これはほんの少しだけリィンが頑張れば、あったはずの世界。
「あ、もう時間ぞ」
幼い頃、初めてリィンはフーシャ村に来た。祖父であるガープに兄がいるという話を聞いて突撃隣のフーシャ村しちゃったのだ。
そこで出会ったのは後の船長である兄のルフィ。そして初めてフーシャ村に訪れてた海賊、後に四皇として名を馳せる男、シャンクス初邂逅したのである。
本来であれば。リィンは帰るはずだった。
本来であれば。その後ルフィはとある少女と出会うはずだった。
だが、その
「──ん?」
シャンクスがリィンの幼少期クソムズ言語に首を傾げた。ちょっと言葉の意味が分からなかったので聞き直すも、これまた難しい言語で答えが帰ってきたのだった。
「住処はこるぼ山故に闇夜は危険ぞ。危険物多大に存在す、急速に帰還すべしぞ」
「よし、よし、信じ難いが理解した」
言語的な意味でも。
「……お前、ここの子供じゃないのか」
「肯定ぞ、私は森、だ、ぞ、よ?」
ここで分岐点が起こったのだった。
「分かった、リィンお前今夜はここに泊まれ。明日の朝イチで送って行ってやる!」
「えっ、でも帰宅願望せぬばお家で顔面凶暴共ぞ心臓負担ぶっかけるぞり!」
「ごめん結構わからん。だけど俺の主張に反対したことは分かった」
シャンクスは流石に譲れない、と言わんばかりに主張を押し通す。
「山は危険だ。お前の住処がどこら辺にあるのか知らないが、帰らせる訳には行かない」
そこでリィンは考えた。
木の影からこんにちはしてくるコルボ山が誇る数々の獣達を……。うん、やめよう。明らかに強そうな人達がいるんだから。エースとサボが心配する? するっちゃするだろうけど自分の身の可愛さには勝てないのだ。
「了承致すすたなり助!」
「返事のくせが強えな……。まあいいや、あいつも女の子が居た方が喜ぶだ──」
あいつ?
リィンがその言葉に首を傾げたその時、酒場の扉がバン!と開かれた。
「シャンクス! 全然戻って来ないじゃん!」
子供の声であった。
その場の流れでリィンがその方向へ向けるのは至極当然だろう。
「おおウタ! 来たか!」
「来たか! じゃなーい! 赤髪海賊団の美少女音楽家をほっといて宴会するダメな海賊が何処にいるって言うの!?」
「ここだな!」
「笑い事じゃないー!!!」
ギャハハと大笑いするシャンクス及びその船員。慣れた様子なのか澄まし顔でウタと呼ばれた少女は肩を竦めた。やーれやれ、この男どもは。そう言いたげだ。
「ん?」
「うぇ?」
「お?」
宴会の最中に見覚えのない、要するにルフィとリィンの姿が目に付いた。
「ねえシャンクス、こいつら誰?」
「ルフィとリィンだ。あー、そういやお前ら何歳だ?」
「俺6歳だぞ!」
「わたひ、えっと、さんしゃい」
ルフィは元気良く、リィンは食べていた食べ物をゴクリと飲み込んで媚び媚びに。
ちなみに心の中でリィンはこう考えた。
うわ、半々だ。半分だ。
失礼極まりない。
「ふーん。私はウタ、赤髪海賊団の音楽家! 私の歌は、みーんなを幸せにするの。ちなみに8歳!」
「俺より数が多い! ずるいぞ!」
「いや何よずるいって……。年齢にずるいもへったくれも、あるもんですか!」
ウタはリィンを一瞥して眉をひそめた。
「それよりガキンチョ。その服何? 仮にも女の子なら、もっとまともな服着なよ!」
そう言われてリィンは自分の服を確認する。
ありえない! なんてプンプンしているウタの言い分もそのはず、リィンは山暮らし。日々猛獣と終われ山賊達と一緒に嵐が来たら吹き飛びそうな小屋で野性味溢れる生活をしていたのだ。挙句ゴミ捨て場と呼ばれる場所で
おしゃれ? それより生き延びることの方が重要なのだ。
「りぃ、服無い」
「無い!?」
「にぃにの服ぞ、ちぎってはぽいすて頑張るすてる」
その瞬間ウタはリィンの手を取って立ち上がった。
「かんっっっがえられない!!!来て!私の服分けたげる!」
バタバタとリィンを引っ張って駆け出したウタに、無骨な男共はポカンとした顔をして見送った。
「女の美容には口出さねぇのがルールだぞ、ルフィ」
「???」
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「はいこれ、私が小さい時に着てた服。それとこれ、これも。あっ、宝石があったんだった。これとこれとこれも、あとこれは私には似合わなかったから使って、靴も小さくなったんだっけ、まだ大きいかもしれないけど」
「わぷぷぴぴぴび!」
「え、今の何?」
ウタの部屋にて。ウタが振り返ればそこには衣装に埋もれたリィンが不思議な悲鳴をあげていた。衣装の山からリィンを引っこ抜いたウタは、大事そうに持っていたボロい箒が目につく。
「ねえ、リィン。それ何?」
「足!」
「足??????いや箒じゃん……」
呆れた顔するウタに、リィンはちょっと自慢げにふふんと笑顔を浮かべた。
どう見てもドヤ顔である。
そしてリィンはエースやサボにもまだ見せたことの無い飛行技術というものを自慢したくてしたくてたまらなかった。ぶっちゃけフーシャ村まで来たのは箒なのであるが、やはりまだ不安定。
あんなにアグレッシブに動き回るエースやサボに移動手段を見られると、そりゃもう巻き込まれること必須。何にって、命のやり取りにである。
「ウタちゃん」
「ちゃん?」
短い名前万歳。そう思いを込めてリィンは手を差し出した。
「お空ぞビューンヒョイしましょ!」
「どういうこと!?」
「心配ご無用不用心!」
そしてウタはリィンの手を握った。
甲板に出たリィンは箒に跨り、その横をウタのために空けた。
まさか乗れって? そう言いたげなウタの顔にリィンは語らず頷いた。
グン。
箒は空へ舞い上がる。それはちょびっとだけかもしれないけど、少女達にとっては偉大なる距離だ。
ゆっくりとノロノロと、箒全盛期の海軍所属リィンからは想像もつかないような安全運転。
だけどウタは喜んだ。
「す、すごい!」
ちょっと怖いし、落ちないか、って不安はある。
でもいつもの海なのに、こんなに綺麗な海を見たことがなかった。初めて見た景色だ。
潮の匂いが鼻にくすぐる。
「すごい、すごい! どうして浮かぶの!?」
空を飛ぶのって、すごい。地面と遠くなって、飛び回るのがこんなにも楽しいのか。
ウタは結構、アグレッシブな性格だった。恐怖や不安はいつの間にか吹き飛んで行った。
「へへへーん、これぞわたしゅの、さいきょーへいき! 名付けるすて、お空ビュンビュン(未来図)でござるぞり!」
「うーん、ネーミングセンスがダメ」
「ガビーン!」
服が潮風を孕む。そう、まさに踊り子みたいに。
2人繋いだ手が月明かりに照らされていた。
「ねえリィン、歌いなよ!」
「ぴ?」
「ほんとは私が歌いたいところだけど。私が歌うと、リィンは寝ちゃうから、リィンが歌って!」
なるほど、子守唄ってことかぁ。
悪魔の実を知らないリィンは純粋な気持ちでそう納得しながら、やれやれ子供のお世話って大変だなぁ、と心の中でお姉さんぶって口を開いた。
「──♪」
風が吹いた。どんちゃん騒ぎしている海賊には届かない歌声が、静かな海の上で隣の女の子に届いた。
リィンが歌い終わる頃には、ウタは眠っていた。寝苦しいのかううっ、と唸り声を上げるウタを横目に、リィンは箒を慎重に下ろした。
ちなみにウタは普通に落っこちたのだった。
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暗い、何も無い島。焼け落ちた島。
音楽の国と呼ばれたあの島で、寂しい歌を歌いながら。
「私の
その呟きはさざ波に溶けて消えた。
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これはあるはずのない物語。出会わないふたりがであった世界の物語。
お久しぶりです。
皆さん、映画、見ましたか?
恋音見ました……めちゃくちゃ泣きました…………………もうほんとに辛かった……面白かった……プリキュアとかアンパンマンみたいな展開で今までのワンピース映画とちょっと違うかんじだったけど、新時代的なワンピース映画でもう良かった……………。