2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第247話 憎まれっ子世に憚る

 

 

 この国の結末の話をしよう。

 革命が終わり、答え合わせをした皇帝が最後に下した命令。

 

 

 ──処刑。

 

 この皇帝、性格の悪いことに処刑人をグラッタに指名した。

 

 実の親を殺す行為。

 例えディグティターの2人に親子の絆がなくてもその傷の深さは測りきれない。

 

 次の王となったディグティター・グラッタが一体どんな気持ちでその刃を振り下ろしたのか分からないが、事実この国は新しい時代を迎えた。

 仮初の象徴となる君主が降臨する、民主制の国の新たな誕生だ。何年かかるか分からないがこうしてこの国は、帝国から王国へと変化する。未来へと繋がっていく。

 

 これで合っているだろうか。

 ここから先の未来を想像すると、私の知っている未来に繋がるはず。これは一種の先読み。センゴクさんはこういった先読みを得意とする。

 

 私に、出来ているだろうか。

 下手すれば世界の命運すら変えかねない。それをメリットと取るかデメリットととるか。

 

 予知の使い手、シラヌイ・カナエはこの恐怖に怯えながら生きてきた。

 耐えきれない。

 

 幸い私の過ごした時代は『変えたい』という強い願いは無い。だから私の知っている歴史に添わせる形で大丈夫だろうし、カナエの言っていた歴史の修正力という根拠の無い賭けを信じるしかない。あァ胃が痛くなってきた。ことが終わったんだから後悔しても意味の無い事なのに。

 

 

 

「エース!」

 

 国を上げて解放の宴が行われる中、物陰で思案顔をしているとグラッタが駆け寄ってきた。

 

「あ? ……なんだてめぇか」

「きっ、きいた……! お前、僕が海、海賊なんで……!」

 

 切れる息を整える間もなく驚きと動揺の感情を伝えてくる。

 

「僕は王にっ、王になったんだ、なのになんで身支度させられてるんだ!? なんでお前が、ッ、僕を海賊にさせようと……!」

 

 あ、あー。なるほど。ペーターから聞いたってわけか。

 何故海賊になるのを後押ししたかって聞きたいのかな。

 

「だってお前、本当は海賊やりたいんだろ」

 

 その指摘にカッと顔を真っ赤にするグラッタ。無自覚だったか、自覚してるからこそ指摘されたくなかったか。

 今まで王になることを最終地点として見据えてたからこそ自由を求めるのは予想外だったみたい。うーん、この人も大概めんどくさいな。

 

 というかディグティターが全力で面倒臭い。

 全員が全員、自分の望みを押し通す癖に変な所で引くから。うん、引き際が下手くそ。

 ま、3番目と4番目の子は知らないけどね。

 

「で、でも僕はこの国でみんなを守らなきゃ……」

 

 かつて。いや、まぁこの時代から考えると未来だけど。かつて私を非常に苦しめたクソドS擬音語師匠フェヒ爺と同一人物とは思えない程、グラッタはうじうじと悩んでいる。

 もしかしてフェヒ爺とグラッタって別人だったりしない?影武者とかないですか。……ないですか。

 

 もごもごと言い訳を絞り出しているグラッタに、私はデコピンをお見舞した。

 

「名前、決めとけよ」

「は?」

「ディグティター・グラッタはこの国の王の名前だ。海賊が名乗るのは不味いだろ」

「でっ、でも!」

 

 この国の裏事情はグラッタはもちろんロジャー海賊団にも知られてはいない。グラッタが王になる時代を作り上げられたカラクリは。今でも、漏らさない様にとペーターが私を監視している。

 

「どんなに下らねェ動機もご立派な動機も、やってしまえば全部同じなんだよ。理屈も動機も後付けしちまえ。──お前が今やりたいことは、なんだ」

 

 船に宴の最中に掲げられたロジャー海賊団の海賊旗を横目で見て、視線を誘導する。

 

 頼む、頼むぞ……。

 

 例えそう思ってなくても私は無理矢理そうだと思い込ませるから。認識させるから!

 無意識に海賊をやりたいと思っていると勘違いさせるから!

 

 

 だってほら、望みと言われて視線に入ったのは海賊旗だ!

 

「……じゃあ」

 

 背中がぞくりと寒気で震えた。

 何か。

 なんだこれ。

 

 痛い。気持ち悪い。

 

 背中が痛い。

 痛むのは……背中に負った古傷だ。

 

「じゃあッ、お前が僕の名前を考えてく──」

「ッグラッタ!」

 

 間に合え──!

 

 私は咄嗟にグラッタの腕を引っ張って立つ場所を変えた。

 引っ張られた勢いでグラッタがバランスを崩すが、抱き留める様に私は背を向ける。……刃に。

 

──ザシュッ

 

 斬れる音。

 耳に伝わるそれは聞き覚えのある音。

 

 肩から腰にかけて過去に感じたことのある激痛が走った。

 

「ッ!」

 

 グラッタの背中から刀が飛び出たのが分かった。気付いた時には庇うくらいしか出来なかった。

 嫌な予感はしてたのに。コンマ数秒の遅れが命取り。

 

「貴様……ッ!」

 

 刀を振るった相手にグラッタが視線を向けるが、私の背後の方にいた監視のペーターが飛びかかって押さえた。

 

 ガシャンと転がるのは鬼徹。

 グラッタが持ってないと思ってたけど彼が持ってたのか。

 

「──グラッジ……ッ!」

 

 早く傷の手当をしたいんだ。

 それを考えた瞬間サッと顔から血の気が引いた。

 

 やばい。

 グラッタがここで死ぬ=私が生まれなくなる可能性大だから死なせるよりは庇うを選んだけれど。

 

 自分は今、男のフリしてるんだった……!

 

 

 傷が熱を持つ。

 ジクジクするとかそんな生易しいレベルじゃなくて、かなりキツい。

 血が流れる。傷口が冷たく感じる。

 

「お前がァ!」

 

 騒ぎに気付いたのかロジャー海賊団がかけて来る。

 

「お前が何も気付かないから!!お前が何も知らないから!!!俺は!!俺たちは!!!!」

 

 ギャン泣きと言っても過言ではないグラッジの様子にペーターは怯む。そのあとは最早何を言っているのか分からない支離滅裂さ。いや、ペーターが真実を話させるまいと妨害しているからなのかもしれないけど。

 

「……ペーター、追放しろ」

「…………はっ」

「グラッタ!!!」

 

 泣き吠えるグラッジに、グラッタは腰にさしていたカトラスを引き抜いた。

 

──ザンッ

 

 

 片腕が落ちる。

 人の痛みに唸る声。

 

「僕の仲間に傷をつけた事! 後悔しろ!! 僕の国に二度と足を踏み入れるなッ!」

 

 この世代、人体を欠損させることに躊躇無さすぎない……?

 痛みを耐えながら私は現実逃避をし始めた。

 

 グラッジの片腕生活、ここから始まったのね。リーちゃん、何がなんだかもう分からないよ。

 

「俺がッ…! お前なら良かったのに……! 俺がお前なら! 絶対に上手く行ったのにッ!」

 

 ……なれば良かったんじゃないかなって思います。

 ここから先、ディグティター・グラッタという人間が王として居なきゃならないんだから影武者として成り変われば良かったんだと思います。

 

 まあ、ディグティター・グラッジがマーロン海賊団の船長として七武海になる未来を知ってる以上、指摘もしないし阻止するけどね。

 王下七武海のグラッジという存在もまた、私の人生には不可欠だから。

 

 

 あ、いてててててててててて。

 待ってめっちゃ痛い。痛覚遮断して欲しいんだけど。

 

 血の気は引いたまま。

 物理的なダメージと精神的なダメージのダブルパンチ。多分じじの拳骨よりも威力ある。

 

 私、男の設定だから上半身脱いで怪我の手当てとか出来ないのに!

 う、うーーーん。もしかして背中だけなら行け、行けるか……?

 

 それに追加してぐるぐると船酔いしたような気持ち悪さが胸の内を支配する。吐きそうなほど気持ち悪い。

 

 2回ほど、私はこの感覚を経験している。

 

「……ッ」

 

 逃げなきゃ。

 この感覚は、時間移動の感覚だ。

 

 時間を移動する瞬間を見られては堪らない。

 

「エースッ!」

 

 ロジャーに捕まった。はい知ってた。

 体を起こすと、ロジャーが私の体を支える為に腕を回して来た。つまるところ腕の中(にげられない)というわけだ。クソッタレ。

 

 大丈夫大丈夫、背中焼けばとにかく、止血出来るから。

 

 ……とりあえず後のことは考えずに行こう。

 ・この場から離れた状態で時間移動する

 ・時間移動の前後に背中を焼いて止血する

 ・治療

 

 よし、これに限るな。

 

「お前、なんで僕を庇ったんだ!」

 

 グラッタが慌てた様に駆け寄って来る。

 

「……なァ」

「ペーター! 早く医者を!」

「──カトラス・フェヒター」

 

 私が口を開くと、完全に虚をつかれたのかキョトンと目を丸くした。

 

「かとら、す。ふぇひたー……?」

「お前の名前だよ」

 

 グラッジに襲われる前に言おうとしてた言葉を思い返しながら、私は薄ら笑う。

 

 ……卵と鶏、どちらが先か考えちゃダメだ。

 

「カトラスを使う剣士。お前にお綺麗な刀は似合わねーよ……」

 

 刀使ったら確実にボキボキ折る未来しか見えない。

 柔と剛を使いこなせるにはまだまだ長い、はず。使えない私が言うのもなんだけど。

 

「自由に生きろ、フェヒター。その名は、お前をディグティターって名前の鎖から解放された。自由を求める為の名前だ」

 

 手を伸ばしてフェヒターと成った男の頭を撫でる。ぐしゃりと泣きそう顔をしていた。

 あ〜〜〜〜〜〜写真に撮りた〜〜〜い! 弱点を押さえときた〜〜〜〜〜い!

 

 

「ロジャー、ちょっと起き上がらせてくれ」

 

 ボタッ、と血が地面に落ちる。

 出血が激しい。胸の気持ち悪さと血液不足で目眩がしてきた。

 

 ふふ、ふふふ……!

 

 めっちゃ痛い! でもこれくらいなら応急手当で乗り切れるな。傷が浅い。気まぐれ鬼徹くんの天邪鬼に助けられるとは。

 あ、私は剣士じゃないので背中の傷は痛いだけでなんとも思わないです。

 

 でも乙女なので玉肌を傷付けた事は許しません。例えば既に傷跡だらけだとしてもな! グラッジは未来で殺す! 過去の私が! ……いや、めちゃくちゃにややこしい。

 

「空、見てみろよ」

 

 

 私は暗闇に浮かぶ欠けた月を指さす。

 

 ロジャー海賊団は私の指の先に視線を進めた。

 宴の声は遠く、ぱちぱちと灯火の中で木の爆ぜる音が静かな闇夜にあった。

 

 その場にいる人間の吐いた息が白く視界に入る。

 

 

「……」

「…………」

 

「……?」

「………。」

 

「……エー、す?」

 

 

 先程まで居たはずの男が居なかった。

 

「「「あんのクソ野郎ーーーッ!」」」

「猫かアイツ!」

「おい探せ! 探し出せ!」

「あんの野郎視線誘導しやがったな…!」

「血痕も途切れてんだけどどうやって移動したんだアイツ!」

 

 解:気配を消すスキルは努力の塊

 

 

 

 ==========

 

 

 

 じくじく。

 ぐるぐる。

 

 吐きそうな痛みと気持ち悪さが同時に襲ってくる。

 

「ゥ……ぁ……っ!」

 

 歯を食いしばって我慢するが、痛みは変わらない。飲み込むことすら出来ないヨダレがぼたりと零れ落ちた。

 

 火を。火をつけなければ。

 

 視界を回す気持ち悪さと引き攣るような痛みの最中で満足な集中力を発揮する事も出来ず、岩肌に倒れ込んだ。

 

 

「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜くそ」

 

 山の中腹。外界への見張り台になっている人気のない場所で、私は文句を垂れた。

 痛いし。辛いし。しんどいし。

 

 私の背中には傷が多過ぎる。

 

 せめてこの気持ち悪さが無くなれば火が付けれるのに。

 

 この気持ち悪さは時間移動からなる吐き気。

 この痛みは背中の傷のせい。

 

 早く、速く。

 

「──ここにいたのか、エース」

 

 地面に倒れ伏したまま、私の体がビクリと跳ねた。

 怪我如きで弱りくさってる姿をこの時代の人間に見られたくないから逃げたのに!

 

「……ロジャー」

「怪我の手当っ、しろよ馬鹿」

 

 肩で息をしている姿を見るに猛ダッシュで探していたんだろう。そこまで時間が経ってない事を考えるに見聞色の覇気か野生の勘……──野生の勘だな。

 

「傷、深いのか」

「……黙秘する」

 

 事実、かなり浅い。

 回答をはぐらかしたのはこのまま死んだと見せかける方がいいのか、それを悩んだからだ。

 

 大丈夫。放置しとけば別だけど、この怪我なら死ぬほどじゃない。昔、子供の時は切れ味の悪い剣でザックリ斬られた。今は、切れ味のいい刀で浅くスパッと斬られた。

 切れ味がいい分血は出るけどぶっちゃけ流血時間は少ない。圧迫しとけばすぐ血は止まるし治りも早い。

 

 背中じゃなければ焼かずに止血するんだけどね!!(キレ気味)

 

 くそっ、流石は妖刀3代鬼徹。

 切れ味は知ってるけど身に染みては知りたくなかったな! でも切れ味ほんとにいい時は体ごと真っ二つになるし! まだマシ!

 

「いッ……っぅ……」

 

 起き上がろうとしたけどあまりの痛みに起き上がれなかった。紙で指切っただけでもかなり痛いのに痛くないわけがない。痛み耐性あんまないんだぞこちとりゃ。

 

「医者呼んでく、」

「呼ぶな!」

 

 ズキンッ。

 痛みに顔を顰める。

 

「ロジャー、ッ、誰にも言うなよ」

「は?」

「俺が、この程度で弱ったらダメなんだッ!」

 

 俺は未来で海軍大将女狐として生き。

 自分と同じ面をした小娘を影武者として祭り上げ。

 イデア人間として、畏怖される存在として。

 大海賊時代の抑止力に。

 未来の海賊王の敵対者になるんだ。

 

 俺の強さで混沌とした時代を生き延びなきゃなんないんだ。

 

 リィンやルフィと違って。

 人の伝手を使ったり人を味方に付けるんじゃなくて、己の足1つで立たなきゃならない!

 

「〝麦わら〟」

 

 グッと力を入れて立ち上がる。崖を背に。顔をロジャーに。ふらつく足で大地を踏み締めて、未来の海賊王を睨んだ。

 

「……────?」

 

 聞くはずのなかった質問が口から零れる。

 この場で最適な質問じゃなかった。

 私はこの男に嫌われないように、ただ繕って通行人Aとして印象に残せば良かったのに。

 

 

 ロジャーは一瞬虚をつかれた。

 

「お前、本当は子供っぽいんだな」

「んなッ……!」

 

 思わず表にでてきた『私』の顔に赤が集まる。

 

「──大丈夫、いつかきっとお前も分かるよ」

 

 屈託のない笑顔でそう答えられた。

 

「…………そうか」

「あとわかんなくても大丈夫だ!」

「おい」

 

 クラりと頭が回る。

 あ、来た。

 

「誰かはお前を愛すし、俺はお前を愛すから」

 

 

 そっかァ。

 

 

 私はニッコリ笑って、崖に向かって背中から飛び落ちた。

 

「は、え、ちょ、エースッ!?」

 

 

 

 

 グンと引っ張られる感覚に、私の視界は青く染った。

 

「────えぇ知ってましたともッ! ド畜生!」

 

 見渡す限りの青に飲み込まれ、空中に転移した私は能力者を愛してやまない海に落っこちた。お祓い行こうかな……。今回はホントに死ぬかも。

 

 

 

 

 

 

「……人を、愛する事が分からないんだ」

「どうしたら、どう生きたら麦わら(おまえ)みたいに命を賭けられるんだ?」

 

 答え(ゴール)は。どこに。

 

 

 

 ==========

 

 

 もしも、誰かが先に戦い始めなければ。

 誰かが逃げ惑う最中コレクションの妖刀を落とし、金目の物になると拾ったかもしれない。

 

 もしも、誰かが共和国と吹き込まなければ。

 カトラスの剣士なんて人間は存在せず、帝国から王国に変える激動の時代を慣れぬ政策で悩まされる王が存在したかもしれない。

 

 もしも、トラジティー王国に王が残れば。

 偶然手にした使えもしない刀を金策で売り飛ばし、巡り巡って東の海の樽の中に乱雑に置かれていたかもしれない。

 

 

 所詮それはもしもの話。

 存在しない、〝予知(もしも)〟の話。

 

 




いちごおいしい。(貰い物のいちごを貪りオチがまばらになってしまった話の終わりに現実逃避しながら投稿ボタンを押すのであった)

ロジャーの『大丈夫』には別の意味も込められていますがまあここで言及せずとも未来で多分回収出来ると思うので。
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