「食い逃げだー!!子供3人が入り込んだ!誰か捕まえてくれぇええ!!」
ここはゴア王国中心街。飲食店などが立ち並ぶ通りで怒り狂った声が行き交う人々の耳に入り込んだ。
「ケッ、たかが26杯程度で騒ぐなよ…」
そうボヤきながら逃げるのはエースに続きルフィとサボ。コルボ山の悪ガキ共だ。
リィンがいたら思わず叫んだだろう『何故そのような大量の食料を胃に収納出来るぞ!?』、と。
「ルフィ急げ!」
「むごもごむんむい、ぴょんぽい…!(2人とも走るの速ェよ、待ってくれ!)」
「うん!ごめん何言ってるか分かんねェ!」
リィン語を比較的理解できる2人だがルフィの台詞にはギブアップした。まず物を飲み込んでから喋れ。
「こっちだ……!」
追ってくる気配が無い。サボは辺りを見回し建物と建物の間に入り込んだ。
「ふぅ…案外しつこかったなぁ」
安堵のため息を一つ。知らぬ間に汗をかいていたのかサボは額の汗を拭った。
「にしてもよく貴族の紋章手に入れたよな…」
「え、あ、うん。この前町で見つけたんだ」
「前?1年くらい?」
「う、うん……」
サボの様子が違う。気付いたエースは後で問いただすことにして、今は目的のものを手に入れようと2人に話した。
「甘い物買っていかないか?」
ルフィを庇って怪我をした留守番をしている心優しき妹の為に。
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「ありがとうございましたー!」
海賊貯金から少しだけ使い美味しそうなクッキーを買った3人は急ぎ足で家に戻ろうとしていた。大門が閉まる時間もある。早く帰らなければ。
「しっしっしっ!リィン喜ぶかな?」
「そりゃ喜ぶだろ…リーは甘い物大好きだからな」
「サボルフィ………走れ!」
エースの視線の先には警備隊。目が合った。
「いたぞ!ラーメン屋で食い逃げした子供3人だ!」
「追えッ!」
「しくったな…まだいやがるとは…」
文句を言っても自業自得。仕方の無い事としか言いようがない。
被害は高級飲食店のラーメン26杯に脱走経路として壊した窓ガラス1枚。いくら子供と言えども許せる額なわけがなかった。
最も、ルフィは宝払いと紙を置いてきたのだが。
「ルフィ!食べ物の匂いに釣られるな!早く行くぞ!」
「ま、待ってくれよサボ!」
サボはルフィがわき道にそれようとするのを止める。
「サボ……?」
「っ!?」
「今サボと言ったかい!?サボ、サボじゃないか!帰ってくるんだ!」
でっぷりとした体型に質のいい服装。ルフィは気付かないがフェヒターの元で位のいい人間の見分け方を教えてもらったエースにはすぐ分かった。2人とも同じ授業を受けているのだが、それはルフィだから仕方ない。
「(こいつ………貴族か!)」
「サボ知り合いか?」
「…知らねェよ」
エースもだがルフィは状況を掴めず問いかけたが肝心のサボは一言だけ言えばすぐさま駆け出した。
「サボ!待ちなさい!サボォ!」
自分の名を呼ぶ男には目もくれず一目散に。
エースとルフィは背後の男に後ろ髪を引かれながらもサボのあとを追った。
「サボ………」
まるで恨むように睨む姿は彼らの目に止まらなかった。
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「どういう事なんだ?」
エースはサボに詰め寄った。あの声をかけた男とサボが無関係とは思えない。きっとサボは自分達に何か隠し事をしている、と。
エースと並んで詰め寄るルフィだが本人はよく分からずうんうんと頷くだけだった。
「で、どうなんだ?」
「……」
「俺達に隠し事するのか?」
「……」
「そんなに信用ならねェ…か?」
「そ、そんなわけないだろ!!」
思わず立ち上がって反論してしまった。それを見たエースはニヤリとあくどい笑みを浮かべ言葉を綴る。
「じゃ、言えるよな?あいぼー?」
「…………ずるいぞエース」
サボが観念した時だった。
「実は…あの貴族の奴は俺の父親なんだ。お前達には悪いけど俺は両親が居ても1人だった。俺を自分たちの便利な道具だとしか思ってない…俺はあの屋敷にいたら絶対に自由になれないと思った……」
観念した様にポツリポツリと自分の事を喋っていく。こぼれ落ちる言葉を追いかける様に視線は下を向いた。
ぎゅっと拳を握りしめて思い出す窮屈な生活。
───サボお前は王族と結婚するんだ!
───勉強だ勉強!
───航海術?そんなもの要らん!
夢を否定される。心をくじかれる。向けられる言葉は愛などでは無くただの憎。出来損ないに向ける言葉だった。
あいつらが必要なのは〝
そんな生活が嫌になり、逃げ出したくて、いつの間にか佇んでいたのは大門の前だった。
この先を行けば自由になれる。親に捕らわれることも無い。けれど生きていけるか分からない。それでも────自由が欲しかった。
そうすれば未知への恐怖は未知への好奇心に変わった。胸がドキドキして血流が煩く耳に入り込む。けど、嫌な感じはしないしむしろいいぞもっとやれと言いたいくらいの気分だった。
そこで出会ったのはエースだった。お互い第一印象は最悪だったと思う。気になって声をかけてみれば口論。そして大乱闘へ。武術など心得は身を守るためと多少身につけていたので対抗は出来たがその年から猛獣相手に戦うエースには遠く及ばなかった。
『……お前は、海賊王に子供がいたら…どうする』
『海賊王に子供ォ?』
『あァそうだ。鬼の血を引く子供だ』
『鬼…ねェ……。別にどーもしねェだろ。親がどうであろうと、子供は自由なんだからさ……』
今考えると自分に向けて言ったのかもしれない。親にコンプレックスを抱く者。いつの間にかエースがそばに居るのは当たり前になった。
「だからエース。俺を見つけてくれてありがとう」
「はァ!?見つけたのはお前だろ」
「いや、違うさ」
「(迷子だったんだ、俺はずっと………。一人ぼっちで…………)」
「……………………まぁ親の事で悩むのは分かる…」
「エースの父ちゃんと母ちゃんは誰なんだ?」
ルフィには言ってなかったか、と記憶を探る。サボに隠し事は無しだと言った手前隠し事をしてるのもしのびなく、ため息を吐いてポツリと呟いた。眉間にはシワが濃く刻まれる。
「うん、言ってなかったな。俺の両親は死んでるよ。母親はポートガス・D・ルージュ。……父親は海賊王だ」
「そっか!海賊王か!そうかそうか!………………。
っ!?!?!?海賊王ォォ!?」
ぶわりと黒い目を開いてあんぐりと口を開ける。
「…………うるせェよ…」
「エース凄い奴の子供なんだな…」
「……っ!誰かいる…!」
サボが自身の後方、森の辺りに気配を感じた。
「よく気付いたな…サボ」
「「「フェヒ爺!?」」」
森から出てきたのは自分達の師であるフェヒターだった。どうやら気分が良いように思えた。
「さっきそこで懐かしい奴に会ったもんで…、な。それと、1つ助言だ。ロジャーを馬鹿にするのはロジャーを知らない人間だ。ロジャーを知っている人間からは賞賛の言葉しか貰えないだろうよ……」
気付いてる。エースが海賊王の息子だということを、この爺さんは。
別にフェヒ爺なら気付かれても構わない、けどこの言い方…。生前の海賊王を知っているのか?
頭の中で勝手に考察して、彼を見る。
「……お前らに覇気を教える。特にサボ、お前は見聞色の覇気が見え隠れしてあるな…才能が開花している。覚える気はあるか?」
「覇気……?」
「なんだそれ?」
「疑わない事、それによって皮膚を硬化させたり気配や行動をよんだり相手を威圧したり…三種類ある。それで、そいつを覚える気はあるか?」
「「「ある!!」」」
フェヒターは予想通りの反応にニヤリと笑った。
「皆遅いぞ……」