「──おかえりリィン。子育てしてみないか?」
「なんて??????」
元帥室に戻ったらこれだよ。
ローグタウンで元海賊王クルーと出会ったよ、って報告したら頭抱えたセンゴクさんだったけど、気を取り直して私に提案をした。意味がわからない。
「私まだ14……5?なんだけど」
「14にしておけ」
「はーい」
元気よく返事をするとセンゴクさんは眉間に皺を寄せて私を睨みつける。え、何。無言の時間が怖いんだけど。
「……。お前の口調が気持ち悪い」
「バレた?」
エースの演技が抜けきらなくて。リィンに口調が戻せないのだ。
「今後に響く、完璧に使い分けろ。まずはリィンの口調を。ほんとに、あの言語として成り立ってないクソみたいな言語でもいいから、戻してくれ」
「そんなに今の口調酷いか!?」
「あぁすこぶる気持ち悪い!女狐隊雑用ションとしてならまだ許せるがリィンの口から出されると脳みそ掴んで窓から放り投げたくなる」
「ぴぎゃん!?」
想像以上の暴力に戦慄する。恐ろしやセンゴクさん、この口調の何が気に入らな……あぁ、トレース元ってフェヒターだったな。海賊モデルだから生理的に受け付けないのだろう。
特にわたしみたいなプリティーでキュートな娘相手だと。そうなるよね、うんうん。
「それで、冥王や戦神と会ってどうだった?」
「あの二人、ほんっっと親向いて無きですよね!ぞ!」
レイリーとカナエは、根っから海賊らしく、子供のままだ。変なところで大人ぶっていて、誰かを守ることにてんで才能が無い我が道を行く
そして慈愛の心とはかけ離れていて。その中で唯一愛したのは船長──ロジャーだ。
「私は、あの二人に愛されては無かった。夫婦間ですら利用関係でしかなくて。だけどまだ生まれてすら居ないロジャーの子供は、保護対象。リィンが割り込む余地なんてない」
「……。」
「でも、いい。私は私で、エースとして彼らと友達だった。海賊王とマブダチですよ?笑い物です、ぞね」
とんでもない奴らだった。
「私たち親子には、親子の絆は要らない。親子より友人として、そして先に行きたライバルとして。そして言ってやるんです──私は幸せなんだぞって」
「リィン……」
「──だから娘の私も子育てには向いてないと思う故にご勘弁願いませぬか?」
「リィン………………」
ふっかいため息。
だっとだって、小さい子は小さいってだけでそりゃ可愛いよ?でも可愛いって言うのは、子育ての苦労を知らない第三者の意見であって、羊の家でお姉ちゃんやってた身から言うと『クソッタレ』って訳なんですよ。
「嫌ですいやです!断固拒否です!」
「嫌ぞり、だろう?」
「!!!????」
センゴクさんが、不思議語を強要した、だと……!?
「まぁ安心しろ。普通の子供では無いから」
「どこが安心要素なのです!?」
「パシフィスタは知っているだろう?」
「あ、はい。頂上戦争にも使用された兵器、だろ?」
「ですぞね。」
「………ですぞね?」
納得気に頷くセンゴクさん。
あの、その納得はパシフィスタに対する頷きなのか不思議語に対する頷きなのかどっちですか?
「ベガパンクが新しいパシフィスタを用意した。2年後を目処に海軍で兵器として使用する予定だ」
「あのくまさんモデルのセンス悪いやつですよね?」
「悪きやつですぞね」
「………………悪きやつですぞね?」
あっこれ早めに不思議語戻さなきゃいけないやつ。
「それを新たに開発し……すた、と?」
「そこでだ。リィンにはその兵器の育成をしてもらいたい。お前が1番暇だ」
「うぐ」
「それにベガパンクの推薦でもあるのでな」
私ベガパンクに会ったことないけどなぜ推薦を貰えるほどの評価があるんだ?しかも女狐なんてほぼ非公式の大将だから評価なんて……。
「──と、言うわけで五老星に許可を取りに向かうぞ」
「はああああああ!??!???」
なんで心の準備が出来てないのにいきなり最高権力者なんですか。
==========
「おお、ようやく会えたな。リィンだったか?大きくなったな」
「入隊の時期は何歳だったかな……?」
マリンフォード。
眼前に座る5人の老人たち。私は膝をついて頭を下げた。うう、胃が痛い。歯をぐっと食いしばって胃痛を抑え込む。頑張れ私。
「お初にお目にかかります。いや、お久しぶりですと言った方が正しいですかね?」
元々書面で名前を見たり提出したりすることはあっても、実際に会ったことは無い。
スリラーバークで初めて会話を交わしたから初めてというのも少し変だ。
私がかしこまって、しかし少し年齢を感じさせるように言うと五老星は互いに顔を見合わせて首を傾げた。
うん?何かな?標準語のはずなんだけど。
「…………あのよく分からないヘンテコな言語でもいいんだぞ?」
「そっちです!?」
まさかのお望みパターンだった。
私の言語にそんな意味のわからない需要あると思う?標準語、聞き取りやすいと思うんだけど。
「あー、ごほん。では、言葉は崩すさせてもら、います。改めますて、4歳の時から約10年間、五老星の皆様からの推薦で大将女狐として海軍本部にて勤務しておりますた。モンキー・D・リィンです」
「あぁ、君の船長とは義兄妹だったか」
「はいです。幼少期にガープ中将の養子とすて住民登録をしました」
「ほう、そうだったのか。なら小さい頃の話はあまり覚えてないのかな」
「お恥ずかしながら」
覚えてる。これ以上もないくらい覚えてる。
猛獣に追いかけられたことも、フェヒ爺にしごかれたことも、エースのぶっきらぼうさも、サボの優しさも、ルフィの強さも。兄を失った瞬間を。
……これ以上無いくらい覚えている。
そんなことをおくびにも出さないで、私は幼少期から海軍の規律に染まった模範的な笑顔を浮かべた。
「さて、本題に入ろうか」
五老星は座ったまま、そして私は立ったまま。圧迫面接が始まったのだ。
「今回の用件は、ベガパンクが開発した新しいパシフィスタの命令権所有者と管理についての話だ。ベガパンク、そして海軍本部からの推薦で今回リィンに話がやってきた」
「質問、よろしきですか?」
「あぁ、構わない」
私は思っていることを口に出す。
「そもそも、なにゆえ私なのでしょう。海軍本部もベガパンクも私を推薦する理由が分からないのです。海賊に潜入中で、両親も海賊。兵器を任せるにしては状況が悪きと思うのですが」
「ふむ、まずこれだけは訂正しておこう。両親が海賊というのは、キミに関しては関係ない。齢4つから海軍で育ち、政府への協力も惜しまなかった。その功績は大きいよ」
なるほど。人格形成が海賊じゃなくて海軍だと。あながち間違いでもないけど、間違いでもある。
私は、兄が優先だ。兄を優先したいと思っている。それにしては、海軍に大事なものが増えすぎたけど。
それにしても政府の協力?なんだっけ?
何も分からないけどなるほどって顔をしておこう。
「次に本題であるパシフィスタ……特に新しい型はセラフィムというのだが」
ゴクリ。息を飲む。
五老星も眉間に皺を寄せて真剣な顔をしていた。
「──モデル七武海なのだ」
「アッハイ納得しますた」
そりゃ海軍本部から推薦されるわ〜!!!!クソッタレ。
くまさんの形をしたパシフィスタを見た時点で気付くんだった、そりゃそう。
「生来、七武海は傍若無人で操作が効かない」
「はい」
「そして今の代の七武海は、過去に比べて特徴的でもあり強さも一目置かれる程だ。だから我々は操作の効かない七武海を操作出来る存在へと生み出した………──かったのだが」
だが?
「偉いな、リィン。おまえは、それを成し遂げた」
「んぇ!?」
「お前が七武海係になってから七武海の会議出席率向上、仕事を頼んでも対価を要求こそすれ完遂、クロコダイルの様にたまにやらかすが収束は手の内。ほんっっっっっっとに、良くやった」
突然手放しで褒められて正直混乱している。操作、別に出来てないよ?
アイツらが勝手に面白がってるだけだよ??
「政府の中にはセラフィムを操作できる、と進言する奴らもいるのだが、政府はあくまでも政治及び政府。武力であれば海軍だ。そして海軍は…──七武海が嫌いだ」
「ッスーーーーー」
分かる。
七武海が嫌いなの、凄くわかる。
下品で下劣で、最低で緩くて雑で。命をかけて誰かを守りたい、命をかけて海賊を倒したい。そんな思いを込めて海兵になった人間からすればほんっっとに合わない。
政府は白も黒もごっちゃ混ぜだけど、海軍は白だもん。
だからといって押し付けられた恨みは覚えておくからな中将共。
「だから白羽の矢が立ったのがリィンだったというわけだ。理解出来たかな?」
「はい、理解しました、この上なく……」
さて、本題はここからである。
おそらくだけど、『海軍本部が』とか『ベガパンクが』とかって主語を使ってるのは、『五老星はまだ認めちゃいないぞ』ってことだと思う。
ふっふっふっ。目論見がわかったところで言わせて頂こう。
「──私はまだ実力不足。兵器ひとつ扱うには荷が重きです」
断る!!!!!!
嫌だよー絶対嫌だよー!これ以上胃痛もりもりの案件抱えたくないよぉ!ただでさえ五老星と謁見なんて状況にキリキリしてんのにィ。麦わらの一味でいた時にでかい口叩いた第一印象最悪海賊(偽)なのに!!!!
厄介事の!!匂いしか!!しません!!無理!!
ロジャー一味と麦わらの一味と現存七武海で手一杯なんだよこちとら。
「ほう……?」
「私は10年海軍にいるとは言え、所詮名ばかり大将。そして実の親の影響もあり、海賊の覚えがいい上に賞金首です。海軍本部から海賊組織の内側に入り込める存在です」
「なるほど、その身一つで潜り込む故に、兵器の操作など出来ない。そう考えるんだな」
「……。実力不足で申し訳ございません。しかしそれだけではありません」
胃が、胃がキリキリするよ。
私は一言断りを入れてから、懐……アイテムボックスから2つの書類を取り出し、五老星に渡した。
「……これは」
「古代兵器プルトンの設計書と、エレジアという国で見つけたいTotmusicaという明らかに怪しい楽譜です」
「……!?これは、両方すごいものを持ってきたな……!」
あ、楽譜もやっぱりやばかった?
「楽譜については詳しく無きですが、勘で」
「勘か……。しかしプルトンの設計書は政府の報告によると破壊された、と聞いたが」
あ、それ私がロブルッチに流させた報告ですね。しっかり上に伝わっているようで何より。
「はい、ですから、半分」
「後半が……無いな」
「私が確保出来たのは前半のみですた」
どうだ?私は現場に出させた方が危ないもの回収してこれるし、私が秘密裏に隠せば私の武器は強大になるぞ?権力バランス崩れたら困るくない?困るって言ってお願いします。
だって君たち、力、怖いでしょ?オハラ滅ぼしたくらいだもん。古代兵器かき集めるくらいだもん。
「これをいままで出し渋っていた理由は?」
うぐ、そこツッコまれるよね。
だが私の天才的な脳みそはちゃんと最適解を用意した。
「下手な人間に渡る可能性ぞ下げたかったから、です。それを確保したタイミングでは、信用に足る人間は傍に居なかったです。配達も、誰かを介する物は危うきだと判断したです」
このままアイテムボックスの奥底で眠りに付いていて欲しかったな、とは思います。はい。
咄嗟の言い訳にしてはいい理由なんじゃないだろうか。早々アポを取れる立場じゃないし。
「……ひとつ聞いてもいいかな、リィン」
「はい!」
鬼徹をお持ちの五老星が私に向いた。
……あぁ、胃がキリキリするな。私にとっては、半年前の出来事なんだもの。鬼徹、やな記憶。
「平和についてどう思う?」
「え、それは世界にとってですか?それとも自分にとってですか?」
「ふむ、そこは同じ意味ではないんだな。そうだな、世界にとって、の意味を聞こうか」
「私の考えは、存在しない、です」
世界に平和が訪れますように?
そんな純粋無垢な自体は存在しない。
「幸せのそばで、苦しみがある。光があれば闇があるように、夏が幸せだと言う人が存在すれば、夏が嫌いだと言う人も存在する」
全ての人間の真ん中は、存在しないのだ。
「私は、平和って対比であると思うです。治安が悪き島があるから、平和な島も生まれる。働かぬアリがいるから、働きアリが存在する」
私は、
「海軍が掲げる市民にとっての平和は、海賊にとって最悪です。平和じゃなき。そして……海兵も平和じゃなき。争いが全て無くなれば?武器が無くなれば?争いを知る人間は、いつ起こるか分からず対抗するすべもない中で怯えることになる。それは果たして平和と言えるでしょうか」
だから私は五老星の考えには、同意できる。
私が政府側だから、という理由もあるだろう。武器を持つものが、武器を掲げるものが、その武器に守られる者だけが、平和を味わえるのだ。
「平和とは無理難題である、と」
「はい。だから私は、世界平和を唄う祭司でも聖女でも天使でも無く、人間に、海兵になったのです。──平和では無く、正義という盾を振るう為に」
綺麗事だけで済む世界なら、どれだけ幸せを感じられずに済むのだろうか。それは幸せじゃなくて平凡である。
人間は愚かだ。だから正義がいる。
と、まぁ御託は並べてみたけど。本音を言うと『私だけが私の考える世界で平和であればすごく嬉しい』だ。残念ながら胃痛案件は次々と降って湧いてくる。せめて降るか湧くかどっちかだけにして。
「よく分かった。今日はわざわざすまなかったね。外で待ってるセンゴクと交代しなさい」
「はい、お時間頂きありがとうございます。あ、最後にひとつだけ良いですか?」
失礼だけど五老星にお願いをすると、頷いて返してくれた。
「もし過去を知ったら、私は死にますか?」
あらとっても素敵なにっこり笑顔。
……はい、お利口にしてますね。絶対知らないフリしとこ。
痛む胃を労りながら退出した。
==========
「センゴク、ひとつ文句がある」
「は、なんなりと」
「──なぜもっと早く会わせてくれなかった!!!」
「(その反応が予想出来たからだよ)」
リィンと交代したセンゴクは理不尽にも五老星に叱られた。すん、とした表情で心情を悟らせない。
「まだ幼いので、五老星の方々に無礼な真似をしてはいけないので。せめて標準語が喋れるようになってからと思っておりました」
「貴重な幼少期を私たちに見せないつもりかおおうつけ!」
「(その通りだが???)」
センゴク、思わず頷きかけて真顔で止まった。
「我々が話すのは基本いい歳こいたジジイばかり」
「お前もじゃな」
「そう、全員ジジイ」
五老星の1人。ウォーキュリー聖は悔しそうに顔を歪める。
「じいじと言われたかった……!14歳は多感な時期だろう……!?今更頼めんわ!」
他の五老星も目を逸らしながらもほぼ同意の様だ。
あぁ、そういえばリィンが最年少謁見者だったな。センゴクは重鎮しか来れない様な場所で遠い目をした。
「……。リィンは素直ですし、言えば祖父と慕ってくれると思いますよ」
センゴクの言葉に五老星は目を輝かせる。そう、祖父(利用価値の意味)と。
まぁ、私は父親だがな。センゴクは心の中でマウントを取った。
「確かに素直ではあったな。やはり4歳から海軍に居たともなれば、善悪もきちんと分かる。あの最弱海賊、戦神の娘だ、海賊の中ではマシだろう」
五老星は報告の上でだが、リィンへの評価が元々高い。
海賊の元にいたのは生後1年。
しかもその海賊であるカナエは『世界が歴史を隠すことに同意する海賊』だ。平和な思考回路をお持ちである。
そして一緒に育った子供は残念ながら全員賞金首になったわけだが。
リィンは最年少ながら海軍の英才教育を受けてきたエリートだ。別名洗脳とも言う。
政府への貢献度も高い。昔から政府の科学班で人体実験の被験者として毒耐性のテストを繰り返してきた。これを従順と言わずしてなんというのだろうか。
「そして随分リアリストだ」
現実をしっかり見ることが出来る。自分には荷が重い、という名目で、大将の戦力バランスを調節している。
七武海の操作もある程度こなせる分、彼女は三大戦力の普遍的なバランスを保たせることが目的でもあるのだろう。そこに爆発的な進化は無いかもしれないが、向上はある。
「昔1度会ったが、ベガパンクは良くも悪くもぬるい男だ。そしてリィンは関わりが無い、はずだよな?」
「えぇ。化学班とはシーザー・クラウンが主に。そして彼が賞金首になってからは通っていません」
「そう。シーザー。私は彼の苛烈でもあるが犠牲を作っても武器を作る技術力に希望を抱いていたのだがな」
サターン聖が顎に手を当てて思案した。
つまり彼らは、武器が欲しいのだ。それを操作するのであれば、きちんとこちらの意図を理解し共感することが出来る人間が好ましい。
「CP9の暴れ馬共も今は乗りこなしているんだろう?」
「……はい、そうですね」
マーズ聖の言葉にセンゴクは頷いた。
厄介なものに好かれるのも才能のひとつだと言うのだろう。
「……彼女は、己の正義のためなら悪ですらも利用する人間です。分かりやすく言えば『悪役作成』でしょうか」
「麦わらの一味で、そして七武海でそれを成し遂げようとしているのかな?」
「はい。海賊が潰し合いをしてくれれば海軍は戦力を割くこと無く海賊を潰せます。私とリィンはそれを狙っています」
「だが、麦わらの一味と七武海という衝突操作側同士がぶつかったらまずいだろう?」
センゴクは間髪入れずに答えた。
「いえ、それが。当の海賊同士がそうでも無いんです。リィンのおかげで」
でなければミホークはゾロを育てない。クロコダイルはビビを育てない。そして他も、きっと。全て潤滑油としてリィンがいる。
「世間はそうはいかない」
「分かっています。特にクロコダイルには、是非とも七武海のイメージを回復させるための広告塔になって頂こうかと」
弱味は握ってんだぞこの野郎。うちの娘に唾つけやがって。
それはそれとして動かすために我が娘を利用する気満々のセンゴクは、確定した未来のために笑顔を浮かべた。
実はセンゴク、リィンにひとつ許せない恨みがある。
『何かあったら海軍のセンゴクへ!』というロジャー海賊団の悪しき風習を作ったのは、ロジャー曰く〝幻のエース〟。
……さぁ、エースの自覚が出来た娘よ、覚悟はいいか?
==========
「おかえりなさいセンゴクさん、やっぱり却下されますた?」
「良かったなリィン。──合格だとさ」
「
「ここにあるのはお前が潜入中にベガパンクが開発した胃痛止めと酔い止めの薬だが……」
「ください」
==========
──その日の午後。
エッグベッドという海軍科学班の研究所にそのまま出向いてベガパンクに会うことになったのだ。
「会うならまだしもパシフィスタは嫌です。ほんとに嫌です。断るです」
「全方向でお前が推されてるんだ。諦めろ」
全力で駄々こねたけど、センゴクさんの腕力の前には無力だったよ。
「センゴクさん私のパパでしょ!?」
「その前に上司」
「うみぐぃっっっ!!!!」
「……なんという悲鳴だ」
胃がキリキリするんだって。
上司の権力振り回されたら断れないじゃんかぁ。
「む、これはなんだ?階段が地面から湧き上がってくる」
「これは、エスカレーターですね」
雲島のような地形に近未来的な場所だ。エスカレーターを上がりたいけどタイミングが掴めないセンゴクさんの代わりに私が先に乗った。
「これ、切れ込みが入るすた繋がった1枚の板で、ベルトコンベアのように斜めになって回転する様な、と言えば理解可能です?」
「あぁ、分からなくもないが」
髪ゴムをクルクル指で回して視覚的に説明する。
エスカレーターを登った先には扉があった。
「またベガパンクは魔改造を……」
「あー、これフェイクですぞね」
「お前ほんとに来たことないのか!?」
「全く!!!」
センゴクさんと初めて箒の2人乗りをして、初めて訪れたのが今だよ。
「よく視覚に惑わされないな」
「ベガパンク!」
「ぺぺぺぺ!よく来たな、センゴク元帥、女狐大将。特に女狐大将、キミには一度会ってみたかった……!」
海軍特殊科学班ベガパンク。極力関わりたくないな、と思っていた人物の一人のお出ましだ。
見た目は老人、舌がデロンと出たぱっちり目の、リンゴ頭。
「それにしてもエスカレーター!よく仕組みが分かったな」
「こう見えて、科学にはそれなりに知識がある故に」
「ほう、これは盲点だった。海軍本部の中も頭のガッチガチに固まった連中だけじゃないんだな」
「ゴホン」
センゴクさんの咳き込みにベガパンクは私の後ろに慌てて隠れた。センゴクさんに喧嘩売るから……。私でもあんまり売らないんだぞ。
「今日はセラフィムについてざっと概要を話そう。何、今後セラフィムのメンテナンスで何度かこの島には足を運んでもらうことになる、その時に雑談に花でも咲かせようじゃないか」
「雑談じゃなくて、知識でも良きです?」
「若いのに偉いの!もちろん!」
センゴクさんが後方腕組父親面してるのをちらっと確認してからベガパンクとはラフ寄りに話しかけた。
「私はノミノミの実の能力者。私はあらゆる知識を際限なく記録できるが、データの容量に比例して脳みそもどんどん肥大する。島のてっぺんに私の頭。パンクレコーズがあり、この頭のリンゴがアンテナの役割を果たしておるんじゃ。だから、お主の欲する知識はいくらでも与えよう!」
私はその言葉を聞いてふと思った疑問を口に出した。
「脳みそと言うより、データーサーバーですぞね」
「その通り!私は、世界中の人間がパンクレコーズを共有し、私の知識を身につけるようになって欲し……──これセンゴク元帥の前で言っちゃまずいか?」
「さぁ?」
センゴクさんは無言を貫いている。眉間にシワが寄ってるから、アウトよりの発言なんだろうな。
特に五老星は人類が馬鹿であれば馬鹿であるほどいいと思っているんだし。
う、中間管理職レベルMAXみたいな胃の痛みが襲ってきた。アイテテテテテテ。気絶しそう。
止めても無駄だろうから多少はマシな方向にシフトチェンジさせなきゃ……!協力したとみなされてお叱りを受けるかもしれない。
「それ、実装なれば管理者と、そして閲覧レベルが必要ですね。間違った知識や悪意を持った知識で上書きされぬように。ブログのように個人で発信する場所と、公的機関の発表する場所。それを別口で用意せねばならないですね」
「──なぜもっと早く会わせてくれなかった!!!!!」
「その反応が予想出来ていたからだベガパンクお前もか」
私の前世の常識を告げるとベガパンクは嬉しそうに悲鳴を上げていた。
「女狐大将!君なら世界中の人間が知識を共有するために、どうしたらいいと思う!?」
肩を捕まれ、グワングワンと揺さぶられる。うぉおおおあ酔う、酔うから。
「えぇっと、素人知識ですぞ?」
「うむ!」
「電伝虫に代わる携帯端末の開発ですかね。アンテナとパスワードでアクセス可能に、そして所有者の個人情報とIDを、閲覧履歴として残してサーバー側が確認可能にすれば、危険を未然に防ぐも可能かもしれませぬ……。例えば『死に方』を検索すれば、検索結果ではなく医者の予約が検索結果として出るように。『殺し方』は海軍に相談するサイトなどに……」
「その案貰ったァ!!!!!いや、ほんとに、助かった。まさか私の知識に追いつく普通の人間がいたとは……!」
無制限じゃなくて制限と監視。そして端末と言うお金がかかるツールを用いて利用可能な人間の範囲を狭める。これなら、これなら多少は……!
「これ、恐らくですけど。シラヌイ・カナエの得意分野ですね」
「死んどるがな!!」
前世の知識だ。インターネットを生み出そうとしているのが、ベガパンク。
これは、うん、なんというか。危険だなぁ。具体的に言うと五老星がこの危うさに気付いたら進化より現状維持をとりそうな……。
「せ、センゴクさん……」
「なんだリィン」
「たすけて」
「ベガパンク、いいことを教えてやろう。『困った時は海軍本部の女狐に』が合言葉だ」
「!!!???言い覚えぞある!!!クソッタレ!!」
何年前のこと引き摺って恨んでんだよこの悪魔!誰が仏だセンゴクさんなんて悪魔だ!
ベガパンクは素直に頷いてしまうし……。
「おっと、本題を忘れるとこじゃった。セラフィムだがな」
例えば、と言いながらテレビのブラウン管みたいなものに1人の女の子を映し出した。褐色肌に白髪の子供だ。
「これは海賊女帝ボア・ハンコックの血統因子を利用したパシフィスタ。悪魔の実の能力はメロメロの実じゃ」
「えっ!?」
「あぁ、私人工悪魔の実を作り出してるからな」
このセラフィムについてベガパンクが説明を続ける。
最低限の人格は有している事や、威権順位と言われる命令権がある事。グリーンブラッドという血統因子を使った血液が腕にある事。そういった説明もされる。うん、後でまとめよう。
「ちなみに女狐大将の毒耐性の血統因子も入れてある」
「!!??」
聞いてないけど!?
あ、パンクハザードで耐性実験した時のデータが活用されてるのね?
「君の順位は3番目。五老星、私、キミ、戦桃丸そして5番目にチップ所有者が来る。つまり海軍内での最高命令者で、キミが気絶しない限り私や五老星以外の命令は打ち消されるんじゃ」
「あ、胃が、胃が……」
「ぺぺぺぺ!」
キリキリと痛み始めた。面白そうに笑うベガパンクに私はひとつの疑問を問いかける。
「あの、なにゆえ私なのですか?」
「……。そうだな。理由は2つ」
「2つも?」
「まずひとつ。既に海軍に導入されておるパシフィスタ。くまからの要望だ。海軍で任せられるのはキミしか居ないと」
「くまさんが……?」
「卑怯者で小心者で危険から遠ざかりたくて、そして大事なものを守るためなら震えながらも立ち上がる。そんな倫理観のしっかりした、優しい子であると。……そんな紹介をされたら、私は頷くしか無いのだ!」
くまさん、褒めてるのか貶してるのか分からない言い方やめて欲しかったな。
七武海モデルだから七武海担当の私が丁度いい、みたいな言い方でもいいからさ。あの、半分以上貶してるよね?
「そして2つ目。ジャッジの娘と息子を人間にしただろう」
「……ジェルマ、ですか?」
「ジャッジとは昔からの付き合いだ。奴らが自分の息子にまで感情を失わせ、そして兵器とするとは……まぁ思ってはいたが。──感情を忘れた子供達を、人間にしてくれたキミなら。私の子たちも人間にしてくれるかと思って勝手に期待しているのだ」
ベガパンクは私にりんごの頭を下げた。
「頼む、女狐大将。セラフィムのことを武器ではなく平和を作るための人間にして欲しいんじゃ」
「……。」
「……もう、くまのように喪わせたく無いんじゃ」
に、荷が重い。
重すぎてここだけ重力がえげつない。
私は平和を信じてないし、相変わらず七武海は嫌いだし、責任とかいらないし。でも、でもだよ。
ルフィを守るために、兄を守るために、そして私のために。役に立つんじゃないだろうか。
「命令権、上げてくれたらいいですぞ」
「なんじゃと!?」
「五老星は人間にしたくなき側ですもん」
人間にしてくれ、という割に命令権が五老星の方が高いのが気に食わない。国を滅ぼせと五老星に命令されたら非人道的でも行わなければならない。
「その代わり、これあげるです」
アイテムボックスから、ひとつの骨を取り出した。
これは五老星へのご機嫌取りも兼ねている。
「それは?」
「──海賊王の骨。利用価値は、ご存知ですぞね?」
「欲しい!!!!!!!!めちゃくちゃ欲しい!!!なんじゃこの子!便利!!!!大将やめて科学班来んか!!!」
「やらん。リィンのキャリアは科学班じゃない」
「うおおおおおお!!!作るぞ、海賊王のセラフィム!!!!!いいじゃろセンゴク元帥!!!!」
「それなら許す」
さて、そろそろ気絶してもいいかな。もう、朝からずっと痛い。
「ごフッ!」
吐血──!
後ほど検査した結果、胃に5つくらい穴が空いてたそうです。ですよね。
途中から執筆、心折れそうになってた。久しぶりに1万超です。
クロコダイルとドフラミンゴとモリアのセラフィムの名前!お前たち早く出てこい!!!