2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第307話 作戦立案はひとりじゃない

 

 陽気な太陽が憎らしい程降り注ぐ。ドレスローザ。

 

 電伝虫を切ったドフラミンゴは納得いかない不思議な感覚に、眉間に皺を寄せた。

 

「……リィンが、麦わらの一味を罠にはめる」

 

 口の中で呟いた言葉は、自分でも信じきれないように宙へと溶けていった。

 

 彼女は女狐であるため、海軍として海賊を叩き潰せるチャンスがあるなら積極的に動くだろう。

 実際、海軍からのスパイだった愚弟もドフラミンゴを貶めるために海軍に情報を流していたことだし。

 

 情報としてはあり得るし、起こりうる。

 だが信じていいかは別の問題だった。

 

 ──海軍の女狐

 

 柔らかな笑顔の奥に牙を隠し、誰の味方か分からないような態度を貫く女。

 これまでの接触で理解している。彼女は利害で動く。正義感や情ではなく、秤と算盤で人間を量るタイプだ。

 

 そんな彼女が、なぜシーザーの隣にいて、なぜ麦わらの一味を追い込めているのか。

 釈然としない。何が裏にある?

 

「そもそもローがまだ読めてねぇ」

 

 パンクハザードにはベガパンクの残した様々な遺物がある。それ狙いか、はたまた別の……ドンキホーテファミリーの敵になる狙いがあるか、

 

 その判断に悩んでいたからこそヴェルゴを送り込んだ。

 しかし蓋を開けてみれば厄介だと目をかけているリィンの方と先にやり取りを交わす羽目になるとは。

 

 最悪の舞台で、最も見たくないカードが並べられている。

 

 ──ロー、リィン(海軍)、麦わらの一味。

 その三者が同じ盤上に乗っている以上、傍から聞けば『偶然』は思えない。

 

 

「ジョーカーァ!」

 

 泣きながらメイド服を着た女──ベビー5が片手を武器に変化をさせてドフラミンゴの上にまたがった。

 

 理由は、騙されやすいこの女が、薄汚いやつに騙されて婚約なんて抜かした事への後始末のせいだ。

 

「良くも!良くも!婚約者を!」

 

 死ね!と言いながら弾丸がぶつかるも、ドフラミンゴは何も気にせず思考の海に沈んだ。

 

「……うーん。なんっか違和感があるんだよな」

 

 麦わらの一味が来たら『おいでませリィンちゃん』って看板や旗をめいいっぱい掲げて歓迎(別名:嫌がらせ)をしようとしていたドフラミンゴは違和感に顎を撫でる。

 

「ローが苦手ってのは……嘘だな」

 

 ローには精神面で弱点が多すぎる。

 取っ付きにくく感じるが、あれは内側に入れると甘くなるのを知っていてハリネズミみたいにしているだけだ。ドフラミンゴでさえ見抜けているのだから、リィンであればもっと見抜きやすいだろう。

 何せ七武海を取りまとめる女だ。立場的にも、精神的にも。

 

 まあ、立場としては特に従ってないし、別に従いたいと思う訳では無いのだが見ていて楽しいし、海軍のくせに海賊を理解してくれるのがたまらないのだ。

 

 とにかく、リィンはローを手玉に取れる。

 オペオペの能力も合わせて、リィンが欲しがる人材だ。

 

「…………偶然パンクハザードに来たってのは本当だな。関わりたくなかった、ってのも、まぁ含みはあるが本当か」

 

 長い付き合いであるため、リィンの嘘を見抜くのは簡単だ。

 

 ──だが

 

 

「……また後で(・・・・)、か」

 

 通話で投げられた1番最後の言葉がどうにも胸に刺さったままだ。

 社交辞令じゃない。わざわざ言葉にする意味があった。

 

 何を企んでいる、そして企んでいることを隠しもしなかった匂わせに気味が悪くなる。

 

「しかし、ヴェルゴがバレたのは痛いな……」

 

 中将地位まで入れ込んだ信頼のおける男が女狐にバレたのは手痛い。

 リィンのことだから『海軍には潜り込んでるんですぅ』なんて言いそうだが、まぁ、それは無いだろう。パシフィスタの育て役という重要な地位に付いているのだから、本人はともかく海軍はリィンを逃がしはしない。

 

「どうなさるつもりざますの?若様。シーザーを狙われたら、うちは大打撃!」

「ローの動きは分からんが、いま向こうは大変なんじゃろうで」

 

 トランプをしながら幹部の語りかけにドフラミンゴはさらに『読めない』という顔をする。

 

 シーザーは、ジョーカーにとっては心臓だ。SADという薬物の製造方法を知っている唯一の男だ。シーザーを喪えばどうなる?

 四皇のお出ましだ。

 ドフラミンゴとしてもカイドウに狙われたら困る。だが、下手人が分かればヘイトはそちらに向かうだろう。もちろん、己もどうなるかは分からないが。

 

 ……そんなリスクのある方法を、リィンが取るか?

 

 ローの狙いも分からない。リィンの狙いも分からない。手を組んでいるのか、組んでいないのか。本当に純粋に偶然なのか。

 シーザーを狙っている……割にはリィンとシーザーが和気あいあいとしているため、ちょっと緊張感がないのだ。

 

「ひとまず、リィン以外の麦わらの一味は要らない。そいつらは潰してもいいだろう」

「そうね、若様」

「第1、リィンちゃんは俺のこと、何個目かのシェルターだと思ってる節はあるし、過剰に心配しなくともいいとは思ってるが……」

 

 リィンは俺みたいにかっこよくて頼りになって強い七武海を失いたくはないため、リィン個人は『天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴ』を守るはずだ。そう考えた。なんせ、あのクロコダイルでさえ、リィンの動きによって再度七武海に取り上げられたのだから。

 

 

 ドフラミンゴは電伝虫を取り出して別の男に

 

「もしもしヴェルゴ、俺だ」

『…………ドフィ』

 

 その声色は重く、明らかに気まずそうだった。

 

「どうしたヴェルゴ、何があった」

『すまない、俺はここまでだ』

「ヴェルゴ!」

『──ローがドジっ子して俺の心臓を持っていった』

「…………は!?」

 

 ごめんちょっと待って。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 D棟、混戦の只中。

 

 サンジ、ナミ、チョッパー、フランキー、錦えもん。メリー号、ビリー。

 アーロン以外の魚人たち、白ひげ海賊団の剣士ビスタ──

 そして海軍側からは、スモーカーとたしぎ率いるG-5と月組がいた。

 

「てめぇら!陣形崩すなよ!必ず子供たち守り抜け!」

「スモーカー中将!」

 

 号令と共に、火砲と剣閃が飛び交う戦場を麦わらの一味が中心で戦っていた。

 後方ではナミが天候を操り、風で子供たちに毒ガスが来ないように守っている。

 

 守る者と戦う者、連携は取れている。──今のところは。

 

 過剰と言ってもおかしくないメンツが揃っている中、月組の一人がスモーカーに声をかけた。

 

「中将、報告が二点あります」

「なんだ」

 

 小声のボリュームに合わせてスモーカーが声を下げる。

 

「まずひとつ。毒ガスの流れが不自然です。風向きに逆らい、殿(しんがり)のリックに届く寸前で停止しました」

「……は?」

「偶然では説明できません。まるで意志を持ったように、そこから先に進まなかったんです」

 

 毒ガスが意志を持つ?

 

 否、もしそうなら、止まるのではなく襲いかかるはず。

 だが、次の報告でその謎は氷解した。

 

「もう一点は、……恐らく『月組』にしか見えない位置で、煙が文字を描きました」

「なんだと」

「『D棟に強敵あり』──海軍暗号です」

 

 その瞬間、スモーカーの顔に笑みが走る。

 それは仲間の奮戦を見たときのものでも、敵の動きに勝ったときのものでもない。

 

 理解だ。

 

 さて、この場にスモーカーの部下は1人として欠けていない。

 だと言うのに、海軍の暗号を扱える人物は一体誰か?

 毒ガスを操作できる人間は誰か?

 ──元第1雑用部屋、月組の同期は誰か?

 

 答えは自ずと分かる。

 

「(リィン……!なるほどな、全体を見れる場所にいるってわけか!)」

 

 我が親友は、相変わらず何を企んでいるのか分からないが最高である。

 

 

 

 D棟の中央に入ると、彼らを巨大なタンクが出迎えた。子供たちの体力もきつい中、SADと書かれたタンクの前に一人の男が立っていた。

 

「ロー!」

「……麦わらの一味と白猟屋か」

 

 敵は、ただ一人。

 

(……こいつ、か?)

 

 スモーカーも、暗号を読んだ月組の数人も、無言のまま思考を巡らせる。

 『D棟に強敵あり』。そう書かれた暗号の答えが、目の前の男なのかどうかを。

 

「おい白猟屋────何がどうなってる?」

「いやお前が1番把握してろよ!」

「いや本当に……何がどうなってる……?なぜドジっ子とか言われてる?毒ガスはどうなった?妹屋は何をしてる?シーザーは?分からねぇ、何がどうなってやがる」

 

 返せ緊張感。

 

 ローは見るからに混乱している様子で、少し可哀想に見える。

 

 しかし、混乱した場が収まるのも早かった。

 

 

「──スモーカー!」

「ヴェ、ヴェルゴ中将〜〜〜!」

「大佐ちゃん!ヴェルゴ中将が助けに来てくれた!」

「うぉぉぉ良かったぁ!」

 

「ヴェルゴ中将……?どうしてここに」

 

 歓喜に沸き立つG-5。

 

 その中で、たしぎもほっと胸を撫で下ろす。

 中将がふたり──これでようやく、戦況を立て直せる。

 

 ヴェルゴ中将。

 荒くれ者ぞろいのG-5を束ねる冷静沈着な男。

 紳士で、部下思いで、子供や民間人にも優しく、信頼厚き好漢。

 G-5にとっては親代わりと言っても過言では無い。

 

「たしぎ、子供を導いて先に進め」

「あ、はい!囚人達はおふたりにお任せします!」

 

 たしぎが敬礼し、即座に動き出そうとする。

 ヴェルゴは静かに、スモーカーの肩へ手を伸ばした。

 

「本部に連絡は伝わっている。俺は一足先にお前たちを助けに来た。……よく耐えたな」

 

 慈愛に満ちた殺戮菩薩の顔をして、ヴェルゴはスモーカーに手を伸ばした。

 

 湧き上がる歓声の中。

 

 ローだけは。

 いや、ドンキホーテ一味以外では、この世でローのみ、ヴェルゴがスパイだと知っている男だ。

 

「白猟屋!」

 

 ローの怒声が爆ぜた。

 その言葉と同時に、ヴェルゴの手が閃く

 

「──そのまま死んでくれ」

 

 指銃。

 

 狙いはスモーカーの心臓。

 完璧な死角からの一撃。

 誰もが反応できなかった。

 

 届くはずだった。

 

 

 

──ガキン!!!

 

 耳をつんざく金属音が、静寂を引き裂いた。

 

 武装色で黒く染まった十手が、心臓を狙った一撃を真正面から受け止めていた。

 

 構えていたのは、スモーカー。

 

 完全に警戒しきった、防御の姿勢だ。

 

「……っ!?」

 

 最も驚いたのは、仕掛けたヴェルゴ自身だった。

 そして、その一瞬後にローも目を見開いた。

 

 なぜだ?

 反射神経だけでは説明できない。

 予期していたとしか思えない。

 

 周囲も動揺に包まれた。

 『ヴェルゴがスモーカーを攻撃した』という状況を理解できずにいた。

 

 

「……え? ヴェルゴ……中将……?」

「なにしてんだ……?」

「お、おい嘘だろ……ヴェルゴ中将がスモヤン中将を?」

 

 G-5の海兵たちが口々に叫ぶ。

 

 

 だが、ただ一人。

 スモーカーだけは、微動だにせず、口元を歪めて笑っていた。

 

「──海軍、なめんなよヴェルゴ……!」

 

 不敵な笑みを浮かべるスモーカーだけは完璧に状況を理解出来ていた。

 

「てめぇは……ロシナンテの、仇だ!」

 

 ずっと見張っていた。

 ずっと疑っていた。

 ずっと隙を待っていた。

 

 ようやくしっぽを出してくれたな、てめぇ。覚悟しろよクソ野郎。

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