2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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小話集その2

 

 

〜盃4兄妹〜

 

「リー!朝だぞ!狩りにでるぞ!」

「やぁ!やーぁー!」

「エースぅ、リーまた駄々捏ねてる」

「……リーってホント外苦手だよな。弱虫」

 

「おしょと苦手は禁止じこお、ぞ!私が嫌悪あすなろ抱きは!魑魅魍魎!」

「あすなろ抱きって何……。いや魑魅魍魎なんて居ないしいるとしたら猛獣な」

「それですた」

 

 怪我がまだ治っていないリィンは万全ではない。そんな時に外に行くだなんて自殺行為、了承する方が可笑しい。

 

「よしよし。リーはエースやルフィと違って可愛いなァ」

 

 サボに撫でられて嬉しそうに目を細める。ここぞとばかりにチョロ……攻略しやすいサボから手っ取り早く魅了するという外道みたいな手を使い始めた。

 

「サボ!甘いぞ!俺もしかしたら可愛いかもしれないよく見ろ」

「サボ、サボ!俺も可愛い!」

「……エース、ルフィ。リーを見てみろ」

 

 雑な訴えにサボがキリッと真剣な顔でリィンに視線を向け直した。3人の視線を一気に受けたリィンは一瞬キョトンとした顔をしたが、まだまだぷっくりとした手を丸めてグーを作ると両手を頬のそばに持っていき、小首を傾げ。

 

「にゃあ!」

 

 上目遣いで鳴いた。

 

「ま、負けましたわ!ちくしょう!あたくしの可愛さじゃサボ様を引き留められないっての!?きぃー!」

「リー可愛い!もう1回!」

「……ルフィ、ですわって付けろ(ボソッ)」

「もう1回ですわ!」

 

「にゃー……えへへ、可愛い?」

 

「「「か〜〜〜〜〜わ〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜」」」

 

 照れ臭そうに笑いながらアンコールをこなすリィンに3人の馬鹿兄は声を揃える。茶番だ。結構""ガチ""で騙されにかかる系の茶番だ。果たしてそれは茶番なのか……。

 幼い彼らは気付かないがダダンは気付いていた。

 

「(『猫被り』の『可愛こぶりっ子』…………)」

 

 あからさまな騙してますに騙されるのはバカなのかバカじゃないのか。いやアホだな。

 

 子供達はコルボ山で今日もアホやっている。

 

 

 

 

 〜雑用リィンの1日〜

 

 

 朝、決まった時間に目が覚める。リィンは何も行動を起こさずにそのまま目を閉じた。彼女の周囲をモゾモゾと起き始める気配。

 

「リィン〜朝だぞ〜」

 

 起きるのを渋り布団を剥がされようやく目元を擦りながら出てくる。んー、と唸り声をあげて両手を広げれは既にじゃんけんが終わって見事勝利を手に入れたひとりがリィンを抱き上げ、地面に足をつかせた。

 

「おはよ」

「おはよ、ごじゃる、ましゅ」

「流石のリィンちゃんでも朝は苦手かァ〜」

 

 笑われながら身支度を済ます。ぴょんぴょんと跳ねてしまった髪の毛を既に身支度が終わった誰かが櫛でとく。

 食欲をそそる朝食のいい香りにグゥ、とお腹が元気よく空腹を訴えた。

 

 

「いただき……まふ……」

 

 グラグラと頭を揺らしながらリィンはご飯を味わう。質素ではあるが幼子にとって驚くほど量があるソレを腹8分目まで食べると、育ち盛りのカクに残り物を押し付けた。

 完全に食事が終わるその頃、リィンはぱっちりと目を開きニコニコと笑顔でデザートに齧り付いていた。

 

 

 雑用の仕事は朝から沢山ある。今日の振り分けが終われば颯爽と持ち場に着く。今日の午前、リィンは愛用の箒をまるでぬいぐるみのように手を離さず抱きしめ、書類配達に走った。

 

「じゃあこれの書類は人事部本室、んでこっちの青いのは黄猿大将第5補佐官辺りで」

「りょーかいっ、ます!」

 

 大人にとっては少ない量だが幼子にとってはかなり大きい。リィンは箒を紐で結び肩から下げ両手で書類を落とさないように抱えた。

 

 

 そんな配達任務も途中で悲劇が襲う。

 

「リィン! 大将だ! 頼む!」

「方向!」

「第3会議室の窓から飛び降りた!」

「把握!」

 

 両手に持った書類を道の端に起き、リィンは箒を手に取り窓から外に飛び出した。1階なのが幸いした、追い掛けるまで時間はかからない。

 そう、脱走兵の捕縛任務だ。

 

「あ、リィンちゃん」

「その声…! 青です!」

「5分くらい前三日月湾ポイントEからA方向に歩いてるの見た!」

 

 声で同じ部屋の仲間であることを確認したリィンが『青雉の目撃情報』を求めた。月組独自のポイント名なので他は理解不能だ。もちろんクザン張本人も分からない。なおこれが『拳』だったら拳骨のガープ中将の目撃情報を求める声だ。

 

 リィンは箒に乗りショートカットをしつつ正面門から少しズレた鉄柵の傍で気配を薄める為に息を1分ほど殺し待っていた。

 

「ほ、運が良かったか。今回は逃げ切っ……」

「へぇ?」

 

 

 午後は清掃任務だ。モップで手強い汚れと格闘する。

 

「せいが出るな」

「ぴゃっ!」

「はは、跳ねた。ほら飴ちゃんやるよ」

「…! やったあ! ありがとう、ます!」

「上手にお礼言えました」

「あ、おらも菓子あげるなぁ〜」

「ぴゃあ! 大歓喜飴さん霰さんぞりゅっ!」

 

 ただし1箇所に留まるので姿を確認した海兵によく貢がれる。わざわざ部屋まで戻ってお菓子を持ってくるのだ。甘い物は好きだがいい歳した怖い面したおじさんが怖がられないように餌付けしてると思うと、あまりの愉快にリィンは自然と笑みが零れてしまうのだった。別に子供みたいにお菓子が嬉しい訳では無い。ないったら無い。

 

 

 夕飯時、部屋毎の時間が決まっており下級兵士食堂で決められたメニューをもぐもぐと食していく。

 

「幸せそうに食べるよな……」

 

 ハムスターのように頬いっぱいに入れて食べる姿を見ると1日の終わりという感じがして、同じ時間帯に恵まれなかった残業雑用に笑いながら自慢するのが居合わせている雑用にとっての幸せだった。

 

 

 リィンの夜は寝巻きに着替えると布団の中に潜り、情報共有が成される月組の様子を眺めみる。

 

「私こんにち、お菓子ぞ頂戴たてますた〜」

 

 ニコニコ嬉しそうに自慢する。近くにいた誰かが良かったなと頭を撫でる。そしてリィンはゆっくり瞳を閉じた。

 

「……それで今日の天使愛好会の情報共有だけど」

 

 ボソボソとリィンを起こさない様な声で交わされる情報共有。しばらく言葉を交わすとロウソクの灯火が揺らぎ消え、リィンは眠りにつくのだった。それよりも前に寝落ちることも時々あるけれど。

 

 海軍の雑用の、平凡な1日。

 

 

 

 〜雑用リィンの1日〜

 

 

 朝、決まった時間に目が覚める。

 

「おはようです」

 

 リィンの声掛けで月組は続々と目が覚めていく。身支度は完璧、女狐としての書類も書き切りアイテムボックスにしまった。

 

「おはよ〜リィンちゃん」

「寝癖ぞついてますぞ」

「つけてるの」

「おはよぉ、俺、寝るね」

「夜勤おつかれさまですじょり」

 

 おはようといくつも挨拶を交わしながら、リィンは軽い足取りで朝食に向かった。

 

 

 綺麗に食べきった皿を片付けたら早速任務だ。リィンは色々な場所を巡り元帥室へと赴いた。渡される配達雑用任務。

 

「最近頻度高度で無きですか?」

「……修正がめんどくさい言語間違いをしてくれるな」

「申し訳ございませんです!」

「今日のソレはG9だ。帰り道、シャボンディ諸島の第3部隊隊長のホーンデット大佐に手配書の更新情報を貰ってこい。話はつけてある。……まァ、お前に頼むのも慣れてきたからな。お前自身も慣れてきているだろう」

「流石に慣れますよォ。赤封筒は勘弁ですけど」

 

「いってきまーす!」

 

 元帥室から飛び出るな。楽なのは分かるが。

 センゴクがそう呟いた。

 

 

「ヘルプに参るしたー!」

「リィンちゃん…! 助かった、今日は他に取られたとばかり!」

「ジャンさんこんにちは、他は先に片付けるしてきますた!」

 

 本日の午後は情報部に途中参戦だ。万年人手不足の部署にヘルプに行かされる。私ったら有能、と自画自賛してリィンは書類の振り分けに励んだ。雑用なので重要書類に触れられないがそれでも大事な知識になる。

 そんなことをしているが真剣に取り組むその顔に評価は高くなる。ちなみに他を片付けた、といっても人手不足部署に顔を出したのはこれが一日で初だ。はっきり言って存在が詐欺だ。

 

 

 そして毎度の事ながら途中で捕縛任務が入る。

 

「い、行けたかの……!? 後ろも、前も、横も、よし、居らん! 行け…」

「──何処にぃ?」

 

 上を確認し忘れたのは痛恨のミスだ。

 

 

 夜、情報共有を聞き、話す。掛け布団を丸めて背もたれにし、本を片手に聞いていた。

 

「リィンちゃん猫被るの辞めてからすごい変わったね」

 

 改めてそう言われる。

 普通に文面だけ取ると嫌味や注意とも取れる。

 

 だがリィンは自覚していた。

 頬に手を当てて妖しげに笑みを浮かべた。

 

「──()()()()()()()見せぬ素の私も好きでしょう?」

 

 それが嘘だと分かっている。素を見せるのが月組だけではないと。それが嘘だと気付かれていることを、知っている。

 相互理解。

 月組はその嘘をひっくるめてにんまりと笑った。

 

「「「「もちろん!」」」」

 

 天使愛好会の情報共有を今更聞かなくても信じて頼っているので、リィンは誰よりも早く眠りに落ちた。

 

 朝起きるのを愚図らなくなり、不相応にしっかりと姿を見せられる様になり、そして警戒心は胡散していた。

 

 

 

 海軍の雑用の、平和な1日。

 

 

 

 

 〜女嫌いの少将と努力嫌いの雑用〜

 

 

「びょ!」

「ぼ」

「ぼびょー」

「……なんでそうなるんだい」

 

 ハーーとつるがため息を吐く。苦笑いで答えることしか出来ないリィンが冷や汗を流した。

 

「こうなりゃ慣れだよ」

「なれ。」

「定型文をとにかく覚えて口からスラっと出るとこから始めるよ!」

「イエス・マム!」

「なんでそういう所がスラッと出てくるんだいあんたって子は!」

「ごめんじょです」

「申し訳ございません」

「申す理由存在しないです!」

「改変しない!」

「申し訳ありませんです! 口からスラッとポロリンするます!」

「するんです!」

「スルンです!」

 

 おつるのパーフェクト言語教室が開かれてる中、扉を開けて入ってきたのは二人の男だった。

 

「……一体何をしておるんだお前達は」

「つる中将お邪魔します」

「なんだいあんたらか。書類ならそこに置いてあるよ、追加は同じとこ置いときな」

 

 ぴ……、と鳴きながらリィンはもう1人の見覚えのない海兵を見上げた。

 

「(誰だこの人)」

「(なんだこのちんまいの)」

 

 互いの思考が止まっている間につるとセンゴクのやり取りは既に終わっていた。

 

「む、互いに知らなかったか。ドレーク、ソレは最近入ってきたリィンだ」

「リィン、その子はドレークだよ。あんたよりも前に入ってた、位は少将。境遇は似たようなもんだから仲良くやりな」

 

 最初に言葉を発したのは表立っての階級も下であるリィンだった。

 

「リィン雑用兵であります!センゴクさんとおつるさんには良くしてもらっています。若輩者で世間知らず故、おぼつかない所も多々あるでしょうがご指導ご鞭撻よろしくお願いスルンです」

「……ドレーク少将だ。リィン雑用兵、これから同志としてよろしく頼む」

 

 顔が互いによろしくという顔ではない。何となく、何となく互いに感じていた。

 

 こいつ(コレ)自分の知らない親代わりを知っている(おやがわりをうばうガキである)、と!

 

 互いに敵視を抱き、よろしくしたくない顔で、そっと自分と同性の親代わりの傍に寄った。そう、同時に。

 

 ──キッ!

 

「そこから離れろ!」

「そこにぞ直立禁止!」

「上司に向かってなんて口の聞き方だ!」

「ぴぃ! 子供だから知りませーーん!」

 

 下の子の出現に上の子が拗ねるように、上の子が構われるのを嫌う下の子の様に。

 2人は罵りあいとも言えない子供の口喧嘩レベルの口論を初めた。まァ片方は完全に実年齢が子供であるので大人気ないのはドレークの方なのだが。

 

 

「この子、人を煽ったり馬鹿にする時は伝わりやすさ重視で標準語が出てくるのかい。珍しいタイプだね」

「自己愛強めなリィンらしい結論だ」

 

 親代わりはいつまで経っても可愛い子供の愉快な衝突をいつ止めるか悩みながら、心地いい独占欲に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 〜猫っ被りと猫っ被り〜

 

 

 

「かぁーくさーん」

「りーぃーんー!」

 

 壁からぴょこっと顔を出したリィンが間延びしながら人の名を呼ぶと、呼ばれた人物は嬉しそうに名前を呼び返す。

 認識された!と確信したリィンはぴょんと嬉しそうに飛び跳ねて両手を平げながら抱き着きに向かった。カクはそれを難なく受け止め、脇を掴みクルクル回りながら高く掲げる。

 

「どうしたんじゃリィン」

「あのねっ、カクさん! スモさんに美味なる、お菓子頂戴すた!」

「ほう! それはよかったのォ!」

 

 リィンは嬉しそうに真っ赤に染めあげた頬に手を当てる。大興奮するほど美味しかったのだろう。

 自分の事のように嬉しそうに笑うカクは永遠とリィンをクルクル回している。多分このままだと酔うぞ、と眺めていた誰かが注意した。

 

「それでね、それでねっ!」

 

 ガサッと言う包装紙の音が聞こえたと思ったらカクの口の中に何かが放り込まれた。リィンは両手をカクの口に押し付けている。その姿から察するに……。

 

「おしゅしょわけ!」

 

 目を見開いたカクが硬直した。ただし口だけはもぐもぐと高速で動かしている。

 

「か、カクさん? 美味なる? ならぬ?」

 

 口に手を当てたままリィンが不安げに首を右左と傾げながらウロウロと聞く。ゴクリと胃に送り込んだカクはにーーーっと笑い口元にあったリィンの両手を食べた。

 

「あびゃあ!?!?!?」

「わっはっはっはっ! 美味しいなぁ! ありがとのォリィン!」

「きゃーーーっ!」

 

 髪をぐしゃぐしゃに掻き回され逃げようとするががっちり捕まえたカクが逃がさない。めちゃくちゃにされているリィンは悲鳴を上げながらもケラケラ笑みを浮かべている。

 

「カクさんのあぽときしん!」

「あんぽんたんの間違いじゃろ」

「それですわー!」

「ぶっは!」

 

 第1雑用部屋最年少コンビは見るものに癒しを与えるともっぱらの噂。なお比例するように嫉妬も激しい。

 

 

 

 

 

 〜3人の大将と1人の大将〜

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ、貴様ら! 少しは七武海を見習って仲良くしてこい!」

 

 相性が悪くはないが良くもない、だが方向性の違いで衝突を起こす。そんな大将にブチ切れた元帥が3人の大将を放り投げた。ペシンと叩きつけられたのはシャボンディ諸島にある有名焼肉店の割引券。ここで無料券じゃない事に微妙な顔をした。

 3人の大将は顔を見合せた。あ、こいつらと食事とか無理。

 そしてクザンが行動を起こした。ようするに、衝突して軋轢が起こるのなら油を差せばいい。

 

「……なるほど??(????)」

 

 奢られるという名目に喜んで釣られたもう1人の大将が宇宙を見た。

 

「いただきます」

 

 丁寧に挨拶をするとリィンは遠慮なく皿に盛られていく肉を食べていった。

 

「おねーちゃん生大3つ追加! あと烏龍茶も!」

 

 クザンが既に飲み切った事を確認して追加注文を入れる。もぐもぐと咀嚼しながらリィンは口に出す言葉を考えた。

 

「そもそも、なんで大将はそんなに仲悪いですぞ?」

「んー、言っちゃ悪いけど仲はわるく無いよォ〜?」

「そうじゃな……別に嫌っとるわけじゃない。七武海が異常なだけじゃ」

「絶対センゴクさん疲れてるよな。七武海を引き合いに出すレベルとか」

「……まァそれもそうですね、センゴクさんとガープ中将が仲悪いわけでは無いのですし。あんな感じに似てるですよね」

 

 あくまでも仕事上の関係として今まで築いてきたからこそプライベートは耐えられないという事か。

 1人納得して箸休めに野菜をむしゃる。お高いお店はお野菜までお高いお味がする。とりあえず【お】を付けとけば格式高い感じになると思ってる雑な思考回路でリィンはゴクリと飲み込んだ。

 

「皆さん進む仕方は違うますが見る場所は同じ方向ですもんね……」

 

 追加注文の烏龍茶を受け取りゴクリと飲む。食べながら話をするという行為は中々に喉が渇く。

 クザンだけならまだしも他の2人は大将としての威厳もあるので若輩者は緊張して肩身が狭いのだ。

 

「……キミは、よく人を見てるねェ」

「私ヘタレですしビビりなので、人の顔色疑うというか……。人の感情や心情を読み取る挑戦に必死なのです」

「恐ろしい限りだ。その歳でそこまで出来るのは」

「俺ちょっと気になってたんだけどさぁ、リィンちゃん得意な分野ってなんだ?」

 

 その問いかけにリィンはふむ、と考える。

 

「……作戦立案ですかね、猫は被れる故に表立って指揮も可能ですが、前線は無理ですね。集中癖がある故、視野が狭くなる。誰かを使う方が楽です」

「こりゃまた異色」

「根っから将官の素質があるねぇ〜」

「わしらはまた方向が違うからのぉ、アプローチも意見も違う方が軍としてはありがたい話じゃ」

 

 この不器用な大人たち、プライベートな話は出来ないんだろうな。

 そんなことを思いながら軍議に花を咲かせた。

 

 リィンはこの憧れる3人に並んだような気がして、花のように笑った。

 

 

 

 

「私聞きたいことがあったですけど」

「「「ん?」」」

 

 ふと思い出したようにリィンがゆっくり口を開いた。

 

「死を合理化する為に、どれくらいの死ぞ必要でしょうか」

 

 空気が固まった。

 

「無理だな」

「無理だろォねェ」

「無理だ」

 

 ズバッと切り込まれた否定の言葉にリィンはゴンと頭を机にぶつける。

 

「殺させた俺が言うのもなんだけど、リィンちゃんは死に慣れるなよ」

 

 そのためのお勉強だったんだ、とは口に出さず。

 クザンはジョッキを傾け、そして空だったことを思い出してそそのまま机に置いた。

 

「絶対に、慣れるな」

 

 呪うように言葉を紡いだ。

 

 死を合理化出来るのは『海賊』だ。

 命を大切にするからこそ他人の命を奪う。矛盾しているようで矛盾してないその重さこそが『海兵』であるべきだ。それがどんどん積み重なって。いつしか救えた命より奪った命の方が多くなってしまっても。

 決して合理化だけはしてはならない。そこから逃げ出してはならない。

 

 

「遠いなぁ……」

 

 近いようでまだまだ遠い。3人の大将と、1人の新米大将。

 

 

 

 〜モブくんの布教活動〜

 

 

「先輩ーーーーーッッ!」

「だぁーー!寄るな寄るな寄るな!」

「今日こそ天使様の沼にハマってもらいますよーーーッッ!」

「知ってるよ本部の天使様だろ見た見た写真みたって、ただの幼じよおおおお!?!?あっっっっぶねぇな!?……うわ、ペーパーナイフが壁に突き刺さってる。お前これで何切るつもりだったの?頸動脈?命の重さが紙より軽いんだが」

「リィン様をただの幼女と侮った先輩は敵」

「落ち着け落ち着けわァ俺とっても天使様気になってキチャッタナー」

「ですよね!!!!!!!!!!!!(大声)」

「うわうるさ……」

「リィン様はですね、目が合ったらにぱっと笑って手を振ってくれるんですよ!」

「その年頃あるあるじゃねぇの……?」

「しかも気分がいいとその場でクルクルダンスを踊るんです!そのダンス中目が合った人はもみじのおててで作った小さくってめちゃくちゃ威力の高い拳銃で心臓撃たれるかウインクという隕石で押し潰されるか投げキッスという核爆弾で死ぬんですよ」

「…………いやそんなアイドルみた「天使様」……天使みたいな子が現実にいるわけないだろお前の妄想だなそれじゃあ俺は仕事に戻」

「先輩絶対海軍本部行ったら覚えとけよこの顔面マッチ棒野郎!」

「お前この前俺が廊下で滑って顔火傷させたの見てたな!?!?!?」

 

 そうして無理矢理リィンの知識を埋め込まれた張本人や周囲にいた者は海軍本部に出張する任務で興味を抱き、深淵を覗いてしまう。

 

「……後輩、天使ってガチで居たんだな」

「ようこそリィン様の沼へ!!!!!(満面の笑み)」

 

 深淵を除く時深淵もまたこちらを覗いているのだ。

 

 

 

 

 〜胃薬カルテ〜

 

 

 

 初めてリィンが手にした胃薬は海軍本部の胃薬であった。

 

「おなか、げきつう……」

 

 ろくに喋れないほどの痛みに医務室で蹲るリィンに医者はドン引きした。

 

「……あのねリィン君、私は確かにキミの傷も毒も確かに見てきたけどね」

「はぃ」

「流石に精神系はお手上げだからな」

 

 キリキリと痛む胃。試しに使った胃薬は約1ヶ月でお役御免となってしまった。効かないのだ。

 

「……一応言っとくけどソレ昔センゴク元帥が使ってたのと同じやつだから」

「うぇ」

「原因取り除けない?」

「ぷぎゃんます。たとえ元凶ぞ消滅したとして、私の脳みそ」

「……考え方がそもそも胃痛を引き起こしてたりするのか。それとも1つ取り除いただけでは払拭出来ないほど原因があるのか」

「両手!」

「両方ね、ふんふん」

 

 カルテに書き込みながら医者はため息を吐いた。

 

「リィン君飛べるって聞いたが島から島はいけるか?」

「試すまだ未定ですぞ、しか、らば。しらしながら!しかし!」

「うん」

「推定、飛行可能!ぞ、です!」

 

 医者は新しい胃薬を用意する。

 錠剤ではなくカプセル型のそれが瓶に詰められており、嫌そうな顔をしている。

 

「本当は子供用じゃないんだが」

「ぴ?」

「同じくセンゴク元帥が使っていたことがある」

 

 つまりセンゴクはいくつも胃薬を乗り換えたということになるのだがリィンは同じ道を爆速で進んでいることを知って胃を痛めた。変にネガティブなのは考えものだ。

 

「未完成の肉体にこの胃薬は薬品としてキツい。年齢制限を普段は設けてるくらいだ。だから数は徹底的に管理するんだ」

「マイロード…………!」

「1週間に1回、休み明けの朝に飲みなさい」

 

 半年後。

 

「ロードぉ……」

「ちなみにこれは診断書。トリノ王国の永久指針(エターナルポース)はここ」

「ロードっ!」

 

 パタパタと嬉しそうに駆け出し箒に飛び乗る姿を窓から眺めて医者は呟いた。

 

「……毒分解する体ってことは薬も効かないってことなんだけど、まだ気付いてないっぽいな」

 

 医者は次の斡旋先を考えながら前例(センゴク)のカルテを取り出し、出身(ドラム)王国から取り寄せしてみるかと1年後に向けて準備をしていた。

 ぶっちゃけ医者よりも患者(センゴク)の方が胃薬に詳しくなっているので、そうなってしまわないように気を付けよう。多少金がかかっても個人用の専用薬を開発・用意するのが1番効くと知っているが。

 

「今の大将の給金じゃ難しいねぇ」

 

 しかしあの歳で胃痛に悩まされるとは恐れ入る。

 

 

 

 〜革命屋兄とトラタイガー〜

 

 

『もしもーしトラルンルー』

「トラしか合ってないが革命屋兄」

『サボだけど』

「なんだ、ドフラミンゴの件で進展でもあったか」

 

 潜水艇の中で電伝虫を片手にため息を吐きながら耳を傾ける。海賊になって5、6年、革命軍と交流を持ち始めて約2年。

 期待していた情報だったのだが続けられた言葉に落胆する事となる。

 

『ソレ探り始めてまだ2年しか経ってないっての……。世界会議に潜り込むからそこで探るさ』

「お前バカかよ」

『これでも海軍内部でも色々情報集めてもらってるんだ。なんならお前も潜入してみるか?手筈なら整えるぞ?お前の能力ならもしもの心配がなくて助かる』

「俺は医者であって瞬間移動の能力じゃないんだが…。で、要件は」

 

 イラッとしつつもまァあまり知らないやつだからと根はいい子なローが話を促した。

 

『ルブニール王国に行って1人の少女の悪魔の実を探って欲しいんだ』

「はァ?」

『家はメァーナス通り桟橋近くのボロい一軒家だ。親族の類いは無し、名前はマリアンヌ。報酬は現在のドンキホーテ一味幹部の悪魔の実の能力一覧。じゃ、よろしく頼むな』

「は、おい!ちょっ…!」

 

 ガチャンと要件だけ告げられ、YESもNOも答えさせてはくれなかった。ローは迷う。探るだけなら探れるし、面倒だが行けない距離じゃない。だが報酬は死ぬほど魅力的だ。

 

「…………ベポ、ルブニール王国に進路変更だ」

「アイアイキャプテン!」

「えーなにー?キャプテンノーランド好きだったっけ?」

「依頼だ。……シャチ、観光くらいの時間は取るから落ち着け」

 

 有名な絵本のうそつきノーランドの出身地ともあって依頼云々関係なく行く口実が出来て嬉しかったのかシャチが見てわかる程度にはテンションを上げる。

 クルーに甘いローがそれを容認してしまったのが、悲劇の始まりだった。

 

 

 

「……目的の家はもぬけの殻だったんだが」

『やっぱ足取りは掴めなかったか。じゃ、報酬はなしってことで!』

 

 や っ ぱ り ィ ?

 

 

──ブチッ

 

 その切れた音が電伝虫なのか堪忍袋の緒だったのか、知ってるのはハートの海賊団だけ。

 

 

『虎樽助!今どこいる!?』

「……トラファルガーだ。今は(ここで素直に答えたらまた厄介事※6回目を押し付けられるな)北の海だな」

 

 広過ぎる選択肢を取り出し、依頼場所を『あぁ遠くて行けないな』と言って断る作戦だ。

 ちなみにハートの海賊団は現在偉大なる航路(グランドライン)だ。

 

『ちょうど良かった!()()()で噂の埋蔵金を探って欲しいんだ!手に入るルートがあれば活動資金にしたいからな!よろしく頼むよ!報酬は海軍潜入お膳立てってことで!』

 

 がちゃん。

 

「……なぁシャチ」

「はい、キャプテン」

「俺たち今どんな島にいると思う?」

「……北の海、では、無いことは確かですね」

 

 現在地はメカ島。難破した船から老婆の入った宝箱を見つけてしまってやってきたばかりだった。

 

「うちに革命軍のスパイがいないか探れェ!」

「居ないよそんなやつ!!!!!!」

「いないと逆に困るだろ怖いだろ!」

 

 そして報告の際「今回だけだからな!」とテンプレートを告げて終わるのだ。

 トラファルガー・ローの苦難はまだまだ続く。




走馬灯終了。
ネタだしお手伝いありがとうございました!

ちなみに雑用の1日前半はめちゃくちゃ猫被ってるので朝は中々起きない()()をしてるし早く寝る()()をして起きて聞いてる。だからファンクラブを知ってたんだけど。
原作軸でファンクラブを把握してたと知った月組は言った。「リィンは盗撮に気付かない鈍感なんだって思ってた時期もありました。実際は気付いていたからこそ気付かないフリをしてたんだな、って。なんせ己の利益になるから。計算高いがすぎる。流石だな」(Byモンペ)

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