第277話 ようやく会えた
「わ、船長久しぶりです、覚えていますか、しがない雑用です」
「──ところで、そろそろ一味の戦力も拡大させませんか?」
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忌々しい戦争から2年後。
シャボンディ諸島のとある酒場に賞金稼ぎは集まっていた。
「動物共、稼ぎ時だ」
三つ巴と呼ばれる賞金稼ぎグループのリーダーである王様が号令をかけると、その場に集められた賞金稼ぎが視線を向けた。
「ちまちま情報を集めているからお前らも知ってるだろうが、2年前海を騒がせたあの麦わらの一味が賞金首7000万以上の海賊を集めている」
2年前から更新されていない手配書を取り出した王様はそれぞれと目を合わせる。
「麦わらの一味は危険だ。だが、その傘下はそうでも無い。最悪の世代が集結した2年前とは話が違ぇ。──狙いは、麦わらの一味に加入したがる7000万級の首」
王様は16人全員にそれぞれポジションを言い渡す。
「鷲、梟、鶴。お前達の偵察能力で孤立している海賊と傘下に入る前の海賊をさぐれ」
「我は偵察は得意では無いのだがな、王の命だ、仕方ない」
「御意」
「拝命しました、任せてください」
「海蛇、亀。美形どころの出番だ、2人は釣り上げてくれ」
「ふふ、それが仕事やさかい、任せたってな」
「あぁ、任せてくれ!」
「蛙、鯉。武器の補充と全体戦力の指揮だ、任せたぜ」
「あまり使い潰さないで欲しいものだな」
「前線は陸の野郎共に任せる」
「残りはトリオを組んで偵察組の情報で各個撃破。バレないように暴れまくれ、死にそうになったら耐えろ、鯉がフォローする」
そう言われ、各員がそれぞれ相性の良さや連携の取れやすさでトリオを組んでいく。
「──金豹」
私の名前が呼ばれた。
そこには猿と狐の2人がいた。
「スピードタイプで固まるぞ、お前はこっちだ」
「金豹〜、よろしくねぇ。俺とあんたがいれば釣り上げもできるっしょ?」
身軽さを利用して鞭を振るう猿。
素早さを活かして暗殺が得意な狐。
そしてサポート向きな回避型の私。
今回の仕事はこの3人らしい。
他は鹿、蛇、牛。猫、犬、白蛇。という組み合わせのようだ。説明は割愛する。
「…………ところで、王様。あの麦わらの一味って本物だと思ってんの?」
私の質問に王様は眉間に皺を寄せた。
「さてな。手配書と顔が違いすぎるから偽物の可能性は高い。2年も経ってるんだ、もちろん本物の可能性もあるが……。だが、今回は関係ない。俺たちはおこぼれを狙って、端の方からつまみ食いをするんだよ」
なるほどね、本物だろうと偽物だろうと麦わらの一味にはノータッチで周りを狙うから関係ない、と。
それを聞いて小さく安堵の息を吐く。
良かったよ、本当に。
──それ、海軍の的だからさ。
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とある海賊船の上。
すでにほぼ全員が集まっている中、不在な人物が二人いた。
「ルフィとリィンはまだかよー!」
ウソップがそうボヤくと周囲は同意の意思を込めて頷く。船長と雑用の2人が不在だったのだ。
「小僧ならすでに上陸したって連絡はあったぞ」
元海賊王のクルー、〝剣帝〟カトラス・フェヒターがシャボンの使い方をナミとフランキーに教えながら答えた。
その言葉に場は喜びの顔を浮かべる。
「えっと、これ言ってもいいのかしら……。ボスが…、あ、クロコダイルね。彼が『どうせリィンは既に上陸してるだろ』って言ってたから」
「おま、お前クロコダイルの所に居たのか!?」
「えぇそうなのウソップさん。たまたま成り行きで」
長い髪をバッサリと切ったビビがクロコダイルの予想を口に出す。
確定的な情報では無い為口に出すのははばかられていたのだが、ぶっちゃけ自分もそう思っていたので。
「よく自分の国を乗っ取ろうとした奴の所に居たな……」
「だって彼、基本リィンちゃんの名前を出せば大人しいもの」
「したたか〜」
「
「ごめん何言ってるのか全然分からない」
「──あっ!」
船の中にいた少年が嬉しそうに声を上げた。
「サニ〜〜〜会いたかったよー!寂しくなかった?えー、金ピカの船にいたんだ!あそこ楽しいよねぇ」
甲板を転げ回る様に語りかけるのはメリー号。クラバウターマンだった彼がひょんな事から人間として受肉した為、身長もこの2年で伸びていた。言動は幼いが美青年に近い見た目だ。
「メリー、貴方はどこにいたの?」
「僕ね、雑用してたよ。シャボンディ諸島に戻らなきゃって言ったらガスパーデが大泣きしながら送ってくれたんだ!」
「ヨホホホ!別れを惜しんでくれたのですね」
「僕は雑用のプロフェッショナルを見て育ったからね、船の雑用も楽チンだったよ!」
「………………雑用のプロフェッショナルってアレか???」
彼のモデルになった雑用の顔を浮かべた一同は微妙な顔をした。恐らくガスパーデとやらは泣いて別れを惜しんだのではなく、ようやくこいつから解放されると喜んで涙したに違いない、と。
「しゃーねぇな、そろそろアイツらを迎えに」
「行かせるか!」
「リィンがあっちにいるなら大人しくしておいた方が絶対いいぞ!」
ゾロが飛び立とうとするのをウソップとチョッパーが急いで止めた。英断である。
「ところでブルック、おめー随分派手にショーをやってたみたいじゃねぇか」
「ええ!ありがたいことにスポンサーがラストライブを開催してくれまして。タイミング良く海軍が来る前にラストライブを開催できました!ヨホホホ〜!」
シャボンディ諸島は歌手のブルックの余韻が未だに残っている。
「クエー!」
「クォ!クオオ!!」
カルーとビリーは久しぶりに会えた兄弟にハグをしつつ楽しそうにクルクル回転をしていた。
そんな中、一人が膝から崩れ落ちる。
「えっ、何、なんだ?どうしたナミ」
「──早くリィンに会いたい……っ!」
鼻血と血涙を流しながら禁断症状に苦しんでいた。
「……チョッパー、急患だ」
「ナミ落ち着け、落ち着くんだ。リィンはすぐ来るから、でも2年間も離れてたからな、ゆっくり慣らすんだぞ」
「早く会って着飾りたい!若い子に触れたい!リィンを食べたい!」
「ウソップごめんお手上げかもしれない」
名医チョッパーは修行の成果無く両手を上げた。無理って知ってたもん。
そんな彼女に寄り添うのは金髪の髪をした乙女。
「大丈夫よナミさん」
「……!まさか、リィ……、」
「あたしが付いてるわ……(バチコーン)」
金髪縦ロールの髭を生やしたおかま、サンジである。
バチーーーン!
これはナミがサンジの頬をぶち叩いた音だ。
「なんであんた金髪なのよ!ふざけないで!今すぐその髪引っこ抜きなさいぬか喜びさせて!」
「はっ!お、俺はまた、おかまに……!俺はレディーと友達になるためじゃない愛するために生まれてきたってのに、くそ、レディー怖さにおかまに転落してしまうとはやだぁ♡ばかぁん♡」
「ダメだァァ!まともだと思ってたサンジまでおかしくなっちまったよォ!ウソップは壊れないでくれ頼むから゛!!」
「チョッパー先生頼むから、頼むからウチの初期メンの頭を直してくれ……!後生だ……っ!」
チョッパーとウソップは咽び泣きながらお互いに縋り着いた。
リィン禁断症状のナミとおかまに侵食されて抗えなかったサンジ。あまりのカオスっぷりにフェヒターはちょっと遠い目をしてしまった。
あー、ほんとに大丈夫かなぁ。
こちら中継のカトラス・フェヒターでした。スタジオにお返しします。
涙目が止まらなかった。
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はい皆さんこんにちは。皆の海兵兼海賊兼情報屋兼賞金稼ぎのリィンちゃんです。
もう情報が渋滞してるよね、事故起こしてもおかしくない。
実はですね、現在割と複雑な事が起こってます。
えー、偽物の麦わらの一味が出ました。
というか出しました。
一連の流れを説明するとですね。
『冒頭の通りに偽麦わらの一味が出来るように誘導する』
↓
『偽麦わらの一味爆誕。傘下を集め始める』
↓
『その裏で本物の麦わらの一味も続々集まり始める』
↓
『偽麦わらの一味を討伐させるために海軍を動かす』※中将は本物が居ると知っているが、私のリークだと悟られないため騙されたフリをして戦力を集める
↓
『何も知らないフリをして海賊稼ぎとして会合に参加する』
↓
『よっしゃ、おこぼれ狙って稼ぐぞ!』←イマココ
はい。非常に簡単で簡潔で分かりやすかったですね。こちとら海賊の情報が海賊稼ぎからも海軍からも情報屋からも流れてきてて割とアップアップなんですけども。
ちなみに本物の麦わらの一味ですが、ルフィと私以外は既に上陸を果たしています。シーナとテゾーロからの報告で。
まぁ、私は既に上陸してるけど。それこそ2年以上前から。
「金豹、いくつか候補はあるが、狙いはどうする?」
「えっ、あ〜っとぉ。んー、そうだな」
シャボンディ諸島のグローブの影で手配者を見比べる。
三つ巴は基本的に能力者を相手にしないので、狙いは必然的に非能力者になる。
その中でも比較的楽な海賊をピックアップする。
「あたしと猿が釣り上げるってなると、女に弱そうな男の海賊がメインになるかな。この男兄弟海賊とかならどう?」
「おい」
「濡れ髪のカリブーと返り血のコリブー」
「おい億超え」
両方2億前後。額で言えば2年前のスクラッチメン・アプーとかドレークさんとか、そこら辺と同じレベルだ。
いや、でも、うん。これまで数々の強者の眼前を潜り抜けて来た身から正直に言わせてもらうと。最悪の世代って割と過小評価だったよなって。もうちょい上げてもいいくらい厄介だよ。
「冗談はさておき、この46番グローブに集まってる海賊は傘下でしょ?あたし的には混乱に乗じて端から誘き寄せた方がいいと思う」
実は既にいくつか低い額の賞金首は確保している為、標的が定まらない。
それどころか偽麦わらの一味は傘下を全て46番グローブに集めている。
「傘下の海賊のふりをするとか…………うわ嫌そうな顔」
「海賊のフリなんざごめんだな」
「俺も無理無理。ウゲーって感じ」
「えぇ……。狐も猿も潜入とか出来そうなイメージなんだけどなぁ」
──パアン!
ガヤガヤとした雰囲気から一変してひとつの銃声が鳴り響いた。お互い視線を合わせて中央を見ると、偽麦わらの一味が勢揃いだった。
なんか、どれもこれも似てるなぁ。よく集めたなぁ。遠目だけど特にナミさんなんかそっくりだと思う。うん。マシかもしれない。
「静まれてめぇら!このおれさまを愚弄した犯人のひとりが早くも見つかった!……こいつだァ!」
偽麦わらが指さした先には常人では持てないようなリュックを背負ったヒゲの男。
「まずはこの男に思い知らせる!俺様の、恐ろしさを……!」
「そしてこの男に行う仕打ちは、俺様に逆らうとこうなるって言うお前たち子分への警告でもある!わかったかてめぇら!」
警告に傘下の海賊たちは声を上げた。
「おっかねぇな、4億の言うことは」
「正直、王様の方が怖くない?」
「ちょっと分かっちまうのが嫌だな」
狐が言った事に微妙な顔をしながら反論すると納得された。
「ちょっと待って狐、金豹。海軍だ」
「チッ」
ドタバタと海兵の足音が聞こえてきて、どこに隠れていたのかと言いたくなる様な量の海兵がなだれ込んでいた。
一面、雪が降ったかの様な白模様。
「………………いや多すぎねぇか?」
「多い、かんっっぜんに多い」
「気合い入ってるなあ…………(遠い目)」
倍どころか10倍くらいはいるんじゃなかろうか。
何が恐ろしいって、普通に中将達がノリノリで参加している事が恐ろしすぎる。
戦争のリベンジもあるだろうけど、お祭りに参加したかの様な雰囲気を漂わせているのもいるぞ。
誰だよこんな人員動員したやつは……。
「ぶわーーっはっはっはっ!おーおー、揃っとる揃っとる。海賊、麦わらの一味及びその子分どもぉ?大人しく降伏せんかあ!」
心臓が震えるほどの声量。
体が自動的に硬直する威圧感。
朗らかそうに聞こえる声色の癖に、1人も逃がすまいと意識を張り巡らせているのは昔からの癖だ。
「まさか……ありゃ鉄拳のガープか!?」
ガープ中将……あんたかよ……。
狐のびっくりした声に私は肩を落とす。
「海軍の英雄が出てくるなんて」
「麦わらは英雄ガープの孫だったか?」
「そーそー、一昔前に分かったんだ。うひゃー、これは海軍も本気出してきたなぁ」
「海軍がここまでいるとこの場の海賊は狙いにくいな……金豹、大丈夫か?」
「うん……うん……」
「報告……するまでも無いだろうけど、偵察に伝えて場所移動するか」
まさかの人物に肩を落としてしまい狐に引き摺られるようこの場を去ろうとした瞬間。偽麦わらに動きがあった。
「おーいカリブー!さっき捕まえた海兵を盾に出口をこじ開けろ!」
「なんじゃと!海兵が捕まっとるんか!」
「なるほどぉ、海兵さんを盾にねぇ……?」
カリブーと呼ばれた海賊が海兵を突き刺した武器をググッと持ち上げる。
「──ごめん、狐さん、猿さん」
「は?」
「え?」
「あの海兵、助けてくる」
箒を取り出して引っつかむと、いつもの要領で箒を飛ばした。
カリブーは笑いながら銃を取り出す。
「そいつァできちゃわない相談だァおかしら。だってこの兵隊さん、軍隊は呼んでないと嘘つきやがった」
銃口が向けられる。
私は地面に落とされた海兵とカリブーの中間に割り込んだ。
──バァン!
銃声が聞こえ、弾は地面に突き刺さる。
地面というよりはグローブだから木の根って言った方が正しいけどそれはさておきだ。
「お前、は……っ」
「おぉ、ちょいとちょいとおよしよォ。嘘をついたってぇ罪にはきちんと償いさせちゃわねぇといけないってのによぉ〜お嬢さん〜〜〜〜〜?」
「きゃあ!」
私は海兵をとっ捕まえたまま涙目で叫んだ。
「うぅ、怖いよぉ(うりゅうりゅ)」
どこかでお前何を言ってんだってツッコミが入った気がする。よし、気の所為ということにしよう。
「……あのひと踏ん張り気絶せずに頑張れる?」
海兵を人形みたいに抱えて海賊たちを見上げたまま、小さな声で問う。開閉は気絶したかのような、状況によっては自然に見える形で頷いた。
「さて、ノープランでこんな真ん中まで来たけどこっからどうしようか……」
──ピュン
「……な………」
──ドォン!!!!
突然ビームが走り地面が爆ぜた。
「………わぁお」
私の目の前が大きくえぐれ、爆風で砂埃が舞う。
見慣れたレーザービーム。
「パシフィスタだァ!!!!」
「海軍の人間兵器がどうしてこんなところに」
あかーん。これはアカン。
よし、逃げよう。
本来であればもう少し後で始動する筈だったパシフィスタが何故か計画より前倒しで戦闘を始めてしまった。くそー!なんでだよぉ!
「海兵、頑張ってね。ガープのとこ投げるから」
「え、は、ちょっ」
「そいやぁ!」
不思議色の覇気を使って海兵を後ろにぶん投げると指揮官であるじじのところにちょうど飛んで行った。
うむ、私、ナイスシュート。
「おっとっとっ……。そもそもなぁ、誰じゃお前は!儂はそんな太っちょでおっさん臭いやつ知らんぞ!」
「お、おおお、俺を誰だと思ってやがる!俺はあの革命家ドラゴンの息子でっあの英雄ガープの孫でっ、あの頂上戦争で大暴れした、懸賞金4億の……!」
「──だから、儂の孫はお前みたいなカスじゃないって言っちょるんじゃ」
ぶわっと偽麦わらの一味から汗が飛び出した。
ようやく気付いたらしい、そのガープがこの場にいることに。
ドスン、と重たい足音を立ててパシフィスタを2体連れた戦桃丸さんが偽ルフィを睨む。
「パシフィスタ、こいつは誰だ」
「……。懸賞金2600万、〝三枚舌〟デマロ・ブラック」
パシフィスタ、あまりにも優秀すぎる。
戦桃丸さんはルフィを見た事無いけれど、パシフィスタのおかげで偽者だとわかったようだ。まぁ、偽者が現れることも本物が実はこの諸島にいることも知ってるんだけどね。
「騙した方も悪いが、騙された方も運の尽き。おまえら纏めて連行してやる!……そしてどういう訳か、この場に来た瞬間パシフィスタが本物の麦わらのルフィを補足した」
えっ。
驚く私を置いて、大きな荷物で誰かが視界を遮る。スタッと私の目の前にリュックの男が降り立った。
マスク代わりに巻いていたマフラーがグイッと引っ張られる。悩む素振りを少しも見せずに、彼は言った。
「──やっぱり、お前『リー』だろ?」
屈託のない笑顔。
髭の奥から見える目の下の傷と、優しそうな瞳に喜びの感情が浮かんでいる。その視線は、顔の判別が苦手な私でもすぐに分かるだろう。
「……っ久しぶりぞ、ルフィ!」
私は喜んで抱き着いた。
「リー、リュック任せた。騒ぎ起こすなってハンコックに言われてたんだけどよぉ、リーが居るなら何とかなるか!」
「あっけらかん!適当の極み!ばーか!」
「なっはっはっ!」
私は髪の毛を結び直したあとキャスケットを取り出して深く被った。
「──あいつが本物の麦わらの一味だ!」
戦桃丸さんの声掛けに海兵たちの視線がルフィに注がれる。
「バレたな〜」
「バレたぞ」
フードを外すルフィと対象的に私は黒いマントを取り出してフードを帽子の上からさらに被った。
「リー、お前一人だけ顔が割れてないからってなぁ」
「私は、割と!目立たず暮らすたいの!」
「鏡みてから言って欲しい。一味のトラブルメーカーだぞ」
「何故!!!!????」
ちょっとそれは聞き捨てならない。
今までの航海は常に巻き込まれてるんだけど、私の記憶とルフィの記憶に次元の差が出来てる。おかしいよぉ。
「このっ、バカ孫が!」
「ウゲッ、リー頼んだ。じいちゃん何とかしてくれ……!パシフィスタとなんかそこら中に居る海賊は俺が何とかするから」
「もー……」
じじがやってきたからルフィは苦い顔をした。修行を詰んでも苦手なものは苦手なんだねぇ。
私はルフィのリュックをアイテムボックスに仕舞うと、じじに肉薄した。
「むっ、よせ!お前は来るな……!」
じじはたじろぐ。
そうだね、私は実は──ガープ中将相手だと負け知らずなんだ。
「道、開けてくれぬの?」
「──開けます!!!♡」
さっ!とじじは避けてくれた。
「可愛い、抗えん……!」
「何やってんだガープ中将!」
「えっ、ダメ?私、海兵さん助けたのに……(うりゅうりゅ)」
「良いです!喜んで!♡」
おっほっほっ、これが修行の成果よ。
私の魅力は目が合うだけで相手を転がすことが出来るのだ……!
「リーお前……」
「何ルフ……あっやめてその目、いよいよ人たらしに拍車がかかってきたなみたいな目やめるすて」
「いよいよ宗教」
「やだぁ!ルフィからそんな単語引き出したくなき〜っ!」
能天気天然ルフィがツッコミに回ることもドン引きするのも割と解釈違いなんですけど!こちとら!
私が思わず顔を覆うとピピピッという機械音が聞こえた。これはパシフィスタが狙いを定めた音。
ルフィはその瞬間、JETピストルを叩き込んだ。
「はやっ」
そのスピードに思わず声が漏れる。
「あ゛」
そしてさらに私は悲鳴に似た声を漏らしてしまった。
ガタガタになったパシフィスタを見て。
「ぐ、っ、(軍艦一隻分……っ!)」
しまった、ルフィに任せるんじゃなかった!
経費が、かかる……経理が怒る……。トドメと言わんばかりにパシフィスタは爆発してしまった。爆発オチなんてサイテー!
「これが本物の麦わらのルフィの力……。まさかパシフィスタを一撃とは。わいはどうやら麦わらを見くびっていたみたいだな」
戦桃丸さんが初見のルフィをみて驚愕の声をあげる。いやごめんそこじゃない、パシフィスタの修繕費を先に気にして欲しい。
「る、るるるるルフィ!行こう!」
「んー、そーだな。皆待ってるだろうし」
私は慌てて箒に飛び乗るとルフィがその手を伸ばした。パシリと箒を掴んだ手を確認して飛び立とうとする。
「リー、全力前進!」
「あいあいさー!」
「──待て待て待て待て!金豹……っ!」
「ん?誰だおっさん達」
モーゼの海割りの様に道を開けた海軍の隙間に三つ巴の賞金稼ぎ達が集まっていた。
「金豹お前、どういうことだ!」
「おやぁ賞金稼ぎの皆さんじゃなきですか」
「本物の麦わらと何故そんなに親しく……って、まさか」
「……賞金稼ぎの皆さんには改めて自己紹介をしておかねばなりませぬね」
会えて賞金稼ぎという単語を強調する。
海賊を撲滅させる組織である以上、海軍が勘違いしてしまわぬように。
「──麦わらの一味の雑用。〝堕天使〟の名前を要らぬけれど頂戴してる、リィンって言います」
以後、よろしくね。
その気持ちを込めて笑えばよくペアを組まされる狐さんが憎らしい顔をした。
「全部、……っ、全部!」
「麦わらの一味復活まで隠れ蓑が欲しかった故に、お世話になりました」
「お前は全部嘘だったってのか」
「まぁ騙された方が悪いってことで」
「2年間も……!共に居ながら!」
「というわけでまぁ、さようなら」
「──カーネイ!」
潜入時の偽名を叫ばれる。
「約2年。ようやく海賊に戻れます」
「リー、行くぞ」
「うん!」
ルフィの声掛けに慌てて飛び立つ。空を浮かんだ私たちにその場はドヨドヨと混乱の声が沸き立つが、それらは無視した。
だって、割と中将達本気で狙ってるんだもん!急いで船に向かわなきゃ!
「リーってさ、不器用だよな」
「器用貧乏の塊を前にしてそれ言うぞり?」
「あのおっさん共わざと突き放しただろ?じいちゃん達に仲間だと思われないように」
「……何故わかった?」
「分かるよ、兄ちゃんだから。俺だって似たような立場ならそうした」
海軍に恨まれて賞金稼ぎの邪魔をされたりしたら、まぁシャボンディ諸島の治安にも悪いしね。
統率が取れている組織を潰されるよりはマシでしょう。
「ま、早いとこサニー号に帰ろう!」
「うん!」
「あ。ちょっと待ってくれ」
スタッと箒から飛び降りたルフィは遠く離れた木の根の上で胡座をかいていた男の名を読んだ。
「──レイリー!!!」
冥王。
その名を聞いて海賊も海兵も変わらずに動揺の声を出した。伝説の名だ。
「やぁルフィ。しばらく会わないでいたが、実に覇気が洗練されている」
「うん。レイリー、色々教えてくれてありがとう!フェヒ爺にもお礼が言いたいんだけど……」
「あいつなら船だ。船出の準備を教えているよ」
「そっか!なら良かった」
ルフィが嬉しそうな笑顔を浮かべていたが、中途半端な空白の時間が過ぎて私の視線が合った。
「……。リィン、その。すまなかっ」
「あ、謝罪は要りません」
どーせレイリーの事だから辛く当たってすまなかったとか思ってるだけなんでしょ。不毛不毛。
できるなら罪悪感を抱えたまま罪滅ぼしのつもりで麦わらの一味をサポートしてくれ。
「レイさん。私は──、パパがいますから」
「んっ!?あ、え?ちょっと待て。今君は普通なら『ルフィを海賊王にします』とかって啖呵を切るかと思ったんだが」
「パパはね、舵輪がくっ付いてるけど優しくてふわふわしてお揃いの髪色なのですぞ」
「あっっれちょっと待ってくれほんとに待って勘弁してください」
「パパって呼ぶすたら『なんだクレイ……マイエンジェル?』ってデロデロに甘やかすすてくれるんですぞ」
「センゴク相手の方がまだマシだった……っ、なん、なんの恨みが……」
心臓をグッと抑えて倒れ込んでしまった。あーあ、お前のせいです。
副船長はドSのくせして打たれ弱いなぁ。
「──じゃーなレイリー!行ってくる!海賊王になってまた会いに来るよ!うちのリーがごめん!でも自業自得だと思う!」
「ルフィ、君まで……っ!」
完封したレイリーを置いて再びルフィは私の後ろに捕まる。
「今度こそ行こう!」
ルフィは早く仲間に会いたいのか急かし気味に私の肩を叩いた。ハイハイ。
飛び立ち、ビュンビュンと風を受ければほぼ数秒。
虹色にコーティングされたサニー号が約束の場所で佇んでいた。
「おっ、スーパーやっと来たぜ。俺らの船長達がよ」
「あとお前ら2人だけなんだぞ」
「ルフィー!リィンー!うおおーー!!」
「2人とも早く!海軍が迫ってるわ!」
「ビリケツだな」
「たまたま1番早く着いたからって何を抜かしてんだてめぇ」
久しぶりに顔を合わせた面々に懐かしさが込み上げてくる。
2年間、長かった。
社畜してたから休む暇がほぼ無かったけれど、みのりのある2年間でもあった。
先程ニセモノを見ていた分……。
「……。いや、偽麦わらの一味似てたなぁ」
「どこがだ!?!?」
ウソップさんの久しぶりのツッコミが染み渡る。
「ほ、本物のリィンだわ……おおおおおちついて素数を数えるのよ私。1、2、3、5……」
「リィン、ナミは今リィン不足症って珍しい病気にかかってるんだ、あんまり近寄らないでくれ」
「ねぇーーー。二年ぶりなのに濃すぎませぬ……?」
呆れてものも言えないとはこの事なんだけど。
どうしよう、海賊船間違えたかも。
「僕、リィンが1番最初だと思ってたんだけどな」
「遅刻ね。予想が外れたわ」
「ごめんです、箒に乗り遅れるすた」
「あなたのさじ加減なのよ」
メリー号が不思議そうな顔をしていると悪ノリしたロビンさんにチクチク嫌味を言われる。嫌味っていうかドストレート悪口だけど。
「よし、落ち着いてきたわ。悪いわね取り乱して」
「なぁリィン、自分の写真持ってないか?少しずつ慣れさせようと思うんだ」
「あぁ、はい。どうぞ」
「ありがとう!!!!!!」
ナミさんはサングラスをかけて私から爆速で奪い取った。
うーん、怖い。
サンジ様はアフタヌーンの準備をし始めるし、フランキーさんのメカ仕様にルフィは目を輝かせてるし。
「──待たんか貴様ら!」
うわっ。レイリー退けてガープ中将がやって来れるの!?
「チッ、クソジジイが!」
「フェヒ爺!」
「待てルフィ!お前はいい加減にせんか!大人しくし……剣帝邪魔だ!お前もいい歳なんだから引退せぇ!」
「力比べは分が悪いんだがなあ!小僧、さっさと行け!」
「おう!ありがとうフェヒ爺!」
フェヒ爺が慌てたようにカトラスを手に取ってガープ中将に切りかかった。えーん。怪獣戦争勃発させてんじゃないよォ。
海から五、六隻の軍艦もやってくるし。
まあ海軍を動かしたのは私だけど、出航もドタバタだなぁ。
「──〝
砂がある筈の無い諸島で砂が海軍からの視線を遮った。
軍艦から放たれた砲弾が一瞬にして石に変わる。
「〝メロメロメロウ〟」
ちょっとした胃痛はしますよね。
「軍艦を止めてる?……あれは……九蛇海賊団ね」
「九蛇海賊団?」
「七武海よ。リィンの方が詳しいわね」
「というか九蛇はともかく陸にはクロコダイルも居るって」
「あらヤダ、サーじゃない」
「えーん!七武海だらけだァ!」
海賊女帝とクロさんがやってくるとは思わなかったけど、ラッキーな手助けだ。
「なんだ、ハンコックのやつも来てたのか……」
海賊女帝は軍艦の進路の先に居て、クロさんはそれを見たあと不機嫌そうなフリをして顔を顰めた。ちょっと喜んでるの分かってるよ。
「ボス!」
「Ms.ウェンズデー、さっさと海底に潜るこったな。これでも七武海、海兵相手に敵対するのはまずいんだ」
「おーいクロコダイル。それ儂に聞こえとるからな?おい?儂中将」
どっかでじじの声が聞こえてきたけど気にせずクロさんは視線を私に向けてきた。
「リィン」
「なにです?」
「麦わらの一味を辞めてうちに来い。引き抜きだ」
「お前クロコダイル!俺の目の前で堂々と口説くなコラ!リーは、俺の!妹!」
「という訳です。私の船長はルフィなので」
「今ここでシャボン割ってやろうか?」
「私がこの場にいてそれを許すとお思いで?」
思い通りにいかないからって即効脅しにかかるんじゃない。これだから七武海ってやつは。
こうなればお前の黒歴史メモリアルを出すのも辞さないぞ!
「なぁリィン。俺とお前の息子は元気か?」
「いやーー!!!やめるすてホントにガチで!勘違いされることやめるすて!!!!!????」
ねぇ待って、なんでこの場で口に出すの?どうして?セラフィムのイルの事だよね?ほんとにどうして?まじでやめて。本気で。
「……リィン、あなた」
「2年間って、充分だよな……?」
「えっ、ボスって、いくつだったっけ」
「お願いしますクロさん本気でやめるすてというかお前の方がダメージでかいでしょてめぇ!」
「お前を殺すためなら自爆も辞さない」
「辞せ!!!!!!」
「断る」
「本当に誤解なのですこんなクソロリコン変態女装癖ハッピートリガー薬物野郎なんざに子供とか居らぬのですあいつが末代」
「すげぇ早口」
思わず項垂れて泣いてしまった。
面倒臭い男やってんじゃねーぞ爪痕残してんなぁ!
うっうっ、私の子供であることは変わりないから微妙に否定しにくいの本当に嫌がらせの才能がある。だからセラフィムの存在バラしたくなかったのにストーカー三銃士が私のこと大好きすぎるあまりこんな世にも奇妙で不快な瞬間が……。
「あ、リーが死んだ。大丈夫だぞリー、皆で育てような」
「ぐふっ」
「やめてやれルフィ、とどめを刺すな」
私が死んでるすきに風船が膨らみ浮き袋も外された様で、帆も準備が出来ていた。
もうほんとに何でこんな目にばっか。
「リィン、愛してるぜ」
「悪意の塊!?鬼!鬼畜!七武海!塵!不憫枠!」
このタイミングはもう誤解される一方なんだってえ。うっうっ。涙が止まらない。
「
「し、師、ま、任せろ!(喜)」
「あ、フェヒ爺の事じゃ無きです」
「!!!!????(驚)」
まぁこの場に頼れるのはフェヒ爺くらいしか居ない……。仕方ないのであとは任せたよ。私の代わりに死んでくれ。
「はー、もういいや……どうせ麦わらの一味に戻ったからには胃痛ばっかなんだ……」
「やさぐれてんなぁ」
「こちとら三徹目なんですぞ!そろそろ寝かすてください!」
海軍忙しかったんだよ。
睡眠時間が削れるだなんて耐えられないけど、潜入再開するから引き継ぎも必要だったんだ。全部コビー君をメインに星組に任せてきたけど。
ダメージが治らない中、心に傷を抱えた私を気にせずにルフィがニッコニコ笑顔で状況を見た。
「そろそろ出航か、ナミ!」
「えぇ、いつでもどうぞ?船長」
ぶくぶくと浮力の無くなった船が海に飲み込まれていく。
「ほんじゃ野郎共!ずっと話したいことが山ほどあるんだけど!とにかくだ、2年間も俺のワガママに付き合ってくれてありがとう!」
「今に始まったことかよ」
「全く、お前はいつもそうなんだよ」
「驚きますたけどね」
海軍本部に乗り込んで3D2Yの文字を見た時、私は本当に胃痛で死にかけましたよ。
敵を作る天才。
妹を胃痛で殺しかけたことなど微塵も気付かないルフィは、帆を張れと号令を出した。
シャボンコーティング船は海流を帆で受けて海を進む。その為だ。
ドプリと船が海に沈み着る寸前。
「……後半の海で待ってるぜ」
クロさんが嫌な事を言った気がした。
「出航だー!!行くぞ、魚人島ーーー!!」
「「「「「「おーッ!!!」」」」」」
麦わらの一味の航海は今、ここで再開となった。
年末年始ですね!
麦わらの一味再開&原作入りにテンション上がって13000文字書きました。普段の1.5倍から2倍量。
掛け合い楽しいな〜!
わざと敵対することにルフィがちゃんと分かった理由は、この作品ではしてないけれど原作でコビーと別れる時殴って仲違いを演じれたからその頭はあるだろうと思って。というか初期ルフィ結構頭使ってるよな。当作品のルフィはお兄ちゃんなので割と初期ルフィのままなのかもしれない。
さて、魚人島編始まりました。大前提として色々違うところがあるので、過去の話を解説ついでに練りこみながら本編作っていきますね。まず大前提、オトヒメ生きてるし。