2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第224話 混沌とカオスの闇鍋

 

 それは海の頂点を決めるが如く、この戦争はまさに頂上戦争とでも言えるだろう。三大戦力がこれまで築いて来た全てをぶつけ合うのだ。

 降り注ぐ異常気象。それが人の手によるものだから能力者という存在は嫌になる。もはや天災と言っても過言では無いだろう。

 

 

 ──管轄であるナバロンからこの戦争に徴兵された中将、ジョナサンは自分の目の前に現れた乱入者を見てため息を吐かざるを得なかった。

 

 

 『赤犬の子飼い』だけでなく『女狐のお気に入り』を手に入れた男は元々この戦争に難色を示していた将校の1人だった。反対はしていない。センゴク元帥ともあろう知将が利益のない戦争を仕掛けるわけが無いのだ。本部から離れて己の海軍基地を手にいれた自分は情報が全て回ってくる訳では無い。そこまで手が回らない、とも言えるが。

 

 果たしてこの戦争の先に何を見るのか。

 

 それは極限られた者。

 否、もしかしたらセンゴクただ1人しか分からぬであろう。

 

 

 

「──だって堕天使と麦わらが個人行動してるんだもん」

 

 いい歳したおっさんの『もん』に隣にいたダルメシアン中将が盛大に吹き出した。

 

 

 ジョナサンは『麦わら』と付け足したが本音を言うと堕天使しか着目してない。

 

 何故なら彼女が立っているチームはインペルダウンに放り込んだ海賊たちがいる場所、つまり脱獄犯組である。

 何故なら彼女は顔を隠すタイプの海軍大将(さいこうせんりょく)、そんな場所に立つのはスパイだとしても()()()()()事なのだ。普段から顔を隠しているのだから表に出ても問題は無いのにも関わらず。

 

「(何企んでいるんだいセンゴク元帥と女狐大将は)」

 

 恐らく『堕天使リィンが女狐大将である』と認識している人間は『脱獄した堕天使』の存在にハテナマークしか浮かばないだろう。

 

 何も事情を知らない人間からみれば、インペルダウンに入れられた堕天使リィンがただ脱獄した。としか受け止めない。

 

 だが下手に情報があり、情報が不足している中将達は様々な想定を考えた。

 

 

 パターン1、リィンが裏切りセンゴクが切った。

 王道パターンであり、可能性として1番有り得る。だがリィンの海軍内での地位や人間関係、そして人物像を思い浮かべれば恐らくかなり可能性が低い。

 

 パターン2、センゴクが裏切りリィンを切った。

 先程と正反対。不都合になったか、それとも最初からそう決められていたか。知っているものは知っている、彼女の血筋を。今回の戦争の名目は『白ひげ海賊団の二番隊隊長』ではなく『海賊王の息子』だ。『冥王の娘』という矛盾点を海軍で囲うことは難しい。政治的に見て1番可能性が高い。

 

 パターン3、リィン保護の為にセンゴクが切った。

 理由は海軍の矛盾点、パターン2と同じだ。矛盾点を海軍で囲うことが難しいなら、内部的な組織であるインペルダウンで囲ってもらえる為に、インペルダウン内部に事情を説明すれば看守として働けるだろう。麦わらの一味が解散した状態では1番自然だ。そして軍人性より人間性を優先したらパターン2よりもコチラの方が正しい。

 

 パターン4、リィンが休暇としてインペルダウン見学に乗り込んだ。

 ぶっちゃけあの小娘を見ると1番有り得る。なんならインペルダウンに伝手とか持ってそう。なんか行き来ができそう。入ったら出れないはずなのに。

 

 

 ちなみに脱獄の手助けしたから結局敵対だ!とまっすぐ純粋に思う気持ちは微塵もなかった。脱獄するということはシャバで再び海賊になるという事。脱獄に反対しない方が不自然だ。自分の船長もいる事だし、1人でシキとか七武海とか潰して水面下(物理)で『海賊の敵対者』として口を封じるなら脱獄に反対しても大丈夫だが、正直自分であっても脱獄に協力する。海軍本部にぶつけるに決まってる。

 

 

 まァぶつけられた海軍本部としてはたまったもんじゃないが!!

 

 

「ダルメシアン中将、1ついいかな」

「とても断りたい気持ちでいっぱいなのだが」

「堕天使リィンと七武海の関係性について一言」

 

 ジョナサンの前提情報は1つ。

 クロコダイル称号剥奪騒動〜ロリコン報道を載せて〜に思いっきり関わっているというかそういう情報操作をしたんだろうなぁ、と考えているだけだ。流石に七武海関連の情報は掴んでいるが、確定している事柄は『七武海と麦わらの一味は敵対関係』これに限る。

 

「……堕天使リィンは元々海軍本部の雑用でだな」

「へぇ、それは初耳だ」

 

 それ『は』初耳。

 この意味にダルメシアンは気付いた。

 

 ナバロンで麦わらの一味が大暴れした事は海軍本部でも情報共有がされている。流石に沽券に関わるので書類上は『海賊襲撃訓練』と称していても世間に公表はされてない。

 

 まァ考えれば『麦わらの一味の関わった事件』で『情報精査・操作』が出来るなんてリィンがゲロった以外考えられない。訳知り顔で話している様子を見るにジョナサンも『女狐=堕天使』と知っているのだろう、と。

 

「その小娘は七武海会議のお茶汲み雑用を担当していた」

「なるほど、元々旧知の仲だったわけか」

 

 砂埃が上がる中、ピンク色の何かが乱入者達の方向へ飛んで行った。

 七武海には七武海を当てる。無難所だろう。

 

 勢いよく飛びかかった七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴの能力がある牙を向く。確か彼は覇気が3種類使えたはず、となると元七武海2人相手でも持つだろう。

 

「アラバスタの件は情報の段階というのもあってどこまで把握しているのか、いや、どこまで把握出来ているのかわからんが」

 

 ジョナサンは珍しい七武海対戦を見れると思って静観していたが、砂埃が晴れる頃には目をひん剥くことになった。

 

「七武海withリィンはぶっ飛んでるぞ」

 

 そこには子泣き爺が如くクロコダイルに引っ付くドフラミンゴがいた。

 

「──なんでだい!!!!!」

「本部の将官辺りは大体知ってるが七武海はすこぶる仲が良いから敵対を高望みすると足元どころか体全体が崩れ落ちるぞ」

 

 ジョナサンは直視しがたい現実に膝から崩れ落ちた。

 

「ちなみに堕天使リィンは七武海の仲を繋ぎ止める玩具だ」

「キミが! やって! どうする! ……大将(ざつよう)!」

「それな」

 

 七武海は単体だけで強力だ。

 七武海といえど海賊は海賊なので七武海のメンバーを変える事は少なくない。だからこそ、新しい七武海の確保と、七武海内部の結託(反乱)を防ぐ為に『ギスギスしている方が有難い』のだ。心から。

 

 残念ながらその事に気付く前にボンド役になってしまったリィンはかなり後悔している。己にしわ寄せととばっちりが来るから、と。

 

「あァ……理解してしまったよ……堕天使が敵対関係にあったクロコダイルの傍にいる理由が……」

「リィンは、七武海のお気に入りなんだ」

 

 なんということをしてくれたのでしょう。

 異様にげっそりとした表情の中将2人は顔を見合わせた後、深いため息を吐き出す。

 

 

 

 消耗品補給と作戦伝令に飛び回ってたまたま傍にいた月組の誰かは呟いた。

 

「……知らないって幸せだなぁ」

 

 違います中将。

 あそこの現実もっと酷いです。

 

 

 

 ==========

 

 

「クロちゃんなんで脱獄してんだよーーーーッ!」

「アホっぽい面晒してんじゃねェよクソミンゴ…! ぐ、おいコラ離れろ!」

「血の池地獄は温過ぎたか!? 此処こそが本当の地獄だと言うのにクロちゃん゛!」

「喚くな!!!!!!!」

 

 こちら現場のリィン。

 簡潔に言わせてもらうとこの展開が予想出来たのでジンさんのところに避難した所存。

 

「じゃ、俺は白ひげ海賊団と合流するねい」

「シキ! シキー! やっさんみたいに背中乗せてくれ!」

 

 マルコさんには普通に見捨てられたしルフィには置いてかれた。

 

「むっ、ドフラミンゴに遅れを取ったか」

「ジンベエ! クロコダイル!」

 

 ドフィさんに遅れてミホさん、そして海賊女帝が走り寄った。戦争の乱入者である脱獄犯をぶち殺そうとする体は保っていた方がいいと思うんだけど、どっからどう見ても親しい友人との再会に喜んでいる姿。

 

「すまんな、戦争に反対してしもうたわい」

「気にするでないジンベエ。お主の立場を考えれば仕方の無いことじゃ」

 

 この戦争に反対したことで牢獄に入れられたほぼ七武海剥奪確定のジンさんが申し訳なさそうに呟けば、真っ先に反応したのは海賊女帝だった。

 海賊女帝の慰める笑みで周囲が石になった。話を邪魔するなって視線が海兵に飛んでる気がする。気のせいだといいなぁ。

 

「海賊女帝は何気に他の七武海と初顔合わせで……」

「おおお、おい! 俺を1人にするなよ! なんだ七武海がいっせいに動きやがって!」

 

 慌てた様子でゲッコー・モリアも現れた。

 

「あっ、ぼっち!」

「名誉ある孤立と言…──ふんぎゃああああああ!? なんでここにいる! なんでここにいる!?」

「脱獄したからですけど……」

「ん? リィンはモリアと知り合いじゃったか?」

「麦わらの一味に所属してから潰しますた。はい証拠」

「……お主なァ、弱点となるものをなんでもかんでも写真に収めれば良いと言うものでもないぞ」

「これは、悲惨だな」

「ワァ俺絶対コイツ相手だけは負けない様にしよ」

 

 私が取り出した写真を見たジンさんとミホさんとドフィさんが殺せと喚くモリアに同情の視線を寄せた。

 

「……なんだ、お前達元気だな」

 

「ん、くまか。生きておるようじゃな」

「よォくま。生きてっか」

「あ、くまさん。生きてます?」

「監獄組。お前達に言われたくはない。心底」

 

 悠々と歩いて来たくまさんが聖書を畳んで私達を睨んだ。らしい。ちょっと視線が高すぎて表情まで分からない。何メートル差だと。

 モリアはいじめっ子達からくまさんのところに逃げた。

 

「あ、クロさん。マントの下入れて」

「あ?何企んでる?」

「いや、後ろの海水が落ち着く故に、電伝虫の視界に入ってしまうです」

 

 背後は潜り込んだ穴から溢れ出る噴海水のおかげで電伝虫の死角になってたんだけど、水の勢いが弱まって来たから隠れる様に潜り込む。1番隠れる場所があるカラ。ウンウン。

 

「ん?」

 

 ドフィさんがクロさんと、それに近寄った私を5度見くらい交互にした。

 

「何、お前らおそろい?」

「はァ!?」

「あっ、気付くしますた?」

 

 仰天したクロさんの声をガン無視して笑顔でドフィさんに向く。

 

 クロさんは白のシャツに黒のベストとズボンとジャケット。大まかに言うとね。

 そして私も白シャツに黒ベストズボン、マント。まァ私はクロさんから奪った(押し付けられた)緑の布っきれをベルト代わりに使ってるけど。

 

 あえてクロさんに合わせて勝手にお揃いにした。

 

「なんだよお前ら仲良…──じゃねェなリィン貴様これ以上クロちゃんを殺すな今すぐその服脱げ」

 

 ニッコニコご機嫌笑顔で愛想を振りまいていたらドフィさんはカッと目を見開いて一息で上記を述べた。うふふ、お揃いというのはね、仲良しだからするモンじゃ、ないんだよ。

 

 私の狙いに気付いたドフィさんに向けて私はやれやれと肩を竦めてみせる。

 

「仕方ないなぁ〜。ここに指輪ぞあるじゃろ?」

「ま゚ーーーーッッッッ!」

「右手の薬指に着けるですと」

「やめろお前ホントやめろ!!!!!」

 

 クロさんじゃなくて張本人でもなんでもないドフィさんが必死で止めようとしてくるの本当に笑えてくる。この指輪もお揃いなの。素敵でしょう? つける指も揃えちゃうね!

 

「クロさん見て見てお揃い」

 

 クロさんの背中に潜り込んでる状況だから右手だけ前に突き出して指輪をアピールする。ポイントはとても笑顔な事。

 

「……。」

 

 ひょっこり見上げて見るとクロさんは形容し難い表情で腕を組んでた。決して喜んでるとか、見惚れてるとか、そういう頭沸騰しそうな感情じゃない事は確かだ。

 

 私がなにか企んでいるという漠然とした前兆は掴めているらしい。脳みそ働いてなければ良かったのに。意外と冷静だな。反撃しないだけ動揺はしてるっぽいけど。不穏な気配を察知、って方向性で。

 

「…………チィッ」

「リィンちゃん舌打ちする顔びっくりするくらい歪むよな。心の歪みが留めきれなくて顔面に滲み出てる」

「猫ぞ被るしたらもっと可愛い舌打ちくらい出来るですぅ」

 

 ちなみに右手の薬指に付ける指輪の意味って知ってる?

 色々あるけど、人間関係改善って意味もあるらしいよ。

 

「ドフィさん、私はね」

 

 瞳を閉じて耳をすませば聞こえてくる。海兵の声。

 

『おい、クロコダイルとリィンの2人お揃いだぞ』

『お前はリィンちゃんを知らないからそう言えるんだろうが、あの子七武海大っ嫌いだぞ』

『つまりおそろいなのは……』

『えっ、まさかアラバスタの噂って真実……?』

『間違いなくそうだよな』

『『『『クロコダイルはロリコン』』』』

 

 閉じていた瞳を開いてまっすぐ見つめた。

 

「──お前ら七武海を陥れる為なら自爆も辞さない」

「お願いだから辞せ!?」

「ツギハオマエダ」

「クロちゃん生贄に差し出すから俺見逃して!?」

「アフターフォローもカンペキ!」

「死体蹴りの間違いだろ!?」

「ふぅんそうなんですね」

「ダメだ俺完全に振り回されてる……姫ちゃんパス……」

 

 疲れ果てた様子でドフィさんがギブアップした。

 

「………妾、ジンベエとくま辺りと話しておくから、胃が引きちぎれる案件は主ら三武海の役目じゃ」

「何それ初耳なんだけどォ!?」

 

 海賊女帝が全力で拒否していると、ふわりと私の頭に手が乗った。さっきまで硬直していたクロさんの手だ。くしゃくしゃと私の髪を遊ぶみたいにいじくった大きな手は、私の頭の形に沿うように包み…──そのまま私の脳みそ引きずり出して握り潰すレベルの力が込められた。

 

 

「いいいいいいいいいい!」

「おいリィン」

「ま゛ッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

「『やっぱりロリコンだったのか』だァ?『幼い頃のビビ王女相手に惚れた』だ?『ロリが国家転覆の原因』?『性癖の過ち』?」

「い゛あ゛あ゛の゛ぅッ、み゛ぞ!」

「『クロコダイルの例の放送は真実だった』……だとよォ。このチッセェ脳みそに聞きたいんだが、俺は残念なことに俺の放送ってジャンルこれっぽちも覚えがねェんだ。……──な・に・か・知・っ・て・る・な?」

 

 ひぇっ待って頭潰れる潰れる潰れる! 出る! 脳みそが出る! 痛いとかそういうレベルじゃなくてもう吐きそう! はくはくはく! 吐くって! 最近船酔いでも吐き癖ついてるんだから本気で出る! 色んなところから出ちゃいけないものが出る! 待ってください! やめて、やめてください! やめろ!

 

「ハ、はっ、ハッ、は、沸点が低いゾね、沸騰石食べりゅゔ?」

「……本気で潰すぞ」

「これが! 本気じゃ! 無きと!?」

「どうやら俺の同僚諸君はこのクソみてぇな噂をご存知らしいなァ…?」

「ドフラミンゴが情報持ってきた」

「ドフラミンゴが教えてくれた」

「ドフラミンゴじゃな」

「お呼びだぞ天夜叉殿」

「いっそ拍手したくなる位の清々しさで俺を売るよな、お前ら──加担はしてないし阻止の方向で情報持っていきました俺は悪くないです」

「ねぇ待ってクロさんそろそろ私の頭がやばいパキュパキュ言ってるやばい音ぞ鳴るですひとまず離すして」

「……戦争後、死ぬ気で俺と合流。死んでも合流」

「イエス・サー!」

 

 敬礼しながら一気に距離を離した。

 頭ぐわんぐわんして視界揺れる。とんでもなく気持ち悪い。

 

「うううううう、ぐるぐる回るぅ」

「流石に同情は出来ねェぞ」

「私、適当な所フラフラする故、故に」

 

 七武海の周辺は海兵も海賊も手を出さないから安全地帯なんだけどその七武海自体が危険なので私は全力で去った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「………………あいつら何遊んでんだよい」

 

 戦況を簡単にひっくり返せるレベルの実力を兼ね備えた七武海が元を入れても7人揃っている。揃いも揃っているのに、戯れている。

 

「グララララ! 砂小僧も随分馴染んでるじゃねェか!」

「玩具にされてるリィンが可哀想だよい」

 

 白ひげ海賊団の海賊船。モビーディック号の上で合流した〝不死鳥〟マルコは〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートにこれまでの情報共有をするために舞い戻った。

 

「……ところでマルコ。そのリィンが脱獄したってのは、ちとおかしくねェか?」

「センゴクと女狐に、コテンパンにやられたそうだよい」

 

 苦い顔をしてマルコが答える。その様子にある程度状況を察した白ひげは顎に手を当てて納得した。

 

「ほぉ、そう来たか」

「親父?」

「鬼の血を引くのはエースだけじゃねェ、そうリィンに言われなかったか?」

「……言われたねい」

「言われたかぁ」

 

 ため息と一緒に吐き出すように答えると、何が楽しいのか白ひげはグラグラと笑った。

 

「親父、笑い事じゃねェと思うんだが」

「俺たちの海軍伝手がなくなったってか?」

「……親父、わかってて聞いてるだろい」

「グララララ!」

 

 マルコという男は他人の想像以上にリィンを気に入ってたりする。

 年の離れた妹に対する甘さ、出来の良い娘に対する誉れ、対立関係に位置する存在に対する警戒、協力関係に位置する存在に対する喜び、下から追い上げる子供に対する恐れ。

 ぐっちゃぐちゃに入り混ぜられた感情。

 

 白ひげ海賊団では無いからこそ、マルコは威厳を保つ為に気取ってカッコをつける。見習いの頃から見てきた息子の今までにない面白い反応が、白ひげは楽しくて堪らなかった。

 

「おおかた鬼の血が邪魔になったんだろうが……」

 

 白ひげは断頭台に居座る男を睨んだ。

 

「女狐自体を消さねェのは謎だな」

 

 何を企んでやがる、と声に出さず呟く。

 この戦争で何がどう変わるかも分からなければ、この戦争自体がどう動くのか分からない。予知というアドバンテージがあっても不安要素の方がでかい。いや、むしろ予知という予備知識がある分、フラットに見えないから疑心暗鬼に陥ってしまう。

 

「オヤッさん!」

 

 ただ、予知があって助かることもいくつかある。

 

 モビーディック号に駆け込んだ傘下の海賊、スクアードがギザっ歯を剥き出しにして叫んだ。

 

「エースが、ッ、エースの処刑時間が、早まるって、情報が」

 

 息切れも知らず走ったのかゲホゲホと噎せながらの報告だ。

 

 スクアードが海軍の口車に乗せられる、との予知。リィンが細かな内容を教えてくれなかったが状況を整理すれば何を言えばスクアードの心情が揺さぶられるか、なんて分かりきった事だった。

 あらかじめスクアードにはエースが海賊王の()()()だという風に伝えた。息子である、と。海賊王に恨みを持つスクアードにはこの言い方が最適だった。

 実際仲良くなってしまうのだから言葉とは面白いものだ。

 

「安心しろスクアード。少なくとも、センゴクは作戦を漏らすようなヘマはしねェ。漏れた情報で踊らされてる俺らが……──ッ!」

 

 白ひげはそこまで言ってハッと視線を戦場に向ける。

 視線は少し前まで話題に上がっていた少女を探していた。

 

「親父…?」

「オヤッさん?」

 

 

「──マルコ、女狐も罠だ」

「……一体どういう、事だよい?」

「女狐の正体だとか、麦わらの一味がやられただとか、その情報そのものが罠だ」

 

 白ひげ海賊団に訪れた女狐の訪問。リィンとしては2回目であり、女狐としては初だ。あの時共に居たのは青雉。

 海軍は『白ひげ海賊団が女狐の正体がリィンだと知っている』事を知っている。

 

「全隊長に伝えろ。女狐は幻だと思え。出て来ても、出て来なくても、考えてそっちに思考持っていかれりゃ根本を見失う」

「……!」

「クソ、あの娘っ子が裏切られただとかもしくはそう見せ掛けてるとか、可能性を考えりゃキリがねェ。そうだ、センゴクが情報を、特に海軍のトップシークレットを()()()()()()()()()()()()んだ」

 

 いい具合に存在が戦場を引っ掻き回しやがる。

 自分で引っ掻き回すか他人に引っ掻き回す材料にされるかの違いはあるが中々に母娘そっくりだと白ひげは舌打ちをした。

 

 

 予知以前に女狐関連の情報は全て罠だと思った方が良さそうだ、と思考をフラットにする。

 初撃の登場を読まれていた事もあり、あちらにも予知が回ったかと考えなかった訳では無い。その思考全て邪魔だ。目立たないようで目立つ『リィン』に関係する全ての情報をとっぱらえ。

 

 ……手のひらで転がされている奇妙な感覚に寒気がする。

 

「スクアード、背後に気を付けとけ。だが動かす人数は少なめでいい。最低限の退路を確保し、背後からの初撃に食らいつく、その程度でいいから警戒を頼んだぜ」

「分かったぜ親父…!」

 

 大将陣は大技をいくつか放った後、それぞれ断頭台の下へと戻った。まるで時を待つように、力を温存するように。

 

 その様子から推測するに恐らく撤退戦が1番キツい筈だ。最高戦力を『背中』にぶつけて来るだろう。

 白ひげが最も嫌う、背中の傷を付けに。

 

「──ちったァ衰えろよセンゴク…! 見事に嫌なとこ攻めてくるじゃねェか!」

 

 とりあえず拳骨1回はリィンに入れときたい。例えそれが八つ当たりだとしても大人気無くそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「私の頭(物理)が狙うされてる気がする……しかも多方面から……!」

 

 野生の勘、第六感とも言える胃痛増進察知能力が無駄に働いた。




混沌もカオスも同じ意味だっつーの。

お久しぶりです。多分。ある程度頂上戦争編の話が完成したので微調整と添削しながらの更新です。オラは戦闘描写を回避する……!この戦争で……!

※ハンコックはハリケーンしてますがルフィでもリィンでもないです

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