2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第226話 給料の大半は胃薬に消える

 

 

「あ、麦わら」

「んー?」

 

 荒れる声、飛び交う怒号、地を蹴り風を切り拳を振い魂を震わせる。本能とも呼べる深い闘志が表に出、血を流す激しい戦闘の最中。まるで偶然知り合いとすれ違った様な声色で声をかけられたルフィは、シキと共闘しながらそっちを見た。

 

「知り合いか、麦わら坊主」

「やー、見覚えないな」

 

 ばたばたとなぎ倒されていく将校の隙間からヒョロい極一般的な海兵の姿があった。少なくとも将校服を着てないことから、いや、それ以前に行動や気配の張り巡らせ方で弱っちいのは目に見えてわかる。と言うかなぜ海兵に声をかけられたんだ。……シキは至極当たり前の理解不可能な謎に直面した。

 

「俺ちゃん、月組」

「月組かー!」

「そー。俺ちゃん直接麦わらの一味と対峙したことないけど、又聞きはしてるから大体把握してるぜ〜」

 

 ヘラヘラとフレンドリーに話す海兵と、月組と聞いて警戒心を緩める麦わらにシキはちょっと混乱する。嘘だかなり混乱した。

 

 お前らはロジャーとガープか、と。

 

 そういえば麦わらのフルネームはモンキー・D・ルフィで、そういえばモンキーの名前って聞き覚えあったな、そういえばアイツは……と嫌な予測が連鎖的に立てられ精神が死んだ。リィンとの約束通り『誰も殺さない』というすこぶる気を使う戦い方をしているので疲れている。律儀に守っている自分が偉い。

 

「月組は俺と話してていいのか?」

「戦闘不参加の許可は取ってるぜ。俺ちゃん達物資補給で飛び回ってるから戦闘に体力割く余裕はねェの。ヨワヨワだしな」

「ヨワヨワだな」

「だろー?」

 

「ん゛んッ」

 

 男の無法っぷりを注意する様な咳払いに、月組は思わず苦笑いをうかべた。

 この男、優等生揃いの月組の中で最も態度の悪いタイプだった。なんせリィンの写真を売り捌く際の窓口。多少の脅しや格上の相手に耐えるメンタルを持っていなければやっていけなかったから。

 

 その分1番顔が広いのだが。

 当然の様に己の好み(せいへき)を把握されている同志は注意しにくかった。だって弱点と弱みを握られていると同じだから。

 

「麦わら、千両道化……って言っても分かんねェか。バギー何処にいるか知らねぇ?」

「バギー?見てないけど、なんで?」

 

 なんで敢えてそれ?と言う意味で聞いた。

 通り名ではなく名前で目的の人物を聞いたところからルフィの性格は共有されていると分かるのだがそれに気付くほど細かな性格はしてない。

 

 月組は月組でひとつなのだ。

 

「俺ちゃん達、ローグタウンでバギー捕縛を1回ミスしてんの。ま、捕縛し直したけどな」

「ふぅん」

「月組の前にまぁた現れたんだ。ぜってー、とっ捕まえる」

「戦闘しないんじゃなかったのか?」

「戦わなくても勝てる方法なんざいくらでもあるんだよ」

 

 じゃあなー、と友達に向けて言うようにその場を離れる月組を見てシキはルフィに声をかけた。

 

「月組ってなんだ?」

「リィンの友達!」

「……海賊(ただ)の友達が上司の攻撃を一旦躊躇わさせれるわけねぇだろどうなってんだ」

「さー?」

 

 それは現在対峙している海兵の3分の1がリィンファンクラブのメンバーであり、さらに3分の1が女狐の表の顔の交友関係を知っているからであり、それが中将に多いから何も知らない海兵も躊躇っただけである。

 

 恐るべきが狐の威を借りた仔犬なのか、虎の威を借りた狐なのか。海賊にはみじんも分からないくっっっだらねぇ問題だった。

 

 

 

 ==========

 

 

 

『リィンちゃん、一の電伝虫と三の電伝虫が途切れた。原因はどちらも中将の範囲攻撃の巻き添えだね』

「把握、あ、ここからは女狐でお願い」

『了解。どういたしまして』

 

 ぶつりと私の電伝虫が切れる。マントの中で電伝虫の口元にコードのついたマスクをつけ、コードの先のイヤホンを耳につけた。流石に堂々と電伝虫を出す訳にはいかないから……。

 

 電伝虫を使っているということは他の、例をあげるならBW組や本部に居る月組や青い鳥(ブルーバード)からの連絡が出来ないという事なんだけど。何を置いてもシャボンディ諸島で全体を見てくれるノーランさんの電伝虫を優先したかった。

 

──ぷるぷるぷる…

 

 電伝虫の鳴く音。私はコツリと意識を変えて足を進ませた。

 

『こちらノーラン、女狐大将ですね』

「…………あァ」

『報告します。IV地区で月組数名と千両道化交戦確認』

「変化があれば報告」

『はい!』

 

 堕天使リィンとのやり取りから大将女狐とのやり取りに変化した。これはノーランさん側での警戒と、私の電伝虫を聴かれた場合ボロが出るからという理由で。

 

 ……別に打ち合わせはしてないんだ。これがまた。

 月組って怖いなぁ。元BW組の対応力が普通であって、月組の適応力対応力が私に合わせすぎて異様なだけなんだよね、10年って怖い。

 

 聞いて欲しくないところは聞かない様にしてくれるから守秘義務守りやすいしホント凄いと思う。素直に。私に同じことをやれと言われても絶対出来ない。

 

 

 カツンカツンと足音を鳴らしながら断頭台へと向かう。

 心臓が動き過ぎて、脳みそが沸騰しそうだ。

 

 

「ふぅ……」

 

 警護の海兵は私に気付き敬礼を送る。

 視線だけ向けて特に反応することも無く階段を登った。

 

 カツンカツンと響く。

 

 断頭台には処刑執行人が2人、そしてエースの傍にセンゴクさんがいた。階段を上がる度に空気がピリピリと震える。

 

「あ」

 

 センゴクさんと仮面越しに確かに目が合っ──

 

「何故来た女狐ッ!」

 

 気付いたら階段の中腹でセンゴクさんに胸ぐらを掴まれていた。

 いつの間に移動したんだろう、とか。思ったより苦しくないな、とか。

 

「……ッ、分かってる、あの騒ぎに便乗しなければならなかったことは…! だが、なぜ大人しくしてくれなかった……!」

 

 周囲に聞こえない様な音量。それでも苦しげに吐き連ねる言葉に私はどうでも良くなった。

 よかった。私は捨てられたんじゃなかった。

 

 信じきれなくてごめんなさい。

 

「お前を、守れないじゃないか……!」

 

 グッ、と胸ぐらを掴む手に力が込められる。

 心配してくれていたんだ。エースの処刑を邪魔されたくなかったんじゃなかった。

 

 それがなにより嬉しいか。

 それがどれだけ嬉しいか。

 

 思っていた以上にメンタルがボロボロなのかもしれない。

 

「……親が、センゴクさんなら良かったのに」

 

 吐血するように本音がゴポリと口から溢れて出てきた。

 

「カナエは」

「死にました」

「………………そうか」

 

 安心した表情で溜め込んだ淀みを吐き出すようにセンゴクさんが呟いた。私の呟きに関しては触れてくれないらしい、ぶっちゃけ助かる。まだ自分の感情を理解しきれてない。

 不信感だらけのセンゴクさんに対する感情、それを上回るキテレツ戦神とその最期。神様、私なにかしましたか。私はまだ歩く起爆剤になってないよ。

 

「話は後だな。報告を」

「報告、堕天使は暴君に飛ばされ行方不明だ」

「なるほどな」

 

 通常の会話の音量で断頭台に登る。

 1発触発だった雰囲気が四散したのでハラハラしていた周囲がほっと一息着いていた。うん、ごめんね。

 

「女狐、お前がロジャー世代を知っている事はバレるなよ」

 

 =真女狐はロジャー世代を知っている設定(※ただしロジャー世代とは言わない)

 

「(おけまる把握した)へーへー」

「仮面を被れ」

「…………了解」

 

 調子を整える為にも真女狐として会話をする。もしかしたらエースに聞こえたのかもしれない。振り返り私の姿を見てギョッとしていた。

 

 元々あった概念と、咄嗟に作られた設定をあわせる。

 

 今の女狐の中身は真女狐だ。

 真女狐の素は『男口調で周囲を子供扱いして柄の悪い他人の神経を逆撫でする男』だ。細かな追加設定はたった今決まったロジャー世代を知っていること。

 元々決まっていた事から考えるに、この女狐は『リィンを影武者として利用した、シキや白ひげ達の全盛期を知っているが、ロックス世代を知らない、リィンと正反対の最低野郎。それがリィンの作り重ねた女狐を真似している』って事だね。なんだこれ碌でもないな。

 もっと細かい人物像は後で詰めよう。リィンと全く違う人物像だからボロが出ないように作り込まなきゃ。

 

 実はちょっと楽しくなってきている。

 世界を、全ての海賊を騙す私とセンゴクさんの女狐。

 

 センゴクさんに切られたわけじゃなかった、それがわかった途端これだ。頭の回転が全然違ってくる。

 

「リ……めぎ、つ……」

「…………。」

 

 エースの動揺した声色に笑いを堪えながら私は断頭台で見下ろす。

 

「……へぇ、似てんな」

 

 意味深にそう呟けばエースは『中身がリィンじゃない』と確信してこれでもかと言うほど目を見開いた。リィン≠女狐の印象植え付け完了だ。

 

「女狐」

「あー、悪ィ」

「お前本当に頼むから一言も喋るな。シャボンディ諸島で出来たのに何故出来ない」

 

 適当な真女狐がうっかりエース関連の情報を漏らし、それを不味いと思い諌めるセンゴク元帥。の、表現。

 芸が無駄に細かすぎると我ながら思う。

 

 センゴクさんが本気で止める時はもっと声に覇気を込めているからこの情報渡しは間違いないんだろう。ただ、エースはこれから処刑されるので情報を渡しても問題ないから練習台替わりに……って事だったら『エースを生かす未来』を望んでる私にとって利となるか害となるか判断出来ないけどね。

 

 

 私はシャボンディ諸島で麦わらの一味を潰した方の女狐。鼻で戦場の有象無象を笑ってセンゴクさんの反対側に立つ。

 

「……!」

 

 ちょっと楽しそうな設定が浮かんだので適当な紙と量産品のペンを取り出してガリガリ文字を書く。

 喋るな、と言われた女狐はそのメッセージを折り畳んでセンゴクさんに渡した。

 

 訝しげに見られる。

 受け取ったメッセージを読んだセンゴクさんはものすっっっごい嫌そうな顔で読んだ後、そのメモを返して来た。

 

 書いたメッセージはこう。

 

『クザンさんみたいな人を誘うタイプの中身プレイボーイ設定とか男の印象付けやすいしリィンと真逆でいいと思うんだけど、使えたら使ってもいい?』

 

 私は証拠隠滅のためにその紙を燃やす。

 鼻歌を歌いたい気分だ。

 

 どうせ真女狐の中身も仮面を脱いで外に出る。でも骨格や顔つきはごまかせないから、『男』だという事をさりげなくアピールしなければならない。

 私の中で男だと意識(恋愛的な意味ではなく)できるのはクザンさん特有の『今夜どう?』発言。女めっちゃ食ってそうな非童貞感。あれは使える。

 

 

 そ! こ! で! だ!

 

 私が考えているのはクザンさんみたいに対女性オンリーじゃなくて対男性!または両刀使い!

 

 ……なんせネタが沢山あるから。ありがとうビビ様。貴女に押し付けられている貴女の趣味は今まさに私の役に立ちます。あれ、おかしいな、胃が痛くなってきたぞ。

 

 

「……まぁ、いいだろう」

「よっし!」

 

 思わずガッツポーズ。今急いで決めなくてもいいんだけどいつどこでどう来るか分からないから大まかな所を決めておきたかった。

 こういう誤魔化せる言動ができると決まっていたら、何も決定してない『今』なら問題を先送りに出来る。

 

 例えばなんだけど、『お前女なのか?』って聞かれて『そんなに女に見えるかよ。てめぇの身体で確かめてみるか?ネコちゃん』っていえば逃げられる。完全に逃げられる。ペンは剣より強しだよ。男も女もいけるタチって最強じゃん。

 

 あぁ、やだなぁ、ビビ様に脳内汚染されてる。

 

 『俺』の人生はどんな感じなんだろうなぁ。ゲームでキャラクターシート作ってる気持ちでいっぱい。ワクワクする。どんどん設定が生えてくる。

 

「あ、報告。革命軍の乱入の可能性あり」

「何故それを今言った! この戦争終わったら絶対お前の金で胃薬を買えよ!」

 

 エースを生かすためには、センゴクさんを裏切らなければならないけど、ここまで近付けたんだ。でも近距離なら表立って裏切らなくてもどうとでもなる。大丈夫だ、これならいける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮かれた私を世界は嘲笑った。

 

 

 

 




女狐は『男も女も食える年齢不詳の人の神経逆撫でするのが趣味な口の悪い野郎』ってことになってます。本当はもっと色々経歴とかの設定もあるんですけど時間軸的に出せないのでそういう男の真似をリィンがしてるよ、って曖昧な捉え方でOKです。
なんせこの設定、後々グルンと変わるので。いや大まか変わらないけどとんでもない設定がくっつくから戦時中の今は冷静に設定を練れない(センゴクが)のです。

頂上戦争、6月で終わらせます。恐らく。
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