2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第235話 ちなみにここは地獄の三丁目

 

 訓練島はいくら元帥とはいえど毎日予約を入れることができる訳では無いので、空いた時間にとある内部調査任務が組み込まれた。空いてないです。平均睡眠時間は考えたくない。

 

 そんなデストピア拷問(じごくのきょうかくんれん)を繰り返して1週間。遂に奴らが来た。

 海軍本部内での戦後処理は終わったんだけど活性化されたイキリ海賊もいるもので、真面目に世界中という意味の戦後処理が終わらない。なので女狐隊の部屋の方で昼休憩も兼ねて書類仕事を片付けていると、事務の方から連絡が来たのだ。

 

 私が女狐部屋の扉の前で待機していると目的の人物は姿を見せた。

 

「……キミか」

「待ってたぜ新人。つってもまぁ俺もお前らとそんな変わんねェけど」

 

 ションとしての色を全面に押し出して腕を組む。

 赤いマスクをした女狐隊の雑用である(おれ)はその新しい同僚に視線を向けた。

 

「俺は女狐隊の雑用のション。まァ、女狐大将が多忙な方だから雑用仕事の代理として雇われてる」

「雑用と言う割にはそれなりに権力があると思ったが、そうも外れてなかったようだな。よろしく頼む、俺は一応代表のブルーノだ」

 

 ──やってきた人物はCP9の7人。

 手を出されたので少し迷いはしたが軽い握手をし、CP9に自己紹介をしてもらった。

 

「まずだが、女狐隊には向かい合わせに2つ部屋がある。あっちは女狐大将の部下。んで、こっちは女狐大将の手駒」

「……どう違うんだ?」

「あっちの部屋は進路に選択の余地がある。他の大将の下に行くとかな。要するに海軍で置かれている女狐の部下ってこと」

 

 普段コビメッポ達が過ごしている部屋の方を指す。ちなみにこちらは任務もそこそこ多いが休みも交代で取れている。

 本当に海軍から手放せない重罪(元海賊とか犯罪者予備軍とか)は組織として縛り付けている。

 

「こっちの部屋は選択の余地はない。女狐大将のために動き女狐大将のために死ぬ。ま、要するに訳あり。──女狐と称されるただ1人の為の部下」

 

 これは潜入を始めて出来た部下。所謂私兵。

 組織ではなく個人に縛り付けるため拘束力は弱いけど、保険を掛けまくる私にとって便利な人達を私に縛り付けられるのはかなりの利点。

 

「さァ、どっちを選ぶ?」

「わしあっちー」

「逃がすか」

「逃がさないわ」

「誰が逃がすか俺たちは一蓮托生」

「逃げたら俺は色々漏らすチャパ」

「そいつァ、あ、ねぇんじゃないのかァ?」

 

 あっちの部屋に意気揚々と向かったカクを必死の形相で食い止める5人。そう、残る1人。ちょっと、いや結構海軍のナミさんやってるルッチがこっちの部屋に迷う余地なく選択したからだ。

 

「嫌じゃ!わしは女狐のためになんぞ働いてたまるか!」

「女狐大将の部下の目の前で堂々と反逆とはいい度胸だな小童」

 

 (おれ)は小さく笑って小突き、全員を『こっちの部屋』に入れた。

 

「あー、お前らかぁ。……ったく、俺たちに情報共有くらいしてくれよな」

「ボムパイセン事務からの連絡でおもしれえくらいに『なんのことだ?』って顔してたもんなァ」

「当たり前だろ!」

 

 CP9は部屋を見回して、空席の女狐の場所を見つけた。

 

「……女狐は?」

 

 カクが嫌そうな顔をして聞く。

 

「んー」

 

 

 とりあえずそこまで多くない荷物を部屋の適当な場所に置いてもらう事にする。私は悩みながら大将の机に向かい、椅子を引いて。──どかりと座った。

 足を組み、背をかけ、フードと帽子を取って腕を組む。

 

「──女狐ならここにいるですけど、何かぁ?」

 

 

 CP9の空気は綺麗に固まった。

 

「「「「はぁあ!?」」」」

「改めまして、ようこそCP9。スカウト雑用の『俺』はあくまでも女狐大将への繋ぎなので、大将に用がある場合『俺』に一報入れてくれ。ある程度は俺が指示を出す」

「は、まさか、別人になっていたとは……?いやその顔見覚えがある……。戦神の若い頃と同じで…?」

「残念だけど髪染めただけ。さて、とりあえず政府からの干渉防ぐ為に名前を書いてもらう書類がある」

 

 固まるCP9に女狐隊は苦笑いや同情の視線を向けながら手を動かしている。失敬な。

 

 引き出しから書類を取り出すと、ある程度の塊にまとまった書類を個人個人に渡していく。

 

「……これ、まさかとは思うが」

 

 それぞれが中身を確認する中。1人だけ量の多いカクが書類をパラッと捲り引きつった顔を浮かべた。

 

「入隊届けだけじゃ守りに足りないのである程度の役職をそれぞれ用意した。この多忙期の1週間にちまちま用意したから書類ミスがあるかもしれないけど……まぁチェック入れてるし大丈夫だろう。内容の理解はまだいい。把握だけして」

 

 普通にただの名誉職だが役職を用意した。ポケットマネーから条件達成させたんだから文句は言うなよ。

 ちなみにめちゃくちゃ手間はかかった。

 

 表情を引き攣らせた同じ雑用なら、その苦労と手間は分かるよな?

 

「名前今すぐ書いて。まとめて提出する」

 

 入隊届けの処理自体は普通に簡単なんだけど、カクの扱いに死ぬほど苦労した。他のCP9と同じく昔から政府一筋なら兎も角、こいつ海軍歴があるから経歴のダブりがあるんだよ。つまりスパイっていう証拠。

 

「カク」

「………なんじゃあ」

「お前、海軍内へのポーズは私と同じで裏で役職持ってた潜入捜査兵。政府へのポーズは、海軍潜入なんて経歴は無かった。理解しろ」

 

 カクは一瞬硬直した後隠す気がないめちゃくちゃ大きな舌打ちをした。

 喧嘩売ってんのかこのクズ野郎。

 

「どういうことだ?」

 

 ジャブラが記入し終わった書類を私に出しながら聞いた。

 

「アイツは海軍の中では、『政府に潜入してましたが任務を終え戻ってきました。雑用だと偽ってましたが機密特殊部隊所属員です』って言うポジション」

「うん、何となくわかった」

「で、そのままの言い分だと政府に対する反発になってしまうから、政府に向けては『海軍雑用だったのはカクではなくて弟のシカクだった、そうだろう?』って潜入自体をなかったこととしてゴリ押しする」

 

「シカク……」

「弟のシカク……」

「カクお前シカクなんて弟いたのか」

 

「わしに聞くな知るかッ!」

「そこはきちんと知れ」

 

 政府の役人が海軍に潜入をしていた、なんてことが公になれば困るのは政府。だから脅してるんだ。

 カクは他のCP9と同じく普通に政府から海軍に転職した人物だ、と。

 

 

 あくまでも建前だから色々矛盾点が多すぎるけど、脅しかけているのは海軍側なので慌てるのは政府だけだ。

 

 これ、ちゃんと政府と交渉(おはなし)しなきゃならないんだけどね。

 私が任務で間に合わなかったら部下に託すことになる。脅し(こうしょうにん)を任せるとするならパレットかな。

 

「チャパー、そんな大事なこと俺の前で話していいのか〜?」

 

 CP9口軽選手権堂々トップのフクロウが心配そうというか申し訳なさそうな顔でそう聞いた。

 

「無問題。信じてるよ、フクロウ」

 

 元々漏れてもいい話しかしてない。政府の人間はフクロウの口が軽い事くらい知ってるだろう。ションがリィンであり女狐だってことも、カクの経歴を誤魔化していることも、全部バレても問題無いってわけだ。

 

 本当に隠したい事はさらに裏側にある。真女狐という存在はね。

 

 あとぶっちゃけ虚言癖ありという噂を流すことくらい造作もない。そういう噂話の裏工作はクロさんのアラバスタ事件で慣れてしまった。

 

「が、頑張るチャパー!」

 

 そんな裏事情を知らないフクロウは意気込んだ。

 綺麗な建前を信じて出来る限り頑張ってくれ。

 

 

「やはり貴女こそ俺に相応しい主……。部下というより奴隷の立ち位置の方が特別感が出て……」

 

 こちらをじっと見ながらブツブツ呟く『確実に尊敬の度が過ぎたルッチ』に、私は周囲を見渡した。

 

「ここまで拗れさせたの誰」

 

 ──お前ほんとろくな事しねぇなカク!

 

 全員の視線からそっと目を逸らした屑に盛大な殺意を込めた。

 

 

 コンコンコンとノックの音がした。

 

「女狐隊ー!来たー!」

 

 普段はそのノックにナインが私の指示を待ち開けるのだが、その声が聞こえた瞬間部屋の中の奴らは無条件に開けやがった。

 いやまぁね。私も開けるけど。

 

「月組様ーーッ!」

「待て開けるなッ!」

 

 ──いや開けたらダメじゃん!?

 

 チラっとカクの顔を見たら扉を見ながら驚く表情をするも、ニヤリとめちゃくちゃ凶悪に笑った。

 

「えっ、た、ション?」

 

 ナインが扉を開ける前に動揺して止まったが私は思わずため息を吐く。あぁ、必要なワードを渡してしまった。

 

「こちら女狐隊でーす!」

 

 ニッコリ楽しそうに笑う表情を被ってカクがウキウキしながら扉を開けた。

 隙間から見える姿は数人の塊。声と動きのくせから間違いなく月組だ。表情は仰天。

 

「おっ」

「え……?」

「あ、あ」

「えっ、ま、まって……」

 

「「「「「「カクーーーー!?」」」」」」

「サンカクーー!!」

 

 なんか名前の合唱に変なの混じったぞ。

 

「ひっさしぶりじゃなぁ!」

 

 名前を間違えたのはリックさんだと確信しているので今回は惜しかったなと思いながら私は椅子を蹴ってカクに肉薄した。

 

「ふっ…!」

「──ッ!」

 

 空中に飛び上がった状態で回し蹴りをすれば重量と体重が足の1点に集中されるので、カクの頭にぶち込む。

 まぁ武装色の覇気を纏った腕で防がれた。想定内。

 

「え、何、何事?」

「いててて、ションのやつどーしたんだ?」

「あの子なら真っ先に飛び付くと思ってたのに」

 

 目論見通り、月組が異常さを感じ取ってボソボソと話し合う。

 

 シャボンディ諸島から変わってないなコイツ。

 

 月組を庇うようにそっと手を広げ、月組の誰かが飛び出すのを防止した。

 

「──死者に用はねェんだよ屑」

「オーオー、随分な言い様じゃ。やっぱお前、ムカつくのぅ」

「ムカつくぅ?ハッ、甘口で言ってんじゃねぇよ。殺したい、の間違いだろ」

 

 吐き捨てたおれ()の言葉にカクは愉快で堪らないと言いたげな表情を浮かべた。世はそれをゲス顔と呼ぶ。

 

「え……」

 

 リックさんの後ろで顔を強ばらせたグレンさんが小さく動揺と悲鳴を漏らした。

 

「しゅ、うげきしゃ……」

 

 その単語に思わずバッと振り返る。その視線の先にはルッチがいた。

 なんでバレ……!?

 

「なんじゃ。グレンさん、ルッチの事知っておったか」

 

 カクは私の蹴りを受け止めた左手をぶらぶらと遊ばせてだらしなく突っ立って口を開いた。

 

「改めて、わしは元CPのカクじゃ。そこのルッチと共に行った殺害任務は失敗してしもうたが、月組はいい隠れ蓑じゃった。これからもどうぞ、よろしく」

 

 性格悪い挨拶を向けたカクに私は息を吸うようにイラッとしてしまう。裏工作でCP9()潜入してた設定だったの忘れたのかコイツ。いや、嫌がらせなのは分かるけど。

 

 

 するとリックさんが前に出てきてカクに手を伸ばし──頭をぐしゃぐしゃに撫でくりまわした。

 

「は?」

「えっ?」

 

「お前背、めちゃくちゃ伸びたなー!成長期こっわ!」

 

 あっけらかんと言い放った言葉に私とCP9は呆然とする。

 

「ということは…──もしかしなくてもカクって月組の中でめちゃくちゃ戦えるやつってことなんじゃ!」

「よっし、よぉおっし!物理に弱い俺たちこれでシカク無しなんじゃ!」

「カクだけに?」

「カクだけに!」

「っしゃあ!これで物理に走る狂信者の対処係が出来た!こっちこそよろしくカク!いやぁ戻ってきてくれてよかった!」

「でも連絡取れなかったことは許さんからな」

「ギルティ」

「おっまえっの弱点やーさーい!」

 

 一通りいじくった後、「じゃあ書類整理するなー」と言いながら仕事に向かった月組。いつもの定位置なんだろう。余った机や折り畳みの机を取り出して元BW組からまだ手を出してない書類を受け取っていた。中には完成した書類を届けに外に向かう人もいる。

 

 ぐちゃぐちゃになった髪の毛をそのままに、ポケッと月組を眺めるカク。そしてドン引きしたり感心したり爆笑したりと個性さまざまな様子を見せるCP9。

 ちなみに私は軽く引いてる。

 

「……──いや、えっ、海軍の麦わらか?」

「その例えはやめろ」

 

 

 

 

 グレンさんがルッチをチラリと見て、耐えきれなかった様に私を呼び出した。




わーいやったー!カク!お誕生日おめでとう!祝CP9入隊!

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