2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第237話 未だ遭難中

 

 

 海兵殺し。

 あァ、現場は海軍本部だ。ということはウチに潜り込んだネズミか裏切り者か。そのどちらかということになる。なんて嘆かわしい。同じ正義を背負う者として情けなくて涙が出てくるよ。

 

 

 

 ──なんて思うはずも無く。

 

穿鑿(せんさく)じゃーい!」

「おー!」

 

 調べて調べて調べたおす。出来ることはそれだけだ。

 

「で、現場がここ?」

「うん。ちなみにここの被害者はグレンパイセンと同じ身長」

「…………………検証ってまさか俺で?」

 

 目を細めてYESと回答した。

 

 身内からそんな事件を起こしてしまって情けない?嘆かわしい?

 ははっ、そんな感情は微塵も浮かんでこないね。なんせ私だって裏切り者(一応未遂扱いだけど)。私の任務のために犯人を特定する。絶対に。

 

「んじゃパイセンそこ立って」

「おう」

 

 指定した場所に素直に従い直立するグレンさん。私は靴をふわりと浮かせとりあえず後頭部だが目線が合う高さにしてみる。

 ……。

 うん、背後同じ目線は無いな。

 

「パイセンこっち向いて」

「はいよ」

「……うーん。これは、また、めんどくせぇな」

 

 再び自分の視線の高さをふわふわと調節し、考えるより先に一旦地面に降り立つ。

 

「血飛沫の跡が確か……」

 

 資料の写真を撮り出して脳内で事件現場を再現する。角度、血飛沫の大きさ、うーーーわーーーこれ確実にめんどくさい事件じゃないですかやだ。

 

「なんでそんな嫌そうな顔を?」

「大体の像を絞れたから、かな」

「速くないか!?」

「おっし、聞き込みはパイセンの仕事な。可愛い後輩からのお願い。周辺じゃなくてその目使って犯人カチコミ行くぞオラ」

「ちょ、ちょっとま、おいこら」

 

 一発目の検証とも言えない現場検証は終了したので場所を移動する。一応念の為他の場所も調べていく。

 

 

「む、ションか」

「ん?あァ、赤犬大将」

 

 現場確認の途中、周囲にサカズキさんの部下がいるが声を掛けられたので反応を示す。緩く敬礼するとツカツカと歩いていった。ションはキャラ設定上媚売らないし愛想も振りまかないので。

 

「……。その資料」

「あァ、例のヤツ。俺に回ってきたんで。こういうのは雇用範囲外だと思ってたんだがなぁ」

「人手不足じゃ諦めい」

「へーへー」

 

 部下の人達は軽々しい(おれ)の態度にギョッとしてるみたいだ。

 サカズキさんは声をかけたのがリィンが演じてるションという男(一応取り繕っただけの除籍)なので普段と変わらない態度で接している。

 

「──じゃあその通り進めちょってくれ」

「はっ」

 

 ちょっと待ってろ、と言いたげに手のひらを向けられたので手を組みながら待つ。サカズキさんは部下に指示を出していた。

 

「……パイセン、この場でとりあえず見て」

 

 私の斜め後ろで待機してたグレンさんの襟首を引っ張って耳を私に寄せさせる。

 

「…………右から、清純な魂、黒さもあるけど表に出さないお前タイプ、優しすぎる、そこそこ業を繰り返すタイプ」

 

 その性根が優しすぎるの判断下したの間違いなくサカズキさんだよね。はー、なるほど。大体の性格もバレるのか。魂は記憶の初期化だから。性根はなぁ。

 

「一応いっとくけど性根がってだけだから育ってきた環境も現状の性格に影響するからな?」

「そーれーは、理解してる。あくまでも参考要素の1つだって」

 

 そこそこ業を繰り返すってことがどんな感じなのかわかんないな。というか言葉として説明させるのがそもそも下手打ってるんだけど。

 

 んー、視界が共有出来たらな。

 

「海賊って基本どんな感じに見えんだ?」

「自分本位な感じ。お前より黒さは薄いけど」

 

 ……。

 まぁ顔面だけ見てこの人○○してそう、とか言われても説得力はないよね!要はそういう判断だよね!

 

「現実逃避してそうなお前に向けるけどお前が実は腹黒で自分本位でどうしようもない業を繰り返す魂だってのは分かってるからな」

「ド畜生!」

 

 地団駄を踏むと指示を出し終えたサカズキさんが寄ってきた。

 

「それで、どこまでわかった?」

 

 そういえば2番目の被害者はサカズキさんの派閥の人だったな。

 不意に思い出した。やっぱりこの人は優しすぎる人なんだな。

 

「身長は250cm前後。獲物がかなりの業物、もしくはやべーレベルの覇気の持ち主。……被害者全員に警戒されない様な人格者」

「えっ」

「つまりお前じゃないだろうと決めつけられやすい将校だな。地位は本命が大佐あたり。大穴で中将」

 

「ふむ、大佐あたりと言う目安は?」

「地位もあり自由もあるラインがそこだろうよ。他組織のネズミが使いやすい地位だ」

 

 肩を竦めやれやれと言った感じにアピールする。

 少将が犠牲になったってことは実力中将レベルでないと綺麗に仕留めにくい。

 

「なんで身長とかわかったんだ?」

「えー、勘?」

 

 首はねの角度とか血飛沫の勢いとか諸々で推理出来るけど、私は探偵じゃないから『その結論』に至った経緯を説明するのが苦手なんだよなぁ。

 

「身長の件はもう角度から来る予測としか。ただ首の断面図を見るとかなり綺麗に切れていたからな、武器はいいもん使ってるな」

「くびのだんめんず」

「……お前ほんとにいくつだ??人間か??」

 

 私の言葉を繰り返すだけbotになってしまったグレンさんに哀れみの視線を送りながらサカズキさんが首を傾げた。

 

「…………よく、断面図なんて見れるな」

「俺に無関係じゃねェか。ヤッたわけでも知った顔でもねぇし。顔分からないが」

「お前ほんとににんげんか……?」

 

 グレンさんが震え声になってしまった。

 被害者は1番最初が拳骨部隊、2番目が赤犬部下、3番目が女狐派閥。所属形態も系統も違うからなぁ。名前聞いても思い出せないし。

 

「まぁだがその人物像は当たっちょるわい」

「……へ?」

 

 予想外の言葉に思わず素を出してしまう。サカズキさんは飄々とした顔で告げた。

 

「センゴクさんが既にその結論を出しちょる」

「──元帥テメェッ!!!!!」

 

 何がしたいのセンゴクさん!?

 犯人像の当たりをつけてるんなら教えてくれたっていいじゃん!なんで私に推理させるの!?

 

「海軍の知将2人が同じ結論ならほぼほぼ確定じゃァ、これ以上被害が出んようにするんじゃな」

「んぐぅ……」

 

 褒めるのかプレッシャーかけるのかどっちかにして欲しい。

 

「……。まぁ、やれるだけやってみるけどよ」

 

 フードと帽子を脱いでガシガシと頭をかく。

 肉体的にも精神的にもめちゃくちゃ疲れている。海賊稼業って楽だったんだな……。

 

「サカズキ大将!頼まれてたやつ出来ましたよ」

「あァ」

 

 サカズキさん、女狐隊に負けず劣らず忙しい様子だ。流石人事部。

 

「ヴェルゴ中将、頬にウインナー付いたままじゃが」

「……!これは失敬」

 

 そろそろ時間食うのも食わせるのも利益にならないし立ち去ろうか。それとも引き止められた理由に犯人像の推測を聞く以外に何かあったんだろうか。

 

「グレンパイセン、身長だけ絞ったリストとかそっちで作れる?」

「え、あぁ、出来ると思うけど、個人情報入手権限が必要だから最低でも大佐以上の名前が必要だと思う」

「じゃあ女狐大将に許可取るかー」

 

 顎に手を当てて考える。

 

「……?大将、彼は」

「中将にはまだ共有しちょらんかったか」

 

 2人の視線が私に注がれた。

 ヴェルゴ中将……だっけ?関わったことなかったと思うんだけど。この人、250cmの身長格だな。

 

「女狐大将の繋ぎやってる個人雇用雑用。ま、よろしく頼むぜ、中将」

 

 ヘラっと笑って軽く手を振る。

 

「……(チラッ)」

 

 帽子の隙間から一瞬だけグレンさんに視線を飛ばす。グレンさんは私を見ずに中将を見ていた。

 

「女狐大将の部下か!そうかよろしく頼むよ、明日の七武海臨時会議が一緒だったと思うから」

「あァ、確かに大将は明日戻るな。伝えとく」

 

 別に中将だから私が女狐であることを教えてもいいんだけど今回250cmは敵対の可能性があるから念を置いておく。

 

「すまんなション。女狐によろしく言うとってくれ。……後、そっちの人手のことなんじゃがやはり誰か派遣しようか」

「あー、すまん。俺ァその方針は弄れねェから持ち帰って検討させてくれ。人手不足は痛感してるからこっちで大将に話通しとくよ」

 

 意訳:決めかねないから少し時間が欲しい。

 

 女狐の雑用ポジションの台詞を吐くとサカズキさんはひとつ頷いてヴェルゴ中将と共に踵を返した。

 

 去り行く背中が見えなくなってグレンさんに問い掛ける。

 

「で、どうだった?」

「殺身成仁みたいな魂」

「自己犠牲型の正義の塊ってとこか。んー、違うか…………──まてよ」

 

 思い出した。ヴェルゴ中将の通り名。

 

「〝鬼竹〟だ」

「……あァ!あの人が鬼竹か」

 

 鬼に金棒を持たせるように、竹ですら強力な武器に変えてしまう程の覇気の持ち主。

 

 やっぱりめんどくさいな。中将が敵だと。しかもヴェルゴ中将はまだ戦闘訓練の相手してもらってないから戦い方も分からない。

 

 いや、誰であろうと中将と敵対したくないな。

 

「さて、リストまとめするか」

「それ俺がするんだよな!?」

「うん、(おれ)他にやる事あるし」

 

 人に仕事を押し付けるのは結構得意です。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「その、お邪魔します」

「おう、いらっしゃい嬢ちゃん」

「──お前の部屋じゃねぇだろうが」

 

 よう、と片手を上げたジジイの頭に遠慮なくハリセンをぶち込む。

 

 グレンさんに身長250cm前後の将校のリスト作成を頼んでいる間、私はパレットを連れて女狐隊の【あっちの部屋】に居た。

 

 そろそろ『あっち』とか『こっち』とか紛らわしいから、昔からある方の部屋(ヘルメッポが在中するとこ)を『昼の間』で、潜入中に出来た部屋(星組達が在中するとこ)を『夜の間』と名付けとこうか。

 

 昼の間には基本的に外回りが多い。顔が割れてる元海賊は基本的に部屋の中にいるけれど、人口密度が低いから比較的静かだ。

 

「あ?そういえばジャンは?今日は書類だろ」

「あーー、それが」

「あのイカレござる野郎ならとっくの昔に『向かんでござるー』とか言いながら逃げたぜ」

 

 部屋の隅で積み上がったガラク……備品をガチャガチャと整理していたバッカが顔だけひょっこり出して嫌そうに顔を歪めながらそう言った。

 

「はーー。またか」

「我らが女狐隊における三馬鹿の一角だぞアレ」

 

 学ばねぇよ、と言いながら作業に戻っていった。

 ちなみにその三馬鹿の中にバッカは含まれてない。馬鹿って名前してる割りにバッカは頭良いもんな……。

 

「それで、あー、名前なんだったか?」

「ション」

「そーだ、ション。それで、わしとパレットの嬢ちゃんへの仕事ってのはなんじゃん?」

 

 備品整理をしているバッカの実父である発明家のヴォルフがソファに腰掛けながら私に聞いてきた。

 私が迷わず上座に座ると、パレットはヴォルフに倣うように彼の横に座った。

 

「1つ『ガッチャン』2人に作『ガタガタ』て欲し『バキッ』いもん『ガラララララ』る」

「おーい、それ俺が聞いてても問題ないかー?」

「お前がいても問題はねぇけど整理整頓の音が素直にうるせぇよ」

 

 話が進まないんだが!

 ソファのど真ん中に腰掛けていたが、腰をズラして1人分開けるとその空席をポンポンと叩く。

 

「……お馬鹿さん、構って欲しいなら素直に来る」

「……!ゲパッ!」

 

 ぴょこ、と嬉しそうな顔をガラクタの中から出していそいそとこちらに向かって来た。喜びぐあいが幼女だよねこれ。

 

「それで仕事なんだけど、2人の通常業務は一切止めるから作ってもらいたいものがある」

「……私は別にいいけど出来るかな?」

「この方が出来ねえ仕事を振るとは思わねぇが、大分重要な仕事なんじゃろう?」

 

 私はマントと帽子を脱いで髪の毛を触った。

 

「地毛と染色の切り替えが時間をかけずに出来る何かを発明して欲しい」

「「……!」」

 

 2人が目を見開いて、最初に口を開いたのはヴォルフだった。

 

「興味が湧いた。細かく教えとくれ」

「今私は金髪と黒髪を使い分けてる。すぐに海賊として活動出来るように染め粉を使ってるんだよ。液体ではなくて」

「その染め粉って、確か水で洗い流せるタイプの……」

「そうだよ。別に染色液と脱色液交互に使って染めてもいい。……ま、生え際とかボロがでやすいからすこぶる手間がかかるけど」

 

 未だに慣れない視界に入る黒髪に水をかけると染め粉が落ちて金髪が見えてくる。

 

「不便だな」

「めちゃくちゃ不便。ったく、センゴクさんもわざわざ黒髪にしなくても良かったのに」

 

 自分で黒髪にすると決めたのにセンゴクさんへの文句を口に出す。ファンデーションを塗るように染め粉をパフパフすると再び黒髪に染まっていった。

 

「2人の力で新しい髪色切り替えの装置なりなんなり作って欲しいんだけどやっぱり……()()()()()()()()?」

 

 私が首を傾げながら聞くとヴォルフはピクリと青筋を立てた。

 

「オイ雇い主さんよォ、発明家に『出来ねえか』とは随分な了見じゃねぇか」

「いやぁ普通は無理でしょう?だってヴォルフは機械いじりしかしないし。私も難易度は高いだろうと思うしたのですよねー」

「……やる」

 

 私は腕を組み、なんて言ったか聞き返してみた。

 

「──やってやるって言ってんだガキンチョめッ!出来ねえと鼻から提案するその思考回路にスパナぶち込んでやらァ!やるぜ嬢ちゃん!」

「え、あ、うん。……ヴォルフおじい様、私それぞれの理想の姿に変身させるカラーの能力持ってるよ」

「よし、やってやるぞー!」

「お、おー!」

 

 簡単にやる気を出したヴォルフに思わず大爆笑する。腹がよじれそうな中、隣に座るバッカをばしばし叩いた。

 いやー単純。職人気質な人ってやる気を引き出しやすくて堪らないわ。

 

「はぁ、親父……」

 

 早速ヴォルフとパレットがあーだこーだと構成を練っている傍らで、バッカが情けない声を上げていた。

 

 

 ヴォルフとバッカは親子だ。(ノース)で拾ってきた。

 元々バッカの能力、溶解人間であるデロデロの実の能力を狙っていたんだけども本人の基質も難がありすぎるわけじゃないし女狐隊スカウトだ。ついでに父親であるヴォルフも拾ったんだったっけ。

 

 地元の財宝狙って大喧嘩したらしいけど、まぁこの親子は技術が必要なだけであって過去は必要ない。

 一応バッカが元賞金首だから扱いはそれなりに手間がかかるけど。書類上では刑期間だ。

 

「ギブ&テイクを忘れるんじゃねぇぞ!」

「ははっ、俺を舐めるなよヴォルフ。お前が欲しいのは……これだろう……?」

 

 私は最近発掘された謎の金属、ワポメタルを取り出した。

 出産国すら不明だがこの噂を聞いた瞬間何かに使えると思って青い鳥(ブルーバード)経由で取り寄せたもんだ。

 

「〜〜〜〜ッ!最高じゃな!この天才発明家に任せい!3日で仕上げてくれるわ!」

「えっ、無理よおじい様。1週間は欲しい」

 

 とりあえず髪色の問題はこれで解決したも同然かな。

 パレットが『不思議色の覇気使い』でよかった。同じ魔法(はき)使いとしてわかるけどある程度のむちゃも思い込めば出来るから。

 

「カカカ!ただいまでござる〜!移動式厨が来た故に、拙者焼き芋を買って参っ──御免!」

「バッカ、ゴー」

「逃がすかござる侍!別にボム達の部屋と違って切羽詰まっちゃいねぇけどサボりは許さねぇぞ!」

「私たちそんなに書類仕事切羽詰まってるの……?」

 

 私がいるという現状を把握し即座に踵を返したジャンに向かってバッカが飛びかかる。

 ただし普通に逃げられた。

 

「バッカは持久力あるけど瞬発力はないね」

「能力の性能的に瞬発力は削る他なかったんだよ」

 

 実力を把握してるから目に見えてわかった結果だけども、バッカはブスッとした表情で言い訳を零す。

 

「……ショーン。グレンがリストまとめ終わったって」

 

 私に都合の良すぎるタイミングでボムが書類を片手に入ってきた。

 

「あ、ボム。悪いんだけど」

「悪いと思ってるならそれ以上言うな」

「悪いと思ってないから言うんだけどジャンの野郎とっ捕まえてきて貰えるね?」

 

「YESかはいしか受け付けないやつだコレ!クソッ!」

 

 




女狐隊
ヴォルフ→我楽多屋の爺さん
バッカ→ゲロゲロの実の元海賊
ジャン→偽名。モデルはジョン万次郎。亡命中。

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