サンジとカルーは急いでいた。
「行くぞカルー!案内を頼む!」
「クエッ!……クエー?」
まるで『どこに行くんだよ?』って感じの視線でカルーが訴えてきて、サンジはそれもそうだなと納得した。
「場所は──カルーが飛ぶ練習をしていた海岸」
サンジは場所を指定するが、すごく微妙な顔をしてしまった。
果たして本当にそんな場所が存在するのか?
そんな心配を他所に、カルーは力強く頷くとドタドタと走りだした。
『サンジ様には、割と危険なお願いがあるです──』
サンジはリィンの指示を思い出す。
指示はシンプルだ。
「……向かえ、とだけしか言われてないんだよ」
場所と向かうことのみ。
もう普通に嫌な予感しか浮かばない。
ため息をグッと押し込めて足を進めた。
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ドレスローザコロシアムの前。
私はロビンさん達とは離れてルフィと二人でコロシアムに向かっていた。
「待てーーーー!」
「当たらん当たらん〝ジェットウォーク〟!」
片足のおもちゃがDPと帽子に書かれた警備兵に追われていた。
「なんだ?」
ルフィがそっと私を庇う場所に立ってくれた。
おもちゃはコロシアムには警察も海兵も立ち入り禁止で、コロシアム内で犯罪者を見ても権限は発動しないらしい。
「ここではドンキホーテファミリーの独断の法が存在するだけ!その引き金を引けば犯罪者はお前たちである!」
……。国の法律が優先されることってあるんだァ。
え、ダメ?海兵としての権限使っちゃダメなの?
大丈夫大丈夫、王下七武海は中将以上の指示には従わなきゃならないからね。従うかはさておき。
するとおもちゃを追いかけていた男たちは諦めたようで去っていった。
「やや!これはご老体、荷物を持ちましょうかな」
おもちゃは変装しているルフィの前に立った。
ルフィは錦えもんさんの悪魔の実で付け髭をつけているため、老人に間違われたらしい。
「あはは、こいつ面白いな」
ルフィが楽しそうに笑う。
おもちゃは私の姿を見てにこりと微笑んだ。
「おもちゃは初めてですかな?お嬢さん、おもちゃは怖くないですよ。大丈夫です、貴女を傷付けることはありませんから」
私の変装は、あまり変装をしては無い。
金髪をまとめ髪としてまとめて、普段の黒い衣装ではなく、普通の私服を着て、伊達メガネをつけている。
パッと見、リィンには見えないだろう。
……なんだか、胸騒ぎがする。
「ありがとうです。ちなみにですが、コロシアムの一般の受付どこです?」
おもちゃはパタンパタンと指さした。
「あちらです!」
──選手番号0557番・ルーシー Cブロック
──選手番号0558番・リーン Dブロック
「ルーシー、別行動するぞ」
「じゃ、俺あっち見てくる!」
「はーい。迷子になるすたら見聞色ね」
ルフィと別れ、キョロキョロと周囲を見渡す。
やはりというかなんというか、案の定すぐにルフィが絡まれている中、私は気配を消してコロシアムの人たちを見定めていた。
もうじきAブロックの試合らしく、Aブロック出場選手がアップをしている。
どれもこれも強そうな人が多く、いくらルフィでも骨が折れそうな相手が居そう──
「……えぇ?」
あまりにも目を疑う光景が飛び込んできた。
ボクサーのように拳を振るい続ける王冠を被った筋肉の塊みたいな人と、髭と眉毛とサングラスが特徴的な人が、他の出場者と言い争いになっていた。
「……エリザベロー二世?」
メット持ってる王族なんて私、1人しか知らない。
ねぇなにやってんの国王陛下。
距離感は近いとはいえ、わざわざドレスローザまで遊びに来て何野蛮なことしてるの?
私が呆れ返っていると、ヒョイッと服を摘まれた。
「んえっ!?」
私は覆面を被った大男に服ごと持ち上げられた。
「えっ……と?」
危害を加えてこなさそうなのでぶらんと猫のようにぶら下がっていると、覆面男はしばらく私を観察して地面に下ろした。
「……いくらお前だろうとチュウチュウの実は渡さないからな」
「…………え?」
Aブロック出場選手として呼ばれて行ったため、消えて言った。
なにあれ。
「チューチューの実、ねぇ」
もちろん、ドフィさんがコロシアムの賞品としてカナエの悪魔の実を用意していたことは、とっくに知っている。
ただ、私がひとつ疑問に思っていて。
……どうしてチュウチュウの実で人をここまで集められた?
有名な使い手が居たとか、強力で利用価値があるとか、正直そこまで集客力がある悪魔の実だとは思わない。
それだけが不思議で仕方ないのだ。
使い方を考えれば、そりゃ有用なのだけど。ネームバリューがないじゃない。圧倒的に。
それならまだミズミズの実だとかグラグラの実だとか……メラメラの実とかを利用する。
それとも別の目的が……?
そんなことを考え込んでいるうちにAブロックの勝敗が着いた。
あまりにもあっという間についた勝敗。
勝利は──
『無名の海賊!』
アナウンスが鳴り響く。
「俺の名前は──黒ひげ海賊団、操舵手!ジーザス・バージェスだ!」
黒ひげ海賊団だった。
……ティーチさんが、動き出している。
黒ひげの名前が広がるのを徹底的に防いだ結果、黒ひげ海賊団はまだ無名の海賊団だ。
海軍内での内密な手配書として名前は広がっている要注意人物、とはいえ。
とんでもなくイレギュラー!
はぁ、黒ひげに対する報告書出さなきゃ。
「クソ最悪……」
ルフィは、変装させているが別にバレても構わない。なので割と自由にさせているのだけど。
私は──ここに潜んでいるはずの海兵を探すために別行動をしたのだ。
当たりをつけて探していれば、ビンゴ。控え室のそば、人混みの中で2人の男性が物騒な雰囲気を醸し出していた。
「こんにちは」
「……っ!?」
「おじさん達も出場選手ですか?私もなんです」
私が声をかけると、深く帽子を被った男性がめちゃくちゃ驚いた顔をしていて、そして緑髪の鼻ピアスも私のことを見て驚いていた。
ちなみにこの帽子の男。
メイナード中将なのだ。
「お、じょうちゃん、ここは危ないから来てはいけないよ」
「どうして?私も出場選手なのよ?」
私がニコニコ笑顔で近付けば、メイナード中将は戸惑ったようにたじろいだ。
血塗れ、傷だらけ。おそらくこの緑髪の男にやられかけていたのだろう。
子供の前では凶悪性というのはある程度なりを潜めるし、何かあれば即座に飛び上がって退避する。
私はメイナード中将の手をそっと握って『Bブロック呼ばれてますよ』と別の場所に誘導しようとしたところ。
「お、おお、おおおお!!!!神よ!!!俺に奇跡をくださって感謝しますべ!!!」
「「っ!?」」
中将と一緒に思いっきり飛び跳ねちゃった。
緑髪の男は目から大粒の涙を流し、跪いて拝み始めた。
「俺、俺は!堕天使リィン先輩の大ファンだべ!!」
隣のメイナード中将から『お前また熱狂的な信者を増やすのか』って視線が突き刺さる。
「えっと、私リーンっていうので別人ですよ?」
「あっ、直接見るのは刺激が強えべ……反対向かせてくんろ……。お、俺がリィン先輩を知ったのはローグタウン!ルフィ先輩がバギーに処刑されそうになったあの瞬間!ルフィ先輩の笑う姿にも感銘をうけたんだべ、でもそれよりもっとすげぇのが!リィン先輩の気候を変えるあの裁きの雷!船長のルフィ先輩には当てずバギーに当てるというあの神技!おれァ、もう、感動で感動で!」
断言します。違います。
今まで雷を扱ったことが無いんだけど。あとルフィは雷無効化体質のゴム人間なので……。
「リィン先輩!おれぁ、あんたの母親の形見!必ず手にさ入れてあんたにあげたいと常々思ってたんだべ!!」
背中を向けてグッと拳を握りしめる男。
「……この人、誰?」
私はメイナード中将に助けを求めた。人の顔、分かんないです。
「〝人喰いのバルトロメオ〟だ」
「あぁ、あの!」
「り、りりりり、リィン先輩がおれの名前を知っているってーーーっ!!なんという光栄だべ!!???恐縮ーーーーー!!!」
評判が中々に悪くて、目を付けてた海賊のひとりだ。
海軍、海賊、市民への残虐な行動の数々。おそらく厄介な新型ルーキーだと睨んでいたのだけど。
「アラバスタ!エニエス・ロビー!インペルダウン!ルフィ先輩のことは大いに追いかけた!だが!あの神のような御業を扱えるリィン先輩は決まって表舞台に立たず、必ず他の仲間が有名になっていくんだべ!おれは、リィン先輩が2000万ベリーの賞金首だった時から!何故か下がった金額を見て!これはとんでもないお方だと確信したんだべ〜〜〜〜!!!」
メイナード中将から『何とかしろよ、お前のオタクだぞ』って視線が向けられている。
「えーーーっと。ば、バレてしまっては仕方ぞない」
「うぎゃー!!リィン先輩の独特な言語!あの時聞いたことに間違いは無かったんだべ!!??」
「……幼少期の海軍雑用時代の写真集、ピックアップアルバム、ver.1。全60種類税込98,600ベリー」
「──買います」
「わぁ!」
こいつは本物だ……。
でも好都合。私はバルトロメオの正面にまわり、手を握った。
「ア゚ッ」
「ばりゅとろめお……」
「ひぃーーーーー!!!可愛いべ!!助けてくんろ!!」
「Bブロック、王様と、魚人と、このお兄さん、ひとまず彼らは私の大事な人故……守って♡」
「守ります♡♡♡♡♡」
Bブロックに出場する選手が呼ばれたため、メイナード中将とバルトロメオは駆け足で向かっていった。
メイナード中将は別に行かなくてもいいだろうけど、仕方ない。
「ふぅ、やれやれ」
私がため息を吐き出すとちりちりと背後から熱風が走った。
「うわ、子供!?」
焔が私の目の前を横切った。
黒い髪がなびき、太陽のような匂いが鼻をかすめる。
「ごめんな、ぶつかんなかった!?俺呼ばれてるんだ!」
「大丈夫ぞ!」
「──俺エース!」
エースと名乗った男は、炎を体に纏わせ、闘技場へ飛び降りて行った。
Bブロックの選手として呼ばれたのであろう。
私はその姿を見て一言呟いた。
「──あの野郎!私の事本当に見分け付かなく無き!?」
エースさぁ、妹の軽い変装くらい簡単に見抜いてよ。髪色も変えてないし声も変えてないんだけど!?