うちの島、10年くらいブーム変えてません。
救世主って知ってますか?
救世主は、魚人島で演説していたオトヒメ王妃を幼い人間の女の子が救ったことからそう呼ばれるようになったので、救世主ブームを変えなくていいんです。
逆に変えない分、エコだし精神にいいし何より英雄視するから
だから金髪と青いリボンが流行る様になったんだと。
「──へ〜、腕に銃弾を受けてでも庇った魚人島の救世主。それがリィンって?」
「ええ、身内贔屓はあるでしょうが、母は魚人島を未来へと進ませてくれる善い方です。母がもし亡くなってしまえば、魚人島は外海との交流もなく廃れていく一方だったでしょう。だから彼女は魚人島の救世主であり、我々王族にとって大恩人なのです」
長男のフカボシ様が過去に何が起こったのかを麦わらの一味に説明する。
いやー、あの時は海賊女帝に呼び出されて、呼び出された挙句
「いや、えっと、オトヒメ様を……救うすたは私では無いです……ぞ?」
さて、私たちの現在地はネプチューン王家が乗る乗り物、リュウグウ号の中である。
海賊であるのにも関わらず王子に囲まれ、護衛は私たちに背中を向けて警護していた。
これね、要は私たち海賊が警戒対象ではなく警護対象ですって言ってるようなもんなんだよ。つまり『お前が王族を傷つけることもお前の監視下で海賊を野放しにするわきゃねぇよな?』って言ってるようなもんなんですよ。プレッシャー!そこまで思ってはないんだろうけど、実際そういう意図なんだよ。
「ですがリィンさん、友人として一言言わせてもらいますが、貴女が庇ってくれなければ母は……」
「で、でも、あの時殆どの攻撃を防ぐしたは……四皇のシャンクスさんで……」
「シャンクス!?」
思わぬ名前にルフィは驚きの声を上げた。
「麦わらのルフィ君も赤髪を知っているのか?」
「うん!友達!」
「私とルフィは兄妹ですて……幼い頃シャンクスさん達と遊んだです。ちなみにあそこにいる鼻長はヤソップさんの息子」
「……あのもじゃもじゃとリィンさんが言ってた海賊の事か」
「はい」
「おい。人のオヤジをそんな風に言うなリィン」
ポンと私の肩を叩いた人物、オトヒメ様が応急処置が終わって戻ってきた。
「聞いていたけど、それは違うわリィンさん」
「母上」
「あの時赤髪さんは、『どうせリィンが居なければ魚人島に立ち寄らなかったから、俺たちが運良く居たのも含めこの子のお陰だ』と」
「ぴっ……!」
あの赤毛のクソ坊主がすでに余計な真似を!
なんでだよ!
褒め称えるなら私じゃなくて四皇でいいじゃん!あんまり目立ちたくないんだよォ!
そういやシャンクスさんといえば、ちらほらマリージョアで会うんだけど、お互い会いたくないからすごく微妙な顔になるんだよね。あの人なんでマリージョアに来れるんだろ。
「それに、国としても別の四皇に守られるより海兵に守られた方が、人間との軋轢を緩和するのに丁度い……──あ、ごめんなさい、内緒だったかしら」
「おー?俺たちリーが海軍にいたの知ってるぞ?七武海と仲良いのも知ってる!」
「全力で否定しても?」
魚人島の国境をくぐる時点で王族から何かしらコンタクトはあるような気がしてたから覚悟は決めていたけど、こんなに大歓迎ムードでガッチリ逃がさないように囲われるだなんて思ってもみなかったから本当に胃が痛いです。
「そういえば、しらほしがリィンさんにずっと会いたいと言っていたよ」
「しらほし、って?」
「私たちの妹でリィンさんのお友達だ」
フカボシ王子の言葉に私は思わず苦い顔をする。
会いに行きたくても深海だから中々会いには行けなかったんだよねぇ……。国王陛下とお会いするのもなかなかに気が重たい。
「てことは、王子様だけじゃなくて人魚姫様ともお友達って……こと……!?」
「ひょえ……ムギ……お前の仲間頭おかしいだろ……」
魚人島の住民であるケイミーさんとパッパグさんが私を恐ろしい目で見てくる。
失敬!あと私もおかしいとは思ってる!
「可哀想に、ずっと死んだ目をしてら」
フランキーさんが哀れみを含んだような視線を向けて感想を述べた。
アラバスタまでのメンツを見てみろよ、ちょっと慣れちゃってんだよこの状況に。
この場に慣れてない麦わらの一味はフランキーさんとブルックさんだけだぞ。ようこそ混沌へ。
「リー、よくヒーローとか出来るな」
「……何ですかその『ヒーローだと肉を分け与えなければならぬけど海賊はその肉で宴できるからヒーローなんて真っ平御免だぜ』と言いたげな言葉は」
「おお!正解」
「うーん、外れて欲しかった」
肩をすくめる。
胃痛が止まりませんよ私は。そんな感じで雑談混じりに海賊とは思えない丁重な扱いを受けながら一行は竜宮城にやってきた。
「すっげ〜〜〜〜〜〜!カッコイイ〜〜!」
サンゴ塗料を用いられた、御伽噺にも出てきそうなThe竜宮城。巨大な竜がとぐろを巻く様に建物の周りを囲っている。
巨大な門を潜れば、すぐにたどり着くのは謁見の間である。玉座にオレンジの巨大な人魚、国王陛下が座っていた。
傍には右大臣と左大臣もおり、右大臣はまた勝手に抜け出してフラフラしていたであろうオトヒメ王妃を叱り散らかしている。
あぁ、あまりにもお腹が痛いです。
だって、世界会議から全然会ってなかったしむしろ避けてたんだもん。女狐って黙ってたから負い目があるだけだもん。
いやほんとに許して欲しい。異端と言われようと政府から文句言われようと女狐は魚人島の保護や交易や会議参加権の保護に尽力したんだから。……まぁ、うん、書類上だけで実態は見に行ってないけど。
「リィン!ルフィ!」
「あ、ジンさん」
「……!ジンベエ!」
ネプチューン王から少し離れたところにジンさんも居た。
嬉しそうに飛び掛ろうとするルフィの腕をぎゅっと掴むと暴走海列車みたいな勢いを収めることが出来た。
「……?」
「お久しぶりです、ネプチューン王。お元気そうで何よりです」
「リィン君、久しぶりなんじゃもん。リィン君の仲間たちもようこそ。魚人島は君たちを歓迎するんじゃもん」
「海賊の我らに身に余る光栄です」
流石の私も、簡易的とは言え丁寧な挨拶になる。
「……すげぇ、リィンが不思議語を封印できてる」
「リィンの修行のせいかってわけね」
「素の時は違うとはいえ、あの不思議な口調も聞こえないと少しもの寂しいものですねー。私、聞く耳無いんですけど」
背後でうるせぇぞ麦わらの一味。
「リィン君は見ない間に随分大きくなったんじゃもん。数年前、稚魚の大きさくらいしか無かったリィン君に魚人島を救われて以来、全然会えてなかったんじゃもん……」
「そーだそーだ!リィンもたまには遊びに来たら良かったのに!」
「マンボシ、無茶を言っては行けませんよ。人間は魚人島に1度来るだけでも命懸けなのですから」
キリキリと痛む胃に気付かない振りを一生懸命する。そうそう、危ないからね、そんなに来れないよね。あのジジでさえ魚人島行きは渋るくらいなんだもん。
「あの白ひげ達でさえ頻繁に来るのは難しい場所。無茶は言えんのんじゃもん」
「……白ひげさん達は戦争以降魚人島に顔を覗かせましたか?」
「いや……来てないんじゃもん」
道理で新魚人海賊団だとかって雑魚が出てくるわけだ。海賊はほぼ一方通行だし魚人島外の奴隷商とか張ってれば効率的に絞めれるもんね。縄張り確認とかリスク高いし。
「だが、人間の海賊相手には遅れをとらんよ」
『人間の』って枕詞をつけた以上、新魚人海賊団については気付いてそうかも。
そんな予想を立てておく。
すると複雑な表情をしたネプチューン王はルフィの方を見た。
「そして麦わらのルフィ君、先にお礼を言わせて欲しいんじゃもん」
ルフィ、そして一味は一瞬でキョトンという顔になった。
ネプチューン王はジンさんに視線を送ると、ジンさんは心得たとばかりに頷いて説明を始めた。
「2年前、そこのハチ含め、アーロン海賊団の暴走を止めてくれたじゃろう。わしはそれに対して深く感謝しておった」
「わし〝ら〟じゃもん」
「にゅ〜……ジンベエさん……」
私は思わず後ろを振り返ってはっちゃんを見た。
えっ、はっちゃんってアーロン海賊団だったんですか!?
「「……(ゴスッ)」」
「あぐっ!」
私の無言の心の叫びがなんだったのか理解したウソップさんとゾロさんに脇腹と頭を小突かれた。いや、ごめんって。
「特に航海士。わしは深く謝罪をしたい」
「え、わ、私!?」
ネプチューン王ではなく元王下七武海のジンさんが王に代わり感謝と謝罪の言葉を口にした。ナミさんは深く頭を下げてる姿に動揺している。
「11年前……アーロンを〝
「……あぁ、うん、知っていたわ。リィンが教えてくれたような気がする」
「いや私じゃなきですよ!?」
た、多分。
最早私でさえ合ってるのか記憶に不安が生じるけど、確かゾロさんの知り合いの海賊稼ぎだったはず。
「わしは元王下七武海のジンベエという。この2年間、リィンからお主の事は聞いておった。本当に、謝っても許されないことをした。……申し訳ない」
アーロンが何をしていたか、というのは脱獄後にもジンさんに話していた。だから神妙な顔でジンさんは頭を下げる。その言葉を聞いてナミさんは俯き、震える声で確認するように問いかけた。
「──リィンが……私のことを話していたですって!!!!????(爆音)」
「ジンさん、このオレンジの事はまじで気にしない方が良きです。マジで」
もう罪悪感抱くだけ無駄って言うか。気にしてないまである。
「あー、ジンベエとやら。とりあえず戦争中はうちの船長が世話になった、感謝する。俺やルフィが最初聞いた話は『ジンベエが七武海加入と引き換えにアーロンを解き放った』ってもんだった。だからアーロンの黒幕がお前かと思ってたからな」
ゾロさんがナミさんの頭を押さえつけながらジンさんに話しかける。
「だが、俺たちは既にその認識を持ち合わせていない。アーロンの責任をジンベエが背負う事は無い、はずだ。そうだよなハチ」
「そうだ!アーロンさんがやったことは俺たちアーロン海賊団の罪だにゅ。ジンベエさんにはなんも関係ない!そもそも、七武海加入だって魚人島のためを思っての事だ!」
「まー。そもそも『王下七武海』だからな。黒幕ってことは無いだろ」
「む?何故じゃ?王下七武海と言えば、その、アラバスタのことを含め裏で企むような連中がほとんどじゃ。世間一般的に見て黒幕と取られても何ら違いは……」
「──リィン。」
「……非常に簡潔な説明を感謝する」
「解せぬ」
なんで私の名前ひとつで解決するんだよ。
「これ七だからな……。うちの一味じゃ七武海はとりあえずリィンに任せとけばなんとかなるというシンライトジッセキ?の認識だぞ、ジンベエ」
無言で引っ掴んでいたルフィを殴った。いてっ、と小さく呟かれたが無視しますよもちろん。
「なんと言いますか、当事者ではなき故に簡単に説明しますね。アーロンとジンさんには兄貴分がいて、天竜人から奴隷を種族問わず解放させた英雄フィッシャー・タイガーさんって人が居たですよ」
「……うむ」
「──が、表向き。本当はフィッシャー・タイガーさんも天竜人の奴隷で、『天竜人からの逃亡』と『天竜人への襲撃』という罪状で海軍に襲撃を受けたことがある、と。まぁ海軍本部内では割と有名な話ですね」
「リィン〜〜〜〜〜〜〜〜!お主、それは言っちゃダメだろう!?ほれみろ王家の方々が見たことないくらいのショックを受けておるぞ!?」
「その後ストロベリー中将……当時は少将ですたが、その方の報告書を盗み見っ、ごほん、たまたま見た感じ出血が酷かった故に死亡はほぼ確定ですね。合ってますよねジンさん」
「お主はこう!気遣いとかオブラートに包む事とかカナエさんの腹の中に置いてきたんか!?」
「いやぁ、だって不思議だったんですもん」
報告書によると、軍艦を奪われたと書かれていた。そして天竜人の奴隷リストに書かれていたフィッシャー・タイガーの血液型はS型RHマイナス。珍しいマイナスの血液は、一応軍艦にもストックされてあるけど……。
「人間と血をわかつべからず、って法律が当時ありますたし。人間が拒否したのであれば人間側に法律があるはずですが魚人側に法律があるので『魚人が人間の血を取り入れることを拒否した』としか考察のしようが無いですよねー。だって分け与える側はノーダメージですもん。受け取る側しか拒否出来ないでしょ」
「リーーーイーーーンーーー!!!」
「奴隷ですたら当たり前ですぞねぇ。なんせ七武海でも海賊じょモゴモゴモゴモゴ」
「リー、リー。言っちゃダメな事もこの世にはあるんだぞ?」
「プハッ!知らなければいかぬこともこの世にはありますが!?」
実は差別を無くす方法は簡単だ。
差別を教えなければいい、これに限る。差別するに至った背景とか恨み妬みを教えなければ、というか知らなければ差別のしようも無いもん。
「で、簡単に言いますと。『人間と仲良くしよう派閥・王家』と『人間は嫌いです迫害されたくない派閥・海賊』は、対立こそしないものの王家の足を引っ張るんですぞね。そして王家も、海賊の威厳を踏みにじる行為だったというわけです」
海賊になりたくてなった訳じゃない者もいるだろうけど、基本海賊なので。個人的には踏みにじられてもいいとは思います。
「で、フィッシャー・タイガーさんの奴隷解放という行為は自覚有り無し関わらず『王家が人間政府に馴染む邪魔』をすたわけ。よって、約9年前」
海軍に入りたてであたふたしていた時期を思い出す。……。いや、割とずっとあたふたしてるな。
「元王下七武海、ディグティター・グラッジ。フェヒ爺の弟ですね。彼の死で空いた空席にジンさんが座るました。これで『王家への邪魔をした尻拭い』をジンさんがしたわけです」
「リィンなぁ……」
「でまぁ、ジンさんの七武海加入と引き換えにアーロンが解放されたと。あくまでも『王下七武海、タイヨウの海賊船長ジンベエ』の船員。ですから、そのまま収監しておくのも何かと問題がありますた」
その後アーロンはタイヨウの海賊団を脱退してアーロン一味と名乗った。まぁある意味、アーロンを解放させるのは必要不可欠だったわけだ。
「……だから。グラッジを七武海から除名させ、アーロンを釈放させたのは私にも責任の一端があるって事ですね」
「リィン!?」
私はナミさんに海軍を代表して頭を下げた。
フィッシャー・タイガーの奴隷解放も、襲撃も、七武海加入も、アーロン釈放も、全てある意味しかたなかった。
でも、アーロンが海軍を買収して、それに気付かず一般市民を苦しめたのは海軍の責任だ。甘言に惑わされた海軍が、全ての原因だ。
ナミさんに最も謝るべきは魚人島でもフィッシャー・タイガーでもジンさんでも無い。アーロンと、そして海軍だ。
「私が嫌いなのはアーロン。リィンやルフィの友達の七武海がアーロン一味の黒幕でなくてよかった。確かにアーロン一味には酷い目に遭わされたけどそんな酷い渦の中、リィンに出会えたのよ」
「おーいナミー?リィンだけじゃ無くて俺達もなんだがー?」
「魚人だからって全てを恨んだりしない、だから謝らないで。捨てたもんじゃないのよ?私、今すごく楽しいもの」
「……っ!」
「それにあまりリィンが責任を感じるとあの手この手で閉じ込めて色々こじらせすぎちゃうから私の理性が働いてる内に謝るのやめて……」
「私悪く無きです!ぜーーーーんぶセンゴクさんが悪い!!!!!!」
そうだった、この人も海賊だった。
「ごほん。ちょっと色々衝撃があったが、魚人島の説明で欠かせない事があるんじゃもん……」
一段落着いたとわかった所で、ネプチューン王が補足のような形で説明を加えた。
「王下七武海をやめたジンベエがこうして竜宮城に来れる立場であること、それと王家が何をしているのかも」
「まぁわしの方は簡単な理由ではありますな」
「この島には海軍大将女狐の守護というか、保護があるんじゃもん」
「終わった……」
「また女狐かよいい加減にしろ」
「なんでこんなに名前聞くんだよォ」
「見張られてるみたい」
嘆く一味と胃を痛める私。
私悪くないもん。全部センゴクさんが悪いもん。
「七武海に魚人族が居なくなっても海軍が魚人族に対する態度は変わらず。むしろわしにとってはサブ七武海か?という様な扱いをしてくる。判断に困る……!」
あ、それは多分他の七武海と比べてジンさんがいいひと過ぎただけです。
海兵にとって全七武海の中から誰を窓口にするかと問われたら海峡のジンベエか鷹の目ミホークって相場が決まってるから。ミホさんは見た目が怖いので自然とジンさんに行くんだよね皆。かく言う私もそうだけど。
任侠基質だから地味に好かれてるぞ〜〜。他の海賊に比べてマシ程度、だけど。
「そういうわけで王家はジンベエに対する諸々の扱いを変えておらんのんじゃもん」
その言葉を口に出した時、扉からノックの音がなった。遠慮がちなノックの音だったが彼らはすぐに気付く。
「む、すまん。娘が来たようじゃもん。話の続きは直接妻から聞いて欲しい」
「──しらほし姫様の、おなーりー!!」
号令と共に、懐かしい人魚が現れてしまった。胃が、いたいです。
要は
・オトヒメ王妃が生きてるよ
・フィッシャー・タイガーの話もするよ
・女狐の保護があるよ
・胃痛
って感じの話の内容です。大前提というか、通常の魚人島と違う点があるので説明回みたいな感じですね。