麦わらの一味の剣士は慎重とは真反対の男だと世界一の剣豪と謳われる男は思っていた。
進化に貪欲で、考え無しの行動力。挙句に方向音痴ときた。
「リィン、教育方針で相談があるのだが」
『でぇい!その為だけに電伝虫かけてくるなぞりです!私はゾロさんの母親でもなんでもなきなのですが!?』
「いつも以上に言語がぐちゃぐちゃだぞ。それにある意味お前だって母──」
『──それ以上抜かすなればミホさんとシャンクスさんが出来てるって噂を世界規模で流すですが?』
「…………。今日はいい天気だな」
いつも湿気だらけの曇り空を見上げてミホークは呟く。やれやれと言いたげに切られたでんでん虫は無情にもツーツーと鳴いていた。
こういったやり取りは早数度目。かまってちゃん七武海は分が悪くなると引くが、その中でも情報をきちんと得る事が出来る実力もある。
『ゾロさんは一味の中で最も冷静で頑固で、臆病者ですよ』
抱いている感想とは真反対の意見。だが、リィンが確信を持って言うのであれば正しいのだろう。
ゾロは今日もヒューマンドリル相手に
「……あぁ、そうか」
剣を無くしても戦えるように、戦って仲間が傷つかないように。お前はその未来に怯えて今日も無謀と言える挑戦をこなすのか。そんな僅かな未来でさえも睨んでいるのか。
空になったグラスを机に置いて、大剣豪はにやりと笑った。
「ゴースト娘、家庭菜園に行くぞ」
「お前またかよ!農家じゃねーんだぞ!?おい、聞いてんのか鷹の目ぇ!」
「今日の飯は野菜たっぷりポトフだ。健康にいいぞ」
「最高」
ゾロは訓練中にご機嫌な鼻歌が聞こえてきて、ちょっとイラッとした。
麦わらの一味の航海士は残念どころかとんでもなく優秀な人間だと空島にいる老人たちは思っている。
「ナミちゃんは飲み込みが早いねぇ」
「それに可愛い」
「わかる」
「超わかる」
あまりにも優秀すぎて、そして天候をよむことに対して圧倒的な才能がある。
故に、天気について教えられることは既にない。
だから空島の老人は、天候を操作する術を教えていた。空島の雲の技術とシャボンディ諸島特有のシャボンの技術を掛け合わせたウェザリアの気象科学。
「曰く、『私
「嬉しいじゃないか」
ナミはその言葉に隠された人物を思い浮かべ、島中の天候に関する書物を読み漁った。
麦わらの一味の狙撃手は勇敢な男と言うよりは臆病な男だとヘラクレスのような男は結論を出していた。
植物の種を利用した銃弾(もちろん銃ではないが)をパチンコにセットして2キロ先の果実を撃ち落とそうとする姿を見ている。
狙撃の腕は確かだが、近くにいると恐ろしいからと超遠距離からの狙撃だ。
情けないようだが、それはすなわち生存本能に優れているということ。
狂った食物連鎖のボーイン列島で生き残るにはこれくらい用心深い方が見応えがある。
「心のどこかで、リィンは常に結果を掴む人物だと思っていた、だったかな」
島にやってきて語った言葉を、ヘラクレスンは今でも覚えている。
親に裏切られた幼い雑用の少女。何をするにしても飄々と結果を出し続けた少女。
それに頼りきってしまっていた事と、そんな彼女が崩れた時の一味の脆さ。それに気付いたのだと言う。
「強くなれウソップン。追い剥ぎの森グリンストンは必ず君を強くする」
ウソップはそんな激励を知ってか知らずか、ここ数日目標にしていた5回連続超遠距離射撃に成功しガッツポーズをした。
麦わらの一味の料理人は情け容赦ない男だとカマバッカ王国の女王は思っていた。
手配書で顔を知っていた為、麦わらの一味だということはすぐに把握出来た。今思えば、10年前のゴア王国から麦わらの一味にはよく関わりがあるものだ。
サンジが作った料理に舌鼓を打つ。
ドラゴンの子、くまの協力者。革命軍の参謀総長の弟妹。そんな彼らが惚れた料理の腕だ。本当に、容赦がないほど惚れさせてくる。
「サンジキュンを呼んで!アフタヌーンティーをするわよ」
「サンジキューン!パステルピンクのドレスはいかが?」
美しいドレスと美しい花々に囲われたサンジは、唇に真っ赤なリップを塗りつけて微笑んだ。ようこそ、
時々
麦わらの一味の医者は人間らしい生物だとトリノ王国の住民は思っていた。
ちょっと小心者な所や、カッコつけた結果チョッパーマスクといった文言で誤魔化した所。プライドもあるし、誰かのために頑張る所。動物にはない実に人間らしい行動だ。
「タヌキチもう何日篭もりっぱなしだっけか」
「昨日薬草取りに駆け回ってたど〜〜」
製薬技術に優れた、見た目とは裏腹に高い文化水準を持つ島。古代の近未来的な技術を持つ彼らから学べることは非常に多い。
「なんか、まずは酔い止めとか言ってたど」
「なんでだ????」
チョッパーは同時進行で方向音痴を治す薬とばかを治す薬と変態を治す薬も研究しようと思ったけど、人類の例外っぽくってすぐに辞めた。英断だっただろう。
暑さが苦手な冬国の小さな怪物は、万能薬になるべく頭を振り絞った。
麦わらの一味の考古学者は孤独ぶっている節がある。ニコ・ロビンを保護したと連絡を受けたサボがそう結論付けた。
サボにとってアラバスタはまだ記憶に新しく、ロビンと直接対峙はしなかったものの敵対組織の幹部であったという事は覚えていた。若干の警戒を胸に出会って交流してみれば、そんな結論はすぐに出た。
「で、どう思いますドラゴンさん」
「……なかなかな評価だな、サボ」
「だってそうじゃないですか。オハラの生き残り、裏切りに遭い続け裏切り続けていた」
サボは同情する様に、そして馬鹿にするように笑った。
「でも、ルフィやリーと出会った。彼女のレベルについていけるリーも、レベルなんて取っ払って引き上げるルフィもいる」
サボの目から見れば、なんてことない。ただ寂しくて泣いているだけだ。
寂しいというのは人の縁の中に既に居ないと、その温かみを分かってないと口にも態度にも出せないもの。
革命の灯火とも言えるロビンの存在は、革命軍が優先的に保護を考えなければならない世界政府の被害者。だけど。
「もう、ニコ・ロビンにゃ救いの手は必要ないな!」
革命軍から助けを借りながら、ロビンは強くなる。1人で眠れない夜はもう無いのだ。
麦わらの一味の船大工は随分な大男だ。あのベガパンクの生まれた家にこもって時々コーラを取りに来る、何をしてるのか分からないのが麓の家に住む2人が抱いた印象だった。
大怪我(もはや破損である)をした大きな形容し難い人物は、昼夜問わずほぼほぼ騒音を立てている。民家が少ない為、苦情もまぁ少ないだろうという印象だ。
「なぁおじいちゃん、あれって人間かな」
「時々酒を飲み交わすし人間……だといいな」
背丈も肉体も人間とは逸脱しているものの、2人の人間はフランキーの兄貴力というか精神的な人間性に好感を持っていた。
だから、時々ご飯も持っていくし深夜に訪れる時もある。深夜はだいたい決まって起きているのだが、休憩に寝ているタイミングで出くわしたことも。
「まぁ、寝言で『うぅ……リィン……』って女の人の名前を言うくらいだから、悪い人では無いのは確かだよね」
娘なのか恋人なのか。検討はつかないが誰かを思っていることは確かだ。そんな人間に悪い人は居ないだろう。と。
余談だが、フランキー改造計画の敵対シュミレーションは一味の雑用の姿である。今夜もフランキーは『どう改造しても勝てるビジョンが浮かばねぇ!』と唸り声をあげるのだ。
つまり、夢は夢でも悪夢の方である。
麦わらの一味の音楽家は骨のあるやつだ。見向きもされなかった音楽という見世物を島中に広げやがった。と、男は思った。
「なぁボス、このガイコツどうするよ」
「そうさなぁ。ミュージシャンとして世界に売り出せば大ヒット間違いなしなんだが」
「そのレベルの資金は無いぞボス」
「だ〜〜〜よなぁ〜〜!」
金儲けの気配はするのに何をするにしても金はかかる。映像でんでん虫や
珍獣を見世物にするしか脳がない手長族ではにっちもさっちもどっちも行かない。
「では、出資しましょう」
であれば、手段を与えればいい。
「まずは映像電伝虫を使ってライブ配信を行い、ゆくゆくは全国各地を回るワールドツアー!そのための活動資金、経営、私たちがサポートしましょう」
「おお……!だが、あんた誰だ?」
「申し遅れました。私、
嘘くさい口調で、素顔を仮面に隠して。ピエロはブルックの遠回りな帰り道を提案したのだった。
張本人の何も知らないブルックは「幸せを運ぶ青い鳥ですかー運が良さそうですねーヨホホっ」と呑気なことを考えていた。
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麦わらの一味のお姫様はクロコダイルの構える拠点にて経営を学びつつ、作家として研鑽を積みつつ、蛇腹剣という武器の扱い方を取得している最中だった。欲張りである。
「ミス・ウェンズデー、手紙のチェックを頼めるか?」
「もちろんよダズさん」
ビビは元バロックワークスのメンバーにウェンズデーと呼ばれたままであった。
なぜなら、一応麦わらの一味としては亡命中でもあるので。七武海の庇護下にあれど生きていることが露見するのは避けたかったのだ。
「OK、完璧ね」
ビビは王宮で様々な知識と共に教養を身につけている。元バロックワークスはならず者出身が多く、公的な書類やら交渉やらはビビに軍配が上がる。
ただ、商売のセンスやお金の動かし方はやはりクロコダイルの方が上手い。
ビビは考えた。己の成すべきことを。
「(私たちの一味、ほんとにお金の使い方酷いもの)」
船長の暴食、ゾロの暴飲。エンゲル係数も跳ね上がるものだ。それ以外でも医学や歴史書など書籍から船の修繕費、武器の改造費など。他の海賊団より生活の基盤にお金をかける一味だ。収入源は特に無し。海賊から略奪すると言っても限度があるし、ギャンブルも人による。つまり主にリィン任せなのだ。
ナミとリィンが一味の財布係ではあるが、ナミはネコババタイプだしリィンは貯蓄の鬼。つまり、運用が下手なのである。
「(ナミさんならまだしも、リィンちゃんってお金にそこまで執着がないからなぁ)」
一味を支える上で最も必要とされる分野だろう。ビビはそう考え、商売人でもあるクロコダイルの下にいるのだ。
「ミス・ウェンズデー?」
「あ、ごめんなさい。考え込んでたわ」
元Mr.1、ダズ・ボーネスが声をかける。思考の渦に入り込んでいたビビは思考を浮上させる。
バロックワークス。かつて祖国を滅ぼそうとした敵対組織だ。ビビ的に割とそれなりに恨みつらみはあるのだが、おくびにも出さない。
メンバーはアラバスタの時とは変化し、少数精鋭になっていた。
Mr.1……ダズ・ボーネス
ミス・ダブルフィンガー……ザラ
Mr.3……ギャルディーノ
Mr.4……ベーブ
ミス・メリークリスマス……ドロフィー
コードネームで呼びあっていた時と違いビビ以外は本名で呼びあっている。要するに新生バロックワークスだ。
「それにしてもダズさんが教えてくれてる蛇腹剣なのだけど、あれ使いやすくていいわね」
「耐久力は悪いが剣にもなり、切れ味の鋭い鞭にもなる。スラッシャーで戦っていたあんたには使いやすいだろう」
「一時期鞭も使ってたわ」
「……!知らなかったな。いつだ?」
「アラバスタを出航してから、リィンちゃんに」
「…………アレか」
ダズは割と苦い顔をした。脱獄の時のぶっ飛び具合とか、なんかこう、相性が悪い。
「ボスと(で)遊んでいる姿は、非常に楽しそうだったな」
「元気そうで良かったわ」
ビビは真剣な顔で顎に手を当てる。
「(七武海に近しいリィンちゃんには悪いけど──)」
ビビは作家として麦わらの一味の冒険譚を後世に残すつもりである。それともうひとつ。
「(ドフ鰐よりダズ鰐よね)」
夢にまで見たBL本である。
「(ふっふっふっ、実在の人物とは関係ありませんって文言を使えばフィクションにし放題よ……。ペンは剣より強しって所を見せてやるわ!)」
ダズは何か獲物を狙うような目をする王女のことも割と苦手である。
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麦わらの一味の護衛鳥は島からの脱出の為に空を飛ぼうと努力していた。
そして更に言うならば、泳ごうともしていた。
水かきなんてものは無いため空を飛ぶより苦戦している。空?あぁ、あいつならちょっとなら仲良くなれたよ。
ドフラミンゴの王宮で過ごしているカルーは、日々様々な人間にもみくちゃにされつつ、ときおり城下に遊びに行き、そして訓練をする。その繰り返しであった。
「カルー?」
ヴィオラと呼ばれる、カルーに1番良くしている幹部が声をかける。
「クオ!」
「ふふ、またびちゃんこにして。結局海に落ちたのね?」
「クォォ……」
その通りである。空を飛ぶ練習をして、いざ飛んでみたはいいがスタミナも技術も持たずにあっという間に海に落ちたのだ。
なお、カルーが海も泳ぐ練習をしている理由がこれなのである。海ポチャが多い。
ヴィオラがタオルでカルーの体を拭ってやると、カルーは嬉しそうに鳴き声を上げる。
「ねぇカルー」
「クォ?」
「あなたは、この鳥籠からちゃんと逃げ出してね」
若様の手なんて借りずに、と幹部は言う。
カルーはよく分からずに首を傾げた。
天夜叉の企みも、王女の嘆きも、一味の雑用の悪巧みも、何も知らない。だから今日もただの1匹の鳥として
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麦わらの一味の元海賊船は人間初心者である。
「だーかーらー!掃除しろつってんのになんで物を破壊し尽くすんだよこのクソガキ!」
「えっ、掃除って『この世から存在を消しつつ犯行を自分だと悟られない様に他人に罪を着せる』事を言うんじゃないの?」
「どこの世界の方言だ!!!」
その、人間のリスペクト先というか、インストール先が世界規模で見てもかなりの例外なので。主に外見のメインになってるやつが。
「あぁもういい、まかないでも作ってろ」
「賄いってなぁに?」
「料理のことだよ!」
「……。」
「な、なんだよガキ」
「いや……料理って『ひとくち食べるだけで人間を倒れ伏せさせる口に含めるもの』か『ひとくち食べるだけで体が溶けそうになる口に含めるもの』を作成するどちらかだと思うんだけど、どっちのことかなって」
「よぉし教えてくれてありがとうお前船降りろ!どっちも違ぇわ雑用もまともに出来ないのかこのっクソガキ!」
「僕の雑用知識は世界最高峰の雑用プロフェッショナルを見て学んだんだけど!」
「おおそうかそうか。是非ともその雑用プロフェッショナルに聞いて欲しいもんだ。クソガキの知識が正しく認識されているかどうかよ」
「元海軍雑用だから絶対に間違ってないよ!」
「元海軍将校だから言うが大いに間違ってる」
元職場リスペクトかよ。
メリー号が雑用として乗っている船の船長、ガスパーデが慢性的になりがちな頭痛のする頭を大事に抱えた。何が都合よく雑用として使えそうだよ、デットエンドですらまともに開催できない暴れっぷりじゃねぇか。
「ガスパーデ、海軍には紙袋被って集会する文化があるってホント?」
「それ多分俺の知らない海軍」
メリー号は周りの常識を犠牲に、産まれたての人生を楽しんでいた。
早く仲間に会いたいと願いながら。
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麦わらの一味の新入りの鳥は雷でできた人間を乗せて空を飛び回っていた。
「なあ鳥。我はいつかあそこに行きたいのだ」
空に乗せたエネルという福耳の男は空を指さした。自分さすがにきついっす。そう言いたげな顔でビリーはクオオと鳴いた。
「ヤハハ!そうかお前も行きたいか!」
場所ははるか上空。前半の海。
地上は曇りであり、雲の上は晴れている。星空の近い夜だ。
危険な生物も少ない上空。
だから真正面からなにかが飛んできたとてすぐに分かる。わかってしまう。
「うわ………………最悪」
雷のような金髪を靡かせ、風で目を痛めない様にゴーグルをかけた人物。
彼女もこの上空を移動手段として活用しているのだ。
「クオ?」
「こんばんは。お兄さん。
「むっ、貴様は……。誰だ?」
「お兄さんが乗ってるビリーって鳥の……うーん、友達?」
「クオオオ!」
ビリーは嬉しそうに声を上げ、エネルは訝しげに顔を顰めた。
「リィンって言うです。青海人ですぞ」
「ほう、青海人が空を飛ぶのか。ふむ。不思議な体験をした。……我は、神なり」
「へぇ、神様!素敵ですね。私巷では天使って言われてるですよ、お仲間ですね」
仲間意識を植え付けられながら籠絡しようとしていることに気付かず、ビリーは久しぶりに知り合いに出会えたことに嬉しく周囲を飛び回っていた。
「そういえば、よく我が白海人だと分かったな?」
「うーん、服装としか?」
「ふむ。青海に紛れ込むには服も変える必要があるか」
「ところで神様。ビリーは2年後、シャボンディ諸島に向かう用事があるのですけど。どうされます?」
ビリーとエネルは同時に首を傾げる。
「私はビリーの所有者でもなんでもなき故に、ビリーの自由に任せるですが。青海を移動する、カジノ、なんて興味はあるです?」
ニコリと微笑んだ少女に、初手で攻撃をしなかった時点で詰みであるということに。
少女をよく知らない彼らは気付かなかったのだ。