R棟2階にやってきた私とシーザーとモネさんとヴェルゴ中将。混乱気味の3名を尻目に私はすべての電伝虫と映像をつけさせた。
計六ヶ所の電伝虫が起動する。
「あの、リィンちゃん……?」
モネさんが混乱したように声をかける。解説もしてられないのでにっこり笑顔でゴリ押して誤魔化した。
ちょっと時間がもったいないかな。
椅子に座るにしては高さが足りないのでシーザーを椅子にする。
「シーザー、他の棟に監視用電伝虫ぞ増やすて。A棟に奴らがまだ居る間に。すぐさま」
「お、おう」
私の指示に従ってシーザーは部下に命令を下す。
パンクハザードは入口のA棟、中央のB棟、サイドにC棟とD棟があり、CとDの間にR棟がある、という形だ。
「敵の狙いはR棟66。要は海軍ぞ入る時の出入口」
「敵て」
「まずBとRの間の扉ぞ締めるです。シーザー、そこそこの部下をB棟。選りすぐりをCとDに配置すて」
「全投入か?」
「イエス!」
シーザーの部下って元々囚人なんでしょ?と確認すれば『そうだぜ』って返ってきた。ならばよし、尊い犠牲になってもらいましょう。
「何を企んでいる?」
ヴェルゴ中将の言葉に混乱が見える。傍から見れば麦わらの一味を始末しようとしている風に見えるだろう。というか、潜入中の海兵としてめちゃくちゃ正しいことをしてる自覚はあるわ。
まず、大前提。
……魚人族が弱すぎた!(ドーン)
1対多の戦闘を観察出来たのはいいんだけど、ルフィ以外強者相手に戦う姿とか、保護対象がいながらの戦いとか、状況把握能力とか。
2年前と違うってとこ、見せてもらわなきゃ。だからこうして指揮役として戦場を作る。
それが今回の最重要目的だ。
そしてシーザーたちの目を欺きつつ、麦わらの一味はともかくうちの部下であるスモさんや月組といった海兵がガスにやられないように、ガスを操作する。
「モネさん、火力と耐久性で評価の高かった兵器とかあるです?今すぐ使えるようにしておいて」
「は、はいっ」
モネさんが慌てて制御盤に取りつく。焦ってる。だが、油断は許されない。
「シーザー、部下ぞ早めに動かすすて。奴ら、動き出すです」
電伝虫のまぶたがパチッと開き、A棟の内部映像が映し出される。モザイクのかかったような粗い画質だけど、あの麦わら帽子と金色の髪ははっきり分かった。
ルフィとサンジ様。あとはゾロさんもいる。ナミさん達は後方かな。
スモさんとアーロンも先頭にいるけど、大多数は子供たちの護衛に回っているのだろう。
「子供の足もあるですし、進む速度はそこまで早く無きですが。ルフィとスモさんは飛ばすしそうですね……。この2人、ちょっと邪魔なので隔離させたきですが」
「隔離つったって、どうするんだ?」
映像に映る彼らの動きは、こちらの予想よりも速かった。驚くほどに無駄がない。仲間同士のアイコンタクトで、まるで言葉なんていらないとでも言うような連携。
声は聞こえないけれど、戦闘力の高い人が敵を引き付け、海軍と子供を守るように残りの一味がたっていた。
月組と麦わらの一味の仲の良さが生きたな。G-5の混乱具合は見て取れる。
殿はナミさんとアーロン以外の魚人か。へぇ、いいね。
割と過剰防衛なんだよねぇ。G-5のチンピラ海兵と月組の連携だけでも守り切れそうな気はする。
「……そうですね。モネさん、能力ぞ教えてくれませぬ?相性が悪そうな所だけ避けるすて一撃離脱戦法で戦況を崩すすてほしきです」
「わ、分かった、わ?私の能力は雪関係。青キジほどじゃないけれど……」
「で、シーザー。この建物に罠とか無きです?落し穴とか」
「建物には罠というか、外側に大砲があるのと、建物の防火扉くらいしか無かったはずだが……」
「ふぅん」
私は携帯(リンゴ)端末を取り出してベガパンクに連絡を入れた。
『もしもし?ベガパンク?パンクハザードって落とし穴とかなんかある?』
『あるよ。R2階に私の部屋があるんだけど、そこのメインコンピュータのファイル『今日のおやつ』にパスワードを入力したら罠一覧のコマンドがひらけるよ。パスワード送るね』
あるんかい。
流石パンクハザードの正式な持ち主。ベガパンク様々だな。あと返事がめちゃくちゃ早い。
「じゃあまぁ、とりあえず分断させるすていきましょうか」
A棟からB棟に移る一行。B棟は真ん中にある柱を避けて右と左に移動しなければおくに迎えない。
さて、A棟で遅れ気味な海兵に毒ガスが当たらない様にしつつ、先頭に多めの敵をぶつける。
C棟とD棟に分けたいな……。
「リィン、君はなんの目的なんだ?」
鋭い疑念を含んだ視線。でも私はにっこりだ
「んふふ、秘密ぞり」
笑顔のまま、思い切りモニターを指差す。
「この程度の混乱で動揺するようじゃ、海軍の威信が泣きますぞり?ヴェルゴ中将」
ヴェルゴ中将はしばし沈黙し、やがて短く「……了解した」とだけ言った。
私は再び映像に目を戻す。敵の動き、味方の配置、罠の準備。
B棟に入ったらどちらかに進むだろうから、階段を落とそうかな。
「ヴェルゴ中将はどうします?好きに動くすていいですぞ〜」
「了解した。なら、海兵の方に向かおう」
ひぇー、性格わるぅい。
ヴェルゴ中将はシーザーと共闘している。ということは、まあ考えられる範囲は『ドフィさんの仲間であり、海軍の裏切り者』だということ。
そしてそこが繋がっているなら、私は『海軍大将である』とバレていると見ていい。
ヴェルゴ中将視点、私は海軍の味方なのか海賊の味方なのか分からなくなっていることだろう。
「──じゃあ、始めるですぞ?」
私は見知らぬパスワードを入力した。シーザーのギョッとした顔が目に入る。
ルフィとスモさんとアーロンが先頭を駆けるのがひとつの電伝虫から映った。背後にサンジ様とゾロさんウソップさんカルーやビビ様。子供たち、それに魚人の面々がやや遅れて続く。殿にはナミさんとたしぎさんとビスタさんだ。
なるほどね、速さと守備を自然に分けてる。悪くない、けど。
「ポチッとな」
ルフィとスモさんが邪魔なんだよ。
あの二人がいれば前方は敵なし。
私はコンピュータを操ってB棟の2階にひと足早く潜り込んだルフィとスモーカーが踏み込みそうな地点に重力床の起動信号を送った。
タイミングを計り、彼らが数歩踏み込んだところで。
ガコン!
床が真下に崩れた。
「落とし穴だと!?なぜそんなものがあるんだ!?というかなんで知ってるんだ!?」
「地下って、ダストボックスだったわよね?」
シーザーとモネさんが驚きの声を上げる。
ルフィとスモさんが一瞬浮いて、そのまま床の闇に落ちていった。
地鳴りのようなに揺れる画面。
だが、スモさんだけは浮かべる為落とし穴に落ちずに浮かび上がった。
後続のサンジ様たちが駆け寄ろうとするも、即座に隔壁シャッターが閉じる。私はピースサイン。
「船長、落下成功すぞ。さて、次は──」
私は階段の方に視線を切り替えた。B棟の階段は左右に分かれていて、右がC棟、左がD棟へと繋がっている。
他のメンツは、仲間が落ちたことへの動揺から一歩踏み出せずにいたが、サンジ様が冷静に指示を飛ばしたように見えたを
ある程度のメンツが階段を進んでいる中、私はシーザーに指示をして階段を破壊するようにお願いした。
護衛組と子供たちが右の階段へと駆け出したその時。
「じゃあ、片方落とすすてくださいぞり」
パキィィン――!
電子音とともに、右側の階段が根元から崩落し、真下に崩れていく。
振動とともに、一部だけが階段下に取り残された。魚人たちはギリギリで右側へ滑り込んだらしい。
「……一味が左側の階段に行くすたら、B棟にも毒ガスぞ流すしましょう」
もちろん、今困惑しているシーザーに情報量を叩きつけておこう。
「あ、スモさんは戻って海兵と合流ぞするみたいですね。あとサンジ様も。階上は私の救出狙いでしょう」
「……なら、俺は左。D棟に向かえばいいんだな。剣の腕が疼く。ん?俺の剣はどこだ?」
「ヴェルゴ中将、貴方剣士じゃ無きですぞ」
「そうだった。俺は剣士じゃなかった」
そう言いながら去っていった。
さて、状況を整理し直そう。
・地下……ルフィ
・C棟ルート……ゾロさん、ウソップさん、ロビンさん、ブルックさん、ビビ様&カルー、ジンさん、アーロン
・D棟ルート……サンジ様、ナミさん、チョッパー君、フランキーさん、メリー号、ビリー、錦えもんさん。魚人、ビスタさん、そして海軍
C棟ルート組の強みは『冷静・知性・分析力』であり、弱みは『連携の不安定さ・アーロンと人間の信頼不足と協調性不足・指揮者不在』
D棟ルート組の強みは『人数・火力・支援の豊富さ』であり、弱みは『守る対象の多さ・指揮系統が崩れると即混乱におちいる』という所だろう。
C棟ではゾロさん、D棟ではスモさんとサンジ様が指揮取れるだろうけど、ゾロさんの場合他のメンツの頭がキレる分まとめにくい。ジンさんの動きが予想できないけどね。一応まだ一味に入りたてなので。
「OKです。ヴェルゴ中将がDに行くのであれば、モネさん、C棟で迷路みたきなの作れるです?」
「……えぇ、そうね」
「じゃ、2人とも行ってらっしゃいです!」
未だに全員が私の立ち位置で混乱している。
さて、ヴェルゴ中将、モネさん。
どうかいい敵になって、成長の糧になってきてね。
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鈍い衝撃音とともに、ルフィの体が空中から突き落とされた。
落下先は、B棟の地下深くの広大な空間。そこはゴミ捨て場で無数の機械の残骸やガラクタが山を成していた。 さすがに、ここから飛び上がるのは難しそうだ。空を飛べるならともかく、ゴムの腕にも限界はある。
ルフィはその場に立ち上がり、見聞色の覇気を軽く広げる。
……いた。微かだが生き物の気配だ。
「おーい。そこに誰かいんのか?」
返事はない。でも気配は確かに近くにある。足元のガラクタをざくざく踏みしめ、気配の方へ歩いていく。
そこで、見つけた。
ガラクタの山の陰に、小さな影──ピンク色の小さな竜が、身体を震わせながらうずくまっていた。
「なんだお前?」
「そ、そちこそ何者にござるか」
その声はか細くも、どこか凛とした芯を持っていた。が、その割には腹の音がグーッと情けなく鳴る。弱っていることがひと目でわかる。
ルフィは、じっとその竜を見た。……うまそうだ。
「ヨダレをながすな!せっしゃは食い物ではござらん!ひかえおろー!」
ピンクの龍は頬を膨らませて怒る素振りを見せるが、その目は虚ろで、力も入っていない。
どうやら相当腹を空かせているらしい。武士の意地で何とか耐えているだけで、立っている(?)のがやっとの様子だ。
「うなぎ、大丈夫か?」
「うなぎではござらん!せっしゃモモの助と申す」
「そっか、俺はルフィ!海賊王になる男だ」
名乗ると、モモの助は少し驚いたような顔をした。ルフィのことを『海賊』聞いて一瞬警戒するが、不思議と悪意がない。
うなぎとは言うが自分を食べようともしてないし、何かを奪う気配もない。どこまでも真っ直ぐで馬鹿みたいに明るいだけだ。
かつて海賊に会ったことがある。何故か少し懐いていた海賊への既視感がありモモの助の警戒は少しずつ溶けて言った。
モモの助は語り出した。
「せっしゃ、ここが病気の童がおる施設としか知らぬ。ことの成り行きで密航したことが始まり」
『ご飯貰えるよ?君食べないの?』
『拙者侍ぞ!他人の施しなど受けぬ』
あまり関わろうとしなかったモモの助に子供たちは親切にしてくれた。気が立って全て断っていたが、皆優しかった
「せっしゃ、この穴をでて童達に伝えたい!聞いてしまったのだ!あの男が童達を死なせる気でいる男だということを」
モモの助はひょんなことから悪魔の実を食べ、シーザーの部屋で聞いていた。
『今回も素直なガキだ。他の皆も順調に巨大化──だが薬物投与の限界をしる実験。そうは身が保つまい』
『──5年後にはもう全員この世には居ない』
実験に失敗はつきものという男のなんとゲスなことか。
シーザー・クラウンの言葉。
あの狂気の研究者が、子供たちの命を数字や資料程度にしか見ていないことを知ってしまった。
声が詰まる。涙が喉まで上がってきていた。
ルフィはその言葉を静かに聞いていた。だが、怒っていた。
ルフィは弟である。だが、兄でもあった。妹も実験動物扱いされて、今もシーザーの元にいる。
「よし、モモ。じゃあ、ここから出よう」
「ど、どうやって!?こんな高さ──」
「壁を殴って穴を開けながら登る。しっかり捕まってろよ」
ルフィはマフラーみたいにモモの助を首に巻いた。
「子供なら大丈夫だ、仲間が毒を取ったし、保護もしてる!大丈夫、あいつらなら皆やる!」
「……仲間?」
「俺の仲間は、誰も見捨てねェよ」
ルフィが笑った。ニカッと、屈託なく。
その笑顔を見て、モモの助の身体からすっと力が抜けた。
涙が、ぽろりと落ちた。