2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第256話 子の心親知らず

 

 

 リン……チリン……。

 

 鈴の音が響いた。

 

 

 

「ヨホホホーヨーホホーホー」

 

 海賊は歌うのが常らしい。どの海賊も、ってほど海賊船に常駐していたわけじゃないから予想でしかないけども。

 

 現在、ロジャー海賊団は魚人島に向かっています。

 

 ビンクスの酒は割りと世間的に見るとマイナー寄りの曲なんだけど海賊ではドメジャーな歌だよね。

 

 そんな海賊達のテーマ曲を聴きながら私は相変わらずバレットと遊んでいた。

 ほんとはブラックジャックとかの方が得意なんだけど、トランプ系はディーラーが必要なことが多くてワノ国の遊びばかりをしていた。花札はもちろんの事だけど、囲碁や将棋も。ここら辺はイカサマが効かないから全力でやったよね。

 

「お前なんでそんなに強いんだよ」

「生まれながらの才能」

「……」

「そんなドン引きって顔すんなよ坊主」

 

 最初に比べたらコミュニケーションを取ってくる様になったけど個人的にはもうちょい喋れよとは思う。ポーカーフェイスが出来ないから勝負事で無言になる癖やめて欲しい、探れないから!

 

「バレットは、どこの軍隊出身だ?」

「……は?な、んで軍隊だと」

「分かるだろ。特にお前って名前に執着ないタイプだろうし、どうせその名前は本名じゃないんだろ?」

 

 うっそでーす。本当は知ってまーす。

 えぇ。カナエに聞きました。

 

 ダグラス・バレット。ガルツバーグって軍の少年兵だったらしい。

 

「死にてぇのか?」

「やってみろ。こんな札遊びで俺に勝てねぇ様な、こんな弱っちい男に誰が負けるかよ〜。ほら、チェックメイトだ」

 

 キングを倒して終わりだ。

 バレットはどうやら強さにこだわっている男の様で、時々隠しきれない殺気をぶん回してくる。

 

 ただまぁ絶対A型。負け越しは気になるし放置しておけない質らしい。

 そんな遊び程度でも勝てない相手をぶん殴れば、それこそプライドに触るのだろう。

 

 

 つまり、私、勝負に勝ち続けなければ、物理的に死ぬ。

 

 胃が痛いよォ……。短気は短気だけど、癇癪起こして当たってこないだけマシ……。この体格でぶん殴られたら私ぺしゃんこだぞ。

 

「えーしゅー」

「うお、ビックリシター」

 

 本当にびっくりしたので悲鳴を上げたかったのだけど、それを押し殺して演技してますよって感じにビックリした。後ろに張り付いていたのはモモの助だった。このクソガキめ。

 

「しゅー!!」

 

 日和まで足元にハイハイでよってきた。やめろ、初ハイハイだろお前。

 

「……お前子供好きなのか?」

「真逆に等しいが、正直ここまで生きてると年下しか居ねぇ」

「あぁそう」

 

 自分から聞いてるくせに興味無さそうなのほんとに!お前が強くなかったらケッチョンケッチョン似してた!いや強くても関係ない直接私が手を下さなきゃいいんだケッチョンケッチョンにしてやる。

 

「あなた達、エースさんの邪魔でしょう?」

「トキ」

「ごめんなさいねエースさん。ねぇ、バレットさんとの遊びが終わったらまたお話聞かせてくれる?」

 

 トキに言われた言葉に内心ひきつる。

 トキは俺と同じく過去から飛んできた人物で、同郷(むかし)の人間だからと結構懐かれてしまった。幸い、『俺』の設定上適当に答えても済むから。

 

 さらに幸いなことにトキは世間知らず。俺があることないこと適当に言っても、当たってたら『そうですよね、懐かしい』と答えるし、当たってるか分からなくても『へぇ、外ではそうだったんですね』なのだ。

 『嘘だけどな』って時々言ってるし、真実がどうであれエースくんは適当しか言わない人間なのだ。

 

 まぁもちろんボロが出ると困るので何をするかと言うと……。

 

 

「美人に誘われちゃ仕方ねぇな。俺の部屋で教えてやるよ、ナァニ、膨大な思い出だ、朝方までかかるけど夜更かしの準備だけはたーんとするんだぜ?」

「──ゴルァてめぇエース人の嫁に何ちょっかいかけてんだ!!!」

「失敬な、俺は誘われただけだ」

「トキ!もうこんな奴に関わるんじゃない!関わるならカナエ挟め!」

「あたしを巻き込まないでくれる!?」

 

 こうやっておでんの危機感を煽れば面白いことになる。

 

 追求を逃れたい私と面白い状況が好きな俺の意見が合致しました。ビクトリーです。

 

 トキはワノ国に向かう途中でおでんと出会い、そのまま結婚した。おでんはゾッコン。トキもゾッコン。はー、リア充リア充。

 

 

「……。」

 

 なんですかバレット君。その目は。

 

「わざとだから質が悪いよな」

「わるいよなー!」

「んなぁっ!」

 

 こら、子供が真似しちゃいけません。

 

「なんの事やら」

 

 知らんぷり知らんぷり。

 

「皆は子供が産まれたらなんて名前にするつもりなの?」

 

 カナエが突然そう問いかけた。突然じゃなくて何か会話があったのかもしれないけど、聞いてなかったよね。

 

 

「子供なぁ。俺らの中じゃ全員が全員子供いる訳じゃねぇし、そもそも子供が出来るか分からねぇ奴もいるだろ」

「ん?フェヒター、何か用かな?」

「いーやなんでも〜?」

 

 含みのある笑みを浮かべたフェヒターだったけど、レイリーは木の根っこかな?って勘違いしそうなレベルで青筋浮かべていた。うーん相性がクソ。

 

「……だがまぁ。私ならキティ一択だ」

「うわ……」

「副船長ってセンスないんじゃ」

「シャンクス黙ってろ」

 

 一気に周囲がドン引きした。ネーミングセンスの無さに。

 

「男なら?」

「男でもキティだろ。何を言ってるんだ?」

「お前が何を言ってるんだ?」

 

 もっと言ってやってくれフェヒター。私に関わる。

 

「ほんとにやめてやれ子供が可哀想。俺!の、知り合いなんてなぁ、太郎二郎三郎のノリで名前付けられたやつだっているんだぜ?子供の立場になれよ」

「最高だな」

「〜っ!これだからセンスねぇ鬼畜は!」

 

 グラッタ、グラッジ、グラッサ、……あとなんだっけ。なんかそんな感じの名前だったよね。正直グラッタならまだしもディグティター兄妹はグラッジくらいしか名前覚えてないんだ。

 

 キラキラネームじゃないにしろ、ある程度子供の立場になって考えないとこまるよね。子供が。

 

 

「俺なら子供には1番って名前つけるなぁ」

 

 ロジャーがむしゃむしゃおはぎを食べながらこのくっっだらねぇようで重要な話し合いに参戦した。ちなみにこのおはぎはイヌアラシの監修である。

 

 美味しい。

 声を大にして言いたい。

 

 美味しい。

 

「一番って雑すぎない?」

「そうだぜロジャー。お前は雑」

「えー、なら、俺は自分の息子には──エースって名付ける」

 

 知ってはいたけど、視線が俺に向いた。そうです。どうも古い方のエース君です。私基準だとこっちの方が新しい方です。

 卵が先か鶏が先か、考えちゃいけない。

 

「おいおいロジャー、それは俺のことが大好きってことか?」

「うん、好きだぜ」

「…………。」

「エースが負けた」

「負けたな」

「まけー?」

「けぇ!」

「おい糞ガキ共……一列に並べ」

 

 ひねくれた俺はロジャーのストレートな言葉に敵わない。無言で子供たちに八つ当たりした。

 

 モモの助と日和ならともかくシャンバキお前らは普通に許ないからな!?

 

「まぁエースが好きってのもあるけど、エースって言葉の意味はトランプの1だろ?」

「スペードのエース?」

「ん?あぁ。カナエの言う通り。だからエース。いいだろ」

「女だった場合は?」

「男がトランプの1だから女も1にしたいよなぁ」

 

 カナエは答えが分かっているのかニヨニヨと笑っている。

 スペードの1にこだわる必要ないと思うけど、カナエは予知があるからね。

 

 ……それにしても、予知、かぁ。

 

「カナエ〜、1の別の言い方ってないか?」

「んー。ワンとかアンとかかな」

「犬の鳴き声みてぇ。でも、アンっていいな……。よし、女ならアン!」

 

 よーし決まったー、と言わんばかりにおはぎをバクりと食べたロジャー。

 頬にあんこがついてるけど誰も指摘しないあたりロジャー海賊団って、こう、お互いがライバル寄りなんだよなぁ。

 

「それにしてもアホ女、アホの癖になんでアン?って言葉知ってんだ?」

「えー、そりゃバレエとかならフランス語でアン、ドゥ、トロワでしょ。親友にフランス語教えて貰って……」

「親友?」

「は!な、なんでもないなんでもない!」

 

 誤魔化すの下手すぎ選手権ぶっちぎりでナンバーワンのカナエが両手を振ってフェヒター相手に誤魔化している。フランス語、ねぇ。

 

「はい、チェックメイト」

「あっ!?」

 

 余所見してるなぁバレット。そんなに子供に興味があるのかい?

 

「カナエならなんて名前をつけるんだ?」

 

 レイリーが意気揚々と問いかける。恐らくカナエが異世界人だということを誤魔化すための助け舟も兼ねているのだが、傍から見ればただの色ボケ海賊にしか見えないので周囲はまたいつもの事かと言わんばかりに肩を竦めた。

 わざとだなぁ。カナエと話したい、カナエから矛先を背けたい、両方の目的を果たしている。

 

 

「う〜ん。考えたことも無かったけど、なんかこう、すごーい名前を付けたいよね」

「ほう?」

「この世界の歴史を変えることができる様な、神様にあやかるような。エンジェル?」

「ほー、いいセンスだな」

「??」

「?」

「???」

「お前らある意味お似合いだよ……」

 

 あかん。こいつら2人揃ってネーミングセンスがクソ。

 周りははてな浮かべてるのに気づきゃしない。

 

「男か女かはさておき、女神つながりならアティウスとか」

「ふむ、太陽や月、はたまた星の軌道を定めた女神か」

「もしくはベリアル!天使繋がりできたか。堕天使の一人で悪とされる名前だな。海賊にピッタリだ」

 

 キャッキャと盛り上がる2人。

 や、やめてくれ……やめてくれ……。カナエは横文字ならいいと思うなよ。この世界基準で言うとそういうのは『子供の名前はキリストです』って言ってるようなもんだぞ。もしくはクシナダヒメって名付けますって言ってるようなもんだぞ。

 

「あーあ、あの二人の元に生まれる子が可哀想だな。なぁバレットさん」

「……なら赤いのでも青いのでもいいから修正してやれよ」

「馬に蹴られる」

「無理です無理です」

 

 頭が痛い。ついでに胃も痛い。

 このまま放置しておけば2人の子供の名前は歴史通りになるかもしれない。

 だが私は可能性の低い方にかけるギャンブラーじゃないんだ。イカサマは使ってなんぼ。

 

「──リィン」

 

 私の発した言葉に2人が振り返った。

 

「何度でも生まれ変わる。リィンカーネーション」

 

 いいだろ。と、2人に訴えた。

 何枚もの仮面を持って別人になりすましてこの世界に生まれた振りをする。改めて思うけど、私はこの名前を気に入っている。

 転生者、っていうのも含めてね。

 

 今はもう既に忘却の彼方への消え去ってしまった前世。

 

「エースってネーミングセンスあるのかないのかわかんないよな」

「技名クソなのに」

「んだと?俺の不可避キックにケチつける気か」

「お前のセンスにケチつけてる」

 

 良かったー、未来の子供これで安心。そう言わんばかりにロジャー海賊団の面々はやんやと騒ぎ始める。

 

 

「……カナエ?」

 

 レイリーの声に釣られカナエの姿を見ると、彼女は大きな目を見開いて涙を溜めていた。

 

 えっ!? え、何!?

 

「……っ、鈴音(りぃん)!」

 

 ここでは無いどこかを見て、彼女は懐かしそうに名前をこぼした。

 

 

 

 ──リィン。

 

 鈴の音が響く。遠く、青い海の底で。




リィンの名前候補はあれです、インペルダウンでバギーがリィンの名前出なくて口走っていたやつです。

次回、カナエの過去

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