2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第251話 犬も歩けば棒に当たる

 

 

 

 夢の中、私はフラフラと過去を飛び回っていた。

 世界の過去ではない。私の歴史の、過去だ。

 

 出会いと、別れ、再会と、災厄。

 何年も積み重なってきた軌跡。

 

 

 

 ……ん? あれ?

 

 

 パチリ。

 

「ッあああ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!????」

 

 

 大声で声をあげた私に、寝起きのシーナがベッドから飛び起きた。

 

「なに、なに!?」

「そういう事か!!!!」

 

 突然飛び上がった私。

 シーナはベッドの振動でボヨンボヨンと跳ねていた。

 

 

 

 現在、過去です。

 シーナの幼少期と出会ったので時間転移が来るまで適当にブラブラしようと思って新しい島に来たはいいんだけど、夜中だったから宿を取って休んだ。

 

 そして朝。

 私は夢の中でひとつの事に気付いてしまった。

 

「そういう……事!」

「えっ、何が?」

 

 センゴクさんの先読み恐るべし、という事。

 

 センゴクさんは過去で『俺』と会った。そして頂上戦争後、私が新しい雑用として変装した段階で気付いたんだ。過去に出会った『俺』は、私が過去に飛んで出来た存在なんだ、って。

 

 ……いや、その段階でセンゴクさんは確信に至った。それ以前に予感はしていたんだ。

 

 センゴクさんはどこからか情報を入手していた。

 『過去に飛ぶ悪魔の実』と『真女狐の正体』と『シラヌイ・カナエの正体』を。それら全てを合わせて真実に気が付いた。

 

 そしてこのトリック。

 私とセンゴクさん以外には解けない。

 

 過去に飛ぶ悪魔の実の結果を知っている人間は、私がシラヌイ・カナエの子供だと知らない。そしてシラヌイ・カナエの秘密を握っている者は……海賊、知ることも無い。

 

「で、えっと、どういう事?」

 

 シーナがキョトンとした顔で私を見上げた。

 

「……えっ、と」

 

 どういう事って、どういう事だっけ?

 ああ、そうだ。夢の中で走馬灯を思い返しながら、私はひとつの真実に辿り着いたはず。

 

 それはセンゴクさんの知っていた事と。

 

「………………やべぇな、忘れた」

「ええええぇええええぇえッッ!」

 

 夢の中での出来事なんて覚醒した頭で覚えてられるものか。

 ガビーン、とした表情でシーナは叫んだ。うるさいから叩いた。

 

 

 ==========

 

 

 

「ひどい。おーぼーだ」

「横暴くらいまともに発音出来るようになってから言え」

 

 たんこぶ出来た頭を抱えて涙目で訴えかけるシーナを連れて街へ出る。

 

 仕方ないじゃん。夢って普通覚えられるわけないじゃん。夢現のあの境目では覚えているんだけど、覚えているという記憶があるだけではっきりなんて覚えられない。

 それに今回の夢はカナエさんに分けられた予知夢ではなく、ただ純粋な走馬灯。走馬灯を純粋と言っていいのかはさておき。

 

「気になるじゃん……どういう事なの……」

「知るか」

「思い出したら言ってよ!」

 

 分かった分かった。

 

 シーナは約束をすると打って変わってニコニコ笑顔に戻った。単純というか純粋というか。今までのシーナのスレ具合は欠片もない。子供は苦手なんだけど素直に可愛いなと思わせてくれる。

 

「それでお兄さん、ここはどこ?」

「プッチ」

「説明少ないよ」

 

 ここは美食の町。

 海列車でウォーターセブンと結ばれている町の一つで、四方から現れる食材と腕を振るう職人達の都である。

 

 ……というのは未来の話です。

 確か私が生まれたすぐかその後かぐらいにフランキーさんの出身でもあり海賊王の船を作ったとされる造船会社「トムズワーカーズ」社長トムが開発した海列車。それの開通によって「カーニバルの町」サン・ファルド、「春の女王の町」セント・ポプラ、「美食の町」プッチ、「司法の島」エニエス・ロビーとの間に定期便が開通され、ウォーターセブン近辺は造船・観光都市として豊かになった。

 

 ただ、今は過去。

 美食の町、とはまた違った模様である。

 

「治安、悪ぃな」

「なんで来たの?」

 

 興味です興味。

 やはり観光地ともなった場所って、遥か昔から栄えている方が珍しいんだ。私の知ってる観光地で、海軍本部飛行1時間圏内って言ったらここでした。

 

 プッチの過去は観光地になる前の様相を見せていた。

 

 大海賊時代は私の生まれた時代だけど、過去も大概海賊で溢れているような気がする。

 

「こ、怖そうな人いっぱい」

「俺より?」

「全然怖くなくなっちゃった…………嬉しいような悲しいような」

 

 余程第一印象最悪だったらしい。うーん、やっぱり可愛いリィンちゃんじゃなくて性格の悪いジョンだとそんなもんだよね!

 

「さーて、なっちゃん。ここでの目標を発表する」

「なっちゃんかっこよくない」

「黙らっしゃい」

 

 ピシャリと発言をぶった斬る。

 

「ひとまず、うまい飯屋を見つけること」

「……お兄さんって食い意地はって」

「その次、情報を集めること。いいかなっちゃん、お前は今後、どういう道に行こうとも情報は集める事になる。ぶっちゃけ、俺はお前が今ここで俺と出会って、俺に嫌気がさして、未来が変わったとしても……後悔はない」

 

 シーナは首を傾げた。

 未来が変わることへの重要さが分かっていないようだ。だって彼は過去の人間だから。未来なんて知らないのだ。

 

「いいか。よく覚えておけ。お前は──このままだと死にかねないぞ」

「えっ」

「用心深さと、腹黒さと、大胆さを手に入れろ。未来で私と、女狐と出会える日が来るまで。絶対生き延びろよ」

 

 死亡フラグを無駄に立てていく。

 ドフィさんへの裏切りで罰されるドンキホーテ・ロシナンテ。未来で、歩む道が一歩でも踏み外せば死んでいたに違いない。ほぼ高確率で。

 

 ドフィさんのおもしろさと、それを上回る恐ろしさを知っている私は、確信していた。彼は、実の弟であろうと殺す事が出来る。

 シーナは逆に、実の兄を殺せない優しさを持っている。

 

 覇王色の覇気の有無の違いかなー。それとも、人間味の違いかなー。

 

「ま、今の間に俺が育てるって事だ」

「それ、厳しい予感がするえ……」

「その『え』ってのは禁止だ。自己紹介してる様なもんだ。後俺は部下が涙流して血反吐と恨み節吐いても外周を走らせた経験がある」

「お、おれ磨けば光るから厳しいのいいよ!」

「磨く行為を怠慢してる今はただの石っころ」

「ぴょえ」

 

 潰れた蛙みたいな声をしてシーナが鳴き声を発する。はっはっはっ、喜ぶな喜ぶな、

 

「さ、シーナ。早速仕事だ。そこら辺にいる海賊からうまい店を聞き出してこい。なぁに、逃げ足もついでに鍛えれるから一石二鳥だな」

「それもう襲われる事前提じゃんかああ!」

 

 シーナは地獄とはここですみたいな顔して悲鳴を上げた。

 隠しきれないお坊ちゃん感は、海賊にとって餌に見られるだろう。

 

 ま、私はシーナの逃げ足を信じてカフェテラスでコーヒーでも飲むとしよう。

 

 あっ、お姉ちゃんコーヒーひとつ。砂糖とミルクたっぷりでね。うんそうそう、ホットミルクと変わらないくらいの。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 一時間後。

 

「……で」

 

 私は新聞片手に足を組んでドン引きの表情を見せた。

 

「どういう事だよ」

「お、お友達ができたよ!」

「フリッツ・ヘイヴだ」

「……どういう事だよ」

 

 純粋に分からなさが突破してるしフリッツ・ヘイヴって言ったら未来の王下七武海じゃねぇかボケ。

 

 うまい飯屋を聞いてこいと頼んだ未来の手駒は、何故か海賊を連れてきた。言っている意味が分からないと思うが、私も分かってないから安心して欲しい。

 

「あー、えー、顔色泥の蝙蝠野郎さんは」

「悪口じゃないか」

 

 心外だ、と言いたげにフリッツ・ヘイヴが私を見下ろす。

 

「ロシナンテ。こんな子供がお前の保護者なのか?」

「てめぇよかずっと年上だ敬称を使え」

「そうか」

 

 ディスコミュニケーションの塊かよ。

 というか。文句を子供に言うな。納得するならもっと感情を顕にしろ。

 

 フリッツ・ヘイヴの見た目はツヤッツヤの黒髪を長く垂れ流し、そして痩せこけた姿と、めちゃくちゃ顔色の悪い感じで……。うん、すっごく不健康そう。

 記憶の隅っこのさらに隅っこにあるフリッツ・ヘイヴの姿と見比べても……ちょっと不健康がすぎるな。目の下に隈が出来てるし。

 後、七武海時代の彼にあった鼻につく獣の血液臭さが全く無い。あるのは海の匂いと、カビ臭さ。

 

「一応こんななりだが、こいつの保護者やってる。俺は……あー、好きに呼べ」

「なんだ。名前が無いのか」

「一応あるっちゃあるが、好きではねぇ」

 

 どこかでロジャー海賊団のエース君という男の本名が『ションなのだ!』って、情報を巻いておきたいんだけど。

 この男は将来、ドフィさんの手によって殺される存在。真女狐が現れた状況では彼の証言など無意味だ。

 

「じゃあ、ロシナンテの親御」

「長ぇよ」

「……略してロシオヤ?」

「いや、それ、……はぁ、もういい。てめぇの質はよぉぉく分かった」

 

 ディスコミュニケーションとディスネーミングセンスの塊って事がね!

 

 ……えっ、ロシナンテの恐らく初めてであろう友達が兄に殺されるの? 精神、大丈夫?

 私、胃が痛くなってきたんだけど。

 

「…………はぁ」

 

 私はため息をひとつ吐いてシーナを見た。シーナは肩をビクリと震わせる。

 

「えっと、ご、ごめんなさ」

「それは何に対しての謝罪だ?」

「……その、期待に添えなかった、から」

「ちげぇよばぁーーか。お前が、予想以上に『やる』奴だと認識したから、安心したんだよ」

 

 シーナの頭をグリグリと撫で回す。

 わわわ、とバランスを一生懸命保つシーナの踏ん張り声を尻目に私はフリッツに向き直った。

 

「ロシナンテ。いい魚を釣り上げた。こいつは近い将来でかい看板を背負うぜ」

「……なんだと?」

 

 私が思うに、情報屋で最も必要な事は『価値のある人間を見つけること』だと思っている。

 情報のある人間をそもそも見つけださなければ意味が無い。シーナはその直感で、未来の七武海をぶち当てた。

 

 フリッツ・ヘイヴは訝しげに眉を寄せている。

 

「ははっ、気分がいい。情報は手に入れたな?」

 

 これは課した『うまい飯屋の情報』だ。

 シーナは課題を忘れなかったようで、うん、と頷く。

 

「腐った蛆の道、の三番地、『ヘドロのスープ』だって」

「ネーミングセンスがクソかよ」

 

 どこかの世界でお前が言うなと言われた気がするけど気のせいだろう。不可避キック、分かりやすくっていいじゃん。

 

「ついて来いよフリッツ・ヘイヴ。お前のオススメのメニューもついでに教えろ」

 

 昼飯に彼を誘うと、困惑したままの様だったがシーナをちらりと見て頭を縦に動かした。

 

 

 

 目玉が浮かぶ正しくヘドロみたいなドロッドロの灰色のスープを出された瞬間、絹をさく悲鳴を上げたシーナと、思わず顔を引き攣らせた私を尻目に。花をふわふわ浮かばせてフリッツ・ヘイヴはスープを両手で抱え込んだ。

 

 

 

 

「あ、意外と美味いな」

「……!そうだろ!」

「な゛ん゛で飲める゛の゛!???!?!?」

 




おひっさしぶりでございますと同時に2度目の人生はワンピースでの5周年となります!!!
去年、3話しか書いてないって、まじ?

こ、今年はかけるといいなぁ……(震え声)

ところでですが、実は皆様大好き(笑)なこの作品の主人公、リィンなのですが。
──ニコニコ動画で踊っております。
ま、正確に言うと1次小説『最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!〜』の主人公リィンの二次創作なのですが。ぜひ『最低ランクの冒険者』で検索してみてください。

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