2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第222話 親の顔より見た災厄

 

 

「〝海流一本背負い〟!もどき!」

 

 普段なら羞恥心が勝って技名なんて叫ばないけど、人が居ない事をいいことに海の中で思いっきり叫んでイメージを固めると私のシャボンは海流に運ばれて空中へ乗りでた。

 

「あ、やべ……」

 

 ジンさんの技をオマージュ(パクリではないぞパクリでは)して海底からシャボンごと飛び出たはいいが、その海流の地点に扉が浮かんでた。

 

 しまった……。まだ脱獄には早いと思っていたから居ないと思っていたけど、もう全員脱獄完了してたんかいオーバーキル共め!

 

「──シキさんごめんコントロール手放す不可ー!!!」

 

 止めることも出来ず海水と私が脱獄組の足である即席船(大きな扉)に思いつき降り掛かった。

 

 シキは危うく能力を手放しかけた。

 

 

 ==========

 

 

 びしょ濡れになった即席浮遊船(扉)の上で海水をぶちまけた所業について謝り倒す。能力者が軒並み海水に浸って能力が使えなくなる中、気力で浮遊を保ったシキには盛大な感謝を。

 

 無茶苦茶な方法で乗り込んだことに一通りのお叱りを受けた私は内心お前が言うな存在自体が無茶苦茶な能力者、と恨みを込めたがおくびにも出さず困り笑いをした。七武海にはバレた。解せぬ。

 

「リィンのバッキャロー!お前のかーちゃんでーべーそー!」

「……(イラッ)」

 

 私の方向じゃなくて空に向かって叫ぶ恩人さんは全力でスルー。ビークールビークール。こんなのに感情掻き乱されるのは癪だ。相手してたら精神的なスタミナが減っていく。

 

「……お前、風の能力者じゃなかったのかよい」

 

 若干怒りながらマルコさんが口を開いた。

 

「あー、それが。元々風だったのは確かですけど、結構最近何故か覚醒したのか目覚めたのか分かりませぬが……どういうことなのでしょうね?」

「心当たりはねェのかよい」

「…………海軍を辞める前」

 

 潜入前です、と伝える。それがセンゴクさんが私を切り捨てる事になった原因かもしれないという漠然とした不安を抱えて。

 

 ──という演技をしながら。

 

 対私嘘発見器の七武海相手に嘘を吐くのは自殺行為だけど、完全に嘘じゃないからセーフ。

 そもそも私アラバスタ以降めちゃくちゃ経験積んだので嘘や演技得意です。

 

 演じたい自分を『それが本来の自分だったと()()()()』すると結構役に入り込める。……一瞬のめり込みすぎて自分を忘れるみたいだけど。ちょっと危ないな。危ないと自覚出来ている内が花か。

 

「しかし、即席とは言えこの浮遊船しっかりすてますね。1つ受け持ちましょうか?」

「いや、この程度1つだろうと2つだろうと手足動かすようなもんだ。……っと、テメェら!高度上げるぞ!」

 

 正義の門を前にしてシキが声を荒らげる。下から砲弾が飛び交うが一定以上の高度を保っていた浮遊船(概念)の2隻が正義の門より高く高く飛ぶ。

 

「びょえッ」

 

 私は咄嗟に箒の代わりに使っていたラグを手に持った。頼むぞ私の命綱。くそう、箒が無いの辛いな。

 

「ソッ、それで予想より速かったですけど、level2からはどのような脱獄を?」

「簡単な話だよい。2と1の囚人はガン無視して扉外してクロコダイルが扉を削って加工して全員乗り込んだ。まぁ容量ギリギリだけどよい」

「あァ道理で……」

 

 主戦力や名前を知ってる人間、そしてlevel5.5に居た囚人は右の扉。その他のエリアで解放した囚人は左の扉。左の扉は結構キツキツだ。まだ右の方が余裕がある。

 扉はクロさんが削ったのか箱型になっている。とても船とは言えない構造だけど、空飛ぶから水に浮く浮かばないは問題ないんだよね。

 

「ん?そういえばリィン、箒はどうしたんじゃ?」

 

 ジンさんが私のラグを見て首を傾げた。私が箒を使うことを知ってる人たちも確かにという顔をしている。

 

「ちょっと、壊れますて」

「……ついに壊れたか」

「ほー、あれが壊れたのか」

 

 元七武海が何故か感心した声を上げた。

 あの箒普通のやつじゃなかったと確信した瞬間だ。触れないようにしとこう。

 

「んっ」

 

 私は胡座をかいて座っていたルフィの膝(別名安全地帯)に乗ると顎に手を当てて考え始めた。

 

 さて、こっからどうするかな。

 どう考えても脱獄組の戦力が大き過ぎるんだよ。白ひげ海賊団と脱獄組が完全協力しないにしろ、敵は同じく海軍本部。でも脱獄組が居ないと白ひげ海賊団の勝利は危うい。白ひげ海賊団だけでは心もとないというのもあって脱獄組の戦力を全て捨てるのは勿体なさ過ぎる。だって肝心の白ひげさんは病に侵されてるもの。

 

 つまり脱獄組を削るべきなんだ。具体的にシキ世代。

 でも足が必要だから削れない。後、エースを助け出す事が大前提だから出来れば戦力削りたくないんだよ。戦力削って助けだせませんでした、なんて本末転倒もいい所。

 エースを処刑台から引きずり下ろして白ひげ海賊団と合流させるまではまだいい。肝心の撤退戦が危うい。ターゲット集中先がエースだろうから。

 

 誰かに相談できればいいんだけど、残念ながら『元女狐』になってしまった私は海軍の事情をマルコさんとかに相談出来ないんだよ……!センゴクさんにも相談出来ない……!あとごめんめっちゃ脱獄した……!

 

 とりあえず情報得るためにも私はアイテムボックスから電伝虫を取り出す。

 

「なにしてんだよい?」

「伝手から海軍の情報得られぬかな、と。それと白ひげ海賊団に繋ぎとるべきじゃ?」

「あァ、電伝虫無いから諦めてたけど助かるよい」

 

 白ひげ海賊団と脱獄組が手を組んだら海軍本部に勝ち目は無い。

 だけど、賭けるよ。

 多分彼なら私に連絡を入れるはずだから。この上空ならきっと電伝虫が繋がるはず。

 

──ぷるぷるぷる ぷるぷるぷる ぷるぷるぷる

 

「ピギャッ!」

 

 突然鳴き始めた電伝虫に思わず身を引く。

 

 よし。

 よぉし。

 かかってきたぁああ!

 

 ありがとう来ると思ってた!だって貴方も脱獄組の情報は得たいもんね!こんなクソみたいな頭脳労働者いる中で全てを誤魔化すのはかなりの高難易度だから完全受け身になってしまうけどね!

 

 ──センゴクさん!

 

 そう、このタイミングで私に掛けてくるのはセンゴクさんかドフィさんくらいしか居ない。テゾーロやシーナはそもそも私からしか掛けないし。

 なぜなら脱獄の情報を得ない状態の人間が囚人に電伝虫をかけるわけが無いもの。『電伝虫可能=脱獄済み=脱獄把握(インペルダウンより情報)』なんて限られるんだから。

 

「出ないの?」

「あ、やっさん」

 

 恩人さんが首を傾げながら近付く。私は思わずシキに助けを求めた。待って、『わたし』の設定的に多分いっぱいいっぱいなの。

 ここで電伝虫の相手を察せれた上で、パニック要因が近付いてきたことで、いっぱいいっぱい。分かるね。分かったら助けてくれ。乗り越えられるほど精神は安定してない『設定』だぞ。

 

 ……ん?

 待てよ。

 

 私はサッと顔から血の気が引いた。

 

「出ないならあたし出るよ〜!もしもーし、あられ!」

 

 これセンゴクさんにめちゃくちゃ怒られる奴じゃ──待って!!!待って!!!ちょっと驚きの過剰供給やめてください需要がねェんだよ!!!今このとんでもねぇ恩人さんなんて言った!?

 

 あられって言ったよね!!??

 潜入の合言葉の!

 なんっっっっっっで知ってんの!?

 

『…………は、』

「……!?……!……!?」

 

 はい1言目で分かりましたセンゴクさんですちょっと助けて。

 無差別に周囲の言語中枢を破壊する兵器なんじゃないのこの人。

 

 思わずルフィにしがみついた。

 ワタシ、アレ、ムリ。ニンゲン、コワイ。

 

「ごめんごめんただの戯れ。で、リィンの電伝虫にかけてきたのはどこのどいつかな?」

『誰だ貴様』

「こっちが聞いてんだけど」

 

 センゴクさんの警戒心バリバリの声。対して恩人さんは飄々としている。()()()()()()()()()()の持ち主が誰であるか、センゴクさんが気付くわけが無い。

 

「センゴクじゃねぇか。わざわざ掛けてきたのか」

『……あァロッ、クロコダイルか。お前も出てきたのか。よく出てきたな』

「オイリィン本気でシャバはどうなってやがる」

 

 いやごめんほんとごめん反省はしないし謝罪もしないけど。仕組んだ側としては嬉嬉として広げるけど。

 

「アッ、うっそセンゴク?やっほーマイフレンド!」

『貴様のような男等知ら…………待て、待て。おいクロコダイルそこにいるか。私の予想は合ってるな』

「非常に残念ながらな」

 

「元王下七武海と現海軍元帥が普通に会話すること自体おかしいと思わねェか」

 

 シキに完全同意。おかしいよね。存在から。

 

『インペルダウンより貴様らが脱獄したのは報告を受けている。船を奪うならまだしもまさか自作するとは思ってもみなかったがな』

「褒めんなよ」

 

 トゲトゲしい発言にシキが照れる。いや褒められてないよ。

 シキ世代がギャーギャー喚いている中、スススとバギーが近寄ってきた。

 

「リィン〜、麦わらぁ」

「肩身狭そう」

「窮屈そう」

「そういうとこだぞ派手馬鹿野郎ッ」

 

 私とルフィの感想に怒りながらもすがり付いていた。メンツ的に心中穏やかでは居られないだろうなぁ。お友達くらい探せよ。BWのMr.3とか丁度良さそうじゃん。

 

『ともかく、今回の大脱獄事件。主犯は海賊麦わらのルフィ。──そして』

 

 センゴクさんは電伝虫を通してそう告げると、溜め込んでいた息を盛大に吐きこぼした。

 

『──主犯格が多すぎて精査できん。誰だこの話をこんなに大きくしたのは』

「んな事言われたってなァ」

『最初は我々も〝千両道化のバギー〟や〝金獅子のシキ〟といった海賊。ついでに〝不死鳥マルコ〟やジンベエも頭に入れていたが』

「…………あたしが居た、って訳か」

 

『アァそうだ。予知の使い手。──戦神シラヌイ・カナエ』

 

 漏れ出た単語に私がビクリと肩を震わせる。

 恩人さん…──否、カナエさんは髪をぐしゃぐしゃ掻きむしって落ち着くように一息はいた。

 

「俺、その名前聞いたことある……」

 

 ルフィがボソリとつぶやくと聞き取れた私とバギーさんが視線を向ける。自然と目が合って、私は苦笑いを浮かべた。

 

「カモメのおっさんが言ってたよな」

「……うん、そうだね」

 

 シャボンディ諸島で私の親が冥王と戦神だということは情報としてばら撒かれた。

 

『おそらく主犯は麦わらのルフィに続きカナエだろうな』

「大正解!ぶっちゃけ監獄に入る前、海軍に通報した段階で計画してた」

『お前本当にふざけるなよ』

 

 本当に戦場引っ掻き回してるなこの人。

 比喩とか過大表現とかそんなんじゃなかったや。この人に予知を与えた神様を恨むんだけど。もしくは堕天使(クソジジイ)

 

「……センゴク。最後の話だ」

『いいだろう、聞こうか』

 

 思わず目を見開く。

 海賊の戯言だと一蹴するとばかり思ってたんだけど、意外にもカナエさんの言葉を聞く体制に入った。

 

 どういうことやねん、って気持ちを込めて歴代海賊に視線を向けるがシキだろうと七武海だろうと予想しなかった反応らしい。

 

「船長。ううん、ロジャーの息子を、助けて欲しい」

 

 センゴクさんは黙ってしまった。

 

 ただし周囲で聞いていた勢はザワりと騒がしくなる。海賊王の息子というワードに。

 

 何故かシキですら。

 

「んん?今から助けに行く目的ってドラゴンの息子なんじゃなかったブル??」

「は?あいつに息子?」

「海賊王に息子がいたのか!?」

 

 バギーがドン引きの表情を浮かべていた。

 

「いや、ポートガスでエースって言ったら普通船長の息子にならねェか……?」

 

 ならないとは思います。私もエースと話して色々情報集めなければならなかった。名前だけでは流石に無理。

 

 それとシキが驚いている事に驚いている。

 あの人エースが海賊王の息子だって知ってるよね。何故か会話が奇跡的に噛み合ったとか、まぁ流石にないだろう。私の親を当てるときエースの事話題に出したし。一体どこに驚いたんだろう。

 

「やっぱり無理かな」

『論外、だな』

「そっかぁ……」

 

 論じるまでもない願い事だ。

 

「じゃあ女狐君とやらに伝言お願いできるかな」

『……ほう、女狐の名がお前の口から出るとはな』

 

 そうだね。女狐の名前を使ってるの監獄に引きこもってたカナエさんの実の娘だもんね。分かる。ピンポイントで興味を持つかって感じだよね。理解ができないよこの存在。

 

 私センゴクさんの心境微妙に分かる。真女狐なんて全然決まってないから意味の分からないカナエさんの思考回路に『ほーうなるほどな(わからん)』って心境なんでしょ、どうせ。

 

「まぁね、あたしの予想が合ってたら、だけど」

 

 カナエさんはチラリと私を見た。心拍数が跳ね上がる。

 まさか、バレた?

 いや、でも、まともな思考回路をしていたら監獄に居た私と女狐はイコールにならないはず。

 

 だけどもし勘づかれていたら。心当たりがある言葉なら。

 この伝言は私宛になる。

 

 逆に…──

 

「『だから紅葉は嫌いだよ、後はよろしく』と」 

 

 心当たりが無ければ。

 

 女狐(わたし)が知らない女狐(だれか)が居る。

 

「あとそろそろセンゴクは観念して友達になって欲しいんだけど」

 

 

 ……。

 

 うん、後で考えよう。なんかもう全てに怯えるのが面倒くさくなってきた。

 

『クロコダイル』

「断る」

『ジンベエ』

「よく分からんがクロコダイルが言うなら面倒な事じゃろう。断る」

『そこの阿呆殴っとけ』

「誰が望んで関わるかよ」

「同意じゃな」

 

 クイクイとバギーに袖を引っ張られた。今度は何。

 

「あの2人って七武海の中で仲がいい間柄なのか?」

「七武海は多分皆仲良いと思うぞ俺は」

「特別仲良いって言うと別だと。恐らくですけど、クロさんはドフィさん。次点でミホさん。ジンさんはくまさん辺りじゃないですかね。次点で海賊女帝」

「えぇ……あの血の気の多いクロコダイルが誰かと仲良しこよしすんのか……?」

「何それ笑う」

 

 カナエさん中心に繰り広げられるどったんばったん大騒ぎを横目にバギーがボソボソと私とルフィに絡む。

 七武海全体的に仲良いから特別仲良しとかあんまりない気がするんだよ。あまり無い組み合わせ、とかってのはあるけど。ハー、ここに新たに入れられるであろう海賊と新生七武海結成の気が重すぎる。

 

「あーー、やばい、やばいわコレ。きっっつい。無理。死ぬ」

『お前、他に言い方無いのか。悲壮感が偉大なる航路(グランドライン)を家出して空島辺りで漂ったまま帰ってこないんだが』

「悲壮感は空島旅行中だからちょっとそれどころじゃない」

『右脳だけ寝落ちしてるのか貴様』

「もうこれが現実じゃないとまで考えてる。多分あたしの妄想」

 

 今度は私がグイグイとバギーの袖を引っ張った。

 

「あの海軍元帥と伝説の海賊って特別仲良き間柄?」

「……どうだろなぁ、俺はあの人がなんなのかもう分かんねェからなぁ」

「関係者諸君に問う。私は一体何見せられてんの?地獄?」

「現実」

「この世」

「惨いことを……」

 

 爆速で現実逃避をするなとパイ投げられてる気分。素直に同情寄せられる方が心にくるんでやめて貰えますか、シキ。

 

『とりあえずさっさと沈んでくれないか』

「やだねー!シキがいる限り沈まないし。手も出しにくいと思うよ、海軍さん。……──ところでさ、あんたに言いたいことはいくつかあるけど。ホントにいくつもあるんだけど。これだけは最優先で伝えとく。まぁ予想とは大分外れちゃったみたいなんだけどね」

 

 カナエさんは電伝虫に向かって言い放った。

 

「ありがとう」

 

 そう言い放った瞬間だ。

 カナエさんはふらりと体の力を抜いた。と言うより、抜けてしまったという方が正しい。ガラスが割れるように頭の中でバリンと音が鳴って、全ての感情が真っ白になる。

 

 後ろに向かって頭が倒れたな。あぁ、シキが支えようと手を伸ばしてるから。

 

「──姉貴!」

 

 耳元でバギーの声がクリアに聞こえ、パンッと風船が一気に割れるように鼓膜が元に戻る感覚。

 

 ッ、え、なんで、なんでカナエさんが倒れて。

 

「姉貴!姉貴!なァ、あんたなんで……!」

「……テメェ、ロジャーのとこの見習いか」

「バ、ギ……」

 

 駆け寄るバギーにシキが確認するように呟けば、カナエさんがバギーの頬に手を伸ばして……──何故か赤っ鼻をムギュっと潰した。

 

「あだだだだだ!」

「バギー……姉貴は可愛くないから姉さんって呼べって、あたし何度も言ったよねぇ……?あとどう考えてもあた、俺は男だろ」

「バッッキャヤロー!今更取り繕えるわきゃねーだろ阿呆!それに兄貴と呼ぶには男すぎて逆に姉貴しか無ィイ!?ッだだだだだ!ネッ、姐さん!」

「お前その腕力で瀕死か?????」

 

 支えたシキが呆れた表情でカナエさんを見ていた。

 

「瀕死も瀕死……。もーやだわー、不治の病とか、ほんと碌でもないわァ、クロッカス君の腕を今更ながら痛感ー、物理的に。だってさ……ゲホッ、ほぉら吐血」

 

 カナエさんは手で口元を抑え痰が絡んだ咳をした。なんということでしょう。手のひらには鮮血がドロリッチ。伝説の海賊の血だからリッチってか。はっはっはっ、やかましい。

 

 ちょっとさっき出た情報まとめると普通に海賊王と同じ不治の病にかかってる事が簡単に分かりすぎてもう私はどうしたらいい。

 

 電伝虫に視線を向けるが切られていた。ちくしょうセンゴクさんに逃げられた。革命軍が動くであろう現状整理報告しねーからな。記憶取り戻したサボがエース処刑の情報得て動かないわけないだろ。今のところ多分海軍側で私しか掴んでない確信に近い予想だぞ。

 

 私が本当に海軍側かはさておき!!!!

 

「イワちゃん戻して」

「ヴァナタッ、なんのために男の体にしてると……!」

「あたしが痛みに耐え切れるように、でしょ。もう無駄だよ。死ぬなら元の姿で死にたい」

 

 カナエさんの懇願にイワンコフさんはグッ、と息を詰まらせた後。爪を鋭くして彼女に突き刺す。ホルモンバランスの()()()

 カナエさんは、元の、女の姿に。

 

 私の記憶にある姿に。

 

「──リィン、おいで」

 

 名指しで私が呼ばれる。私は、弱々しくも見つめる真っ黒な瞳を見つめながら傍によった。

 

「騙してごめんね。あたしが、キミの母親な」

「──いやそれは普通に知ってますたけど」

「の、ぉおん!?えっ、今衝撃の新事実とかそういうのじゃなかった!?」

 

 私は思わずため息を吐いた。うん、知らない人は知らない事実で驚きまくってるから企みとしては成功してんじゃないかな?私には残念ながら微塵たりとも意味が無いんだけど。

 

「ヴァナタ……カナエの、娘……?」

「大体1桁前半で察すた」

「わぁ!?大分昔だね!?むしろ逆になんで!?」

「傍若無人な周囲に殺されぬ様に頭を活性化さるした私の幼少期の頭脳と純粋無垢さの弊害です」

 

 素直に知りたいとか思ってた時期の私に向かって時空飛び越えて飛び蹴りかましたい。やめろ、と。全力で。

 

 苦笑いを浮かべていたカナエさんだったが、段々口角が下がり、ついには顔を伏せてしまった。

 

「あたしは、キミに謝らないといけない」

「……それは、私を捨てたことに?」

「捨ててなんかないッ!」

 

 カナエさんは顔をバッと上げて叫んだ。

 苦しそうに。罪を吐露するように。

 

「あたしのは、もっと最低だ!キミの人生そのものを利用したんだ!本当は、キミの母親だって名乗ることすら烏滸がましい!」

 

 ゲボ、と口から血がこぼれる。

 そんなに限界なら喋らなければいいのに。

 このまま痛むことなく死ねばいいのに。

 

 なんで痛みを押してまで、元に戻って、私と話をするの。

 

「……少しだけでいい。もしかしたら残酷なことかもしれない。でも話させてくれないかな」

 

 流石の私も無言で渋顔を作った。

 でも、うん。頷くしかないよね。空気的に。正直知りたかったから。

 

「あたしはね、昔から『火拳のエース』が死ぬ世界を見てきた。その未来を知って、船の上にたって、船長の仲間になった時から。命を懸けて、私の持てる全てを持って変えようと心に誓った」

 

「変えられる場所にあたしは立っている。それを知った瞬間」

 

 

 そこまで話すと息苦しかったのかフゥー、と深い息を吐いていた。

 

「それが予知?」

「『予知』はそれだけじゃない。『麦わらのルフィ』が海に出てから、その全ての流れが。ところどころ記憶が危うい所もあるけど、観た当時は全て知ってた」

「…………」

「多分、キミも見たんじゃないかな。ある方法であたしがその記憶を送り込んだから。その時はもうあたしの記憶が断片的過ぎる上に、曖昧なフィルターを通してるから、キミがちゃんと覚えているかは知らないけど」

 

 心当たりが、ある。

 

「いくつか見たと思うです。でも、ハッキリ思い返した『予知夢』は、この後の戦争です」

「そっかー。そこは伝えれたんだ」

 

 私の言葉に驚く周囲。戦神の予知はそれなりに知られている事だ。

 私も引き継いでると思った面々もいるだろう。マルコさんだって予知夢の話をしたから遺伝だと思ってたハズ。私だってそう思ってた。

 

「あたしはキミがまだ1歳くらいの時。既に病に侵されてた。だからあたしはね、通報したんだよ。海軍に。あたしがいるぞ、って。そして来たのは、やっぱりガープのじっちゃんだった。あたしの予想は大正解ってわけ」

「なぜ、じじを」

「アァ、やっぱりね。ガープはキミを孫にすると思ったんだ。エースと同じように、ルフィと同じ様に。予知の世界のキーパーソン、三兄弟と同じ位置にたってもらうために。『麦わらのルフィ』や『火拳のエース』達が傍にいる環境下、否応がナシに彼らを守るために力をつけてくれるだろうと思って」

 

 言葉が上手く出てこない。

 息が詰まる。

 

 つまりなに、私は、エースを生かすためだけに産まれてきて、エースを守るためにじじに引き渡されたの……?

 

「予知の世界と今生きる世界。イレギュラーはあたしだけ。でもあたし1人じゃ、ロジャーの死は変えられなかった。未来は変わらなかった。戦場をひっくり返そうと、それこそ世界をひっくり返そうとしても。変わらないまま」

「…………」

「1人じゃ無理なら2人だ。あたしは身篭ったキミを『血を引き継がせたくない』って言い訳して、1番影響を受け、未来を変えやすいポジションに送り込んだんだよ」

 

 

 

 全部この人のせいだった。

 

 

 私があんなに苦労した、私の人生。

 全部。

 

 このシラヌイ・カナエという生物が。

 意図してじじに預けたから。私は3人に対して情を持ってしまって、海賊に巻き込まれて。怪我して、泣いて、苦しんで、辛くて、吐きそうになった世界を。最低なポジションで、望まない、平穏とは真逆の人生を送ることになった。

 

「……結局、イレギュラーなんてあたしだけじゃなかったみたいだけど」

 

 無駄な行為を。無駄な選択を。

 私は選んで。

 

「あたしの能力はランダムで吸収能力を付与する代わりにあたしの執着する記憶も引き継がれる。頂上戦争の記憶は霧がかったように思い出せない」

 

 カナエさんはボロりと涙をこぼした。ボロボロと蛇口が壊れたみたいにとめどなく流れていく。

 

「人任せにしてごめんねぇ……愛してあげられなくて……ごめんね……キミの人生を利用してごめんね……最低な親でごめんね……」

 

 震えながら懺悔する弱々しい『私の親』。

 

「私に謝罪しておきながら、それでも望むのはエースの生なのですか」

「……うん……あたしは『ロジャーの息子』を助けたいんだよ……それでも…」

 

 カッ、と目の奥が熱くなる。

 なんて勝手なことを!私が!カナエさんの言う予知の上での世界にいなかったとして!それで私が利用される!?冗談じゃない!

 

 イレギュラーも何も、ここが私の正史で、予知の世界が分史世界だ。

 貴女もこの正史に立っておきながら!なに勝手に世界の外側で自分の世界じゃありませんって言ってるんだ!

 

「ねえ……リィン……。キミは、この世界に生まれて、どうだった……?あたしに利用されてさ、自分の人生を、どう思ってる?」

 

 その質問に私は心の底から答えたくなかった。

 

「リー」

 

 ルフィが私の名前を呼ぶ。

 横目で確認すると、彼は真っ直ぐと私を見ていた。

 

 あァ、涙が止まらなくなってしまった。見るんじゃなかった。言いたくなかった。認めたくなかったのに。

 

「……ッ、幸せでした!」

 

 叫んだ私の言葉に虚をつかれたカナエさん。彼女は目を丸くしていて、私はなんだかそれすらも悔しくて。続けて叫んだ。

 

「色んな人に、会えました!災厄みたいな縁だけど、私は幸せです!」

 

 不思議な言語で偽ることなく言葉を向けた。

 

 きっと世界はこれからも絶望に染まるでしょう。

 幸せだなんて馬鹿な奴、と。過去の私が後ろで馬鹿にしたように笑った。もしかしたら未来の私も笑うかもしれない。

 

 でも困ったことに。狂ったこの世界でも愛おしいと思ってしまってたんだ。もう負けたねこりゃ。

 

 残念ながら今の私も笑ってる。

 

「そ、か。良かった……」

 

 満足だったのかカナエさんはすぅと涙を流した後、見惚れるくらい綺麗に笑った。そして段々、寿命の炎がビブルカードを燃やし尽くす様に目を閉じていく。

 

 思わず、その手を掴んだ。

 

 息が浅い。その動きが全て止まった時。

 カナエさんは死を迎える。

 

「ぉ……か……ぁさ……ッ!」

「──あれれ?おっかしいぞ?……まだ死ねないな」

 

 ………………は?

 

「我ながらしぶとい。あーあー、そうだルフィ君、リィン。とりあえず2人の疲労だけなら吸収出来ると思うからこっちおいでおいで。よーしよし、〝吸収(アブソリュート・)疲労(ラ・ファティーグ)〟」

 

 んんんん?体が一気に軽くなったが。

 

「あぁそれとリィン。レイリーに愛してるって伝言よろしくね」

「え、あ、はぁ」

「そーれーとー。バギー、アンタが1番会う可能性高いから言っとくけど女狐君1回ぶん殴っといて」

「なんでェえ!?」

 

 あ、これ起き上がれるかも。と言ったカナエさんがシキの手から離れて屈伸し始めた。ナニコレ。

 

「世界よーーーッ!あたしはこの世界に来れて幸せだぞーッ!ゲボフッ!」

 

 下に見える海に向かって叫んだと思えばギャグのような表情をしながら吐血した。

 

 ──バターッン……!

 

 これはカナエさんが凄い勢いで扉の床(概念)にダイナミックキスを決めた音。

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 

「え?」

 

 シキが嫌そうな顔をしながらカナエさんに近付き、手首、首筋に手を当てて。

 

 ため息を吐いた。私に視線を向けて首を横に降ってる。そう、さながら、遺族に向けて残念ながらご臨終です、とでも言うように。

 

 

 

 

 ……。

 

 

 私は青く晴れ渡った空を見上げてすぅーーーーーーーーーーーー、と息を吸い込み。

 

「はっ、はぁあああぁあぁぁ!?ここまで来て色々タイミングある中でここで事切れる普通ッ!!!???」

 

 爆速で吐き出した。

 

 テンションの上昇と下降の速度が尋常じゃ無さすぎて心の中のグッピーが輪廻転生しても死に続けてる。ジェットコースターでもまだ助走あるよ?なにこれインペルダウンマジック?やべーじゃん1番怖いよやだよインペルダウン。

 

「なんつーか、最期まで姐さんって姐さん節炸裂してんだな……」

 

 この扉の船(概念)の中で1番シラヌイ・カナエを理解してしまうバギーが呆れたような、それでいてホッとしたような呟きを吐き出した。

 

 

「悲壮感が!!!!行方不明!!!!!!指名手配は!!!!!!??????」

「そろそろ月面調査中なんじゃねぇか?」

 

 慣れた様子のシキがケロリとした顔で上を指さした。

 私はその方向に向かって吠える。

 

 

 

 

「……なんでだ─────ッッ!!」

 

 

 拝啓 お母様。

 

 

 

 ──やっぱりこの世界って糞だと思います。

 

 

 

 

 お前が1番よくわからんわ阿呆!

 

 

 




残念ながらご臨終です。
私だけ時空歪んでるから今日は20日で2度目の3周年なんだ!!!!!!

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