いただくため! お前ら悪党は決して出さねぇ! ここは地獄の大砦、それが破れちゃこの世は恐怖のどん底じゃろがい! こんな毒程度に! やられてたまるか!」

 

 ビリビリと鼓膜が震える程の叫び声。

 辞めてください心が痛みます。一応現役海兵脱獄扇動してる立場の人間が血反吐を吐きそうな程良心が痛みます。

 

「ガッカリですよハンニャルバルルルさん」

「ルが異様に多い」

 

 私は腰に手を当てて鼻で笑った。

 

「正義だの悪だの面倒臭い。正義が悪事をしちゃなりませぬが、悪は正義をしてもいいのです」

「屁理屈な!」

「悪気がないは言い訳にならぬ。罪は罪。それを理解しない権力者の純心こそが、私にとっては許せなかった。まだ海賊の方が悪気がある分マシですよ」

 

 心は痛むけど私自己中心的なんで気にはしませんね!

 良心?言っちゃならないよその言葉は。

 

「どれだけ尽くしても! 利用され! 捨てられる! 血反吐が出るのですよこの世界のシステムは! クズがクズを生み出すことに何故気付かぬ! いっその事全て破壊したき願望で沢山ですぞ!」

 

 『センゴクさんに裏切られた私』ならこれくらい感情的になってもいいだろう。世界に絶望した時のセリフなんて考えなくてもボロボロ出てくる。

 

「正義? 悪? くっっだらない。その行動に名前はつかぬ! なぜだか分かりますか、ハンニャバさん」

「ルを減らしすぎ」

 

 吐き捨てるように私は言ってハンニャバルさんを睨んだ。

 彼は目を見開いて、私を『理解』した。

 

「昔、会っ……」

「──正しいから偉いのではなく、偉いから正し」

 

──ズドォン!

 

 

 

 闇の力を纏った"黒ひげ"がハンニャバルさんを沈めた様な音がした。

 

「……。」

 

 カッコつけるとすぐこれだよ。

 

 私は目を閉じてすぅ、と息を吸い込む。今の気持ちは晴れやかだ。ジリジリと焦がすような熱もダラダラ零れる汗も何も無い。清流に身を任せ美しい木々のあいだをゆったり流れている気分だ。木の影からチラチラと顔を覗かせる太陽は芸術的なまでに美しく、光が透けた木の葉は輝かしい。心が癒される。

 

「ティーチ貴様が何故ここに居るんじゃ!」

「っ、ティーチテメェ!」

「お前っ、黒ひ」

 

 

「──くたばれクソ野郎!」

「──食らうかド外道!」

 

 白ひげ海賊団関係者の憎悪に染る声を余所に私は思いっきりアイテムボックスから取り出した刀で殴り掛かった。棍棒や鉄パイプよりも殺傷能力の高い刀だ。

 

 チィイッ! 避けられた! 仕留め損なったか!

 

 大きな舌打ちをしてギロりと睨む。脱獄組のぽかんとした表情が目に入った。

 

「ぬぁ〜にぃ〜が! 『七武海はただの手段』、ぞ! 今ここにいること自体ぞ目的か! 七武海だろうと穏便には入れぬぞ無駄足野郎ッ!」

 

 『七武海になった場合の黒ひげ』のメリットが全然出てこない! このインペルダウン侵入という出来事はどう考えたってそれまでの過程を比較的穏便に済ますだけ、しかメリットがないでしょう! わざわざ、聖地に潜入してまで、七武海推薦する脳がわからない!

 正直他に七武海になるメリットがあるなら聞きたい!

 

 荒ぶる私は黒ひげに向かって刀をブンブン振り回したり投げつけたりしてた。

 

「この人能力者の実体を引き寄せるが可能なので皆さんお気をつけて!」

「人の能力バラしてんじゃねェ堕天使!」

「バラされたくない能力なれば人に説明するんじゃなきぞ黒ひげ!」

 

 グンと引き寄せられ胸ぐらを掴まれ文句を言われたので言い返す。下品な無精髭生やした頬を思いっきり引っ張った。

 

 説明したのはこの口だろ! 私に文句を言うな!

 

 仕返しなのか私も頬を引っ張られた。いーいーと敵対心MAXで言い争う。お前は世界で3番目に嫌いだ!

 1番がカク! 2番がニコ・ロビン! 殿堂入りで堕天使(ジジイ)!

 

「つーかなんで捕まってんだよテメェは!店を開拓しとけって言ったよな!」

「触れるな!」

「元帥と暴君と女狐にやられたんだってなーあー?」

「触 れ る な!元帥と女狐!くっっそ地雷です!」

 

「は?」

「えっ」

 

 クロさんとマルコさん、女狐だということを知っており、なおかつ新聞を見ていない人達が素っ頓狂な声を上げた。

 私はその驚きに対して苦々しい顔をする。

 

「てっきり海軍のスパイとか勘繰ってたんだがなぁ!ざまぁみろ!」

「むしろここにいるしてスパイな理由を探してる」

「……無いな」

「ですよね!!!!!」

 

 だんだんだんだんと踵が痛くなるほど強く地団駄を思いっきり踏んだ。私なんでこの状況でスパイ出来てるの?それとセンゴクさんの『女狐リィンを殺す』というぶっ飛び思考回路よ。アレ、私の着任って上からの指示じゃなかったかな。

 

 あの人元帥辞めるとか言わないよね。自暴自棄っていうか責任とかそういうのをぶん投げてハイになってるっぽい気がする。

 

「ッあーーーー!!思い出しても腹ぞ直立!あの狐!クソ、クッッソ!」

「手も足も出なかったみてぇだな!」

「なんっっっでご存知ぞクソ野郎!」

「新聞!」

「納得!」

 

「ちょ、ちょっと待てよい」

 

 言い争いをしているとマルコさんが間に入って手のひらを見せ、止まるように指示をしてきた。ただし片手は顔をおおっていて見るからに混乱してますといった表情。

 

「リィン、あんた、『女狐』に潰された、って」

 

 パクパクと口を動かし、声に出す言葉を選んだマルコさん。

 優しいなァ、海軍を辞めたポジションの私だけど、『女狐だった』という事実は覆らない。だから察されない様に、己の目的を誤魔化して聞いてくれている。

 

「言葉通りですぞ。シャボンディ諸島でコーティングぞ依頼。その後天竜人………いや、そんなのはただの建前ですね。麦わらの一味を潰す為に現れたセンゴクさんと女狐。くまさんの機転により直接捕らえられた私以外はルフィの様に生きるしたみたいですチャンチャン」

 

 私は物語を語るように手短に、そして淡々と感情を込めず経緯を説明すればマルコさんは口に手を当てて息を飲んだ。

 言いたいことは沢山あるだろうに。

 

「海賊の子は、どう足掻いても罪なんです。海軍にどれだけ貢献してようが、四皇の庇護下にあろうが」

 

 それは私の事でもあり、エースの事でもある。

 私は副船長冥王の、エースは船長海賊王の。似た者出生同士で育て親も同じ世代。ただ違うのは偽物の海賊か本物の海賊か。

 

 耐え切れなくなり、私はクシャりと前髪を握りしめて顔を伏せた。

 

 

 

 

「……あのセンゴクがァ?」

「いや、うむ、リィンが言うのであれば信じるほか無いが」

「ねェよな」

「ないのう」

 

 そこのすっとこどっこい七武海は口を縫い付けて声帯焼き切るべき。あとその会話前半に『信じられ』って入れてくれないと誤解を生む。下手したら前に『そんなこと絶対有り得』が入るから。

 

 ホントに私の天敵って七武海。死ね。

 見るからに信じてません信じられませんって顔をするな。

 

 

 だけど、とりあえずこれで真女狐=リィンにはならないだろう。七武海は不安だけどともかく海軍の情報を得づらい海賊相手にはマルコさん経由でばら撒かれる筈。特に所属の白ひげ海賊団とか。

 

「いや、うん、だから女狐って何」

 

 恩人さんが真顔で……いやこれは全く微塵たりとも飲み込めてない顔だな。ルフィが不思議うんちゃら~、って言う時と同じ顔をしてる。

 今ものすごく頭抱えたくてたまらない。

 

「お前……どんだけ阿呆なんだよ……」

 

 シキが呆れてものも言えなくなってしまった。はぁ、と深いため息が気苦労を文句の代わりに物語っている。

 対して恩人さんはアハハと苦笑いを浮かべて弁明し始めた。

 

「何度も説明されているんだけどどーにも飲み込めなくってさァ。記憶にないからってのもあるし、てっきりリィンが関係するもんだとばかり……。中身知らないの?」

 

 複数の視線を受けながら私は首を横に振る。ただひたすらに微妙な顔をせざるを得ない。

 リィンという人物は、女狐の中身は自分だと思い込んでいただけの利用された海賊の子だ。あと恩人さんやばい。女狐が私関連だとピッタリ当ててきた。

 

「アッ、そういや……俺は女狐に会ってるぜ」

「「「!!??」」」

 

 マルコさんのお前か、という視線を受けて首を思いっきり横に振りまくる。私じゃ無い、そう、めちゃくちゃ私じゃない。

 そういう演技はした。

 浮遊島でシキと話した女狐は私ではなく別の人物だ。真女狐の方。

 

「アレ口調的に多分男だ。知りたがってた情報から推測するに俺らの世代より下の生まれ、それと最近『目覚めた』って言ってたな」

「……え、目覚めた?それ、ほんとに?その女狐が言ったの?」

「おう、そうだが」

 

 恩人さんはそのまま顎に手を当てて考え込み始めた。

 

 え、なにその反応、めっちゃ怖いんだけど。

 真女狐の中身は設定って意味で全く未知ではあるけどもね、あるけども、中身私だよ一応。なんなら存在しないのよ、旧女狐を勘定に入れると。

 

 つまり、心当たりある方がおかしい。

 

 思わず恩人さんに対してスっと目を細めた。

 その不気味さ、アンバランスさ、異物臭、違和感、似合わなさ、この世界に馴染みない他のナニカ。

 

 ただ私の中での前例があった。

 

 その『世界の外側から』の前例が私自身だ。

 この人、もしかしたら転生者なんじゃないだろうか。それも、この世界に似合わない、前世の記憶を持った。

 

 私は確かに転生しているけど、その条件としてはほぼ周囲の魂と同じ。全ての魂はリサイクルされる。ただ私みたいに、なんらかのイレギュラーが起こるならあのクソジジイだと思うんだけど。

 

「…………あの、女狐談義もいいですけどそろそろ進みませぬ?」

 

 脱獄組が追い付いてきたということはlevel4はクリアしたという事になる。大丈夫、まだ時間はある。

 この監獄で何を求めているのか知らないし、ここで潰しておきたいけど、その余力は無い。

 

「あばよリィン」

「さようなれティーチさん」

 

 互いに進む方向は別。マルコさんは最後まで警戒していたが黒ひげは私の横を通り最深部の方へと向かおうとする。ただし、ふと顔を上げると踵を返し私に顔を近づけ呟いた。

 

「……まるでテメェが女狐だった。みたいなやり取りだな」

「それを今知れたとして…──意味が存在するのでしょうか」

 

 自嘲気味の遠回しの『イエス』に黒ひげが鼻で笑う。

 

「ねェな。強いて言うなら、俺の腑に落ちただけだ。エースの事についてなーんも知らない、ただの小娘だった事にな。偽物」

 

 黒ひげ海賊団で待っているぜ、という誘い文句を告げれば、黒ひげはそのまま背を向けて行った。ホントは殴り殺したいところだけど時間もないんだ。

 そのままマゼランと鉢合わせて潰しあってくれ。

 

「よォし。本当は蹴り殺したいところだけど、どうせ七武海の称号は剥奪されるんだし無視しよう!」

 

「む?」

「は?」

「え?」

 

 元王下七武海と私、つまり関係者が疑問詞を同時に上げた。

 

「「「黒ひげは七武海じゃ ないが/ねェよ/なきぞ」」」

 

 私もジンさんも七武海加入に承認してないから即答出来るしクロさんも予め私経由の警報で七武海の共通認識だから承認しないと察している。そもそも新聞読めばそんな言葉一言も無かっただろうに。

 

「──どういう事なのッッ!」

 

 恩人さんは舌を噛み切りそうな顔で叫んだ。うるさい。




リィンの動きや考え方、思考回路は黒ひげリスペクト(メタ的に)
牢獄の中の潰し合い宣言や正義悪の倫理観。

書き連ねているうちに1万文字超えてたんだが。どうしよう、頂上戦争自体2ページで終わりそうなのに…………バランスが…………。

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