ホーディは底知れない恐ろしさに身を置いていた。
バンダーは麦わらか救世主のどちらかにマトを付けたいのに、軽々しく避けるせいで大して強くない彼は役ただずのまま。
アーロンは2年の時を経て強くなっているはずなのに、麦わらはひょいひょいと見えなくても避ける。
そして自分でさえも、まだまだ子供の女相手に一撃も入れられないでいる。
「(ちまちまとうぜぇ…!)」
ジッと真っ黒な瞳で動きの一挙一動を観察され、至近距離でエネルギーステロイドを過剰摂取した状態であっても簡単に見切って避けてしまう。
下等生物はたった2人だと言うのに魚人族がまるで遊ばれている様だ。
リィンはくすくす笑みを浮かべて、馬鹿にしたようにせせら笑う。
「おっそぉ」
「〝撃水〟!」
「きゃあこわい!」
カッとなりホーディはお望み通り速い攻撃を放つも、リィンはわざとらしい悲鳴を上げて避けた。
「ぐわ!」
しかし、攻撃の直線上にアーロンが居たのだ。
「ホーディてめぇ……!」
「すっすみませんアーロンのアニキ!」
ルフィに攻撃を仕掛け、避ける。そんな厄介者を相手をするアーロンに『味方』からの攻撃が思考回路に入ってるわけが無かった。
全神経をルフィに注いでも実力差が浮き彫りになるというのに、そんな屈辱的な場面で味方からの攻撃を受けてみろ。
あっという間に『敵』だらけだ。
「どさくさに紛れるすて、アーロンを亡きものにしようとやはり企むすてたのですね」
リィンがそんな現状を言語化するものだから、アーロンは苛立ちホーディも集中力を欠く。
援護をしようとしていたバンダーだって『次は俺かもしれない……ハズだ』とホーディを警戒せざるを得ない。
ホーディも、アーロンも、バンダーも、協力していたはずの同盟はあっという間に孤軍へと変わった。
「リー、俺もなんか考えた方がいいか?」
「不要ぞり、バンバン攻撃すちゃって」
「おー!」
味方同士の人間は2人とも背中を合わせて認識のすり合わせをした。
再び乱戦が始まる。
ルフィは攻撃をし、リィンは避けるだけだ。
「〝鮫・ON・ダーツ〟」
「うぐっ!」
ただ、アーロンの攻撃はホーディにも当たる。
リィンに意識を割きすぎたり視界が見えなくなるとあっという間に『敵』の攻撃に当たる。
ルフィのアーロンを狙った攻撃がホーディに当たり、ホーディのリィンを狙った攻撃はバンダーに当たり、バンダーの攻撃はホーディに当たり。
当たり前だが攻撃のしてないリィン以外から、ホーディは攻撃を食らっていた。
それら全て。
目の前でチラチラとウザったいこの小娘が仕組んでいることは容易だ。
「で、気付くすたところで私を叩きのめす能力の無きお前に何か出来るです?」
無視しようにも神経を逆撫でする救世主サマの言葉にホーディは短気にならざるを得ない。
「お前だけは……!必ず殺す!」
ホーディは空っぽの憎悪を抱いていた。人間に何かをされた覚えもなければ言い伝えられた軽蔑と差別を一身に受けた空っぽの怪物。
魚人族は長きにわたる差別と迫害を受けてきた歴史があるが、経験を伴わない自身の憎悪は想像の中にしかない『人間』に向けられてきた。
曰く、魚人族の恨みと怒りだけを食ってきた男。
その空っぽの憎悪に液体が注がれる。
実態のない恨みは鮮明になっていく。
「そうか、お前ら、人間だもんな」
ホーディはキリサメという武器を取りだし、バンダーのために張られていたノアのシャボンに大きな傷口を作った。
「やめろホーディ!」
「海に溺れて!死ねぇ!」
バンダーの抵抗も虚しくボコりと空気が船から無くなっていく。
「リー!」
「ルフィ!」
バブルサンゴを取り出したリィンの手元を狙い撃ちするようにアーロンが撃水を放ち、頼りの綱が壊れる。
ここでこの人間を殺したい。恨めしい。憎らしい。募る想いはもう彼を『空っぽの怪物』にさせなかった。
──だが、今更満たされたところでなんだと言うのか。
==========
海水が押し寄せてくる。
シャボンは作れない。
この場の能力者はバンダー・デッケンとルフィ(と私)のみ。
つまりホーディはバンダー・デッケンを切りすて、私とルフィを溺れ殺す気だ。
呼吸、身体機能、水圧。
どれをとっても死ぬ。
……私が普通であれば。
「──〝
言語的な意味ではアブソリュートではなくアプソルベなのだけど、慣例に習う。
すると私とルフィの体に押し寄せてくるはずの海水が、吸収されたせいで空気の膜が出来た。
「お?おお??」
「ルフィ、バンダー・デッケンを船の外に」
「任せろ!これすげーなリー!」
海の中にいるのに浮力や水流に制限されない動きにルフィが驚き、ブンブン腕を振り回してバンダー・デッケンをひっつかむと無力化された男はふよふよと海を彷徨うことになった。
「なんで、なんで下等生物なんかが海の中で生きてるんだよ!」
発狂するようにホーディが叫んだ。
「ジャーハハハ!面白ぇ能力だ」
アーロンは焦りを隠すように笑った。
2人は海の中を自由自在に動けるが、ルフィも私も甲板に足をつけていないと立位を保ちづらい。浮力の影響を受けない分、空を飛んでる敵を相手にしている状況。
もちろん、空と言えば私は箒があるけれどルフィは海底までの距離もあるためノアから離れられない。上空で戦っているようなものだし。
「ルフィ、足場は任せるすて」
「おう」
まぁもちろん?これも私が普通じゃないので?楽々クリアさせていただきます。
──〝
足場に使える氷をアーロン達に向かって坂道みたいに作れば、あとはルフィに任せるだけでいい。
数日間、命を奪い合わない程度を見極めて昼夜問わず監視した同僚の技は嫌ってほど見たもんで!
「〝撃水〟」
「魚人柔術……〝水心、群鮫〟!」
海水を使った技が私とルフィに放たれる。
私はそれを避けずに受け止めた。
「なっ!?」
「ふーん、なるほど?」
状況は限定されるけど、私の想像通り『吸収する海水』は周辺のみならず海水の攻撃も吸収してしまう様だ。
自然系の攻撃も吸収出来てしまうのか少し考えてみよう。やっぱり体から離れたやつじゃないとダメかな。
「効かないねぇ、水だから」
「リー!」
ルフィの真似をしたのがバレた。
ルフィが氷をつたって戦い始める。
ルフィの踏み出す足元に氷を生み出し足場を作る。強く踏みしめても壊れないように。
あっ、そっちじゃなくてこっちこっち。
ルフィも魚人も縦横無尽に動くので、アーロンとホーディの間合いに2人を近づけてお互いを阻害させ合うように調節する。
ルフィの誘導も氷の足場を作って簡単に出来た。
ノアを沈ませないようにする浮遊、海水を吸収する技、氷の足場。3つの不思議色の覇気を行使する上に3人の動きを観察して誘導する。
いやぁ、我ながら優秀すぎるね。
「〝ゴムゴムの…──」
ルフィの伸びた手が私の横を通り抜ける。
私は海流を操作して避けようとする魚人2人の行動を阻害した。
「──
火拳だ。
海の中でもチリッと熱くなった。
ルフィの攻撃を前にしてアーロンとホーディがまとめて吹き飛ばされる。
あ、これ意識飛んだな。
「ルフィ、お疲れ様ぞ」
「リーもお疲れ。いやー、助かった。それにしてもすげぇな……リーはどこを目指してるんだ?」
「海賊王の右腕、とか?」
「いやぁ、それはちょっと」
「なにゆえ!?」
兄に断られるとは思ってなかったんだけど!
「さて、ノア。私のジョイボーイを乗せたのですから、多少の閉鎖空間は我慢してもらうですよ?」
箒を取り出して未だにシャボンを圧迫している大きな船に語りかける。
箒に飛び乗れば、ルフィに視線で合図を送る。乗れ。今すぐに。
「分かった!」
守る相手が居なかったからか怪我ひとつしてないルフィ。軽い足取りで飛び乗れば、私はアイテムボックスでノアを仕舞った。
「しまえた!」
「リー!水が!」
ノアは随分大きかったので、その大きな物体が無くなった瞬間大波が空いた空間に押し寄せた。
「ぴぎゃ!!!???」
アブソリュートだけはずっと頭の中にイメージを続ける。これが無くなったら絶対死ぬ。思いがけない状況に一瞬でパニックになった。
しかし、まてどくらせど私達に衝撃が来ない。急な波が押し寄せてきたけれど、アブソリュートの前に無事だった。
攻撃どころか波の勢いも私に触れないから当たったことにならないのか。
自然現象限定の無敵バリアと言っても過言では無いかもしれない。
もちろんあくまでも『海を吸収』でしかないのからここに炎が当たればイメージが上手くいかず当たっちゃうのだけど。
あー、無敵のバリアとかそっち系が想像出来たらいいのになぁ。残念ながらそういった悪魔の実の能力は見た事ないし、武装色しかイメージ湧かない。
「………………リー、俺な。この技結構やばいと思うんだ」
「わ、私もそう思う……」
どちらにせよ、ルフィのこの発言は真理だと思いました。