2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第243話 仏の顔も三度まで

 

 ロジャー海賊団の船が消えました。

 一言で完結する経緯と、一言で解決しない現状。

 

 偉大なる航路(グランドライン)の入口、双子岬で途方に暮れていた。

 

「ロジャー、お前は最高だよ」

「………………はい」

東の海(イーストブルー)が地元だとしても冒険したい気持ちはわかる。なんせ知らねぇ島は沢山あるもんな」

「………………はい」

「補充もままならねぇまま海軍の犬っころ4匹に追われるのは最高にクレイジーだ」

「………………はい」

「そんな物資も余裕も最高に不足した俺たちに待ち受けていたのは栗坊主の船ごとあばよ事件」

「………………ちょっとネーミングセンスが無」

「ゴール・D・ロジャー?」

「ナンデモナイデス」

 

 私はもう頭と胃が痛くなるから深く考えるのをやめた。

 (おれ)は楽しいことを優先的に考える。

 

 やや説教臭くなってしまったが、心の中のリィンがコイツをどつき回せって言っているから後で海水に沈めるとして。いや、レイさんが鞭を片手に素晴らしい笑顔を浮かべてるから楽しい調教……ゲフンゲフン、教育の時間がやってくるのだろう。

 世の中には知らなくていい事が沢山あるので。

 

 とにかく!

 私はロジャー海賊団に引っ捕まり、無事偉大なる航路(グランドライン)入りしたのだがまぁエキセントリックな一味だ。まともに入れる訳もなく。クジラに飲み込まれる、なんてアホな事件は起きなかったが子クジラと戯れている隙にフェヒ爺が物資(仮)を乗せ船ごとさよならしてしまったのだった。

 物資(仮)、というのも海賊団襲って宝石金銀手に入れた。のはいいのだが、それを換金して食料やらの必需品にする前にセンゴクさん達に追いかけ回されるから。金銀財産も使えなきゃただのゴミ。

 

「でもだって、エースだって俺と一緒に足元すくわれた仲じゃん」

 

 ロジャーの言葉に私は鼻で笑う。

 私は何をしていたか、だって?

 

 ──悠々と傍観していた……!(ドーン)

 

「いや気付いていたが?」

「気付いてたのかよ!」

「俺は面白そうだから傍観した。わざわざつまんねぇことするかよ」

 

 うそです気付いてませんでした。

 正確に言うと途中で気付いていたんだけど、(おれ)が途中で気付く、なんて強者らしくないから『気付いたけど気付いてないフリ』の演技で余裕綽々してました。

 

 私が未熟でミスったとしても愉快犯の(おれ)はわざとミスったってことになる。誰にも分かるまい私のハッタリを……!

 

 

 あ、ただしセンゴクさん達相手は全力で気付き次第逃げさせてもらったが。初回以降エンカウントしてないぜ!

 ──……まあ、顔を突き合わせてないだけであって目眩しに全力注いだから、うん、被害は盛大に行ってたと思う。数十年先に謝っておく、ごめん。

 

「というか、カナエはさほど焦ってないな」

 

 レイさんがカナエさんに顔を向ける。

 彼女は未だにクジラと歌って踊って遊んでいた。

 

「緊張感のないヤツめ。本物のアホとはこういうヤツのことを言うんだな」

 

 口が非常に悪くカナエさんの評価は厳しめだが、その実、表情は優しい。カナエさんはあまりにも善で光だ。たとえ周囲に及ぶ影響が善でなくても。強い光は焦がれる。レイさんは眩しげに目が細めていた。

 ロジャーが思わずと言った感じで私の肩にもたれかかる。

 

「おやおやおや?」

「あー……おやおや」

 

 どうやら朴念仁という訳でもなく、そこに秘められた感情を敏感に感じ取ったご様子。

 

「……なんだロジャー、とエース。その気色悪い顔は」

「「いいやなんでもー」」

 

 営業スマイルを浮かべる私に対してロジャーの笑顔は愉快だと言わんばかりの笑顔。その態度が不服だったのかレイさんは吐き捨てるような舌打ちをした。

 

「歴史ってのはさー。早々変わらないもんなんだよね」

 

 カナエさんが唐突に話かけるのでレイさんは面白いくらい肩をビクつかせた。

 クジラ──ラブーンの上で寝そべっていた彼女は視線をこちら。具体的にはロジャーに向ける。

 

「歴史の強制力っていうの〜? だから、なるようにしかならないんだよ。力技で無理矢理変えない限り。多分、それこそ命をかけない限り。大丈夫大丈夫、少なくともコレでロジャーやレイリーが死ぬようなことにはなんないから。なるようになる!」

 

 頑張るぞー、なんて気の抜ける雄叫びを上げながらカナエさんはケラケラと笑う。

 予知の使い手、シラヌイ・カナエ。

 ぶっちゃけ私が知っている情報なんてこの程度だ。

 

 予知なんて言う歴史で何を見たのか。エースが死ぬ未来を、貴女はこの時期からずっと見ていたのか。

 

「……なんて楽観視だお前は」

 

 彼女の言葉の真意を真剣に考えすぎている私に対し、レイさんは呆れたようなため息を吐いた。

 なぁ、と耳元で()()()の声がした。

 

「どう思うよエース」

 

 あ、違った。ロジャーだった。

 それで私の方がエースだった。紛らわしいな! 声が似ているんだよ声が! シバキ倒すぞ!

 

「ほの字に6480万ベリー」

「大雑把なのか具体的なのかわからんな。じゃあいつくっつくと思う?俺は10年以上20年以内に500ベリー」

「1発ぶち当てるだけで関係が終わるに55億ベリー」

「なんでそんなに色々具体的なんだお前」

 

 生き証人がここにいるからだよ。

 賭け事なんて勝ち確のお遊びをこっそりしていたが、レイさんのロジャーを呼ぶ声で中断された。

 

「クロッカスが船を貸してくれるらしいぞ」

「まじかー! ありがとうクロッカス!」

「船はまあいいんだが、お前たちあの男が逃げた先が分かるのか?」

 

 若かりし頃のクロッカスさんが首を傾げた。

 すると何故か言ってる意味が分からないとばかりに全員首を傾げる。まあ私とカナエさん以外なんだけど。

 

「えっと、ろぐぽーす? だっけ。それ持ってたら進む島の方向分かるんだろ?」

 

 私の肩に体重かけてた野郎の顎を躊躇なくどついた。

 

「ボギャン!?」

 

 下から顎に掌底喰らわせたので間違いなく舌は噛んだだろう。脳震盪まで行ってないのが悔しい限りだ。体は頑丈だなコイツ。

 まさかとは思うけどこの人、針路がひとつしかないと思ってる?

 

「それは偉大なる航路(グランドライン)前半の話だ馬鹿」

「ここ、双子岬から選べる航路が7つあるんだよ」

「そもそも永久指針(エターナルポース)持ってたらどうなるんだって話だが」

 

 上から私、カナエさん、クロッカスさんの言葉だ。

 私地図は読めるが海図は読めないのであまり航海の知識は入れてないんだけど、間違いなく方向だけで渡れるほどここは優しくなかったよ。船酔い的な意味で。

 

 ところで手首に船酔い防止のツボがあるの知ってる?

 うん、跡になるけど内側に突起があるブレスレットとかで押さえ続けるんだ。

 

 ……つまりそういうこと。

 

 それでもマシになる程度なんだけどね。

 

「か、カナエさまーーーーーッ!!!」

 

 ロジャー達は皆、カナエさんに向けて拝み始めた。

 困惑したような表情で数歩下がるカナエさん。気持ちは分かる。

 

「予知の力で何卒、何卒ー!」

「え、えぇ……。私この時代詳しくないのに……。クロッカス君……、航路候補の指針7つある?」

「あ、あぁ」

 

 クロッカスさんが名前を書き出していく。

 彼女の予知が、目の前で見られるのか…………!

 

 

「──うん、ウイスキーピークじゃないことしかわからん!」

 

 ずっこけた。

 

 お、思ったよりしょぼいというか、私もルフィ達と行ったことあるから知ってる。私の方が詳しいじゃん。

 

「ダメだって。私の予知はかなり限定されてるんだからー!」

「使えねぇ!」

「ロジャーよりは使えますぅ!」

 

 はぁ。ダメだこいつら。動いてもいいか分からないけど、カナエさんの言う歴史の強制力っていうのを信じよう。私が適当に動いてもなるようになる。

 私はペンを持ち出して、ウイスキーピークの名前を消す。そして端から順番にあるひとつを除いて、消していく。

 

「え?」

「んお?」

「……エース、ここが?」

「見るからにヤバそうな名前なんですけどぉ」

 

 書かれた名前はパネーナ島、トラジディー()()

 

「根拠は?」

 

 フェヒ爺の故郷ですし、と素直に言えればいいが私なんでもない顔をして答えた。

 

「ディグティター・グラッタだろ。あの栗坊主の名前。ディグティターつったらこの帝国しかねぇだろうが」

 

 だけど内心バックバクである。

 フェヒ爺の実家。実はめちゃくちゃヤベぇのでは、と。

 

 私の生きていた時代は基本的に王国ばかりだ。

 帝国とは規模が違いすぎる。

 

 王国は王様を君主としてひとつの口をまとめあげている国の事を指す。

 

 では帝国は?

 

 ──答えは、ひとつの国に飽き足らず他の国を植民地化して支配した大規模な元締の国である。

 

 これが支配ではなく協力や協定なら共和国とかになったのに……!

 

「帝国の一族か……」

「ロジャー……お前ってやつはどうしてそう厄介なやつを惹きつけるんだ……」

 

 レイさんが呆れたようなため息を吐いた。

 後の世で冥王と恐れられる男も、経験値の足りない青年だとただ船長の生まれた星を嘆くしか出来ない副船長なんだね。

 

 まあもちろんというか、彼らロジャー海賊団はごく当たり前にフェヒ爺を追い掛けることになったのだったが。

 

 

 

 というか、マジで元の時代に帰ったら1発と言わず何度でもぶん殴るからなフェヒ爺。お前の実家王国じゃないのかよ。

 

 

 ==========

 

 

 

「いやー着いた着いた! クロッカスが船貸してくれて助かったぜ!」

 

 ケラケラと楽しそうに笑うロジャーの後ろで死屍累々のロジャー海賊団。

 

「死ぬかと思った」

「めっちゃ疲れた」

「あの麦わら絶対殺す……」

「うえぇキモ冷やした……」

 

 偉大なる航路(グランドライン)のふるい落としで精も根も尽き果てた彼らなんて知らぬ存ぜぬ。ロジャーは残った人間の中で唯一ケロッとしている私と肩を組んだ。

 

 レイさんとカナエさん、それとバンさんことスコッパー・ギャバンに絡むのはあまりにも危ない、し、凄く気まずいので自然とロジャーに絡むことになってしまうのは仕方ないんだけど。私今ひじょーーに船に酔ってるから体を揺らさないで欲しい。

 

「エース。キミなぁ、少しは手伝えよ」

「やだよめんどくせぇ。島特定してやったんだから充分貢献してんだろォ?」

 

 私は完全に麦わらの一味で言うゾロさんな感じで寝こけていた。あんな大揺れで寝れるはずもないが。個人的にどんなところでも寝れる人って大物だと思う。

 そう、絶対的に、私はこのエースくんを! はったりで! 大物にしなければならないんだ! 中身が小心者なんて悟らせないように!

 

「それにしてもまぁー。岩だな」

「岩山だな」

「断崖絶壁感すごいな」

 

 なー。と顔を合わせてるロジャー海賊団の前で見上げるトラジディー帝国。

 そう、いわば山。

 というか、岩。

 正しく岩山。

 

 例えるならドラム王国のあの垂直の山がもっとゴツゴツして刺々しくなった山が何本も生えまくっている感じ。というか、ぶっちゃけ平地が見当たらない。

 

 ここ、ホントに帝国ですか?

 他の国を植民地化するほどの武力をお持ちなのですか?

 

 しかもここ、冬島じゃん。雪の降らないタイプの寒冷地。

 いくつもの山の隙間を通る強い風が吹き荒れ、雲が飛ぶから降雪がない。つまり雨もない。普通なら人どころか動物すら住めないよ。

 

「──なんだ貴様ら」

 

 警備の仕事をしていただろう男達が武器を手に私たちの前に立ち塞がる。

 服装は青銅を繋ぎ合わせたであろう時代遅れの鎧。赤青緑といった染色が結構ガッツリ入っている服の上に着てるのかな。あ、違う、時代遅れじゃなくてここがその時代なのか。兵馬俑(へいばよう)って感じ。この地形に馬があるのかはさておき。

 

 どうする? と言いたげにロジャー海賊団は視線を合わせた。

 

「あのさお兄さん達ー! グラッタってやつ知らない〜?」

 

 緊張感も何も無くカナエさんが声を出した。

 この人たち交渉とかしないタイプの海賊団か。察してたけど。察していたけど!

 

 麦わらの一味はナミさんやウソップさんが基本的にビビり散らかしているし、航海士のパワーバランスが強いから比較的慎重派だったんだろうな。うん、よその海賊とじゃない、ロジャー海賊団との比較だ。極論がすぎる。

 

「グラッタ、グラッタなぁ……?」

 

 警備の男は、耐えきれない! と言わんばかりに吹き出した。

 

「ガッハッハッ! あの出来損ないならテメェらには会わねぇよ!」

「……なんだと」

「精々あの男に騙された奴らだろうが。運が悪かった」

 

 そんな風に小馬鹿にする男達(※複数形)だったが。

 

「──よし、全滅したな!」

 

 当然の話だが、未来の海賊王の前に為す術もない。1人残らず倒れ伏した。

 この辺物騒で困っちゃいますよねー。

 

 いやしかし呆気なかったのか圧倒的だったのか。みごっとにどっちかわからんな。

 ミラーボール島で出会った吸血鬼海賊団の方がまだ強かった。

 

「なんちゅーかどうちゅーか。この国あれだ。ワノ国の他国バージョンというか、シンコクというか」

 

 カナエさんがムムムと悩みながら首を傾げている。インペルダウンで学んだことはカナエさんの発言は意味があるけど真剣に受け止め過ぎると軽率に胃がやられるということ。過去から学べる良い子の私は深く考えないでおこうと思います。

 

「…………まさか警備隊のヤツらを倒せる海賊がいるとは」

 

 岩陰から先程の警備達よりボロボロの服を着た男がピッケルを手にして、こちらを警戒していた。

 

「聞こう。グラッタ()に何の用だ」

「俺はよー、グラッタに船返して欲しいだけなんだよ船! ボロいけど! あと宝! ついでに俺の麦わら帽子! 船に置きっぱなんだよな!」

「船と財宝の後に出てくるのが麦わら帽子なのか……」

 

 呆れた様子の男は首を静かに横に振った。

 

「船はここから反対側の船着場に置いてある。が、中の財宝はないだろう」

「……我々はこの島を一周まわったが、反対側に船が置けるような波止場も、そもそも船影すらなかった。嘘をつくんじゃない」

「嘘ではない」

 

 たしかに、レイさんの言うことは正しい。私たちはゴツゴツと岩場が連なるこの島の周囲をぐるっと回って見たが、基本的に浅瀬だからか波が激しく船が置けるような場所はなかった。

 

 間髪入れずに答えた男。

 私は組んでいた手を解いて、ようやく口を開いた。

 

「今が満潮だから船着場がねェのか」

「…………!」

 

 ギョッと目を見開いた男の反応で、私はこの予想が当たりだと言うことを確信した。

 

 ヒントはナバロン。

 

 海図が読めずとも、満潮の時間帯でさえ船が通れるか通れないかギリギリの浅瀬。引き潮の時は海すら消えるのだろう。

 そんな環境で他国との交流をどうしているんだって話。

 この岩山ばかりの島で産業が盛んに行われているとも思えない。自給自足なんて夢のまた夢だろう。

 

 だったら、帝国と呼ばれるほどの武力国家であれば。

 攻められにくく、攻めやすい。そんな地形の利があるはず。

 

「お、驚いたな。この国の出身……ではなさそうだな」

「当たり前だ。てめぇらみたいな服装の趣味はねーよ」

 

 アラバスタやワノ国のような地形や歴史に基づいた結構独特な服装をしたこの国だ。過去の経験から言わせてもらうと、こういう目立つ民族衣装をお持ちの国は厄介事の匂いしかしないという。

 

 船番でもしてようかな……。

 

「──お前たちはグラッタ様とどう言った関係だ」

「友達!」

 

 騙されたはずなのに、裏切られたはずなのに。そんなことを微塵も感じさせない毒気を抜かれるような笑みを浮かべたロジャーが即答した。

 

 

「…………こちらだ、着いてきてくれ」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 男に案内された先は地下だった。レールが敷かれたあまりにもお粗末な、崩落の危険すらありそうな地下。

 途中で岩を運んでいるトロッコとすれ違ったが、それを押している人間を囚人と間違えるほどボロボロの布を纏っていた。

 

「ああリーダー、おかえりなさい。彼らが周辺を回ってた船の」

「その通りだ。グラッタ様のご友人らしい」

「ははっ、そりゃいい!」

 

 地下のある程度広い場所。机やら飲み物がある所を見るとこの国の人達の居住スペースらしい。はたまた男とすれ違ったが、海岸であった警備の男とは違う、親のような表情で笑っていた。

 ふぅん、グラッタ様は中々に人望があるご様子で。

 

「さて、何から話そうか」

 

 適当な場所に腰掛ければ、案内してくれたリーダーと呼ばれている男が手を組んだ。

 

「まずは自己紹介だな。俺はペーター。労働者のリーダーをしている」

「俺はグラッタの友達のロジャーだ! よろしく頼むよ」

「私はグラッタのお友達2号!」

「じゃあ私はグラッタの飼い主だな」

「え、じゃあ俺グラッタのマブ」

「なら俺は〜、グラッタの酒飲み仲間でどうよ」

 

 緊張感を東の海(イーストブルー)に置いてきたのか貴様ら。

 

「それでリーダーくん。この国はどうなってやがる?」

 

 脱線しそうな勢いだと麦わらの一味で学んだ私は早速本題を出した。

 いやー、麦わらの一味で学んだことがこんなにも役立つだなんて。嬉しいどころかむしろなんか腹立ってきた。手違いでぶん殴りそう。

 

「そうだな、まず、この国の地形から話そう。この国は見てわかる通り岩山しかなく、元々地形はドーナッツの形をしていた」

 

 ペーターが話すには、潮の満ち干きで変わる土地の面積はコツコツと岩山削って海底に沈めていった結果らしい。言わゆる埋め立て地、だね。

 そして山岳にはぐるっと一周、外海に向けて見張り用の城壁があるらしい。

 

「島の中心、ちょうどドーナッツの穴の部分。そこにこの国の王や貴族──通称、支配者が住む海上首都がある。要するに海の上にある街だ」

「周囲は岩山、島に入れるのは満潮か干潮のどちらか。ただし満潮時はキャラヴェル船程度の船底でしか渡れないというわけだな。それは確かに攻め込まれにくい」

 

 成程。

 下手をするとナバロンよりも強固だ。ナバロンの場合土地がお利口さん過ぎるから、登ろうと思えば登れるし、逃げようと思えば逃げれる。この国の場合別だな。

 

「この国の民は俺たちの様に淡々と岩山を削り奴隷の様に働かされる労働者が殆どだ。ついでに、始まりの島に相応しいほど続々やってくる海賊もな」

 

 ここを始まりの島に選んだロジャー海賊団は苦笑いを浮かべた。私達も警備兵に勝てなかったら膨大な武力を前に奴隷となったのだろう。

 

 この帝国、武力はどこにあるのかと思ったが。

 頭だな。

 

 この岩山は削るのにとてもパワーが必要だろう。ピッケルがかなり質のいいモノを使っている点から並大抵の武器より硬い。加工が難しいだろうが、この時代の銃技術であれば、大雑把な球の大きさでも放てるから数の暴力で武になるはず。もちろん剣にも槍にも、武器加工し放題だ。

 

 それもこれも全て頭がなければ使えなかっただろう。この国が何代目なのか分からないが、これは中々に厄介な国だね。

 

 出来れば十数代目であります様に。先代の恩恵にあやかっているだけの、座っているだけの皇帝であります様に……!

 

「この帝国の皇帝陛下は協定関係にあった周辺の国を有り余る才で丸ごと支配し、食糧問題も解決してしまった」

 

 私の祈りは無駄な時間へとなった。さよなら、無駄な祈り。

 現在の皇帝がヤバいやつでファイナルアンサー。

 

「──疲弊した我々にも救いはある」

 

 演説に熱の入ったペーターがバンッと机を叩いた。

 

「グラッタ様だ」

 

 ディグティター・グラッタは現皇帝の長男。肩書きだけ見れば圧倒的に恨みを買うポジションにいるけど……。

 

「皇帝は言ったのだ。この国を、100億で売ると」

「ひゃくお……!」

 

 私の全財産の2倍くらいかな!

 ……これ個人で集められる金額じゃねーよ馬鹿じゃねーの。

 

 まあ天竜人だと端金だけどね!(血涙)

 

「ああなるほどな。それで栗坊主が国民解放のために金を集めてるわけだ」

「そういうことだ!」

 

 私がさっさと結論を出すと身を乗り出して肯定してきた。

 なんというか、ナミさんみたいなやり方だな。問題はフェヒ爺がナミさんよりめちゃくちゃ強いから賞金稼ぎとして金稼ぎも出来るっていう事。

 フェヒ爺が現在16歳であることを考えれば、多分十数億は稼げているのかな。

 

 今更だけどカナエさんが18でフェヒ爺16ってことを知って仰天している。

 フェヒ爺の方が年下だったのか…………。

 

「国の内部のことだろうに詳しいな」

「まぁ、俺は元警護隊の部隊長を務めていたしな……。この国のやり方に、そしてグラッタ様ただ1人に背負わせることが出来ず、労働者落ちだ」

 

 やれやれと肩を竦め、嘆くペーター。

 

「ッ」

 

 背筋にぞわりと何かが走る感覚……!

 殺気ではない、怒気でもない、これは、これは!

 

 過去の経験でめちゃくちゃ追いかけられた気配(トラウマ)

 

「──おい、お前ら」

 

 モグラ穴みたいな地下の、ひとつの通路からガヤガヤと労働者の喜ぶような声が聞こえてきた。

 

 私はロジャー海賊団にニンマリ笑いながら声をかける。

 

「隠れるぞ」

 

 

 

 

 

 

「戻られましたかグラッタ様!」

「ああ、ペーターもご苦労」

「いえ……。我々が今を生きられるのもグラッタ様のおかけです」

「グラッタ様! 僕ね、今日は20キロも掘れたんだよ!」

「ふふっ、やるじゃないか。無理しない程度に頑張るんだぞ」

「グラッタ様、本日でようやく虎の山が3分の2になりました。このまま行けば50年後には全ての山岳を切り崩せることが出来るでしょう」

「……苦労をかけてすまないな。僕にもっと力があれば、あいつらに好きにさせないし、お金だって早く集められるのに……」

「いいのです。グラッタ様が労働者に分け隔てなく1人の人間として接してくださることが、何より……」

 

 

 そんな和気あいあいとした労働者とフェヒ爺の様子を見て。

 

「あんっっな船の上ではツンツンツンツンデレみたいな顔しときながら」

「ぶくっ、ふ、ブブッ、んふふ」

「いやー、慈愛に満ちたオウジサマ、似合わねぇな」

「んひゃひゃひゃ!あー、おっかしい」

 

 ロジャー海賊団は性格が悪いので隠れた状態でめちゃくちゃ笑っていた。

 

 いやでも私の記憶にある性悪鬼畜糞栗色フェヒ爺から想像が出来ない。

 王族なのは知っていたけど、こんな、民に等しく(笑)慈愛に満ち(笑)ご立派(笑)な王族だとは。

 

「ところでグラッタ様」

「ん?」

「お友達が来ておりますが」

「…………は? 友達? そんなの僕にいな」

 

 フェヒ爺が言いかけた状態でピタリと止まる。ペーターの視線が隠れている私たちに向いていたからだ。

 まるで壊れたブリキのおもちゃのようにギギギギと錆び付いた首で振り返る。

 

 顔を出したロジャー海賊団はニッコリ笑って手を振った。

 

「…………なっ、なんでいるんだ!!」

「避けろ避けろ!」

「ガチギレじゃん」

 

 刀の使い方を知らないのか適当にブンブンぶん回すフェヒ爺。刀は想像より脆いんだから扱いには気を付けないと。

 私はこの中で1番動けないカナエさんの襟首を引っ張った。

 

「おりょ?」

「あれ、妖刀。その位置に立ってたら斬られるぞ。──おいこら栗頭! 刀を雑に扱うな!」

「うるさいな! 子供は黙ってろ!」

 

 問答無用で蹴り倒した。

 

「……──誰が女顔のキュートなガキだって?」

「誰もそんなことは言ってないと思うが」

 

 地面で手足をばたつかせているフェヒ爺の上に岩を抱えて座った状態の私が、ロジャーを見た。

 

「先に言っとく」

 

 この後の行動を予感していた私は念押しで脅しをかけた。

 

「国を、そして世界を敵に回すことは、今後のためにならないのは確かだ」

「おう」

「この世界はクソッタレだ。偉けりゃ正しい、それはお前みたいな海賊とは真逆に存在する正しさだ。お前はまだまだ弱い。そりゃ、強くはなるだろうが現時点では下から数える方が早いくらいには弱いよ」

 

 足を組んで腕も組む。彼は、ルフィでは無い。十分大人だ。

 

「苦しくて、辛くて、どうしようもなくて、理不尽で、不条理で。避けたい未来は変えられず、全てに置いて意味が無い。そんな死がお前に降りかかる。いつ何時も、休む暇なく」

 

 麦わらの一味は、苦しんだ。

 世界の正しさに、越えられない壁に。

 

「この道を進まなければ、お前は可愛い嫁さん手に入れて可愛くて生意気な息子でも腕に抱いて、海軍の犬っころ達と友人になって、誰も泣かせることなくなんてことない幸せな死を迎えることになるかもしれない」

 

 お前が、海賊王になんてなったせいで。ルージュさんは死んで、エースも死んで、フランキーさんの師匠も死んで、いくつもの命を無意味に散らせた。お前が『海賊王』なんて称号を手に入れたければ、私の時代はもっと平和だったのかもしれない。

 

 救われる者あれば、失う者もいる。世の中は白黒つけられないけど、嘆きたくなる裏表がある。

 

「なぁ『D』、お前ならどうする」

「決まってんだろ、『A』」

 

 エースのような顔をしているくせに、ルフィのような笑い顔で言い放った。

 

「正しさの前に頭下げて、強きの前に膝ついて、どでけぇ壁に足止めるくらいなら」

 

 私の歴史に伝わる海賊王の一味が壊した国。

 

 

「──俺は海賊をやってねェよ」

 

 偉大なる王は言った。

 この国を壊す、と。

 




この時代に永久指針やら記録指針やらがあるのかちょっと調べきれなかったので物語を円滑に進めるためにあることにしました。
ちなみにサブタイトル仏の顔も三度までですけど、東の海で対峙した回数は優に三度を超えます。つまりそういうこと。
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