フカボシは周囲から聞こえてくる声や評価に驚き一色だった。
麦わらの一味の船の上、人質として海賊に囚われていた国民を安心させるように声掛けをしながら改めて父親やジンベエが助けを求めた相手に対して認識を入れ替えた。
『クロコダイルと、ドフラミンゴと、ミホークと、ハンコックに聞いた話だが。約1週間後に麦わらの一味が魚人島に来るようです』
『すごい全部七武海』
『はは、いや何、七武海を辞めた身であっても仲良くしてくれる友人がいるというのはいくつになってもこそばゆいものですな』
七武海の称号を剥奪された現在においてジンベエの扱いは非常に複雑なものになっていた。
海軍からの保護も対して変わらず、魚人島にはその恩恵が多く与えられていた。未だ、世界会議への参加権は得ている。なんなら護衛が海まで迎えに行く話も出ているのだ。
世界会議の前に、新魚人海賊団をどうにかしなければならないという議題が上がる。
『リィンであれば』
『彼女であれば』
声を揃えて行った2人に、フカボシは当時こそ首を傾げていた。
母を救った救世主とは言え、過去に対する感謝はあれど未来を託せる様な人物には見えなかった。
「だが……!なんなんだこれは……!?」
「フカボシ王子?」
彼女の乗る海賊船の上で、避難させられた国民が不思議そうに見上げる。
「どうしてこんな事が…!」
彼女はたった数手。
ホーディの10年の計画に対して、わずか10分でほぼ全ての策を潰してしまった。
魚人と人間の関係性を悪化させずに。救世主というレッテルを剥がさずに。
ホーディを徹底的に悪役にした。
しかもただ悪役にしただけではなく、同盟を結んでいたはずのアーロンからも疑いの目で見られており内部不和が見られる。
「救世主様が我々の味方をしてくれているのですね!」
「人間の海賊は恐ろしいと思っていたけど、救世主の仲間であれば安心出来る!あそこまで魚人を想ってくれる人間はそういないだろう!」
「救世主様ー!」
「ホーディにさえ手を差し伸べるだなんて、お優しい方だわ……!」
助けられた国民がそう呟くのを聞いて、少し前の自分なら同じことを思っただろうと考えた。
魚人島の過去。
魚人島の未来。
リィンから語られたそれのせいで、ただ純粋に祈るだけの天使などではなく、策略を得意とする者の考え方をしみじみと感じられていた。
だから、やり取りこそは聞こえないものの『ただ手を差し伸べただけでは無い!』それだけは確信出来た。
悪人にも手を差し伸べる救世主?
そんな、生ぬるい考え方をあの少女が果たしてするのか?
実際、麦わらの一味はさも通常運転のように彼女の策略に惑わされずに国民を避難させたことから、普段の様子はそれだけで計り知れるだろう。
「あぁ本当に……!」
一体なんなのだ、あの救世主は。
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私が避難や国民の守りを担当したのには理由がある。それは守りの大将だから誰かを守るのに向いてるし、上空から全体をサポートして麦わらの一味の負傷を無くす為──などでは無い。
全ては、麦わらの一味の実力を把握するため。
2年間の授業期間を経て、どれだけ成長したのか未知数だ。2年前の感覚でいたらまずいだろうから、早急に実力を把握する必要がある。
それぞれの修行場所からちらほらとした報告は聞いていたけれど、おそらく想像よりも奇想天外な方向で成長するだろうことは容易に想像できた。
だからこういう大規模な反乱はタイミングに恵まれてラッキーだ。巻き込まれた、というか巻き込んだ魚人島の人達には申し訳ないけどね。ちゃんと救うので利用する事を許して欲しい。
「さて、と」
麦わらの一味は中央に船を置き、広場の外側に向かって敵対する魚人と戦っている。
中央の船、つまり私の真下にはフカボシ王子と国民。フカボシ王子には是非とも『国民を守る』という役目でいて欲しいですね。
私は無駄になにかするフリして適度に敵を爆散しておくので。
「ふむ?」
ビリーは静電気とは言い難い程の電気を纏う様になっている。エネルさんとの旅は常に帯電していただろうから底力を伸ばす様になったのだろう。
帯電して突撃する姿は黄色い雷光そのもの。まるで隕石みたいな威力で突撃する方法で敵をなぎ倒していた。
あぁ、魚人島に入る寸前で絡まれたハモンドだっけ、あの魚人が吹き飛ばされている。
ビビ様は蛇腹剣を使って中距離攻撃をしていた。固定砲台や罠の様に剣をしならせ、近寄らせる隙などなく攻撃しているがその暴風雨みたいな攻撃に敵が避け始めた。
するとカルーがビビ様を乗せ、縦横無人に駆け出した。空を飛べることは分かっていたけど、低空飛行だが人を乗せて飛べることも出来るのか。ビビ様は最初こそそのスピードについていけなかったが、時間が経てば阿吽の呼吸で敵をなぎ倒していった。うわぁ、武闘派になってる……。クロさんどうやって魔改造したの。
メリー号は木槌を持っておりクラバウターマンの性質でその大きさを変化させる戦い方をしていたが、その性質は変わらず、その代わり小麦粉をたまがわりに、木槌をバット代わりにして野球していた。うーん、人生楽しそう。
あの子は戦闘力自体には変化なし、かな。
残りの麦わらの一味はある程度報告で聞いた範囲と重なっている。
ブルックさんは魂だけの幽体離脱ができる、みたいな事をシーナが言っていたけどそれは流石にないだろ。というかあってくれるな怖い。
そして身の軽さを利用して剣技のスピードがモーニングスターを振り回す速度より早いってどういうことだろ。
フランキーさんは巨大ロボを取り出すし口から炎吐き出さすし魔改造がすぎる。そろそろ人権を取り上げてもおかしくないくらいロボ力増えてるな。本人の戦闘能力はさほど変わらないが、手数が増えた感じ。
ナミさんも戦闘能力は変わらないけど、クリマタクトを魔改造したせいかえげつない程天候を左右させている。雨をふらせたり雪をふらせたり雷を振らせたり、不思議色の覇気でもそんなことできない。奇術師かよ……。チュウとか言われる魚人の攻撃を頑張って避けているけど微妙に避けてなかったので少しサポートしたけど、一撃が強力すぎてチュウは丸焦げになっていた。
ロビンさんも戦闘能力は変わらない。のだけど、なんか増殖してない?ハナハナの実って増殖を可能にしてたっけ。敵を翻弄するやり方に慣れが見える。
この人は知識寄りの修行場所だったとは言え、能力の多彩さがすごいな。
戦闘能力の変化と言えば1番特出しているのはチョッパー君だろうか。ランブルボールなしの肉体変化を可能としているし、防御攻撃共に優れている。立派な戦力のひとつとして数えて良さそうだ。
彼が飛ばされた先はどちらかと言うと文明や薬草知識豊富な箇所だったので、環境から考えて伸び幅が素晴らしい。
チョッパーくんの知識特化とは真逆に、サバイバルに身を置いたウソップさん。植物を用いた攻撃の手数はさることながら、回避能力の向上が凄まじい。しかも彼は狙撃手、遠距離攻撃が花道。その遠距離戦のプロが接近戦でこんなに立ち回れるとは思ってもみなかったな。しかもスピードタイプの敵に。地面を潜っているとは言え、多分ウソップさん見聞色も身につけかけているんじゃ……?
そして。
やはり特出すべきはこの3人だろう。
超戦闘能力特化の育成場所が選ばれた麦わらの一味の戦闘の要。
サンジ様は空を飛んでる。六式に似た走り方で空中を飛び回っている。私のアイデンティティが消え去ったよ。
武装色と見聞色も身につけ、足の摩擦も炎どころかマグマにも近い熱気を放っている。蹴られた場所から焦げたお肉の匂いがする。
問題点をあげるとすればフリフリドレスを来ているせいで足をあげた時パンチラすること。うーん、レイジュ様達に土下座してもしたりない気がする。なんて報告しよう。
ゾロさんはにゅるにゅるうごくタコの剣士を相手にこれだけで充分だとかミホさんの真似をしながら腕1本で切り裂いた。もう一度言う、腕1本(刀なし)だ。嵐脚の腕版、と言っても構わないだろう。もちろん刀も使っているけれど、3本使うほどでも無いらしい。広場が抉れてるからちょっとだけ威力下げて欲しいな。
武装色はもちろん見聞色と、あとほんのり覇王色。比率は武装色に全振りしているけれど。
成長してない所を上げるとするなら方向音痴くらいしか無いかもしれない。むしろ悪化の一途をたどっている。ふざけるなよ戦力。
「小娘ぇ!!どこを向いてる!」
水滴を空中にいる私に飛ばしながらホーディが叫んだ。
「えーん、危なきぞりー」
「余裕で避けてるだろ」
そう、実はヘイトを集めすぎた結果さっきっからずっと攻撃され続けていたのだ。体格も筋力も敵わないので空に逃げていたのだけど、遠距離攻撃手段がひとつしかないせいで私にずっと避けられ続けているのだ。
近くを通りかかったゾロさんが呆れたように私に言った。
「見聞色の覇気使いには敵の箇所の指示しませぬから、ちゃんと見聞きすて船に寄せぬ様お願いしますぞ?」
「むちゃいいやがる。どこが押されてんだよ」
「はぁ、ゾロさんメリー号方面で暴れるすて」
「ん」
麦わらの一味の戦闘能力と敵の戦闘能力をある程度計算して一味のまもりが弱い部分に少し多めに戦力を当てていく。
「メリー号、ゾロさん来たら交代。今度はサニーの後ろあたり」
「はぁ〜い」
「ナミさんウソップさんと合流すて雨よろしくです」
「こっちは誰が入るの!?」
「サニー号が来ます。それまで私が持たせる故に」
ドコン!と土を壁のように生やすとナミさんに行ってらっしゃいと手を振った。
ナミさんとウソップさんで合わせて大部分の雑魚を削ってもらおう。
ちょっとずつ、ちょっとずつ。
確実に敵の戦力を削る。
「(あぁ本当に、上でリィンが見てるって言うのは──恐ろしくて、酷く安心する!)」
「(監視されてるような気がするけれど、それよりもリィンが居れば誰も倒されることが無いって背中を預けれる)」
「(俺たちはリィンちゃんに頼らないために強くなったのに。全てを見通す彼女にひとっつもたどり着いた気がしない…!)」
「(ひとひねりで倒せるほど弱い癖に、どうしてか捕食者に見える)」
「リーは、怖いな」
ルフィが私を見あげながらそう言った。
「なぁ、リーはどこまで見えてるんだ?」
私はルフィを見下ろしながら言った。
「どこまでも。そのための2年間ぞ」
貴方が海賊王に至るまでの道は全て。
「麦わらぁ!」
「──アーロン!」
ルフィはこの2年間で呆れるくらい強くなった。最初の1年の段階で、エースが滞在していたりサボが遊びに来たり。対等な実力で切磋琢磨し、格上相手に揉まれ続けた。
覇王色、見聞色、武装色。そして悪魔の実の能力に至るまで。
「……怖いのはそっちぞり」
いままでだって制御出来た気はしないけど、制御出来なくなった時点で私の命は危ないだろう。
どうか善良な、ヒーローみたいで主人公みたいな
モンキー・D・ルフィ。
「てめぇ!こっちを!ちったあ見向きしろ!」
「リィン、ホーディを無視せんでくれ」
「ジンさんそれは無理な話ですぞ」
戦闘描写はいかにしてサボるか、これに命をかけている。