2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第250話 立つ鳥跡を濁さず

 

 前回までのあらすじ。

 おっす、おらリィンだけどションという名前の男の子でエースって呼ばれてる女の子だ!今分からないって言ったそこの君!私も分からないから安心して欲しい!

 そう、ともかく今誰が誰だか分からない私はセンゴクさんに嵌められて時間旅行をしている。死と隣り合わせの。

 

 時間旅行ってなんだろうな……。本当に。一体いつになったら帰れるんだろうか。

 

 60年前、人身売買をしていたらしいマザーカルメルの羊の家で世話になり。

 50年前、海賊王のクルーが東の海から偉大なる航路に突撃した辺りまでえんやこら胃の壁をすり減らしながら頑張り。

 40年前、幼い頃の赤犬らしき少年と生きるって辛いわーって話をして。

 

 ここまでは曖昧な年代しか分からないので細かい数字は割愛する。

 

 そして現在、私が生きていた時代から年齢逆算して29年前。まぁ約30年前の話。

 

 私の設立した情報屋組織、青い鳥(ブルーバード)の秘書的ポジションでもあるシーナことドンキホーテ・ロシナンテ君と奇跡的に邂逅したのだった。

 

 [完]

 

 

 

 

 ……ってそれで解決するほど簡単な話ではなく。まだまだ旅は続くどこまでも、である。

 

 羊の家事変ではリンという名前の金髪の女の子に。

 帝国滅亡事変ではエースという名前の黒髪の男に。

 赤犬事変ではカナエにとっても似てる謎の人物に。

 

 ここまでで共通する人間がいねぇ!!!!(シャウト)

 

 第2回目の時空移動で閃いたんだけど、海賊王にエースと呼ばれる黒髪の男。彼を未来で生み出される真女狐として利用しようと思っている。

 旧女狐でもある堕天使リィンと、それを影武者に使う完全別人である真女狐。1番拙い事は一人芝居だとバレること。

 その点、この時間旅行は都合がいい。だってリィンはどうやったって過去が決まっている。生まれてから成長する軌跡を多くの人の目についている。それより過去の存在には遡れない。なり得ない。

 

 一体誰が想像出来ただろうか、この伏線(かこ)に。

 素振りを少したりとも見せなかった私のリアルな反応に、一体どこを疑えというのか。

 

 

 

 

 なんてことをもしゃもしゃシャボンディ饅頭を横でたべるシーナを見ながら考えていた。

 

「お姉さん」

「シーナ、一応俺今はお兄さん」

「あ、そっか、お兄さん。おれ、これからどうなるの?」

「……その質問の意図は、どっちだ?」

「んぇ?どっちって、何が?」

 

 シャクシャクと独特な踏み心地のシャボンディ諸島。とりあえず困ったらここに行けってじっちゃん行ってた気がするから来てみたけど、シーナは大分ここの景色が気に入った様子。

 

「『今のお前の行先』か『未来のお前の現状』か、どっちだ?」

「み、未来に現状って付けるのおかしいと思う……。えっと、どっちも」

 

 私が見下ろして問いかける。

 シーナは前髪で隠れている瞳を逸らしながら答えた。

 

 そう、だなぁ。うーん、どこまで説明すべきか。

 

「とりあえず未来から言うな。お前はまぁ、海軍に入って将校になり、んで、兄のドフィさんを止めるために潜入するんだ」

「おれが、海軍に?」

「おう」

「ど、どんな海兵だったの?おれ泣き虫で……それに弱いから」

「あー、悪いけどお前が海兵だった頃はまだ生まれてねぇんだわ俺」

「??????」

 

 実は結構年齢離れているんですよシーナさん。

 親子と言っても問題無い位には。

 えーっと、確か潜入時が22歳って言ってたから私の時代から遡って約15年前?

 

 うん、生まれてないわ。もし会えてたとしてもそれはドンキホーテファミリーの幹部ロシナンテだろうから。

 

「あ、そっか。お兄さん歳下なんだおれより」

「そーそー。んで、お前は死んだ……フリをして、情報屋青い鳥(ブルーバード)で。ま、要するに俺のところで潜伏してる最中」

「そこでシーナって呼ばれてるの?」

「あぁ、ドジっ子名無しのピエロ。略してシーナ」

「どういうこと!!????!?」

 

 ただしキャラブレが激しい。

 

 コロコロ驚く姿に笑みが零れる。普段は私より背が2、3倍も高いけど、今は私の方が高い。低い位置にある頭を撫でようとして手を伸ばし…──。

 

「ッ(ビクッ)」

 

 シーナは肩を震わせると手から避けるように数歩後ろへ下がった。

 

「……ぁ、あ、っ、ごめ」

 

 自分の動きに驚き、自分の足や私の手を見て、そして私の表情を目で追う。かくつくようにぎこちなく足を動かすこと2歩、動揺した声色で謝罪をしようとした。

 

 のを、私は思いっきり手を伸ばして両手で頭を掴む。

 

 

「わっわっ、あわーーー!!」

 

 私はそのままの勢いで髪の毛をわちゃわちゃともみくちゃにし始めた。

 

「いい、シーナ!」

 

 湧き上がってくる感情が、よく分からない。心が締め付けられるほど痛くて、泣くのを我慢するせいで喉の奥がチクチクして。食いしばった歯の奥はギリギリと音が鳴る。

 

「私は、絶対お前を傷つけない。絶対に、何があろうとも!」

「お、にい、さ」

「絶対、絶対にっ!」

 

 何よりシーナに怯えられるのは、プライドに傷がつく。

 

「よくも、よくも私のものに傷つけてくれたな………。あの島、バスターコールしてやろうか…………」

「えっちょ、なん、なんか、物騒な気配」

「政府加盟国だともみ消しが大変だけど非加盟国ならどうとでもなる…………もしくは天竜人にリークするか……? 今すぐ滅ぼしてもいいがシーナが恨まれてはたまらない……未来で覚えとけよ……」

「おに、お兄さんーー!?」

 

 事情なんか知らない。例えシーナの親がやらかしてシーナを傷つけた人間が被害者だとしても、私は自己主義の自分本位な人間。私が大事に思う人間傷つけた時点でそこにあるのが加害者だろうが被害者だろうが知らない。絶対許さない。

 

 まさか私がこんなに激情するとは……。

 

「おち、落ち着いてよ」

「心から落ち着いてる」

 

 心は常に凪の帯(カームベルト)の様に穏やかだよ。

 

「──とりあえずシーナ、旅の準備をするぜ」

「おれ、お兄さんのそのコロコロ変わるやつ、ついていけない」

「なれるなれる」

 

 出来る限り、シーナのそばに居てあげよう。

 ……時間転移が訪れるまで。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ん、上等」

 

 

 シーナをボロボロの服から着替えさせ、靴を新調。後、宿の風呂にぶち込んで泡まみれにした。

 身だしなみを整えていると日はとっぷり沈み、夜も深くなっていた。

 

「飯でも食い行くか」

「あ、おれ、ここで待っ」

「一応言っとくがお前も来るんだからな?」

 

 おずおずとベッドに座ったシーナを不機嫌そうに見ながら告げる。

 私の予想通りの事を言おうとしたのだろう、シーナはギクッと動揺した後、言葉の意味を理解して嬉しそうに微笑んだ。

 

 おっ、初めての笑顔だ。

 

「で、前の話の続きだけど。俺は未来で海軍大将女狐って名前で通ってる」

「……? うん」

 

 将校の仕組みが分からないのだろう、首を傾げながらもとりあえず頷いた。

 

「一応海兵が情報屋やってるってのは聞こえが悪い。まぁその分シーナの隠れ家としては目が向けられなくてやりやすいんだが」

「よくわかんない」

「まぁここら辺は覚えなくていい。ただ俺が海兵だって覚えとけば」

 

 出来れば女狐の噂も流しといて欲しいもんだけど、それはまぁ置いておこう。無理にやりすぎると矛盾が生まれる気がする。

 

「んで、今のお前の方針を発表する」

 

 

 適当な飯屋を探す為にブラブラ歩き始める。てとてと、とシーナが早足気味で歩いた。

 

「我らがホームグラウンド、海軍本部へご案内だ」

「海軍本部?」

「そう、この偉大なる航路(グランドライン)にある海軍本部だ。身寄りのない子供なら公の組織の下に入るのが1番生きやすい」

「難しい言葉だけどロクでもないってのは分かる」

「わかるなばぁか」

 

 効率がいいって言え効率がいいって。

 

「んで、直接本部に行くのもありだけど、(時間の許す限り)周辺を散策するのもいいなと思っている。──行きたい所とかあるか」

「おれ、よく分からない」

「だろうなぁ」

 

 シーナは意見自体は結構口にしてくれる。意見を言うことに怯えがない。精神的な虐待だったり、指導からの虐待であれば意見を言い難い形で成長したのだろう。

 ただ普通に、自分の意見を言うまでもなく暴行を受けた感じだ。

 

「……!」

 

 そろ、と左手に何かが触れる感触。

 

 バッと反射的に左手を見たら中途半端に右手を伸ばして硬直したシーナが。私と目が合った瞬間顔を真っ赤にして右手を自分の後ろに隠してしまった。

 

「…………じー」

「あ、あはは」

「じー」

「へ、へへ」

「じー」

「あ、はは……」

 

 誤魔化すように引き攣った笑みを浮かべている。

 見つめあいが続く中、思わず吹き出したのは私だった。

 

「あっはっはっ! ……シーナ」

「あ、う」

「シーナ。手、出して。ね、シーナ。私の可愛い可愛いシーナ」

「…………絶対からかってる」

 

 今からかわずして一体いつからかうというのだ。未来に戻ったって可愛げの欠けらも無いスレスレシーナだぞ。

 

 シーナはムスッとした表情で手を伸ばしてきた。

 

 私は子供が本当に嫌いだと思っていたけど、案外そうでも無いのかもしれない。いや、達観して大人びざるを得ない子供、限定かなぁ……。

 

 ま、少なくとも海兵らしくさ、子供は守るべきものだってのは思ってるよ。状況によりけり。

 

「お兄さんはここに詳しいの?」

「んー。あまり、だなぁ。2年間任務で通ってた位だから」

 

 一瞬しか通過しない海賊よりは詳しいと思うが、駐屯する海兵よりは詳しくない。

 

 そしてそんなことを考えていたせいか、いつもの癖で13番GRへ来てしまい。

 

 

 ──顔を見上げた瞬間根元の建物に気付いた。

 

『シャッキー’sぼったくりBAR』

 

「………………おう」

 

 

 襲い来る胃痛に思わず蹲った。

 

「えっ、えっ、お兄さん!?」

「シーナ……」

「どうしたの? お腹痛い?」

 

 まさか。

 まさかこんな時代からあるとは思わないじゃん!!!!!

 

 うぅっ、どうしよう行きたいような行きたくないような。

 

 今の世界情勢確認するんだったらあそこが1番いいのは分かってるけど、ううん、うーん。

 ……今ならどう足掻いてもバレないし、未来でもそんな素振り無かったし、あとシャッキーさんのご飯は普通に美味しいから行こうかな。

 

 

 行くか行かないか迷うのはバレるバレないではなく面倒事が起こるか起こらないかのどちらかなんだよ。

 

 

 

 ええいままよ! 問題が起こった時は起こった時だ!

 

 

「シーナ、あそこ行くぞ」

「あそ……こ……行っていいの?」

「ぼったくられりゃその時だ」

 

 あの人のぼったくりするしないのラインは分からないので、運頼みだけど。というかこの年代で使える現金が無いから宝払いになるだろう。

 

「シーナ……って呼んでも別に問題はねぇか……? いやあいつなら多分引っかかるな……このトリックを見破られると困るし……」

 

 綻びは作らないに限る。

 シーナと結んだ手をぎゅっと力を入れながら、私は魔界へと足を踏み入れた。

 

 

「ちは……」

「──にゅう!? 人間!」

 

 手が沢山生えたクリーチャーがこちらを見て慌ててカウンターの中に逃げ込んだ。

 

 

「……………………はーーー」

 

 そういう所だからな、災厄くん。

 シーナがギョッとした顔をして、消えていった生物と私に交互に視線を向けている。

 

「いらっしゃい。何にする?」

 

 壁紙は緑。記憶にある装飾はピンクで若干温かみをあったけど、今の時代はデザインが少し違うようだ。

 バーカウンターや椅子の配置などは変わらないみたいですごく見慣れている。

 

 そして問題のシャッキーさん。

 あの………………タイムスリップでもしました……?

 

 顔の違いが判別しにくいという欠点のある私ですが老けとかそういうのはわかるんですよ。さすがに。あの、どこが変わっておいでで? 人じゃない?

 

「もしもーし、聞こえてる?」

「あぁ、聞こえてる。魚人の子が普通にいるとは珍しいな」

 

 カウンターに腰掛けるとシーナもうんしょうんしょと椅子に座った。

 

「酒はいい、これが食べれる様な……。さっきの魚人がいつも食べてる飯を作ってくれ」

 

 これ、と言いながらシーナの頭にポンと手を置く。

 それとなく魚人の食べる物が人間と変わらないの知ってるよってアピールをしながら、会話のネタを振り撒いた。

 

「えぇ分かったわ。お嬢さんは何にする?」

「……。女顔で悪かったな。あんたよりは歳上で男だ」

「あら、私よりも歳上なの、お兄さん」

「そんでこれは俺の子供」

「えっ!? そうだったの」

「そーそー。そうだったんだよ」

「あらあら、子持ちはモテないわよ」

「残念ながらコブ付きでもモテちまうんだよな」

 

 ガビーンと言いたげにシーナが驚いているけど、そんなわけあるかい。

 うーん、子供の反応って素直だな。

 

「ボーヤ、辛いもの食べられる?」

「えっ、あ、食べたこと、ない、かも」

「そう。じゃあ甘めに作りましょう」

 

 シャッキーさんがそう言いながらご飯を作り始める。ミンチを取り出して炒めているみたいだけど、何が作られることやら。

 ま、当たりしかないけど。

 

「はっちゃん、この子達大丈夫そうよ」

「はっちゃん?」

「あぁ、さっきの魚人か?」

 

 うーん、気のせいかと思ったけど、タコ足の魚人でぼったくりバーに来たことがあるって時点で怪しんでいたけど、いやまあちょっとくらいは現実逃避していたかったな。

 

「うにゅぅぅぅう…………」

 

 カウンターの裏からぴょこっと顔を出したのは口が特徴的な魚人。うん、ルフィ達に助けられたとかって言ってた魚人ですね。

 

「魚人の子供つーと目的はシャボンディパークか?」

 

 私がカウンターに頬をついて首を傾げる。サラッと流れる髪の隙間からドヤ顔だ。

 私の発言にはっちゃんはぎょぎょっと目を見開いた。

 シャッキーさんがくすくすと笑っている。

 

「ガキンチョ、良かったらうちの坊ちゃんとも話してやってくれ」

「お、にいさ、あれ、な、なに」

「んあー?」

 

 そういえば、フィッシャータイガーの奴隷解放って確か私が生まれた頃、だったよね。

 それよりも10年以上前。少なくともシーナが外界に降りてきて2年以上はたってることから、まだ魚人の奴隷は主流になってなかったんだろうか。

 

 人間オークションの様子見ておくんだったな。いやでも教育に悪いしなぁ……。

 

「魚人島は今誰の縄張りだ?」

「ニュー……誰の縄張りでもないぞ……。今、海賊がいっぱいいるんだ……。友達は皆攫われて……」

「あー」

 

 つーことはシーナの家族……ドンキホーテ聖はとことこん奴隷に関わらせなかったのかもしれないな。買ったとしても家事をしたり、そういう雑多に使う奴隷。コレクターとしてでは無いってのは確かだろう。

 

「これは魚人。海の底の、あー、まー……めちゃくちゃ深い所で暮らしてる種族だ。他にも一応人魚ってのもいる。国王の家系が人魚多めだったか」

「魚人! おれ、はじめてみた!」

「……だろうなぁ」

 

 怯えることも無く、興味津々と言った様子で椅子から降りて近寄っていった。

 

 怖いもの知らずというか、未知に対する探究心、すごいな。

 

「おれ、ロシナンテ! お前は?」

「はっちゃんだ! ニュー!」

「なぁなぁ、それ、手は何本あるんだ。全部バラバラで動かせるのか?」

「ロシナンテって長いな、ろっちゃんって呼んでもいいか? 腕2本でどうやって生活するんだ?」

 

 見たところ歳も同じくらいな様だし、違う種族だから質問は互いにポンポン出てくる。

 楽しそうに話しているし放置しておいて大丈夫だろう。

 

 ……問題はシャッキーさんだ。

 

 昔は分からなかったんだけど、この人めちゃくちゃ強いな。気配が隠しきれない。

 多分昔(未来)が弱くなったとかじゃなくって、隠し方が上手くなったんだと思う。私は気配がわかるとかそういう超人的なあれは無いので、気配と言うよりは威圧感だけど。

 

「お兄さん達はどこから来たの?」

「さぁな。名前は知らん。だがま、俺もあれも、外と隔離された場所にいたから世界情勢はちっとも分からん。そろそろ海軍は滅んだか?」

「残念ながらピンピンしてるわ。ガープなんかは特に元気いっぱいだったわ」

「ガープ…………?」

「あら、まさかゴッドバレー事件をご存知じゃないのかしら。ここ近年の大事件なのだけど」

「あー、あれだろ、知ってるぜ、神々の住まう土地で100年に1度の大会があるってあれ」

「…………絶対違うってことだけは断言出来るわね」

 

 私はお冷を飲みながら鼻で笑った。

 

「どうせ政府にもみ消される事件だろ。史実と歴史が違う案件は首突っ込むと後々異端だとかどーとか言われて肩身が狭くなるんだよ」

 

 私の時代にゴッドバレーなんて名前は残ってない。ガープ中将が関わっているのなら後で聞けば済む話だろう。

 私はあまり歴史に詳しくないけど、出生があれだからこれ以上政府に睨まれる訳にはいかなかったしね。大人しく『歴史(都合のいい感じに仕立てた記録)』の範囲内しか触れてこなかったよ。

 

 ま、要するにそんな私が知らないんだったら世界政府の不都合な案件。

 

「まぁいい。今の時代は何が力を増してるんだ?」

「随分と視点がお爺さん臭いわよ」

「ははっ、どうだろうな」

 

 私はちょっと調べたいことがあったので、目を細めて聞いてみた。

 

「──ロックス、とか言ってたな」

 

 ロジャーの時代の前はロックスの時代、と言われていた。

 ロックスを指すのが人名だと分かった状態、その組織も、なんなら海賊かすらもわからん。うん、全くわからん。

 

 だからそれかなぁー、なーんて思ってたんだ。

 

 適当に意味深な雰囲気出して『俺は強いやつとかわかってるぜドヤァ』みたいな。この世界、カッコつけるの好きだからさ。

 

 

 

 するとシャッキーさんは思わずヘラを止めてこちらを見た。

 

「人が悪いわ。最悪よ」

「なんの事だかさっぱり分からんな」

 

 いやほんとに分からんな。

 なんかよく分からないけどこれ踏み込みすぎるとボロが出る話題だな。気をつけておこう。

 

「知らないフリするのも大概にしとかないと、ぼったくられるわよ」

「ぼったくられりゃ体で返すさ。極楽浄土に案内してやるぜ。…………ただ」

 

 じー。じー。

 

 4つの視線が私に鬱陶しく絡みつく。

 

「──ガキがいなけりゃ」

「あっはっはっ! 子守りも大変ね!」

「ナンパもままならねぇから参るもんだ」

 

 下にある頭を2つ、わしゃわしゃと掻きむしる。

 子供2人はバランスを崩しながらもそれを受け入れた。

 

「はっちゃん、ろっちゃん、出来たわよ」

「わーい!」

「ニュー!」

「……そのろっちゃんっての似合わねぇな」

「え、そうなの?」

 

 シーナがきょとんと驚いた瞳で私を見る。

 ロシナンテのことはシーナって呼び続けているからね、馴染みがない。

 

「あら、じゃあローちゃんって呼びましょうか? これなら似合うんじゃなぁい?」

 

 吹くな私。吹いたら未来でバレるぞ。

 今吹き出したら未来で何かしら突っ込まれるぞ。我慢、我慢だ。

 

 未来でシーナが助ける子供の名前がローだなんて名前は今思い出すな。

 

「な、だな。なっちゃん。かーわいいだろ」

「えー! おれ可愛いのよりかっこいい方がいい」

「なっちゃん!」

「なっちゃん、タコライスよ」

「うい゛ーーーっっ」

 

 なんか足をバタバタしながら嫌がっている。女の子っぽいけど、性別使い分けできると便利だぞ。

 ……将来アバウト3mには無用な知識だろうけど。

 

「つーか、タコの魚人がタコライス……」

「洒落てるでしょ」

 

 元々タコスという料理があって。タコスはトルティーヤという生地に炒めた具材とかを乗せて巻き寿司みたいに巻いて食べる軽食。その中の具材をご飯の上に乗せたのがタコライス。ドライカレーに違い食べ方。

 トマトベースのサルサが主流なんだけど、シャッキーさんのはチーズ多めで甘めだった。

 

 ──この料理にタコは、入っていない。

 

「たこ焼きくらい食わせてやれよ」

 

 確かはっちゃんの好きな食べ物ってたこ焼きとか言ってたはず。というかたこ焼き屋台がどーとか言ってたから。

 

「たこやき?」

「なぁ、たこやきってなんだ?」

「知らねぇか? まぁ時代も違うからな……」

 

 どの時代に栄えたのかは知りません。多分感覚的にワノ国だと思うけど。

 

「こう……薄い鉄板に、指で丸作った円周くらいか。その大きさの半円型のくぼみがあって……。熱したそれに小麦粉のサラサラした生地を注ぎ、中にたこを入れて楊枝というかアイスピックというか竹串みてーな長めの錐でひっくり返して円形にすんだよ」

「説明は分かりやすいのにびっくりするほど想像ができないのね……」

「んでそこにたこ焼きソースとマヨネーズと鰹節と青のり」

「たこ焼きソースって?」

「それ用に調合した甘めのソースだな。焼きそばとかの味にちけーやつ。ま、細かいレシピは俺も知らねぇな」

 

 というか説明が難しくなるし、細かく知っていると『作って』と言われそう。ポイズンクッキングは勘弁。

 

「ふぅん、貴方、物知りなのね」

「どうだかな」

 

 私の情報は決して断定させない。過去も語らない。話の節々から、そうじゃないかという予想を立てさせる。確信に近い予想を。

 

 でも私が断定しなければ後でどうとでも言い換えれる。

 

「はァ、平和な世の中になったもんだな」

「……そうは思えないけど?」

「ハハッ」

 

 物騒極まりない過去で果たしてどうやって生きていこうか。

 はっちゃんと仲良くなったシーナには悪いけど、あまり1箇所に留まり続けるのは良くない。

 

「明日はどこに行くか」

「え、もう出るの!?」

「あぁ、別にシャボンディ諸島は船も結構出てるし、後からでも来れるしな」

 

 諸島だからログはないけど、定期便が出ている。シーナが海軍本部に行くならより一層通いやすい位置だろう。

 私だって海兵現役、海賊(ゴミ)処理任務は通いだったんだから。

 

「ニュー……もっと居ないのか……? また会えるか……?」

「さてな。一応保護者だが、俺ァ未来のことを約束しない主義なんでな、約束するならそいつにしとけ」

 

 わざわざ私に許可を取ろうとしている。非常に残念ながら私は時間転移があるから。

 ちゃんと食事終わりの挨拶を終わらせて、会計をする。ぼったくられはしなかったけど、サファイア1粒渡した。すまん、現金がない。

 後で換金……いや……うーん……過去で換金しても発行年数的には問題ないか、換金して来よう。

 

 さて、次は本格的にどこに行こうか。

 

 

「そうだ、貴方名前はなんて言うの?」

 

 私が悩んでいるとシャッキーさんが思い返したように質問をしてくる。

 

「──俺は、ただの通行人Aだ」

 

 俺はそう言って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもなっちゃん魚人怖くないのね」

「初めて会った時のお兄さんの方が怖かった」

「……一体何をしたの?」

 

 何もしておりません。




普通に跡を濁しまくったよね。
お久しぶりです、私です。
ようやく乗ってきました。ただし次回が決まってません。
シーナとのぶらり珍道中、アニオリか映画で出てきた島に行ってみようかと思います。まだ決めてません。
次回、懐かしのあの海賊の登場。シーナ、実はコミュ力高い? の2本です。お楽しみに。

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