「麦わら!」
アーロンが無様な走り方でやってきた。
「あー、そういえば居たな、お前ら」
「てめぇ……っ、それどころじゃねぇ」
怒りに支配されそうになったが、スライムの姿を思い出して首を横に振った。
「対岸に……──」
スライムが現れたこと。魚も溶けていたこと。明らかに危険な何かがこちらに向かって攻撃したこと。
アーロンは全員に焦りながら説明した。
「ふぅん。そのまま消えて目の前から居なくなるかそのスライムにやられれば良かったのに」
「辛辣〜〜」
ナミの鋭い罵倒にアーロンはギロリと睨む。アーロン自体は未だに怖いが、アーロン程度じゃ一味には敵わないと分かっているのかサンジのか後ろに隠れて舌を出した。
「とにかく、さっさと室内に逃げねえと」
アーロンの焦る気持ちは分かる。海賊たちもリィンを追いかけなければならない上にシーザーにも逃げられたのだ。
しかし、問題点がひとつ。
「うぅ、お母さん……お父さん」
「マスター、うええぇん!」
見捨てられた。
それを確信した子供たちが絶望に暮れて動けなくなっていたのだ。
寒く冷たくなっていく体温と凍りつき固まる涙。
体を蝕んでいた薬物が体から消え去った今、正常に動き出した頭で現状を把握した結果、絶望の2文字が浮かんだ。
ずっと騙されていた。
家族に会いたい。
心配してくれてるだろうに、子供では何も出来ない。
海賊や海軍のなだめている言葉では何も届かない。動けない。ただ嘆いていた。
「うるせぇ!人間のクソガキどもが!!」
アーロンは泣き喚く子供たちの声をかき消す程の大声で唸った。
「ちょっと!アーロン!」
「嘆くだけで何が変わる!?なぁおい!」
アーロンたちも子供たちの境遇はわかっていた。真実を知らされて絶望していることは分かる。だが、グズグズと嘆くだけの子供に心底腹が立った。
「てめぇらはシーザーとかってやつに奴隷にされてた!実験体にされてた!それで?お星様にでも願っていたのか?ぼくたちをたすけてくださーい。まほうつかいがいっしゅんでパパとママのところにつれてってくれますようにー。ってよぉ!?」
アーロンは『違ぇだろ!』と声を荒らげた。
「てめぇらは泣くことが出来る!歩くことができる!大手を振って!誰か殺されたか!?誰か傷付けられたか!?心の傷程度で蹲って贅沢言ってんじゃねぇよ!差別する側に生まれておきながら!」
「アーロンっ!」
ジンベエが酷いことを言い始めたアーロンを殴って止めようとした。だが、アーロンは止まらない。
「虫唾が走るんだよ!まだ何も失ってねぇくせに、諦めるのか!?動け!てめぇらがガタガタ贅沢抜かしてんじゃねぇ!」
アーロンの表情に子供達の涙がピタリと止まった。
非常に不服なことに、子供たちを守るにしては大きすぎる武力がここにはゴロゴロ転がっている。挙句に人間にお優しい海軍も、だ。
「走れ!下等種族共が!」
これは発破だ。
アーロンの発言に驚いたのはジンベエである。
比べれば不器用で、比べても見劣りして、比べても粗暴さが際立つ。
でも親元と話された子供を、不器用に救おうとする姿はなんだか……。
「アーロン……お主は……」
「ジンベエのアニキは、海軍にもあの小娘にも顔が効くだろ。俺に一瞬の自由をくれるように頼んじゃくれねぇか」
ジンベエは混乱している。
どうして急に、こんなにも弟分が成長したのだろうか。
「こいつらは必ず、俺が故郷に送り届ける」
アーロンの姿に魚人たちの兄貴分の背中が見えた気がした。
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微睡みの中私は居た。
「リー、俺はお前が大事だ。たとえ政府だろうと海賊だろうと海軍だろうと、全部俺が守ってやるからな、マイプリンセス」
「いいやリィン。お前は俺の親友だ。海軍で一緒に悪という悪を叩き潰して、海賊の子のお前が処刑されない世界平和を目指そう」
……あれ?なんか兄と親友のキャラが違うな。
うーん、どこが違うんだろう。
「あはは!」「うふふ」
うーん。うーん。なんだか、悪夢みたいだ。
「こっちへおいでなさーい。リー、一緒に海賊やろう〜」
「こっちだよー、リィン、海軍やろ〜」
浜辺でなんかキャッキャうふふしてるむさ苦しい男が二人いて、私はそれを追いかけた。まて〜!
「俺のところに来たらお前より俺が目立ってお前のこと隠してやるからな〜」
あっ、心惹かれる。
「俺と居れば、雑用のフリして業務ができるぞー。公務員だから給料の心配は無いぞ〜」
あっ、こっちも惹かれる。
非合法か合法か。どっちの隠れ蓑もいいなぁ。
するとルフィはピタリと止まって真っ黒な目で私を見つめた。
「──でもお前、女狐だしなぁ」
続けてスモさんも止まって十手を向けた。
「──確かに、裏切り者だしなあ」
ひぇっ。急に敵意向けてくるのやめてもらっていい?徒党を組まないでもらって。
「「殺すか」」
海賊と海軍の心が今、ひとつになった。
実に感動的な瞬間だ。これから人々は手を取り合って目的を達成するのだ。
すること?私の処刑です。
「やだぁあああ!!!」
割と色んな意味で頼りきってる自覚はあるからこの2人に敵対されるの精神にくる!!!
私の悲鳴と逃走も虚しく、ゴムの手と煙が漂ってかて。
「起きろ」
「んぶっ!!!???」
私のぽっぺたが遠慮なく潰されて、思わず目を覚ました。
心配したような、焦ったような顔のローさんが目の前に1人。
「……ルフィとスモさんは」
「他人のことを気にしてる場合じゃないだろ」
いや他人じゃなくてバリバリ自分のことを気にしてます。ていうか気にさせてください。私殺される寸前だったんだよ!?
「殺すされる前に仕留めなくちゃ……!」
「とりあえず落ち着け。殺したいのは分かるが生け捕りにするんだ」
「ONLY ALIVE!?」
「そうだが?」
そんな、あの二人は生かしておいたら並外れた生命力で復活してくるって!ちゃんと死んだことを確認して、死んでも蘇ってくる可能性を視野に入れた上で処理しなきゃ!
「妹屋を勝手に調べたが、毒性反応は無かった。余程厄介な睡眠薬か、ガスで眠らされていたみたいだな。体調は変じゃないか?」
「ぜっ、こう、ちょう?」
「それなら良かった。すまない、俺が付いていながら妹屋に危害を……!」
ポクポクポク。
「あー。はぁん?」
チーン。納得しました。
おそらくローさんは、私がシーザーの手により厄介な薬を投与されて眠らされた状態だと思っており、その状態に陥った『妹』分に責任感を抱いている、と。つまりはそういうことですね。
そしてルフィとスモさんは夢だった。ホッ、一安心。
「ローさん、私平気です。眠るすたのだって、私は耐性あるですから、私が犠牲になるのが1番被害が最小限ですぞ」
「だが……っ!」
「それより、前を向きましょう。まだ、序章に過ぎぬのですから」
頭スッキリ。よく寝た!
ここ数日というか1ヶ月間の睡眠不足が解消されたようにも思える。
腹時計だと数時間しか経って無さそうだけど。
「妹屋……。お前が犠牲になる必要は無いんだ……!自分を大事にしろ!」
「いいえローさん。私は皆が無事なのが、一番大事なのですぞ」
ここで感動的なBGM。
あ、流れない?残念だ。
「状況を教えるすてください」
「あぁ。まず、妹屋が眠ったあと、俺は薬の情報を探りに向かった。まだ見つけきれてないからあいつの研究所にありそうだ」
「なるほど、では私が探る方が良さそうですぞり」
「……っ、くれぐれも」
「了解です」
無事で、と言いたいのだろう。
もうめちゃくちゃ無事で行くよ。なんならこの島で私に危害を加える人物、いる?
「で、シーザーの動きがある程度制限されていたが、研究所の前に麦わら屋と白猟屋達が現れて、妹屋を腕にしたシーザーが応戦しに向かった」
「あのガリガリインドアヤブ医者が?」
ロギアだから大丈夫だろー、って高慢で向かったんだと思うけど、ルフィを前にして煽り材料の私を持ってったの?頭悪いんじゃない?もしくは人の感情というか、人間観察が出来ないマン?
「で、俺はまだシーザーに弱点を奪われている状態だったし妹屋含め、あいつらの攻撃から救出した」
「弱点、奪う?」
「あぁ、心臓を奪われてるんだ」
私の手を胸板まで持っていったローさん。あ、あれー?心臓の音が聞こえないなぁ?
急なホラーやめて。
「というか早く言うすてくれませぬ?」
「悪い」
「ローさんなら偽物作成出来たのでは?もしくは他の海賊の心臓。本物渡すすたの?」
「…………(その手があったかって顔)」
このドジっ子〜〜〜〜!!!!!
素直か!!!!
「ほら、握られたら分かるだろ?」
「演技ぞすれば良きです」
「(確かにって顔)」
「もーーーー!!同盟解消!!??」
ローさん、本当にドフィさんをどうにかする作戦とか考えてる!?なんか、口車のための作戦は考えてそうだけど特攻からの自爆とか考えてそうだなぁこいつ!
あ、可能性高すぎるな。だからクルーが居ないのか。巻き込むのが申し訳なくって。
「で、それからどうなりますた?」
「スマイルとかいう毒スライムを放ったらしく、今海軍達含めて研究所内に押し込んだ。剣士共が扉を切り裂いて、海兵が防いで、そして囚人たちと戦闘を繰り広げている。場所はA棟だ」
なーるほど。
それは、うーん、ちょっと……。
「厄介かもなぁ……」
「厄介?」
「はい。パンクハザードは、棟で隔離できる故に」
シーザーのことだから命に価値は無いとみてまとめて爆発なりなんなりさせそう……。
「よし、シーザーの所に『寝返る』です」
「……なるほどな」
抑え込むなら司令塔だと思ったのだろう。私の言葉にローさんは納得したように頷いた。
「ふわぁ……」
あ、正式に言うと、寝直しかな。