2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第259話 百聞は一見にしかず

 

 

 ロジャー。

 

 色んなところから彼の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

 海賊王ゴール・D・ロジャー

 身なりは決して清潔な訳ではなく、ボサボサの髪の毛にタレ目の三白眼、鼻の下から大きく広がる特徴的な口ひげと、短く不潔にも見える無精髭。血の色の様なコートを好み、ロジャー海賊団のマークが入った帽子をかぶっている。

 

 戦闘狂で大胆不敵。カタギには手を出さないが、仲間が苦しむなら国さえも滅ぼす残虐性。

 戦闘スタイルは腰に差したカトラスと銃。もっぱらカトラスばかりで覇気を3種類使える。

 

 彼の愛刀、カトラスの名前は『最上大業物12工 エース』だった。後に白ひげ海賊団の二番隊隊長になる彼の息子は、彼が一等愛する武器にちなんだ名前になるはずだったのだろう。

 

「『エース』の名前はロジャーにとって特別なんだろうな」

 

 副船長のレイリーが言う。

 偽物のエースは、小さく笑った。

 

「ロジャーはあたしにとって特別なの。だから、彼にとってのエースをあたしも守りたいんだ」

 

 船員のひとりがそう言う。

 偽物のエースは、小さく笑った。

 

 

 偽物の黒い髪が、嘘で汚れて見えた。

 ……同じ、鬼の子なのに。

 嫉妬の炎が渦巻くのを感じて、偽物は小さく笑った。

 

 

 お前はこんなにも愛されているのに。ずるいよ。

 

 

 

 

 

「トキ、大丈夫か!?」

 

 トキが倒れた。ワノ国の近海でのことだ。

 彼女はワノ国に向かうことを目標として旅をしていた。船医のクロッカス曰く、緊張の糸が切れたのだろう、と。

 

 布団の周りにへばりつくおでん及び家臣一家をベリベリ剥がしていく。病人のそばで騒ぐなお前ら。休めないだろ。

 

「ごめんなさいエースさん……」

「いい。それよりトキは休むことを第一に考えろ」

 

 医者に命じられて俺がトキの世話係だ。カナエという案も出たのだが、あいつは押しに弱い。飛び込んで来そうなおでん達を抑え込める実力が無いという点から選ばれてしまった。

 

 氷嚢を作り替える。氷を取りに行くのはめんどくさいからぬるくなった水を再度自分で凍らせた。

 

「エースさん、お願いがあるの」

「ん?なんだ、言ってみろ」

「もうすぐ、ワノ国に着くわよね。おでんさんが降りようとするのを、止めて欲しいの」

 

 想定外のお願いに少しだけ目を見開いて、考えたあと納得する。なるほど、たしかに。

 

 おでんが船に乗っている理由は、ロジャーが読めない歴史の石(ポーネグリフ)の古代文字を読めるからだ。

 たった1人だけなら、問題があっても無くてもおでんは船に乗り続けることになっただろう。

 

 異物(おれ)がいる。

 まだまだ読み解けない文章はあるけど、皆からすると完璧に読める人間が。

 

「なぁ、トキ」

「?」

「ワノ国は、大変だぜ。予言しといてやるよ。……お前、長生きは出来ねぇ」

 

 彼女の能力。トキトキの実。

 悪魔の実というのは必ず限定的で、この世に2個も無い。

 

 私はトキトキの実を食べた無機物で未来から過去に飛んできた。今からざっと20年後。

 研究自体はもっと前から行われていただろうから、長くても10年生きられるか……という感じだろう。

 

「知ってるわ」

 

 覚悟の決まった瞳で、トキは私に微笑んだ。

 目の前がぐらりと揺れた。あぁ、気持ち悪い。

 

 

 

 

 数刻後、ロジャー海賊団はワノ国に到着する。

 

「おでん様!お久しゅうございます!懸命に預かってまいりました、九里は……。っ、今、ワノ国は……」

「待って!あなた方がおでんさんを想うなら……お願いです、彼をこのまま海に……!」

 

 おでんの帰国におでんの家臣らしき者たちがおでんを引き留めようとする。

 揺らぐおでんと、必死になって止めるトキ。

 

「だがトキ、ここにはエースもいるし俺も」

「おでんさん!今、あなたが私に着いてくると言うなら。私は離縁を申し込みます!」

 

 ぜーぜーと赤い顔で訴えるのを見て、おでんの天秤が傾いたその瞬間。

 

 

 俺はトキと、あとモモの助と日和を抱き上げ上陸した。

 

「悪ぃなおでん?かわいーいトキには俺が付いてるからよ。お邪魔虫……ゴホン、お前はロジャーについていけ」

「エーステメェ!!!!!おいごら!!!」

「エースお前!お前も行くんじゃねぇのかよ!」

「おいエース!」

 

 俺の予想外の動きに全員が目を丸くする。

 ウンウン、驚くよね。

 私も出来るならロジャー一味について行ってラフテルまで先に行ってみたかったよ。

 

 ちょっとね。気付いたら胃痛案件みたいなことに気付いちゃったからさ。

 

「悪い。ロジャー。俺はタイムリミットだ」

「それって…!」

「俺ァおねむの時間なんだよ」

 

 エースの悪魔の実の設定を改めて振り返る。

 

 ・肉体年齢が止まる代わりに時間転移(眠る)する

 ・眠る期間は様々。数分だったり数年だったり

 ・起きてる時間も同上

 ・彼らの前では使ってないが割となんでもあり

 ・悪魔の実はイデイデの実のイデア人間

 

 うん、こんな感じだったね。

 

「……なぁロジャー。俺さ、お前と知り合えて良かったよ。もうお前が生きてるうちに会えねぇとは思う。お前が死ぬのは、宿命で、絶対だ。だけど、だがな」

 

 ロジャーと過ごした時間は短いけど、それでもやっぱり寂しい。なんで死ぬんだよ。お前が死ぬからエースは苦しむし、人々は悲しんだ。

 お前が死ななければ良かった。

 

 

 

「──そんな泣きそうな顔をするんじゃねぇよ、エース」

 

 

「っ!?」

 

 勢いよく顔を上げた。

 この数ヶ月で聞き慣れた声が正面から聞こえ、向かい風が走った。

 

 冷たい、海の匂いが含んだ風だ。

 

「お前、俺のダチだろ?しっかりしろよ」

「ロジャー……」

 

 偉大なる海賊王。ゴールド・ロジャー。

 

「……──なぁぁぁにが泣きそうな顔するなだテメェギャン泣きじゃねぇかよ」

 

 穴という穴から液体垂れ流してる成人男性の姿に偉大もクソもあってたまるか。

 

「うるせぇえ!!お前男だろ男なら別れは涙なんか流さねぇんだよ!舐めんな!」

「支離滅裂じゃねえか」

「いいかエース!お前はな、俺にとっちゃ、初めて出会った憧れで、ダチなんだよ!それこそてめぇの刀や息子に同じ名前つけるくらいの大親友(マブダチ)なんだよ!舐めんなコラ!」

「ハハッ、くだらねー」

「今ここでお前を殺して時間差心中してやろうか!!!!????」

 

 それは心中とは言わないのでは?

 

「悪ぃな、俺にとっての王様はもういるんだ。仕方ねぇからマブダチに妥協しといてやるよ」

「それは初耳だが!?」

「そりゃ、この世に(まだ)存在してない(リィンが)幼い頃からの王様だからな。誰も(未来のことなんて)知らねぇよ。特にお前もうすぐ死ぬし」

「神経逆撫で祭り君か!?神経逆撫で祭り騒ぎわっしょい君なのか!?」

「おうとも」

 

 カラカラと笑う。この男の別れに湿っぽいのは似合わない。

 

「死ぬ時ですら、笑って逝け」

 

 未来と同じ現象になる様に、特別な言葉を掛けた。

 

「あぁ、そうだカナエ」

「んぇ!?あたし?」

「お前の名前の漢字、なんて書くんだ?」

 

「かんじ?」

「カンジってなんだ?」

「ワノ国独特の文化っつーか文字の一種だよ」

 

 船の上がザワザワと騒がしくなる。

 外海では漢字なんてものは早々存在しないからねえ。

 

「知らない火、怪火の不知火に。叶う夢、だよ」

「不思議な名前だな」

「分かる」

 

 不知火、叶夢

 

「ずっと気になってたんだ、ありがとな」

 

 産まれた頃から、ずっと。

 叶夢は不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

 チリン。

 髪の毛につけた鈴の音がなる。

 

「あと言っときたいことがあるがアブソリュートは吸収じゃない。アプソルベ、な?」

「は、はぁああぁ!?今更言われてももう言い慣れちゃってるやつなんで訂正するの!?」

 

 ほんとに、相変わらずやかましいなこの女。

 このふたりはもう、未来に居ない。会うのは最期だ。

 

 

「じゃあなA」

「墓参りにだけは行ってやるよ、D」

 

 

 ログが塗り替えられないうちにロジャー海賊団はワノ国から出なければならない。

 時間は、もうなかった。

 

 

 

「──ロジャー海賊団!近い未来、どでけぇことを成し遂げて世界をひっくり返す世紀の大馬鹿者たちよ!将来は俺と敵対するやつ敵対しないやつ出てくるかもしれねぇが、これだけは告げておく!」

 

 トキを抱えたまま俺は、にやりと笑った。

 

「バーーーカ!」

 

 中指を立てた。

 

「「「「ふざけんなエースーーーーっ!!」」」」

 

 遠ざかる船に背を向けて、トキの体を家臣に預けた。

 

 

「エースさん……」

「さて、今の見てもわかる通りトキはおでんの嫁だ。丁重に扱えよ」

「しょ、承知した」

「んで、ワノ国が大変なんだったか。俺にはあいにく時間が無いもんで、情報だけよこせ。未来で何とかしてやる」

 

 トキを急いで療養させなければならない。

 グラグラと揺れる気持ち悪さを必死に押し込めて、道中にワノ国の現状を聞く。カイドウがワノ国を縄張りとしていることしか理解できない。ごめんワノ国の文化や組織には詳しくないんだ。1文字残らず覚えておくから大根オロシだとかスキヤキだとか食べ物の名前出さないで貰っていい?あ?名前?……っかー、おでんの名前も食い物だったなクソッタレ。

 

「エースさん、あなた、は、急いでるんでしょ」

 

 真っ赤な顔したトキが私に声をかける。

 

「あぁ」

「いい、ワノ国のことは、私が、おでんさんが何とかするから。っ、いつがいいの?」

 

 トキは察しがいい。

 私が、トキの力を借りて未来に行こうとしてるのがわかったらしい。

 

 

 

 私は、この時間転移で一つ疑問がある。

 

 『リィンが産まれた時、俺はどうなるのか?』

 

 魂というのは転生しても変わらない。

 私は異世界からの転生者だから、リィンが生まれるより前に、同じ魂が存在することは無い。そう仮定した。

 

 リィンが生まれるのは今から約10年後。

 時間転移の周期はだいたい10年前後。

 

 次、時間転移したら同じ命が同時空に2つ存在することになる。

 

 

 実験は無理、専門知識がないから計算も無理。

 だけど……──奇跡的に前例があった。

 

 電伝虫だ。

 

 電伝虫は人に飼われる特性上かなりの長寿種だ。500年くらいは簡単に生き続ける。私の愛用の電伝虫は100年くらいは生きていただろう。そして寿命が尽きることもまず無いくらいには若かった。

 

 でも電伝虫は過去に転移してアイテムボックスから取り出した瞬間、死んでしまったのだ。

 

 だからもう、こう考えた。

 

 『同じ時間に同じ魂が存在したから死んだのではないか?』と。

 

 うん、その瞬間胃が悲鳴を上げ始めたよね。気付いて良かったけど良くない。そんな人災じゃなくて天災レベルの死因、聞いてないです。

 

「24年後の夏、細かい時間は」

 

 私がセンゴクさんと訪れた時期より念の為5日ほど遅らせた指定をする。トキは心得た、とばかりに頷いた。

 

「トキ、未来で会おう」

「……そう、ね。そうなることを、願っているわ」

 

 約束はされなかった。

 ワノ国。歴史の石(ポーネグリフ)がこの国にある限り、麦わらの一味として切っても切れない航路だ。

 だからルフィも、私も、必ずたどり着く。

 

「俺の王様はな、麦わらの帽子を被ってんだ。それを頼れ。あぁ、シャンクスのことじゃねぇぞ?」

「エースさん……」

「過去から来た俺たちは、未来でまた会うんだ」

 

 嘘をついた。

 トキと同じ時を歩んだわけじゃない。未来で悪魔の実の成れの果てを見た。これは、少しでも彼女を安心させるための、エース(おれ)の嘘だ。

 

「……ありがとう、エースさ、ん、えーす、兄様」

 

 トキは高熱で意識が失いかけていながらも、正確に、私を未来へ飛ばすことが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 富、名声、力、この世の全てを手に入れた男。

 

 〝海賊王〟ゴールド・ロジャー

 

 彼の死に際に放った一言は人々を海へ駆り立てた。

 

『おれの財宝か?欲しけりゃくれてやる。探せ、この世の全てをそこに置いてきた』

 これは、大海賊時代の話。

 

 

 

 

「────リィン」

 

 随分久しぶりに声を聞いた気がする。

 センゴクさんだ。

 

「あ、ぁ、仏の」

「リィン」

「せんご、く」

 

「リィン」

 

 仏の顔をした大きな大きな海兵。

 対して私はロジャー海賊団に乗った小さな咎人。

 

「センゴクさ、っ、センゴクさん!」

 

 私はセンゴクさんの胸ぐらを掴んだ。

 

「ロジャーは!?」

「やつは死んだ。22年前、海軍がやつの産まれ故郷で処刑した。やつの一味は未だにほとんどが逃げ仰せている。カナエは頂上戦争で死んだ」

「頂上戦争は!?」

「予定通り海軍の敗北。白ひげも火拳も生きている。正確に言うと1度死んで舞い戻ったのが火拳。頂上戦争に乱入したのはインペルダウンからと、サボ、トラファルガー、そして冥王と剣帝」

「リィンは!?」

「お前がやらかしたことは多すぎる、ので、お前が機械に呑まれた時点から約5分間、書き出してある。確認しろ」

 

 箇条書きに書き込まれた経歴。

 推定で生まれた日から海軍入隊。大まかな出来事が時間軸順に並べられてある。

 

「…………かわ、って、ない」

 

 小さく息を吐いたけど、急いで振り返って機械を見る。動いていた。

 トキトキの実を食べた機械は、流動していた。

 

「変わってねぇっっ!」

 

 トキが死んだ。じゃないと説明がつかない。トキが悪魔の実を食べてたんだから。死ななきゃ悪魔の実は新たに生まれない。

 

 変わらないことに安心して、変わらないことに勝手に絶望した。

 

「リィン」

「センゴクっ、お前」

「お前は誰だ?」

「……、おれは、私は、リィン。です」

「あぁそうだ。リィン。お前は私の娘だ。冥王シルバーズ・レイリーと戦神シラヌイ・カナエの実子で、愛しい、私の子供だ」

 

 娘。子供。

 

 

「さて、一言でまとめろ、どうだった?」

 

 

 センゴクさんを見上げて、私は胸に抱いた言葉を宣言した。

 

「うん、ロジャーは死んで欲しい」

「安心しろ、もう殺した」

 

 もう2、3回殺す必要ありそうだから怖いんだよね。

 

 

 

「あと!所詮アイツらはエースと同じ名前だとかロジャーの息子だから特別視してるに違いない!」

 

 どん!と胸を張った。

 

「アイツらと違って等身大(ありのまま)(エース)を愛してるのは私だし白ひげ達だ!」

 

 身代わりでしか愛せない不器用な奴らと違って、全身全霊かけて愛してる。

 あぁ、本当にずるい。

 ずるいやつだ。

 

 こんなにも愛されている、あのエース(エース)って(やつ)は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──大丈夫、お前は気付いてないだけでもう誰かを愛することを知ってるよ」




表現にクソ悩んだので解説します。最後のエースは、『幻のエース君』として演じたリィンであり、『火拳のエース』として現代で愛されるエースであり、どちらのエースも、愛されているということです。
リィンとエース君の思考がごったごった入り交じってますけども、えー、皆さんおまたせしました。表紙にあるもう一つの顔が本格始動します。

過去編は番外編をひとつ挟んで、新章突入します。まだシャボンディじゃないよ
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