2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第309話 真実の方が陰謀論みたい

 

 ローはリィンの作戦を一瞬で理解した。己の頭が割と回る方だと思っていたが、それ以上の人間に対し、気味の悪い恐怖に背筋がゾクリと震えた。

 

 この命令の複雑さと、おそらく一瞬で浮かんだのであろう内容に。

 

「(曖昧な『中将の一人の心臓』って指示、そしてここには中将が二人。俺がどちらを狙うのか、俺の主観で決められる『嫌いな中将』)」

 

 どちらでも取れるが、ローだけが確信できる指示にしている。

 

 選ばせる。だが誘導する。

 あくまでローの主観に任せているかのような指示。

 

 巧妙だ。恐ろしく、腹立たしいほどに。

 

「(俺は白猟屋に恨みは無い上に、結託している。つまり狙うのはヴェルゴ──)」

 

 状況は最悪に近かった。

 子供たちの保護を最優先に、スモーカーが自身の体を煙に変えて視界を乱し、仲間たちを先に進ませていた。

 その間隙を縫って、ビスタやサンジたちが入れ替わるようにヴェルゴに攻勢をかける。

 

 混戦。混沌。そしてその陰で、ローはすべてのピースを読み切っていた。

 

「(そして誰にも分からない指示をしたってことは。バレるなということだ、ヴェルゴに)」

 

 口封じをしない想定か、それとも裏切り者がいるのか、もしくは誰かに聞かれていたり監視されてる最中か。

 どの道分からないが、『ローがヴェルゴを狙うことを知られたくない』という意図が回りくどい中でも分かった。

 

 その激ムズ難易度の作戦を分かったからそこそ、ローはその解決策がひとつ浮かんで、無性に腹が立った。たった一つの解決手段が──あまりにも情けなかったからだ。

 

「くっっ、そ……!〝ROOM〟」

 

 ローは歯を食いしばりながら、スモーカーとヴェルゴが重なるタイミングを狙った。

 

 狙いはただ一つ。

 ヴェルゴの心臓。

 

 指先ひとつで、それは簡単に自分の掌に転がっていた。

 

 その瞬間。

 ヴェルゴが目を見開き、ローを睨みつける。

 

「……!」

「し、」

 

 ヴェルゴが『お前裏切ったのか』という視線を向けてくる。嘘だ。実際口でも『裏切ったか』と言っている。

 

「しっ……」

「し?」

 

 ローはこれでいけるのか、と心配になりながらも肩を震わせながら目をそらした。

 自分でも信じたくない一言を、搾り出すように呟く。

 

「しまったー、ドジっちまった……」

 

 渾身のドジ(羞恥に震えながら)である。

 

 自分の尊厳を投げ捨てたセリフ。

 誰よりも冷静でクールを気取っていた自分が、己の恩人のドジを真似て演技をしている。今はスモーカーのちょっと憐れむような視線が腹立たしい。

 

「あー…………」

 

 ヴェルゴは抜かれた己の心臓と、顔を赤くしたローを見比べて思わず言ってしまった。微笑みを浮かべて。

 

「だ、大丈夫だ。あるあるだ。タバコだけはするなよ?」

「慰めるな!!!!!」

 

 余計惨めになるだろうが。

 

「あと足元には注意しろよ?」

「ヴェルゴ!!!」

「ヴェルゴさんだ。さんをつけろよドジっ子野郎」

「うるせぇよ!!!」

 

 善意という名の暴力。

 ローは怒りでも顔を赤く染めた。本当にふざけるなよ。

 

「(しかし、ここからどうすれば)」

 

 このまま心臓を突き刺せばヴェルゴは死ぬ。

 

 だが、それではリィンの指示に矛盾する。

 

「さぁ、ロー、返してくれ」

「あ、あぁ……」

 

 ローはたじろぎながら手に取った心臓を渡そうとした瞬間。

 

 パッ、と瞬きの間に心臓が消えてなくなった。

 

「……!?ロー!どこに隠した!」

「俺じゃない!」

 

 ローの本気の驚きと言葉にヴェルゴは焦る。

 

 誰が、どうして。

 ローの能力に似ているのに、ローの表情は本当に驚いているように思えた。

 

 では、一体誰が目視できないレベルの動きで隠す、もしくはそういう能力の持ち主。

 スモーカーは論外だ。

 

「…………は、はは!そういう事か」

 

 ヴェルゴはひとつの可能性に辿り着いた。

 

「スモーカーが俺の攻撃に気付いたのも、俺の心臓が消えたのも!麦わらの一味が来たのも!」

 

「──全部女狐の!」

 

──ドカァン!

 

 馬鹿でかい爆発音と共に、スモーカーがヴェルゴに肉薄した。

 

「お前が勝手に、俺の上司語ってんじゃねぇよクソ野郎!」

 

 その言葉は明確だった。

 スモーカーは、最悪のネタバレを防ぐように。

 

「……女狐だって?」

 

 サンジが呟く。

 

 ──よりにもよって、女狐の潜入先の人間がいるってのに!

 

「図星か、図星だよなぁ!」

「は、俺のは、なぁ!」

 

 ここでスモーカーが否定すればするほど、喋らせないと足掻けば足掻くほど、真実味が増す。

 スモーカーは頭をフル回転させて、どう転んでもいいように計算しなければならなかった。

 

「教えてやるさ!海軍大将女狐の正体を!」

「それだけはさせ……っ!」

 

「──堕天使だ!ゴフッ」

 

 ビスタの一閃がヴェルゴに届く。

 白ひげ海賊団の幹部、隊長たちは女狐の正体を知っている。故に、隠してやりたかった。

 

「リィンちゃんが、女狐?」

 

 だがしかし。間に合わなかった。

 

 サンジが呟くのと同時に、ローも驚きで声が出なかった。

 

「………………あのよ、ヴェルゴ」

 

 スモーカーは憐れむような顔でヴェルゴを見下ろした。

 

「その陰謀論信じてるやつ、海賊だけだぞ」

「な……っ!?」

 

 内心焦りつつも、スモーカーはやれやれと言いたげに肩を竦めた。

 本当だ、女狐はリィンだ。それは違いない。

 

「その噂は、それこそリィンが5歳とか6歳くらいの時に、海賊を炙り出すために使った情報だぞ?まさか、お前まだ信じてたのか……」

 

 秘儀、哀れみ。

 

「……確かにリィンちゃんと女狐は因縁がなんかあるんだろうなとは思ってたさ。だけどな、俺達は女狐がリィンちゃんを痛めつけてる姿を見てる。そんな、あの、ちゃちすぎる嘘には、流石に騙されないぞ」

 

 サンジは『スモーカーの話』の方が説得力あるし信頼度もあるし、信じた。

 ローもサンジと同じく、シャボンディ初頭で女狐が麦わらの一味(もちろんリィン付き)に向かって攻撃しているのを見ている。

 

 そんな女狐が、リィン?

 もう少し信憑性のある嘘を持ってきて欲しい。

 

 そんなことすら思っていた。

 

「(普通、幼子が大将なんて思わねぇもんな、確かに……)」

 

 スモーカーは安心した息を吐き出したかったが、ぐっと堪えた。

 

 ちなみに、1番混乱しているのはビスタである。

 

「(頂上戦争の女狐がリィンではないのは知っていたが、結局海軍はリィンを切り捨てたのか?いや、でも、その割にはリィンの動きが……)」

 

 下手に情報があるほうもあるほうで大変。

 

「バカ、な。ドフィも、堕天使も、確実に……!」

「よく考えてみろ。……ヴェルゴ、リィンは何歳だ?」

「……?」

「リィンちゃんは16歳だ」

 

 スモーカーの質問にサンジが答える。

 

「で、女狐大将が着任したのは何年前だ?」

「…………。」

「約12年前である」

 

 スモーカーの質問にビスタが答える。

 

「………………現実的に考えて、4歳やそこらで海軍大将になるわけが無いな」

 

 ローの冷静ですっごく現実的な結論が出た。

 

 

 ヴェルゴとは、己の記憶が曖昧な人間であると知っている。

 ほっぺたにハンバーグはつけるし、カメラを買ってもないのに買ったと勘違いするし、己が剣士だと勘違いするし、割とガバガバな脳みその作りをしている。

 

「──確かに女狐は堕天使じゃなかったな」

 

 納得した。すんごく納得した。

 

「よし、解散」

 

 

 だから、ヴェルゴはドフラミンゴに報告の連絡を入れたのだ。

 

 

「ローがドジっ子して俺の心臓を持っていった」

『…………は!?』

 

 多分、犯人はドジっ子のローだ。やれやれ。ヴェルゴの脳内で、おそらくローはまだ幼少期のままなのだった。

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