──少し前
「マスター!ロー氏が追い返すはずのスモーカー氏に、ビスケットルームのガキ共がみられて!」
「ブッ!なんだってぇ!?海軍に見られたのか!ガキ共を!」
「えぇ……!」
「1番恐れていた事だ……!」
研究所でガスを纏ったシーザーが、飲んでいた飲み物を思わず吹き出す。
4年前、実験失敗などと言われた兵器の爆発を引き起こしパンクハザードは毒ガスの蔓延る土地になった。
当時の科学班のナンバーツーだった男、シーザーは常にベガパンクと対立しており、その事故ではベガパンクは責任者として名前を挙げられていた。
実際兵器を作り爆発を引き起こした張本人はシーザー。兵器は毒ガスを巻き散らす殺戮兵器と化した。単なる殺戮兵器の開発は犯罪である。そしてその犯罪で一度捕まったはずのシーザーは、監獄船から脱走し姿を消していた。
その隠れ場所がパンクハザードである。
パンクハザードでは、兵器、薬物の開発と実験が繰り返されていた。島の1部には、監獄代わりとして囚人が連れて来られており、モルモットのように人体実験をされていた。
事故の爆発は有毒物質をまき散らし、島の命を全て奪い去った。実験体の囚人を置き去りにし、その囚人は、神経ガスのせいで主に下半身の自由などを奪われていた。
シーザーが現れたのは1年後だ。再び舞い戻った。シーザーは己の実験で起こった副産物である毒ガスを浄化し、囚人たちを部下として受け入れた。
己が犯人だとバレないように、ベガパンクを悪に仕立て上げ、己を救世主だと称えるように。
「戻った」
過去を思い返していれば、誘拐したガキ共が海軍に見られる原因になった男が戻ってきた。
「テメェなんてことしてくれたんだロー!」
「文句があるのはこっちだ。シーザー」
海軍を消すのは手間がかかる。口封じとして、スモーカーを殺せば海軍本部は怪しむだろう。
「よりにもよって、女狐の部下に見られやがって」
「ハッ、最悪な情報を出してやろうか?海兵が1人海賊によって誘拐された。スモーカーは引きやしねぇぞ」
「なんだと!?」
「海兵共は海賊を追いかけて行った。潰し合ってくれることを願っているよ」
シーザーはふむ、と考え込んだ。
海軍と海賊が潰しあって、海軍が敗れればたまたま舞台がパンクハザードだったというだけで、死亡原因を押し付けられる。
「で、招かれざる海賊はどこの誰か分かったか?」
「えぇ。分かったわマスター」
秘書であり鳥人間として諜報活動もできるモネが瓶底のようなメガネを外しながらシーザーに言った。
「麦わらの一味だったわ。2年前に消息を経った海賊ね。貴方なら詳しいんじゃなくって?2年前、助けたんでしょ」
「まさか引き入れたのかロー!」
「そんなわけがあるか。あんな作戦クラッシャー共を!」
「でもお前巷じゃドジっ子なんて言われてるからなぁ。わざとじゃなくても有り得そ………………ん?麦わらの一味。どっかで聞いたことあるな」
「マスター、あの子よ。リィン。マスターのお気に入りの」
「……あぁ!リィンの入った海賊団か!シュロロロ!なんという幸運だ!」
不機嫌から一転して上機嫌になったシーザーの態度にローは流石に疑問符を浮かべた。
「知ってるのか」
「まぁな」
スキップでもしそうな程のニコニコ具合に、ちょっと引いた。
「よし。刺客を向けるのはやめだ。ロー、リィンを連れてこい。五体満足だ。お前の能力なら簡単な話だろぉ?」
「(合意で連れてくるか)……分かったが、どうする気だ?」
「シュロロロ……!モルモットにしてやるのさぁ」
==========
──現在
「移動が楽」
「担がれてるだけだろ」
こんにちは、リィンです。私だけローさんに誘拐されてえっさほいさとシーザーの元へ向かっているところです。
ローさんの目的が『私の誘拐』だったので、一旦大人しく捕まってる最中。
「海軍に聞かれてると考えたら同盟交渉を麦わら屋に持ちかけられなかった」
「それは申し訳ないです」
「シーザーは麦わらの一味と海軍が争っているのを期待していたし俺もそう予想していたが」
「なんででしょうね♡」
「……ところで白ひげの幹部が居たのは、俺と妹屋の契約に関係する経緯か?」
「いいえ、あの二人は偶然です」
さてさて、目的の整理を行おうか。
「まず、私とローさんの共通目的はドフラミンゴの失脚です。嘘偽りなく、そうですぞね?」
「あぁ。シーザーは人造の悪魔の実をカイドウに卸している。シーザーを誘拐し、ドフラミンゴとカイドウをぶつけるつもりだ」
「……まことに?」
私が疑いの目で見れば、ローさんは息を飲んだ。
「私、これでも貴方の過去ぞご存知ぞり。もう一回、聞くですね。──本当に?」
「…………はぁ、やりにくい」
「ちなみに言うすておきますが、うちの海賊団はこのままだと間違いなく、別ルートでカイドウとぶつかるですよ」
「は!?」
「だから、吐くなら素直に吐くすてください」
それでも素直に吐かないので、私はきっちり口に出した。
「ドフラミンゴに復讐し、そのヘイトを麦わらの一味に向けさせる。ローさんが単独行動である以上、カイドウの視線はローさん個人より麦わらの一味に向かう」
「…………本当にやりにくい」
図星だったようだ。
当たった当たった。そうだよね、私ならそうする。
「麦わらの一味への説得は私に任せるすてください。後、ルフィにとって同盟ってのは『お友達』だと思うすてます」
「……?」
「主導権を握ろうったってそうはいかぬですよ。ルフィに関しては、ほんと、本当に……」
「苦労してるな」
ザックザックと雪を踏みしめながらローさんが研究所に向かう。うぅ、寒い。
「まぁ、自分勝手なやつに振り回されるのは慣れている」
「船長なのに?」
「まぁな。革命軍の……誰かに」
「適当過ぎませぬ?」
そういえば私とローさんの出会いも革命軍に用事があって行ったタイミングだったな。
「とにかく、交渉材料にするために『シーザーの生け捕り』は必須だ」
「ですね。で、『子供達の保護』も条件として必須ですので」
「……それは同盟に関係ないだろ?」
「ところがどっこい。大いに関係ぞ出てきた」
私は秘密主義なので、理由は言わないけど互いに必要になってくるんだよ、ローさん。
「もちろんそのために海軍は利用します。海軍に子供ぞ保護させて、海軍の身動きも取れなくさせるです」
「なるほどな、スモーカー対策もあるってわけか」
「はい。故にたしぎさん誘拐したです。たしぎさん、というか女性は子供に弱いですからね〜。血なまぐさい関係を見せないように努めるでしょう」
嘘だけど。
子供がいようがいまいが、海軍は私達になんだかんだ言って手を出さない。なんせ部下だからね。
『子供の精神衛生上』って言う、攻撃を留める理由を海軍にもたらしただけだ。海賊にはそういうポーズは必要だからね。
「エニエスロビーが懐かしいなぁ……」
「急になんだ」
「いえ。生き証人って、大事なんですよ」
それではシナリオの最終確認をしよう。
「私を誘拐された麦わらの一味はローさんを追う。麦わらの一味が誘拐した子供たちの保護と、同じく誘拐された海兵を追うすて海軍も動く」
「そうだな」
「あと子供に投与した薬品のデータもほしきです。子供達の毒、ぜーんぶ吸収すたので」
「シーザーが妹屋を求める理由が分かった気がする。妹屋が囮みたいな形になるが、危険性は無いんだな?」
「おそらくは」
シーザーの毒に耐えられれば、だけどね。
「今はシーザーの誘拐と子供の保護と投薬履歴の記録を優先しましょう。大丈夫、他はぜーんぶなんとかなるです」
ローさんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。おや、望み通りの流れに持って行けるはずなんだけどなぁ。
「どうすたです?」
「気味が悪い。なんだか、俺も含めて全部掌の上で転がしてそうで」
「ローさんにだけですぞ。これを見せるの」
計算の途中式を見せるのは頭のいい人にだけだ。
特にローさんは基本疑り深い。それに個人的に大きく協力を得たい人。
「ローさん」
「なんだ妹屋」
「ローさんだと、主導権は握れぬですよ」
私さえ主導権を握れないんだから、麦わらの一味を使おうったって計画通りに行かないだろう。
ここは尻拭い先輩の私に操縦は任せて欲しいかな。
「…………というか、何も説明してなかったのにシーザーとドフラミンゴとカイドウの関係性によく気付けたな」
「義務教育ぞ?」
「そんな義務教育あってたまるか」
==========
「俺の愛しのモルモット!」
「……シーザーぁ」
「よくやったロー!」
ローさんに担がれたままの私が、手渡しでシーザーの手に渡った。
「ろくな抵抗も無かったが、シーザー、どういう繋がりだ?」
「ん〜?俺は元々海軍の科学班にいたんだ。リィンも元々海軍の雑用でな〜。うふふ、久しぶりだから前回の毒から再度試してみるか〜」
ウッキウキで私を抱っこしたまま毒コレクションを開いた。
片手で大人しく抱っこされている私は、足と手を組んだ。
「シーザー、温かいの飲みたき」
「吐かねぇなら甘いココアを用意してやるよ」
「私が吐くとでも?あ、お菓子欲しい」
「日持ちするものしかないが、全部持ってこよう!」
「シーザー!お腹ペコペコぞり。ご飯も食べたき」
「シュロロロロ!まぁいいだろう、実験がある程度終わったら、望み通りのものを用意してやるよ」
私に甘いシーザーに、ローさんと鳥人間の女の人は目を白黒させている。
「世界で一つだけの、貴重なサンプルだからな」
「サンプル……」
「リィンの毒耐性は俺が作り上げたと言っても過言ではねぇ。シュロロロロ!」
「まぁ、確かに」
「単に少しだけ毒に強い、だけだった小娘に!月に2回!はたまた長期的な摂取。徐々に強くして耐性をつけたのは、俺だ。強いていうなら、抗体が作られる速度が速いだけの素質。俺の手に入れたありとあらゆる毒の抗体を作り出すようにしたのさ!……あの、抗体作成の速度が早すぎてもはや並大抵の毒じゃ効かなくなったのは想定外だが。いつ毒殺出来る?」
私に聞かないでくれる?
確かに、そんじょそこらの海賊が入手出来る毒を克服したってだけだ。それだけならまだ一般的な限界値。それを無理矢理引き上げたのは、このマッドサイエンティストが治療と騙して定期的に新しい毒を入れていたから。
「マゼランでさえ己の毒でやられてほとんどの時間をトイレで過ごしているって言うんだ。こうして毒を入れてもケロッとしているリィンの最高さが分かるだろう。──あーんしろ」
「あーん」
口を開けば飴玉が放り投げられた。シュワシュワと口の中で煙みたいな甘い何かが広がる。
あー、麻薬ね。
「シーザー、私これでも16歳」
「もうそんなに経ったのか!?だが、まだまだ子供だ!」
「シーザーこれ効かぬです」
「チッ、麻薬系は弱いな。依存性も……無いだろうなぁ」
「でも美味しい!もうちょっとちょーだい」
「依存性…………?」
恐らく子供に与えていた物だろう。証拠になるので、何個かおねだりして懐に入れた。
「ジョーカーに伝えるのは勿体ねぇなぁ」
「ジョーカー?」
「ん〜〜?大人の事情だ、お姫さまは知らなくていいぞ?」
シーザーの脳内イメージが子供のままでずっと止まっている。
良い事だ。
「そっかぁ。なればいいです。んで、次は何するですか?」
「一旦血液を。採って、入れる」
「はぁい」
採血して、そのまま毒を入れて経過を見るんだろう。血液、貴重なサンプルなんだから大事にしてよね。
「私ルフィ達の所に戻れる?」
「ん〜〜後でな〜〜」
「まぁいいや」
注射をされながら私はシーザーの腕の中で体重を完全に預けた。
「んじゃ、おやすみなさい」
「待て待てまだ寝るな、経過を報告してから……」
「どうせ効かぬって……」
ローさんの『お前本当にどういうことだってばよ』的な視線をガン無視して、私はずっっっっと我慢していた寝不足を解消するためにお昼寝を始めた。
おやすみ、シーザーの片腕は固定しておくから他は宜しく。