カクとの再会に喜ぶ月組とそれを揶揄うCP9。
そんな中グレンさんがルッチを警戒しながら近付いて来た。
「……ちょっと、相談したいことがあるんだが」
奇遇だな。と、純粋に思った。ルッチが第1雑用部屋の襲撃者であるという情報はセンゴクさん以外には漏れていない。
グレンさんが一目見て何故分かったのか知りたい部分がある。別に隠していてもいいんだけど。
「──CP9、そいつらに基本的な業務作業を聞いておいて。あんたらのメインは書類じゃなくて実働だけど、普通に回してもらうことになる」
「拝命した、が。我が主」
「雑用、ション」
「……ション、様」
「ション」
「…………………………しょん(嫌そうな顔)」
ルッチの呼び方をめちゃくちゃ修正して私は腕を組んだ。おら、続きを話せ。
「俺達の呼び名はどうにかならないだろうか」
「……? ルッチって呼んでるが」
「そちらではなく複数呼ぶ時の方だ。元々表立った組織じゃない上に、俺達はそこを抜けてきている」
一理所の話じゃないな。
そういえば、私はまだ彼らをCP9と呼んでいる。
顎に手を当てて頷くと、今度はボムがそろりと手を上げた。
「俺達も元々の組織名じゃなくてチームとして名前を貰いたいかなーって思います」
……CP9は実働部隊で元BW組は書類部隊じゃだめだろうか。うん、ダメだろうなぁ。
CP9の形態は知らないが基本的に潜入などしていた4人が対人系統と残りの3人が荒仕事をこなしていたのはわかる。ややこしいだろう。元BW組もバディが作られているが。
2組を見比べ、ちょうど中間にいた『組』と視線が交わった。
……それだ。
「元BW組、君達は星組。元CP9、お前達は空組」
「ウチのカクは他所にやりませんッ!」
「月組はお黙り──カクさんの墓は作ったでしょう」
「あれカクの墓だったのか!?」
「お前マジで何をしとるんじゃ!?」
「カクが既に死んでいた件について」
「成仏してくれ」
同じような組み分けの名前。カクが月ではなく空の方に入っていることに気付いた月組がびゃーびゃーと泣き喚く。
この感じ心底懐かしいな。
「俺たちが星でこいつらが空。理解したけど、由来が全く分かんねぇ……」
「ション〜、これどういう意味?」
ボムとレモンは私に質問を投げかけると『なんだろねー』と言いたげに互いに顔を見合わせて首を傾げていた。
「星は、太陽の周りを巡り太陽がいない場所で月と共に闇を照らす輝きを放つ」
「……! それ、って」
「空は、太陽の有無で色を変える。たくさんの色に」
うん、我ながら上出来。私は帽子を被りフードを被り外に出る身支度を済ませる。
「──ってことで俺は他の任務に行ってくるから指示必要な場合はコビーに聞いてくれ。グレンパイセン、お供頼む」
「あ、あぁ……」
去り際、
「星が空を彩り月が照らす。……なァ、ピッタリだろ?」
そのまま外に出て扉を閉めた。
──バタン…。
……。
…………。
「身内いる中でする演技ほどしんどいものは無い」
「あっ無理してたんだな」
グレンさんのやっぱりなと言いたげな同情的な視線を受けて私のメンタルは少しずつ回復する。
「詩人みたいな言い方を好むキャラ付けなんだよ」
「それ、元帥が?」
「そう」
雑用のションという人物はリィンが演技をしている姿だ。その演技の姿はセンゴクさんの指示。──という設定にしている。
私が判断したションのキャラ付けだってセンゴクさんの指示の元そう演じているということになる。なんでかは分からないけど、まぁ細かいことはまた今度脳内でまとめよう。本当は自分でも痛い演技はやりたくないんだけど、私にとって恥ずかしいくらいがこの世界じゃ案外普通。あとやりたくないことをやってこその命令だから生命線なので死ぬ気で羞恥は堪えるよ。
「それで、グレンパイセンの話は?」
「あー、うん、その、任務って言うのは?」
「任務自体は本当にあるけど後回し。グレンさん優先」
口調が戻る。
私は引き締めるように、女狐隊の色をしたマスクを着けた。
「人に聞かれたくない?」
「……。いや、そこまで気にはしない」
──不味くなったら守ってくれるだろ?
そうグレンさんは確信したように笑みを深めた。
「はは、参ったなぁ」
大当たりだよド畜生。
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「……………………マヂで?」
「マヂでもマジでもどっちでもいいけどさ、ガチだよ」
「……………………絶対的な味方でよかった」
「そいつはどうも」
グレンさんが死霊使いの末裔だった。
死霊使い。
私はその存在を幽霊が見えて、操作出来る。そういう存在だと思っていた。
死霊使いというのは魂を認識出来る能力だった。
例えばベンサム、彼がたとえマネマネの実で顔を変え、私の姿でいたとしてもグレンさんにはベンサムだとすぐに分かる。
私が例え変装をしても、別の存在としてその場に立てど、グレンさんには一目瞭然。
過去に女狐の姿でグレンさんと会ってなくて良かった。
まぁつまり──顔認識バグ。
「そういう言われ方は初めてだな」
「おそろいおそろい」
「……俺、お前を見掛けても周囲にアイツらがいなかったら声掛けないことにする」
「そうだね……。わた、俺無駄に顔があるからなぁ」
是非とも見た目で人物を判断出来る普通の人間と一緒の時にしてください。グレンさんの魂判別で味方の顔使い分けがバレてしまっては困る。
「ま、敵にとっちゃとんでもねぇだろうな」
特にベンサム。何度でも例えに出せるくらいベンサムと相性が悪すぎる。ハー、味方で良かった。
でも一目見た事ある襲撃者がルッチだって判断したカラクリはわかった。
「……それで? 相談ごとってのは、グレンパイセンが死霊使いってところの他にあるんだろ?」
「うんまぁそうなんだけど、よくわかるよな」
人気の少ない場所で壁にもたれ掛かりグレンさんをちらりと見た。眉間に皺を寄せて、更に言えば顔色がめちゃくちゃ悪い。
「火拳の、ことなんだが」
「…!」
出された話題にヒュッと息を吸い込む。
そういえば、戦争後から心ここに在らずと言った様子だったけど。
「俺が死霊使いだからなのか、やべーもん見ちまってさ」
「エースの生き返りのカラクリか!?」
「……あぁ」
コクリと頷き、グレンさんは続きを口に出した。
「海賊王、だった。俺、
「海賊王が、一体……? 生き残ってた、のか?」
グレンさんは首を横に振った。
「じゃあ、え、まさかとは思うが。魂は生まれ変わっても同じ形をしてるだろう? 初期化されるんだから。エースが海賊王の生まれ変わり、とか」
推測を口に出すとグレンさんは仰天したように目を見開いた。
「……いや、その推理は外れてるわけだけどさ。呆れた。お前、魂の初期化まで知ってるのか」
「むしろ逆にその若さで生まれ変わり知ってるの? こんな広い世界で?」
「あ、うん。目の前にいるし」
「!?!??!?どゆこと!??!?え、私の前世グレンさんご存知!???!?」
いやいや待ってどういうことですか!? 私の前世間違いなくこの世界ではないんだけど!
「いやだって、25年くらい前って生まれてないだろ」
「全く微塵も欠片もこの世に存在してませんが!?」
土石流みたいな情報に私が大変なんだけども。
情報過多で頭がクラクラしてきた。
「ともかく! ……火拳の生き返りに海賊王の魂が関わってるって訳、細かい詳細は分からないし、そもそも魂関連って言葉にするには難しいから1番近い炎として例えるが」
軌道修正をするようにグレンさんは無理矢理言葉を繋げ、ため息を吐き出した。
「海賊王の炎が、火拳の炎を包んだんだ。それだけでも俺には強い衝撃だった。浄化する様に一瞬消えたと思ったんだ。まるで魂が天に回収されるみたいに。だけど海賊王の炎が世界を壊すくらいの無茶苦茶な法則を無視した力技で、火拳の魂を肉体に押し戻した」
「海賊王の、魂は一体どうやってこの世に……?転生は、してないんだよね?」
「成仏すると、うーん……スっと消えるんだよ。透明度がどんどん高くなって。今回はその逆。何もないところからバリバリと雷を放つように無理矢理現れた」
私は顎に手を当てて考える。
グレンさんと私の眼球の光の屈折率が違って半分くらいしか理解できない。少なくとも、何度も念を押されてる通り海賊王は確実に死んでいるんだろう。
死後の世界から無理矢理力技で干渉されるとこの世の法則が全くデタラメになってしまう。前例を作ってしまった以上厄介だね。領域外のことにまで可能性という視野を広げなければならなくなった。
……。個人としては、無理矢理でも法則を無視してでも、助けてくれたのはありがたい。
「俺にとってはホラー映像見てる気分だった。正直今までめちゃくちゃ怖かったんだけど」
グレンさんは困ったように笑った。
「やっぱお前凄いな、皆が傾倒する意味が分かるよ」
「…………グレンさん頑なに名前呼びしませんよね」
「間違えたらどうするんだ俺は顔認識出来ないぞ」
話の腰は私が力技で折った。
まぁ傾倒するとか言われても私は慰めもしてないし解決策も出てない。ただ情報共有されただけなんだけどね。
そういえば、アラバスタでコアラさんやマルコさんが絶賛してたの確かグレンさんだったな……。潜んでいたBWを見事に当てて見せた、というのは聞いていたけど。当時てっきり表情とか仕草とかで怪しい人たちを見つけるスキルを持っているのだと思っていたが。
魂の大体の素質が判断基準か。
「ところでお前任務って言うのは?」
「ん?あァ……噂程度にはなってると思ってんだけど、海兵殺し………。あ、パイセンめっちゃ使えんじゃん」
「え、何怖い。海兵殺しって」
にんまりと笑ってグレンさんを見る。今度はこちらが驚かせる番だ。
==========
「………………マヂで?」
「ハイハイ同文同文」
私に舞い込んできた任務を説明するとグレンさんは呆然とした顔をした。いや、普通に嫌そうだな。
最近また新たに起こった事件現場に足を進める。もう既に情報は紙に変換されてるけど。
横を着いてくるグレンさんは未だに混乱しているようだった。
「えっ、もう1回聞くけど海兵殺しってほんとにここで起こってんの?」
「人がいるからそれ言うの控えてくれよ。なぁに、ちょっと海軍本部で『遭難事件』が起こっただけだ」
「それはそれで問題あるけどお前の頭にある隠語辞典引っ張り出してこいどこで知るんだそんな言葉」
海軍本部海兵遭難事件。
──端的に言うと今現在本部で起こっている、殺人事件だ。
対象は海軍本部勤務者。合計3名。
時期は戦争後から約1週間。
とりあえず裏切り者の線を睨んでいるからグレンさんの力を借りようと思ったんだけど。
「が、概要は」
「遭難者は全て海兵。繋がりは今のとこ海兵としか無いな。部隊も所属も派閥も全部違う。あ、唯一言えるのは睨まれてない様な海兵」
「睨まれてない……?」
「上とか裏にだよ。要するに、海兵として理想的な奴?女狐派閥のやつもいたな」
この海兵殺し。
私がわざわざ担当していることに理由が1つある。
遺体状況が全て首チョンパだった。まるで鋭い刃で一閃された様に、首が跳ねられていた。
中には少将地位の人物も居たから、そのレベルの実力者を一撃で仕留められるような犯人なのだろう。
昔扱った海兵殺しにそっくりだ。
グラッジって言う栗色七武海の起こした事件にな。
「昔もこんな感じで誰かが調べたんだろうなぁ」
「え?……あァ、昔の七武海か」
ふぅん。月組内ではグラッジの事件も共有されてるのか。
「これから聞き込みもあるし、丁度いいからグレンパイセンの目で色々情報渡してくれよ。事件に関係なくても」
「あ、それで。事件は建前か」
「そうとも言うなァ」
帽子を深く被って後頭部で手を組む。
鼻で笑って私は俺の仮面を被った。
「……これでも筋肉痛で体動かねぇんだけどな」
恨み言くらいは吐かせて欲しい。センゴクさんとの1対1強化訓練技の練度上げ中心とは言えかなり厳しいんだから。
さっさと犯人見つけて睡眠時間に充てるしかないな。
「調査って言ってもどこからどうするんだ……?聞き込みか…?」
今まで海軍本部で雑用してきたグレンさんの疑問に私は指を1つ立てて見せつけた。
「現場検証」
演じてるキャラ付け的に対人技能は使えないんでね。
お得意の頭脳戦と行きますよ。
「検証……」
不思議そうな顔をしていた。
「この世界さぁ」
「お、おう。話の切り出し方のスケールがデカいけどなんだ」
「──体格差も筋力差も激しいんだよ」
「そう……だな?」
私の勢いに呑まれかけてるグレンさん。
前世と比べたら圧倒的に体格差という隠せない証拠がある。戦い方という色がある。
遺体や死体から犯人を特定するなんて、造作もない。指紋よりずっとずっと分かりやすく、避けにくい証拠だ。
私がリィンと女狐とションで戦闘スタイルを変える訓練をしている理由はこれだから。
事件現場に到着し、私は勘に従い気になったところを睨み始めた。
ところで遺体と共にあった証拠がある。
それは一輪の花。
弔うように胸に置かれた幸福や救いの意味を持つ花ばかりだった。
昔昔リィンも死霊使いだって偽ったからね。本当はこの事件削るか削るまいか迷ったんだけど折角だしグレンさんの説明も兼ねて入れとこうかな、と。別に重要な事件じゃないです。ただの遭難事件なんで。頭から先が。