2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第306話 胃の穴の数だけ強くなる

 

 プルプルと電伝虫がかかってきた。私はその無機質な生物から放たれる不気味で奇妙で腹たってくる笑い声に、胃が後方宙返り3回転みたいな悲鳴を上げている。

 

「ジョーカー!俺だ、シーザーだ!いい所だな!」

『フッフッフッ随分ご機嫌だな、シーザー』

 

 シーザーがテンション全開で通話に応じ、目尻を下げてニッコニコの笑顔を浮かべた。声にも顔にも全力で「おれ超ごきげん!」と書いてあるような能天気さである。

 

 そのあまりの無神経っぷりに、私は思わず無言でシーザーを睨みつけた。こっちに気付かねぇなこいつ。胃がねじれすぎて、もうちょっとで精神が胃袋から逃げ出しそう。

 

 

 現実逃避という名の監視業務として、いや、何も考えたくなくて映し出されている映像電伝虫をじっと見つめていた。

 モニターの向こう、C棟のチームが壁をぶち破って強引にルートを確保していた。……出口が無ければ作ればいいじゃない。ナントカネットもびっくりだよ。毒ガスが重なりそうな箇所はこっそり調整しておいた。バレなきゃOK。

 

 モネさんの回収を誰かに任せたいけど……うーん、ちょっと無理そう。あ、囚人の一人が倒れてるモネさんに気づいたみたい。うんうん、命令されなくても行動に移れるのは素晴らしいことです。主体性、よし。忠誠心、よし。将来有望だね。お前は今日で死ぬけどな。

 

 D棟は……うん、まぁ、月組と魚人がメインになって子供たちを守っているから、麦わらの一味やスモさんたしぎさんは攻撃に回れている。

 映像電伝虫が映し出すのは、崩れていく廊下、駆ける足音、爆ぜる火花、そして意外と頼もしい連携プレイ。

 

 そっちに向かった敵に関してはちょっと考えないものとする。

 

 

「機嫌も良くなるさ!」

 

 シーザーのワクワク声で急に現実に引き戻されたをくっそー!

 

『ほぉ?……ローはどうした?』

 

 このショタコンストーカー野郎が。いくらなんでももうショタじゃないだろうに、本人はそんなことはお構いなしに。だが、それがまた腹立たしい。

 

「ローなら……あー、今どこだ?」

 

 私はわざとローの居場所を映像から消している。位置情報は隠しておかなければならないよね。多分だけど、ローさんの狙いはなんとなく分かる。個人的にも組織的にも消しておきたい部分だからサポートさせていただきます。

 

 

 シーザーはキョロキョロと見回したけど、全ての範囲を映像が写しているわけじゃないし、映像外の所に居ると判断したのだろう。諦めて向き直った。

 

「まぁ、元気だ。麦わらの一味が来た時には、てっきりローがこっそり連れ込んだのかと思ったんだが……どうやらドジっ子らしいなあ、あいつは」

「……! ……っ! ーーーーっ!!!」

 

 私が無言でブンブン『言うな』って首を振っているのにも関わらず、シーザーはこちらが見えていないのか上機嫌にジョーカー──ドンキホーテ・ドフラミンゴに報告している。

 

『麦わらの一味……?』

 

 期待どおりに、いや、予想していた以上に嫌な反応が向こうから返ってきた。

 

『麦わらの一味が、パンクハザードにいるのか』

 

 冷たく、だが興奮に満ちた声で、ドフィさんが呟いたのがはっきりと聞こえた。

 

「あぁ!それからジョーカー、あんたが欲しがってたリィンが」

『リィンが……?いるのか』

「なんなら隣に……──あっ」

 

 シーザーが私の顔を見てやっちまったって顔してる。

 それもそのはず。私の手にはずっしりと重たい、大きな海楼石製の手錠があったからだ。

 

「あ゛ーーーーっ!」

「べらべら個人情報ぞ話やがって」

「ジョォカァー!助けてくれぇ!この小娘が俺に海楼石の錠をかけやがった!」

「ヘアピンだけはくれてやるです!1番簡単な錠くらい自力で脱出くらいすてください」

「無茶言うなよ!?」

「何のために私が普段帽子にヘアピン貼り付けるすてるとでも!?」

 

 カァカァカァカァうるさいカラスだな。

 ギャースカ騒いでいるシーザーをガン無視して電伝虫の前に立つと、電伝虫の顔が向こう側の表情を読み取って複雑な顔をした。

 

「…………ドフィさんどういう感情?」

『お前のことが読めなくて困ってるって顔だぜ』

「かわいそぉ……」

 

 フッフッフッ、読めないでしょう。

 

 ──だって私も流石に予想外だもん。

 

「出来るなれば、この島になんてきたく無かったですし。シーザーにもドフィさんにも関わりたく無かったです」

 

 呆れでも怒りでもなく、ただ事実を淡々と述べただけの口調だった。

 あまりに素直すぎて逆に刺さるその言葉に、電伝虫の向こうから、微妙な間を置いた声が返ってくる。

 

『だろうな。俺もリィンちゃんにその島に行って欲しくは無かったし……』

「し?」

『………………お前、俺の部下に会っただろう』

 

 テンション下がり気味なドフィさんの言葉。

 妙に低く、苦々しい声音だった。

 

 ああ、そういうことかとすぐに察しがついた。私は肩をすくめる。

 

「あ、やっぱり?ヴェルゴ中将が現れるすた時は驚きますたけど……多分向こうもめちゃくちゃ複雑な顔をすてますたけど」

『そうだよヴェルゴだよ……』

 

 明らかに頭を抱えている音が聞こえてきそうだった。電伝虫の顔も若干曇って見えるのは、きっと気のせいじゃない。

 

『くそ〜……海軍にバレてないスパイ入れれたと思ってたのに……しくった……!』

「何、ドフィさんもドジっ子なの?」

『なんでよりにもよってパンクハザードにヴェルゴ行かせたタイミングでくるんだよぉ』

 

 うわぁ、叫び声が若干裏返ってる。

 私、別に悪くないですよね? タイミングの問題だし。まぁ、もしかしたら若干運命がドフィさんに嫌がらせしてる可能性は否めないけど。

 

「私が海兵だってこと、ヴェルゴ中将知ってるみたきですねぇ? ねぇドフィさん? んー?」

『いやそりゃ共有するだろ』

 

 あっ、開き直りやがった。

 

 まぁ私だってドフィさんのところにスパイを送り込むんならドフィさんがジョーカーってこと共有するよ。

 

 

 でもやっぱり、ヴェルゴ中将は私が女狐だと知っていた。だから私が麦わらの一味をボコボコにしようと策をねっている所を見ても、納得はしているけど腑に落ちてないという顔をしていたのだ。

 

 

「そういや、リィンはどうしてこの島に来たんだ?」

「えっ、言うすてませんでした?SOSコールが鳴るすて。そしたらばルフィが『行くぞ』って駄々こねまくるすたです。……あの時、刺し違えてでも殺すておけば無事だったのに」

「物騒!」

「やだ!だって私、七武海には基本関わりたくなきですもん!」

 

 まぁ、でも。

 

「あとローさん苦手ですし…………」

『ふぅん、意外だな。あんな突ける弱点だらけの男なら、リィンちゃんが手玉に取るのは簡単だろうに』

「それはつまらぬです」

『否定はしなかったな……』

「ローさんよりはヴェルゴ中将の方が面白みあるですよ?ローさんは、その、視野が狭き。あと未だにドジっ子事件許すすてなき」

『あー。あれか。海賊島で色々やったやつな。フッフッフッ、あいつを誘拐したやつがドジっ子だったからなぁ。それに似たんだろうよ』

 

 

 ──そのWドジっ子を使って、お前を七武海の座から引きずり下ろすのは確定してるんだよ。

 

 

 会いたくなかったよ。もう少し後で、会いに行くつもりだったんだもの。

 

『ところで今何してんだ?なんでリィンちゃんとシーザーが一緒にいる?』

「……よく分からねぇな。なんでリィンが麦わらの一味を追い込めているんだろうなぁ」

『は……??』

「追い込めるだなんて、そんな。ちょっとしたお戯れですやん」

 

 遊びみたいなもんだよ。

 

 

 

 あっ、D棟の戦闘状態に動きがあるな。

 

「じゃあドフィさん、また後で」

『お、おう……?ん?また後で?』

「切りまーす」

 

 がしゃん。

 電伝虫が切れた鳴き声がこの空間に響いた。

 

「シーザー、胃薬」

「ねぇよ?」

「なにゆえ……!!!???」

 

 私の主治医なのに!?

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