2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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マリンフォード編
第230話 断罪の間


 

 

 〝議事の間〟

 

 大まかに言えば問題点を話し合ったり決定事項を詰めたりなどかなり重要な会議を行う場所だ。情報の公開が出来ないような内容を話し合う場でもある。

 参加可能階級は中将以上。

 階級が伴わない者が議事に参加する抜け道は、会議に近付かれない様に警護したり、お茶汲みの雑用をしたり、そういう建前を用いている。当然その抜け道は聞くだけ、なんだけど。

 

 

 私は畳張りのその議事の間の中心で正座をしていた。

 

 

「…………。」

 

 

 戦争の直後ということもあって、最低限の巡回をしている中将もいたが本部の中将の殆どが勢揃い。

 その全てが私、女狐の方向を向いている。

 

 上座にはセンゴクさん。

 両端には上座側に大将、そして古参の中将達がズラッと並ぶ。

 

 異常なまでの威圧感と圧迫感。

 緊張し過ぎて飲み込む唾さえ出てこない。

 

「──さて、女狐」

「……は、い」

 

 たったその一言でビリビリと体が恐怖に支配された。

 私が敵に回したのは、この人だ。ここに来て、いや航海を積み重ねてきてようやく分かった。私は今までコレに気付かなかったのかと呆れるばかり。

 

 ──センゴクさんは覇王色持ちだ。

 

「休暇中の身ながら今回の戦争参加、ご苦労であったな」

 

 労る言葉だとしてもチクチク嫌味が突き刺さる。言葉そのまま受け止めれたら幸せなんだろうけど、本当に嫌味にしか聞こえない。

 『余計な真似して互いに苦労したな』と言いたげだなぁ。泣きそう。

 

「……勝手な判断で勝敗を決定させ迷惑をおかけしました。申し訳なく存じます」

 

 心臓が縮こまるのを堪えて頭を下げ、口を開く。

 言い訳する余地もない。

 

 勝敗を一方的に決定する場合は、戦争に関係ない第三者の介入、もしくは部隊の約3割を喪失してからが基本。

 なんなら海賊に対して絶対に正義でなければならない海軍は例え壊滅しようと諦めてはならない。矛を収めるのは、敵に追い討ちを仕掛けるか否かの瀬戸際のみ。

 

 私は名ばかり大将だ。バスターコールの権限を持ってないし、軍事的な発言力は持ち合わせてない。元々、停戦なんて口に出来るわけがないのだ。

 あの場は女狐が表面上海軍大将として立って居たから、シャボンディ諸島に放送されていたから出来た力技。

 

「頭を上げろ」

 

 びく、と肩が小さくはねる。

 私の顔は仮面で隠れているけど、内側からは見えるのでセンゴクさんの表情はよく見えた。

 

 あ、怒ってる。

 

 自分の血の気が引く音が聞こえた。絶対聞こえた。

 

「〜〜〜ッ!ごめんなさい!白ひげ海賊団を、私情で逃がすますた!」

 

 頭を下げる勢いを付けすぎてゴンと畳に額をぶつけてしまう。

 畳だから痛くはないけど、極度の緊張から生理的に涙が出てきていた。

 

「海軍を、敗北に追い込みました!」

「そうだな。女狐、貴様のお陰で海軍は劣勢の状態で終わった。敗北を歴史に刻んだ」

 

 ズキンと心臓が痛む。

 悲鳴を上げる。

 

 謝っても許されることじゃない。頭を上げることが出来ない。

 

「──明確な裏切り行為だ」

 

 ハッキリと言葉にされた事で重みがズンと加わる。罪悪感と後悔と、喪失感。

 でもきっとルフィ達を失うより。そうだよ、後悔しないんだ。喪ってからじゃ遅い。3人を喪うことに比べたら、こんな程度。

 

 泣く資格なんてないけど、心底泣きたくて堪らなかった。

 

「センゴクさん、そろそろ。無駄に時間を使うモンでもないですけェ」

「えぇ、俺はもうちょいやってもいいと思うけどなぁ」

「わっしはサカズキに賛成だよ。どうせこの後、それなりの処分を決定させなきゃいけないんだしねェ〜」

「「うわ……」」

 

 サカズキさんがこのやり取りを終わらせようとしてるがクザンさんが反対。リノさんは私を精神的に責め物理的に胃を痛めつけながらサカズキさんの意見を支持した。怖い。

 

「……そうだな。しかし私個人としては女狐が気付くだろうと思っていたんだがな」

「いいや元帥流石に無理でしょう」

 

 思案顔をするセンゴクさんにストロベリー中将が発言していた。センゴクさんはスっ、と表情を無に変え、私に告げる。

 

「女狐」

「…………はい」

 

 

「──この戦争は負けるのが正解なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ、固まったな」

「女狐大将〜? んー? 生きてるかな?」

「センゴク元帥もお人が悪い」

「気持ちいい笑顔浮かべてんじゃないよセンゴク」

「女狐、息しとるか?」

 

 

 

 負ける、のが正解。

 負けることが正解?

 ん? 負けないのが正解?

 あれ? 今なんて言ったっけ?

 

 

「…………………パードゥン」

「この戦争は負けるのが正解なんだ」

 

 センゴクさんはこれまで見た事ないほど輝かしく晴れ晴れとした笑顔で綺麗にもう一度言ってくれた。

 

 うん、えっと。

 聞き間違いじゃ、無い?

 

 

 

「はああああああああ!? 私の渾身の混乱の叫びどパートツゥぞ!? どういうこと、どういうことォ!?」

「わっはっはっはっはっ!」

 

 思わず立ち上がってしまったが、私の態度を全く気にせずひっくり返る勢いで大爆笑するセンゴクさん。流石に理解が出来なくて言葉の裏側を読み取ることが出来なくて、私は周囲の中将達を見回した。

 中にはぶふっと吹いている人、苦笑いしてる人、無言で視線を逸らす人。

 

 あっ、これ私以外全員理解してる顔だ。

 

「笑うならちゃんと笑うして!!!!」

「キャンキャンうるさいぞ女狐」

「笑いながら言う禁止です!」

「どっちだ」

 

 耐えきれなくなった者達が笑い始める。

 血縁ではないものの、一応祖父であるガープ中将を見たが耳を塞いで下を見て、情報を完全にシャットダウンしていた。つ、使えない!

 

「女狐、貴様は任務にあたっていたから知らんだろうな。だから本当に、なぜ途中参加してしまったのだと頭が痛かった」

「そういう意味で!?」

 

 やれやれとため息吐いてるけどため息吐きたいのはこっちなんですけど!?

 

「女狐、何も違和感を抱かなかったか?」

 

 その言葉に私はよく分からない状態で座り直して頭を捻りあげる。

 

「……包囲壁が出なかった事、電伝虫が中将の攻撃で切れていった事、パシフィスタの登場が遅い事、撤退戦の攻撃の手が、緩い……? あと白ひげ海賊団内部に攻撃してない事」

「ほう、9割理解しているじゃないか」

「あっ、七武海の攻撃が温……」

「「「「七武海には何も指示してない」」」」

 

 あの野郎共……。海軍を勝たせる気無かったって事だな……。暇潰しか? ヒマ・ツブシちゃんなのか? 頭からひつまぶしみたいに食べるぞ?

 

「つまり?」

 

 

 センゴクさんの問い掛けに私はゆっくり言葉を理解していく。

 覚えがある違和感は内部から見ないと分からないものが多いけど、1個1個だと些細だけど、観察力がないと気付かないだろうけど、全て組み合わせると一筋の線が見えてくる。

 

 つまり、本当に勝つ気が無かっ………?

 

 

 私はそのままバタンと畳に倒れ伏して駄々をこねる子供のように大の字に寝そべった。

 

 

 

「──私センゴクさん大っ嫌いッッッッ!!!!!」

 

 

 議事の間には笑い声が響いた。

 

 くっそ〜! 騙された! めちゃくちゃ騙された! 負けるという目的位は言ってくれて良かったのに! 言ってくれたっていいじゃん! 海軍は決して負けてはならないとかインペルダウンでめっちゃ考えて! それで負けさせてしまった事にめちゃくちゃ負い目を感じて! たのに!

 おい誰だざまぁみろとか言った将官。

 

 

「……それで、どうしてそのようなトンチキな事──ヒィ!」

 

 その疑問を投げきる間も無く、笑い声の絶えなかった空間が静まり返った。殺気と怒気で場が溢れている。こんなの誰でも悲鳴を上げるわ。

 オノマトペにするなら『ゴゴゴゴゴ』だ。

 

「そうだな! キミにも見てもらわないとな!」

 

 取り繕った様な笑みでセンゴクさんはぐしゃぐしゃになった書類を取り出して渡した。

 

 

 ──確認中──

 

 

「………………はあ゛?」

 

 5回は読み直した資源の無駄の具現化に私はごく簡単にキレた。

 

「お時間をおかけして恐縮でございますがこちらの書類とも言い難い紙は本気で仰っているのでありましょうか」

「……正式な書類として届けられた」

 

 何が書かれているか分かるのに何を言ってるのか全然理解が出来ない。奇跡じゃん。

 

「も、もう1回時間ください」

 

 これを現実的な書類としてもう一度読み直した。

 

 

 三大勢力の均衡を保つ為の海軍軍縮条約の制定

 主な内容は2つ。

 ・主力艦の製造禁止(購入の場合は政府を通す)

 ・補助艦の保有量の指定

 

 

 グシャッ。

 

 つまり『政府が制御出来ない力を付けられると困る』ってのが本音だよね!?

 

 

 提案者は……スパンダム………。

 聞いたことあるなぁ?? あぁ?

 

 

「コレは一応推測だが」

 

 毎秒死んで欲しいと思っているとセンゴクさんが口を開いた。

 

「自分は強いと驕っている阿呆派と海軍の戦力増加に怯えた馬鹿派が奇跡的に噛み合った結果だと思っている」

「予想外の策士とかそういう希望は」

「仮に利益を生み出せる頭があったとして、何をどう足掻いても野心家としか思えん上に海軍に不利益しか、ない」

 

 軍隊自体の縮小という案はまだいい。多分政策としてこの世に存在するだろう。

 だけどこれは国家間の和平を結ぶためにするもんだよね? 『私たちは戦争するほどの道具を持たないから、お前らも持たないでくれ』って。もしくは戦争国の国家予算圧迫回避方法。軍艦の製造も維持もお金かかるってのは雑用やってる私はよく知ってる。

 

 だけどこれは無い。そもそも前提が違う。

 世界唯一の中立正義組織海軍がパワーを失ってどうする!!! 力が余ってるから税金の確保の為にって名目かァ!? ウチの軍事費減らしても意味が無いだろうが! 手配書の! 懸賞金は! 税金! 賞金稼ぎに渡さないといけない(くび)を無報酬の海軍で積極的に潰し回ってるから税金が使い果たされてないんだろーーーーが! (ガキ)でも突ける穴を堂々と見せびらかすなよ馬鹿ども。まず理由を提示しろ書類として不完成だ、ただし全て燃やすがな。

 

 

 即火中!!!!!! 成敗!!!!!!

 

 

「これ届けた輩誰ですか」

「監察官だ…………」

「逃げ場がない」

「名前は確かシェパードだったかな」

 

 監察官は海軍内部を監察する()()()海軍組織だ。階級も海軍に合わせているし、表面上は海軍組織の一員だけど、実態は政府。

 

 シェパードねぇ。どっかで聞いたことあるぞぉ。

 

「………阿呆と馬鹿の奇跡的なコラボレーションッ!」

 

 項垂れた。

 ……私が完璧に潰し損ねた政府のネズミ共が猫の胃袋を噛みに来た。CP9とナバロンの両方で政府の役人と関わったが徹底的に潰しておけばよかった。

 

「まァともかく『敗北』の結果を望んだ理由がコレだ」

 

 要約すると『縮小する暇ないんでお断りしますね〜(ニッコリ゛)』だな、今回の敗北の理由って。

 率直な感想として政府もやばいけど海軍も大分やばくない?

 

「…………精神汚染? ……徹夜? いや洗脳という線も」

「内部状況を知らないとそういう反応になるのは分かっていたが流石に口を慎め」

 

 もっと条約を蹴るいい方法はあっただろうになんでそんな力技で解決しようとしたのか考えているとセンゴクさんからストップが入った。

 

「時間があればもっと穏便な方法など出てきた。……だがな! 直面したのはシキの通り魔の件! 黒ひげ海賊団の件! 貴様ら麦わらの一味のどったんばったん大騒ぎ! 白ひげ海賊団との全面戦争! そのくそ忙しい最中にふざけた条約要請だと!? 白ひげ以外の情報を持ってくるな、と何度叫んだと思う! ここ1ヶ月はろくに寝てないぞ!」

「ウワァ」

 

 流石に私でもドン引きした。

 察した、議事に会議にと慌ただしく割ける時間が少なかったから最も巫山戯たクソみたいな案件は過程より解決を重視したんだね。

 

 脅しをかけて交渉するにしてもかかる時間があるしその交渉の前に戦争が入るから軍事力にも影響が出て、確実にある事後処理でどれだけ時間を取られるか分からない。

 ならばこうしましょう。

 海軍の軍事力を縮小させなければ良いのだ、と。縮小させる余裕なんざない、と。

 

 プロの脳筋かよ。

 にしたって力技の規模が世界規模なんだけど。個人的に都合いいけど。

 

「──だがそれはそれとしても、貴様が海軍を裏切ったことには違いないぞ」

「……ぅ、っス」

 

 誤魔化されなかったか。

 

 そうだよなぁ、負けることが正しい選択だったとしても、それを知らずに敗北の結末を出したんなら裏切りだもんなぁ。

 雰囲気的に結果オーライだからそこまで重くはないだろうけど。

 

「ふぅ……。どんな処罰だろうと異論はありません」

 

 それで許されることはない。

 なんせ罪に対する罰だ。

 

「──リィン、大将位の任を解く」

「……ッ!」

 

 していた覚悟と違う命令に思わず息を飲んで顔を上げる。

 

「リィン、海軍を辞めろ」

 

 言い方を変えて伝えられた言葉。

 

「ちょ、ちょっとセンゴクさん、流石にキツすぎやしないかい?ほら、彼女色々功績は上げてるじゃんか。大将として遜色ない仕事はしてるよ?……あと辞められると書類仕事が溜まる」

「そーじゃそーじゃ!わしも困る!」

 

 反発してくれるのは嬉しいけど9割サボりが理由な人達は黙って座ってろ。

 

 所々反対の声が上がるのはとても嬉しい。

 

 まぁなんせ、殺さないなら生かして利用する方が便利だ。しかも私は触りとは言えど海軍内部を知っている。そんな存在を外海に放つ、と言うのも不満だろう。他人の手に渡るなら殺せ、って意味での擁護だとはわかる。

 

 私は拳を畳に、軽く頭を下げた。

 

「承知しました」

 

 素直な返事に、周囲はぎょっとした。

 

 

 ──覚悟はしていたけど、覚悟を必要としない処罰に驚いた。だって、元々『堕天使(リィン)』は海軍()裏切られ捨てられるというシナリオだったから。

 

 

「ちなみに事後処理が終われば女狐には追加の……恐らく赤封筒レベルの長期任務を受け渡す。抱えている仕事を整理しておけ」

「っえ!? あ、はい」

 

 流石に度肝を抜いた。

 

 

 世界を揺るがす程の赤封筒案件。

 組織や世間的に見たら解雇って十分な罰だけど、今後も海兵として海軍にいる以上、ちゃんと罰が必要だ。

 

 私に与えられた本当の罰は、赤封筒案件……。そっちが本命か。うわぁ、いやだ心底嫌だ。

 

 

 そして周囲は気付く。『リィン』は解雇されたけど、違う顔をした私がまだ女狐であるということに。

 中には訝しげな顔をしつつも納得する者、追加の任務の難易度にドン引く者、安心して息を吐く者。いやぁ、愛されてるなァ。……──同情するなら仕事を変わってくれ。

 

 

 まぁ、悪いことしたのは私だし。仕方ないけど、こう、若干安心させたところで思いっきりくそ重たい罰を与えるのはどうかと思う。いややりますけどね!流石に恩を仇で返そうとは思わないよここまでクソデカ案件抱えてくれたんだから!

 

 ……正直、ここまで私を思ってくれる他人って居ないんじゃないだろうか。

 ルフィを助けたい、エースを、サボを、生かしたい。大事なものを取りこぼさないように、私が死なないように、守ってくれている。麦わらの一味に絆された段階で裏切り者として見捨てられてもおかしくない。もっと昔にもおかしくないタイミングはあった。

 今回こそは本当に裏切り者として殺されてもまァ納得できるから潔く受け入れようと思った。

 

 その覚悟が、全部無駄になった……!

 

 

 

 

 私はこの人の為に何かしたい。命を懸けて、私の全てを持って、私を守ってくれた人に…──んん????

 

 

 私そんなお綺麗な人間じゃないよ??

 

 

「…………センゴクさん、もしかして、罪悪感をわざと抱かせ……?」

 

 

 お返事は今まで見たことがないレベルの笑顔だった。

 

 

 

 

 

 いや怖いわ。冷静になったけどセンゴクさんってめっちゃ怖い。気付いたけど、気付けたけど!気付いてしまったけど!

 

 どこからだ、どこから仕組まれてた。

 

 まず私がエース保護の思想を持っていることは既にバレてると確定していい。多分、初めて赤封筒に触れた時からバレてるとみて間違いない。

 だから戦争で裏切る確率は高かっただろう。

 私が海軍を捨てられないという、どっちつかずな思想を持っていることもバレていたら、表立って敵対はせずに海軍を影で操って、終結させる展開も読めてたはず。

 サカズキさんが言った『腕1本は貰うかもしれない』という発言から見て、センゴクさんは元々エースを殺すつもりはなかった。そう指示していた可能性も捨てきれない。

 私に対する人質として、エースを生かせば、生かすシナリオを私が築けば、罪が、罪悪感が、私に植え付けられる。

 そこを利用すれば……?

 

 うわあああ怖っっっっ。

 ちょっと待って気付いてしまった方がホラーじゃないか!これ!知らないままの方がいくらか幸せじゃん!大事にされて守られている事に変わりはないんだから!くぅぅ!使える頭がある自分が憎い!自分のアイディア高過ぎて発狂する!

 

「──ぎつね、女狐!聞いているか!」

「はい!センゴクさんは怖くないです!私は幸福で幸せで満足デス!」

 

「あらら、あと引き摺ってら」

 

 姿勢を正して返事をする。

 横のクザンさん、黙れ。

 

 議事の最中、私は考えに没頭してしまったけど初めて議事に参加出来た。席はクザンさんの横だ。……ぶっちゃけ考え事に集中しすぎてどうやって移動したのか覚えてないけど。

 

「それで、これからの新時代。お前はどう睨む」

 

 センゴクさんの曖昧な質問に、少し考える。

 これは現状の確認や先の予想というより、私の思考回路を確認する儀式みたいなものだろう。

 

「そう、ですね。──インペルダウンの暴動、予知を中心に計画してたらしいですし、あれの主犯はシラヌイ・カナエですよね。そこは死亡を確認しました。正直目の前で見たし複数人が確認したにも関わらずめちゃくちゃ断定できないのが怖いですけど」

 

 うん、とほぼ全員に頷かれた。

 そうだよ、目の前で死亡を確認したのにすごく死んでない気がするの、分かってくれるよね。黄泉がえり、という前例が出てしまった以上普通に考えて有り得ないのにぶっちゃけ6割生きてるんじゃないかと思うレベル。いや肉体の消滅も確認したし、悪魔の実も手元にあるし、あるわけないんだけど。あるわけないんだけど。……ないよね??

 

「今回の戦争自体にそこまで影響はないと思います。結末自体は戦争前と戦争後で対して変わらないので」

「ほう……?」

「世界が着目する点は、麦わら兄弟。これに限ります。『滅ばぬ海賊王の血』『大暴れする台風の目』は他の雑魚海賊の抑止力になる可能性が高いですが、同時に力を持つ海賊の勢いは苛烈極める一因になる、ですね」

 

 ただ、と言葉を続ける。

 

「存在はともかく。張本人は私が操れます。ツボも押えてるし弱点もいくつか。暴れ馬故、確実にと言えないところが難点ですが。同時に古強者や波に乗った海賊の視線を麦わらの一味に向けさせることも可能です」

 

 私はそこまで言って眉を顰める。

 アレが分からない。

 

 

「新しい時代、1番の不安要素があります」

 

 喉が渇く。

 私が1番不安を抱く、闇。

 

「〝黒ひげ〟マーシャル・D・ティーチ」

 

 1部を除き殆どがその名を聞いたことないだろう。

 

「──元白ひげ海賊団所属、血の掟を破り脱走。火拳と不死鳥両名を同時に相手取り、戦闘不能に。そして両名の身を手土産に七武海の称号を狙った。ただの手段、として」

「……黒ひげはインペルダウンにも現れたそうだな」

「えぇ。実際止めようとしたですけど、他の目もありますたし、無理でした。黒ひげが向かった先はインペルダウンlevel6。多分、いや、絶対目的は…──そこの囚人」

 

 それだけではない。それで終わりでは無いのだ。

 

 起こらなかったこそ! 怖いのだ!

 

「やつは悪魔の実を2つ食べることができます」

「「「!?」」」

「彼の狙う実は、グラグラの実。私が白ひげ海賊団を私情で逃がしたのは、やつに実を手に入れさせないため」

 

「ま、待て。待て女狐……。それは一体、どういうことだ」

 

「……おそらく死体から悪魔の実を取り出せるのだと思います。実力も頭も両方備えられ、長年狙っていた悪魔の実を手に入れた狡猾な男。ソイツが! 無名であることが! 警戒されてないことが! 私はとても怖いのです!」

 

 気持ちが昂りすぎて思わず叫び声になってしまう。

 海兵として黒ひげが注目されてないことは怖いけど、個人的に名もあげてない段階で中将方に注目されるのはクソ腹立つ。

 

 センゴクさんは眉間にこれでもかと皺を寄せて発言する。

 

「…──level6から黒ひげによって連れ出された囚人は4名だ。だがもちろん、それ以上に消えている。同時に死体の数も多かったがな」

「アッ」

「……おい待て女狐その『アッ』ってなんだ」

 

「…………いやぁ、その、うるさすぎて、デスマッチをさせてたので」

「お前に人の血は流れているのか???????」

 

 海兵は宇宙の神秘を見てしまった動物みたいな顔をしていた。これもしかしなくてもインペルダウンのマゼラン署長ショック受けてるだろうな。責任取って辞めるとか言わなければいいけど。

 まァ脱獄で目立った奴らはイナズマさん以外全て面識があったし探り入れたりとやりやすかった。これからまた情報を得なけれ…──。うん?

 

「海賊側を最も理解してるのって、もしかして」

「「「「「「お前/あんた/キミ/女狐 だな」」」」」」

「……こんな責任要らない。どーせこれから麦わら兄弟と合流しますしィ? 剣帝冥王コンビと会話するでしょうしィ? 元七武海ズは確実ですし白ひげ海賊団からもどうせ質問攻めにあう、は?? こわっ」

 

 えぇ、自分がやばすぎてセルフでドン引きする。

 

「でもま〜、あれだわ。麦わら。アイツらほんとどうなってんの?一味も、兄弟も」

「火拳、革命軍参謀、麦わら、死の外科医、厄介な4兄弟だな」

 

「ボブっ」

「ゲホッ」

 

「ルフィとエースとサボはもちろん知ってるんじゃが、あのローとかいうやつも杯交わしとったか……?」

 

 ゲホゲホと咳き込んで喉を直した。あー、ビックリした。

 

 私からは何も言いません。そのままそう捉えておいてください。反応がリアルですから。

 でもサボの気に入りようもルフィとエースの恩義も、マイナス方向には進まないだろうから……。うーん、嘘から出た真になるかもしれないな。普通に嫌だな。

 

「まァ、私は以上ですね。結論は『黒ひげを要警戒』です。私の手が届かない場所にいるので余計に」

 

 そろそろ私は席を立って兄の元に行かないと怪しまれるな。

 

 そう考えていたのが伝わったのかセンゴクさんは私に必要な重要項目を先に告げた。潜入兵は多忙なのです。1度海賊側でそれぞれの情報集めてセンゴクさんに報告しないとならないしね。

 

「七武海のことなんだが」

「……………ぅゎ」「ぅげ」

「そこら辺で小さく呻き声を上げるな」

 

 中将は基本七武海会議で監視などをこなすので七武海のハチャメチャ具合をよく分かっている。

 

「現在の七武海の状況を、」

「ハッ、席はドフラミンゴ、ミホーク、ハンコック、モリア。3枠開いています」

「……3枠?」

「くまは今回の麦わらの一味壊滅作戦で海賊に手を貸した。その点から除籍だな。あとは政府の内情……パシフィスタと絡む」

 

 ポツリとわざと疑問を口に出せば外にいて内部を把握しきれてない私に答えてくれた。

 いや、知ってたけどね。

 責任背負ってくれているの。

 

「新たに候補があれば」

 

 じゃあ私はさっさと答えておこう。

 片手を上げて候補を口に出した。

 

「『バギー』『大型超新星(ルーキー)』『クロコダイル』」

「…………その心は?」

 

 若干予想と外れていたであろうこのチョイス。

 私は一つ一つ理由を上げていくことにした。

 

「まずバギー、これは実力という意味ではまっったく意味は無いです。ただ、彼は肩書きがある。弱い故に武力行使や弱点を点けば簡単に操れる。それに調子乗りで小心者だからこそ、四皇と争わず渡り合えるんです。赤髪と兄弟分ですし……」

 

 あとこれは根拠がまだ見つけられてないただの勘なんだけど。あの人、多分天竜人。もしくはそれに近い肩書きはある。

 何となく理由を付けるのなら、『私』。私とバギーって存在定義が近いんだよ。肩書きだけがどんどん膨れ上がっているけど、実力は中の上、上の下。だから将来アレの全てが明らかになると政府ですら抑え込める権力になれる気がする。勘違いだとしても。

 

「次にルーキー。今の世代と全員顔を合わせました。同時期に上陸したこともありそれぞれかなり行動を睨み合ってるので、1人でもこちら側に寄せたい」

 

 それに関して2人だけ、出来れば3人候補から除きたい人がいる。それはルフィ(もちろん+一味)とドレークさん。ついでにローさん。

 ルフィの建前は『海軍政府と全面対決したから』で本音は『海賊王にする予定だから』だ。七武海になると海賊王の道、近道だろうと思うけど悪の代名詞として操るつもりなので指示される立場にいて欲しくない。指示できないからこそ海軍が手を出せない場所に手を出してもらう悪、である必要があるのだから。

 次にドレークさんの建前は『離反した元海兵だから』で本音は『旨味がないから』だ。七武海は新しい伝手というか、あまり知らない人を置いておきたい。染まるから。

 ローさんも避けたい理由は、多分ドフラミンゴとぶつかって七武海称号も意味なくなるから。これからの未来1つ枠が削れることは確定してるんだからね。2つにしたくない。

 

「最後にクロコダイルですが。アイツは裏に閉じ込めたくない。表に立っていて欲しい」

「……………何故か聞いても?」

 

 シンプルにまとめた言葉にセンゴクさんは引き攣り顔で聞いた。

 

「広告塔だから!」

「それは晒し首と言うんだッ!」

 

 右手を握り拳を固めてムン! とドヤ顔するとドン引きされた。げせぬ。

 

「この後事後処理等ですぐ行動を起こさねばならない者もいるだろう、ここで1度議事を締結させる」

 

「……もしかしてもしかしなくても私の反応を楽しみたいがために開いた?」

「……」

「全員視線を逸らすな」

 

 1時間と待たず終わる何も決定されない薄っぺらい議会に疑問が口から溢れれば遠回しなYESがヒシヒシと伝わってくる。

 いじめっ子かあんたら。

 理由のある仕返しという名の制裁が襲いかかってきた。

 

「クザンさん、本音は」

「スキルが人外すぎて大人のプライド粉々にされるからリィンちゃんのミスは残さず掬いとって笑いたい」

「そのプライドは大人じゃないかな……」

 

 皆さんよく覚えておいてください。こいつらが海賊の脅威として世界の抑止力になっている中将なんです。




最後になってくると気力が尽きてぐだぐだしてきたけどよく考えたらこれがこの作品の常だし別にいっかなって。

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