2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第30話 黒い夜空と赤い空気

 

 

「今から行くのか!?」

 

 エースが仰天した声をあげた。

 

「勿論ぞ」

 

「お前、熱がまだ引いてないのに!?」

「今動かなければ手遅れになるぞ」

 

 世界貴族の訪問が明日。サボが連れ去られたのが今日。

 やっぱり何が何でもタイミングがピッタリ過ぎる。

 

 これ以上引き延ばせることが出来ない何かがあるんだ。

 こんなんなら今日もアジトにいてもらうんだった。昨日はサボがアジトの周りにいてくれてたから誘拐(仮)されなかったんだろう。

 

 

「でも、大門はもう閉まってるぞ?」

 

 ルフィが首を傾げる。

 ああそうだった。ルフィには教えてなかったか。

 

「黒いマント…闇夜に紛れること可能のマント……」

 

 アイテムボックスから黒いマントを取り出す。エースとルフィが見てるけど気にするものか。今はそんな事考えれる脳みそと意識が無い。

 

 もっとちゃんとした策ができるかと思ってたけど熱がある以上考えるとズキズキする。

 

「……………ふぅ…」

 

 集中だ、集中。いつも以上に集中しよう。

 

「……俺たちは石壁の向こうに入る手段を持っていない。お前に頼る事しか出来ない。──だけど、ギリギリまで背負ってやれる。リー…頼む。サボの意思を聞いてくれ」

「うん」

 

 石壁を飛んで越えてサボの家を探す。

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「なあリー、どうやってこの壁越えるんだ?」

「簡単………」

 

 飛べばいいだけ。

 箒を取り出して跨る。

 

「リー……?」

「そのリボン…」

「うん、サボにぞ貰った。行ってくるぞ」

 

「無事に帰れよ…」

「勿論ぞ」

 

 集中、集中。今回は前じゃない。上へ。上へ。

 

「っ!?リーが、飛んでる!」

 

 焦燥感に駆られる。焦ったってまともに飛べやしないんだから落ち着け、落ち着け。

 

──ゴオッ!

 

「くっ!」

 

 突如熱風が襲って空中でバランスを失いかけてしまった。あ、ぶないなちくしょう。落ちたらどうするんだ。

 

「──って、炎!?」

 

『…………子供の声?』

 

「リー!早く行け!」

「わ………っか、てるぞ…りぃ!」

 

『おい!さっきの声エースだ!船長!』

 

 エースの事を知っている存在、まさかこの声の奴らはブルージャム海賊団か。

 

「エースっ」

「良いから早くいけ!俺たちは自分で逃げれる!」

 

「う、ん…っ!」

 

 

 集中してゆっくりと浮上する。もう少し。もう少しで天辺。早く早くサボの元へ

 

「ぎょえ!」

 

 簡単に言えばバランスを崩した。

 

「っ!」

 

──ドンッ!

 

「うっ、あ…!」

 

 痛っ、石壁の天辺(てっぺん)から思いっきり落ちた。しかも背中から。

 

「……っ、はぁ、はぁ」

 

 クラクラする。熱、上がっちゃったかな。

 

『リー!大丈夫か!?』

 

 石壁の向こう側から微かにルフィの声が聞こえる。うん、大丈夫、なんとか生きてるから大丈夫だよ。

 

「だい、じょー、ぶと、存在」

 

 軽く呟いたけど聞こえてるか分からない。

 箒を手繰り寄せて杖代わりに立ち上がる。辛い。熱でクラクラするし背中痛いし多分また傷が開いた。

 『毒がかけられてたんだから少しでも無茶すれば傷なんか簡単に開くぞ!きちんとした医療機関に頼れない今大人しくしておけ!少し前より平気になったからと言っても強い衝撃当てるな!』って口を酸っぱく何度もフェヒ爺に言われてたのに。

 

 そういえばルフィのせいで思いっきり強い衝撃食らったな。

 

「……はぁ…はぁ」

 

 しんどい。しんどいなぁ。

 サボは少なくともお金のある家にいるんだし命の危機があることなんて無いはず。なんで私こんなに無茶してるんだ?なんで提案した?大事だから?そんな程度で?自己保身マンが?貴族に見つかれば下手すれば殺されてしまうかもしれないのに?私が?人のために動くの?頼まれたからと?

 

 私が無茶する必要なんかある?

 

「私、諦め…る?」

 

 ひらりと目の前に青い物が落ちる。2つの青いリボンが。

 

――ギュッ

 

「違う」

 

 落ちたリボンを握りしめる。

 

 他人の為にだとかサボの為に動くだとかエースとルフィへの罪悪感だとか引き受けたからとかそんなんじゃない。

 綺麗事だらけの人間じゃ無いことは自分が一番わかっている。

 

「違うんだ。そんな人間と違う…」

 

 あぁ、私は結局自分本位だ。

 

 

 

 ──エースとルフィとサボと4人で笑いたい。4人で居る時が〝私〟にとっての幸せだから。

 

 

 

 これは自分の望みだ。他人がどうであろうと関係ない…。

 

 〝私〟は今まで通り自分の為に動く。

 

 

 ここで引いたら自分が終わる。自分本位だって言う、欲望に忠実な自分が。

 

 私のこの世界に来て一番大切な家族をバラバラになんかしたくない。させてたまるか。

 

 

 

「待ってろよ…サボ。勝手に消失した怨みただ今晴らして頂くぞ………」

 

 自分第一自己保身マンの自分の為に精神舐めるなよ。私の我が儘に付き合ってもらうからなクソ兄貴。

 

 1歩ずつ足を進めた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

 

「行ったか…?」

「リー!大丈夫かー!?」

 

 エースが疑問に思うとルフィがすぐさま安否確認をした。相変わらずへんてこな叫び声が聞こえたから何かあったに違いないが。

 

「ルフィ……来るぞ」

「……おうっ!」

 

 燃え盛る炎の奥から自分たちより大きな大人が何人も現れる。今はこっちの方が大事だ──!エースは握り拳を固めた。

 

「なんでここに居るんだよブルージャム!」

「誰かと思えば仕事を投げ出したエース君じゃないか……お前らこそこんな所で何をしている」

 

「答える義理は無ェ!」

 

「連れないぜ…お宅の所の〝リーちゃん〟が痛い目にあっても知らねェぞ?」

「……っ、リーは弱くねェ」

 

 吐き気がするほど下衆(げす)な野郎共に飛びかかりたいのをぐっと抑えて石壁からリィンが離れるのを待つ2人。

 

「身の程知らずが…こうなりゃ道連れだ。殺れ」

「…くっ!道連れェ!?何言ってんだお前らは!」

「聞いてくれるかい?──貴族だよ、あいつらに騙されたんだ。この仕事が出来れば貴族にしてくれると約束をしていたと言うのに…っ」

 

 ブン、と掠める銀色の刀を避けながら手下に蹴りを入れていく。

 一瞬真顔になった。そして思った。

 

「(こいつらバカなんじゃねぇの……)」

 

 口約束か何だか知らないけど消されればその件は無しになる。

 それを考慮しなかったのか。

 

 ここまでバカだと思わず同情も湧いてきそうになったエースだ。

 

「…、待てよ…まさかこの火事はお前らが…っ!」

「……………頭のいいガキだ」

 

 その一言が全てを物語っていた。

 

「…チッ、自業自得じゃねェかよ」

 

 火の手が強まってきている。このままじゃ自分もだがルフィまで危険だと判断したエースは言った。

 

「ルフィ…先に行け」

「!?」

 

 仰天したルフィは思わずエースに詰め寄った。

 

「何でだよ!俺も戦うぞ!フェヒ爺に鍛えてもらってるんだ、こいつらなんかけちょんけちょんに…」

「ルフィ!!」

「っ!──なんでだよエース!」

「行ってくれ、頼む…。俺は、逃げない」

 ルフィは頑固者だと叫びたくなった。

 

 だが、

 

「俺だって逃げない。海賊王になる男がこいつらなんかに負けてたまるか!」

 

 自分だって頑固者でバカなオトコだった。

 

「ルフィ……………。っ、ハッ、それならまず俺を倒してから言うんだな!───後ろは任せたぞ」

「おう!」

 

 小さな子供達は鉄パイプを構え飛び上がった。

 

「どけ!お前らとは覚悟が違う!

 

 俺たちは知らないふりで過ごすつもりは無いんだ!」

 

 動揺はもう無い。迷いももう無い。

 決意は彼らを一段階強くさせた。

 

 

 

 

「でりゃぁあ!」

 

 執拗に金的を狙う事が子供の有効な対抗手段だったのだろうが、絵面的によろしく無かった。男達は今日も金的を狙って戦い続ける。

 ふと我に返って、自分は一体何をしているんだと遠い目をしたエースが居た。フェヒ爺の教育の賜物だろう。

 






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