2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第246話 恨み骨髄に入る

 

 

 こんにちは、リィンです。

 

 結論を言おう。

 

「うっし! 終わり!」

 

 ロジャーがワンパンで帝王を沈めた。

 この国が一体どれほど続いた国なのか分からないが、長く続いた栄華も帝王が倒れ伏した瞬間に終わったのだった。

 

 ロジャーとグラッタと共に謁見の間みたいな所に来たあと数回会話というか問答を交わしたディグティター親子だったが、まぁ帝王はぶれない。これが最善だ、と。国の在り方だ、と主張していた。

 

 それに我慢の限界が来たのがロジャーだ。ルフィで知ってた。

 

「よーし、これでグラッタは俺の仲間だな!」

 

 海賊王の一味がトラジティー帝国を壊滅状態に陥らせる。

 それが私の時代に伝わっている歴史だ。

 

 果たしてこれが正しいのか間違っているのか、私には到底分からない。ダイレクトに私の時代に影響する出来事。

 

 

 ただ、これだけで終わらせてはならない事は分かっている。

 

「……いいや、僕はこの国に残るよ」

「だろうな」

 

 つまらない、と言いたげな表情と共に私は腕を組む。

 困り眉で申し訳なさそうな笑顔を浮かべたグラッタが断った。

 

「圧政を強いていた王族って意味で、僕の弟や妹は次の王にはなれない。元々長男が国を継ぐという文化もあるし、国民のヘイトを集めているアイツらには、無理だ」

 

 そうでしょうとも。

 グラッジは王ではなかった。その下の弟と妹も同じく。

 

「それにこの国を捨て置けない。僕は、この国を復活させるよ。幸い僕の集めた資金が多少は残っているだろうし、父上や貴族たちが溜め込んだ宝石を売れば開拓費用にはなるだろう」

 

 宝物庫どこだったか、なんて無理した笑顔を浮かべながらグラッタが呟く。

 私的にも(おれ)的にもこの展開はすこぶる面白くない。

 

 そう。面白くないのだから、面白くしたって構わないよな?

 

「麦わら、国の代表として協力を感謝する」

「俺は気に入らなかったから殴っただけだ」

「飛び蹴りだったけどな」

「うるさいエース! 失敬だな!」

「つーか武器使えよ武器」

 

 カラカラと笑いながら、私は玉座から崩れ落ち地面へと雑巾のように這いつくばったままの屍(生きてる)を横目で見る。

 

「ほらグラッタ。労働者共が待ってんだろ。無事を報告してこい」

「あ、ぁ。お前はどうするんだ」

「あ? 俺ァ最年長だからな、ガキ共の後片付けだよ」

 

 ロジャーがとてもウザイ顔でウッソだーと言いたげに体を引いた。ウソですけど何か。

 

 冕冠(べんかん)が地面に転がる。

 

 (おれ)はシッシッと犬猫を相手するように雑に2人を追い払った。

 

「さて、と」

 

 2人が居なくなった事を確認して私は元皇帝の元に足を進める。別に居ても居なくてもどっちでもいいんだけどね。

 

 私はこれまで色々な国と関わってきた。今回特出すべきはアラバスタ。

 コブラ様は圧政を強いていた。雨を他の土地から奪い取り、王宮付近に雨を集めるというヘイトを集める政治を。

 

 ……まぁ犯人はクロさんだけど。

 

 

 玉座からこぼれ、石畳に這い蹲っている。

 灰汁を取らず長い時を煮込まれ続けたコンソメのような濃い茶色がパラリと地に広がっていた。蹴られた衝撃で結んでいた髪紐は解けたのだろう。

 

 進めた足の先で、壊れた石畳の欠片を弾いてしまった。小指ほどの石の欠片がコロコロ転がりコツンと皇帝にぶつかる。

 

「──お望み通りのシナリオだったか? 悪役」

 

 見下ろしてそう吐き捨てた。

 

「この国、海上都市にだけだがそこら中に宝石や布や黄金、例え後世で売り捌いても価値が変わらない物がいくつもある」

「……。」

 

 倒れ伏したまま沈黙を保つ男に私は言葉を続ける。

 

 私、これでも参謀。

 その現象が起こった未来で一体どういう結末になるのか考えるのが仕事なの。

 

「幸い、換金すれば資金になる。幸い、圧政で進んだ開拓がある。幸い、土地の理で攻め込まれることは無い。幸い、唯一国民の味方になった王族がいる。幸い、国民の協力は容易く集められる」

 

 ()()()()()()()()にグラッタが王になった未来は明るいだろう。この国の抱える悩ましい土地の問題、それに追随する外交問題。不幸中の幸い、それが全て圧政のおかけで解決する。

 

「よく出来た革命録だ」

 

 人は共通の敵を認識して初めて協力し合えるのだから。

 

「……──なぜ、分かった」

 

 ムクリ、となんてことない顔をして皇帝が上半身を起こした。

 あらら、ノーダメージなのは予想外。

 

「相手が悪かったな、経験がちげぇんだよ。よく出来てたぜ?」

 

 いやホント、相手が悪かったね。

 私基本的に物事を信じないから。それにアラバスタで似たような感じ見てるし。今回は悪役と黒幕が同一人物だったけどさ。

 

「重要な役職についてそうな奴らはクズばっか、ここに来るまでの警備隊、ありゃなんだ。烏合にも程がある。贅沢三昧、鍛えた様子もない、労働者の方が体動かしてる分強いさ」

 

 だからだ、と私は結論を話す。

 

「労働者共が反旗を翻すその瞬間、この城の護りはあまりに脆い。外海から攻め込まれない地形を考え出したお前が、内部反乱に頭回らないわけが無い。お前、頭いいだろう」

 

 生まれてくる時代が違えば恐らく彼は大帝国の主となった筈だ。武力もあり、知恵もある。まぁここで言う武力は女狐と同じような手駒(ぶき)って意味の武力だけど。

 

「んでもって確実に鍛えたやつは王から謀反した体を取って労働者の中、か?例え攻め込まれたとしても、『我々は元戦士だ!』とかって民衆を護る言い訳が出来るしな」

 

 例えば労働者のリーダーとかね。

 私は明らかバカにしたように拍手をした。

 

「全く、素晴らしい策だな」

 

 ムッとした様な微妙な反応を取る皇帝。

 これでも私はめちゃくちゃ褒めているつもりだ。

 

 王はいい国ほど動きづらい。

 だって周りは王に忠誠を誓うからこそ謝った道に行かないように止める。アラバスタでは決定的な悪が露見しない限り動けなかった。王が自ら政策として乗り込むことは出来なかった。

 

 それをこの王は自分を捨て行動に移した。全く、ここは自己犠牲精神の国かな?

 

 

「──エース君!」

 

 私の考え事に蓋をするように、無意味と化した謁見の間に現れたのは労働者のリーダーであるペーターだった。

 リーダーとペーターとピーター、紛らわしくて仕方ないと思います。

 

「よォ、リーダー君」

「……!あ、と片付けは私がしよう。客人の君が手を汚さずともいい。この国の事だ」

 

 皇帝が起きている事を見てビクリと動揺をしたペーターだったが、瞬きをして最後には普通の態度で言い切った。

 

「良い、ペーター」

 

 皇帝が言い訳を重ねるペーターにストップをかけた。

 

「この者は全てを見通しておるよ」

「………………は、」

 

 パクパクと口を馬鹿みたいに開いたり閉じたりして混乱するペーターに私は歯を見せて笑い手を振った。

 やっほー、リーダー君、元気ー?

 

 私 は 甘 く な い ぞ 。

 

 なんせリアル命掛かってるからな。巫山戯ててもロジャー海賊団が馬鹿やっても全力で頭回してるからな。

 

 東の海でロジャー海賊団を観察し、私がトラジティー帝国でガッツリ行動に移した理由をここで説明しよう。

 

 というか結論。

 (おれ)の行動がなければ現在改変が起こってしまう。

 

 

 『私がいる頂上戦争で海軍が負けた現在』と『カナエが見た頂上戦争で海軍が勝ったIF』

 

 この2つにあるものとないもの。

 ぶっちゃけて『リィン』だ。

 

 正確に言うと『カナエ(イレギュラー)子供(ふせき)』なんだけど、インペルダウンにて予知の外側たる人間を自称するカナエが、今現在でさえあれだけ未来を変えるのが難しいと言っているのに、だ。

 

 頂上戦争の勝敗が変わる未来の分岐点、それが私が生まれるはるか前のこの時代に布石があるとするなら。

 

 私 以 外 い な い よ ね !

 

 心中お悔やみ申し上げます。私の胃は死にました。責任が重い。

 

 つまり今の過去の時代において、私が動けば元の時代に、私が動かなければ予知の時代になるというわけだ。まっぴらごめんだね。

 

「え、あ、つっ……。つまりこの子は」

「おいコラ誰がガキだ。てめぇらよりは年上だボケ」

 

 実際そんなことないのだけど、年齢の特定を防ぐ為に誰よりも年上のキャラで居る。

 

 キリキリし始めた胃を労わるように思考変換する。

 

 ……だって私、元の時代に戻ったら、ロジャー海賊団に居たこの男を真女狐にする気満々だもの。

 

 過去と未来、姿が変わらないなら悪魔の実の能力で成長止まったりして年齢もよく分からないでしょう!ぶっちゃけ私も肉体年齢止まる感じの能力者は年齢分からない!だったら年上キャラで行こーぜ!

 

 この(わたし)、後に元仲間の娘を影武者に使う悪魔である。

 

「まぁいい。リーダー君そこに座れ」

 

 地べたから起き上がった状態の皇帝の視線に合うように私はどかりと座り胡座をかく。丁度三角形になるような位置に視線を寄越した。

 

 オロオロしながらだったが、背を正して正座した。

 

「で、だ。皇帝さんよ。お前の策は後世においてそりゃもういい案だ。現状考えりゃあな」

「……褒めの言葉として受け取ろう」

「ま、力技過ぎるがな。まるで時間が遺されてねェみてェな策じゃねぇか。こうしてネタばらしした今、リーダー君を手駒に革命をさせようって魂胆が丸見えだ」

「仕方なかろう。私は病に侵されている」

「ほーん、通りで」

 

 皇帝の、頭がいい事を前提に考えると、寿命でなくなる世代交代の方が色々政策としてやれると思ったんだけど、そういう事か。

 

「それにしたって身体は頑丈みてぇだがな」

「はァ……。分かって言ってるんじゃないのか。──私は悪魔の実の能力者だ。この国は代々、目の前に現れた悪魔の実は必ず口にするという文化がある」

「へえ」

 

 交易とかで手に入れた悪魔の実も、血族が食べていたとするなら家系的にほぼほぼ悪魔の実の能力者なのかもしれないな。現にグラッジだって……。

 

 ん?

 

「この国は悪魔に魂を売らねばやっていけぬ。私は、ハズレだ。ヒトヒトの実、モデル人間。人より頑丈とはいえ、それでも病にはかかる」

 

 それめっちゃ聞いた事あるーーーー!

 そりゃそうだ人が人になったって大ハズレだわ。魚人が悪魔の実食べるくらいには無意味だわ。挙句病気にかかってるらしいし。

 

「話を戻す。お前のこの未来を託す策は1つ重大な欠点がある」

 

 私の時代にも激しく影響する1つがな!

 

「「グラッタに王の素質は無い」」

 

 私と帝王のセリフが被った。

 

「ああ、分かっているさ! グラッタは私の子供の中で飛び抜けて腕が立つ。だから外で資金を集める仕事がうってつけだった、そして国民の味方になる事も! だが、だからこそ、王として必要な教育をまともに受けていない」

「お待ちくださいっ、だからこそ私がグラッタ様の補佐になるべく代わりに学びを」

「あーあーあーあー、うっせぇな。そこまで言われなくったって分かるっての」

 

 1言われれば10くらい理解出来るから時間かけさせるな。

 私はため息を1つ吐いた。

 感情にブーストがかかると他人の話を聞かなくなるのは血筋か。

 

 分かってる。王の教育を取れば国民と資金源を失う。逆もまた然り。未熟な王でも国民と協力出来る王は生き延びれる。だからこそ王の教育を捨てたんだろうこの国は。

 

「1匹の羊に率いられた狼集団と、1匹の狼に率いられた羊集団。強いのは、後者だ」

「何となく意味は分かるが……」

「つまりこの国にとってグラッタ君は非常に邪魔だ」

 

 あの手この手で言い方を変え、グラッタを海に出させようとする。

 予知の頂上戦争にフェヒ爺が現れなかったのを考えると、グラッタが海に出てフェヒターと名乗る様にならないと多分現在改変が起こってしまう……!

 

 予知の世界では多分グラッタ、このまま王になったんじゃないかなーとか考えてみる。ロジャー海賊団は引き際がいいし。

 

「──ひとつ、案があるぜ」

 

 口角をニッと釣り上げ、目を細めた。

 

「共和国にするんだよ」

「待て」

 

 皇帝がストップをかけた。

 

「この国をソレに切り替えるにはリスクがデカすぎる。我が国は交易と植民地を命綱として成り立っている。これまで築いた婚姻などの繋がり、それら全てを失いかねん」

「頭が硬ぇな皇帝」

 

 私はビシッとペーターを指差した。私が何か!?と言いたげに動揺を見せるペーター。

 

「国民に政治させりゃいい。もちろん、王は別に居た状態でな」

「それは、王がお飾りという事か」

「当たりだ。別に王が政治やる必要ねェんだよ。君主はいるがそれは国民の象徴であり、国を政治するのは国民の代表者。──な? これでグラッタはこの国に必要ねェ」

 

 君主制の王国を名乗ったまま実質共和国。

 

 国の顔であるお飾り王様が訪れた者相手に馬鹿正直に顔を出さなくてもいい。そもそも乗り込みにくい地形のトラジティー帝国だ、他の国を訪れる事はあっても訪れられる事は少ない。

 こんな荒れた海で国王自ら航海するリスクは、まともな国ならまずしない。世界会議は別として。

 

「問題は共和国に切り替えるために世界政府と海軍にそれなりに伝えとかなきゃならん事だが……」

 

 うーーーーーん。

 

 馬鹿正直に海軍に伝えてもいいんだけど、この時代の海軍荒れてたらしいし。どこにどんな目があって耳があるのか分からない。

 

 むむ。

 むむむ。

 

 

「……どうするのだ」

「………………恐らく俺たち海賊を追ってこの後海軍が来るだろうそいつらの中にセンゴクって名前の海兵がいる多分そいつに押し付けりゃどうとでもなるだろうな」

「とんでもなく早口だなッ!?」

 

 ごめんセンゴクさん!!!!! 後は任せた!!!!!

 

 今後問題が発生させた時『何かあれば海軍のセンゴクに!』がロジャー海賊団の合言葉になることを私はまだ知らない。

 

「何故、そこまでして国に首を突っ込む。お前は見るからに面倒事が嫌いだろう」

「残念ながら、俺ァ面倒事が嫌いなんじゃなくて、面白い事が好きなんだよ」

 

 未来の歴史に、〝剣士の皇帝〟カトラス・フェヒターを。

 

 

 

 ==========

 

 

 お前には分からないだろう。

 自分が、弟や妹が切り捨てられる未来を着々と待つ恐怖を。

 

 何が長男。俺だって長男だ。

 たった一瞬、1秒、ただ遅れてこの世に生を受けただけで俺は捨て駒だった。

 

 だからと言って完全な自由も望めない。

 あいつが死んだら次は俺だ、俺の人生はお前の予備でしかない。

 

 

「──ディグティター・グラッタ……! 俺は絶対に、王であり自由であるお前を許さない……!」

 




最後の皇帝。ディグティター・テロスは国民奴隷化という手段を取った暴君として、後の世ではこう語られる。

──悪魔、と。

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